ここに訳出するのは、1944年10月にアメリカ陸軍省内で回覧された文書「欧州戦争犯罪人裁判」です。私はこの文書をアメリカ、ワシントンにある国立文書館の中の、陸軍次官マクロイ文書中で読みました。この文書の起草者は陸軍省のマレイ・バーネイズ中佐です。彼はニュルンベルク裁判に至るアメリカの戦犯裁判政策立案の中心的人物になります。このバーネイズの文書はニュルンベルク裁判研究の古典ブラッドレイ・スミスの著書にすでに引用されています。その際スミスはこの文書の出典をいくつか指摘しており、そのひとつがマクロイ文書でした。しかし彼はオリジナルがどこにあるかは明示していません。私が国立文書館のアーキヴィストに尋ねても、その文書はどこにあるか分からないとの答でした。

 この文書が重要なのは、後の東京裁判で採用された共同謀議論の原型がここにあるからです。東京裁判によれば、1928年から45年まで日本政府、軍は侵略戦争を計画し、開始し、遂行した共同謀議を犯したとされています。その結果、東条英機以下7名が絞首刑にされ、他の被告も有罪判決を受けました。政府や軍がそのような共同謀議など働いたことはないという議論は当時からすでにありました。実際、常識的に考えても、1928年から一貫して侵略戦争のための共同計画を作成していたというのは言い過ぎでしょう。しかし、「共同謀議」というのは、そのような意味での戦争計画の策定や実行というのでは必ずしもないのです。侵略戦争の計画という意味で共同謀議という概念が考案されたのではありません。また、共同謀議論は日本の戦争犯罪人を裁くための議論として提起されたものでもありません。何よりもやはり、ナチスのユダヤ人迫害を中心とする民族抹殺行為を裁くための概念でした。そのことがこの文書から読み取ることができると私は考えています。

 この点について私はまだ論文を書いていませんが、いずれ発表するつもりです。なお、ここに訳出したものはまだ粗訳に過ぎません。あるいは誤訳もあるかも知れません。きっちりした翻訳はいずれ他日を期します。

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「欧州戦争犯罪人裁判」

 

全般的問題

1、a、ヨーロッパ全域で数千人もの戦争犯罪人がおり、彼らの罪は裁かれなければならない。ナチ組織の中核にあって政策を立案していたものから、末端の個人によるものまで、犯罪の範囲は及ぶ。主犯として裁かれる犯罪人もあれば、従犯の場合もある。多くの場合、犯罪人個人を特定するのは、あるいは特定の犯罪行為と個人とを結びつけるのは難しい。証人は殺されるか離ればなれにされるかし、証拠収集には手間暇がかかる。犯罪人は多くの国の異なった法律や手続きにおいて審判に服することになる。適用される法、免責に関する法(すなわち正規の上官命令)、手続き、証拠に関する規則はそれぞれの司法圏ごとに異なる。事務作業は膨大で、連携や調整はまさしく困難であろう。

  b、疑いなくナチは、これら犯罪の規模、巧妙さ、犯罪人の人数、法律の複雑さ、時の経過や戦争による疲弊を効果的追及に対する主要な防衛手段として期待している。個人を基礎にした、旧式のやり方や手続きでの裁判はこの点でナチの期待を実現するのに役立つ。

マイノリティ問題

2、a、枢軸諸国の虐殺は戦争状態に入る前に行われている。これらは現行法では戦争犯罪のカテゴリーには入らない。

  b、枢軸諸国が行った最悪の虐殺の中には人種的、宗教的、政治的理由により自国民に対して行われたものがある。これらについては、犯罪人は国内法の下でその正当性を抗弁できる。同時にこれらの虐殺を戦争犯罪と呼ぶことは、国際法がいくつかの国家の自国民に対する行動を審判するという先例を作ることになる。このことは予測できない帰結をもたらし、政策への深刻な疑問を生み出すことになるであろう。

  c、しかしながら、最高指導者の広く公表された声明は上記虐殺が連合国により戦争犯罪として裁かれることを確言したものと解釈されている。

3、a、仮に上記行為が戦争犯罪と言えないとしても、これらに関与した枢軸諸国当局は多くの場合、戦争犯罪と同等かもしくはそれ以上に厳格に裁かれるであろうと予想できる。しかしそれでも、すべての事件がカバーできるとは必ずしも言えないし、マイノリティ・グループが主張しているように、非難されている特殊な行動や政策の犯罪的性格を認めることにはならない。

  b、代替案として、枢軸諸国の継承政府に対し自国の法手続に従って犯罪人を処罰するよう圧力をかけることが言われてきた。仮に継承政府がすべてその気になり、複数の法体系のもとでそうすることが可能であるとしても、全部の政府が本来そうあるべき程度に精力的で効率的であるとはまず考えられない。さらに、これらの行為に対し国際法廷が犯罪の烙印を押し、相応しい処罰を加えるであろうと連合国は明白に確言してきており、そうしたやり方は、この確言を履行すべきとの要求に応えるものとはならない。

4、これらの蛮行を処罰せずに済ませれば、数百万の人々に挫折感と幻滅をもたらすであろう。現在設立されている連合国戦争犯罪委員会の管轄にこうした行為は含まれないと信じられているが、この事実からしてすでに激しい抵抗を呼び起こしている。ユダヤ人組織から合衆国と英国の政府に対して、これらの行為も戦争犯罪に分類して取り扱うよう強い圧力がかけられている。彼らがユダヤ教徒だけでなく、ユダヤ教徒でない多くの人々の見地をも代弁していることは疑いない。この圧力は時とともに強くなることが予想される。

