Always Gonna Love You(Helter Skelter3)
by しムす
初版:2004/10/02
改訂:2004/10/30

Always Gonna Love You(Helter Skelter3)

アスカと私は、中学時代からの同級生。

ドイツから転校してきたアスカは、可愛い女の子だったけれど、気の強い、トラブルメーカーだった。

最初は委員長としての責任感から、アスカをフォローしようとしてきたけれど、いつか私自身もアスカに魅かれるようになった。

同じ高校に進んだけれど、アスカはバンドを作って歌を歌うようになった。
すぐに、評判になった。
アスカは、セミプロと言われる人たちのバンドに移り、本格的にバンド活動を始めた。
天真爛漫に見えるアスカだけれど、歌っているときのアスカはまた違った魅力を振り撒いていた。

「私は歌っているときだけ、私になれるの。歌いつづけなきゃ、駄目なの」
アスカは何かしら心に傷を負っていて、そのことがアスカの歌に微妙な奥行きを与えている。
そのことに気付いているのは私だけだったと思う。
彼女の最初のファンとしての、ささやかな、私の誇り。

私は大学に進学した。
アスカは、すでにドイツで大学に相当する過程は修了していたから、音楽に全てを注ぎ込んでいた。

アスカが中心になって結成された3つ目のバンドは、このあたりでは知らない者のない、有名バンドに成長していた。
私が実行委員をしていた大学祭の人気投票でも、ダントツの1位だった。
なぜか私は、鼻が高かった。

そのアスカが、どういう気まぐれなのか、ほとんど無名だったバンドに加入する、と言い出した。
「どうしたのよ、いきなり。あんなに有名なバンドになっていたのに。あのバンドで、世界制覇するんじゃなかったの?」
「へへっ、世界の征服より、もっと楽しいことを見つけたのよ」
「征服って・・ははあ、あの時でしょ。学祭のステージの最後のジャムセッション。Helter Skelter。確かによかったわね〜」
「でしょ!」
「あんなに楽しそうに歌うアスカは久しぶりに見たわ」
「ぎくっ!」
「それも・・あのギターの子ね」
「うっ・・」
アスカは真っ赤になって俯いた。

学園祭も終わり、実行委員会の仕事もなくなったので、私はアスカの新しいバンドのリハーサルにもちょくちょく顔を出すようになった。
ギターのシンジ君は、実行委員会主催の打ち合わせに出てきていたから覚えていたけど、ベースの相田ケンスケ君、ドラムスの鈴原トウジ君の二人とは初対面だった。

シンジ君のギターは、上手くはなかったけれど、アスカの歌に通じる、独特の陰影が隠し味になっているような気がした。
意地っ張りなアスカは、やけにシンジ君に辛く当たっていたけれど、私の目に映るアスカは、シンジ君と彼のギターが気になって仕方のない様子だった。

「アスカ、意地張ってないで、さっさと告白しちゃえば?」
「何の話よ!」
「まったく。そんな調子じゃ、逃げられちゃうわよ。結構、彼、もてるのよ」
「何ですってえええ?」
「今日も合コン、セットしてくれ、って。もう3人目よ」
「まったく、あんな奴のどこがいいんだか」
「またそんなこと!」
「・・そっちこそどうなのよ!鈴原ったら、全然気付いてないわよ」
どうやら私がこのところ足繁くリハーサルに通ってくる意味を察したみたい。
「・・とりあえず、お弁当作ってくる、っていうのは、どうかな?」
消え入りそうな声で、私は尋ねた。
「まったく、あんな奴のどこがいいんだか」
私は耳まで熱くして俯いた。

アスカのバンドはほどなく、形になってきた。
アスカの特訓の成果か、技術的にも他のバンドに見劣りのしないレベルになっている。

私はみんなの練習を聞いているのが好きだった。
私は「退屈やろ」と鈴原に声を掛けられるのが好きだった。
私は練習の後、みんなの、そのテープを聞きながらのやりとりを見ているのが好きだった。
私は、演奏の前の緊張した雰囲気が好きだった。
そして、演奏の後の、みんなの充実感溢れる顔が好きだった。

