新 幹 線 は 海 外 に 輸 出 で き る の か ?

−新幹線の海外輸出にある問題点・リスクとその方策について考える−



TAKA  2006年03月19日



     
(左:台湾高鉄に改良型が採用されたJR東海700系新幹線車両  右:中国国鉄在来線高速用に改良型が採用されたJR東日本E2型新幹線車両)


 ※本文は「交通総合フォーラム」「TAKAの交通論の部屋」のシェアコンテンツです。


 「新幹線」と言えば日本国内を走っている高速鉄道と言うイメージが強いですが、皆さんご存知のように今や中華民国でも「台湾高速鉄路連盟(以下台湾高鉄と略す)」の高速鉄道で700系車両が採用されていますし、中華人民共和国でも在来線高速化(第六次大提速)で200km/h運転用車両としてE2型新幹線車両が採用されています。

 ○ 「台湾高鉄への新幹線採用の経緯」 (歓迎光臨・臺灣車票HP)
 ○ 「川崎重工:中国在来線高速化用の鉄道車両受注」(中国情報局)

 この様に韓国高速鉄道(KTX)ではTGVが採用され一敗地に追い込まれた物の、中華圏では台湾でTGVに逆転勝利を収め、中国ではTGV(アルストム)と60編成ずつの採用と言う様に採用を分け合って居ます。この様に今や新幹線も国際進出では先行したTGVを特にアジア圏で猛追撃していますが、新幹線の海外輸出には光と影が有るのもまた事実です。今回はその「新幹線の海外輸出」における問題点とその方策として必要な物について考えたいと思います。


 * * * * * * * * * * * * * * *


 ☆ 新幹線は海外での運行に耐えられるのか?

 先ず第1の問題点として言えるのは「新幹線は海外の運行に耐えられるのか?」と言う問題が有ります。
 新幹線の海外進出は5年前2000年に決まった台湾高鉄機電システムへの新幹線700系採用が決まってからです。ですから歴史としては未だ5年しか経っていません。台湾高鉄が昨年10月開業予定だったのが1年間延期になっているので、実質的には「海外で運行されている新幹線は存在しない」状況に有ります。(この辺りの経緯は交通総合フォーラム「台湾新幹線の開業延期の問題点について考える」にて書いています。)
 つまり現在では此処での「新幹線は海外の運行に耐えられるのか?」と言う此処での命題に関しては、残念ながら未だ実証を基にした回答が出ていない状況です。つまりその点では日本の鉄道システム自体が、海外での運行に耐えられるのかは確実に「Yes」とはいえない状況に有ります。

 歴史から紐解いて考えれば、日本の鉄道自体は戦前は植民地の朝鮮・満州にて海外の鉄道と接する中での標準軌国際規格鉄道の運営経験を踏んでいる為、特に南満州鉄道は国際規格の中での鉄道運行と言う物に適応性を持っていたと言えます。その証拠に日中戦争・太平洋戦争中は占領地の鉄道を日本・満州から機材を運び込み運行していました。
 しかし敗戦後、日本は満鉄・鮮鉄と言う標準軌鉄道を持つ海外植民地を失い、領土を狭軌鉄道システムしか持たない現在の島国の領域に押し込められてしまいました。その為日本の鉄道は日本国内の狭軌鉄道網の中で、大量の需要を捌く為の多頻度高密度輸送機関として独特の発展を遂げてきたと言う状況の中であり、その中で日本独特の鉄道システムを高速度標準軌化した「日本的鉄道システム」と言うクローズドシステムの究極の形が新幹線であると言えます。
 其れに対して欧州鉄道の中心の一つであったフランスで開発されたTGVは、元々軌間は同じでもシステムが違う欧州の鉄道間での相互直通が普通に行われてきた場所で開発されてきた為、TGVは普通に一般鉄道に乗りれて運営できるシステムになっています。その点では在来線乗り入れと言う異システムへの直通に「山形新幹線」「秋田新幹線」の様に、改軌を含む大規模な工事が必要な新幹線に比べると一日の長が有ります。
 この様なシステムの適用性の差は、多国間直通が当然でオープンシステムの中で運営されてきた欧州発祥のTGVと、日本国内のクローズドシステムの中で「高密度高速運転」に特化する事で輸送の使命を果たしてきた新幹線で、出生から生じた宿命として存在した事であり、これはどちらが優れていてどちらが劣っているとは一概に言える物では有りません。

