概論



INHALTSVERZEICHNIS


「アニメーション監督 原恵一」より

スペインの言語とは

バスク語とは

ポルトガル語の“シンシャン”

スペイン版の「ブリブリ」と「ぞうさん」

スペイン編で扱う言語について







「アニメーション監督 原恵一」より

クレヨンしんちゃんは2006年現在、約35カ国で紹介されているとの事ですが、その中でもスペインでの人気が特に高いということは、日本でも2003年8月23日放送のテレビアニメでも紹介された事もあり、広く知られるようになっているかと思われます。
スペインでのクレヨンしんちゃんは、クレヨンが抜けて単に「Shin chan」というタイトルで紹介されています。

2005年7月、「アニメーション監督 原恵一」という本が晶文社より発行されました。読まれた方はご存知だと思いますが、同書には「スペインを揺るがすクレヨンしんちゃんブーム」というタイトルで、金関あさ氏によるスペインにおけるクレしんの事情が紹介されています。非常に詳しいものなので、その内容をここに要約したいと思います。

クレヨンしんちゃんがスペインで紹介されたのは、1996年に単行本が、プラネタ社という出版社より(スペイン語ではなく)、カタルーニャ地方にてカタルーニャ語(スペインの言語については後述)で発売されたというのが最初です。

当初の売れ行きは不振だったものの、2001年4月にテレビアニメがスペインで放送されると、人気が上昇し、単行本の売れ行きも伸びるようになります。テレビアニメがカタルーニャ地方からスペイン各地で放映されると、単行本もスペイン語訳が出版され、その部数は、2004年10月15日に双葉社のデータによると、124万部(カタルーニャ語版72万部、スペイン語版52万部)との事です。なお、当時ドイツは4万4千部、アメリカは4万部、フランスとイタリアは未発売だったとの事ですから、他の欧米諸国に比べても、いかに人気が高いかが窺えます。

テレビシリーズはスペイン各地でカタルーニャ語に続き、スペイン語、バスク語、ガリシア語、バレンシア語に訳され、各州のローカルテレビで放映されるようになり、子供だけでなく若者にも大きな人気を博すようになります。

2002年12月のデータでは、12歳から18歳の視聴率は42%、13歳から24歳では31.9%で、サッカーのチャンピオンズリーグでバルセロナのチームの試合の視聴率までもを上回ったというのです。

2003年には、「暗黒タマタマ大追跡」が、スペインでクレヨンしんちゃんの劇場版では初めて公開され(劇場版作品についての詳細は、「劇場版についての概論」にて)、各地で試写会が催されたのですが、バルセロナでのカタルーニャ語版の試写会では原恵一監督が舞台挨拶に招かれたとの事です。

「暗黒タマタマ」が封切られたのはちょうど夏休みが始まった最初の週末で、スペイン全土で計179本のフィルムが配給されし、長編映画ランキングの第3位となりました。

なお、カタルーニャ地方の映画館では、通常スペイン語の吹き替え版をいくつかの映画館が使用するのですが、この「暗黒タマタマ」は68の映画館全てでカタルーニャ語の吹き替え版が使用され、これはカタルーニャ映画史上最多記録となったそうです。

さらに、「暗黒タマタマ」のビデオ・DVDの販売数は2002年12月末日の時点で、20万本にのぼりました。さらに、関連グッズも50社以上から約500種類の商品が販売されているとの事です。

そして、スペインの業界紙関係者6000千人による投票で、キャラクタービジネスの専門誌、「ライセンス・アクチュアリダッド」で、スパーダーマンを抜いて2003年度の「最優秀エンターテイメントキャラクター賞」を受賞しました。日本のキャラクターでは初めての受賞だそうです。

その一方で批判も多く、各放送局では抗議が殺到しているといいます。子供がしんちゃんのマネをするという親からの苦情が多く、またみさえのヒステリックな言動にも批判が多いそうです。

