小説で読む政治学


普通の教科書では、なんとなく中学や高校の勉強の延長のようで、やる気がでない!
という人もいるのではないでしょうか。
そういう人には、例えば、小説なんてどうでしょう?
最近は、政治や政治学を素材にしながら、いろいろ考えさせてくれるような良質の本が
いくつか出てきています。
ここでは、そんな本を紹介してみることにしましょう。

♪ 官邸
    成田憲彦 著
    講談社 上下巻各2000円+税
 『日本国債』の所で「政治家が物語の主人公になることがないのは・・・」なんて書いていたら、出ました、政治家が主人公の小説。1993年の政権交代により細川護熙内閣が誕生しましたが、その細川内閣を舞台に日本政治の「最奥」を描いています。
 なんといっても、執筆者の成田憲彦駿河台大学法学部長(2002年1月現在)が、細川内閣当時の総理秘書官の一人(政務秘書官)ということで、あちらこちらに虚(?)実(?)入り乱れたインパクトある記述がちりばめられています。宗像芳顯として登場の細川護熙首相、羽根毅(羽田務)外相、財部一郎(小沢一郎)、竹中昇(竹下登)、と登場人物の実名も容易に想像でき、フィクションなのを忘れてしまいそうです。
 もっとも、記述が具体的な分、「小説」としては難しいということもあるかも。ややおもしろめの教科書と思ったほうが良いのかな。選挙制度改革問題をフィクションとして消費税問題に置き換えたということもその一因かもしれません。それでも、細川総理と橋本自民党政調会長の対決を模した「第一委員会室の決闘」や、後々の自社さ連立内閣登場を擬する「首相、解散を決断」など、迫力十分な章も。読み終わった後には、充実感が味わえますよ。

♪ 選挙参謀
    関口哲平 著
    角川書店 1500円+税
 政治学原論などという講座をやっているとどうしても抽象的な話が多くなってしまいますが、私達にとって一番身近で政治の花形というべきものは、やはり選挙。この小説は、神奈川県にある架空の海沿いの市での市長選挙を舞台として、選挙の指揮をとる「選挙参謀」がどのように虚実入り混じった選挙戦を展開するのかをスリリングに描いています。それにしても、タレントに「プロデューサー」が必要なように、今では政治家にも「選挙プロデューサー」が必要なんですね。著者自身、野末陳平やアントニオ猪木の選挙プロデューサーという経歴を持っていて、その経験があちこちに「実話」的に盛り込まれているのが感じられます。こうしたプロデューサーが、単に票集めをするだけではなく、金の割り振りから集会のタイミング、支援者の雰囲気作りに至るまで、あらゆる選挙のステージを「プロデュース」する様子が、いかにも現代的。政治の汚い?(でも、それだけに大事な)現実を知りたいという人には、面白い一冊だと思います。
 余談ですが、神奈川県出身の私には何となく土地設定が親しみやすく感じられたのと、著者略歴をみたら同じ高校出身の先輩(けっこう離れてるけど)ということで、ちょっとビックリしました。
*なお、本書については、読売新聞2001年5月27日朝刊に、小林良彰慶応大学教授の短評が掲載されています。

♪ 日本国債
    幸田真音 著
    講談社 上下各巻1800円+税
 分類としては、経済小説になるのかな?でも、テーマ的には日本政治にも絡んでくるものです。現在、日本の財政は借金だらけ・収入不足で、その解消のために多量の国債(国が発行する借金証書みたいなもの)が発行されています。そのいびつなお財布具合に対して、各金融機関の債権担当エキスパートが反乱を起こす物語。金融機関あるいはもっと一般的に市場全体に対する日本政治の理不尽な取り扱いが、サスペンスと大人の恋愛を絡ませながら描かれていきます。それにしても、『三本の矢』でもそうなんだけれど、なぜ官僚やビジネスマンでは現状改革を目指す格好良いヒーローを描けるのに、政治家が物語の主人公になることはないのだろうか・・・。

♪ 三本の矢
    榊東行 著
    早川書房 上下各巻1600円+税
 この本、出版当時は、官僚の世界を暴露したということで、かなり評判になりました。現役官僚がペンネームで書いています。単に官僚の世界を描いただけじゃなくて、経済理論とか政治理論の話題もバンバン出てくるから、スリル&サスペンスを味わいながら、政治学の面白さを実感できるかも。書いてあることは、官僚の独善的・独断的な行動なんだけれど、ただ、今の日本の状況を見ると・・・。たとえ独善的でも、これくらいやる気のある官僚たちがいてくれたらなぁ、と正直思ってしまうこともあるよね。ただ、そういう極端にいきやすいところでしっかり踏みとどまって考えることも必要だから。
 ところで、これ、面白いんだけれど上下2巻本・・・。長いけれど、頑張れ!

♪ レオニーの選択
    18歳少女の政治への旅立ち
   ブルクハルト・ヴェーナー 著  鈴木仁子 訳
   光文社 2200円+税
 2000年1月に翻訳が出版されたという、何となく楽しげな感じのする本(僕だけ?)。ドイツ人の18歳の女の子、レオニーが、ある政治家のスキャンダル記事をきっかけにして、次第に政治や民主主義というものを深く考えるようになっていくストーリー。少女から大人への成長という話を軸に、サスペンスや、ちょっと辛めのラブ・ロマンスも入っているかな。社会人入学の人は、昔を懐かしみながら読む、ということになるかもしれないけれど、授業を受けている多くの人が、このレオニーとほぼ同世代ですよね。そういう意味では親しみやすいかもしれません。
 ただ、これもまた500ページ近い長さ。面白いから、読み通せるとは思うけどね。

♪ 吉里吉里人
    井上ひさし 著
    新潮社 昭和59年当時1900円
 今手元に単行本サイズしかないけれど、確かもう文庫本になってるんじゃなかったかな?やっぱり、発売当時結構話題になりました。東北の1地方が突然独立国家を宣言するというストーリー。地方自治や国家、それから国際社会の中で国家がどのように立ち回っていくべきなのかとか、かなり大きなテーマについて考えさせてくれます。書いているのが井上ひさしだけに(学生さんの中にもファンっているのかな?)、文章も軽妙です。方言で喋っている登場人物も、味があってなかなか。
 とはいうものの、これまた単行本で800ページを超えるという分厚さ。夏休みなど、長期の休みを利用して読み通してみるのもいいかもしれません。
 政治ってね、いざ語りだすと止まんないものなんだよ。


他にも、政治関係の小説はいっぱいあります。
ジェフリー・アーチャーなんて有名だし、文庫でもたくさん出ているからいいかも。
それから、映画や漫画もいいですよ。
007とか、ゴッド・ファーザーとか、スター・ウォーズとか、
沈黙の艦隊とか、エヴァンゲリオンとか、ゴルゴ13とか。
とにかく大学の勉強に決まった道筋なんてないんだから、自分の興味あるところから。
ただ、自分の興味だけに止まっていては大学で勉強する意味もないから、
そこからどんどん世界を広げていってくださいね。