1.クロロゲン酸って何!?
「桂皮酸誘導体」という分子と「キナ酸」という分子が色々な結合をしてつくられる同族体の総称。
「桂皮酸誘導体」・・・ベンゼン環を持つ(香りを発生させる分子構造)。クロロゲン酸が熱分解されると香気成分になることを示唆している。
「キナ酸」・・・酸味と弱い苦味を呈する。
2.クロロゲン酸は焙煎で大きく減少する成分のひとつ
クロロゲン酸はアラビカ種によるある実験結果によれば以下のようにかなり減少する。
生豆時 5.5〜8.0%
焙煎時 1.2〜2.3%
クロロゲン酸はコーヒー独特の褐色、香り、味の重要な要素となっていると考えられている。
3.クロロゲン酸の分解過程

まずは「キナ酸」について考えてみたいと思います。
キナ酸の発生は大きく分けて二つの場合が考えられます。
1)焙煎の初期行程・・・・クロロゲン酸の加水分解によるキナ酸の発生。
2)焙煎の最終工程・・・クロロゲン酸の加水分解などにより発生した褐色色素が熱分解してキナ酸を発生させる。
キナ酸に関する現象で興味を誘う考察があります。
焙煎豆を長期保存すると「酸味」が増しますが、これはキニド(キナ酸の化合物)のラクトン環が開裂してキナ酸もどることが原因の一つと考えられることです。

次にクロロゲン酸類全体の含有率の変化について考えてみたいと思います。
上図で判りますように、全体的に3次曲線でなだらかに減少していっています。
どちらかと言えば中盤以降が減少が大きくなってきます。
クロロゲン酸が焙煎の進行に伴う減少をする過程は以下のような反応によるものと考えられています。
@アシル基(コーヒー酸やフェルラ酸)の転移
A加水分解
B加水分解と分裂
C重合や変化したタンパク質との会合
A、Bの加水分解関連の反応は香気や褐色色素の前駆体発生に関連し、Cのタンパク質との反応は褐色色素の発生に関連している考えられます。
4.クロロゲン酸の味について
クロロゲン酸そのものは僅かな酸味をもつだけといわれます。
焙煎によって殆ど減少してしまうの、焙煎豆の味にはあまり影響を及ぼさないと考えています。
クロロゲン酸は焙煎中にキナ酸を発生させますが、キナ酸は酸味と苦味をもつと言われています。
「クロロゲン酸+ショ糖混合物」のモデル焙煎から分離した褐色色素がら弱いながらも苦味を呈すると言われています。
クロロゲン酸の味についてもう少し深く追求してみたいと思います。
クロロゲン酸は焙煎中に減少するので味にあまり大きな影響を与えないであろうというというのが私の考えではありますが、一つだけ無視できぬことがあります。
それは「ジカフェイルキナ酸」と呼ばれるクロロゲン酸です。
クロロゲン酸を大まかに3つに分類すると下表のようになります。
| クロロゲン酸類 | 略称 |
| カフェイルキナ酸 | CQA |
| ジカフェイルキナ酸 | diCQA |
| フェルリルキナ酸 | FQA |
ここで、ある実験結果を紹介します。
インスタントコーヒーにCQAとdiCQAを添加した場合の官能テスト(人が味わい感想を述べるテスト)です。
表の一番上の値はインスタントコーヒーが元来から持つCQAとdi-CQAの量を表します。
次の行は CQAのみを1mg/ml添加した場合に感じる異味。次はdiCQAのみを1mg/ml添加した場合に感じる異味。次は両者を1mg/ml加えた場合に感じる異味。
| 液体 | CQA(mg/ml) | diCQA(mg/ml) | 異味(相対値) |
| 1%インスタントコーヒー | 0.45 | 0.08 | 0 |
| 1%インスタントコーヒー+CQA | 1.45 | 0.08 | 1 |
| 1%インスタントコーヒー+diCQA | 0.45 | 1.08 | 2 |
| 1%インスタントコーヒー+CQA+diCQA | 1.45 | 1.08 | 1.4 |
この実験で判ることは、diCQAを添加した場合が最も異味を感じるということです。
また、diCQAを添加したことにより発生した異味が同量のCQAを添加することで低減されていることも注目すべきです。
diCQA(ジカフェイルキナ酸)は「後味が悪い」「金属のような」「収斂味のある」と表現される味です。
5.焙煎度によるCQA/diCQAの変化
| 焙煎度 (重量減、%、無水物換算) |
クロロゲン酸類含量(mg/ml) | CQA/diCQA (モル比) |
|
| CQA | diCQA | ||
| 0 | 3.26 | 1.20 | 3.97 |
| 7 | 2.11 | 0.54 | 5.23 |
| 10 | 1.37 | 0.48 | 4.16 |
| 11 | 1.19 | 0.46 | 3.78 |
| 16 | 0.88 | 検出せず | 無限大 |
表の実験データをグラフ化すると

グラフ中の書き込みはあくまでも私論であります。
CQA、diCQA共に加水分解によって減少します。
CQAは一ハゼ後の水分減少に伴い加水分解(水を伴う変化)は終了し、減少量が激減します。
diCQAも一ハゼ後の水分減少に伴い加水分解(水を伴う変化)は終了し、一旦は減少が鈍化します。
しかし、焙煎の最終工程付近で熱分解によって激減します。
6.クロロゲン酸に観る焙煎のヒント
ポイント
@キナ酸の変化に観るヒント
キナ酸は焙煎の初期行程で増加してる。これはクロロゲン酸の加水分解(水を用いる反応)によるもの。
焙煎の最終工程でも増加する。クロロゲン酸などのから発生した褐色色素の熱分解により生成。
AdiCQA(ジカフェイルキナ酸)の挙動
ジカフェイルキナ酸は初期行程の加水分解と、最終工程の熱分解で減少する。
これらの事実から想像できることは・・・・
焙煎の初期行程(加水分解)
クロロゲン酸を褐色色素・香気の前駆体へと置換している。
ジカフェイルキナ酸(diCQA)などの雑味を削っている。
焙煎の最終工程(熱分解)
クロロゲン酸などからつくられた褐色色素・香気の前駆体を熱分解・重合などによって完成させる。
ジカフェイルキナ酸(diCQA)などの雑味を消し去り、全体の生豆の成分が各々の安定状態に移行する。
これは、私の焙煎における持論ですが
蒸らしは水を毛嫌いするのではなく有効に活用する。
一ハゼ以降の火力は必要最小限とする。
じっくりと香気成分・褐色成分を創りだすことを心がける。
それらの前駆体が変身する瞬間を見逃さない。