「ぷくーー」
なんて擬音を発して椅子に座り、机に張り付いている小毬さん。
顔は正面を向いていて頬を膨らませている。
いつもはお菓子が詰まっているはずのその頬に、
今日は不満を詰め込んでいるのだ。
小毬さんが拗ねるというのは珍しいわけで、
僕としては扱いに困る。






「ふむ」
小毬さんの横に立っていた僕の正面に、
いつの間にか来ヶ谷さんが立っていた。
お互い目を合わせる。
「ぷくーー」
二人で下に目をやる。
小毬さんはまだ膨れている。
もう一度目を合わせる。
来ヶ谷さんが人差し指を立てる。僕もそれに習う。
そして小毬さんの膨らんだ頬を二人で同時に優しく押した。
柔らかな感触とほぼ同時に、
「ぷしゅ」
小毬さんはとがった口から息を吹き出した。




「もぉ〜〜〜っ、わたしホントに怒ってるんだから〜」
ガタンと音を鳴らして立ち上がり、
両手を振り上げて怒ったぞ〜、とアピールし始めた。
全然迫力がないんだけどなぁ。










ばーさす おりえんたる・おぴにおん   








「話を聞こうではないかコマリマックス
 いや、今はオコリマックスかな?」
「来ヶ谷さん、無理して狙わなくていいから」
「さあ、話してみてくれたまえ」
あっさりスルーするし…
「ゆいちゃんはダメな子です」
「だからゆいちゃんはやめろと…
 しかもダメな子扱い…」
小毬さんは来ヶ谷さんの唯一の弱点、天敵というべきかな。
しかもダメな子扱いされてしまったことでへこまされた来ヶ谷さんは、
ふらふらとどこかに行ってしまった。
そしてまた、小毬さんは机に座り顔を伏せてしまった。


「小毬さん、言いすぎじゃないかな」
「そうです、リキの言うとおりです
 口は災いの元と言います。
 ここは謝ったほうが…」
どこからともなくクドも現れて、小毬さんをたしなめる。
「クーちゃんもダメな子だ〜」
今度は顔を伏せたまま言い放つ小毬さん。
「がーん」
わざわざ効果音まで口にして、
解りやすくショックを受けるクド。
「ああ、クドリャフカ君
 ダメだしされたもの同士仲良くやろうではないか…」
再び帰ってきた来ヶ谷さんに固まったまま連れて行かれるクド。
教室を出て数秒したくらいで、
「や、や〜ですっ!
 来ヶ谷さん」
「ふふふ、いいではないか」
なんて会話が聞こえてきた。
廊下のほうへ向かって合掌しておく。




「なんだ…喧嘩か、珍しいな」
いつもの和装にリトルバスターズのジャンパーを羽織るという
あいかわらず謎のスタイルを貫く謙吾も首を突っ込んでくる。
「ああ、謙吾
 喧嘩って言うかなんていうか…」
説明しようとして小毬さんの顔を見ると、
顔を上げた小毬さんは謙吾をじーっと見て。
「宮沢君は半分おっけー
 刑事物のドラマだと半分シロ」
「半分シロって、グレーじゃないんだ…」
「じゃあ半分黒なのかっ!?
 俺は○カイダーなのかっ!?」
走り去りながら叫ぶ謙吾。
あれは赤と黒じゃない?
とツッコミを入れようとしたが遅かったか。
というかもうすぐ授業始まるんだけどどこに行ったんだろう。



困った。
打つ手もないし、そもそもなんで拗ねてるかわからない。
「どうしよう?」
「どうにかしてみましょう」
「……突然後ろに現れるのやめてくれないかな、西園さん」
声の主に文句を言いつつ振り向くと、
西園さんが古そうな本を胸に抱えて持っていた。
「ショック療法などはいかがでしょう」
「ショック療法って、拗ねてるのに関係あるの」
「さっきまでの神北さんの反応を見ていて気づきました
 ここはショック療法です…これをどうぞ」
抱えていた本を差し出す。
よく見ると紐閉じになっている。
おずおずと受け取った小毬さんは、
「…てやっ」
掛け声と共にそれを開いて、
「はうぁっ!」
撃沈した。
「ちょっと、何見せたのさ」
「春が理解できるような本です」
小毬さんの手から本を回収する西園さん。
「では、失礼します」
頭を下げて去っていく。
それと同時に本鈴がなった。
「小毬さん、放課後にね」
突っ伏した頭の、色素の薄い髪に隠れた耳に囁く。
ほんの少し、かろうじてわかる程度に頭を動かす小毬さん。
僕はそれを肯定のサインと受け取って席に戻った。






/







放課後、
小毬さんと僕は屋上に上がって話をしていた。
「おじいちゃんたら、ひどいんだよ〜」
いつもより多めにお菓子を持ち込み、
ぷりぷりと拗ねながら食べ続けている。
そういえば小毬さんは昨日、小次郎さんのところに行ったんだった。
「拗ね…じゃなくて、怒ってるのは小次郎さんのせい?」
「そうだよ、おじいさんたらね〜
 『結婚は当然神前式じゃなっ』
 なんていうんだよ〜」
たぶん小次郎さんの真似をしたつもりなんだけどあんまり似てない。
「それでなんで怒るの」
「え〜、結婚といえばウェディングドレスだよ」
ああ、なるほど。
それで休み時間にみんなにダメだしをしていたわけだ。
クドは日本的な文化が結構好きだし、
謙吾は剣道着を着てる。
半分おっけーていうのはジャンパーを羽織っていたからだ。
要するに和風なものに反応していたんだろう。
でも、西園さんは何を見せたのか解らないから(というか理解したくない)
ともかく、来ヶ谷さんはどういった理由だろう。
それを小毬さんに尋ねると
「なんかゆいちゃんって、日本刀もってそうなイメージ」
という答えが返ってきた。
その物騒なイメージはどこから来たんだろう。




「ウエディングドレスは女の子の憧れなんだよ〜
 私も結婚式では絶対着るって決めてるの〜」
どうやら小毬さんの中ではすでに結婚式のイメージが固まっているらしい。
まるで過去の楽しかった出来事を思い出すように、
よく晴れた空を見ながら話しかけてくる。
場所は小さな教会でとか、式にはみんなも呼びたいとか。
きっと大騒ぎになるだろうから、花火なんかの持込は禁止にしようとか。



本当に幸せそうに話す小毬さんを見て僕は思った。
あの頑固なおじいさんを説き伏せるのはきっと僕の役目なんだろう。
役は大役。
役者不足にならないためにも対処方法を後で考えておこう。
でも今は、
「理樹君っ、聞いてる」
「聞いてるよ」
このお姫様に、
その時隣に立っている男性の理想像を聞いてみようと思う。
少しでも近づけるように……













 












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