To Be Continued...Again

素晴らしいシリーズ映画の世界 PART 2


 

その昔、アジア映画と言えば黒澤明とこの人、サタジット・レイという時代が確かにありました。アジアが映画の後進地域という偏見を受けていた時代に、世界的に評価されたレイ監督の「オプー三部作」の重要性は、今日どんなに評価してもし足りません。この作品を深く愛する橋本 裕さんにご紹介いただきましょう。


 

 

 人生そのものを描き出した「オプー三部作」

 "The Apur Trilogy" Show Us

  the Meaning of Our Life

 橋本 裕

 by Yuh Hashimoto

 

 

「大地のうた」

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監督:サタジット・レイ

脚本:サタジット・レイ

出演:カヌ・バナールジ、コルナ・バナールジ、スピール・バナールジ

1955年 インド

カンヌ映画祭 最優秀人間記録賞

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インド映画の巨匠、レイ監督の処女作品。黒沢監督がこの作品を見たあと、もう他の映画が見られなくなったと語っているが、とにかくスケールの大きな骨太の作品である。

 

 私がこの作品に接したのは、高校時代、NHK教育テレビの放送でだったと思う。その後、私はこの映画を劇場で何度かみた。1988年7月7日の日記には、「名古屋駅近くのシネマスコープでサタジット・レイ監督の{大地のうた}{大河のうた}{大樹のうた}の三部作を見る。感動極まりなし。余韻底知れず」とある。

 

 映画館で入手したパンフレットから引用すると、

「世界の映画史をかえた屈指の名作{大地のうた}三部作。全6時間に及ぶこの作品は、インドの自然と社会の中で生きる主人公オプーの成長を見つめた交響詩として1959年に完成した。傑出したリアリズム描写と清冽な映像美の中で愛と生と死が交錯する。別れと出会い、希望と絶望が入り交じる人生そのものを描き出したその偉大さは、30年近く経た今日もゆるぎなく、その後のサタジット・レイ監督の名作とともに、いっそうの賞賛を浴びている」

 

 あらすじを紹介しておこう。「大地のうた」(1955年)の舞台はベンガル地方の片田舎である。その貧しい村にオプー少年は両親と姉、老婆とともに暮らしている。父は僧侶階級だが、今は地主の書記になって、わずかな生活の糧を得ている。一

家は大変貧しいのだが、姉のドガもオプーもいたずらが好きで屈託がない。

 

 菊川享さんが「忘れ得ぬショット」の中で次のように書いている。

「姉と弟がススキの野を越えて、遠くまで汽車を見に行くシークエンス、電柱に耳を着けて、振動音から列車の響きを察知するショットなどは、幼い頃に同じ体験をした人間が日本にもたくさんいるに違いない。また蓮池の蓮の葉に、蜻蛉が羽を休め、やがて水面に、ポツンと水滴が落ちて、小さな波紋を作るショットからはじまる、雨季を暗示するシークエンスも素晴らしい。日本で言えば夏の終わりか。ただしインドでは1年を六季に分けるという。春・夏・雨季・秋・冬・乾季。それさえ知っておけば、すぐあと、夕立のように激しい雨になり、姉のドガがずぶぬれになって木陰に立ちつくすショットも、よく納得できる。おそらく雨季の始まりは、このハリハール一家にとっても、生活の困窮がますます逼迫する前兆なのであろう」

 

 このあと姉は風邪をこじらせて肺炎になり、嵐の夜に母に看取られて死ぬ。一夜明けての不気味な静けさ。そして出稼ぎに行っていた父親の数カ月ぶりの帰郷。母の慟哭。すでに姉の前に老婆が死んでいたので、一家はいまや3人だけである。3人が村を捨てて、ベナレスへと旅立つところで、第一部「大地のうた」が終わる。

 

 山田和夫さんの「映画100年」によると、レイ監督がこの作品を作るきっかけなったのは、カルカッタ広告会社に勤めていた頃、ビフティブシャーンという人の自伝小説「パテル・パンチャリ」(小さな道)の挿し絵を手がけたことだった。彼は原稿を読む内に是非映画にしてみたいと思うようになる。

 1950年、彼は会社の仕事で3か月間、ロンドンに行き、そこでデ・シーカ監督の「自転車泥棒」を見て感銘を受ける。そのレアリズムの手法をつかえば、「パテル・パンチャリ」の映画化が可能だと思ったのだ。

 レイは資財を売り、昼間は広告代理店の仕事を続けながら「大地のうた」の撮影を続ける。音楽は友人のラビィ・シャンカールに頼んだ。こうしてようやく1955年に公開にこぎつけたのである。

 

 老婆役のチュニバラ・デヴィの演技もすばらしい。彼女は著名な舞台俳優だったらしいが、この映画に出演した頃はすでに病のために引退していた。阿片を飲みながらこの映画に出演していたが、レイ監督の心配は映画が完成する前に彼女が死ぬのではないかということだったという。どうりで迫真の演技だったわけだ。(実際に彼女はこの映画が完成して一年後に死んだ)

