mystery 2004


著者名 タイトル 出版社
矢作俊彦 ロング・グッドバイ 角川書店
森博嗣 地球儀のスライス 講談社ノベルス
森博嗣 まどろみ消去 講談社文庫
ジェフリー・ディーヴァー 魔術師(イリュージョニスト) 文藝春秋
恩田陸 夏の名残の薔薇 文藝春秋
森博嗣 有限と微小のパン 講談社文庫
森博嗣 数奇にして模型 講談社文庫
マシュー・パール ダンテ・クラブ 新潮社
アレン・カーズワイル 形見函と王妃の時計 東京創元社
ピーター・クレイグ ホット・プラスティック アーティストハウス
麻耶雄嵩 講談社文庫
森博嗣 今はもうない 講談社文庫
伊坂幸太郎 グラスホッパー 角川書店
雫井脩介 犯人に告ぐ 双葉社
京極夏彦 百器徒然袋−風 講談社ノベルス
森博嗣 夏のレプリカ 講談社文庫
森博嗣 幻惑の死と使途 講談社文庫
日明恩 そして、警官は奔る 講談社
森博嗣 封印再度 講談社文庫
森博嗣 詩的私的ジャック 講談社文庫
ダン・ブラウン 天使と悪魔(上・下) 角川書店
泡坂妻夫 亜智一郎の恐慌 双葉社
麻耶雄嵩 夏と冬の奏鳴曲 講談社文庫
乾くるみ イニシエーション・ラブ 原書房
乃南アサ 晩鐘(上・下) 双葉社
乃南アサ 風紋(上・下) 双葉文庫
ダン・ブラウン ダ・ヴィンチ・コード(上・下) 角川書店
泡坂妻夫 亜愛一郎の逃亡 創元推理文庫
森博嗣 笑わない数学者 講談社文庫
森博嗣 冷たい密室と博士たち 講談社文庫
泡坂妻夫 亜愛一郎の転倒 創元推理文庫
泡坂妻夫 亜愛一郎の狼狽 創元推理文庫
森博嗣 すべてがFになる 講談社文庫
京極夏彦 陰摩羅鬼の瑕 講談社ノベルス
京極夏彦 百器徒然袋−雨 講談社ノベルス
京極夏彦 今昔続百鬼−雲 講談社ノベルス
伊坂幸太郎 チルドレン 講談社
京極夏彦 百鬼夜行−陰 講談社ノベルス
サラ・ウォーターズ 荊の城(上・下) 創元推理文庫
浅倉卓弥 四日間の奇蹟 宝島社
日明恩 それでも、警官は微笑う 講談社
京極夏彦 塗仏の宴(宴の支度・宴の始末) 講談社ノベルス
東野圭吾 幻夜 集英社
サラ・ウォーターズ 半身 創元推理文庫
歌野晶午 ジェシカが駆け抜けた七年間について 原書房
京極夏彦 絡新婦の理 講談社ノベルス
京極夏彦 鉄鼠の檻 講談社ノベルス
京極夏彦 狂骨の夢 講談社ノベルス
桐野夏生 OUT 講談社
桐野夏生 ダーク 講談社
桐野夏生 ローズガーデン 講談社
京極夏彦 魍魎の匣 講談社ノベルス
桐野夏生 水の眠り 灰の夢 文春文庫
伊坂幸太郎 アヒルと鴨のコインロッカー 東京創元社
松本清張 砂の器 新潮文庫
京極夏彦 姑獲鳥の夏 講談社ノベルス
桐野夏生 天使に見捨てられた夜 講談社
桐野夏生 顔に降りかかる雨 講談社
森谷明子 千年の黙 東京創元社
横山秀夫 クライマーズ・ハイ 文藝春秋



























クライマーズ・ハイ(2003.11)
横山秀夫   文藝春秋


  地方新聞社の記者・悠木は過去に部下を死なせてしまった苦い経験から部下を
持つことを避け続ける40代の遊軍記者。しかし日航機墜落という空前絶後の大事
故の全権デスクに任命され、今までのやり方を変えざるを得なくなる。
 一方墜落事故と同時期に一緒に山へ登る約束をしていた安西は、なぜか約束の
日に待ち合わせとは全く違う場所で意識不明の重態に陥っていた。「下りるために
登るんさ」という謎の言葉を残して…。

 新聞記者の現実を淡々と綴りながらも、日航機墜落という大事故に巻き込まれ、
個人と会社との板挟みになり苦悩しつつも翻弄される悠木と一緒に読者を熱い渦
に巻き込んでいく力作。こんな大事故と同僚の謎の死といういわば個人的なミステ
リを同時に語れるのか疑問に思いつつ読んだが、さすが横山秀夫、まったく違和感
なく二つの糸を1本の物語に織り上げている。新聞記者の目から見る大事故、とい
う切り口に新鮮さを感じた。

 悠木がいくつかの分岐点で悩みつつ選択する結論は妥当かどうかわからない。
が彼がその時点で自分にとってベストな選択をしたのだと納得できる。
 しかし個人的には、悠木に重大な選択を迫る1通の手紙の持ち主にはまったく共
感できないよ…。

 とまれ、読む価値のある一冊と言えるだろう。



千年の黙 異本源氏物語(2004.1.16)
森谷明子   東京創元社


 時は平安。まだ世に出てまもない源氏物語を書く御主をもつ女童・あてきを狂言
回しとし、日常の謎を紫式部が見事に解き明かしていくミステリー。前半は帝の寵
愛する猫の行方不明事件を描き、後半は現代でも結論が出されていない源氏物語
の幻の一帖を巡った謎を描いている。奇しくも年末に読んだ丸谷才一『輝く日の宮』
とテーマが一緒。