 しかしこれが第三国での採用となると話は別です。第三国の場合新幹線・TGV共に今運行されているシステムの国とは、大きく違うシステムで運行されている鉄道が存在している国での運行が迫られていると言えます。その様な所で運営されるシステムを、在来線乗り入れが日常的に行われ他国乗入を想定して造られているTGVと、新幹線路線と言う特定の規格の車両しか走らない中で運営されている閉鎖的なシステムの新幹線とで比較した場合TGVの方が優位であると言えます。
 ましてやTGVは開業当初から、都心ターミナルを在来線と共用する前提の「中間部のみの高速新線」と言う形態で計画されています。その後電圧の違うスイス・イタリア・ベルギー・イギリスへの乗入を果たし、他システム・他国のシステムへの適合性と言う点では新幹線を大きくリードしています。又アメリカのアセラで証明したように、車体傾斜制御を取り付ければ在来線でも大きなインフラ改良が無くても高速化を達成できると言う汎用性も備えています。

 その点から見て、新幹線が日本固有の事由からクローズドシステムで構築されその中では発展してきたが故に、オープンシステムであるTGVに対し海外進出が不利で有る事は明らかです。
 又世界に冠たる有名な「新幹線」で有っても、クローズドシステムであるが故に海外の鉄道と言う、システムも風土も文化も異なる地域で運営できるのか?と言う事に疑問が出ても致し方ないことであると言えます。
 その疑問から見て、新幹線海外進出の問題点の一つは「日本と異なる環境の海外での運行に耐えられるか?」と言う事であり、言葉を変えれば「異環境への適合性があるのか?」と言う事になります。それに関しては現状では「Yes」とは言えない状況であり、新幹線が克服しなければならない障害のひとつであると言えます。


 ☆ 新幹線が力量を発揮する場所は限られている?

 次に第二の問題点として言えるのは「新幹線がその持つ力量を発揮できる環境は限られている」と言う問題です。
 新幹線の最大の売りは一体何でしょうか?それは鉄道における「高速度大容量輸送機関」と言う点です。新幹線はまさしくその完成形であると言えます。其れは東海道新幹線を見れば明らかです。東海道新幹線は標準軌16両編成(編成定員1323名)の電車が最高速度270km/hで最大毎時12本運転されていて、毎時最大31,752名(定員*上下本数)を輸送する事が可能と言う、世界に例を見ない高速度高密度運転を行っています。
 その為に「動力分散方式」「ATC・CTC等の信号システム」「完全立体交差」等が導入され、在来線から隔離された「新幹線」と言うクローズドシステムの中で「如何に高速で大量輸送を行うか」と言う点に特化したシステムが構築されています。
 ですから「高速度高密度運転」と言う観点で見れば、新幹線は「世界最高レベルの高速輸送鉄道」と言う事が出来ますし、その点は海外市場でライバルになるTGVよりはるかに優れています。

 
 新幹線の「高速度大容量輸送」の象徴とも言える総2階建ての新幹線E1系(東京駅)
 ※新幹線だけでなくTGVにも(機関車部を除く)総2階建て車両は有る


 しかし新幹線はその「高速度高密度運転」と言う機能を強化したが故に、新幹線はクローズドシステムの中での運行に縛られてしまう事になります。日本自体が「在来線が狭軌で限界が狭い」と言う事も有りますが、新幹線をクロ−ズドシステムの外に出して在来線に直通させようとすると、改軌等が必要になり莫大な費用が掛かりその上在来線限界の車両を導入しないと走らせられないので輸送力も低下し、速度等も普通の狭軌在来線と何も変らなくなると言う状況に陥ってしまいます。
 確かに日本国内の交通体系と言う点から考えれば、新在直通運転は大きなメリットが有ります。しかし新幹線のクロ−ズドシステムの中で考えれば、異端児的な車両を受け入れなければならなくなり、新幹線の魅力である巨大な輸送力を100%発揮できなくなります。(逆に言えば東北新幹線(各線が集まり運行本数が限界に来ている東京〜大宮間を除く)は新幹線の持つ輸送力を100%引き出さねばならないほどの需要まで達していないと言う事である。だから併結運転等の工夫をすれば小型車両の新在直通を受け入れられる)

