fantasy 2004


著者名 タイトル 出版社
小野不由美 華胥の幽夢 講談社X文庫WH
小野不由美 黄昏の岸 暁の天(上・下) 講談社X文庫WH
小野不由美 図南の翼 講談社文庫
小野不由美 風の万里 黎明の空(上・下) 講談社文庫
小野不由美 東の海神 西の滄海 講談社X文庫WH
小野不由美 風の海 迷宮の岸(上・下) 講談社X文庫WH
小野不由美 月の影 影の海(上・下) 講談社文庫
ジズー・コーダー ライオンボーイ 講談社
小路幸也 空を見上げる古い歌を口ずさむ 講談社
梨木香歩 家守綺譚 新潮社
乙一 きみにしか聞こえない 角川スニーカー文庫
ジョナサン・ストラウド バーティミアス-サマルカンドの秘宝- 理論社
上橋菜穂子 狐笛の彼方 理論社



























狐笛の彼方(2004.1.26)
上橋菜穂子   理論社


 <聞き耳>の能力を受け継いでしまった小夜は、他人の心の声が聞こえてしまう
能力を持っている。彼女は里のはずれの森近くに産婆のばあちゃんと二人で住ん
でいた。ある日彼女は猟犬に追われる怪我をした子狐を助け、森の中の誰も近づ
かない屋敷に住む謎の少年に匿われる。少年は屋敷にずっと閉じこめられており、
屋敷に遊びに来てほしいと小夜に頼む。その事件が二人と一匹の運命を大きく変
えていくことに…。

 上橋菜穂子初の一般書は、守り人シリーズを彷彿とさせるファンタジー。といって
もこちらには守り人シリーズのバルサのような超人的な人間は出てこない。誰もが
弱く、苦しんでいて、それだからこそ憎みあってしまう哀しさを描いている。完全な
善人も完全な悪人もいないから余計につらい。

 ただ、とてもキレイにまとまった話で世界観も深く、しかも読みやすいのにナゼか
物足りない印象。どうしても守り人シリーズと比べると弱い感じ…。ラストがちょっと
安直なのかな? すごく残念…。



バーティミアス−サマルカンドの秘宝−(2004.4.16)
ジョナサン・ストラウド/金原瑞人、松山美保・訳   理論社


 半人前の魔術師・ナサニエルに召還された2流のジン・バーティミアス。彼がナサ
ニエルから受けた命令は、よりにもよってサマルカンドのアミュレットを盗み出すこ
とだった。
 事件は思わぬ大がかりな事態に発展し、ナサニエルとバーティミアスはともに窮
地に陥れられることに…。

 この主人公(?)の少年、ナサニエルの人物造形がいい。単なる正統派の少年で
はなく、やたらと自意識過剰で、上昇志向で、野心が強くて自分勝手。それなのに
小心者で卑屈な面や、あまつさえ正義感まで持ち合わせている。児童向けファンタ
ジーではありえないようなキャラクター(笑)。
 対するバーティミアスもやたらと自信家だけれど結構愛嬌があって、なんだかんだ
いいながらナサニエルに振り回される様子がいい感じ。

 まだまだ残された謎も多く、3部作という話なので、とりあえずこれから物語がどう
展開していくのか、興味を持って見守りたいところ。
 個人的にはハリポタよりはかなり高得点かなー?



きみにしか聞こえない(2004.5.28)
乙一   角川スニーカー文庫


 乙一の「せつない系」2冊目の読書は3つの中篇からなる中篇集。表題作である
「きみにしか聞こえない-CALLING YOU-」、「傷-KIZ/KIDS-」、「華歌」を収録。挿
絵がとっても美しい。

 「きみにしか聞こえない」は堂々とせつなさの王道を行く(笑)ファンタジー。傷つく
ことが怖くて友達を作れず、孤立しているけれども誰かを求めている主人公が、い
つしか頭の中で作り上げた携帯電話に、ある日突然着信音が…というすごいファン
タジーなんだけれど、彼女が携帯を少しずつリアルに想像し、作り上げていく過程が
ていねいなのでわりとすんなりと受け入れられる。哀しい結末はもしも他の作品だっ
たらかなーり突っ込みたくなったかもしれないけれど(笑)、この作品に限ってはこ
れでいいかな、という感じ(偉そう?)。頑張って強く生きてくれ〜!