 それにしてもいろいろな描き方があるものだ、と思う。丸谷才一は紫式部を道長
の愛人とし、彼の思惑に従って第二帖・「かかやく日の宮」を廃棄することにした。
それに対して森谷明子の描く紫式部はどこまでも自立した女性。自分の書いた物
語が自分の手を離れて変容していくことに悩み苦しむ。道長の人物造形も正反対
と言っていい。それにしても両極端な…。

 個人的にはこちらの紫式部の方が好み。だってあれだけの才能と知性の持ち主
の紫式部が、男のいいなりになって自分の丹誠込めた作品を簡単にカットするなん
てちょっと…ねえ。
 けれどこちらはあまりにも完璧な紫式部すぎる気もする。きっと実際の紫式部は
どちらともまったく違う人物なんじゃないかな…などと思いながら読んだ。
 「雲隠れ」の章はちょっと痛快。

 ミステリとしてはそれほどトリッキーではないし、意表をつくものでもないけれど、
源氏物語が好きな読者なら楽しく読めると思う。平安時代ものにしてはとても読み
やすいし、わかりやすいのでは。源氏ファン、並びに日常の謎が好きな読者にオ
ススメの一冊(笑)。



顔に降りかかる雨(2003.12.26)
桐野夏生   講談社


 いわゆる「ミロシリーズ」の1作目。新宿で以前父親がやっていた探偵事務所に
住み着いているミロは、ある朝突然見知らぬ男達に部屋に踏み込まれる。彼女の
女友達・耀子が大金を持って姿を消したというのだ。行きがかり上ミロは耀子の恋
人とともに彼女の行方を捜すことになる。やがて事件は思わぬ方へ転がりだす…。

 読みすすみながら行方不明事件の顛末になんとも釈然としないものを感じていた
ら、最後にすっかりやられてしまった。そうよね、江戸川乱歩賞受賞作なんだもの。
なぜかミステリとして読んでいなかった…こんなにミステリらしいミステリなのに。

 過去に縛られるミロの前にあらわれる危険だけれど魅力的な男。ミロの心は揺れ
動くんだけれど、なんだかあんまりミロに感情移入しきれなかった。それは硬質な
文章のせいかもしれない。微妙な揺れまであまりにも淡々と語られるので。

 ストーリーは読みやすく、おもしろい。でもちょっと無理があるような気も…。なに
せネオナチまで絡んできちゃうから。今後のシリーズの展開に期待、かな。



天使に見捨てられた夜(2004.1.19)
桐野夏生   講談社


 「ミロシリーズ」第2作。ミロはすっかり探偵になっている。
 彼女の元へ人権擁護団体から一人の少女を捜してほしいと依頼があることから
物語は始まる。彼女の名前は一色リナ。演技とは思えないレイプシーンのあるアダ
ルトビデオに出演していた。
 難航するリナ探し。隣人のホモセクシャル・トモさんとの友情。そして(またまた)
危険な香りのするビデオ制作プロダクションの社長…。

 今回も読んでいて感じたんだけれど、ミロにやっぱり感情移入できない…。理解
できるけれど、共感できない。彼女はあるミスを犯してものすごく悔しい思いをする
んだけれど、そもそもそのミスを犯すその心境が…。
 わかるけれど、共感できないというのは今まで読書をしていてあまり感じたことの
ないことで、なんだか本に拒絶されているような気さえする。大袈裟に言えば。ミロ
がものすごーく硬質な感じなのだ。ミスの後の悔しがり方なんかはかわいいんだけ
ど(笑)。

 ミステリとしては今回もキレイに仕上がっていて楽しめた。雨の化石ってすごくロ
マンチックだわー。ただの被害者だったはずのリナに次々意外な面があらわれて
くるのも物語につり込まれていく。まったく無関係に思えた出来事がどんどん繋がっ
ていく気持ちよさ。
 しかし、ラストはどうなんでしょう。あれでいいんでしょうか。

 感情移入できないできないーと言いつつ、続編も読まずにいられない…。



姑獲鳥の夏(2004.1.21)
京極夏彦   講談社ノベルス


 雑文を書いて生計をたてる関口が友人の探偵・榎木津の事務所を訪れている
と、そこに美しい依頼人・久遠寺涼子が現れた。彼女は妹梗子の婿・牧郎が失踪
した原因を知りたいという。梗子は牧郎失踪直後に妊娠が発覚し、妊娠20ヶ月を
過ぎてもまだ身籠もったままだという異常な状況だった。関口はこちらも友人の古
書店主人にして陰陽師・京極堂を訪ねる。京極堂は言った。「その異常妊娠はお
そらく妖怪・姑獲鳥の仕業に違いない。妖怪などと言うと信じないかもしれないが、
この世には確かにそういうものが存在しているのだ」。関口・榎木津をひきつれて
久遠寺家を訪れた京極堂は家族立ち会いの上梗子の寝室に入り、姑獲鳥を呼び
出すことにする。そこに現れたのはこの世のものとは思えない恐ろしい魔物の姿
だった。京極堂と姑獲鳥との死闘が始まる…。

 …って、わたし、京極堂シリーズってこういう話だと勝手に信じ込んでいた(爆)。
全然違うじゃないの(笑)。
 まあ、ストーリーは全然こういう話じゃないというわけでもないんだけれど、別に
妖怪が出てくるわけではなく、異常現象を理論的に説明するのが柱かな。何故
梗子は20ヶ月以上も妊娠し続けることができるのか。密室で忽然と消えた牧郎
は果たしてどこへ行ったのか。彼は生きているのか、死んでいるのか…。そして
偶然にも牧郎と同窓で、彼から十数年前に梗子への手紙をことづかった関口は
事件とどう関わっているのか。