そんなある夜。
「すまん、明日、バイトなんや」
鈴原が打ち上げの席を早めに切り上げた。
「じゃ、委員長を送っていきなさいよ!」
大学祭実行委員会の委員長は既に引退したのに、私は今でも委員長と呼ばれていた。

「いいんちょ、いつも、弁当、ありがとな」
ぼそり、と鈴原がつぶやいた。
「え・・」
私はきっと、耳まで赤くなっていただろう。

「実は、今、わしは・・わしなりに、考えてることがあるんや」
「?」
「今は、ごっつい、楽しい。バンドがある。いいんちょが居る。夢みたいや。でも、いつまでこんなことが続けられるんやろうか?」
「・・・」
「わしらは、今、お祭りの最中や。お祭りやから、大抵のことは多目に見てもらえる。でも・・祭りが終わったら、わしはどこにおるんやろう・・いつか、祭りは終わるんや」
「・・・」
「いや・・わしらしくないのう・・こんな辛気臭い話」

翌日、練習場に行くと、相田君が1人でベースを弾いていた。
「トウジなら、バイトだよ。夕べ、言ってたじゃないか」
「あ、そうだっけ」
「二人でいつも、何の話をしているんだか」
「いや、その・・鈴原、柄に似合わず悩んでたから・・」
ふっと、相田君が、眼鏡越しの目を私に向けた。そのまなざしが、思いのほか真剣で、私は、何か致命的なことを言ってしまったのではないか、と直感した。
「委員長はどう思うのさ?」
「え?」
「このままで、いいのかな、って」
「このまま・・って?」
「アスカはいいよ。アスカには桁外れの才能がある。キャリアも長い。アスカなら、やっていけるさ。だけど僕らはどうだ。正直、上手くなったと思うよ。だけどこれだけじゃ駄目なんだ。やっと並レベル。プロとして、独り立ちできるレベルじゃない」
「そんなことは・・」
「今のままだと、アスカに頼っていくしか、ベーシストとしては生きていけない。そんなのは、嫌なんだ」
「・・・」
「トウジだけじゃない。僕も、シンジも悩んでる」
「ごめんなさい・・そんなに思いつめてるなんて・・知らなかったから・・」
「いや・・ごめん・・やっぱり、これは、個人的にケリをつけなきゃならない問題なんだ・・」

私たちは大学を卒業した。

鈴原は相田君と共にバンドを脱退して、それぞれ就職を決めていた。
「嫁さん1人まともに食わせられんようでは、やっぱり男としてはまずいやろ」
「音楽に未練はないの?」
「そやなあ、もし、子供が生まれて、『お父ちゃんな、昔は結構人気のあるバンドのドラム叩いとったんやで』なんて打ち明け話するのも、ええんとちゃうか、とか、な」

「これ、プロポーズのつもりじゃ、ないよね?」
「うっ」
私は意地悪く身を翻した。
「プロポーズは、もっとロマンチックなシチュエーションじゃなきゃ、嫌なんだから!」

相田君はバンドを抜けるとき、こっそり、セッションで何度か言葉をかけてもらったことのある、実力派ベーシストのシゲルさんのところへ行って、普段の彼らしくもなく、土下座したらしい。
「勝手なお願いだということはわかってます。でも、どうか、シンジとアスカを、世に出してやってください!お願いします!お力を貸してやってください!」
「ケンスケ君、君がそうまで言うんなら・・ちょっと話は聞いてみるよ」
「あっ、あっ・・」
「ドラマーもいないんだろ。ちょうど打ってつけの知り合いが居るんだ」
「あ、ありがとうございます!」
「いいんだよ、興味もあったし。君のところのバンド」
こうして、アスカとシンジ君のバンドに、シゲルさんとマコトさんが加入することになった。
「格好悪いじゃないか。絶対秘密にしててくれよな」
というわけで、これはアスカとシンジ君には秘密。

