| 第4部 | 作・マリン |
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「丘野、丘野、丘野」 丘野が手を振りながらサポーター達に応え、守備位置につく。 「ついにここまで来たか・・・。 東が胸に手を当て、天を見る。 「プレー」 東、プレーのコールと共にモーションに入る。 カキーン! 良い当たり! バシッ 中野が横っ飛びでキャッチ。 「アウトーッ」 中野のファインプレー。 「あと2人、あと2人」 場内からはあと2人コールが起き始めた。 ベンチに戻ってきた高山。 「監督、東の球威は落ちています。 「そうか・・・。それなら石田・明智で最低でも同点になる。 吉良はまだ諦めていなかった。 東は・・・、気持ちとは裏腹に、体は疲労でいっぱいだった。 「くそ、何でだ・・・。 マウンド上の東が珍しく苛立っている。 ポン 「野々木・・・」 野々木がマウンドに近づく。 「東さん、はい、ボール。 「野々木、ありがとう」 野々木はそう言って守備位置に着いた。 「3番、サード・石田君」 「石田、頼むで」 「イッタレや」 ここからが怖い史上最強の羽柴ツインパワー。 「石田・・・、行くぞ」 東は体にムチを打ち、石田への初球。 カッ! 風神がバットを振る。 カキーン! 激しい金属音が甲子園にこだまする。 バシッ! 野々木、長身を生かし、ジャンプ一番。 「アウト」 ワーーーーーッ! 場内が歓声と悲鳴で溢れかえる。 「ふーーーーーっ、野々木、ナイスキャッチ。 野々木が長身でジャンプ力がなかったら、石田のライナーはそのまま上昇し、スタンドに入っていただろう。 「東さん、俺のバスケット経験がここに来て生きました。 「ああ、野々木。勝とうな」 「はい」 「4番、ファースト・明智君」 「明智、明智、明智」 スタンドは悲痛なまでの明智コールに変化している。 明智が雷神のオーラで打席に入る。 「来い、東。勝ち負けや優勝がどうのではない。 明智が全ての雑念を捨て、東との勝負に集中する。 グリッ、グリッ ポタッ、ポタッ ホームベースに血が落ちている。 「東、来い。負けるな」 新村が構える。 「東さん」 「東」 他のナインも全神経を集中し、東を見守る。 ガッ 東、ゆっくりとモーションに入る。 カキーン! 機関銃のような打球音が甲子園に流れた。 「ファール!」 打球はファールとなった。 カキーン! カキーン! 「はあはあはあ」 東も明智も肩で息をしている。 ・・・・・ガタッ! 東の膝がガタついた。様子がおかしい! 「東!」 「タイム」 ナインがマウンドに駆け寄る。 「大丈夫か、東?」 「ああ、済まない・・・、大丈夫だ」 そこへ・・・。 「東、伝令だ」 西野だった。 「この場面、お前自身で決めろ 東がベンチの富岡に目をやる。 その瞬間、ネット裏・・・。 ガタッ!! 「どうしたの、黒岩君?」 「東!!」 黒岩が放送席で叫ぶ。(ちなみに全国ネットで放送中) 「黒岩」 東が気づく。 「立て。俺との約束、忘れたか」 「は・・・」 千葉県大会決勝で黒岩と誓った約束を思い出した。 「甲子園で羽柴を倒せよな。お前達なら出来る」 「ああ。絶対、羽柴に勝って真紅の大優勝旗を千葉に持ち帰って来るさ」 「そうだったな、黒岩。俺は今、思い出したよ。 「・・・わかった。お前を信用しよう。 「おう!」 ナインが守備に散った。 「まりや、俺はギリギリまで頑張った。 「徹・・・」 まりやが呟く。 今、2人の気持ちが通じ合った。 「プレー」 「行くぞ・・・」 「来い」 東、ゆっくりとしたモーションから右腕をしならせ・・・。 「これが最後だ」 右手から渾身のボールを投げ込む。 