スペイン社会労働党(PSOE)は、マドリッドのテレビ局テレビマドリッドに対し、子供への悪影響の懸念から13時の放送を22時以降にするよう申し入れました。テレビマドリッドはこれを拒否していますが、同様の論争が起こったバレンシアでは放送が中止になってしまったそうです。

また、スペインで初めて放送を行ったカタルーニャテレビは、クレしんが子供用の番組ではないという判断により、放送時間を変更しています。ただし、この変更は苦情よりも、大学生を中心としたファン層から自分達の鑑賞できる時間に放送してほしいという要望によるものだと言われています。

スペインで紹介された日本のマンガ、アニメは公用語が同じスペイン語の中南米にも紹介される事が多いため、スペインで何らかの規制がかけられば、その影響が中南米にも及ぶという懸念の声も聞かれます。

金関あさ氏の紹介によると、スペインではかつて(今でも?)日本で見られた現象が、日本以上に過激に起こっていると言えます。様々な意見や評価がありますが、今後もクレしんがスペインに大きな影響を及ぼしていくことでしょう。




スペインの言語とは

スペインの公用語は何かと言うと、言うまでもスペイン語で、スペイン語ではエスパニョール(español)と言います。ただし、スペイン語はカスティーリャ語(スペイン語でカステリャーノ(castellano))という別名もあり、スペイン版のクレしんのDVDでは、こちら名称が使用されています。

カスティーリャというのは、スペイン中部、北部にまたがる地方の名前です。この地域には、中世の時代にカスティーリャ王国という国が存在しており、元々この国で話されていた言語が現代スペイン語の元となったのです。これが、カスティーリャ語という名称が現在に至るまで使用されている理由です。

しかし、スペインに存在する言語はスペイン語だけではありません。そもそもスペインという国は、17の自治州から構成される王国で、州によってはその地域で話されている別の言語が存在しているのです。そして、それらの言語は、現在スペインの地方公用語として認められており、スペイン語と同等の地位を持っています。

例えば、バルセロナのあるカタルーニャ州ではカタルーニャ語(català)(カタルニア語とも)が公用語で、管理人は2006年2月にバルセロナを訪れていますが、バルセロナでの看板等は、スペイン語とカタルーニャ語が併記されており、また州の施設などは、スペインの国旗とカタルーニャ州の州旗が両方掲げられていました。

スペインの地方公用語はカタルーニャ語の他に、バスク語(euskara)、ガリシア語(galego)があります。これらの言語がどの地域で話されているかは、以下の地図でご覧ください。

赤文字が国名、黒文字が都市名です。

まず、フランス及びアンドラ国境に接する、黄色の@の地域はカタルーニャ州で、公用語はカタルーニャ語です。カタルーニャ語は、カタルーニャ州だけでなく、フランスやイタリアにも話者が存在します。なお、このカタルーニャ州の州都がバルセロナで、「オーラッ! スペイン旅行だゾ」(2004年5月29日放送)でしんちゃん達が訪れたのも、このバルセロナです。

次に、北部の緑色のAの地域は、バスク国という自治州で、公用語はバスク語です。なお、バスク語はこの東部のナバラ州及び、さらに東のフランス国境をまたがるピレネー山脈の地域も、公用語として話されています。つまり、フランスにも話者がいるわけです。

ポルトガルの北に位置する、水色のBの地域はガリシア州で、公用語はガリシア語です。このガリシア語語は、ポルトガルに近いせいか、スペイン語よりもむしろポルトガル語に類似しています。

カタルーニャ州の南の、濃いピンクのC地域はバレンシア州で、ここではスペイン語の他バレンシア語という言語が話されており、バレンシア語のしんちゃんも放映されているそうですが、このバレンシア語はカタルーニャ語の方言とされており、正式な地方公用語ではないようです。

スペインには、以上のような地方公用語が存在するため、スペイン版のDVDも、各言語での吹き替え版が収録されています。DVDのパッケージ自体は、スペイン語で表記されていますが、DVDを再生すると、スペイン語、カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語、そしてDVDによってはポルトガル語(português)の5つの言語のどれで再生させるかという、言語選択の項目が表れます。