その後、有名ギタリストのカヲル君も加入して、アスカとシンジ君の前途は洋々として見えた。

私自身は、アスカのこともあって、音楽業界に進むことに決めていた。
いつか、困ったときには、助けてあげられるように。
願いがかなって、高い競争率をくぐり抜け、私は大手と言われるレコード会社に就職した。

入社してしばらくは、目が回るような忙しさだった。
仕事は面白かったし充実していた。
いつしか、アスカとの連絡も途絶えがちになっていた。

そんなとき、アスカのソロデビューの話を聞いた。それも、ウチの会社の話だった。
「アスカ、どういうつもりなのよ?」
「どうもこうもないわよ。あたしはひとりで生きていくことに決めたの。もうバンドごっこは終わりってことよ!」
アスカはまくしたてた。
「祝福しなさいよ!あたしの華麗なるメジャーデビューよ!世界征服への輝かしき第一歩よ!」
「・・後悔しない?」
「何でよ!破格の条件だったわ!あたしは、夢がかなったと思ったわ!あたしはこのために生きてきたんだから!」
「だって、アスカ、みんなと、この音楽がやりたいんだ、って言ってたじゃない」
「・・・」
「また、シンジ君と喧嘩したの?」
アスカが爆発した。
「バカシンジのことなんて、どうでもいいでしょ!放っておいてよ!」
「ねえ、アスカ・・」

突然、アスカは泣き出した。

「・・あたしにも判らないのよ!どうすれば良かったのか!」
「・・・」
「あたしが・・ああ言えば・・シンジがああいう風に答えることは、判っていたはずなのよ。でも、でも、それでも、あたしは・・あの時・・」
「シンジはいつだって、あたしのわがままにつきあってくれた。・・シンジは大学だって辞めた。・・カヲルを連れて来た時だって、必死になって頑張ってくれた。・・あたしの夢を叶えるんだ、って。・・それなのに・・あたしは・・まだアイツを・・試そうとしたんだわ・・」

ソロでデビューしてしばらく、アスカははっきり言ってパッとしなかった。
アスカの書く曲には、昔のような奔放な才気というものが感じられなくなっていた。
それは、会社の方針で、ポップソングを強要されていたということもあったけれど、アスカ自身にも原因があることに、私は気付いていた。

ようやく希望が叶って、アスカの担当に異動した私は、久しぶりに会ったアスカのやつれぶりに目を疑った。
「どうしたのよ。アスカらしくない。しっかりしなさいよ。業界は甘くないわよ」
「プロとしての資格なし・・か。もう、私がいる理由もないわ・・誰も私を見てくれないもの・・」
「やっぱり、シンジ君がいないと、駄目ねえ・・」
「もうバカシンジなんてアテにしてられないのよ!」
アスカの目に、一瞬、光が宿った。
「その気持ちを、素直に歌ってみればいいのに」
「・・・」

私はこれからずっと貴方を愛し続ける
愛が永遠を意味するならば
私はこれからずっと貴方を求め続ける
我々の愛を忘れることなんて
できるとは思わない・・

しばらくして出たアスカの新曲は、ストレートで切ないラブソングだった。

私はヒットを確信した。
私はマネージャーとして、走り回り、次々に仕掛けを打った。
TV局とのタイアップもうまくいった。ドラマの主題歌に使ってもらえることになった。
私の予想は的中し、爆発的とまでは言えなかったけれど、そこそこのヒットを記録した。

その後は、ヒットらしいヒットは出なかったけれど、新譜はまあまあ売れるようになったし、仕事が切れることはなかった。
何よりアスカも、一度気持ちを出し切ったことで、何かが吹っ切れたようだった。
もうポップソングを歌うことにも、抵抗感はなくなったようだ。
アスカも成長したってことよね。私は密かにつぶやいた。