 その様な事から考えると、新幹線がその投資に見合う能力を最大限発揮できる場所とは、色々な意味で限られていると言えます。その場所とは「高速鉄道での所要時間が4時間未満」「完全立体交差の専用標準軌鉄道」で「動力分散式の車両」と「ATC・CTC等のコントロールシステム」を用いて「複数の大規模需要地間を結ぶ」と言う場所で無いと新幹線はその持てる能力を存分に発揮して、コストパフォーマンスの高い運転を行う事が出来ません。
 東海道新幹線東京〜名古屋〜大阪間は正しく「新幹線の能力を発揮するには絶好の場所」であり、この様な「新幹線が真価を発揮できる」条件に当てはまる所は世界広しと言えども限られていると言えます。
 その点は日本ほど人口密度が密集していない欧州で開発され、車両コストの低い動力集中方式で、高速新線の軌道構造も勾配等を容認していて、高速新線以外でも標準軌電化鉄道なら複数のシステム搭載と言う車両の改良で、かなりの範囲で対応可能なシステムであるTGVの方が、「投資に見合う能力を最大限発揮して活躍する場所」と言う点では適用範囲は広いと言えます。


 ☆ では新幹線は海外輸出に向かないのか?
 
 この様に高価なシステムであり「高速度高密度運転」が得意であるが故に、「異なる環境への適合性」「力量発揮の場所の条件が厳しい」と言う障害がある新幹線ですが、果たして海外に進出して活躍できる場所はあるのでしょうか?
 その様な「新幹線を導入するに相応しい場所」は海外においても数少ない物の存在します。その条件は「高度な運行システムの新幹線に対応できる基礎的技術力が有る」「在来鉄道が標準軌ではなく乗入を考える必要が無い」「人口の多い複数都市間を結ぶ」「比較的経済力の有る国」と言う条件が有り、それが当てはまる場所であると思います。すなわち「クローズドシステム」が構築出来て「建設費が捻出」出来るだけの経済力と需要がある場所と言う事になると言えます。
 
 私が思い当たるその様な場所は、既に新幹線システムが採用されている台湾の台北〜高雄間・今は航空機が主体のマレーシア・シンガポールのクアラルンプール〜シンガポール間が該当すると考えられます。
 台湾の台北〜高雄間は人口674万人の台北地区・人口275万の高雄地区・人口256万の台中地区を結ぶ高速鉄道であり、既に機電システムで新幹線が採用されており、700T系が日本から輸出されていて開業が本年10月に延期された物の、(欧州の技術も多く採用されているので)曲りなりの海外進出と言えますが、新幹線海外進出の第1号を飾っています。
 台湾高鉄は「NISEに位置する台湾の基礎的技術力・経済力」「1200万人に迫る沿線人口」「在来線が狭軌鉄道の為乗入する必要が無くクローズドシステムが組みやすい」等、高密度高規格高速鉄道の新幹線システムを導入するに適した条件が揃っています。 (又中華民国が親日国家であるのも大きなプラスである)
 又マレーシア・シンガポール両国の首都を結ぶ「クアラルンプール〜シンガポール」間は「ASEANの盟主たる両国の技術・経済力」「人口460万のシンガポール大都市圏の人口が400万人のクアラルンプールを結ぶ」「平行鉄道のマレー鉄道はメーターゲージの為高速化が困難の為クローズドシステムが造りやすい」等のメリットが有り、航空機シャトル輸送に変わる新幹線導入に相応しい場所であると考えます。(但しシンガポール・マレーシア間の「近くて遠い国家関係」がマイナス要因かもしれないが・・・)

 私は「新幹線が相応しい場所」となると、この2箇所しか思い浮かびませんが、実際にもっと精査してみれば未だ「新幹線導入に相応しい場所」は他の国・地域にも沢山あるかもしれません。
 (実際世界が注目する発展大国のインドでもデリーでの地下鉄建設成功の後に「ムンバイ〜アーメダバード間新幹線計画」が計画として有る(インドにおける高速鉄道計画の進展(IHCC)日印経済関係と対印経済支援を巡る諸問題P19〜20・P22〜23
 その様な事から考えれば、もっと低条件に耐えられると推察されるTGVほど進出に適した場所は無いとも言えますが、新幹線の輸出事業は未だ「諦めるのは早い」と言えるかも知れません。
 加えて「新幹線は輸出に向かないのか?」と言う命題に関しても、「NO」と言う事は出来ません。「最適な輸出先」に関するハードルは高い物の、その条件にさえ合えば新幹線輸出事業は十分成り立つでしょう。


☆ 新幹線輸出に際してのリスク・問題点は?

