秋から冬へ...雪の小谷温泉

トンネルを抜けるとそこは...雪国だった!

小谷温泉 山田旅館より撮影

 

2002年11月9日

晩秋の名残りを惜しむように、「グランブルー」と「あかまん」は上信越道を抜け白馬のさらに北を目指す。

途中、紅葉も盛りの妙義山を過ぎると浅間山はすでに冠雪を戴いていた。

今回は白馬から雪の心配があったため、「グランブルー」所有のエスクード H/H limited を伴っての旅となった。ラダ−フレーム構造、副変速機付きパートタイム4WD。「これで雪対策は万全」とばかりに一路白馬へと向かったが、更埴I.Cに着く頃には辺りはすでに吹雪となっていたのだった。

 

更埴I.Cより大町街道を経て白馬へと抜け、姫川沿いのR148をさらに北へ。だんだんと雪はその強さを増し、小谷温泉へと向かう県道の手前で事件は起きた。ついに、雪で動けなくなったトラックに道を阻まれてしまったのだ。

 

小谷温泉の手前、雪で動けなくなったトラックに道を阻まれ立ち往生... そして、あまりの雪のスゴさに驚きを隠せない様子の「あかまん」

 

待てども待てども一向に道は開こうとしない。「タバコ、吸ってくるよ」と「グランブルー」が外へ、同じくした前走車のドライバーと世間話をしている。しかし、見るからに寒そうだ...車内はヒーターで寒さを全く感じない。「あかまん」はつぶやいた。「オレの145じゃ、こんな所へは来れないな」

外を見回せば、さっきまで紅葉していたであろう山々が真っ白な雪山へと変貌している。まだ秋なのに、信じられない光景。それでも雪は降り続き、一帯は雪国へと飲み込まれていった。

 

紅葉していた山も雪でみるみる真っ白に

 

何分が経過しただろうか、突然道が開けた。県道へカーブを切り、この先の小谷温泉へと登板路を急ぐ。「ここからがエスクの本領発揮だよ」誇らし気に「グランブルー」が言った。彼がカーステのボリュームを上げると...流れて来たのは何故かアース・ウインド・アンド・ファイアだった。「ひょー!ひょー!ひぃぃ〜〜!」裏声で彼等は歌った。雪国なのにアースだった。11月なのにセプテンバーだった。極上の湯を前に、私達は興奮を押さえ切れないでいた。

 

 

「日本の秘湯」とゆう本をご存知だろうか。「日本秘湯を守る会」監修、「朝日旅行会」発行。知る人ぞ知る秘湯好きのバイブルである。かつて、秘湯を守る人々と秘湯を訪ねる人々が助け合いで始めた「日本秘湯を守る会」。会員旅館は源泉を引く一軒宿に限られ、有名温泉地の旅館街とは一線を画する。先祖の意志を今に伝える宿である。かく言う「小谷温泉山田旅館」もここの会員旅館であり、江戸時代より続く大湯元である。私達の泊まる棟は大正時代の建物だったが、本館には今だに江戸期の建築を残すと言う。

宿に着いて早速、まずは風呂に入ろう。浴衣に着替え、タオルを片手に3階の部屋からギシリギシリと古い階段を降りた。「男湯」の扉を開けるとそこは、源泉が直接注がれる湯舟は実に小さく、コンクリートで塗っただけにも見える虚飾を排した空間だった。天井近くのパイプから無造作に湯がドボリドボリと湯舟に落ちる。しかし、さすがの湯量だ、本当にこの湯は450年前から湧いているのだろうか。パイプから永年の雫が温泉成分となって鍾乳石のように垂れ下がっている。それはあたかも象の鼻のような生き物の形を連想させた。「グランブルー」が言った。彼がここに来たのは2度目である。「ここの湯は、長く入ると危ないよ」。かけ湯をして、恐る恐るつま先を入れて解った。「あ、ここの湯は明らかに他と違うぞ」ピリピリとした感覚が皮膚を伝わる、生の温泉とはこうしたものか。生き生きとした水分が体に染み込むような感覚だった。泉名はラドン含有重曹泉。70年前、ドイツで開かれた温泉博覧会に小谷温泉は別府、登別、草津に並ぶ4大温泉として出泉されたと言う。この湯舟に何人もの人々が安堵の情を覚えたであろう。人々に守られ続けたこの泉に心打たれる思いであった。

 

 

 

 

風呂上がりには夕食である。山の中にもかかわらず、さすがに海が近いせいか新鮮な海の幸が卓を彩る。長野ワインを1本注文し、とことん満喫した。食後部屋に戻って「あかまん」は、布団に横になると吸い込まれるように寝てしまった。これぞ贅沢の極みである。

1時間ほど寝ただろうか。目覚ましにとまたもう一風呂浴びて、「あかまん」は館内を少し観てまわる事にした。館内は増築に増築を重ね、まるで迷路のようであった。長い廊下の先に階段が、またそこを降りると長い廊下が。廊下沿いの窓ガラスにはしんしんと降り続く雪、電球の灯りだけが辺りを照らしていた。音も何も無い光景に暫し時間の流れを忘れた。館内は冷えきっていたが、これも温泉の効果か寒くは無かった。「おーい、何してるんだー」廊下の向こうから「グランブルー」が呼んでいる。さて、暖かい部屋に戻って酒でも飲むとするか。ここでは時間はいくらでもあるのだから。

 

廊下の向こうから、風呂上がりで浴衣姿の「グランブルー」          朝、目が覚めると...帰れるかな、帰れなくてもいいかな

 