 映画の中で老婆は枯れ木が倒れるように死んでいく。その老婆が死ぬ少し前に歌っていたうたが、しみじみと心にしみてきて涙を抑えることができなかった。

 

 つづく第二作「大河のうた」(1956年)、第三作「大樹のうた」(1959年)も同じ原作の映画化である。「大河のうた」は一家がガンジス川のほとりの都会ベナレスに移住したところから始まる。父はガンジス川で洗礼する人々に経を聴かせて、生計を立てようとする。そしてどうにか生活も貧しいなりに落ち着きかけたものの、父が病に倒れて死ぬ。残されたオプーと母は、同じ聖職者の伯父を頼って、田舎へ行く。オプーは田舎の学校で認められ、やがて母親を残してカルカッタの大学に遊学する。母は息子の帰りを待ちながら、やがて死の病に襲われる。かって娘を看取り、そして夫を看取った彼女を看取るものは誰もいない。最後の夜、彼女のいまわの際の目に無数の蛍が乱舞するのが見える。その光が突然薄れて、彼女の死が暗示され

る。何とも悲しく、印象的なショットである。

 オプーは昼間は大学で学ぶ傍ら、印刷所に住み込んで夜勤に精を出している。母の重病の知らせを受けてあわてて帰ってくるが、もはや彼を出迎える母の姿は見あたらない。

 しんとした真昼の庭に、日盛りの家の壁に、母を呼ぶオプーの声だけがうつろに木霊する。この三部作の中でもっとも心にしみる、悲しい場面である。

 とにかく母親を演じたコルナ・バナールジの表情がいい。私は「第一部」「第二部」の主役はこの母だと思っている。

 

 第三作「大樹のうた」で、大学を卒業したオプーは奇妙な縁で級友の妹と結婚することになる。ようやく訪れた幸福な日々。しかしその幸福も束の間だった。里に帰って男子を出産した妻がそのまま不帰の客となったのだ。オプーは絶望から立ち直れず、山野を放浪し、様々な職業を渡り歩く。そして五年後、はじめて息子と会いに妻の里を訪れる。

 この大作は最後に父と子の心の交流を、その微妙な陰影を通して描いている。5年間放って置かれた子は父になじまず、父もまた妻の命と引き替えに生まれてきた子に対して複雑な思いを抱いている。父はやがて一切をあきらめ、子を残して再び放浪の旅に出ようとする。その土壇場で、最後に二人の心が通い会う。息子を肩に抱いて旅に出るオプーを義理の父親である老人がやさしく微笑して見送る。これがこの三部作のラストシーンである。

 

 レイ監督の映画はすべてみたいが、残念ながら私は他に「遠雷」くらいしか見ていない。遠くの戦争の影響で、米の買い占めが起こり、平和だった村が崩壊していく様子を描いたこの映画も文句なしの秀作だと思う。

 

 サタジット・レイは数々の名作を残して、1993年に他界した。遺作に「見知らぬ人」がある。

 

 

 

<オプー三部作>

大地のうた Pather Panchali(1955・インド)

監督・脚本:サタジット・レイ、撮影:スプラタ・ミットラ、音楽:ラヴィ・シャンカール

出演:サビル・バナルジー、カヌ・バナルジー、コルナ・バナルジー、チェニバラ・デビ、ウマ・ダス・グプタ

インドのベンガル地方の寒村を舞台にした、少年オプーの一家の物語。一家は貧困にあえぎ、彼の姉は病死。一家は都会に移り住むことになる。

 

大河のうた Aparajito(1956・インド)

監督・脚本:サタジット・レイ、撮影:スプラタ・ミットラ、音楽:ラヴィ・シャンカール

出演:ピナキ・セン・グプタ、スマラン・ゴーシャル、コルナ・バナルジー、カヌ・バナルジー

都会に移り住んだオプーの一家に、父親の死などさらに苦難が相次ぐ。やがてカルカッタの大学へと進むオプーだが…。

 

大樹のうた Apur Sansar(1958・インド)

監督・脚本:サタジット・レイ、撮影:スプラタ・ミットラ、音楽:ラヴィ・シャンカール

出演:ショウミットロ・チャテルジー、シャルミラ・タゴール、スワパン・ムカージ、アロク・チャクラバルティ

作家を志す青年オプーは、従姉妹と結婚する事になる。だが幸せな結婚生活のつかの間。彼女は難産のため亡くなってしまう。失意の中でオプーは、息子にも会わずに一人放浪の旅に出るが…。

 

橋本 裕

現在、愛知県一宮市にお住まいで高校で数学教師をされている橋本さんは、ご自分のサイトでこの「大地のうた」を生涯の映画の一本に挙げておられます。その思い入れの強さを伺わせる語り口から、今回ぜひにとご登場願いました。

橋本裕 文学・人生World

http://home.owari.ne.jp/~fukuzawa/index.html

 


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