「DAY FOR NIGHT」開設6周年記念企画

F私撰・韓国映画の20本

F's Choice : 20 Korean Films


第一部 知られざる時代

「ディープ・ブルー・ナイト」

"Deep Blue Night"(1984)

監督:ペ・チャンホ

出演:アン・ソンギ、チャン・ミヒ


 この映画については僕は当サイトで再三再四繰り返し書き続けて来たので、読まれるみなさんも「耳にタコ」状態ではないかと思う(笑)。特に「My Favorite Directors」ペ・チャンホの巻…には、僕のこの監督への思いを詳しく書いたつもりなので、改めて読んでいただければありがたい。

 ともかくこの作品、僕が韓国映画を好きになったキッカケとなった映画である事は間違いない。選んだ理由もちゃんとあって、韓国映画ニューウェーブの代表選手の一人ペ・チャンホの代表作の一本であること、ペ・チャンホとコンビを組んでいた主演スターのアン・ソンギにとっても代表作であること、当時記録的な大ヒットとなった作品であること、オール・アメリカ・ロケという偉業を成し遂げたこと、そしてこの作品自体がアジア太平洋映画祭でグランプリを獲得したこと…など、枚挙にいとまがない。ともかくこの映画を語らずして1980年代以降の作品は語れない。1999年にシュリが登場するまでは、この映画が新しい韓国映画の象徴としてエポック・メーキングな位置を占めていた…と言っても過言ではないと思う。

 主人公は、アメリカでのグリーンカード取得のために奮闘する韓国人の男。そのためには、彼は女も平気で利用して踏みつけにする。実は男には故国に恋人がいて、共にアメリカに暮らしたいという夢があるのだ。実現のためには手段は選ばない。やがてこの男は、永住権のために米国籍を持った韓国女とカタチだけの結婚をするが、女はいつしか男に本当に惹かれていく。だが、ひたすらアメリカン・ドリームを追求する男にとっては、女のそんな想いはジャマでしかない…。

 僕がこの映画に惹かれたのは単純な理由で、この映画が当時の韓国映画にしては異例なほど洗練されていたからだ。現在の韓国映画からすればまだまだ「泥臭い」臭いもするのかもしれないが、オール・アメリカ・ロケでセリフも英語が飛び交い、ワルぶった辛口の主人公が野望に向かって突き進むハードな物語も魅力的。当時の僕にとってはいきなりディープなキムチ風味の韓国映画はキツかったが、この映画なら十分楽しめた。これから徐々にキムチ味の方に接近していく足がかりになった。そういう意味で、当時としては精一杯、目一杯ソフィスティケートされた映画だったと思う。

 そもそも監督のペ・チャンホという人は、「韓国のスピルバーグ」という異名を持った男。これはヒットメーカーだった事から呼ばれたわけだが、実際彼は韓国映画の中でも斬新性と娯楽性を併せ持っていて、そのあたりがハリウッドに殴り込んでいった頃のスピルバーグの姿と見事に一致する。映画のテクニックとしてもブライアン・デパーマを彷彿とさせる360度カメラぶん回しとか、「ニュー・ハリウッド」と呼ばれたスピルバーグ一派と呼応する部分が多かった。

 つくづく残念なのは…ペ・チャンホが「作家性の高い映画」の作り手に方向転換していた時期に、韓国映画自体が地殻変動を起こしてしまった事だ。時代の旗手だったはずのペ・チャンホは、いつの間にか時代から取り残されてしまった。久々の娯楽大作黒水仙(2002)も、いささか時代遅れの雰囲気もなきにしもあらずだった。力のある人なのだから、もう一花咲かせて欲しいものだ。

 


 

 

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