(2)「市内への機能的な集客手段」伊予鉄道松山郊外線訪問記



「1」「郊外鉄道 兼 本州連絡鉄道?」坊ちゃん列車の元祖高浜線を試乗する。

 伊予鉄市内線を巡った翌日の2007年正月は伊予鉄の鉄道事業のもう一つの柱である郊外線を巡る事にしました。伊予鉄の郊外線は北へ伸びる高浜線・東へ伸びる横河原線・南へ伸びる群中線の3路線が有りますが、半日も無い行程では全部の路線を乗る事ができません。「全路線に乗る」と言う乗り潰しが目的では無いので取りあえず北に伸びる高浜線に全部乗り加えて東に伸びる横河原線で行ける所まで行こうと思い、手始めに高浜線に乗る事にしました。
 伊予鉄の郊外3路線はターミナルの松山市駅(以下「市駅」と略します)から放射状に伸びていますが、市内線とは市駅・大手町駅・古町駅の3駅で接続していますが、今回は古町駅で乗り換えました。古町駅は市内線・郊外線の接続駅であると同時に両線の車庫・工場が有り正しく伊予鉄の鉄道部門の中核駅となっています。元々松山の外港であった三津と松山を結ぶ鉄道の駅として三津・市駅と並んで最初に作られた駅で非常に歴史の有る駅です。取りあえず此処から高浜行きの列車に乗り事にします。

   
左:[1]郊外線の拠点古町の車庫  右:[2]高浜へ向う高浜線車内
   
左:[3]高浜駅に停車中の700系(元京王5000系)  右:[4]高浜駅〜松山観光港間の連絡バス

 古町で乗った高浜行きは元京王5000系の700系の2両編成です。流石正月の午前中と言う事もあり乗客は数える程度の疎らな状況でしたが、郊外電車に不似合いなスーツケースを持った利用客も居ます。
 古町を出て高架線で県道19号線・国道169号線バイパスを越えた後衣山・西衣山・山西と住宅街を通り抜けたあと、構内が広く建物も歴史を感じる駅の三津に到着します。元々松山の外港と松山を結ぶ鉄道として出来た高浜線は当初一番最初の外港であった三津と松山を結んで出来た鉄道であり、この区間が「坊ちゃん」にも出て来た場所であり正しく「坊ちゃん列車」が走っていた所であり歴史を感じさせます。
 三津から先は三津開業の4年後の明治25年に延伸された路線で、港山・梅津寺と停車して終点の高浜に至ります。高浜は伊予鉄道が路線を延伸して港としては良港で無い三津に代わる新しい外港として開かれた港で、駅の規模も大きく昔は「松山の玄関口」として栄えた事が伺えます。しかし今は「松山の外港」の役割は高浜港の北0.7kmに昭和42年完成の松山観光港に移転しており、高浜駅からはバスで連絡しており、この日もスーツケースを持った人を始め数人の人が観光港接続のバスに乗り換えて行きました。松山観光港自体は今でも広島・九州・関西方面への航路が就航しており今でも松山の外港として機能していますが、アクセスは観光港〜松山市街・道後温泉間に毎時1本リムジンバスが主流となり今では高浜線は脇役となっており、其処に歴史の流れを感じさせます。

   
左:[5]海辺を走る高浜線と伊予鉄の梅津寺パーク  右:[6]西衣山駅と高浜行きの700系(後ろの鉄橋は予讃本線)

 帰りは高浜線の列車と横河原線の列車が直通運転されている事を生かして、そのまま乗り通して横河原線の久米を目指す事にします。高浜の次の梅津寺の駅は「東京ラブストーリー」の最終回で有名になった駅ですが、此処は昔は海水浴場で有名であり今は伊予鉄道直営の梅津寺パークが有り松山市民の憩いの場として賑わっている様で、伊予鉄道車内には「往復乗車券+梅津寺パーク入場券」を組み合わせたチケットも販売していました。梅津寺パークは遊園地としての規模は小さい物の地方都市のレジャー施設としてはそれなりに十分でしょう。
 戻る列車の途中で車窓からJR四国の予讃本線が見えました。予讃本線は三津〜松山〜伊予市間で伊予鉄道の高浜線・群中線と遠からず平行して走っていますが、予讃本線は単線の上特急が頻発して走っている為普通列車は頻度で伊予鉄道と比べ物にならない感じで昔の国鉄と民鉄の関係を継承しているような感じで中長距離=JR・近郊輸送=伊予鉄と役割分担が出来ている様で、松山都市圏での交通の側面での伊予鉄道の存在の重さを示していると言えます。此れだけの沿線人口が有る上で複線・昼間でも15分毎の頻発運転と言う状況であればJRと言う平行路線が有ろうと伊予鉄道の都市圏鉄道としての地位は不動であると言えるでしょう。

