horror 2004


著者名 タイトル 出版社
小野不由美 魔性の子 新潮文庫
津原泰水 綺譚集 集英社
恩田陸 Q&A 幻冬舎



























Q&A(2004.8.10)
恩田陸   幻冬舎


 それでは、これからあなたに幾つかの質問をします。ここで話したことが外に出
ることはありません。質問の内容に対し、あなたが見たこと、感じたこと、知ってい
ることについて、正直に、最後まで誠意を持って答えることを誓っていただけます
か−。
 こんな出だしから始まる本作品は全文がQ&A形式で綴られている。質問者も
回答者も代わりながら、少しずつ浮かび上がってくるのはとある大型スーパー、
Mで起こった不可解なパニック事件。最終的に60人を越える死者と100人を越え
る負傷者を出したこの事件は、殆どの死者がパニックにより転倒したために死亡
しており、警察や消防がいくら調査してもそのもともとのパニックの原因が突き止
められないという前代未聞の出来事だった。

 読んでいて背筋がゾクゾクした。
 この世に恨みをもった死者が出てくるのでもない。何を考えているのかわから
ない冷徹な殺人鬼が出てくるのでもない。けれど怖い。この怖さは、いつ自分に
降りかかるかも解らない不条理な死がまさに自分と背中合わせに存在すること
を否応なく認めさせられる怖さだ。

 そして、読み進んでいくうちに浮かび上がってくるのは事件だけではなく、回答
者の、そして時には質問者の闇だ。読者を不安にさせずにおかないこのストーリ
ーテリングはまさに恩田陸の得意技。

 ただね…。
 だんだん話が進むにしたがって、どんどん焦点がぼやけていく。少しずつ話がず
れていく。そのずれは狙っているというよりは、ホントに作品としてずれてきちゃっ
てるよ…という感じ。以前読んだ村山由佳の『星々の舟』のような。

 別にパニックの原因がはっきりしないとダメよ!とか、起承転結できっちりオチが
つかなくっちゃ!とか言っているわけではない。ずれてきてるよ…という中にも、ド
キッとするような話はたくさんでてくる。けど、その話はこれとは別だよね…という、
居心地の悪さ。最後のQ&A(これってQ&Aなのか??)なんて、なんだかもう最
初と全然違う作品のようだ…。

 個人的には、質問者の立場は最後まで統一されていてほしかった。これじゃあま
りにもなんでもありでしょう。最後まで質問者の立場が謎に包まれていたっていい。
それはそれで怖いしね…。

 ああ、こんなに怖くてゾクゾク・ドキドキするのに。残念。



綺譚集(2004.10.6)
津原泰水   集英社


 初めて読む津原泰水。
 まず、手にとってカバーの写真にうっとり。
 タイトルの文字の美しさにうっとり。
 カバーをはずしてまたうっとり。
 そして本文を読み始め…やっぱり最後までうっとりとしてしまう。

 知らなかった。津原泰水ってこういう作家だったのね…。
 ホラーと言うよりは幻想小説、耽美小説、いやもしかするとファンタジー小説…。
とにかく妖しくも恐ろしい世界へ、あっという間に引きずり込まれた。何がそんな
に恐ろしいのか。ずぶっとはまったら最後、出られなくなりそうなのだ。
 「その世界」とこちらの世界には、境界らしい境界などない。普段の道を何気な
く歩いて、いつもの角を曲がったら、そこは突然異世界なのだ。いや、そんな自覚
すらない。普通に曲がって普通に進んで、気がつくと「あれ、なんだかいつもと違う
気がする…でも何が違うんだっけ…というか、いつもの世界ってなんだっけ…」と
いう具合に、うっかりするとこちらも「その世界」の住人になってしまいそうなのだ。

 あちこちバラバラに発表された短篇を集めたとのことだけれど、まったく違和感
なく続けて読めてしまう。どの短篇も、出だしの文章で一気に掴まれてしまう。
「死」を扱った作品が多いのだけれど、ここでは「生」と「死」はほとんど何の違い
もないかのように扱われている。少なくとも、「生」と「死」は対称概念ではないよ
うな気がする。

 妖しくて、グロテスクで、なおかつ美しい世界。
 どっぷりと「読書」に浸れる一冊。

(収録作:「天使解体」、「サイレン」、「夜のジャミラ」、「赤假面傳」、玄い森の底から」、
「アクアポリス」、「脛骨」、「聖戦の記録」、「黄昏抜歯」、「約束」、「安珠の水」、
「アルバトロス」、「古傷と太陽」、「ドービニィの庭で」、「隣のマキノさん」)




魔性の子(2004.11.20)
小野不由美   新潮文庫


 十二国記シリーズ外伝にあたる本書。でも出版は十二国記シリーズが発表さ
れる以前、しかもこの作品と対になる(?)べき『黄昏の岸 暁の天』はなんと、
この本の10年後に出版されたのよね…。いやー、その構想力たるや。

 本当はシリーズ外伝にあたる、ということでファンタジーの棚に収めるべきなん
だろうけれど、これはやっぱり、ホラーでしょう。読み始めはかなり怖くて(なんせ
根が怖がりなわたし…)、一瞬読むの止めようかと思ったんだけど、ちゃんと読み
終われてよかった…。

 母校の教生として教壇に立つことになった広瀬は、担当の教室で異質な少年、
高里と出会う。彼は幼少の頃に神隠しにあい、1年後に失踪した時と同じように
唐突に戻ってきた過去を持っていた。彼には表立っては語られない噂がつきまと
う。いわく、「高里は祟る」…。
 高里に何か自分と似たものを感じる広瀬。次第に高里に近づいていく彼は、や
がて高里の「祟り」を目の当たりにすることになる。

 これは十二国記を読んでから読むのとまったく予備知識なく読むのではまったく
印象が変わってくるだろうなあ、と思う。
 わたしは前者なので、外伝としてかなり愉しませてもらったけれど、もしも何も知
らない状態で読んだらたぶん、いったいどう評価すべきか戸惑ったのは間違いな
い。これだけでは説明不足で、きちんと世界が説明されていないからだ。
 特に怒濤の展開のラスト間近で、いきなり説明のない単語がばばばっと出てく
るあたりは、こりゃシリーズ読者じゃなければわけがわからない。シリーズがわかっ
ているなら逆にこの辺りで「おおおお〜」ってなるんだけれど。

 個人的には広瀬は本当に哀しい。
 たくさんの人が、「ここではないどこか」を切実に求めているんだろうな…。