SENEGAL Dakar Botanical Guide
 
ユソウボク 癒瘡木
Guaiacum officinale Linn. (1753)
 

 2003年10月
ダカール森林公園で
 
科 名 : ハマビシ科 Zygophyllaceae
属 名 : ユソウボク属 Guaiacum
 Plum. ex Linn.(1735)
原産地 : 中央アメリカから南アメリカ北部。
ジャマイカの国花である
用 途 : 木材の中では最も比重が大きいもののひとつで、硬くて海水にも強いため、古くは木造船のスクリューの軸受けに使われていたという。(朝日百科・植物の世界)
また、材から取れる油脂が、かつて梅毒の治療薬として用いられた。
 
この株は高さ 1.8m程度 径5cmほどの幹

大きくなると 高さ15mにもなる。
 

まだ細い幹だが、樹皮がはがれ落ちる特徴が見られる。
6枚の小葉からなる複葉

 
こんなきれいな花が咲くとは! 赤い仮種皮

ハワイ大学のホームページ より。
[ Copy right ] Dr. Gerald Carr
(Univ. of Hawaii )
 

転載の許可取得済み。
名前の由来  ユソウボク Guaiacum officinale
 
ユソウボク
癒瘡木) :
一瞬、「輸送木」のひびきから、何か運搬に関係があるのか・・・・・・とおもってしまったが、まったく見当違い。
瘡は「きず、できもの、梅毒」のことで、昔は梅毒のことを「瘡っ気(カサッケ)」と言った。この木から取れる「グアヤク脂」が梅毒の治療に使われたために、瘡を癒す木、つまり梅毒を治す木 という意味で「癒瘡木」という名が付けられた。(園芸植物大辞典) 
 
アジアにはない木であるが、「奇跡の妙薬」とまで云われたのであれば東南アジアでも栽培されていたはずで、中国名として「癒瘡木」の名が付いていたものが日本に伝わり、その音読みがそのまま和名となったものであろう。
しかしとても「和名」とは言い難い。
Guaiacum ユソウボク属 : Plum. ex Linn. (1735)
牧野富太郎の植物学名辞典に「西インド植物名 guajac」とあったが、この植物の西インドでの呼び名が元になった、という意味であろうか。
そうだとしても、guajacの意味するところはわからない。
 
命名者は Plum. ex Linn. となっている。これはフランス人修道士で植物学者であった、シャルル・プリュミエ ( C.Plumier 1646 - 1704 )がすでに名付けていたものを、リンネが代わりに(正式に)定義した ということを表している。
記載したのは1735年刊行の『植物の属』である。
種小名 officinale 薬用の」という意味。
上記、梅毒への薬効を表している。もとの命名者のプリュミエは17世紀の人であり、それ以前から効用が知られていたということになる。
 
ハマビシ科 Zygophyllaceae
ハマビワは知っていたが、ハマビシ科なるものがあることは知らなかった。事典を見ると、日本には「ハマビシ」1種しか自生していないが、熱帯から暖帯の主に乾燥地に、30属250種があるそうだ。
意味は、zygon (対、左右相称) + phyllum (葉)で、ハマビシ科の多くの種が偶数の羽状複葉であるところから名付けられたものだが、必ずしもハマビシ科特有の特徴ではない。
 
 参 考
 
 ハマビシ
(浜菱)
: Tribulus terrestris Linn. (1753)
トゲのあるハマビシの実が、水草の「ヒシ」の実に似ているところから、「海岸地帯に生えるヒシ」の意味で名付けられた。
 
世界中の熱帯から暖帯の海岸に分布している。日本でも千葉県以南の本州、四国、九州に自生しているらしい。しかし、「樹木」が好きな私としては「草本」は関心が薄く、ハマビシは見た記憶がない。
そんなわけで自分で撮影した写真がないため、春日健二氏撮影「日本の野生植物」のホームページから拝借した。
(氏のホームページの画像は、出典を明らかにすれば転載可能である。)
 
ハマビシの花 ハマビシの実
撮影およびコピーライト:春日健二
 
 Tribulus 
ハマビシ属
: Tribulus Tourn. ex Linn. (1735)
tribulusは tri または treis (3の意味) + bolos (矢の意味)で、ラテン語で藜鉄(レイテツ)、すなわち鉄ビシ、撒菱(マキビシ)のことである。
ハマビシ属の果実には5片のトゲがあり、鉄ビシに似ているところから名付けられた。そのまま日本語にするならば「テツビシ属」である。
 
