adventure 2004


著者名 タイトル 出版社
打海文三 裸者と裸者(上・下) 角川書店
米村圭伍 おんみつ蜜姫 新潮社
佐藤亜紀 1809−ナポレオン暗殺− 文春文庫
五條瑛 君の夢はもう見ない 集英社
五條瑛 3way Waltz 祥伝社
五條瑛 夢の中の魚 集英社
五條瑛 スリー・アゲーツ 集英社文庫
五條瑛 プラチナ・ビーズ 集英社
五條瑛 心洞 双葉社
五條瑛 紫嵐 双葉社
五條瑛 断鎖 双葉社
佐藤賢一 傭兵ピエール 集英社



























傭兵ピエール(2004.1.13)
佐藤賢一   集英社


 誰もが名前を知っているジャンヌ・ダルク。これは彼女と一介の傭兵との恋物語
である。傭兵団「アンジューの一角獣」を率いる「シェフ(傭兵団の頭領)殺しのピエ
ール」こと「ドゥ・ラ・フルトの私生児」ピエールは、救世主「ラ・ピュセル」と出会い、
彼女に対する恋に戸惑いつつ彼女を助け戦うが、ピエールと別れた後彼女は敵の
手に落ち魔女裁判を受けることとなった。ラ・ピュセル救出の命を受け、単身敵の
占領する街に潜入するピエール。無事ラ・ピュセル奪還はなるか?

 鷲鼻のピエールの人物がいい味を出している。比類なき強さを持ちながら、女に
は弱いピエール。強盗・強姦・殺人をまったく平然と行っていた彼がジャンヌに会う
ことによって少しずつ変貌していく。
 アンジューの一角獣のメンバーもキャラが立っていて、魅力的。構成もしっかりし
ていて、かなり丁寧に伏線が張られている。

 対してジャンヌ・ダルクはあまり魅力的じゃないかな…。神がかったバカな(それ
を人は純粋とも言う/苦笑)女、という感じで。ピエールが惹かれるのはわかる気
がするけどね…。

 それにしても個人的にはどうしてもどうしても、ラ・ピュセル奪還のやり方が納得
行かない。あれはないよ。まったくピエールに感情移入できない。ラスト近くで修
道院に名前をつけた話がちらっと出てくるんだけれど、それなんて噴飯ものだ!!
どうも全体的に女性蔑視な感が否めないのだ。
 これは時代がそうだからなのか、それとも作者がそうだからなのか。その辺りの
結論はこれ一冊読んだだけでは出せないけれど。

 さらに、後の話は蛇足だと思う。
 あちこちで爽快なエンターテイメント、みたいな書評を読むんだけれど、本編のエ
ンディングまではそれでいいとして、あの後の話を読んだ後でもみんな本当にこれ
がハッピーエンドに思えるのだろうか?

 わたしはピエールが幸せにはちっとも思えない。なんとも後味が悪いな…と感じ
たんだけどな…。



断鎖 R/EVOLUTION  1st Mission(2004.1.13)
五條瑛   双葉社


 亮司は親の愛情という名の束縛から逃れるためだけに生きてきた。密入国者を
国外に逃がすことを仕事とする崔に拾われた亮司は、百科事典のセールスを装い
孤独な老人や女性に取り入って住民票や戸籍を借り受け、偽のパスポートを手配
する生活を送る。そこへ謎の男が現れ、彼にある仕事を依頼した。報酬は彼を支
配し続ける両親の殺害…彼は否応なく、大きな渦に巻き込まれていく。

 初めて読む五條作品に、あっという間に引き込まれた。テンポが良く、スリリング
でかつ読みやすい。主人公・亮司がただ親を恨み続けるだけの子供から少しずつ
周りを見回し世界を広げていく様子は成長物語としても違和感なく読めた。登場人
物ひとりひとりがきちんと書き込まれていて、単なる善悪でなくそれぞれが事情や
葛藤を抱えているのも魅力的。褒めすぎ…?(笑)

 個人的には長い話が好きなので、2段組全10巻だなんて、それだけでもう魅力
的(笑)。しかもどうやら主要登場人物のサーシャは、この作者の別シリーズにも登
場するらしい…。こりゃもう読むしかないでしょう。

 スケールの大きな話、とにかく長い話、手に汗握る冒険活劇が好きな人には強
力にオススメ。



紫嵐 R/EVOLUTION  2nd Mission(2004.2.18)
五條瑛   双葉社


 「鳩」ことキュー・ティッドはカンボジアからの難民。といってもカンボジアの記憶は
極限状態だった幼い頃の短いものしかない。やっと逃れてきた日本ではしかし、彼
はどこまでも異分子だった。いつも何かに飢え、誰かを殺したいという衝動を抱えて
いる鳩は、殺人の嫌疑を受け突然姿を消した相棒を捜さなければならない羽目に。
そして同じ頃、彼の前にひとりの少年が現れた…。