なお、ポルトガル語版も収録されている事ですが、管理人が現在(2006年7月)所有しているスペイン版のDVDは、「暗黒タマタマ大追跡」、「アクション仮面vsハイグレ魔王」、「電撃!ブタのヒヅメ大作戦」、「ブリブリ王国の秘宝」、「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」の計5枚ですが、「暗黒タマタマ」以外の4枚全てに、ポルトガル語版も収録されています。つまり、「暗黒タマタマ」のみが4つの言語で、それ以外が5つの言語で再生可能というわけです。

これはどういう事かと言うと、ポルトガル語がスペインの公用語として認められているわけではありませんが、スペインとポルトガルは歴史的に非常に密接な関係を持っており、両言語も似通っています。こういった事情から、ポルトガル人やポルトガル語の話者にも意識したものになっているのだろうと思われます。




バスク語とは

スペインの地方公用語の一つ、バスク語について、少し詳しく書いておこうと思います。というのは、バスク語は他のスペインの公用語、ひいてはヨーロッパの言語の中でも極めて独特な言語だからです。

スペイン語、カタルーニャ語、ガリシア語、そしてポルトガル語の4言語は、全てインド・ヨーロッパ語族のイタリック語派はロマンス語群に属します。ロマンス語群というのは、俗ラテン語(文語ではなく口語のラテン語)から派生した言語の総称です。

ロマンス語群は東部ロマンス語、中部ロマンス語、西部ロマンス語の3つに分けられ、東部ロマンス語にはルーマニア語、モルドバ語などが、中部ロマンス語にはフランス語、イタリア語、カタルーニャ語、バレンシア語、レト・ロマン語などが、西部ロマンス語にはスペイン語、ガリシア語、ポルトガル語などがあります。バスク語は、このロマンス語群には属さないばかりか、インド・ヨーロッパ語族にも属しません。

インド・ヨーロッパ語族という言語群は、印欧祖語という一つの言語から派生していったものだと言われ、名前の通り、インドやその周辺の言語から(ヒンディー語、ペルシア語など)からヨーロッパのそれまで幅広い範囲に及びます。

ただし、ヨーロッパの言語はインド・ヨーロッパ語族に属するものだけでなく、例えばフィンランド語やハンガリー語など、フィン・ウゴル語族というまた別の言語群に属する言語も存在しますが、バスク語はフィン・ウゴル語族にも属しません(ただし、バスク語の言語の形態はこれらのフィン・ウゴル語族と同じ膠着語だとされています。なお、インド・ヨーロッパ語族の諸言語の大体は屈折語に属します)。

では、バスク語がどの言語群に属するかと言うと、どこにも属さない、言語系統が不明の孤立した言語というのが正解です。元々、バスク語を話すバスク人が、インド・ヨーロッパ語族の民族がヨーロッパに入ってくる以前からヨーロッパにいたとされ、インド・ヨーロッパ語族とは起源が全く異なるのです。まさに、ヨーロッパに残された古代言語の一つだともいえるのです。

ただし、バスク語は南コーカサス語族(グルジア語、メグレル語など)に属するという説が唱えられた事があります。これは、バスク語と南コーカサス語族の言語に、能格など共通する文法的特徴が大きく挙げられるからです(能格については後述)。しかし、この互いの言語には、(同じ系統の言語ならば必ず一致する)音法則的な語等式が大きくかけ離れており、やはりバスク語は孤立した言語であるのが言語学上の一般的な見解です。

バスク語がスペイン周辺の他の言語とどれだけかけ離れているか、具体例を挙げようと思います。

次回の「劇場版についての概論」で詳しく述べますが、「嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」のスペイン語のタイトルは、“El pequeño samurái” (エ ペケーニョ サムライ)と言います。これは、英語に訳すと“The little samurai”、つまり「小さな侍」という意味で、しんちゃんを指しているのだと思われます。