 しかし、それにしてもこれは…ちょっと無茶な気がするんですが…。ものすごい
力業でなんだか読み終わって呆気にとられた。いくらなんでも当事者の3人が3
人とも…というのはあり得ないんじゃなかろうか。関口の手紙の顛末にしてもこれ
はすぐにわかるよね…。彼のあまりにもヒステリックな対応には読んでいてちょっ
とイライラさせられた。
 でも、イライラさせられながらも、そりゃ無茶だろうと思いながらも、ぐいぐいひっ
ぱられていくそのリーダビリティは凄い。

 2作目と5作目が好評のようなので、もう少しシリーズは追いかけるつもり。



砂の器(2004.2.1)
松本清張   新潮文庫


 昭和三十年代。
 東京・蒲田の操車場で一人の男の惨殺死体が発見される。男の顔は鈍器で判
別できなくなるほどに潰され、さらにその顔が線路の上になるように死体は置かれ
ていた。当初目撃者もあり、早期解決するだろうと見られていた事件は、死体の
身元すら不明のままお宮入りの様相を見せ始める。捜査一課の今西刑事は執拗
に事件を追っていくが…。

 ドラマを先に見てしまっているので犯人がわかっているのがちょっと残念だった
けれど、上下巻のなかなかの大作を一気に読んでしまった。けれど読んでしまって
なんとなく、最初のイメージと内容が違っていて戸惑った。なんというか、わたしは
もっと犯人の心の闇を中心に描いた胸を打つ心理劇のようなものを期待していた
のだ。多分それは、映画やドラマの前評判からわたしの中に刷り込まれた先入観
のためだろう。

 原作の中に犯人側の心理的な描写は一切出てこない。彼がなぜ罪を犯したの
かすら刑事の想像を語っているに過ぎない。
 しかもドラマ(どうやら映画も)では犯人が主人公なのに対して原作では主人公
はあくまでも今西だろう。ここでは困難な事件に対して今西刑事が自分の手と足
を使い、真っ正面からこつこつと捜査を続けていく姿が中心に描かれている。線路
脇を延々と証拠を求めて歩き続ける様子なんてホントに凄いよ…。

 それに名作と言われているわりには偶然が多すぎるような気もする。今西の妹
のアパートに関川の愛人が偶然越してきたり、同様にリエ子も近所に住んでいた
り。紙吹雪の女なんて普通絶対見つからないでしょう。
 ハンセン病(ライ病)に関する記述もまったくと言っていいほど見られない。これ
だと現代の若い人なんかは読んでも犯人が犯行に及んだ動機はもしかすると
理解できないかも…。

 とにかく犯人の犯行に至る動機、犯行後の心理などは一切描かれていないこの
作品は、ミステリとしてはぐいぐい読めてもわたしが予想していたような感動的な
シーンはまったくない。それでも、読んだ後なぜかうーん、とわたしは考え込んで
しまうのだ。

 彼はどんな少年時代を送ったのか。どんな気持で大物政治家の娘と婚約したの
か。彼の今の地位をどんな気持で守ろうとしていたのか…。

 この作品は読者にいっさい説明をしてくれない。そして読者に想像を強いる。
これってある意味凄いことじゃないだろうか。



アヒルと鴨のコインロッカー(2004.2.2)
伊坂幸太郎   東京創元社


 『アヒルと鴨のコインロッカー』。こんな人をくったタイトルがあるだろうか。伊坂幸
太郎はまず、そのタイトルで人をがっちりと掴む。そしてそのタイトルが決して、イン
パクトだけを狙った無意味なものでないことは今までの伊坂作品を読んだことのあ
る人にならわかっているはず。

 仙台の大学に入学して初めて一人暮らしを始めた「僕」・椎名と、ブータン人の恋
人・ドルジと同棲している「わたし」・琴美。物語は2年の月日を隔てた2つの物語
を交互に語ることで進められていく。一見あまり関係があるように思われない2つ
のストーリーを結ぶキーパーソンは椎名の隣人であり、琴美と一時つき合っていた
こともある河崎と、琴美の勤めているペットショップの店長・麗子だ。

 「僕」は越してきていきなり河崎に書店襲撃に誘われ、「わたし」は残酷な犬や猫
の殺害事件に巻き込まれていく。

 伊坂幸太郎と言えば村上春樹を思わせる軽妙な語り口がまず第一の特色だと
思う。今回はその軽妙さはそのままで、今までとは違ったちょっとせつないストー
リー。個人的には『重力ピエロ』よりも好き。『ラッシュライフ』よりは下かな…。
 一見バラバラなピースが最後に美しく1枚の絵に仕上がるあの戦慄にもにた爽
快感は健在だし、何気ない会話が過去の会話を踏まえていたり、思わずニヤリと
するような細かい伏線もたくさん。この人は本当に計算してきっちりと作品を仕上
げている人だなあと思う。さらっと読めるけれど、きっとけしてさらっと書いている
わけじゃないんだろうな。

 ただ、実を言えば伊坂幸太郎の語り口は個人的にはあんまり好きじゃない…。
形容の仕方とか、どうしても村上春樹を連想してしまう。よく、「何気ないけれど
洒落た会話」とか、そういうものが伊坂作品の持ち味として紹介されているけれど、
そんなにシャレてますか?