 革命シリーズ第2段は変わらないリーダビリティであっという間に読み切ってしまっ
た。さくさく読めてしかも続きが気になるんだもん〜!
 『断鎖』で活躍したサーシャや亮司はもちろん、亜由も重要な役どころで再登場。
そして今回登場のすみれくんがかわいい〜。

 前作とは対照的な主人公を持ってくることでまた世界が広がってきた。こうやって
サーシャは多様な人材を集めていくのかな?
 まだまだシリーズは2冊目、起承転結で言えば「起」。さてさて、これからどういった
物語が展開されていくのか、とりあえずは興味津々。



心洞 R/EVOLUTION  3rd Mission(2004.2.25)
五條瑛   双葉社


 革命シリーズ第3作は切ないラブストーリー。

 家出少女のエナはチンピラのヤスフミに拾われて、新宿の片隅で刹那的だけれど
も今まで感じたことのない幸せを感じていた。しかしヤスフミが「アニキ」と呼ぶ根岸
会の組員から「鳩さがし」を命じられたことから、少しずつ歯車は狂いだしていく。ヤ
スフミさえいてくれれば他のことは関係ない、放っておいてほしいと願うエナだった
が、事態は彼女たちを否応なく巻き込んでいく…。

 エナとヤスフミと二人の立場から交互にストーリーが語られていく。しかし改めて、
五條瑛はタイトルの付け方がうまいよね…。タイトルからストーリーを組み立ててい
くんだろうなあ。中の章題までもが並べてみると美しい。

 そして、日本人てそんなにダメダメなのか…とちょっとつらくなる(笑)。すみれ君、
見捨てないでよ…。

 革命がどんな形になるのか、ほんのすこーしだけ姿が見えてきたみたい。サーシャ
は一体何を夢みているのか、ぜひとも続きが読みたい。エナの心洞は、ふさがる日
が来るのかな…。



プラチナ・ビーズ(2004.3.15)
五條瑛   集英社


 五條瑛<鉱物シリーズ>第一作。革命シリーズに登場するサーシャとすみれが登
場する、五條瑛デビュー作。

 アメリカ軍のHUMINT(人的情報収集活動)に属する葉山は多くの人々からの聞
き取り調査の中から砂漠で砂金を探すように情報を収集していくことを仕事にしてい
る。彼はある一人の女性へのインタビューにひっかかりを感じ、彼女との偶然の再
会から何か重大なことが起こっている朧気な感触を受ける。

 一方日系アメリカ人であり、横須賀基地NISC(海軍調査軍)勤務の坂下は、一人
の脱走兵が他殺体で発見されたことから調査を開始する。

 無関係かに思えるふたつの事件に見え隠れする謎の男。一体何が起こっている
のか…。キーワードは、「プラチナ・ビーズ」。この言葉の意味は一体?

 日本と北朝鮮との関係、北朝鮮の現状を下敷きに展開するハードボイルド・ミステ
リ。なかなか硬派で、好みだわ〜♪

 生まれ育ち故に屈折に屈折を重ねたうじうじした葉山のキャラクターがいい(笑)。
上司のエディにいいようにいたぶられながら、坂下のようにはっきりしたアイデンティ
ティを持つことも出来ず、かといってはっきりドロップアウトすることもできず、うだうだ
しているうちに結果的に一人の人間を死に至らしめ、少しずつ変わっていく彼の成長
物語…と言えるかな。

 まだまだ物語は序盤な雰囲気。これからストーリーがどういう展開を見せるのか、
確認しないわけにはいかないわ〜。



スリー・アゲーツ(2004.4.9)
五條瑛   集英社文庫


 <鉱物シリーズ>第二作。

 今度の葉山の仕事は北朝鮮の大物スパイと目されるチョンが日本に潜入する直
前に残した「チョン文書」の解読。まるで幼児の作文のような内容と意味のわからな
いいくつかの数字の羅列であったその文書からある親子の存在を知った葉山は、
またもや意図せずにアメリカ軍の機密の核心へ近づくことになる。
 苦悩するチョンの人生に図らずも触れた葉山はひとつの決断を迫られることに…。

 成長してますな、葉山君。
 今回はなんとなく最初冗長な気がしていたのだけれど、後半の韓国大統領来日イ
ベントのあたりはもう手に汗握る怒濤の展開でページを繰る手が止められない。上
出来のエンターテイメントに仕上がっている感じ。
 しかし五條瑛はホントに読みやすいね…。今回は結構厚めの文庫版で読んだのだ
けれど、厚さを感じさせない。サーシャが全然登場しないのはちょっと淋しいけど。

