黒澤 明・一周忌小特集

クロサワ アキラ・デラックス

The 1st Anniversary of AKIRA KUROSAWA's Death

 


 

 「身代金」と幻の黒澤「天国と地獄」リメイク

 Between "Ransom" and "High and Low"

 夫馬 信一

 by Shinichi Fuma

 

「身代金」という映画を覚えていますか?

Do You Remember the Film "RANSOM" ?

 みなさんは、ロン・ハワード監督の「身代金」(1996)という映画を覚えていらっしゃるでしょうか? 「リーサル・ウェポン」シリーズのメル・ギブソンとレネ・ルッソ、それに曲者役者のゲイリー・シニーズ主演の映画で、誘拐事件を題材にした作品。

 あれには黒澤 明の映画が下敷きとして使われているのだと言ったら、あなたは信じるでしょうか? もちろん証拠はありません。関係者の誰かがインタビューでそう語っている訳でもありません。しかし、それには一つの根拠があるのです。そして、そのカギはある一人の人物が握っています。

 まず、その人物をクローズアップする前に、「身代金」という映画そのものをもう一度見直してみる必要があるかもしれません。

 

 腕っ節だけでのし上がり、一代で航空会社を築き上げた男トム・ミューレンがメル・ギブソンの役どころ。レネ・ルッソはその妻ケイトの役です。ニューヨークの高級アパートメントに居を構え、息子ショーンをこよなく愛する良き家庭人でもあるのですが、新聞記者に会社の労組幹部を買収した疑いで追求されるなど、ちょっと陰の部分もチラつく…これだけの情報がすでにオープニングから観客には提示されています。

 その息子がセントラルパークでのイベントで誘拐され、電子メールでそれを知らせてくるまでの段取りは意外に早い。かくして、FBI捜査官(デロイ・リンド)たちがビルの塗装屋に扮して、トムのアパートメントにやってくる。

 そんなことをやっているうち、唐突にカメラは犯人側に。主犯格は何と刑事のジミー・シェイカー(ゲイリー・シニーズ)と早くから割れます。彼は自分の女(リリ・テイラー)を初めとする連中に実行をまかせて、ひたすら作戦を考える係。早速身代金を求める電話をトムにかけます。

 必ず一人で来いと言われて、身代金持って車に乗り込んだトム。犯人シェイカーはなぜトムの息子を誘拐したのか、理由らしきものを携帯電話を通じてトムに話します。

「おまえは何でも金でカタをつける男だから、たぶん今度もそうすると思ってな」

 痛いところを突かれるトム。さらにシェイカーはジョージ・パルのSF映画の古典「タイムマシン」の話をします。

 未来の地球では、人類は地上に住む連中と地下に住む連中の2つの種族に別れている。地上に住む種族は優雅に暮らしてる。地下に住む種族は働きづめで、地上の連中の服や食べ物をつくらされている。でも地上の奴らは地下の奴らを気にもとめない。おまえもそんな地上の連中の一人なんだよ、トム…。

 結局、金の受け渡し場所として指定された採石場らしき所にやってくるトムですが、犯人グループの一人に金を渡しても息子ショーンはその場にいない。しかも、FBIがその場を見つけたはいいが、犯人を殺してしまい息子の居場所も共犯者はわからずじまい。FBI捜査官たちに対して完全にキレるトム夫妻。

 一方、計画通りにいくどころか仲間を一人失う結果になった犯人グループも、負けがこんできたときの読売ジャイアンツのベンチ内みたいに雰囲気悪くなる。

 再度の犯人からの要求に単身でかけるトムだったが、携帯でいいように振り回されているうち、ふと気が変わる。このまま金を渡しても、こいつらが息子を生きて返すはずがない…。

 かくして元々叩き上げの、度胸は人一倍のトムは一発勝負に出る。テレビカメラの前で身代金を犯人逮捕のための賞金に変えて、捜査への協力を呼びかけながら犯人たちを挑発する作戦に出たのです。