「2」松山のベットタウンを走る横河原線を試乗する。

 最初に乗った高浜線の列車はターミナルの松山市駅をスルーしてそのまま横河原線に直通運転します。直通運転は昭和56年から行われていて車両運用の効率化が目的でしょうが、横河原線〜大手町・古町へのアクセスが良くなるのと同時にターミナルの松山市駅の配線をコンパクト化出来るメリットも有りその効果は大きいと言えます。
 しかし直通運転と言っても乗客はターミナルの松山市駅で入れ替わる様で其れは正月元旦の乗車日でも変わりません。やはり市内線への乗換ポイントの松山市駅の存在は大きい様です。松山市駅から横河原線に入ると此処からは単線になって住宅街の中を縫って行きます。元々松山の外港で有る高浜を結んでいた高浜線に比べると元々軽便鉄道規格で出来て電化が昭和42年と3路線の中で一番最後だった横河原線は地方鉄道の規格として見ると劣っている感じがします。

   
左:[7]松山の郊外を走る横河原線(いよ立花〜福音寺間)  右:[8]久米駅で交換する列車

 その様な横河原線ですが、今では松山市街の拡大に伴い沿線の殆どが住宅地となり郊外線3路線の中で最大の輸送量を誇ります。その様な都市型郊外路線として発展している路線で有る横河原線ですが、今では面影も有りませんが電化までは「坊ちゃん列車」がトボトボと走っていた路線です。其れが電化・改良でこれだけ進化して近代的な路線に変身した事が松山市東部地域の発展に大きく寄与した事は間違いないでしょう。
 横河原線は郊外路線と言う事もあり「幹」としての鉄道と「枝」としてのバス・タクシーとの接続が利便性向上に重要ですが、伊予鉄道の場合鉄道・バス・タクシーが同一事業者で運営されている為特に横河原線ではその接続改善に力を注いでいて、久米・梅本等で鉄道駅にバス・タクシーが乗りいれる事での接続改善を図っていますが、今回は駅舎改修されてループバスが運行されている梅本駅を訪問したかったのですが、時間が無かったのでその手前の久米駅を訪問することにしました。

   
左:[9]久米駅舎と伊予鉄のバス停  右:[10]久米での伊予鉄の鉄道・バス・タクシー接続風景
   
左:[11]久米駅の電車発着案内の液晶画面  右:[12]久米駅のバス発着案内の液晶画面

 久米駅は昭和56年の横河原線〜高浜線直通運転開始に伴う15分間隔運転開始による交換駅化に伴い今の位置に移設され今の駅が作られています。その時に駅周辺の土地が買われた様で駅周辺には伊予鉄道のバス乗り場・タクシー乗り場に加えて伊予鉄道グループの伊予鉄オートのマツダオートザム伊予鉄松山の店が有り拠点になっています。又駅周辺には中層マンションが複数建っていてそれなりの人口集積が有ると同時に、県道334号線・県道40号線の合流点も近くロードサイド店も有りかなり賑やかな状況です。
 久米には伊予鉄道横河原線の他伊予鉄道バスの「市内10番線(約毎時4本)・電車連絡久米窪田線(約毎時2本)・新居浜特急線(約毎時1本以下)・川内線(約毎時2本)」の4路線が走っていますが、久米駅前のバスロータリーには久米駅前が起終点の10番線・久米窪田線の2路線だけが発着しています。(それ以外は路上の久米バス停発着している)
 又駅舎の中には伊予鉄道が導入を進めている「電車・バス総合情報システム」の液晶表示がありました。これは今流行のバスロケーションシステムの一種ですが、電車まで含めて総合的に案内されしかも電車の中でLEDでバスの案内を表示していると言うバス・鉄道がリンクしている極めて珍しいシステムです。これはバスと電車の有機的な結合にとって非常に便利なシステムであると言えます。
 只仕方ない側面が有るとは言え駅舎が基本的に昭和56年に出来た時から変っていない為、駅舎とバス・タクシーのロータリーは隣接している物の半独立しており雨が降ると傘が必要な状況です。又自家用車のキス&ライド用のスペースや駐輪場のスペースが乏しく雑然としている感じです。この辺りは直近に駅舎改修された梅本駅に比べると劣る感じです。ソフトは「」等の高度なシステムを持っているのですからハードも改修したらより価値が上がるでしょう。既に25年経過している駅舎改修を軸に駅周辺の伊予鉄道所有の土地を含めた総合的な施設の再配置を考えても良いのかもしれません。其れは駅周辺に土地を持つ伊予鉄道にとっても駅の改修→副業の商業施設等の配置が可能と言う事に加え駅の利便性向上→保有土地価値の向上と言う形で帰ってくれば色々なメリットが有り悪い話ではないはずです。