スペイン版のDVDでこの“El pequeño samurái”は、各言語では以下のように訳されています。

スペイン語 El pequeño samurái (エ ペケーニョ サムライ)
カタルーニャ語 El petit samurai (ア パティットゥ サムライ)
バスク語 Samurai txikia (サムライ チキア)
ガリシア語 O pequeno samurai (オ ペケノ サムライ)
ポルトガル語 O pequneno samurai (オ ペケノ サムライ)

まず、バスク語以外の言語の文法を見て行きますと、最初の“El”や“O”は英語の“The”に当たる、定冠詞です。その次には「小さな」を意味する語が来て、最後は「サムライ」が来るという語順です。

これに対し、バスク語は全く逆で、しかも語彙も全く類似性が見られません。“txikia”の“txiki”は、バスク語で「小さな」を意味し、最後の“a”はバスク語の定冠詞に当たります。バスク語の場合、名詞-形容詞-定冠詞という順番で表現されるのです。

ただし、スペイン語やポルトガル語、またはフランス語など、ロマンス語群の多くの言語も、バスク語と同様、形容詞は後置になるのが通常で、例えばモロッコの都市名でもある「カサブランカ(Casabranca)」は、スペイン語で「白い家」という意味です。“casa”が「白」、“blanca”が「家」ということです。

しかし、上記の「小さな侍」の例からでも、スペイン語などは形容詞が前置になることも決してゼロではなく、一方でバスク語の場合はほとんど全て、形容詞が後置となり、定冠詞の“a”がその形容詞に接尾されます。なお、バスク語の定冠詞は“a”のみで、使用頻度は非常に高いです。また、“a”で終わっている語には付きません。

なお、参考までに「小さな侍」のフランス語とドイツ語の訳を載せておきます(フランスやドイツでは、「戦国大合戦」は紹介されていないでしょうが)。ドイツ語は英語と同様、ゲルマン語派に属し、ロマンス諸語と異なりますが、同じインド・ヨーロッパ語族ではあるため、全く違うという事はありません。語順や文法は、上記のスペイン語などと同じです。

フランス語 Le petit samouraï (ル プティ サムライ)
ドイツ語 Der kleine Samurai (デ クライネ サムライ)

※“Samurai”を厳密にドイツ語式で発音すると「ザムライ」となってしまいますが、便宜上「サムライ」という発音になっています。

さて、バスク語の文字と文法を詳しく見ていこうと思います。バスク語で使用する文字についてですが、アルファベットの26文字のうち、C,Q,V,W,Yは使用しません。使用するとすれば外来語のみです(CDなど)が、Cの部分はKで、VはBで代用される事も多いです(copyをkopiaと、videoをbideoと表記するなど)。また、ñ(ニャ ニ ニュ ニェ ニョの発音をします)という文字も使用し、これはスペイン語やガリシア語と共通しています。

また、バスク語は語順が一部日本語と共通している部分があります。例えば、バスク語で「オラ、野原しんのすけだゾ(私は野原しんのすけです)」と言う場合、“Ni Shinnosuke Nohara naiz.”(ニ シンノスケ ノハラ ナイ)と言い、“Ni”が「私は」、“naiz”は一人称単数の(英語で言うところの)be動詞に当たります(なお、be動詞の原型は、“izan”(イサン))。

しかし疑問形の場合は、日本語よりもスペイン語や英語に類似します。「あんた誰?(あなたは誰ですか?)」をバスク語にすると、“Nor zara zu?”(ノ サラ ス)となり、“Nor”が「誰」、“zara”が二人称単数敬称のbe動詞、“zu”が「あなたは」 になります。

さて、バスク語の大きな文法的特徴の一つに、能格があります。能格というのは、名詞の格変化の一つで、目的語と他動詞に付く主語に対して起こるものです。具体的には能格の名詞には後ろに“k”が付きます。例を挙げると、以下の文章で上は主語に何も格変化が起こっていない(何も付かない名詞は主格、または中立格と言います)文章、下が能格構文の文章です。

Ni haurtegi joaten naiz.(ニ アウテギ ヨアテン ナイ)(オラは幼稚園に行くゾ(私は幼稚園に行きます))