 文庫版はおまけの短篇で後日譚が。これはかなり嬉しいサービス。本編だけだと
なんだかその後が気になって気になって。

 どうやら全4作らしいのだけれど、刊行されているのはここまでかな?
 それでは次は番外編、行きますか…。



夢の中の魚(2004.6.4)
五條瑛   集英社


 <鉱物シリーズ>番外編。連作短編集と謳ってあるけれど、これは長編と捉えた
方がいいんじゃないかなあ…。短篇として読むと、いくら連作とは言え1つ1つの物語
がまるきり1つの作品として収まってない気がするんだけど…。

 主人公は<鉱物シリーズ>でも登場した洪敏成(ホンミンソン)。コードネームは
<東京姫>。人を不快がらせたり困惑させることが何よりも嬉しいという韓国の諜報
員だ。この作品集は彼が自ら見つけた情報の海の小さな魚たちをいかに育てていく
かという物語(違うか?)。ハードボイルドとはほど遠いけれど、自覚なしにいつのま
にか洪の情報提供者になっていく人々の過程はおもしろい。
 そしてもう1つの柱は洪とパクとの物語。誰とでも上手に距離を取りながら情報の
海を立ち回る洪がただ一人執着するパク。洪は彼を果たしてうまく口説き落とすこ
とができるのか?

 これまで壮大なスケールの物語ばかり読んでいたからか、今回の作品は小粒だ
なあという印象。それなりに読ませることは読ませるし、サイドストーリーとしてはお
もしろいんだけれど、もしこれが初めての五條作品だったとしたら、彼女に対する評
価ってちょっと変わっていたかもなあ…と思う。ファンサービスで書いた作品なのか
もしれないけれど。

 ただ、洪のイメージはかなりこの作品で変わってくるので、今後本シリーズで彼の
登場は楽しみになってくるかも。



3way Waltz(2004.6.6)
五條瑛   祥伝社


 こちらも<鉱物シリーズ>番外編。
 母を16年前の航空機墜落事故で亡くした恭祐。母親の記憶のない恭祐は再婚し
た父と義母、2人の義兄たちとの生活に馴染めず、ちょっとしたことから保護観察を
受けながらも、なんとか日々をやり過ごしていた。しかし北朝鮮からの工作員”由沙”
が日本に入国したことから、なぜか恭祐の周りにはたくさんの人間が群がってくる
ようになり、挙げ句父は殺された。一体彼らは何を狙っているのか、そして由沙の目
的とは何か…。

 さくさくっと読めるエンターテインメント。
 それにしても、あの墜落事故をこういうストーリーに持っていくとは…そういうの、
アリなのか…と、ちょっと複雑。

 話としては<革命シリーズ>の1作目に近いかなあ。純真な(?)少年がいつの間
にやら陰謀の中心に巻き込まれ、翻弄されつつ成長していくという…。ダンヒルの煙
草とか、韓国の新聞記者とか、シリーズを読んでいる人だけがわかるサービス的な
エピソードも、嬉しい人は嬉しいんじゃないかな。それにしても葉山のことを頑なに固
有名詞を出さずに「アナリスト」と呼ぶのはなにか意味があるのだろうか…。



君の夢はもう見ない(2004.6.21)
五條瑛   集英社


 さらに<鉱物シリーズ>番外編。葉山の勤める極東ジャーナルと同じビルにある
「中華文化研究所」所長、仲上を主人公にした連作短編集。

 楽しくサクサク読めた。かつて「中文研」が「会社」の1組織だった頃、仲上はラウル・
ホウという男と組んでいた。彼は火のように熱く、仲上は水のように冷たいと評され、
ともに一時代を築いた過去が、短篇を読み進めていくうちに少しずつ明らかになって
ゆく。どの短篇も手紙から始まり手紙に終わるが、そのさまざまな人からの手紙に必
ず登場するラウル・ホウ。どうやら彼と仲上との間には浅からぬ確執があるようだが、
ふたりの間にいったい何があったのか…?

