まこやんの事件簿 其の33

マニアック


監督官が所管する法律は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法など多数。

さらに、それぞれの法律から枝分かれする政令、省令が山ほどあり、かつ、各々の政令・省令は数十〜数百もの条文で構成されている。

実際に数えたことはないが、これら監督官の守備範囲となる規定のトータルは軽く3000条は超えるであろう。
多くの監督官は年間で100箇所余りの事務所・工場に赴き、法令違反があればそれを指摘して改善を求めている。
これが監督官の本業なのである。

指摘の対象となる規定の中には

就業規則を作成しなさい

高い所には手すりを設けなさい

健康診断を実施しなさい

など、労務安全に携わった人間なら誰でも知っているポピュラーな規定もあれば、

定期的に鼠・害虫を駆除しなさい

寄宿舎の階段の段差は21cm以下としなさい

女子用便所は20人以内ごとに1個、男子用小便所は30人ごとに1個以上設けなさい。

冷凍室のドアは、内側から開けられる構造としなさい

室内照明は、まぶしさを感じないような方法にしなさい

たんつぼを設けなさい(近年廃止)

など、一般にはあまり知られていないものも多く、中には監督官でさえ殆ど見たことのないマニアックな規定もある。

●ある日・・・・


部下の若い女性監督官と一緒に、A工場に赴いた。

同工場では「労働者が火傷を負う」という労災が発生しており、その調査を兼ねて臨検監督を実施したのである。
事故現場で、関係者から事情を聞いてみると、

@ 工場の床の塗装が古くなったので、作業員がラッカー系のペンキで塗装作業を行っていた。

A 機械等が入り組む、狭い場所を塗装していたところ、ペンキに含まれる引火性の蒸気が、あたりに充満した。

B それに気付かぬ同僚が、付近で溶接作業を行ってしまったため、充満した溶剤に引火し、塗装作業中の労働者が火傷を負った

とのことだった。

早速、工場の責任者に対し、

「こんな通風の悪いところで、換気のないまま、塗装作業を行わせてはいけません」

「今回は軽い火傷で済みましたが、あのまま作業を続けていたら、爆発か、有機溶剤中毒で大事故になっていたかも知れませんよ」

「作業員間の連絡が出来ていなかったのも問題ですね」

などと注意する。そして文書(是正勧告書)で法違反の指摘を行うこととなった・・・

工場の事務所にて、

「安全管理に色々問題があるとして、さて、今回の災害の直接原因となった法違反があるのかなあ」

などと、労働安全衛生関係の法条文をチェック。

すると・・・

あった、あった!ピッタリの規定が・・・

労働安全衛生規則第256条第1項第4号
引火性の物については、みだりに火気その他、点火源となるおそれのあるものに接近させないこと


条文を見つけ、
  
   「さすがは、安全衛生規則」

   「当たり前といえば、当たり前やけど、こんなことまで明文化してたんやなあ」

などと変な関心をしつつ、部下の女性監督官に工場への指摘内容を伝え、その場で是正勧告書を作成するよう指示した。

女性監督官は言われたとおり、指摘事項を書き、災害の直接原因となった問題についても

・・・引火性の塗料を使用して塗装作業を行わせるにあたり、みだりに火気を接近させたこと・・・

という指摘文書を書きあげた。

工場責任者に是正勧告書を手渡し、仕事を終えた帰り道、女性監督官が話しかける・・・

部下ちゃん> あの違反は珍しいですよね。

まこやん>  そやね、あんなのを指摘するのは、俺も初めてやった。マニアックな違反かもね。

部下ちゃん> 勧告書を書くとき、緊張しました。

まこやん>  なんで?

部下ちゃん> 『みだりに』という古い言葉は使ったことがないので・・

まこやん>  ??

部下ちゃん> 誤ってみだらに火を近づけた』って書いてしまいそうで・・



まこやん  > それは違う意味のマニアやろ!( ̄□ ̄|||)