 「傷」は個人的にはこの中で一番好き。
 他人と触れあうことで相手が持っている傷を自分に移すことができてしまう特殊
能力をもつアサトと、一生懸命彼と寄り添い、守っていこうとする主人公。シホとの
エピソードがせつなさ度高し。生きることがつらくて、悲しくて、傷だらけのふたりが
「これから、だんだん良くなっていく」と思えるようになるまでの道のりが丁寧に描
かれて心に刺さる。

 「華歌」は…
 たぶん評価が別れるんだろうけれど、個人的には最後の最後ですごくイヤ〜な
気持になった。これ、本当に必要なことなの?? さらに言えば、あの状態で死を
選んだミサキの気持にも、それに共感する主人公の気持にもまったく共感できな
いよ〜。最後まで読んで主人公の状態を知るとなおさら、主人公の気持は理解に
苦しむんだけど…。誰か、共感できる女性の方がいらしたらぜひ感想を聞いてみた
い〜!



家守綺譚(2004.7.11)
梨木香歩   新潮社


 細々と小説を書いている綿貫征四郎はそれだけでは糊口がしのげず往生してい
る時に、亡くなった友人である高堂の両親から、空き家になる彼の家の守をしてく
れればそれなりに謝礼を払う、と持ちかけられ、渡りに舟とその家に移り住むこと
にする。そこは、「よくある」異空間であった−。

 掛け軸から出入りする亡くなった友人、征四郎に懸想するサルスベリ、庭の池に
紛れ込む河童や人魚、雷の子どもを孕む白木蓮に仲裁の才のある飼い犬。もちろ
ん人を化かすモノは狐や狸に竹の精、と事欠かない。
 いやー、よいですなー。かなりよい。今まで読んだ梨木香歩の中で一番かも。

 どんなモノが出てきてもなんとなくあるがまま受け容れてしまう征四郎の茫洋とし
たキャラに、彼が書く淡々とした文章。実はこれを読んでいる時はちょっと風邪気味
で微熱があったのだけれど、微熱くらいで読むのがちょうどいい(笑)。どっぷりと
本の世界にはまりこみ、しばし幸せな異空間を漂った。

 これは、姉妹版(?)の『村田エフェンディ滞土録』がますます楽しみだわ〜〜。



空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction(2004.7.12)
小路幸也   講談社


 20年前、姿を消す前に兄は言った。「いつか、お前の周りで、誰かが<のっぺら
ぼう>を見るようになったら呼んでほしい」。
 以来実家に毎年年賀状を送る以外音信不通であった兄に、ぼくは連絡をとる決
心をする。息子の彰が、「周りの人がみんなのっぺらぼうに見える。」と言い出した
ためだ。
 すぐに飛んできた兄は、自分も<のっぺらぼう>が見える人間だと打ち明けた上
で、長い長い話を語り始める。彼の少年時代の話。それは驚くべきものだった。…

 第29回メフィスト賞受賞作。
 ミステリなのかもしれないけど、個人的には「これはファンタジーだろう!」と思う
ので勝手にファンタジーにカテゴライズ(笑)。ホラーかも…?
 ちょっと、以前に呼んだ「闇の戦い」シリーズに近いものを感じた。ある日突然自
分が<光>の長老であることをしる「闇の戦い」シリーズ主人公のウィルと、ある日
突然周囲の人間がのっぺらぼうに見え始める恭一。もちろん接点はそれだけじゃ
ないんだけど…。

 何処か懐かしい、パルプ町がすごくいい。旭川に実在する町がモデルだそうだ。
「クワガタノート」といい、あの頃の子ども達ならさもありなんという学校の怪談的エ
ピソードが物語の中にすんなりと読者を引き入れる。いつの間にか自分も彼ら子ど
も達の仲間になって、一緒にパルプ町を走り回っている気になる。しかし、そんな
ノスタルジックな気分に浸って足を踏み入れると、展開は思わぬダークな方向へと
転がっていく。

以下、ネタバレとまではいかないけどちょこっとボーダーゾーン。





 ただ、種明かしがされてしまうとなんとなく一気にひいてしまった。生まれつき…
みたいな運命的なもので、「どうしてかはわからないけどこうなんだ」と言われると
なんとなく反発してしまう(笑)。ゲスモノ、マレビトはいいとしてもタガイモノはそれ
じゃ浮かばれないでしょう…。ちょっと人も死にすぎじゃ…みたいな。終わり方も、
いかにも中途半端。