これまでに示唆された解決方法の欠陥

5、恐らくはその犯罪群の禁止的な性格が余りにも明白であるために、主要ナチ幹部(ヒトラー、ヒムラーなど)は、逮捕後、当局によって人物が確定され次第、直ちに処刑すべきと示唆されてきた。彼らの罪の証明は単なる形式に過ぎないというのが、たぶんそれを正当化する議論であろう。しかしながらこの案ではそこまで著名でない数千もの共犯者をどう処罰するかという問題を解決できない。さらには、連合国がまさにそのために武器を取ったその原理を踏みにじることになり、ナチ自身が唱え実行したことが正しかったと証明することになってしまう。それはナチがヒトラーを殉教者に祭り上げる手助けになる。このやり方は、本質的には正義の行動を復讐という間違った色合いで汚染することになろう。

6、もうひとつのやり方として示唆されているのは犯罪者を「略式」裁判にかけるというものである。たぶんその意図は、告発された特定の虐殺事件について一応の証明がある事件(prima facie case)に不可欠な程度にまで証拠を限定することにあろう。これは司法の実質を損なうことなく行われ得る。しかしながらこれも上記で議論した問題を解決はしない。

7、これまでに示唆された提案の根本的難点はアプローチの仕方にある。枢軸諸国戦争犯罪人のすべて、あるいは大部分を逮捕し判決を下すことは、旧来の概念と手続きでは決してできるものではない。仮にできたとしても、それだけでは十分ではない。例えばリディチェ事件のような究極犯罪は単に一村を抹殺するということではなく、むしろそれより、そうする権利を主張する点にある。強盗犯人は普通、強盗が高貴な行為だといって自己防衛はしない。警察が間違って自分を逮捕したのだと主張するだけだ。ところがひとつひとつの枢軸国戦争犯罪の背景には、ナチの教義と政策についての基本的に犯罪的な挑発的煽動が横たわっている。この煽動の犯罪的性格をこそ確証しなくてはならない。なぜならこうしてこそ当該個々人への判決と処罰が真に道義的法的な重要性を獲得するからである。このアプローチは逆に、個々人の犯罪の性格に光を投げかける。その性格とは、特別な犯罪行為の遂行に依存することなく、そのような行為を犯すことのみを目的として設立された組織の成員に自発的になったという事実だけから不可避的に生じるものである。

基本目的

8、a、枢軸国戦争犯罪人の処罰は次の三つの主要目的を持つ。第一に、高度の国家利害を理由に、平和的住民に対する暴力、テロリズム、破壊活動という国家犯罪を正当化することはできないという厳粛に考慮された国際的判例を確立すること。第二に、世界に対して現実と、人種主義・全体主義の脅威とを痛感させること。第三に、ドイツ国民に対し罪の意識を喚起させ、彼らの政府によって犯された犯罪の責任を全うするよう気づかせること。

  b、もしこれらの目的が達成されないなら、再び戦争が起こりドイツがもう一度負けるだけである。ドイツ国民は彼らが支持した蛮行を知ることがないだけでなく、彼らの行動の犯罪的性格について理解することもないし、それに対する世界の審判を理解することもないであろう。ファシストの潜在的脅威はこうして減少することなくドイツと他の地域に存続し続け、その企図は損なわれずに残るであろう。その反対に、もしここで提案されたアプローチが採用されるなら、ファシストの脅威を他日に延期するのではなく、この勝利をもっと価値あるものに利用できるであろう。

解決への提案

9、それ故、以下の諸点を考慮するよう勧告する。

  a、適切に構成された国際法廷においてナチ政府並びにSA、SS及びゲシュタポを含む党と国家の代理人は、戦争法規に違背して殺人、テロリズム、及び平和的住民の破壊を犯した共同謀議について裁かれる。

  b、上記法廷における裁判のため、訴追諸国は法廷に対し弁護士組織を代表すると見られるものの中から個人弁護人を選別して送らなければならない。

  c、審理は公開で広く公表されるものとし、犯罪の意図(ナチの教義と政策)と犯罪事実(戦争法規に違背する暴力的残虐行為)が十分示されるだけの証拠が集められなければならない。

  d、裁判は次のような判決を下すべきである。

   (1)ナチ政府及びその上記代理人は論告通り有罪とされる。

   (2)審判を受ける政府と諸組織のすべての成員は同一の罪で有罪とされる。有罪判決を下すに当たっては共同謀議の成員であることを証明すれば足り、それ以外にいかなる明白な行為に当該個人が参加していたかという証明は必要としない。

  e、判決は被告人個々に対し法廷が言い渡す。

  f、爾後、上記政府及び諸組織のすべての成員は連合国それぞれの国内法廷において逮捕、審判、処罰を受ける。成員であることが証明されればそれだけで上記共同謀議への参加が有罪とされ、個人は法廷の量刑により処罰される。他の犯罪行為を犯したと証明されれば、個人はその地の法に従って追加的処罰を受けなければならない。

10、以下の諸点が上記との関連で特に記される。

  a、告発の性格に鑑み、共同謀議の発端からその促進のために行われたすべてのことが含まれ得る。それらにはドイツ国内での少数派に対する虐殺、また、ドイツ政府の教唆や斡旋によって行われた他の枢軸国民による同国民に対する犯罪も含まれる。

  b、ひとたび共同謀議が成立すれば、その存続期間中、その目的の促進のためにすべての成員が行ったそれぞれの行為について、他のすべての成員もその責任を負う。