 「3」伊予鉄道の「ヘソ」松山市駅を訪問する。

 横河原線久米駅を訪問後、伊予鉄道のターミナルで有る松山市駅を訪問しました。
 松山市駅は元々明治21年に松山〜三津間で開業した伊予鉄道が松山城の城下町を迂回しながらターミナルとして城南に設けた駅であり、国鉄が昭和2年に松山まで延びて来るまでは「松山」駅を名乗り正しく松山の鉄道のターミナルとして君臨した駅でした。その後明治26年に伊予鉄道が高浜線を松山から横河原に延長し横河原線を開業させ、明治29年に今の郡中線を開業させた南予鉄道も藤原と称した物のこの場所にターミナルを作り松山の郊外鉄道のターミナルとして今の基礎が形成されました。その後昭和22年に市内線が乗り入れ・昭和46年の四国初のターミナルデパートとして伊予鉄そごう開業等を経て、今の「松山の交通の中心としてのターミナル」としての伊予鉄道松山市駅が完成します。
 その後平成13年には「優良建築物等整備事業」による伊予鉄そごうの増床工事と駅前広場の完成工事が完成しバス・路面電車・郊外電車が集まる一大ターミナルが出来上がり、同時にターミナル百貨店の伊予鉄高島屋(元伊予鉄そごう)を核に四国唯一の地下街「まつちかタウン」やアーケード街の「銀天街」が集まる四国有数の繁華街となり、長距離列車が主体で松山では存在が薄いJR松山駅に代わり正しく「松山のターミナル」として抜群の存在感を発揮し君臨しています。

   
左:[13]松山市駅の高浜線・郡中線ホーム  右:[14]松山市駅の駅ビルに入る横河原線列車

 先ずターミナルの核となる伊予鉄道松山市駅は高浜線・横河原線・郡中線の3路線が集まっていますが、実際高浜線〜横河原線と言う形で直通運転が行われており、ターミナルの松山市駅で折り返す路線は郡中線だけとなっています。その為2面3線(1番線:高浜線→横河原線方面・2番線:横河原線→高浜線方面・3番線→郡中線折返し)と言う3路線が乗りいれるターミナルの割にはシンプルな廃線となっています。
 又松山市駅上部には覆い被さる様に伊予鉄高島屋ビルがそびえ建ち、その1階に乗り入れている形です。又改札口は1階と地下にありどちらも伊予鉄高島屋に直結しています。駅西口には郡中線用の留置線がありその上部には伊予鉄市駅西駐車場ビルが有り、鉄道敷地を有効に使った総合的ビル建設が行われています。

   
左:[15]松山市駅の駅ビル前に発着する伊予鉄道のバス  右:[16]松山市駅ビル1階に入る伊予鉄高浜線
   
左:[17]伊予鉄道松山市駅地上改札口  右:[18]いよてつ高島屋に直結の伊予鉄道松山市駅地下改札口

 又駅前に眼を転じると広いとは言えない物の駅前広場が整備されていて其処に市内電車と伊予鉄のバス路線が乗り入れていて交通の核となっています。又この駅前広場から松山空港・松山観光港へのリムジンバスも発着しており、松山から本州方面に出るため拠点へのアクセスポイントとも成っています。
 加えて四国最大級の百貨店である伊予鉄高島屋が駅上部に有り、駅前広場・郊外線駅から簡単にアクセスできます。伊予鉄高島屋は約43,000uの百貨店で苦戦しているところが多い地方の百貨店の中で数少ない「優良百貨店」と言える存在であり、平成12年のそごう破綻時に200億円と言う巨額の投資をして増床を行っていながら、そごうの連鎖破綻とも言える悲劇的な結末を迎えた隣県の高松琴平電鉄&コトデンそごうとは異なり「高島屋」と言う全国規模の百貨店をスポンサーに引き込み、「都会の風を地方に吹き込む」松山のNO1百貨店になっています。
 この様に松山市駅は地方では珍しい「JR駅と独立しながら地域の中心拠点としてターミナルを形成している」拠点で有ると言えます。松山市駅の伊予鉄道の施設で足りない物はホテル位で有り、その点を除けば規模の大きい百貨店・鉄道駅・バス乗り場が集中して纏まっていて極めて魅力が高く集客力の有る拠点ターミナルとなっています。地方都市の地方鉄道がターミナルを形成しながら「商業施設も備えた街の核」となっている所はそう多くは有りません。伊予鉄松山市駅に並ぶ地方鉄道のターミナルと言えば遠州鉄道新浜松駅(駅+遠鉄百貨店+駅前バス広場)・静岡鉄道新静岡駅(駅+新静岡センター(百貨店)+新静岡バスターミナル)位でしょう。その点から見ても伊予鉄道松山市駅は「ターミナル形成に成功した駅」と言う事ができるでしょう。

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