 これだけ緻密に計算された美しいパズルを書ける人なんだから、次回はぜひ
もっとどっしーんと重厚な作品を書いてもらいたい…なんて、それは単にわたしが
厚い本好きだからか?(笑)



水の眠り 灰の夢(2004.2.3)
桐野夏生   文春文庫


 ミロシリーズ番外編。ミロの父親である村野善三の若き日を描いている。

 そんなに期待しないで読んだんだけれど、もしかしたら本編よりおもしろかったか
も。ミロシリーズが常に読者と一線を画したような雰囲気なのに対し、こちらは存分
にハードボイルドを楽しめる。村善、かっくいーじゃないか。

 舞台は1960年代、東京オリンピックを目前に控え高度成長期まっただ中の都心。
「トップ屋」と呼ばれる週刊誌ライター、村野善三は偶然乗り込んだ地下鉄で、巷で
話題の爆弾魔・「草加次郎」の仕掛けた爆弾の被害を目の当たりにする。彼を追う
調査の日々の一方、村野は父親と衝突して家を飛び出した甥を連れ戻すよう頼ま
れ、その際にひょんなことから見知らぬ少女を一晩だけ預かることに。ところがその
少女は翌日行方不明になった…。

 何というか、当時の熱い雰囲気がそのまま伝わってくるよう。そして、村野と親友の
後藤、そして後藤の恋人早重(さなえ)との三角関係がまた切ない。ミロもちゃんと
出てくるけれど、こんな可愛いミロちゃんが大きくなるとあんなになっちゃうのね…と
思うと感慨深い(笑)。
 後藤が後半村野の取材の関係でとある旅館へ行くんだけれど、その後の顛末に
はかなーりショックを受けてしまった。それだけ物語にのめり込んでいた、ということ
なんだけれど。

 かなりエンタメとして楽しめる一冊。



魍魎の匣(2004.2.11)
京極夏彦   講談社ノベルス


 関東全域で連続バラバラ殺人事件が発生する。刑事・木場は事件の担当となる
はずだったが、命令違反を犯してまったく違う場所にいた。彼は自分が偶然居合
わせた駅での少女の飛び降り事件にのめり込んでいたのだ。そして瀕死の重態
となった少女は、運び込まれた怪しげな箱のような研究所で忽然と姿を消す。ど
の事件にもちらちらする手袋をはめた黒衣の男の姿。すべての事件には関連が
あるのか。それとも偶然の一致に過ぎないのか…?

 いやー長かった。
 けれど断然おもしろかった。姑獲鳥でやめなくてよかった…。
 確かにネタをばらすと無茶苦茶な話なんだけれど、こっちはそれがまったく気に
ならない。これが京極ワールドか…なんてその世界に酔えすらする。いくつもの事
件が交錯するのに混乱することもなく、それぞれの登場人物がまた魅力的。今回
は主に木場のストーリーと言えると思うんだけれど、いろんなエピソードがすべて
「箱」に絡んでくるのがうまい。どれも不自然でなく箱に絡んでくるから、どれもが
事件に関係ありそうで、なさそうで、読者に簡単に先を読ませないのだ(というか、
この話も姑獲鳥も、途中でタネがわかった人がいたらゼヒ教えていただきたい…)。

 作中で久保氏の書いた「匣の中の娘」前編、わたしは結構好きだったな…(笑)。
後編はちょっといただけないけど。



ローズガーデン(2004.2.15)
桐野夏生   講談社


 ミロシリーズ4冊目。4編の短編からなる本書のうち、表題作「ローズガーデン」
だけが、ミロの一人称による探偵小説から外れて、ミロの夫となる博夫とミロとの
出会いから始まる物語が博夫の視点で描かれている。

 アドバイスに従って「ローズガーデン」を飛ばし、「漂う魂」、「独りにしないで」、
「愛のトンネル」を順に読む。ふむふむ。今までのミロシリーズをコンパクトにしたよ
うな短編だ。特別に変化した点は見られない。そして、満を持して「ローズガーデン」。
た、確かにこれは…今までと全然作風が違いますな。というか、これは一作目で
ミロの過去の心の傷としてちらっとしか描かれていなかった博夫、彼の物語であっ
て、ミロの物語ではないでしょう。まあまとめてしまえばミロシリーズだけどね…。
『水の眠り 灰の夢』だってそれを言ったらミロシリーズじゃないし。

 かなり賛否両論侃々諤々な本書のようだけれど、個人的にはそんなに衝撃的
ではなかった。いや、あまりにも読む前に評判を聞きすぎていたからかも…。
ミロと村善との関係など、確かに今までのミロシリーズからは違和感を感じないで
はなかったけれど、でもミロにこういう過去があったとしても別にそんなにおかしい
ことじゃない。少なくともミロは禁欲的な女ではないし、もともと読者の感情移入を
拒むような、内面を見せない部分があると感じていたから、ああ、昔はこんな少女
だったのねー、みたいな。
 まあミロに関しては、今後『ダーク』でどう変貌しているのか、楽しみ。

 そしていろいろ書評を見て回って思ったのは、この作品、ミロシリーズのファンに
はかなり否定的に受け止められているのに、ミロシリーズを知らない読者は肯定
的な意見が多いこと。つまり、「オレ(わたし)の知ってるミロはこんなじゃない!」
ってことなんだろうか。
 わたしは今までまったく印象の薄かった博夫がいきなり人間的に生き生きと浮
かびあがってきて、おおっ、とわりと好印象を持ったんだけれど。でも『水の眠り…』
で甥っ子の面倒を一生懸命見ていた村善が、義理の娘のミロを早重の付属物と
しか見ていなかった、というのはある意味悲しかったかな…。



ダーク(2004.2.23)
桐野夏生   講談社


 ※※以下の文章にはネタバレが含まれています!※※

 厳密にはミステリとは言えないけれど、ミロシリーズということでこのカテゴリに。
 ミロシリーズ5冊目、最新作。「40歳になったら 死のうと思っている」のコピー
が衝撃的だった。

 38歳になったミロは、ふとしたことから友部の死を知り衝撃を受ける。そして彼
女は突発的な行動に出る。友部の死をミロに隠していた義父・善三の住む小樽を
訪ねたのだ。善三は誰にも告げることなく、ミロと同じ年の盲目の女・久恵と暮らし
ていた。そして善三は死に、ミロは姿を消す。半狂乱となった久恵はかつて善三と
働いていた鄭に連絡を取り、ミロを執拗に捜し始める。

