science fiction 2004


著者名 タイトル 出版社
小路幸也 そこへ届くのは僕たちの声 新潮社
有川浩 空の中 メディアワークス
エリザベス・ムーン くらやみの速さはどれくらい 早川書房
アルフレッド・ベスター 願い星、叶い星 河出書房新書
ジャスパー・フォード 文学刑事サーズデイ・ネクスト2 ソニー・マガジンズ
ジャスパー・フォード 文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ソニー・マガジンズ
石田衣良 ブルータワー 徳間書店
ロバート・A・ハインライン 夏への扉 ハヤカワ文庫SF
エドモンド・ハミルトン フェッセンデンの宇宙 河出書房新社
梶尾真治 黄泉びと知らず 新潮文庫
梶尾真治 黄泉がえり 新潮文庫



























黄泉がえり(2004.3.3)
梶尾真治   新潮文庫


 熊本の老舗雑貨販売会社に勤める児島雅人の家に、ある日突然、27年前に死
んだ父親が帰ってきた。同じような現象は熊本のあちこちで起こり、やがて熊本で
亡くなった人気歌手までもが生き返ったことで一気に全国に知れ渡る。生き返った
人たちは「黄泉がえり」と呼ばれ、少しずつ街に馴染みなじめた…。

 ジャック・フィニティの有名な『盗まれた街』(わたしは未読…)や、恩田陸の『月の
裏側』のような話なんだけれど、これは心温まるストーリー。どうして黄泉がえりが
起こったのか、という理由はSFなんだけれど、問題は黄泉がえりがナゼ起こった
か、ではなく、死んでしまったはずの大切な人が生き返った時、そして彼らを再び
失うかも知れない時、の周囲の人々の心の動きを追うことに重点を置いている。

 けっこう甘いというか、あまりにも蘇った人たちが「いい人」過ぎてちょっと…とい
う感はなきにしもあらず、なんだけれど、終盤はけっこうぐっとくるものがあった。
生きること、死ぬこと、について考えることもあったり。

 読みやすくて、ちょっといい話で、かなり人を選ばずにオススメできる一冊。もう
一つ、『黄泉びとしらず』というサイドストーリーがあるらしいので、近いうちに読ん
でみようっと。



黄泉びと知らず(2004.4.24)
梶尾真治   新潮文庫


 『黄泉がえり』のサイドストーリーである短篇「黄泉びと知らず」を含む短編集。
表題作のほか、かぐや姫のパロディである「六番目の貴公子」、突然の事故に遭っ
たバスに乗り合わせた料理人が同じく乗客だった医師の指図で包丁で怪我人の
手術を決行する「奇跡の乗客たち」、とある惑星で彼女の心を射止めるために友人
とともに危険地帯へ出かける「魅の谷」、姉弟が母の十三回忌に父へのプレゼント
として1日だけ母にそっくりのアンドロイドをレンタルする「小壺ちゃん」、突然義父
が補導されて当惑する会社員を描いた「見知らぬ義父」、人類絶滅後の地球らしき
惑星に降り立った異星人が一組の男女の残留思念の存在に気づく「接続された女」、
人間以外の生き物がいつの間にか増えているという噂を描いた「赤い花を飼う人」、
の8遍からなる。

 それにしても単に『黄泉がえり』のサイドストーリー、という認識だけで読むとかな
り面食らう。『黄泉がえり』と関連しているのは表題作のみで、あとは不条理ものと
いうか、ブラックユーモアというか、そういったSFコメディが大半。面白いと言えば
面白いんだろうけれど、個人的にはちょっと好みに合わない感じだった。

 趣味の問題ですな。



奇想コレクション フェッセンデンの宇宙(2004.7.18)
エドモンド・ハミルトン/中村融・編訳   河出書房新社


 やっぱり古典は古典の味わいというものがある。今読んでも十分に楽しめるし、
一部科学知識が古いために間違った内容があったとしても、それは作品の魅力を
まったく損なっていない。この本を読んで改めて、ああ、ちゃんと古典を読みたいな
あ、と思った。

 収録作は表題作の「フェッセンデンの宇宙」、「風の子供」、「向こうはどんなとこ
ろだい」、「帰ってきた男」、「凶運の彗星」、「追放者」、「翼を持つ男」、「太陽の炎」、
「夢見る者の世界」の9篇。スケールの大きな表題作から哀切感漂う作品、パラレ
ルワールドを扱ったもの、ファンタジー風なものなどバラエティに富んだ作品群に、
1冊でかなりお得な気分を味わえる。