ゴーーーーーーーー グワーーーーーァ 明智が絶叫しながら振り抜く。 バシン!! 新村のミットにボールが収まった。 「ス、ストライク・スリー!ゲームセット!!」 甲子園に一瞬の沈黙。 パタパタ・・・ その時、ハトが上空を舞った。 ワーーーーーーーーーーッ すぐに甲子園が大歓声に包まれた。 「やった、やったーぁ!優勝だーっ!!」 新村が、丘野が、グランドの全選手、ベンチの控え部員がマウンドに駆け寄る。 「やった、優勝だ」 ナインが東を中心に抱き合う。 「明智」 歓喜の輪を見つめながら石田が明智に声をかけた。 「石田・・・、最後、俺は素晴らしい勝負が出来たよ。しかも甲子園で」 「そうだな。さあ、整列しよう」 「ああ」 数分後、両チームの選手が整列した。 「球史に残る素晴らしい決勝戦でした。 「した」 ウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 両軍選手達がホームベース上で抱き合い、お互いの健闘を称えあった。 「東・・・、お前との勝負で・・・俺は3連覇以上のものを掴んだ。 「明智・・・、正直、お前から出されるオーラにいつも圧倒されそうだった。 「新村君、優勝おめでとう」 「ありがとう、石田君」 「丘野、ここ1年、俺は公式戦でホームランで打たれた事がなかった。 「いや、初回の二塁打以降、柴田の速球には最後の最後まで 「そうだな」 パチパチ・・・ 優勝した東条高校にも、そして惜しくも敗れた羽柴学園にも暖かい拍手が贈られた。 「ご覧ように、4-3で東条高校が勝ち、優勝いたしました。 「♪〜・・・ 大観衆の手拍子の中、東条高校の校歌が流れた。 「優勝だ」 ナインは全速力でサポーター達に報告へ向かう。 「気をつけ、礼」 「した」 「みんな、よくやった」 「ありがとう」 サポーター達も祝福した。 「まりや、ありがとう」 「徹・・・」 東とまりやがネット越しで会話を交わす。 「よし、監督を胴上げだ」 ナインが富岡を囲む。 「ワッショイ、ワッショイ」 「みんな、ありがとう」 富岡が涙を流している。 「・・・富岡さん、負けたよ。 吉良監督も悔しさ反面、何かをやり遂げた清々しさも感じた。 「・・・富岡さん、今、初めてあなたを尊敬できる気持ちになりました。 スタンドで観戦していた山根一樹監督だった。 「東・・・、俺との約束、見事に果たしたな。 「黒岩、お前のあの一言で俺は生き返った。 黒岩と東の甲子園での無言の会話が交わされた。 30分後。 「優勝校、千葉県代表・東条高等学校」 主将の新村がホームベース上に向かう。 「おめでとう、よく頑張ったね」 「ありがとうございます」 次の瞬間、新村の両手にずっしり重い真紅の大優勝旗が渡された。 「これが優勝旗の感触か」 新村が肌で優勝旗の重みを感じた。 「優勝盾授与」 今度は東が向かう。 「よく投げたね」 「ありがとうございます」 東がゴールドの輝きを放つ優勝盾を手した。 「準優勝、大阪府代表・羽柴学園高等学校」 石田が堂々と向かう。 「惜しかったね。でも、良い夢を与えてくれた。ありがとう」 「ありがとうございます」 石田がシルバーの輝きを放つ準優勝盾を手にした。 「選手はグラウンドを1周します。 ♪〜雲は沸き光あふれて 大会歌『栄冠は君に輝く』と共に両チームの選手達が場内を1周する。 両チームとも達成感あふれる表情で堂々と甲子園のピッチを行進した。 パチパチパチ・・・ 夏の選手権は甲子園が拍手の嵐に包まれ、今、ここに閉幕した。 数時間後。 「これは、選抜で羽柴に敗れた時に拾った土だ。 新村の合図で全部員が甲子園に土を返した。 「甲子園の夕日は最高だな」 穏やかな表情で東がそう呟いた。 |