 さて実際に存在する新幹線輸出に際してのリスク・問題点は何でしょうか?私は下記の通りの3つが有ると思います。
 (1)「木に竹を接ぐ行為」に依る他システムとのシステム適合性が合うかのリスク。
 (2)クローズドシステムの高速鉄道を、在来のオープンシステム下で運転する事での事故リスク。 
 (3)他国に最新技術の新幹線が模倣されて、不完全な状況でライバルとして世界に展開されるリスク。

 以上の3点が新幹線を海外に輸出した事で、発生するであろうリスクだと思います。これらのリスクは日本では殆ど発生しえません。しかし海外になると日本国内で通じていた常識は通じず、この様なリスクに曝される可能性が高くなると言えます。以下においてそれらの発生する可能性が高いリスクについて考えたいと思います。

 先ずは「(1)「木に竹を接ぐ行為」による他システムとのシステム適合性が合うかのリスク」ですが、これは海外の高速新線導入で此処の部門に細分化しての国際入札等を行う為に、インフラ構造物・軌道設備・信号機器・車両がそれぞれ別のシステムが導入されることが有ります。トータルの管理としてこれらの生まれと背景の違うシステムを整合性の取れる物にコントロールが出来ていれば良いですが、この様なバラバラのシステムを導入した場合、色々な利害・見解が衝突して、往々にして管理・調整が上手く行かずに困難やトラブルに直面する事が有ります。
 その良い例が、新幹線型の機電システムを採用した「台湾高鉄」です。台湾高鉄は本来昨年10月に開業予定でしたが、工事が間に合わず本年10月開業に1年延期されています。このことに関して過去に交通総合フォーラム「台湾新幹線の開業延期の問題点について考える」で検討した事が有りますが、直接の原因は工事工程の遅れとの事ですが、その真相には「機電システム採用でTGVと新幹線で(政治的)綱引きがあり遅くなった」「インフラ系の基本設計は当初決まっていたTGVを中心とした仏・独連合の規格で作られていたが、新幹線逆転勝利の結果「TGVの上に新幹線が走る」と言う「木に竹を接ぐ」状況になり調整に時間が掛かった」と言う事が開業1年延期の事情であると推察します。
 本来なら全て同一系列のシステムで統一していればこの様な「すり合わせ」は発生しません。政治的思惑が絡んで故の逆転と言えども、この様な複数系列のシステム採用が、手間と時間を掛ける事になり最悪の場合すり合せが上手く行かない場合、システム設計の不適合が原因で大事故が発生しかねません。
 これが日本国内であれば、他国のシステムを国際入札(世界銀行等の公的融資を受ける場合に求められる事が多い)で導入と言う事が現在求められる状況で無いので問題ありません。(東海道新幹線建設時は世界銀行融資を受けたので国際入札を開いたが誰も応じず、この様な事は避けられたと聞きます)
 しかし海外ではそう簡単には行きません。台湾高鉄もKTXも外交・国内政治・国民感情・事業スキームと資金調達等々政治・経済的な要素が絡み合って導入されるシステムが決まります。その中では台湾の様に新幹線とTGVが「木に竹を接ぐ」事になった時に、上述の様に国際社会での他流試合が少ない日本の鉄道システムの中でも特異なクローズドシステムとして構築されてきた新幹線には、「木に竹を接いだ環境」はリスキーな走行環境であると言う事が出来るでしょう。実際にそのリスクは「台湾高鉄の1年開業延期」を見れば明らかです。