 それぞれの短篇を楽しみながら、すこしずつ仲上の過去に近づいていく趣向。鉱物
シリーズをまったく知らなくてもオッケー。わりと好みの作品だった。

 ただ、ちょっと薄いというか、もう少し突っ込んでほしかったなー。仲上がスパイ生活
からきっぱり縁を切るきっかけとなった事件が今ひとつ弱い。そんなに彼女を失った
のが打撃だったのかしらん? ラウルが仲上に固執するのはわからなくもないけれど、
仲上が火のようなラウルに惹かれた、というその「火のような」部分が、はっきりとは
わからないのもちょっと物足りない。そんなに熱いの? どんな風に? ねえねえ!
と突っ込みたくなる(笑)。

 さて、とりあえずこれで五條瑛のシリーズ物は制覇したみたい。次はどうするかなあ。



1809 −ナポレオン暗殺−(2004.7.10)
佐藤亜紀   文春文庫


 1809年、フランス工兵隊のパスキ大尉は対オーストリア戦における架橋担当者
としての任に着いていた。歴史の上ではまったく無名の1個人であったはずの彼は、
仕事の上で便宜を図らせることの多かったウィーンの抜け目のない商人・ジードラ
ーが彼と一緒にいた居酒屋で殺害されたことをきっかけに、否応なく歴史の渦に
巻き込まれていく。

 とにかくディティールがすごいと評判の本書、確かに細部まで綿密な描写で一分の
隙もない精巧な精密機械のような作品だった。ものすごーく精密な機械って、何も
わからない人間が見ても芸術のようだ。この本もまさにそんな感じ。
 なぜただの1工兵隊員であるパスキが雲上の人のようなスタニスラウス公爵に
異常なほどに執着され、まったく望んでいない陰謀に巻き込まれなくてはならなかっ
たのか。ジードラーを殺した下手人は誰で、その動機はなんなのか。秘密警察のイグ
ナツは何を探り出そうとしているのか。そして、公爵の目的は何なのか。
 数々の謎が網の目のように交錯し、やがて点と点が線で結ばれていき、そこには
美しい精緻な織物が姿を現す。小説ってスゴイわ…。

 ただ、まったく温度が感じられない。パスキはすごく情熱的な人物なんだけれど、
かれの情熱がこちらに伝わらない〜。そのあたりも精密機械、な感じ。

 ともあれ、他の作品も俄然読みたくなった。



おんみつ蜜姫(2004.10.10)
米村圭伍   新潮社


 豊後の小藩の姫・蜜は、「暴れ姫」と噂されるほど活発な姫君。ある日彼女の父・
乙梨利重が、謎の忍びに命を狙われる。どうやら彼が内密に進めているもう一つの
小藩との合併計画が原因のようだ。命を狙っているのは、もしや将軍吉宗? 蜜姫
は出奔し、忍び猫のタマを従え一路江戸を目指す…。

 時代小説なのだけれど、やわらかな文体で肩の凝らない娯楽作。お茶目で向こう
見ずな蜜姫がかわいくってよいわ♪ まるで三毛猫ホームズのように大活躍の忍び
猫・タマもかわいいし。
 かなりご都合主義で軽いノリなんだけれど、ちょっと疲れた頭をほぐすのにちょうど
いい感じ。どうやらシリーズ物らしいのだけれど、これ一冊でも充分楽しめた。

 ただ、もうすこし恋のスパイスが利いていてもよかったかなー。
 まあ、色気が全然ないところがまた、蜜姫の魅力なのかもしれないけれど。



裸者と裸者(上・下)(2004.11.9)
打海文三   角川書店


 内乱状態に陥った近未来の日本が舞台。7歳で孤児となった佐々木海人は、4
歳と2歳の妹弟を抱えて必死で生き抜こうとするが、ある日突然拉致されて選択の
余地なく孤児部隊の一因として戦争に参加することになる。目の前に突きつけられ
る現実の世界はあまりにも厳しかった。彼は少しずつ生き抜く知恵を身につけるが、
純粋さゆえの苦悩がつねに彼につきまとう…。
 一方離婚した母に連れられ母の実家で暮らしていた双子の姉妹・月田桜子と椿
子も、母親と祖父母を殺害され、偶然海人に助けられて住んでいた町を脱出する。
持ち前の才知で生き抜いてきた二人は、やがて戦争を維持するシステムを破壊し
なくてはこの世界を変えることはできないと考える…。

 ものすごい力を感じる作品。
 圧倒的な筆力で上下巻を一気に読ませる。この現状はまさに現在のイラクを彷彿
とさせた。TVの画面でまるで別の世界のことのように映し出される現実を、この作
品では自分たちのこととして目の前に突きつけられた感じ。

 悩みながらもやるべきことをやり通し、少しずつ力をつけていく海人。すべての現
実をそのまま受け容れ、しなやかに生き抜いていく月田姉妹。彼らは戦災孤児だけ
れど、無力のままの被害者では終わらない。悲惨な現実と折り合いをつけつつ自
らに課したハードルをクリアしていくそのたくましさは素晴らしい。

 かなり多くの登場人物が出てくるけれど、彼らがとても魅力的に描かれていて、
それがこの作品に奥行きをもたせているみたい。

 ぜひぜひ、多くの人に読んでもらいたい作品。
 面白いから!

 個人的には、今後の彼女の人生が非常に気に掛かる…。続編、切に希望!