ヨーロッパで、鉄製の撒きビシが使われるようになったのがいつの頃かは不明であるが、植物の学名・属名が名付けられたのは 17〜18世紀のことであり、それ以前に「tribulus 鉄菱」が存在し、後からハマビシ属を「tribulus属」としたわけである。

一方で、中国では戦国時代、すなわち紀元前から使われていたにもかかわらず、鉄ビシは「鉄疾藜(テツシツレイ、中国語読みティエチーリ? )」と呼ばれている。
「疾藜属」(正確には"草かんむり"に疾)は中国語でハマビシ属のことであり、鉄疾藜は鉄製のハマビシを意味する。
 
植物の「ハマビシ」の名が先に存在し、あとからできた鉄ビシに「鉄製のハマビシ」という意味の、鉄疾藜という名が付けられたわけである。
 
 種小名 terrestris : 「陸地性の」という意味。
ハマビシの学名の命名者はリンネであるが、この命名は、同じくリンネが『植物の種』に記載した 「トウビシ」 Trapa natans Linn. (1753) と対比して名付けられたものと思われる。

「ヒシ属」の一種 トウビシはユーラシアの原産である。属名Trapaの由来のひとつは、ラテン語のcalcitrappa (鉄ビシ) が短くなったものといわれ、ハマビシ属の tribulus と同じ意味である。種小名 natansは「浮遊する、葉の浮かぶ」という意味であり、 Trapa natans は「浮かぶ鉄菱」を意味する。
 
これに対してハマビシは砂地に生えるものであるから、Tribulus terrestris 「オカの鉄菱」と名付けたわけである。
 
 ハマビシ  ヒシ( 菱 ) : Trapa japonica Flerov (1925)
ヒシ科ヒシ属の1種。北海道から九州に至る日本全国、朝鮮半島、中国に分布する一年草で、古くから実を食用とした。
縄文時代の遺跡からも発見され、万葉集にも詠まれている。
ヒシの葉 (菱形ではない) 茎の途中がふくらんでいる

北海道 大沼付近の沼で
様々な植物の和名の由来を集めた『花と樹の大事典』には、九つの説が載っている。
ほかの事典にも広く取り上げられているのが、@ゆがんだ四角い実の形が、「拉げている」から「ヒシ」という説である。
もう一つ、可能性が高いかな、と思われるのはA実に鋭いトゲがあるところから「緊(ヒシ)」と名付けた、というもの。
 
よく由来として取り上げられる、葉が「菱形」であるから、という説は、ここには無い。
上の写真を見てもわかるとおり、葉の形はむしろ「三角形」で、けっして「菱形」ではない。
 Trapa ヒシ属 : Trapa Linn. (1737)
ギリシア語のkalkitrapa (kalki 跡+trapa 罠)、またはラテン語のcalcitrapa 藜鉄(レイテツ)が短縮されたものといわれている。
いずれにせよ、ハマビシ属 Tribulus 藜鉄(レイテツ)と似た語源である。
西洋でヒシの実を食用などに利用することが、いつ頃から行われていたかは不明であるが、学名を付ける時にはすでに「鉄菱」が存在し、学名の方にそれが取り入れられたものである。
 
一方中国や日本では、植物名が先に名付けられ、それに似た鉄製の武器に「鉄菱」の名が付けられた。
 
これらは学名の歴史の浅いことを示している。

ところで、日本ではヒシの実を、忍者が「撒きビシ」として使っていたという説があるくらいだが、西洋でもハマビシやヒシを参考にして「鉄菱」が作られた可能性は大いにある。
 種小名 japonica : 「日本の」という意味。
原産地の一つを示している。
正式に記載されたのは 1925年で、つい最近のことである。
 
参考文献 : Index Kewensis Ver.2.0/Oxford University Press、
        植物の世界/朝日新聞社
        園芸植物大事典/小学館、
        図説 花と樹の大事典/植物文化研究会 編
        植物学名辞典/牧野富太郎・清水藤太郎
        ハワイ大学 Dr. Gerald Carrのホームページ
               (転載許可取得済み)
        春日健二のホームページ「日本の野生植物」