 噂に違わず、壊れてるかも…。誰も彼も変貌していく。一番驚いたのは今回初
めての登場にもかかわらず久恵の変貌ぶりかも…。いや、でもやっぱりショックだっ
たのはトモさんの変貌ぶりか。言葉もない…。

 まさに先の読めない展開で、ぐいぐいと読めるんだけれど、本当にタイトルの通り
誰も彼もがダークな部分をこれでもかと見せつける感じ。そんな中でミロと鎮浩の
愛だけがピュアだ。いつも感情移入できないミロだけれど、この作品のミロが一番
わたしにとってはわかりやすかったかも…。慣れてきた?(笑)

 それにしてもミロはそんなに友部のことが好きだったんだろうか…。全然そんな
風に見えなかったよ…。
 まあ、ここまできたらホントにとことんミロにはつき合いたい気持にさせられる。
もうどんな展開になったって驚かないぞ!(笑)



OUT(2004.2.24)
桐野夏生   講談社


 ※※以下の文章にはネタバレが含まれています!※※

 深夜のコンビニ弁当工場でパート勤めをする雅子、ヨシエ、弥生、邦子。年齢も
境遇も異なる4人に共通しているのは、逃れられない閉塞した現実。そんな現実
をうち破るきっかけはある日突然訪れた。弥生が夫を発作的に殺害したのだ。
自分でも理由がわからないまま雅子は弥生を助けるため死体の処理を引き受け
る。事件はヨシエと邦子も巻き込み、思っても見ない方向へと転がり出す…。

 いやーなんでずっと読まなかったんだろう、くーっ。
 とにかくホントに先の予測がつかない展開にぐいぐいと飲み込まれてゆく。作者
の力業にねじ伏せられていくかのよう。誰も彼も自分のことばかりで、彼女たちの
悲痛な叫びが聞こえてくるようで、エゴの衝突を見せつけられるようで、こんな人
たち会っても好きになれないだろうなーという人間ばかりなのに目が離せなくなる。
現実にいそうな人たちばっかりなんだもん…。

 とにかく残酷描写の噂がすごくて、痛いのが苦手なわたしはずっと手が出せな
かったのだけれど、結構平気だった。気がついたんだけれど、わたしって生きてる
人間がなぶり殺されたりするのはホントにダメだけれど、死んでる人間を解体する
分には結構大丈夫なのかも…痛くないから。いや、でもそういう場面は斜め読み
なんで大きなコトは言えないんだけれど。

 それにしても展開の仕方がすごい。
 4人の女がふとしたことから一緒に罪を犯す…ところまではいいとして、この4人
がまったく結束しない(笑)。一人はすっかり自分だけ無実なような気になるは、
一人はいつまでもくよくよするは、一人はあろうことか自分も共犯なクセに他の人
を強請ろうとするは…。
 そして事件がとある人間にばれてしまい、すわ、追いつめられるのか!?と思う
とその人間が感激して仕事を依頼してきたり…。
 それって普通の小説だとちょっとないだろう、と、いい意味でびっくりの連続。

 ラスト近くの対決場面の顛末も、そんな本ないだろ普通!という感じ。
 それでもそんな展開が、異常だけれど理解できてしまう。

 とにかく最初から最後までハラハラドキドキ、エイターテインメントとしても一級。
登場人物のキャラも誰も彼もすごく人間くさくていい。考えてみるとできた人間は
一人も出てこないのね…(笑)。
 ラストもあれでよしとしましょう。佐竹はどうしたんだろう、とかかすかなギモンも
頭をよぎることはよぎるんだけどね…。まあ、それはこれだけの本の前には些末
な疑問かな。



狂骨の夢(2004.3.1)
京極夏彦   講談社ノベルス


 ヒマな釣り堀の主人、通称いさま屋こと伊佐間一成は、ふらりと釣りに出かけた
旅先の海岸で不思議な女・朱美と知り合う。突然の発熱で成り行きから朱美の家
で一晩世話になった伊佐間は、彼女の口から世にも奇妙な話を聞く。彼女は奉公
先にいるときに実家が全焼し、天涯孤独となった彼女が奉公先から嫁に出しても
らった先では彼女の夫が結婚早々兵役に取られることとなり、ところが兵役忌避
で逃げ出した夫は首なし遺体で見つかった…というのだ。

 一方、とある教会に身を寄せ懺悔の聞き役のようなことをしていた降旗弘は、
朱美と名乗る女性から伊佐間が聞いたものと同様の告白を受ける。しかし彼女
の話を一緒に聞いた牧師の白石は、ただならない様子を見せ、その日を境に様
子がおかしくなった…。

 そして幻想小説家・関口巽は、同じ小説家としては大家の宇多川から相談を受
ける。彼女の内縁の妻である朱美の様子がただならない、というのだ…。

 今回のキーワードは「髑髏」。とにかくたくさんのエピソードが錯綜し、それが一
本に繋がっていくのは見事…なんだけれど、今回はエピソード多すぎ。すべての
謎が解明されても、「あっそんなこともあったっけ、え、それって何だっけ、ああ、
あれか」と考える方に頭がいってしまい、カタルシスを得ることができなかった。

 そして今回一番の的はとにかく眠気(笑)。テンポの問題? 前2作ではたとえ
蘊蓄が多くても眠くなったりすることはなかったんだけど…体調の問題?(笑)

 でもまあ、これでいよいよ次は『鉄鼠の檻』だー!



