ファンタジー ト長調 BWV572

カテゴリ オルガン曲
成立年代 1708-12年頃
解説 ヴァイマール時代の作品で、伝えられる筆写譜にはフランス語で『Piece d'Orgue(オルガン小品)』と題書きされています。
バッハがグリニー、レゾンなどフランスの作曲家の様式を模倣したとはっきり示した、珍しい曲です。

全体が3部分に分かれており、
「Tres vitement(非常に早く)」「Gravement(荘重に)」「Lentement(ゆっくりと)」という指示が、
こちらもフランス語で、バッハ自身の手によって付されています。
両端の部分はL.クープランやダングルベールの拍節なしのプレリュードのように自由で、
あるいはイタリアのフレスコバルディによるトッカータを思わせる走駆的な形式ですが、
「荘重な」中間部分はグリニーのグラン・ジュの手法を思わせる、堂々たる5声部の重厚な響きで感動的です。

私は松居直美さんのコンサートで初めてこの曲を聴いたとき、
中間部の入り口で、いきなり入るべダルの轟音にものすごく圧倒された憶えがあります。

弾き栄えのする曲で、オルガニストには特に愛されているのか、
私がかつて短いドイツ旅行をしたときに、この曲を聴く機会に2度も恵まれました。

 

 

グスタフ・レオンハルト ☆☆☆☆☆
1974、75年録音。
BWV547、769、733、663、665、666、668、548、565、618、766、546、710、736、767、562、572収録。
オランダ、アムステルダムのフランス改革派教会ミュラーオルガン使用。
レオンハルトによるバッハのオルガン作品の録音は極めて少なく貴重です。
とりあえずこのセオン盤2枚組は必携のディスクになります。
しかし、その少ない録音の中に、この「ファンタジー ト長調」があるのは喜ぶべきことでしょう。
知性と感性のバランスが、全く非の打ち所のない名演で、
堂々たる中間部で感動しない者はいないと確信しています。
レオンハルトは子どもの頃から自宅にあったC.ミュラー作の家庭用オルガンで練習し、
長じてこの録音で使用された教会のオルガニストになったということで、まさに自分の楽器も同然。
完全に知り尽くした銘器による、神経のゆきとどいた演奏です。
[sony-seon] SRCR2120/1

 

☆☆☆☆☆ スコット・ロス
1989年(?)録音。
BWV535、572、768、566、669、670、671、675、677、679、681、528、538収録。
「L'Art de Scott Ross Vol. II」と題された1枚。(「Vol. I」はバッハ以外、持ってません。)
ロスのオルガンもの自体めずらしいのですが、バッハもので1枚となればこれだけでしょう。
入手困難盤らしいので、中古屋で見かけたらすぐに買うべきです。
「ファンタジー ト長調」は柔らかめのストップで、解釈は王道を往くものです。
上記のレオンハルトよりもスタンダード的演奏と言えるかもしれません。
早めのテンポが格好良い。
[CBC Records]
PSCD 2006

 

トン・コープマン ☆☆☆☆☆
1994年録音。BWV542、578、588、544、543、562、531、572、570、582収録。
オランダ、マーススライス教会のガレルスオルガン使用。
最近完成したコープマンの全集。その記念すべき第1巻で、安く(2000円)再発されました。
名曲が数多く収められており、バッハオルガン作品のアンソロジーとしてもお勧めできます。
この「ファンタジー ト長調」はコープマンとの相性ぴったりという感じで、
特に最後の部分は早く滑らかでびっくりします。
中間部分では、それぞれの旋律線にかなりはっきりしたアーティキュレーションを施しているので、
私も最初は鼻につきましたが、今ではけっこう好きです。
[TELDEC] WPCS-10579

 

☆☆☆☆☆ ジャン・シャルル=アブリゼル
1994年録音。BWV564、709、572、721、590、537、740、582収録。
ドイツ、ゴスラー=グラウホフ聖ゲオルク教会のトロイトマンオルガン使用。
F.クープランに定評があるアブリゼルによるバッハ。やけに豪華な造りのケースにブックレット。
音栓を選び方にメリハリがあって、オランダ系の奏者とは違った独特の演奏です。
いろいろなオーセンティックがあるんだな、と感心させられます。
個人的にはかなり好きな演奏で、何度聴いても飽きません。
アブリゼルにはもっとバッハを弾いてほしいのですが、この他にあと数枚あるくらい。
しかも、入手困難。私も持ってません。
[HARMONIC RECORDS]
H/CD 9350