Nik aita maite dut.(ニ アイタ マイテ ドゥトゥ)(オラ、父ちゃんを愛してるゾ(私は父を愛しています))

一応、単語の説明をしますと、“haurtegi”が「幼稚園」、“joaten naiz”が「行く」の一人称単数の現在形で表したものです。なお、先ほど“naiz”をbe動詞と書きましたが、あくまで便宜上そうしたのであり、英語のbe動詞とは、用途が大きく異なります。“aita”は「父」、“maite dut”は「愛する」の一人称単数の現在形で表したものです。

上の文章は、動詞が自動詞であるため、主語も何も変化がありません。そして、下の文章ですが、他動詞と目的語があるため、主語の“Ni”に“k”が付いて“Nik”となっています。また、“naiz”のところは“dut”という、別の語にかわっています。この語の原型は、“ukan”というものです。こういうところからでも、英語などとは大きく異なる言語だという事が分かります。

バスク語には、能格の他にも様々な格変化の法則が存在しますが、ここでは省略します。今後、スペイン版のクレしんの解説で取り上げていこうと思います。

また、発音について書いておきますと、バスク語は基本的にローマ字どおりに読む事ができますが、スペイン語やフランス語と同様、Hの発音はしません。そのため、例えばひまわりは「イマワリ」と発音します。ただし、この法則が当てはまるのはスペイン圏のバスク語で、フランス圏のバスク語ではHの発音をします。クレしんはスペインで人気があるという事ですから、スペイン版では前者の法則になります。

ただし、DVDではどういうわけか、「野原」という部分は「ノハラ」と、つまりHの発音をしているわけです。日本版に忠実な発音にしようという意図が存在していたのかもしれません。

他にも、JはYの発音(ヤ イ ユ イェ ヨ)を、ZはSの発音(サ シ ス セ ソ)を、XはSH(シャ シ シュ シェ ショ)の発音をするといった特徴があります(ただし、例外もあるらしく、例えば「日本」をバスク語に訳すと“Japonia”となり、これは「ヤポニア」ではなく「ジャポニア」と発音するようです)。また、Lは前にIが来る場合、Y(ヤ イ ユ イェ ヨ)に近い発音になります。例えば、BILA(意味は「捜索」)という語は、ビラではなくビヤと発音するという具合です。

バスク語は、スペイン語やフランス語などとは大きく異なる独特の言語であり、バスク地方も独特の文化が存在する事からか、バスク語圏はスペインからの独立運動も盛んな地域でもあります。その中でも急進的な独立運動組織であるETA(Euskadi Ta Askatasuna、バスク祖国と自由)は数々のテロ事件を起こし、スペインにとって大きな政治問題になっている事は有名です。

もっとも、クレしんのスペイン版で、そのような独立運動やテロのような物騒な話題に触れる事はほとんど無いかと思いますが。




ポルトガル語の“シンシャン”

スペインの言語とはで、ポルトガル語の吹き替え版が収録されているDVDがあると書きましたが、ポルトガル語版のクレしんは、キャラクターの名前が日本のそれとは大きく異なります。

まず、野原しんのすけですが、言うまでも無くこのキャラクターには「しんのすけ」と「しんちゃん」という二つの呼び方があり、前者は本名、後者は愛称です。しかし、ポルトガル語版では、「しんのすけ」という言葉は出てきません。全て「しんちゃん」ならぬ「シンシャン」で統一されています。

「シンシャン」とは、ポルトガル語での“Shinchan”の発音です。ポルトガル語はCHをSH(シャ シ シュ シェ ショ)で発音するためです。なお、この発音の法則はフランス語にも当てはまります。

そのため、例えばみさえや風間君が「しんのすけー!」と怒鳴るシーンも、全て「シンシャーン!」となっています。また、しんちゃんが自己紹介する場面でも、「野原しんのすけ」の部分は「シンシャン ノハラ」(ポルトガル語もスペイン語、フランス語などと同様にHの発音はしないのですが、なぜか「野原」の部分ではしています)と訳されています。