翌朝、朝飯の為に7時に起きた。煙草を吸おうと窓を少し開けると、澄み切った空気とまだ青白い蛍光に身震いがした。旅の朝とはこうしたもの、日々日常とは違う朝。降り積もった雪がさらにその思いを強くさせる。しばし景色を眺めながらふと思った。この雪の中、私達は帰れるのだろうか?...まあ、帰れなくてもいいかな。とりあえず、飯だ、飯だ。

 

朝飯は1階まで降りて、新館の大広間でいただく。グループ旅行のおばちゃんや、御夫婦での泊まり客が多い。特に、おばちゃんは朝から元気である。すでに朝から一風呂浴びて、料理の批評にも余念が無い。それに対して「グランブルー」は、どうやら昨日の深酒がたたったようで実に辛そうである。「あかまん」はさほど飲まなかったので大丈夫であった。だが二人とも、相変わらず手抜きのない朝飯に食が進む。飯が済んだらもう一風呂行くか、と思いきや、「グランブルー」がギブアップ宣言。さらに布団の贅沢をする事となった。確かにこの雪では何処へ出かけるわけにも行くまい。1階の喧噪を逃れ、3階の部屋へと逃げ込むと瞬く間に寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

「ご連絡します。屋根雪が落ちますので、軒下のお車はお手数ですが移動をおねがいします」館内に放送が流れた。窓から見てみると、なるほど屋根から雪が今にも落ちそうである。そればかりか、除雪機がけたたましくエンジン音を上げている。宿の兄ちゃんが手押しで行っているのだが、手慣れたものでもう殆ど通路は除雪が終わっている。雪国の人は大変だ...今度ばかりはただ感心してはいられない。私達も浴衣のまま外へと急いだ。スニーカーを履いて外へ、寒い!さらに手には軍手をはめ、ウインドウの雪を払った。車を移動してやれやれ一安心、しかしすかっり体が冷えてしまった。こゆう時には...やはり温泉しか無いでしょう。今回何回目かのタオルを片手に朝風呂へと駆け込んだ。冷えた手足にかけ湯をし、湯舟に浸かって「ふぅ〜っ」と声が出た。気が付くと、あれ?「グランブルー」が来ない。どうやらさらに、布団の贅沢を続けているようである。

 

移動を終えたエスク。まだ雪下ろしが残っている               「山田旅館」玄関の、江戸時代から残るお座敷

 

さてとそろそろ、帰る準備をしなくては。だが「山田旅館」にはもう一つ楽しみがあった。併設された「資料館」の見学である。写真は一部割愛したが、実に当時の宿帳やら陶磁器やら、温泉成分表までが保存されている。写真(下)はドイツ温泉博覧会に出泉された際の記念の額である。

さらに「山田旅館」の玄関には江戸時代の民家の佇まいがそのまま残されている。天井の太く大きな梁からは囲炉裏端へと鉄瓶が垂れ下がり、古い調度品も風情たっぷりである。そんな中、とくにこの古時計が目を引いた。すでに壊れて動いてはいなかったが、前述「日本の秘湯」によると十七代目のおじいさんの頃はまだこの時計が「ボーン、ボーン」と時を刻むのを聴けたようである。まさに平井堅もビックリではないか。「時計ともお別れ...」思わず歌ってしまう「あかまん」であった。

 

大きなのっぽの古時計...今はもう動かない         ドイツ温泉博覧会に出泉、と書いてある

 

 

今回の旅のお伴、エスクード H/H limited                   昨日の雪が嘘のように季節はまた秋へと戻った

心配していた帰り道、その心配には全く当たらなかった。行き来た道をそのまま戻ったが、全て除雪がされ、昨日雪だったR148の路面はすでに乾いていた。快調に飛ばすエスクード H/H limited。雪山もまたもとの紅葉した山に戻り、季節はまた秋に逆戻りしたようであった。一度に秋と冬を同時に楽しめた、そんな旅を振り返った。

途中そろそろ昼時を過ぎ、地元の町内会が運営するうどん屋「道の駅つくし」に立ちよる事にした。実は行きにもこの店でうどんをいただいたのだが、その旨さが忘れられず2日続けての来店となった。店の造りは簡素であたかも村の集会場と言った趣。昼時と言う事もあって、次から次へと地元のご家族が子供連れでうどんを食べに来る。まず店に入ると「うどん」と書かれているにも関わらず、香ばしいバニラとコーヒーの香り。「うわぁ、いい匂いがするなぁ」「あかまん」が思わず言うと、台所のお母さんが「かおりの正体は、これですよ」と、焼き立てのワッフルの欠片を出してくれた。食べてみるとこれが実に旨い。いわゆるワッフルとは少し違い、ビスケットのような食感だったが、どこか懐かしい手作りの味だった。見ると皆が食後にコーヒーとワッフルを愉しんでいる。まさに村民憩いの場と言ったところだ。

さて、肝心のうどんの味はと言うと。昨日は「肉うどん」、今日は「やさいうどん」をいただいた。写真でも判るように、やさいと言ってもキノコがたくさん入っている。うどんの食感も独特で、むしゃむしゃと噛み応えがあり、その後じわりと小麦の味がする。普段食べ慣れたツルツルシコシコとしたうどんとは違う。田舎のおばあちゃんが作ってくれたような、具だくさんの家庭的なうどんである。付け合わせの南瓜の煮付けと、お焼きも旨かった。帰りにワッフルを持ち帰った事は言うまでもない。

 

村民憩いの場「むらの駅つくし」                      「やさいうどん」500円。おばあちゃんの味。

 

今回の小旅行を通して思うこと。何気ない旅で忘れていたものに数々出会った。山の生活は皆どことなく懐かしい。だがそれらは取り残されているのではない、伝えられたからこそ今そこに有るのである。

著 あかまん

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