鉄鼠の檻(2004.3.21)
京極夏彦   講談社ノベルス


 年が明け、松もとれたころに関口は京極堂から箱根旅行に誘われた。箱根山中
で土砂に半ば埋もれた倉が発見され、そこから和・漢籍の本が大量に見つかった
ということで、土地の持ち主から本の売却のための鑑定を依頼された京極堂は妻
の慰労も兼ねた箱根旅行に関口夫妻も同行しないかと言ってきたのだ。

 一方京極堂の妹・敦子は禅を科学的に検証する、という雑誌企画のため、鳥口
を伴い同じく箱根山中の無名の禅寺に向かう。そこで取った宿で敦子は偶然にも
久遠寺老人と再会を果たす。そしてその宿に、忽然と僧の死体が現れた…。

 長かった…。読んでいる最中、なんど意識が遠のいたことか(笑)。仏教に詳しく
ないわたしには、禅の蘊蓄はかなーりきつかった…。そして、登場人物の多いこと
多いこと!! 人間関係の把握に苦戦しまくり。

 今回は京極堂は初めて憑き物落としに失敗。こんなこともあるのねー。久遠寺老
人が再登場してきたのにびっくり。そして意外な「姑獲鳥」の登場人物の再登場に
さらにびっくり。鈴子と鈴の関係は、わたしは久遠寺老人とほぼ同じことを考えてい
たので、ちょっとだまされたなー。

 ここまで読んできて、やっぱり個人的にはわたしは「匣」が一番好みかな。
 次は『絡新婦の理』、行きまーす。



絡新婦の理(2004.4.1)
京極夏彦   講談社ノベルス


 うん、これは面白かった!
 冒頭、いきなり最後の対決から書き出される辺り、びっくり。しかもそれがうまく物
語の導入として生きているのに、なおかつ最後まで読んで読み返すとなるほどなー、
と唸るような話になってるのだ。今回は眠くなる隙なし(笑)。

 女性の目をのみのような物で突き刺して殺す連続殺人。犯人は最初の被害者の
父親の店子である平野だと思われたが、4人目の殺害現場で刑事の木場は友人・
川新のものと思われる黒眼鏡を発見する。川新の事務所へ向かった木場は、彼が
逃走する場面にばったり出くわし、「蜘蛛に聞いてくれ」との言葉を残して彼は姿を
消す。
 一方房総のはずれにある寄宿舎制の女子中学校、聖ベルナール学園では、「蜘
蛛の僕」というグループが呪いの儀式を行っている、という噂があった…。

 今回はすべての事件が蜘蛛の糸によって織り上げられている。事件の構造も蜘
蛛の糸なら、ベルナール学園の教会の十字架の裏に住むのも蜘蛛、事件と深くか
かわる織作姉妹の住む家も蜘蛛の巣館。榎木津探偵大活躍。

 とにかく並行する事件が複雑に絡み合い、登場人物もむちゃくちゃ多くて、読んで
いて混乱しそうになるのにそれがきっちりわかるように語られていて、しかもキレイ
に集結していくさまは見事。犯人はわりと早くにわかっちゃうんだけれど…まあそん
なことは大きな問題じゃない。美しい桜の下で巣をかけて獲物をまつその美しさが
堪能できればそれでいいのだ。「桜の樹下には屍体が埋まっている!」と叫びたく
なりますなあ。

 この季節に読むのにはふさわしい。ただ、ひとつだけどうしても気になってわから
ないことが。(以下ネタバレにつき反転)

 茜の父親がどうしてもわからないんですけど!!!
 本人が「石長比売の末裔」と言っているんだから、織作の血をひいているの…?
 誰か教えてー!!!!




ジェシカが駆け抜けた七年間について(2004.4.12)
歌野晶午   原書房


 書いてたらむちゃむちゃ辛口になってしまった…。この本が気に入っている方、読
む予定のある方、読まない方がいいです。いやホントに。



 「カントクに選手生命を台無しにされたと、失意のうちに自殺したアユミ。…それか
ら7年、ジェシカは導かれるように、そこへやって来た。目の前には背中を向けてカ
ントクが立っている。ジェシカは側にあった砲丸に手を添える。…死んだ彼女のため
にしてやれることといえば、もうこれしかないのだ。」(表紙見返しより)

 …これってミステリ?
 紹介文がむちゃむちゃ上手いというか、ズルイんですけど。
 でも、内容的には全然トリックらしいトリックなんてない。あるのは叙述のひっかけ
だけ…。

 殺されたカントクの人物が全然見えてこない。周囲に語らせる形になってるんだけ
れど、これが全然浮かび上がらないのよ…。ただの論理だけで感情のない人間な
のか? 本当に日本陸上界をそこまで恨んでいるのか? 全然わからない。アユミ
が一方的に勘違い的に恨んでいたような印象を拭えない。ジェシカがそこまでアユミ
の死を悲しまなければならなかった理由も説得力が足りない気がする。そして、「ハ
ラダアユミを名乗る女」の章。これって必要??? 単に読者のミスリードを誘うため
だけにまるまる一章費やしてるんじゃないのかな…。

 確かにウマイのかもしれないけれど、読み終わって「はあそうですか」みたいな…。
『葉桜〜』もあざといと言えばあざとかったけれど、読了感はすごくよかった。けれど
この作品には読んだ後、残るものがない。思いついた叙述トリックを使いたいためだ
けに、この本ができたのかな…。なんとなく本末転倒?

 個人的には、こういうのは好きじゃない。



半身(2004.4.17)
サラ・ウォーターズ/中村有希・訳   創元推理文庫


 時は1870年代のイギリス。そろそろ老嬢の域にさしかかるマーガレットは、苦い
過去の体験に捕らわれていた。そして彼女は慰労先の監獄で、ひとりの不思議な
霊媒の少女・シライナと運命的な出会いを遂げる。ふたりはいったいどこへ流され
てゆくのか…?