 個人的には火星探検隊に選ばれ生還した男が死んだ隊員の遺族のもとを回って
故郷に帰り着く「向こうはどんなところだい」が好きだなあ。火星を希望の宝庫のよ
うに感じる地球の人々に期待を持って迎えられる、真実を経験してしまった隊員の
話。なんともいえない余韻が残る。
 仮死状態のまま葬られ、戻ってきた男を描いた「帰ってきた男」も、哀しいんだけ
れど不思議に後味の悪くならない、作者の力を感じる作品。

 エドモンド・ハミルトン? 『キャプテンフューチャー』の人でしょ、荒唐無稽なスペ
ースオペラでしょ、と思っている人には、ぜひぜひこれを読んで誤解を解いてもら
いたい。



夏への扉(2004.8.26)
ロバート・A・ハインライン/福島正実・訳   ハヤカワ文庫SF


 扉に「世のなべての猫好きに この本を捧げる」とある。
 わたしはどちらかというと犬派の人間だけれど、この本はもちろん、いっぺんに好
きになった。

 この作品が描かれたのは1950年代。物語の舞台となる1970年及び2000年
は、現実とはちょっとだけ違う。70年にすでに冷凍睡眠(コールド・スリープ)が保
険商品として扱われ、「文化女中器」なるお手伝いロボットがヒット商品。2000年
ともなれば、新聞には黒白の実体写真(ステレオ)が使われ、衣服はスティックタ
イト繊維(燃やせないかわりに溶けるそうだ)を使うものが主流となり、歩行者は滑
走道路(スライド)で移動する。夢のような装置まで実現されている…!

 主人公の「ぼく」は、猫のピートと二人で暮らしながら失意の日々を送っている。
信頼していた友人と恋人とに一度に裏切られ、打ち込んでいた研究を、興していた
会社もろとも奪われ、手元にはその見返りとして渡された会社の株券と小切手のみ。
この世界に見切りをつけた「ぼく」はピートと二人でコールドスリープに入ることを決
意するが、気が変わって友人のもとへ詰め寄りに行く。それが彼の運命を大きく変
えることも知らずに。

 何もかも奪われた「ぼく」は逆転ホームランを放つことができるのか。

 いやー、有名な作品であるのにもかかわらず、今までタイトルしか知らなかった
わたし(大汗)。そうか、これってタイムスリップものだったのね。
 話はテンポ良く進み、きめ細かに伏線が張られ、すごく気持ちよく読めた。さすが
古典SFの傑作。特に後半の時間との戦いの部分はワクワク! なるほど、そうい
うことだったのね!

 読み終わった後、わたしも家の中のドアをあちこち開けたくなった。確かに、どこ
か一つくらい、夏へ通じるドアがあってもよさそうだもの。



ブルータワー(2004.10.24)
石田衣良   徳間書店


 新宿の豪華高層マンションで、死を迎えるのを待つのみの末期癌に侵された瀬
野周司。美しいだけで冷たい妻はかつての部下と通じ、彼には絶景のマンション
以外に遺すものとて何もない。
 しかしある日、彼は脳腫瘍の耐えがたい痛みを超えた時、突然自分が見慣れな
い部屋にいることに気づく。そこは200年後の東京、世界に猛威を振るうウィルス
”黄魔”に脅かされ、人々が閉じこもるように暮らす地上2kmの高さに聳える塔の
中だった。
 塔では上下の格差が大きく、上層部を占める少数の人々が下層及び塔の外の
地面に住む大多数の人々を支配している。しかしその危うい均衡は今まさに崩れ
ようとしていた。果たして彼は、200年後の世界を救うことができるのか?

 個人的にはあんまり好きになれなかった。
 作者本人が、あの9.11に触発されてこの物語を書いたと語っている。何度も何
度も繰り返し、主人公は二つの塔が崩れる様子を思い浮かべる。ちょっとくどい…。

 それはいいとして、この主人公の女性観がすごくイヤなのだ。
 美しいだけで冷たく、かつての部下と密通し、時価2億数千万のマンションだけに
固執しているように描かれる妻(未来の妻もしかり)。
 もう後は死ぬだけで何も残されていない主人公に献身的に愛を捧げる、魅力的で
心が優しくて、すぐに裸になるかわいらしい若い女(未来の愛人もしかり)。
 この対比が…!!