 次に「(2)クローズドシステムの高速鉄道を、在来のオープンシステム下で運転する事での事故リスク」ですが、これは日本でも「山形新幹線・秋田新幹線」を見れば明らかです。
 「山形・秋田新幹線」は単に在来線を改軌しただけの路線であり、高速運転に特化した完全閉鎖・立体交差と言うクローズドシステム下の環境で運行されていることで、新幹線の高速性・安全性等が担保されていたのに、改軌されただけで地平を走り踏切もある在来線規格の路線(だから正式には新幹線ではない)に乗り入れた瞬間に、踏切・走行環境・天候等に左右され、重大事故こそ起きていない物の各種のトラブルに巻き込まれている現状を見れば、海外でTGV仕様の「高速新線から在来線にも乗り入れ可能」と言う形態をとった場合、その固有のトラブルに巻き込まれる可能性があると言う事です。
 現況でこのトラブルに一番巻き込まれそうな所は「新幹線型の車両を国内在来線高速用に輸出した」中国であると言えます。中国では在来線の白紙ダイヤ改正「第六次大提速」実施時の200km/h運転用に、アルストムが供給するTGVを基にした高速車両と一緒にJR東日本新幹線E2型を基にした新幹線が輸出され、電化された中国の在来線を走行します。
 中国の幹線鉄道自体は、私は過去に1回だけ乗車した事が有ります。(TAKAの交通論の部屋「中国北京訪問記」)その時の感想として「軌道等のインフラはしっかりしているが、列車見張も無く線路内保守をしている等安全管理等のソフト面はイマイチなのか?」と言う感想を私は抱いています。色々な面で未だ日本には程遠く、台湾・韓国の鉄道の運行レベルの背中が見えてきたか?と言うレベルであると考えます。
 近年中国国鉄も高速化を進め、現在北京〜上海・瀋陽等で160km/h運転をおこなっています。ですから鉄道高速化に関しては最低限のノウハウは有る状況です。しかし中国のレベルでは在来線インフラが高速走行に耐えられるのかは大きな疑問です。(実際「第六次大提速」も一度延期されている)各種対策を施した在来線を130km/hで走る日本でも色々トラブルが発生していました。中国では其れより明らかに対策が低い路線を200km/hで走るのです。これをリスキーと言わずして何をリスキーと言うのでしょうか?
 もっと怖いのはもしこの様なリスクが現実化した時に、中国が「無事故高レベルの新幹線を輸入したのに何故こんな事故が起きる」とゴネ出して、日中間の政争の具とする可能性があることです。確かに新幹線型の車両を輸出していますが、システムそのものは日本でも「新幹線」と称するのを憚る物です。其れを棚に上げられた時に、新幹線輸出と輸出先で起きた事故が重大な外交紛争要素になることも有り得るのです。
 「新幹線=無事故の安全な高速鉄道」と言うのは我々も含む世界に広がる新幹線の共通概念の一つですが、新幹線型の車両が走るだけで「其れは新幹線だ」と誤解され、「安全な新幹線なのに何故事故が起きる」と言う揚足を取られるような文句を付けかねられません。新幹線の安全はクローズドシステムの中で成立する物です。其れを前提のクローズドシステムを外した所で、無事故の安全性だけが先走りしてしまうと言うリスクは、異なる環境への輸出に関しては十二分に考えなければなりません。

 最後に「(3)他国に最新技術の新幹線が模倣されて、不完全な状況でライバルとして世界に展開されるリスク」ですが、これは特許権等に関する概念が少ないのに製造技術は進歩しているアジアでよく発生する問題ですが、海外進出で先行しているTGVやトランスラピットでは既に発生している問題です。
 <中国関係>
 「初の中国国産リニア7月に試運転時速500km(チャイナネット)」
 「ドイツ、対中警戒へ路線変更・外相、知財権保護強化を要請(日本経済新聞)」
 
 開業2年で既に模倣国産品が登場したドイツ技術が導入された上海トランスラピット(2004年1月1日撮影)

 <韓国関係>
 「国産高速列車、時速300キロテスト走行に成功(chosun.com)」
 「韓国版「TGV」、次ぎに狙うのは車輛の「海外輸出」(IHCC)」

 この様に韓国・中国に導入された独・仏の高速鉄道技術は既に(正式であるかは別にして)模倣され、韓国にいたってはアジア地区への輸出まで狙うまでになっています。
 韓国のケースはシステム的には、KTXへのTGV導入時に関しては、アルストムから韓国の車両メーカーのロテムへノックダウン生産→技術移転→欧州以外へのTGVの輸出権と言う一連のビジネスが行われており、模倣と言うよりかも「受注の為の甘い餌」と「意図的な市場譲渡」が行われていると言えます。
 只中国のトランスラピットに関しては、ドイツ政府の反応を見る限り韓仏間の協調関係と異なり、完全にドイツの技術を拝借しての自国リニア開発の可能性が高いと推察されます。

 この様な一種のコピー商品的な問題は、アジアの中進国では往々にして有りえる話です。アジアの中進国は完全に輸入しなければ作ることが出来ない程度の技術力しかない発展途上国とは異なり、自力で技術を開発する力は無くても有る程度のノウハウを貰えば自国でも作ることが可能なレベルの技術を持っていると言う事から発生する問題であると言えます。
 その様な技術模倣を戦略的に達成する為に、アジア諸国では欧米・日本の技術・製品・工場・資本を導入する時に、自国へのノウハウになる移転を重視します。その移転を受けたノウハウを元に新しい製品等を生産し世界市場に売り出すと言う「キャッチアップ戦略」で経済発展を遂げてきました。
 これが新幹線の海外進出でも有りえる話です。それは中国への新幹線車両輸出です。台湾高鉄の場合日本で車両を作り其れを輸出していますが、中国への輸出の場合「完成車輸出→ノックダウン生産→中国国内での生産(部品のみ輸出)」と言う形で、新幹線技術に関して技術移転をして行きます。
 川崎重工が技術移転をする相手の「南車四方機車車両股有限公司」は1985年以来技術・生産協力を行っているパートナーで、企業間の信頼関係は構築されていると言えますが、模倣品の天国と言える中国に新幹線技術を提供すると言う点では変りがありません。
 その様な国に新幹線技術を移転した場合、「新幹線車両を模倣生産され市場が荒されるリスク」と同時に「生産技術の低い国で品質の低い模倣新幹線が造られ、新幹線のブランドが崩されるリスク」が存在します。この様なことが好ましいのでしょうか?
 確かに導入する国としては、「自国の投資を自国内に還元したい」と言う心理もあるのは当然ですし、「折角技術を導入するのならその技術を自国の物にしたい」と考えるのは当然のことです。しかし新幹線は車両を模倣したから日本で走っているのと同じ物が出来る訳では有りません。車両・システム・インフラ・運行ノウハウ等が噛みあって「世界に冠たる新幹線」が出来るのです。その点を見ずに車両だけが模倣され世界市場に「新幹線」が流失して行くというのは、「新幹線」と言うブランドのイメージを考えると、そのリスクは極めて高いと言えます。