 ゴシックホラーな雰囲気たっぷりのミステリ。『五輪の薔薇』とか好きな人にはぴっ
たり。何を書いてもネタバレになりそうで難しいのだけれど、とにかくこの驚愕のラス
トを予想できた人っていったい何人いるのかしら!? わたしは読了後、しばし呆然
自失でしたわ…。

 過去にとらわれ、家に縛り付けられるマーガレットがシライナに徐々に惹かれてい
く様子は読んでいて鳥肌が立つほど美しくも恐ろしい。何が起こるかわからない…
その真っ暗闇を手探りで進んでいくようなスリリングさがたまらない。降霊会だの霊
の残した手形だのその怪しい小道具がまた、怪しい雰囲気を醸し出している。時代
がそういう小道具とぴったりマッチしているのよね…。

 物語はマーガレットの日記と、それより以前のシライナが投獄前につけていた日
記とが交互に挟まれる形で進む。そして最後に明かされる「半身」の本当の意味…。

 このラストはね、個人的にはかなーりつらい。
 読んだ感想を誰かと語り合いたくなる一冊。



幻夜(2004.4.21)
東野圭吾   集英社


 ”名作「白夜行」から4年半。あの衝撃が、今ここに蘇る。”という帯に、これは絶
対読まねば!!と思ったのだけれど。

 読み終わってみれば、ああ、わたしが間違っていた…と思う。あの『白夜行』に、
続きなんて求めちゃいけなかった。巷では評判いいみたいだけれど、そしてもちろ
んさすが東野圭吾、ページを繰る手をけして止めさせないリーダビリティとレベルの
高いエンターテインメントを提供しているのだけれど、それでも、やっぱり、『白夜行』
の続きはいらなかった…。

 未曾有の災害、阪神大震災の朝。雅也が衝動的に行った行為を、ひとりの女が
見つめていた。彼女の名前は新海美冬。雅也同様被災者であった彼女は、雅也
に一緒に街を出ることを提案する。そして二人の行く末には…。

 これって『白夜行』の焼き直し…みたいだ。そして、あの胸に迫る哀しさ、のような
ものが、『幻夜』からはすっかり抜け落ちている。美冬の洗練(?)された生き方だ
けが目について、ラストも、まあそうだろうね…というような。

 なかなか上手に言えないけれど、例のあの人とあの人はやっぱり同一人物なん
だろうな。そうだとして、『白夜行』から想像できるその先の域を、この作品は出て
いないと思う。さらに続編を望む声も大きいようだけれど、わたしはもう止めて欲し
いなー。



塗仏の宴 −宴の支度・宴の始末−(2004.5.24)
京極夏彦   講談社ノベルス


 静岡のとある山奥で全裸の女性の遺体が木に吊されていた。警察はその場に
いた男を現行犯で逮捕。ところがその男は何を言っているのかさっぱりわからない。
一方時を前後して、奇怪な宗教団体が少しずつ規模を大きくしていきつつあった。
彼らの鳴らす楽器の音は街に不穏な空気をもたらした。
 関口が、木場が、敦子が、鳥口が、青木が、それぞれにそれぞれの事件に巻き
込まれていく。京極堂シリーズオールキャストで繰り広げられる壮大な宴。果たし
てこれは誰の事件なのか…?

 とにかく今回はスケールが大きい。上巻にあたる「宴の支度」だけでは事件の全
容がさっぱり見えてこない。けれど何がどうなるのか?という期待感は十分。
 連作短篇のような構成の「支度」に対し、「始末」は広がるだけ広がった話を一気
に畳み込む形。今回は、面白かった部分と不満だった部分が同じくらいの重さで
一言で感想を言うのは難しいかなあ…。

 「支度」のわくわく感は今までのシリーズの中でもかなり上位だった。序盤でいき
なり怪談チックな話の展開にすっかり捕まった。次々と語られる無関係なようで微
妙に接点のある話、そして最後の章でのどんでん返し(?)。
 それが「始末」になるとすっかり記憶改ざんの話に落ち着いてしまって、ちょっと
それが物足りない。それでも榎木津が京極堂をそそのかしたり、終盤でどんでん
返しがあったり、「おおっ!」と思う場面もたくさんあるのだけれど。
 ただ、あまりにも今回登場人物が多すぎて何がなんだかわけがわからなくなる
のも確か。オールキャスト登場はちょっと無理ヤリっぽくないか? ただでさえ人
数多いんだから…。
 実はわたしは読み終わってしばらく、「岩川って誰!!」と考え込んでしまった(笑)。

 それに今回の京極堂の憑き物落としはちょっと物足りないよ〜〜。もっとびしっ
とバシッと決めてほしかった…。とある重要人物の憑き物を落とした時も「そんな
落とし方で本当に落ちたのか? 警察の取り調べじゃあるまいし、”淋しかった…”
ってアナタ…」みたいな感じだし、一番落として欲しい憑き物は落ちてないし!!

 今後彼との対決が柱になってくるのかなーと思うんだけれど、なんだかそれって
すこし展開がドラゴンボールチックじゃないか?(笑) いや、次作読んでないので
わかりませんが…。

 そして最後に、反転でちょっとネタバレ。↓

関口をちゃんと出してやってから終わってくれ〜〜!!!!!



それでも、警官は微笑う(2004.5.27)
日明恩   講談社


 1年前殺害された不法滞留外国人女性。彼女の死を追う警察官・武本と潮崎の
コンビは、凶器の銃と同型と思われる銃を所持するミチオを追っていたさなかの
アクシデントから麻薬取締官である宮田と出会う。彼は恩師の自殺の汚名をすすぐ
ために人生を変えた男だった。

 勢いでサクサクっと読めてしまう第25階メフィスト賞受賞作。ちょっとご都合主義
だったり「?」な部分もあったりするのだけれど、おしゃべりで博覧強記で軟弱な旧
家のお坊ちゃま、潮崎のキャラは今までどんな小説でもお目に掛かったことがない。
いろんな作品としての欠点が彼のキャラだけで帳消しにしてもいいか…と思うほど。
いや、個人的に好きなキャラクターじゃないんだけどね…(笑)。

 無骨で真っ直ぐであだ名が「キチク」な武本、とにかく思いこんだらどんな障害も
乗り越えて突き進む宮田、彼らを暖かく見守ってくれる上司や同僚たち、そしてス
マートで冷血な林。みんなそれなりに魅力的なんだけれど、小説としてはちょっと
さらっとし過ぎているような。
 でも、シリーズ物のようなので、これからに期待。

 岩崎白日夢警視もいいけれど、潮崎にはぜひこち亀の中川巡査を目指してもら
いたい!



