マイエラ修道院においては古来より聖堂騎士団の制服は青が基調とされている。それは数 百年間変わらず守られてきた不文律であり、神聖にして侵すことのできないものであっ た。しかし昨今その深い色合いがやや堅苦しく感じられ、声を掛けがたい雰囲気を醸し出 している、という報告がオディロ院長のもとには届けられていた。また先日騎士団入りを 果たしたある人物―ククールという青年が制服の形を変えたばかりか、もとは青い制服を 赤に染めたということで一部から批判されており、オディロ院長としてはこのふたつの問 題をできるだけ早急に解決しなければならなかった。


「困ったのぅ…どうしたものか」
ここ数日毎日同じつぶやきを繰 り返し問題の解決に頭を悩ませていたオディロ院長だったが、それから数日後に晴れ晴れ とした顔で騎士団の制服の一手に引き受けている仕立て屋を呼び寄せると、ある指示をし 自らペンをとって紙に何事かを書き込んだ。そしてそれらの内容はその日からちょうど一週 間後に聖堂騎士団員だけでなく修道院の者全員に明らかにされたのである。
「おい、ククール。オディロ院長からみんなにお話があるそうだ。すぐにこい」
前日少し離れた貴族の別邸まで祈りに ―といっても実際は違うのだが―行っていたククールは朝寝を楽しんでいたが、オディロ 院長の話となれば起きないわけには行かない。のろのろと体を起し背伸びをして簡単に身仕度 を整え、すでに人でいっぱいになっている部屋へと急いだ。急遽作られた壇上にオディロ 院長が立ち、その隣には何か布でおおわれたものが置かれていた。ククールが最後尾に滑 り込んだちょうどその時オディロ院長の話が始まった。
「昨今聖堂騎士団の制服が堅苦しく声を掛けすらいという声が多い。そのため今回形はそ のままで色だけを変えるとにした。その色を変えた制服を今日ここで披露する」
その言葉が終わると同時に壇上にあったものが掛け布を外されみなの前で披露された。そこには 確かに色だけが変わった騎士団の制服があっ たが、その色を見た騎士団員たちは最初無言で、ついであちこちからうめき声に似たもの が聞こえた。新しい制服の色、それは濃く光沢のあるピンクだったのである。
「…なんつー色だよ…」
自分の真っ赤な、しかも明らかに変形の制服を棚上げしてククールがあ まりの色合いに茫然としていた。そのククールのつぶやきは騎士団員たちに共通の思いだった ろうが、ただ一人だけ 即座に賛意を示した者がいた。それは他ならぬ聖堂騎士団長、つまりマルチェロだった。
「これなら女性や子供にも親しみやすく、かつ誰の目にもとまりやすいことでしょう」
「おお。そなたもそう思うか、マルチェロ」
「はい。さっそく全員の制服を変更しなくては」
「その心配ならいらぬ。すでに手配済みじゃ」
そのときようやく突然の発表に呆然と していた者たちは、いつのまにか部屋に運び込まれていた荷物に気が付いた。その荷物の 傍らには見知った仕立て屋が満面の笑みで立っており、騎士団員たちは一瞬でその荷物が 何なのかを悟った のである。

そして次の日から栄えある聖堂騎士団員たちは伝統の青い制服を脱ぎ捨て、鮮やかなピン クの制服を身にまとって職務に従事するようになった。街中を歩けば確かに以前より声を 掛けられる機会は増えた。さらに魔物退治等に出向いた際も黙々と職務に励む者が増え た。それは新しい制服の色が非常に目立つため、新たな魔物を呼びよせかねないと素早く 退治を済ませるようになったからで、結果として滞在時間が短くなった。そのため魔物退治など 任務1件毎に要する時間が短くなり、 魔物退治の嘆願などにも迅速な対応をしてくれると騎士団の評判は上がっていったのであ る。 このように一見いいことづくめと思われた新しい制服だったが、最大の、かつ非常に重要 な問題は当初からくすぶり続けていた。一番の問題―それは鮮やかなピンクという色そ のものにあった。あまりにも鮮やかで目立つこの色の制服を着て歩くことは、生粋の武 人でもある騎士団員にとってはっきり言って恥ずかしく耐えられないのである。だが 修道院の長たるオディロ院長と騎士団の長であるマルチェロが決めたことに逆らえるはずもなく、団員たち は日々ため息をつきながらも職務に励まねばならなかった。もちろんククールもそのうちの 一人で、以前の赤い 制服を懐かしんでいた。

そんなある日、ククールは修道院のあちこちで数人ずつ聖堂騎士 団員が集まってなにやらこそこそしているのを見かけた。ククールは普段ほとんど誰とも 一緒に行動したりせず、一人でいることが多いため、その集団には加われず何をやってい るのかはよくわからなかったが、時折「もう限界だ」とか「最後の手段に出るしかない」 といった声を聞いてはいた。そしてそれからしばらくしてオディロ院長あてに法王直々の 親書が届き、同時に法王が個人的にもオディロ院長に手紙を送ってきたのである。2通の 手紙を受け取った オディロ院長は半日自室にひきこもっていたが、夕方になってマルチェロを呼ぶと、聖堂 騎士団員の制服を元の色に戻すよう告げたのである。オディロ院長は少し残念そうにはし ていたが、それ以上制服の色にはこだわりを見せず、マルチェロに皆への周知を命じた。 しかしここでマルチェロは珍しくオディロ院長に反論したらしかったのだが、結局はオディ ロ院長に従い制服を真っ先に元の青いものに戻した。そして他の聖堂騎士団員たちも晴れ 晴れとした笑顔でピンクの制服から青い制服へと着替え、聖堂騎士団員たちは以前のよう に職務に励むように なった。ただククールだけは以前の制服と言っても青くはなく赤いもので、なぜかしばら くの間以前にも増してマルチェロから不機嫌な目付きで睨まれるようになり、時には「赤 がいいのなら他の色でもいいはずだ」という八つ当たりのようなことも言われたのだった。

ちなみに後日判明したのだが、法王からの親書には『伝統あるマイエラ修道院の聖堂騎士 団の制服を以前の色に戻すべし』と記されており、オディロ院長はこの親書を受けて制服 の色を以前のものに戻すことを決めたという。だが実際は親書をよりも個人的に届けられ た手紙による ところが大きかったらしい、というのがもっぱらの噂だった。ただその内容については明 らかにされず、ピンクの制服とともに二度と人目に触れることはなかったという。




作:りゅー