 ☆ ではどうすれば良いか? −新幹線輸出への国家的戦略が必要?−

 今までの分析の様に新幹線の海外進出に関しては、非常にリスクが多く、活躍できる場所は多くないと言えます。実際に新幹線の海外進出で、リスクが多いと思える中国への新幹線輸出に関しては、日本で新幹線に関わっている関係者からも警戒論も出ています。
 「JR東海会長、読売新聞で「中国脅威論」を展開(中国情報局)」
 この警戒論に関して言えば、私は一理も二理もあると思います。実際にリスクが多くて、日本の得る物は少ないと言うのはJR東海葛西会長の言う通りと思います。しかし同じく葛西会長の言われる「(海外進出で)メーカーが潤って体力が強化され、間接的に日本の新幹線の安全維持に役立つ」と言うのも一理有る話です。
 やはり日本の国家全体として考えれば「新幹線を輸出する事でリスクが現実化してトラブルに巻き込まれる」と言う事は決して好ましいことでは有りません。しかし仏のTGV・独のICEに海外市場を奪われ、(台湾は新幹線で決まったが)マレーシア・シンガポール・インド等の親日国家でTGVやICEが走るという事は日本の国益として考えると好ましい事では有りません。
 ではどうすれば良いのでしょうか?此処で新幹線の海外輸出に関して考えた結論として、今後好ましい「新幹線海外輸出の方策」について考えて見たいと思います。

 ・先ずは日本国内で新幹線輸出の為の「企業連合」を恒常的に作るべき

 先ず第1には新幹線建設を一括して行い新幹線輸出を統括し進めるために、「特定目的会社」等の「企業連合・ジョイントベンチャー」を恒常的に作る事が重要であると言えます。
 此れは前にもあげた、私の書いた交通総合フォーラム「台湾新幹線の開業延期の問題点について考える」記事内でも書いたのですが、実際前にも述べたように新幹線の能力を十分に発揮できるようにする為には「クローズドシステム」を構築する事が肝要です。其れは導入の環境だけでなく、建設においての過程でも重要であると言えます。
 実際台湾高鉄の場合、前述のように「在来線乗り入れを考慮しない」状況で本来は「クローズドシステム」を構築しやすい状況でありましたが、実際は中華民国の政治的状況等が絡み合い、何か以下の国際入札が行われた結果、規格の根本は欧米規格で、当初はTGVの運行が想定されていて(今もフランス人がプロジェクトに関わっている)日本の新幹線には無い「双単線」などの運用システムが持ち込まれていているのに、機電システムは日本製で、インフラ建設は日本・韓国・台湾のゼネコンが関わると言う様に、走る車両は正しく新幹線ですが、システム自体は「寄せ集め」と言う状況です。