四日間の奇蹟(2004.6.2)
浅倉卓弥   宝島社


 第1回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
 ある事件がきっかけで指を失ったピアニストと、同じくその事件がきっかけで彼に
保護されることになった知的障害を持つ少女。彼女はサヴァン症候群でピアノに
対して天才的な才能を持っていた。そしてある時、慰問に訪れた脳障害者たちの
入居する施設で、ふたりは奇蹟を体験することになる…。

 まったくミステリーじゃないんだけれど、いちおう「このミス」大賞なのでミステリー
に分類しておくことに…(笑)。

 ちまたでかなり評価の高い作品。公募で大賞を取っただけあってこの作品がデ
ビュー作になるのだけれど、内容・文章ともに新人とは思えない、ともっぱらの評判。
では個人的にどうだったかというと…。

 ごめんなさい、そんなに感動しなかったわ…(苦笑)。
 「とある有名作品とモチーフが一緒」というのを前評判として聞いていたのだけれど、
まあモチーフが一緒なのはそれほど気にならなかった。それよりも、前半、いつまで
たっても物語が始まらないことにまず辟易。とにかく説明的な話が多すぎて、あんま
り入り込めなかった。施設の世話役でキーパーソンでもある真理子のおしゃべりには
参った…。彼女がしゃべりにしゃべることで、主人公達が訪れることになった施設に
ついての説明がされるのだけれど、ちょっとあまりも説明が多すぎないか??

 「奇蹟」が起こってからのストーリーはおもしろかった。彼女の絶望、葛藤、それか
ら希望を見出すまでの心の動きには引き込まれる。彼女がやがて主人公にも影響
を与えていくのも頷ける。

 けれど…最後もちょっと説明が多すぎると思うんですが…。
 個人的には、ラストはぱっとクライマックスで切り上げて、千織と啓輔がどうなった
のかは、読者の想像にゆだねる…という形でも良かった気がする。あまりにも最後
まで説明してくれてそれも個人的には少し興ざめだった。やっと気持が盛り上がった
というのに…(涙)。

 この半分の長さで、前と後ろはばっさり切ったらダメでしょうか(笑)?



荊の城(上・下)(2004.6.24)
サラ・ウォーターズ/中村有希・訳   創元推理文庫


 『半身』に続くサラ・ウォーターズの話題作。舞台は前作と同じく19世紀半ばのイ
ギリスで、前作と同じく狭い世界に生きる女性同士の…というものなんだけれど、
二匹目のどじょうと侮るなかれ。まったく違う世界が広がっているのだ。

 ロンドンの下町の故買屋で生活するスウ。彼女は孤児ではあるけれど、女主人
にかわいがられ、それなりに楽しく暮らしていた。そこへ<紳士>が現れ、スウに
仕事を依頼する。郊外の城に住む莫大な遺産を相続する予定の令嬢を騙して結
婚し、財産を奪って精神病送りにするという計画に、令嬢の侍女となって手を貸し
てほしい…。
 迷いながらも礼金の額に目がくらみ、屋敷へ入り込むスウ。しかし運命は彼女
の思っても見なかった方向に転がり始める…。

 できればな〜〜んの前知識もなく読んで欲しい。話がどう転んでいくのか全然わ
からないから!!
 正直第一部のラストは予想できる範囲で、それなりに話もまとまっていて、「え、
ここで話をまとめちゃって、これから残り4分の3はどうやって話が展開するの?」
と思ったんだけれど、第二部を読み始めたら仰天。さらにさらに第三部で…。

 最初は怪しげな雰囲気のゴシックホラーチックミステリなんだけれど、気がつくと
なぜかアドベンチャーに! そしてラストは怪しくも美しく…と、1作で何種類も楽し
めるお得さも(笑)。
 なかなか世界に入り込めなくて第一部は苦戦したものの、第二部に入って以降
はページを繰る手が止められず、結局一気読み。気になってはいるけれど長さが…
と躊躇している人はゼヒゼヒ、迷わずに読むことをオススメ!



百鬼夜行−陰(2004.6.27)
京極夏彦   講談社ノベルス


 『姑獲鳥の夏』から『塗仏の宴』までの京極堂シリーズの登場人物をとりあげた
サイドストーリー集。本編に描かれなかったさまざまな繋がりや、描かれた行動を
起こすまでの経緯、などが緻密に描かれていて、京極堂シリーズファンなら多分
かなり嬉しい一冊。

 ただ、正直「内輪受け」的な印象を受けた。京極堂シリーズを知らない読者には
たぶん面白くも何ともないんじゃないかしら…。一応ミステリに分類したけれど、
タイトルに「妖怪小説」と謳っていてそのとおりミステリ的な要素はまったくない。
話もオチがなくて唐突に終わってしまう(もちろんシリーズ読者には、「ああ、それ
でこうなったのね…と納得できる終わり方)。

 そして、すごーくよく考えられていて緻密な世界が作り上げられているんだけれ
ど、そのすべてが「みっしりと」書き込まれてしまって、余白がない感じ。つまり、読
者の想像の余地がもうほとんど残されていない。

 なんというか、同人紙的。
 個人的には、読まなくてもよかったかなあ…と思う。
 まあでも、次のサイドストーリー集も読む予定なんだけど(笑)。