 どうやら続編があるようなのだけれど(高く遠く空へ歌ううた/講談社)、読むか
どうかは微妙だなあ…。



ライオンボーイ<消えた両親の謎>(2004.9.3)
ジズー・コーダー/枝廣淳子・訳   PHP研究所


 イギリス人の母親とガーナ人の父親を持つ少年・チャーリーは、幼少の頃のある
きっかけからネコ語を理解する類い希な才能を持つ。ある日ともに研究者である
両親が何者かにさらわれ、チャーリー自身も監禁されそうになり、わけがわからぬ
まま彼は両親を探しに行こうと決心する。
 彼が乗り込んだのは、偶然にもサーカス船だった…。

 児童書だということもあり、読みやすくてあっという間に読了。天野喜孝氏の挿画
が美しくてうっとり。得した気分だわー(*^-^*)。

 最近よくある「ハリー・ポッターを超えた」という謳い文句をこの作品も例に漏れず
使用しているのだけれど…うーん、ハリポタが特に好きなわけではないけれど、そ
れでもそのハリポタを超えたかと言われると…
 まあ超えてはいないでしょうな(苦笑)。

 ちなみにこの作品は三部作の第一巻にあたるもの。2冊目も読むつもり。大バケ
したり…するかしらん?



月の影 影の海(上・下)(2004.11.12)
小野不由美   講談社文庫


 ごく普通の高校生だった陽子は、ある日突然職員室に現れた金髪の男に連れ
去られた。海に映る月の影を通り抜けた先は、言葉も陽子の常識も通じない異国。
わけのわからないまま命を狙われ、陽子は必死で身を隠しつつ、彼女をこの世界
に連れてきたその男”ケイキ”を探す。十二国記シリーズ、ここに開幕。

 もともとYAノベルのせいかとにかく読みやすくてあっという間に一気読み。最初
十二国の地図を見た時にはそのあまりの非現実っぽさにびっくりしたなあ…。
 陽子の迷い込んだのは全部で十二の国を十二人の王が治める世界。それぞれ
の王は、それぞれの国の麒麟が天命によって選び、王になると不老不死となる。
しかし選ばれた王が道を踏み外すと、麒麟は「失道」という病に罹り、麒麟が死ね
ば王も死ぬ。王が死ねば国は傾き、”妖魔”が国を跋扈するようになる…。

 とにかくすごい世界観。これぞファンタジーですな…。
 ただ、この作品がスゴイのは奇想天外な世界の魅力だけに留まらないこと。陽
子はこの世界に投げ出され、旅を続けるうちにどんどん人間不信に陥る。信じた人
に次々と裏切られ、彼女の後をつきまとう人語を話す猿にどんどん希望を砕かれる
ようなことを言われ、連れてこられた世界にも、連れ去られた世界にも、彼女の居
場所を見つけられずに希望を失っていくその様がぞくぞくするほどリアル。そして
深い絶望に陥り行き倒れたところを半獣の楽俊に救われ、彼と別れて後再開した
辺りから、彼女に少しずつ希望の光が見え始める。

 世界観はともかく、ストーリーはそれほど奇抜なものとは思えないのだけれど、
出てくる登場人物がとても魅力的。ものすごい人気を誇るシリーズなのも頷ける。
 大人も子供も愉しめる本物のファンタジーだ。



風の海 迷宮の岸(上・下)(2004.11.13)
小野不由美   講談社X文庫ホワイトハート


 十二国記シリーズ第2弾。前回とは時代も舞台も移り、今回は陽子がこちらへ渡っ
てくる数年前の、戴の麒麟・泰麒の成長ストーリー。

 十二国の世界では、人も獣も里木という木の枝に卵として生る。麒麟もその例外
ではく、十二国の中心にある”黄海”のさらに中心部にある、蓬山にある里木がそ
れだ。しかし泰麒がまだ卵だった頃に蓬山に蝕が起こり、泰麒は”蓬莱”に流され
てそこで人間の子として育てられることに。泰麒の乳母の役を務める女怪・汕子は
必死で泰麒の行方を捜すが、彼をやっと見つけだすまでに10年の月日が必要だった。

 麒麟の能力は子供のうちにそのかなりの部分が育まれる。大切な時期を麒麟と
して育つことが出来なかった泰麒は、蓬山でも劣等感に苛まれる。果たして自分は
正しい人間を王に選ぶことが出来るのか、そして選んだ王にきちんと仕えることが
できるのか…。不安なままに、我こそはと思う戴の人間達が黄海を訪れ始める…。

 …あらすじが長くなってしまったけど、これまた面白かった。そうか、麒麟もいろい
ろ大変なのね…。前回が人間側から見た十二国だったのに対して、今回は麒麟の
目から見た世界観。まあ、泰麒はちょっと普通の麒麟じゃないけれど。

 小さくて素直な泰麒がかわいくて、何かにつまずくたびに「頑張れ〜!」と心の中
でエールを送り、ひとつ何かができると「おおーっ」と快哉を叫びたくなる。母性本
能をくすぐられますな(笑)。景麒までがついつい面倒をみてしまうその気持はよく
わかるよ…。

 前回はわりといろいろなことを考えさせられたけれど、今回は単純に泰麒の成長
ものとして楽しく読めた。このバラエティ豊かなところがまたいいのかな?