 上記の様に日本勢が機電システム・(一部の)インフラ構築に関わった台湾高鉄プロジェクトですが、プロジェクトに関して各社は「機電システム等の輸出→三井物産・三菱商事・丸紅・住友商事・東芝・三菱重工・川崎重工7社が特定目的会社「台湾新幹線梶vを造り電気・車両・大部分の軌道工事を受注 インフラ建設→複数工区で日本ゼネコンが直接受注」と言う方式で対応しています。(関係各社紹介HP「川崎重工(車両)・JR東海情報システム(システム)・名工建設(軌道工事)・大林組(土木インフラ))
 しかし台湾高鉄入札では商社が中心になり各種工事の受注に成功していますが、今後ともこのままの形態で新幹線の輸出を進める場合不安があるのも事実です。最大の問題は「商社はプロジェクトマネージャーは出来るが、具体的な経験が無い」と言う点です。商社の機能は基本的に「仲介者」ですし、日本で「新幹線の建設に関する総合的技術を持っている組織」と言えばJR3社と鉄道建設・運輸施設整備支援機構になります。台湾新幹線株式会社では直接これらの組織が関与せず、仲介者の商社がメインのメーカーである車両・重電メーカーと企業連合を組むと同時に、個々のノウハウを持つJR東海系の名工建設・JR東海情報システムをプロジェクトの下請として使う事で、商社のノウハウ不足を補填しています。
 この方式でも「悪くは無い」と言えますが、真に新幹線の優れている点を活用して海外に輸出して行くには「ベストの形態」と言う事は出来ません。実際台湾新幹線鰍フ事業スキームが「クローズドシステム」であり「一つの統合されたシステム」である新幹線の輸出に相応しいとは言えないと思います。その点から考えると一歩進めた新幹線輸出の事業スキームが必要と考えます。

 具体的には今の特定目的会社「台湾新幹線梶vをもう一歩発展させて、新幹線を運行する本州JR3社を巻き込んだ恒常的な「新幹線輸出専門会社」を作る事が必要ではないでしょうか?
 本当は「船頭を多くして船山登る」と言う事になり兼ねないので関係者は増やしたくは有りませんが、会社組織であれば「出資金→利益の大部分を配当還元」と言う形にすれば出資者が多くなっても問題ないと言えますし、出資者が多ければ意思決定が特定会社に偏ることなくその会社内で意思決定が出来て迅速かつ戦略的な動きも可能になろうと考えます。
 その会社には台湾新幹線鰍ナ実績を上げた商社と新幹線に関する総合的なノウハウを持つ本州JR3社を中心にしてメーカー・ゼネコンを加えた形で造り、海外への実際の新幹線輸出をこの会社が統括する事が好ましいでしょう。
 この会社は土木インフラからシステム・運行ノウハウまで総合的に輸出を行い、最終的には「日本での新幹線運行と同じレベルを保証できる」様に「(インフラだけでなく車両・ノウハウまで全てを含めた)ターンキー契約」を実現できる組織にまで拡充する事が、仏アルストム・独シーメンスのTGV・ICEなどの海外競合他社と競いあって、より導入難度が高い新幹線を世界に輸出する為には必要であると言えます。
 又この様な総合的な「ターンキー契約」が出来るほどの総合的新幹線輸出企業が出来ることで、システム一括でのプロジェクト提案・新幹線システム輸出が可能になり、上記でリスクとして考えた「複数システム導入による適合性の問題」等を防ぐ事が可能になります。そういう点からも「新幹線輸出専門会社」設立による輸出窓口の一本化は重要であると言えます。

 ・最終的には国自体が「新幹線輸出」に積極的になるべき

 上記の様に民間で新幹線輸出の為のシステムを作ったとしても、新幹線の様な「高額のシステム」が海外で採用されるには、「技術的な素晴しさ・経済的な優位性」の他に「政治的な力」が必要です。つまり色々な点で国家的な後押しが必要であるということです。その点は日本は遅れていると言えます。
 其れは特に中国で露骨です。鉄道では有りませんが同じ様な高額の交通システムで有る飛行機の輸出の場合、大航空機製造会社のボーイング・エアバスを輸出する米・仏両国では首脳自らが中国要人と合いトップセールスで大量の航空機輸出を決めてきます。
 航空機は世界で「エアバス・ボーイング」の2社しかなく、その上1機に換算すれば100億円程度なので、未だ米・欧に「友好度に応じて」分散させて発注する事も可能です。しかし高速鉄道の場合、数千億円〜1兆円以上の1つのシステムを輸出する事になるので、航空機以上の国と国のトップセールスが必要です。
 只日本はその国のトップによるトップセールスが足りないと言えます。韓国KTXの時には対日感情もあってかトップセールスをしたとは聞きませんし、台湾新幹線の場合国交が無いためトップセールスが行われていません。唯一トップセールスをしたと言える中国に対しては03年に扇国土交通相が訪中して新幹線をアピールしていますが、新幹線は在来線へのTGVとの並行採用に留まっていて、本命の「北京〜上海間高速新線」は未だ「方式未定」に留まっています。