  

ジャック・ヴァン・オールトメルセン  ☆☆☆☆
1997年録音。BWV565、583、740、978、562、734、694、533、770、572、566、532収録。
オランダ、カンペン、ボーフェン教会のヒンツオルガン使用。
バッハ・オルガン作品全集第4巻に収録されています。
バッハのオルガン作品は、コープマン以外はロクな全集がないので、ぜひとも完結させてほしいシリーズ。
最初からストップを全く変えずに弾かれています。
個人的には中間は厚く、前後は軽い方が好みなのですが、こちらの方がオーセンティックなのかな?
中間部の扱いは上手で、重みがありながなも、ごく細かいアーティキュレーションによって、
「鈍重」にはならないところは流石です。
[CHALLENGE CLASSICS]
72061

  

☆☆☆☆ アンドレア・マルコン 
2000年録音。BWV543、754、694、571、653b、733、536、736、572収録。
スイス、ムーリ修道院所属教会オルガン使用。
非常にシャープで推進力のある演奏。今最も新しいバッハです。
マルコンはイタリアの奏者ですが、イタリアと聞いて連想する陽気さや楽天的なところはありません。
とても知的で透徹したアプローチです。
ただ、中間部の入りは、もっと間があってもいいと思います…。
ヘンスラーの全集は、かなり当たり外れがありますが、
このマルコンが担当しているバッハの初期オルガンシリーズは必携でしょう。

[hanssler] CD 92.090

  

ハラルド・フォーゲル ☆☆☆☆
1991年録音。BWV572、590、700、701、564、723、722、710、729、990、535収録。
スイス、ミラノ聖シンプリチアーノ教会アーレントオルガン使用。
ずっと廃盤だったディスクがバッハ生誕320年を記念して再発されました。素晴らしい。
バッハの初期作品を集めており、なかなか音源のない曲もたくさん収録されています。
その中では、「ファンタジー ト長調」は目玉とも言える有名曲でしょう。
アーレントオルガンの音色はとてもクリアですっきりしていて、中間部ではもう少し重くてもと思いますが、
フォーゲルの適切なアーティキュレーションで、楽器に相応しい名演となっています。
後半部がすごく速い。ちなみに解説は奏者本人で、訳出は礒山雅氏。
[DHM] BVCD-38112

 

☆☆☆ スコット・ロス 
1974、75年録音。
バッハのBW572ほか、J.ブル、J.ブロウ、A.カベソン、F.C.de.アラウホ、P.de.アラウージョ、
G.フレスコバルディ、S,シャイト、J.A.ダングルベールの作品を収録。
フランス、キュエルス(?)のロワイエ・オルガン使用。
フランスの放送局の音源を用いたレーベルINAによる、スコット・ロス没後10周年記念盤。
2枚組で、オルガン1枚ものだけだと型番がIMV-001です。
アプローチそのものは上記のCBC盤と変わりないのですが、
オルガンの選択が悪いのか、ストップの選択が悪いのか、ちょっと軽すぎます。
CBC盤の方が圧倒的に良い。
[INA] IMV-036

 

ダニエル・コルゼンパ ☆☆
1983年録音。BWV645、646、647、648、649、650、572、768収録。
スイス、アーレスハイム大聖堂のジルバーマンオルガン使用。
コルゼンパはオーセンティックな奏者なのか、そうじゃないのかよくわからない人ですが、
これは、とにかく面白くない。アーティキュレーションが細かすぎて、一様で変化がないです。
併録のコラールはそう悪くないんですけど。
[PHILIPS] PHCP-9047

 

☆☆ ヘルムート・ヴァルヒャ
バッハ・オルガン作品全集。
ドイツ、アルクマール聖ラウレンス教会のシュニットガーオルガン使用。
鍵盤の交代による音色の変化が激しくて、どうも一時代前の演奏という感じです。
中間部分も足どりにやや頼りなさを感じます。
[ARCHIV]
POCA-9040/51


2007.4.15更新フレーム付きトップへ