 一体その冷たい女と結婚したアナタはどうなんでしょうか。
 相手は財産だけが目当てだったって? アナタは顔だけが目当てだったんでしょう。
 いったい若い方の彼女は、主人公のどこらあたりがそこまで好きなんでしょうか。

 そのあたりがとにかく引っかかって頭から離れないから、主人公がどんなにヒーロ
ーっぷりを発揮しても燃えないのよね…。

 AIのココは魅力的だったけどね…。

 ラストもちょっと…。タイムパラドックスが非常に気になるわたしとしては、このラスト
はちょっと受け容れられない。しかも最後のセノシューの台詞! わたしがもしもセノ
シューだったら、こんなことは絶対に言えませんよ!!



文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!(2004.10.27)
ジャスパー・フォード/田村源二・訳   ソニー・マガジンズ


 なんともバカバカしくてドタバタでおもしろい!
 文学好きなら文句なく楽しめるのではないだろーか。

 舞台は1985年イギリス。とは言ってもこの世界ではクリミア戦争は131年経っ
てもまだ終結せず、最大の娯楽は文学で、遺伝子操作で作られたクローンのドー
ドーがペットとして人気を博している。ウェールズはイギリスから独立し、かつてイギ
リスはドイツに占領された過去を持ち、時間を自由に行き来する技術がある程度
確立されている。そして主人公のサーズデイ・ネクストは、クリミア戦争帰還兵であ
り、特別捜査機関スペックオプスのSO-27に所属する文学刑事(リテラテック)だ!

 サーズデイの前に立ちはだかるのは、元文学教授にして世界第三位の凶悪犯、
アシュロン・ヘイディーズ。半径1000ヤード内でならどんな囁き声でも自分の名前
を聞きつけることが出来、ビデオやフィルムに映ることがなく、どんな口径の銃でも
けして殺すことが出来ないというとんでもない相手だ。

 彼に奪われたのは、あろうことかディケンズの肉筆原稿。彼はサーズデイの伯父
で発明家であるマイクロフト夫妻の誘拐も決行。マイクロフトは本の世界に入るこ
とのできる装置を発明したばかりだった。ディケンズの原稿に続き、「ジェイン・エア」
の原稿までもが盗まれる。果たしてサーズデイは彼から原稿と伯父夫妻を取り戻
すことができるのか…?

 あらすじだけでこんなことに…(笑)。
 ちょっと前半はこの世界を把握するのに手間取って読み進めづらいんだけれど、
後半はもう怒濤のように! わたしは片手に『サーズデイ・ネクスト』、片手に『ジェ
イン・エア』が手離せなかったわ…(笑)。合間にシェイクスピアの作品の本当の作
者は誰か?なんていう話や、ワーズワースやキースやロックフェロー(『ダンテ・ク
ラブ』に登場したばかりだわ〜!)の名前がひょこひょこ出てきて、なんとなくニヤリ。
荒唐無稽だけれど楽しめること間違いなし。よくこんなの思いついたなあ…。

 ランデンが魅力的じゃない、とか、作品を著者の意図を無視して改竄するのはど
うよ…とか、いろいろ細かく考え始めると粗はたくさんありそう(笑)なんだけれど、
頭を空っぽにしてサーズデイと一緒に文学の世界の冒険を楽しむのがマル、かな。

 サーズデイ・ネクスト2を読むのが楽しみ♪



文学刑事サーズデイ・ネクスト2 さらば、大鴉(2004.10.27)
ジャスパー・フォード/田村源二・訳   ソニー・マガジンズ


 今回もハチャメチャぶりは健在の文学刑事シリーズ(?)第2弾。前作でやっと
ランデンと結ばれてめでたしめでたし、と思ったらジェイン・エア事件のせいでサー
ズデイはマスコミに引っ張りだこ、そのうち立て続けに事件が起こり…。

 今回の柱は3本、かなあ。ゴライアス社の策略で”根絶”されたランデンを救える
か、すべての人類が滅亡してしまう地球の未来を救えるか、そして解き放たれた
『カーデニオ』を無事回収することができるか…。さらに筋とは関係ないけど魅力的
なエピソードも相変わらずてんこ盛り。今回はディケンズを読んでいなかったこれ
までの人生をちょっと後悔したわ…(笑)。

 とにかく細かい設定というか、世界観の面白さがこの本の一番の魅力かなあと
思う。本の世界へ旅することができる「ブックジャンプ」なんて序の口。本の世界と
現実世界とを結ぶ通話回線”脚注電話(フットノーターフォン)”に本の世界の秩序
を守るための組織・ジュリスフィクション、悪魔退治のための掃除機に猫が管理す
る広大な図書館。個人的にはレゴを分別する掃除機がステキだったわ…(笑)。

