門倉有希『鬼百合』


09/04/14
 門倉有希の『鬼百合』は、煩悩が渦巻く心の深層を、鋭くえぐった女歌。
 ねたみ、ひがみは、表面上はオドロオドロしく複雑に思えても、意外と単純で純粋な心理に起因していたりするもの・・・そんな女の心を門倉有希がハスキーボイスで、唄いつづった作品。


 〔鬼百合〕は、夏の盛りに咲く野の花。
 濃いオレンジに黒い斑点がある大きな花びらは強く反り返り、めしべ、おしべは長く無造作に突き出て、美しい花とは言いがたく、赤鬼を連想させることからその名がついた。


 この歌の主人公は、女同士の仲で勝気にふるまったり、うそぶいてみたり、しだいに自ら悪役に染まっていることに気付いている女。
 モテない自分を醜い〔鬼百合〕に例えて卑下しながら、本当の自分を誰にも分かってもらえない、やりきれなさで心が疲弊している。


 この辺の主人公の〔なげき〕を、女性ならではのタッチで一人語りに仕立てた作詞は、田久保真見。
 彼女は、Jポップ、アニメ、演歌、歌謡曲までこなすボーダレスな作詞家として注目され、昨年あたりから演歌での起用が増えている。


 作曲は杉本眞人で、『吾亦紅』の世界にも似たマイナーな調べで、16音符を主体にとつとつと語らせる音運びをしている。
 『鬼百合』で光るのは、笛吹利明の編曲。
 彼は、スタジオミュージシャンとしてアコースティックギターの名手でもあり、これまで長渕剛や松山千春のライブツアーにも同行しているが、あくまでもサブに徹したスタイル。
 今作では素朴で鮮明な音を編み、彼が奏でるフォークギターの音色は、聴きもの。


 かつて、門倉有希がデビュー前に全国500店のレコード店で唄った頑張りは、高校時代に野球部の女性マネージャーとして甲子園へ臨んだ経験で培ったひたむきさからだろうか。
 あれから年月は流れ・・・『鬼百合』は彼女のデビュー15周年記念曲。
 哀しい歌が多いが、「ジャンルを越えて好きな歌を唄い続けていきたい。これからは幸せな歌も唄いたい」と、節目を迎えて、なお歌への意欲は旺盛だ。


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