水田竜子『風の宿』


09/01/06
 水田竜子の『風の宿』は、恋の未練を抱えた女が、かつて男と来た佐渡を一人で訪れ、その風情に触れるうちに癒されて、出直す覚悟で島を後にする旅を唄っている。
 水田竜子の鼻にかかる硬質トーンの唄声が、主人公のそぞろな心を決意に変えるまでをうまく描き出した、ご当地ソングの叙情演歌。


『北山崎』、『角館哀歌』、『紅花の宿』の〔みちのくシリーズ〕を終え、今作からは同じ東北でもステージを変えた。
 前作『紅花の宿』の好感触を受け、作詞が水木れいじ、作曲が水森英夫、編曲は前田俊明という、同シリーズから続く不動のメンバーで臨んでいる。


 佐渡が歴史上で注目されたのは、徳川家康が幕府の天領にして佐渡金山の開発を進めてからで、それまでは、伊豆や隠岐と並ぶ様々な階級の者の流刑地として定められていた。
 都からの流人が貴族の文化をもたらし、金山が栄えてからは江戸の役人が武家文化を、さらに船運で船乗りや商人が町人文化を持ち込み、これらが混じって本土の新潟とは異なる特有の風土ができた。


 『風の宿』は、島内でも温暖でかつて国府があった真野、断崖や岩礁の景観美を見せる大佐渡の尖閣湾、江戸期に金の積み出しや北前船の寄港でにぎわった小佐渡の小木、明治から新潟航路で佐渡の表玄関として繁華になった両津・・・そんな色合いを持つ場所に、主人公が立ち寄りながら、悲観に暮れる心を徐々に出直す覚悟に切り替えていく展開。


 この作品の聴き所は、歌詩の場面転換と中盤からのメロディー。
 サビの ♪まして理由(わけ)ある旅だから♪ と盛り上げ、続いて ♪沖のカモメよ もう泣かないで♪ と小さく弾み、 ♪逢いたさ たちきる風の宿♪ と一気にせり上げて唄いおさめる一連の流れがいい。


 発売して数ヶ月後にテレビやラジオで作品を聴くと、いいとこ取りで編集したCDの唄声より、さらにパワーアップしていたり、味わい深くなっていたりすることがある。
 ヒットには、歌手を浮揚させる作品との出会いも大切だが、その作品を熟成させる腕と執念も必要だと思わされる。
 16年目の水田竜子が唄う『風の宿』は、ぜひ熟成させてほしい一曲。
 カップリング曲『雪迎え』も好楽曲だ。


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