夏のツアーは一通り終了した。

「お疲れだったわね、アスカ」
「ほんと、人使い荒いわよ、敏腕マネージャーさん」
「ま、これも世界征服のためだから」
「『征服』、はなかったわよね、私も」
二人で、笑った。

そんなとき、私たちの母校から、大学祭への出演要請があった。
実行委員を名乗る二人の学生が会社の事務所で緊張している。
昔の自分もこんな調子だったのだろうか、と考えるとおかしかった。
「私も、実行委員会にいたのよ。その時は洞木って名前だったけど」
「ええっ、僕らの先輩だったんですか。これは失礼しました」
「アスカさんの出演、お願いできますか?」
「いいわよ。スケジュールも空いているし、本人も喜ぶと思うわ」

その後、話はジェットコースターのように急転直下する。

なんと同じステージにシンジ君のバンドが出演することになっていて。
なぜかまたジャムセッションになってしまって。
よりによって、それはあの思い出の曲、Helter Skelterで。
その夜の反省会は大盛り上がりで。
しかも、アスカってば、その後はシンジ君とともに行方をくらまして。

予想通り、帰ってきたアスカは、もう辞める、シンジと一緒になる、シンジとじゃなきゃ嫌だ、シンジ、シンジ!と駄々をこねて会社をてこずらせた。
大人になった筈のアスカが、また昔に戻ってしまった。

「いやよ!絶対にイヤ!ここで戻るなら死んだほうがましだわ!」
「だって、もう、あの夜、あたしは身も心もシンジのものになったの!」
あまりに身も蓋もない告白に、私は赤面した。
「だって、シンジったら、もう、凄〜く上手くなってたのよ!」
「何がよ!」
「ギターのことよっ!」

「でも、あの後、何もなかったなんて言わせないわよ」
「えへっ、聞いてよ、シンジったら、私が押し倒したら・・」
「アスカが押し倒しちゃったのお!?」
私は頭を抱えた。

結局アスカはウチの会社の所属を離れた。

私はこの件の始末をつけると、会社に辞表を出した。
今度こそ、アスカの、この騒がしい女王様の恋の行く末を最初から最後まで見届けるために。

「どうせ、マネージャーなんて、居ないんでしょ?」
「前の会社のときには、社長の冬月さんがやってくれてたんだけどね。今はマコトと俺が実質的なマネージャーだね」
とシゲルさん。
「君が来てくれると、僕らも楽になるよ」とマコトさん。
「わざわざこんなバンドのマネージメントを買って出てくれるなんて、好意に値するよ」
「?」
「好きってことさ」
と何だかわけの判らないカヲル君。
「あんた・・・誰でもいいんでしょ? もうヒカリは結婚してんのよ」
とアスカ。
「と、と、とにかく、ありがとう。いや、色々大変なんだよ」
シンジ君がフォローした。
「よろしく」素っ気ないのは、今のやりとりを聞いていたレイ。

「ぐすん・・わたしが死んでも、代わりはいるもの・・」

心配事の種はつきないみたい・・

おしまい

あとがき

これは第3作目になります。物語としては最初のHelter Skelterで完結しているつもりなのですが、どうも、この世界については書きやすいらしく、ついつい書いてしまいました。
私自身はバンドの経験はほとんどないんですが、周辺に楽器をやっている人間がいたので、感情移入しやすいんでしょうね。

1作目が青春モノ、2作目がドタバタだったので、これは甘LASを意識したのですが・・
これも、トウジとケンスケの話が読みたい、というリクエストに配慮して、当初案より2人の出番を増やしました。
カヲル君を当て馬につかうのは嫌だ、という声もあったのですが、どうしてもオチがつかなかったもので・・

なお、タイトルと、作中の下手な訳詞はゲイリー・ムーアの出世作「Corridors of Power」収録曲からです。ゴリラ顔に似合わない、甘いバラードで「夜明けの誓い」なんて恥ずかしい邦題がついていましたっけ。