東の海神 西の滄海(2004.11.14)
小野不由美   講談社X文庫ホワイトハート


 十二国記シリーズ第3弾は、王座についてまもない頃の延王と、その麒麟であ
る延麒・六太の話。
 六太は生まれる前に”蓬莱”に流され、貧しい両親に幼い頃山に捨てられたとこ
ろをこちらの世界に救い出された。一方延ではやはり貧しさのために海に捨てら
れたところを妖魔に救われ、これに育てられた少年がいた。偶然出会った少年に
六太は”更夜”と名前をつけてやる。やがて再会した更夜は、幼い子供をたてに
六太を誘拐する。更夜は延王に反逆を企てる洲候の息子・斡由に召し抱えられ
ていた…。

 在位300年を越え、安定した雁の国がまだまだ安定していなかった頃の事件
と、尚隆が王として立つことになった経緯とが交互に語られる。あとがきによると
元々これは番外編のつもりで書き始めたとか。確かに外伝っぽいというか、これ
はシリーズ読者のための一エピソード…という感じかなあ。もちろん、ストーリー
はおもしろいけど。

 そうか、こういう感じで尚隆は国を固めていったのね…とか、ふーん、王になる
前の尚隆はこんなだったのね…とか、六太もやっぱり麒麟なのねえ、とか、そう
いう感じで読む物語。前2作は独立した作品としても愉しめるけれど、これはやっ
ぱり前2作を読んでから読むべきだなあ。



風の万里 黎明の空(上・下)(2004.11.15)
小野不由美   講談社文庫


 十二国記シリーズ4作目。

 景王となったはいいものの、政に関してはまったく素人の陽子は、宮廷で殆ど傀
儡となり、自分がいかなる王となるべきかを決めかねていた。国の様子も政治の
現在の方針もまるでわからない陽子は苛立ちばかりを募らせ、ある日こっそりと
市井へ出ることを考える。

 ”蓬莱”から流されてきた”海客”の鈴は、通じない言葉に苦しめられ、才の国の
仙女に召し抱えられて仙籍を得る。仙になれば言葉に不自由しないからだ。しか
し主人のつらい仕打ちに耐えかねた鈴は、そこで100年を暮らしたある日とうとう
出奔し、才の女王、采王に助けを求める。そして彼女の助言により、鈴は景王に
会うため慶の国を目指す。鈴と同じく海客である景王なら、きっと彼女の気持を理
解してくれる、彼女を救ってくれる、そう信じて。

 一方、北東の芳では厳しすぎる刑罰に耐えかねた民意を受けて大逆が起こり、
公主(王女)祥瓊は父母を殺されて仙籍を剥奪される。民に憎まれ、つらい仕打ち
を受け続けた彼女は、同じ年頃の少女が景王として立ったことを聞き、自分の失っ
たものを何の苦労もなく手に入れた彼女に憎しみを募らせる。

 おもしろかった!
 今までのシリーズの中では個人的にこれが一番好きかも。
 本を読んでいて愉しいのは、自分の予想が気持ちよくひっくり返されること、さら
に愉しいのは自分の価値観をひっくり返されることだ。鈴や祥瓊の旅の行程はわ
たしの予想とはまったく違った物だった。そこには新しい発見がボロボロと落ちて
いて、小さな驚き、大きな驚きが盛りだくさん。さらに景王として立ってからの陽子
にもう一度会えたのはやっぱり嬉しかったな。そりゃそうだよね、王様になってめ
でたしめでたし、ってわけにはいかないでしょう。

 今回の話は話をひっぱる中心になる人物が3人もいて、さらに陽子のストーリー
は謎が謎を呼ぶミステリーチックな展開。筋が混乱してもおかしくないのにわかり
やすく、読みやすくまとまっていることにも感心。小野不由美ってスゴイ…。
 つらいことを堪え忍ぶだけじゃ何にもならない、というテーマにも激しく納得。ま
すます今後が楽しみだわ〜。