 同時に巨額の投資を必要とする高速新線建設ですので、単純なシステムの輸出だけでなく資金面でも導入国を支える事が、高速鉄道システム採用には重要な要素になっています。
 ましてその様な海外向けの数千億円〜1兆円と言うプロジェクトのファイナンスとなると、民間では難しくなり政府が絡んだ「円借款・ODA」を始めとして、貿易保険など輸出に際しての各種の政府融資を付けて資金の目処を付けたり導入国に実質的な資金援助を行う事も、導入国に取っては導入判断の大切な要素となっています。
 こうなって来ると、単純に交通行政の担当部署の国土交通省だけでなく、産業・貿易行政の担当部署の通産省や外国支援の担当部署の外務省の支援も必要ですし、政府の海外政策金融の部門である「国際協力銀行」の協力も必要です。実際台湾高鉄でも中華民国と国交が有りませんし発展途上国ではない為、円借款・ODAは導入されていませんが、国交の無い国への輸出に対して2200億円(車両・機電システム輸出額の3分の2)の国際協力銀行の融資と貿易保険が適用されて、中華民国の新幹線導入にたいする間接的な政府からの補助が行われています。
 
 その様に民間だけが動くのではなく、民間と政府が上手く役割分担をしながらチームを組んで「新幹線輸出」を働きかける事が重要です。そうしないと仏TGVや独ICEとの輸出国際競争に勝ち抜くことは出来ません。
 又難しい条件が色々あるにしても、新幹線がその能力を発揮できる国・地域に日本が支援をして新幹線を導入させることは、日本にとっても支援の見返るとも言える色々なメリットも有ります。
 直接的には輸出に伴い国内の産業振興が図れるメリットも有りますし、新幹線自体が色々な環境で走る事でその技術的な進歩がフィードバックされれば新幹線自体の技術的進歩になりますし、日本国内で新幹線の輸出システムが生産されれば、その量産効果による車両価格低減や前に引用したJR東海葛西会長が言う様に「輸出の収益でメーカーが強化されれば、間接的に新幹線の安全確保に貢献」と言うメリットも期待できます。
加えて外交的側面では、政府支援付きの新幹線輸出により導入国を支援する事が出来ますし、新幹線が上手く機能すればそれにより導入国の親日度もアップして外交関係が深度化して、他のビジネスや外交にメリットを与える事になります。
 この様な「新幹線輸出に伴うメリット」が輸出に携わるメーカーだけでなく国全体にも有る事を考えて、総合的に考えて国は新幹線輸出の為の支援を行う事が、新幹線輸出だけでなく育成の為にも重要であると考えます。


 * * * * * * * * * * * * * * *


 この様に「新幹線の海外輸出」について色々検討を加えてきましたが、その検討の中で新幹線の海外進出に関して否定的な見解が多くなったと言えますが、でもそれが「新幹線技術が劣っている」と言う事を意味するわけでは有りません。
 今までTGVに差が開けられたと思われていた運転速度に関しても、300km営業運転は既にJR西日本500系新幹線が山陽新幹線で実現していますし、JR東日本の「FASTECH360」の試験も順調に進んでいます。現実的な運転速度と言う点では日本の新幹線は世界最高と同レベルで有る事は間違い有りません。

 
 最高速度275km/hのJR東日本E2系新幹線と最高速度300k/hのJR西日本500系新幹線(東京駅)


 同時に新幹線の「高速度高密度大量輸送」が世界に冠たるもので、世界の他の高速鉄道には真似出来ない物であるのも又誰もが認めるところであると言えます。
 その点は中国が「北京〜上海間高速鉄道を自国技術で建設(中国情報局)」「北京〜上海間高速鉄道は4分毎運転の高密度運転(中国情報局)」と言っても、その様な「高速度・高密度高速鉄道」は実際に実現させるとなれば非常に難しい物であり、中国国産の高速車両「中華之星」ですら限定的な実用化しか達成できていない事を考えると、そんなに長距離の「高密度高速鉄道」を簡単に実現できるとは思いません。(其れこそE2系の技術をコピーした位では極めて難しいだろう)
 この様な視点で見れば、新幹線は極めて優れた技術で有る事は間違い有りません。「高速度高密度大量輸送高速鉄道」と言う点で見れば、新幹線はTGV・ICEよりも優れている所は誰が見ても明らかです。只世界に打って出るのは繊細すぎる側面があり慎重になる必要があるだけだと思います。
 この様に日本が世界に誇る技術であるとは言えども扱いが難しいとも言える新幹線ですから、逆に大切に育てながら官民一体となって、慎重に世界に進出して行く事が大切ではないでしょうか?新幹線は世界に冠たる技術ですから、ツボに嵌れば日本に取り色々な意味で大きな武器になる可能性も秘めています。それらの事を総合的に考え新幹線の輸出を考えるべきだと思います。





※「TAKAの交通論の部屋」へ戻る

※「交通総合フォーラム」へ戻る