2001年5月の本棚

『<政治参加>する7つの方法』


筑紫哲也編
(高橋利明、姫野雅義、柳川喜郎、小田全宏、高橋茂、山岡義典、下村満子、石川好)
講談社現代新書
680円+税
ISBN4−06−19547−X

マニュアルがない!
 「世の中マニュアルばかりでつまらなくなった。創意工夫が見られない」。そうした批判は私達もよく耳にするところです。確かに、デートコースの案内からラーメンの味わい方、ゲームの後略や大学の定期試験対策(?)に至るまで、世の中のマニュアル化はとどまるところを知りません。しかし実は、どういうわけかマニュアルが全然準備されていない分野もあります。その1つが「政治」。考えてみると、私達の生活は政治によって大きく左右されている(はず)なのですから、これこそマニュアルがあっても良いはずです。もっとも、マニュアルなしで創意工夫にあふれた政治ができるのであればそれはそれでいいのかもしれません。ただ実際はどうかというと、複雑で自分との関連がよくわからない現代社会(大社会というようにいいます)の中で、私達は創意工夫どころか政治への関心すら失っているようにも見えます。

体験版政治マニュアル
 今回紹介する「<政治参加>する7つの方法」は、私達が政治に関わっていく際にどんな手段があるのかを、著者達の実際の経験をもとにして紹介した一種のマニュアル本です。TBSニュース23のキャスターである筑紫哲也さんを編者に、8人の共著者が「情報公開」、「住民投票」、「公開討論会」、「インターネットと勝手連」、「NPO」、「WINWIN(女性候補者支援団体)」、「選挙に行こう勢!(参政権行使推進団体)」の7つの政治参加の方法と経験及び実績を描いてくれています。例えば、非常に話題をよんだ長野県知事選挙では、ホームページやメーリングリストを利用して、インターネット上での政治参加が活発に行われました。このあたりの事情を、高橋茂さんが詳細に綴っています。「主な活動時間は夜に限られるため、ポスター貼り、ビラ配り、電話といった勝手連の基本的な活動には参加できない。・・・そんな状況の中で、自然とインターネット関連の仕事が増えていった。すでに立ち上がっていた公式ホームページについて、運営手法やレイアウトなどのアドバイスをしながら、スタッフ用メーリングリストを運営していた」(174頁)。また、WINWIN代表の下村満子さんのページでは、WINWIN会員となって女性候補者支援ができるよう、事務局の連絡先や場所もしっかり「PR」されています(237−238頁)。さらに、各著者ともホームページが紹介されており、そこで情報公開にせよ公開討論会の開き方にせよさらに詳細なマニュアルが見られるようにもなっています。

マニュアルを越えて民主主義へ
 しかし、この本を単なるマニュアル本としてのみ扱うのは、ややもったいないという感じもします。いくつか、この本を通じて考えることのできる政治的な問題点を挙げてみましょう。
 第1は、政治参加と民主主義の関係です。私達は通常、政治に参加することを良いことだと考えます。しかし、現代民主主義理論の中には、あらゆる市民の要求が政治の場に反映されるとシステムが対処しきれなくなって仕事が止まってしまうため、政治参加は一定程度以下に抑えられていた方がいい、という有力な見解もあります。政治が結果責任を問われる仕事であることを考えるならば、この見解もまた無視することはできません。となると、政治参加を訴えるこの本の主張をどう考えたらいいのでしょうか。実は、本書の執筆者の皆さんも、決して参加すればいいとだけ考えているわけではありません。それがもっともはっきりと現れているのが、産廃問題に対して住民投票で対抗した御嵩町の町長、柳川喜郎さんの部分です。柳川さんによれば、住民投票を実施するにはいくつかの条件があります。まず、「事前に十分な情報の公開、情報の提示、判断材料の提供を必要とすることである。・・・情報公開なき住民投票は衆愚政治につながる恐れがある」。また、「住民投票をおこなうには一定以上の民度のレベルが必要である。住民投票には公職選挙法が適用されないので、買収や供応をしても処罰の対象にならない。だからといって買収や供応がはびこるような土壌のもとでは、住民投票はするべきではない」(133−134頁)。こうした冷静な判断は他の共著者の方々にも共通していて(第一章の高橋利明さんの記述については、私はやや他の方とは異質に感じました。皆さんはどうでしょう?)、「政治参加」を万能薬ではなく、私達が政治を考える際の1つのきっかけとして扱おう、という一歩引いた感覚が随所に見られます。
 第2に指摘しておきたいのが、「政治参加」にもいろいろな方法があり、特定の考えにとらわれる必要はないということです。例えば、先の柳川さんが「間接民主主義、政党政治といった在来の政治システムの限界が見えてきたともいえよう」(106頁)という問題意識をもっているのに対して、「選挙に行こう勢!」発起人の石川好さんは「政治への参加とは、選挙に参加することに尽きる」(250頁)と述べ、現行の政治制度の中で投票権と被選挙権を最大限活用するよう主張しています(もっとも、だからといって住民投票をするなという趣旨ではないと思います)。私達は、自由な社会に住んでいるのですから、その中でどんな手段を使い、どんな社会を作るかは私達一人一人が自分の責任で決めることです。その際に、まずは無理のないところから。できるところからはじめる。そしてお好みに応じてもっと踏み込んでみるのもいい。この本は、そんな懐の広さを感じさせる本にもなっています。

 まずはマニュアルを読みながら。政治が自分にとってどんな意味をもつのか、ゆっくり考えてみるのもいいのではないでしょうか。

2001年5月2日
文責 早川 誠