図南の翼(2004.11.16)
小野不由美   講談社文庫


 十二国記シリーズ5作目。
 またまた時は遡って、今回は前作にもちらっと登場した恭の国の供王・珠晶が
まだただの商家の娘だった頃、天命を得るべく蓬山に昇山する物語。
 先王が崩御してから27年、日に日に傾いていく恭の運命を肯んじるだけの大人
たちに苛立ち、自ら蓬山を目指すことを決意する珠晶、弱冠12才。賢くて生意気
で、けれど筋をきっちり通そうとする彼女は、どんどん周囲の大人達を自分のペー
スに巻き込んでいく。

 前作と比べると単純でぐいぐいと前へ進んでいくストーリー展開。生意気だけれど
一生懸命で、つねに見聞きしたことを自分の頭で考え、理解しようとする彼女の姿
勢はその名前のように輝いている。周囲の人たちが呆れ、苦笑しながらもいつの
間にか彼女を助けずにはいられなくなっていくのも無理はない。

 そうかー、こんな話もありなのか。ホントに奥が深いね、十二国記シリーズ…。
次から次へと個性的な王が出てきて、ホントにこれからまだまだこんなレベルの
話が出てくるんだろうか、と心配になる(笑)。まだ登場していない王もいるしなあ。

 エンタメとして優れているのもさることながら、読んだ後いろいろ考えさせられる
ことが多いのがこのシリーズの特徴。今までの作品で言うなら「責任」とかね…。
もちろん王には王の責任があるし、民には民の、ひとりひとりにそれだけの責任
がきちんとある。それは本の中の世界に限らない。
 わたしの責任って何なのか。
 そんなことをついつい考えてしまうんだよねえ…。



黄昏の岸 暁の天(上・下)(2004.11.17)
小野不由美   講談社X文庫ホワイトハート


 十二国記シリーズ6作目。

 陽子が景王となって3年が過ぎた。少しずつ足場が固まり始めてきた慶国王宮に
ある日、瀕死の兵士が飛び込んでくる。彼女は戴の女将軍・李斎。戴では内乱が
起こり、その最中に泰王・泰麒がともに忽然と行方不明になり、偽王が立って国中
が混乱を極めているという。二人がいなくなって既に6年。救いを求める李斎に、陽
子は泰麒の捜索に協力することを決意。各国に協力を求め、7国の麒麟による前
代未聞の捜索が始まった。
 その頃泰麒は、生まれてから10年暮らしていた蓬莱で刻々と麒麟としての性質
を蝕まれていた。果たして泰麒の救出は間に合うのか…。

 今回は重かったなー。
 初めて、十二国の世界観にはっきりとした疑問が提示されているのがこの作品の
ひとつの特徴。天は本当に存在するのか。なぜ天命によって選ばれたはずの王が
道を踏み外すのか。また、天が存在するのなら、なぜ恵まれた国とそうでない国が
存在するのか。麒麟が王を選ぶのに、なぜ命がけの蓬山への昇山が必要なのか。

 十二国の世界にはかなり矛盾がたくさんある。それをあえて作品中で登場人物
が指摘する…ということは、この作品はシリーズの転換点なんだろうな。今までの
作品と比べて、終わり方もちょっとひっぱってるし。

 これを読んでいてふと思ったんだけれど、外伝と言われている『魔性の子』は、こ
の作品で蓬莱に流された泰麒の6年を描いた作品…なのかな?

 これからシリーズはどういう方向へ向かっていくのかしらん。どんどん暗くて重くな
りそうな…いや、そういうの結構好きなんだけど(笑)。まさかメタフィクションに…って
ことはないだろうなあ(笑)。



華胥の幽夢(2004.11.18)
小野不由美   講談社X文庫ホワイトハート


 十二国記シリーズ初の短篇集。ちょっと外伝っぽいかな?

 戴の国王・驍宗が粛清を行う間に泰麒が漣を訪れるエピソードを描いた「冬栄」、
厳しい刑罰で民を苦しめた芳の国王を暗殺した月渓が先王の娘・祥瓊から便りを
受け取って自分の今後を決意する「乗月」、延王の計らいで雁の大学に進んだも
のの半獣であるゆえの困難を抱える楽俊と、景王となるも思うに任せない陽子と
のやりとりを描いた「書簡」、麒麟が失道に罹り、王となったものの理想と現実との
乖離に苦しみ破滅していく采王と彼の臣下をミステリータッチで描く「華胥」、十二
国一の安定した政権を執る奏の国王一家の様子を描いた「帰山」の5つの短篇が
収録されている。

 「華胥」がやっぱり読みごたえがあったかな。
 ちょっと今回は前作の重みを受けて息抜きっぽい感じ。
 早く本編の続きが読みたいわ〜。