念のため書いておきますが、他の言語は全て日本版と同様に「しんのすけ」と「しんちゃん」は使い分けられています。また、他のキャラクターの名前もほぼ日本版と同じものです。実は、ポルトガル語版では、他のキャラクターの名前も変更されています。

以下が、ポルトガル語版での主要なキャラクターの名前です。なお、カッコ内のカタカナは発音を示していますが、ポルトガル語の発音の原則にそぐわないところもあります。しかし、ポルトガル語版での発音をそのまま表記したものです。

日本語版 ポルトガル語版
みさえ Mitsy (ミスティー)
ひろし Harry (ハリー)
ひまわり Daisy (ダイズィー)
シロ Lucky (ルッキー)
風間トオル Toru Cosmo (トオル コズモ)
桜田ネネ Nini Sakurada (ニニ サクラダ)
マサオ Max (マックス)
よしなが先生 Miss Dori (ミス ドリー)
まつざか先生 Miss Uma (ミス ウマ)

よしなが先生とまつざか先生は、英語の「ミス〜」と呼ばれていますが、ポルトガル語で「ミス」に当たる語(未婚女性の敬称)には、Senhorita(セニョリータ)があります。なせ、英語の方で呼ばれているのかは不明ですが、実はこれらキャラクターの別名は、ポルトガル語版だけでなく、フランス版とアメリカ版でも共通しています。もしかしたら、英語版をそのまま借用したためなのかもしれません。

つまり、(スペインの)ポルトガル語版、フランス版、アメリカ版では「しんのすけ」は使わず「シンシャン(英語ではシンチャン)」に統一し、他の主要キャラクターの名前も、上記のものに変えているのです。なお、なぜこのように変更されているのかは不明です。考えられるとすれば、現地の人に馴染みやすい名前だからなのかもしれません。




スペイン版の「ブリブリ」と「ぞうさん」

しんちゃんの得意技を二つ挙げるとするならば、ケツだけ星人とぞうさんだというのに異論は無いと思います。そして、ケツだけ星人は「ぶりぶり」、ぞうさんは「ぞうさん、ぞうさん」という声を出しています。

では、「ぶりぶり」と「ぞうさん、ぞうさん」は、スペイン版ではどのように発音しているのかと言うと、各言語によって異なります。以下が、その発音になります。上が「ぶりぶり」、下が「ぞうさん、ぞうさん」です。

スペイン語 culito,culito (または) culete,culete
trompa,trompa
カタルーニャ語 culet,culet
trompa,trompa
バスク語 ipurdi-ipurdi
tronpa,tronpa
ガリシア語 cuiño,cuiño
trompa,trompa
ポルトガル語 (不明)

まず、スペイン語での「ぶりぶり」はculito,culito (クリトゥ クリトゥ) 、または、culete,culete(クレテ クレテ)で、「ぞうさん、ぞうさん」はtrompa,trompa(トゥロンパ、トゥロンパ)です。

culitoやculeteがどういう意味かは分かりませんが(辞書にも載っていません)、trompaというのは、「象の鼻」という意味です。そして、このtrompaを英語に置き換えると(直訳すると)、trumpet、つまりトランペットになります。実は、スペイン語のtrompaには象の鼻だけでなく、トランペットという意味も含まれているのです。確かに、トランペットは象の鼻に似ていなくもないですね。


(以下、2013年7月20日加筆)

2013年7月17日、、スペインの『クレヨンしんちゃん』のファンの方から、"culete"と"culito"の意味についてメールで情報提供をいただきました。

メールは英文でして、以下に"culete"と"culito"の意味を解説したメールの一部を私の日本語訳(逐語訳ではありません)と一緒に紹介します。


I can inform you that "culete" and "culito" are the diminutive forms of "culo", which means "ass" or "butt". (Same in catalan, with "culet" --> "cul").