 ただ、話があちらこちらに広がりすぎて、ちょっと散漫な印象があることも確か。
前回と違って明らかに「次作へ続く」な終わり方も不満かな…。

 そういった細かい難点はあるものの、前作同様文学ファンなら手放しで愉しめる
超娯楽作であることは確か! 肩肘張らずに頭を空っぽにして、どうぞ♪



願い星、叶い星(2004.11.5)
アルフレッド・ベスター/中村融・訳   河出書房新書


 長編SF『虎よ、虎よ!』で有名なアルフレッド・ベスターの短篇集。いや、ベスタ
ーって実は初めて読むんですが…(笑)。

 いきなり最初の短篇「ごきげん目盛り」で狂気の世界へ突き落とされた。な、何
だこれ!?というのが最初の感想。まず文章の最初から人称の混乱でこっちも
混乱。その混乱をひきずったまま物語はあれよあれよと進む。続く「願い星、叶い
星」でさらにベスターの世界の深みへと。「イヴのいないアダム」で絶望の中に希
望の光を見つけ、「選り好みなし」で自分の世界について考える。「昔を今になす
よしもがな」でまたまた不思議な世界を翻弄され、「時と三番街と」で短い物語を
ピシッと決められ、とどめは「地獄は永遠に」。しばらくはベスターの世界から這い
上がれなくなるかと…。

 いやー、こんな作家もいたのね…。SFも奥が深いわ…。
 『虎よ、虎よ!』や『分解された男』もムチャクチャ読みたくなった。

(収録作:「ごきげん目盛り」、「願い星、叶い星」、「イヴのいないアダム」、「選り好みなし」、
       「昔を今になすよしもがな」、「時と三番街と」、「地獄は永遠に」)




くらやみの速さはどれくらい(2004.11.28)
エリザベス・ムーン/中村融・訳   早川書房


 自閉症が幼児や胎児のうちの治療で治せるようになった近未来。主人公のル
ウは30代半ば、自閉症の治療を行うことの出来なかった最後の世代だ。彼は
それでもきちんと自立し、職を得、恋もする。しかし職場の上司が自閉症の人間
ばかりが働いている彼のセクションのメンバー全員に、現在研究段階である自閉
症の治療手術の研究対象となることを要求してきた。
 手術を受ければ彼は一体どうなってしまうのか。
 果たして彼は手術を受けるのか…。

 帯には「21世紀版『アルジャーノンに花束を』とある。
 物語は大半の部分がルウ自身の視点で描かれる。これが斬新。こんな風に世
界が見えるのか!!みたいな。これを読むと自分がいかに自閉症について正し
い知識を持っていないかを思い知らされる。まあ、これが本当に自閉症者の視点
から見た世界なのかどうかはもちろん確かめようもないけれど…。

 この作品が『アルジャーノン…』を連想させるのもとてもよくわかる。ただし、この
作品と『アルジャーノン…』はまったく別モノなんだけれど。どうしても、障害を持っ
た人間自身の視点から見た描写を含む作品というのは内容に関係なくかの作品
を連想させてしまうのよね…。まあそれは『アルジャーノン…』がいかに衝撃的で
かつ優れた作品だったか、ということなんだけれど。

 その意味では、『くらやみの速さは…』を「21世紀版アルジャーノンに花束を」と
やってしまうのは、ちょっと酷なような気がしなくもない。もちろん、そう帯に打つこ
とで手に取る人はたくさんいるだろうし、その中の少なくない人たちが読了後に満
足感を持つだろうことは間違いないけれど。

 けれど、本当はこの作品とあの作品は本質的に違う気がする。だから、引き合
いに出されるのは本当は不幸なこと、のような気がしないでもない。

 この作品は何も引き合いに出さなくても十分に、魅力的な作品だ。わたしたちは
わたしたちとはまったく違う考え方、行動の仕方を取っているはずのルウに無理
なく感情移入することができる。彼が手術を受けるかどうかを決めるのに、一緒に
なって悩んでしまう。

 そして彼が選んだ行動の末のラスト…その複雑で感慨深いラストの前に、言葉
にならない思いで胸を詰まらせるだろう。



空の中(2004.12.14)
有川浩   メディアワークス


 西暦200X年。試験飛行中だった日本製の民間航空機と、自衛隊の戦闘機とが
四国の上空で立て続けに墜落した。どちらも原因は不明。民間機の開発機関に所
属していた春名高巳は、空自で事故機と共に飛行中だったパイロットに事情を聞く
ために岐阜基地へ派遣される。
 一方その頃、高知のとある町では、自空機で事故死したパイロットの遺児でもあ
る斉木瞬が不思議な物体を発見していた…。