 これにはFBI捜査官も妻も大反対。でも、一歩も引かないトム。案の定、内部から亀裂が入る犯人グループ。ヤバいとズラかろうとしている仲間を見て、主犯シェイカーにはたった一つの突破口が見えてきます。シェイカーは仲間を皆殺しにして、自分がショーン君救出の功労者となり、まんまと一人懸賞金をせしめることに成功したのです。

 後日、その懸賞金をトムのアパートメントに取りに来たシェイカー。しかし、声を聞いて誰だか察したショーン君。その挙動を見て状況を把握したトム。かくしてシェイカーに銃を突きつけられてトムは銀行へ行くはめになり、最後はニューヨークの街中での大乱闘。機転を効かせたトムの通報でFBI捜査官もかけつけ、ジ・エンド。

 

カギを握る人物リチャード・プライス

Richard Price Has a Key.

 私がこの作品を見た直後、何か思いだしかかりながらモヤモヤした感じだったんですね。何だろう、これは? それが、スタッフ表に一人の男の名前を発見したことで、思い出したんです。

 その男の名は、脚本家リチャード・プライス。

 元々は作家として知られた存在で、映画「ワンダラーズ」の原作なんかを書いてた人らしい。しかし、私にとっては「ハスラー2」で脚本家としてデビューし、以来マーティン・スコセッシ作品でお馴染みになった名前でした。私が気になったのは、そのマーティン・スコセッシとのからみだったのです。

 マーティン・スコセッシと言えばニューヨークを拠点に活躍する鬼才監督ですが、実はこの人、かつて黒澤 明のインタビューではよく名前が挙がる人物だったんですね。

 いわく、黒澤に「天国と地獄」のリメイク権を譲ってくれと頼み込んでいた男。

 これ何度も何度もいろんなインタビューで話出てたから、かなり具体化した話だったんじゃないでしょうか。スコセッシははっきりと、「キングの身代金」(一応「天国と地獄」の“原作”となっているエド・マクベインの小説)の映画化じゃない、クロサワの「ハイ&ロー」をリメイクしたいんだと言っていたようです。それに対して黒澤は、あの映画はリメイクしてもしょうがない、それなら新しく自分でオリジナル作品つくったほうがいい…こうスコセッシには言ったという話だったように思います。スコセッシといえば、黒澤の「夢」(1990)にゴッホ役で出演しているから、たぶんその前後の話だったのでしょう。結局、この企画は日の目を見なかったようなのですが、スコセッシは黒澤と交渉する間、ひょっとしたらもう脚本づくりに着手していたかもしれない。少なくとも構成案ぐらいはつくっていたんじゃないか?

 そして黒澤の「天国と地獄」の題材こそが、“誘拐”なのでした。

 リチャード・プライスはスコセッシとの交流が知られるように、割とハードな作風の作家。他の映画作家とも組んで仕事を残していますが(「シー・オブ・ラブ」など)、やはり今のところ活動の中心はスコセッシ作品と言えるでしょう。スパイク・リーと組んだ「クロッカーズ」(1995)でさえ、プロデュースはスコセッシです。片や監督のロン・ハワードは今でこそ「アポロ13」みたいなシリアス映画も撮っていますが、元が「スプラッシュ」みたいなライト・コメディ出身の人。だから、プライスとの顔合わせはかなり異色と言わざるを得ないでしょう。本来、プライスにとってこの企画はハワードと組んで実現するはずではなかったのではないか?

 さまざまな状況証拠を考えてみると、どうもマーティン・スコセッシは当時最もつきあいの深かった脚本家リチャード・プライス(「ハスラー2」が1986年、「ニューヨーク・ストーリー」が1989年、「ナイト・アンド・ザ・シティ」が1992年)と組んで、自分なりの「天国と地獄」リメイク版の準備を進めていた。そして、その話が流れた後、構想は1996年のロン・ハワード監督作品「身代金」として結実したのではないか。私にはそう思えてならないのです。次に、本家「天国と地獄」の構成を紹介しながら、その共通点を分析します。

 

 さらに、つづく

 

 

 

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