ハノイの塔




 世界の中心の地・ベナレスに、天高くそびえる3本のダイヤモンドの柱。
 そのうち1本には、64枚の黄金の円盤が刺さっている。向かって左側の柱だ。一番下のものがもっとも大きく、上に行くにしたがって円盤は小さくなっていく。そうして積み重ねられた64枚の円盤。
 これを3つのルールに従って移動していく。
   1:円盤は一度に1枚ずつしか移動できない。
   2:柱のないところに円盤を置いてはならない。
   3:小さい円盤の上に、大きな円盤を重ねてはならない。
 そうして右の柱にすべての円盤を移したとき、世界は崩壊し、その終焉を迎えるだろう――



 1883年、フランスの数学者エドゥアール・リュカが考案したパズル「ハノイの塔」。その製品版に添付された話である。ベナレスにあるこの寺院では、今も大勢の僧侶たちが昼も夜もなく円盤を動かしつづけているという。
 だが、この「世界の崩壊」はどれくらい先の話なのだろうか。

 3本の柱に、それぞれ名前をつける。左から順番にA,B,Cだ。スタート時にAに刺さっている円盤を、最終的にはCにすべて移しかえるのだ。
 円盤が1枚の場合。これは至極単純だ。たったの1手で済むことは誰の目にも明らかだろう。
 2枚の場合。1枚目をまずBに移動し、続いて2枚目をCに移す。最後にBにある1枚目をCに移動すれば完了。ここまでで3手。
 3枚の場合。さきほどの手順で2枚目までをBに移動し、続いて3枚目をCに移す。そしてBに刺さった円盤をCに移動させればいい。3+1+3=7手。
 4枚の場合。3枚目までの円盤を、7手かけてBに移動。4枚目をCに移し、Bに残った3枚を7手かけてCに移動。7+1+7=15手。
 5枚の場合。4枚目までの円盤を、15手かけてBに移動。5枚目をCに移し、Bに残った4枚を15手かけてCに移動。15+1+15=31手。
 6枚の場合・・・

 このまま続けるのも無意味なので、計算結果だけを書くことにする。6枚の場合は63手、7枚の場合は127手、8枚の場合は255手。では、64枚まで続けるとどうなるか。計算してみると・・・

18,446,744,073,709,551,615
壱千八百四拾四京六千七百四拾四兆参百七拾参億九百五拾五万壱千六百壱拾五

 数字だけ見ても、ピンと来ない方がほとんどだろう。仮に1手動かすのに1秒かかるとして、これだけの手数が時間にしてどれだけのものなのか計算してみる。1分は60秒、1時間は60分、1日は24時間、1年は365日(正確にはもう少し長いが、とりあえず考えないことにする)。

584,942,417,355.07203243911719939117年

 5千8百億年以上。
 ちなみに地球の誕生から現在まで、およそ46億年しか経っていない。実に100倍以上の開きがあるのだ。
 ま、当分は世界崩壊など来ない、と考えて差し支えないだろう。何らかの原因で人類が滅亡する日がいずれ必ず来るだろうが、それよりも遥か遥か先の話である。今夜も安心して眠ってもらってかまわない。

 ・・・この話、20世紀末のうちに書くべきだったのか。




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