 空に漂う未知の生命体と人間とのファーストコンタクト物。500ページ弱とむちゃく
ちゃ厚いけれどあっという間に読めてしまった。
 とにかく文章が読みやすい。軽い。ふーん、この著者はライトノベルの賞の受賞
者だったのね〜。納得…。

 物語はおもしろいんだけれど、個人的には登場人物があんまり好きじゃなかった。
重要人物である高巳と光稀のキャラがあまりにも嘘っぽいのよ…。へらへらしてい
て一見軟派、けれど実は頼りがいのある高巳と、めちゃめちゃ意地っ張りで生真面
目で、しかも照れると真っ赤になってそっぽを向くような光稀。「なんだかんだ言って、
かわいーんだよね、光稀ってば」「バカっ…!!」という、もうベタベタなラブコメは、
ちょっともうこの年ではキビシイわ…(苦笑)。初対面でいい大人が(しかも職場で)
いきなりタメ口で話し始める辺りからすでにダメだった。

 一方もう一組の主要キャラ、高校生カップルの瞬と佳江、こちらも…。なんというか、
瞬がとにかく激しい思い込みで周りから心を閉ざし突っ走っていくそのさまが、もう
いかにも「これから間違いに気づかされるんだよねー」という展開で…だ、ダメ…。

 中高生で読んだら、もうものすごくおもしろくってめちゃめちゃ感動しただろう、と
思う。それは自信がある(笑)。なんだかんだ言ってもこの厚さを一気に読ませてし
まうその力は並みじゃない。

 けど頭の固くなった今のわたしには、ちょっと軽すぎたわ…。
 次回作には、かなり期待大だけれど。



そこへ届くのは僕たちの声(2004.12.29)
小路幸也   新潮社


 大地震で母を失い、父は植物状態になってしまったかほりは叔父夫婦の住む街
で暮らしている中学生。しかし地震発生から丸1日たってから発見された彼女には
震災当時の記憶がほとんど無かった。そして彼女には昔からとてもハッキリと「空
耳」が聞こえた。
 地方新聞社に勤める辻谷は、過去数年に渡って全国各地で子供が行方不明に
なり、1日ほど経ってから何事もなく保護される、という事件が度々起こっているこ
とに気づく。また同じ頃、定年間近のひとりの刑事がとある事件との関わりから、植
物状態になった患者が回復する方法について調べ始めていた。
 「ハヤブサ」という言葉をキーワードに、偶然が偶然を呼びパズルのピースがおも
しろいようにはまっていく。一体、この世界で何が起こっているのか。

 うーん…
 あちこちで評判がいいのはわかる、気がする。
 でも個人的にはあと少し…。

 なんだかいろいろ欲張りすぎているような気がする。子ども達がたくさん出てくる
のに全然キャラが立っていない。天文台に通い詰めているのに他のメンバーは全
く出てこないし、それとは別に「ハヤブサ」に関わる子ども達も名前ばかりでどうい
う子供なのが具体的にイメージできない。最初から名前が出てくる「ケイちゃん」な
んてもっと重要人物かと思っていたんだけどなあ。

 キャラが立たない原因は、前半がミステリーに重点を置いているからだ。辻谷、
ライターの真山、元刑事の八木が「ハヤブサ」とは何か、という謎を解き明かして
いく過程が中心になるから、実際に「ハヤブサ」の活動にスポットが当たるのは
物語も後半に入ってから。それじゃあキャラが立つわけないのよね…。

 だったら最初から主要メンバーをかほりと満ちる、リン、ケイ、葛木くらいに絞れ
ばよかったんじゃないかなあ…。いや、最初から彼らが主要メンバーなんだけど。
他の子ども達がすごーく取ってつけた感じなのだ。
 だから、最後に彼らがどうなったかが述懐されても、何の感慨も浮かばない…。

 それから、テロの話も舞台から浮いてる気がするなあ。
 そんなにテロが多発するようになってる世の中だったら、もう少し街にも緊張感
とかないのかしら? 話の都合上テロリストを出した、という印象が拭えない。

 なんだか文句ばっかり並べてしまったけれど、読んでいる最中はそれなりに愉し
めた。かほり達の中学生活は微笑ましいし。
 いつか傑作を書いてくれそうな気は、するんだけどな…。