情報提供をしますと、"culete"と"culito"は、"ass"もしくは"butt"を意味する指小辞のついた語です(カタルーニャ語の"culet"なども同様)。


以上がメールの引用と日本語訳となりますが、"ass"と"butt"は英語で「尻」を意味する俗語で、日本で言う「ケツ」のニュアンスでして、"ass"の方がより下品な語のようです。

指小辞(diminutive forms)とは、「小ささや親愛感などを意味する接辞のついた語、またはその接尾辞」(『ランダムハウス英和大辞典 第2版』(小学館)より)とのことで、例としては"Tommy"、"Dolly"、"Booklet"、"birdie"などがあります。これで、"culete"と"culito"の意味が理解できました。

また、この方からはさらにスペインにおける『クレヨンしんちゃん』のテレビアニメについて、興味深い情報をいただきました。以下にそのメールの一部と私の日本語訳を載せます。


This summer they are broadcasting for the first time in Spain the Shin-men episodes (and we have arrived until 765, ネネちゃんちでお泊まり会だゾ), and we are very happy to see that Shin Chan is still popular here in Spain .

今年の夏、スペインで『クレヨンしんちゃん』のテレビアニメが放映されていまして(スペインでは765話の「ネネちゃんちでお泊まり会だゾ」まで放映済みです)、『しんちゃん』が今でもスペインで非常に人気がある様子を目の当たりにしますと、非常に嬉しいです。


以上がメールの引用と日本語訳となります。「ネネちゃんちでお泊まり会だゾ」は、日本では2012年3月23日で放映されており、日本より1年4ヶ月ほど遅れての放送となります。今でもスペインでは『クレヨンしんちゃん』の人気を保っており、この状況であれば日本で放映された話がスペインでもすぐに放映されるという日は遠くないでしょう。

情報提供をしてくださったスペインのファンの方、ありがとうございました。

(以上が加筆分)


カタルーニャ語での「ぶりぶり」はculet,culet(クレクレ) で、日本ではスペイン語よりもむしろ(最初にスペインで翻訳された)カタルーニャ語のculet,culetの方が有名かもしれません。「ぞうさん、ぞうさん」はtrompa,trompa(トゥロンパ、トゥロンパ)で、スペイン語と同じです。

バスク語は、他の言語とは全く異なるため、「ぶりぶり」もまったく別のものとなっています。ipurdi-ipurdi(イプディ、イプディ)というもので、これはお尻を意味します。「ぞうさん、ぞうさん」はtronpa,tronpa(トゥロンパ、トゥロンパ)で、スペルは一部異なる(mがnに)ものの、同じ意味だと考えて良いでしょう。なお、バスク語でトランペットはtronpeta、象はelefante、鼻はsudurとなります。

ガリシア語では、「ぶりぶり」は cuiño,cuiño(クイニョクイニョ) 、「ぞうさん、ぞうさん」はtrompa,trompa(トゥロンパ、トゥロンパ)となります。trompaはスペイン語、カタルーニャ語と全く同じですが、cuiñoはやや異なります。

ポルトガル語ですが、「ぶりぶり」と「ぞうさん」ともに不明です。ポルトガル語版でしんちゃんが両者を行うシーンでも、何を言っているのかは分かりません。ただ、意味の無い叫びをしているという感じです。その叫びがどういう意味で、どう表記されるのかも、残念ながら分かりません。




スペイン編で扱う言語について

スペイン版のクレしんは、4つないしは5つの言語(スペイン語、カタルーニャ語、バスク語、ガリシア語、ポルトガル語)で吹きかえられていることは前述しましたが(スペインの言語とは参照)、全ての言語を扱うつもりはありませんし、第一管理人だけの能力ではほとんど不可能です。

従って、このスペイン編においては、主にスペイン語を取り扱うつもりでいます。またバスク語も、その言語の独自性からの管理人の個人的な関心により、いくらか扱っていこうと思います。つまり、スペイン語を中心に、バスク語もある程度は扱うつもりです。

カタルーニャ語、ガリシア語、ポルトガル語に関しては、管理人がこれらの言語の資料(文法書や辞書など)を全くと言って良いほど所有していないため、タイトルや登場人物名以外で扱うことはほとんどありませんので、ご了承ください。





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