着底物体離床問題についての一つの考え方


 理科教育MLでお騒がせいたしました離床問題(潜水艦浮上問題、直方体着底問題)について、「こういう考え方もある」というものを書いてみます。ご意見などありましたら、理科教育MLmail:tc6342@geocities.co.jpへお願いします。

#  自明と思われるようななことまで説明したりしていますので、
# 表現がくどくてわかりにくくなってしまいました、ごめんなさい。

 文中で使用する記号他は、1章にまとめてあります。前半は計算ばかりですので、お急ぎの方は最初の方を飛ばして10章から読んでいただければよろしいかと思います。


目次:

1. 用語・記号・定義
2. 空の水槽
3. 木片を入れる前(木片が空中にある場合)
4. 木片を水中に入れた場合
5. 着底時(点接触)
6. 着底時(密着)
7. 着底時(面接触)
8. 水面に浮上した木片
9. 水槽内容が剛体の場合
10. 力の計算のまとめ
11. 浮上(離床)に必要な力
12. 水の移動に対する抵抗
13. 「抗力」
14. まとめ
15. 参考:工学的な話題


木片、水槽、秤の配置 1 用語・記号・定義(図1)

 一般的でない定義で使用する用語もあるので、以下で使用する記号と用語について、ここでまとめて記しておきます。一応参照しなくても読めるように書いたつもりなので、邪魔だという方は、2章まで読み飛ばして下さい。

 図1のように、水が入った水槽を台秤に乗せ、その中にバネ秤と棒で繋がった木片を下ろします。

1.1 全体に関わるもの

g:重力加速度。
ρ_air:大気の密度。
ρ_aq:水の密度。
x_hx:hxの位置(高さ)におけるxの圧力。

1.1.1 ;力の向き:

 下向きを正にとっていますので、浮力のように上向きの力は(式の上では)負の値となります。また、バネ秤の読みの差〔ΔF_バネ秤〕のように、通常は正の値をとることのないものもありますので、注意して下さい。

Wt_x:xの(真空中)重量。
air_x:xの大気中重量。
aq_x:xの水中重量。
_x→y:xがyに加える力。

1.2 水槽:

1.2.1 水槽全体

 各内壁(底面および側面)が一定の厚みを持った滑らかな平面でできた水槽で、壁面は垂直、十分高い剛性を持っているものとします。

Wt_水槽:水槽の(真空中)重量。
air_水槽:水槽の大気中重量。
_水槽:水槽の壁と底を構成している材料の体積。=V_水槽_底+V_水槽_壁
      - - - - (1-1)

1.2.2 水槽の底

水底:水槽の底部内壁(水槽の底上面)。
_底(水底面積):水槽の底部内壁(水槽の底上面)の面積。
h1:水底の位置(高さ)。
_水槽_底:水槽の底部の体積。=S_底×(h1−h0)     −−−−− (1-2)
_水底:水底全体に加わる力。

1.2.3 水槽の壁

_壁:水槽壁の水平断面積。
h2:水槽壁の高さ。
_水槽_壁:水槽壁の体積。=S_壁×(h2−h0)     −−−−− (1-3)

1.2.4 木片:

 十分高い剛性を持った均一な密度の直方体で、表面は滑らかな平面。中央上部に取り付けられた棒を介してバネ秤に接続されている。また、木片は常に水平になっているものとします。便宜上「木片」としていますが、比重は〔<1〕とは限りませんので、プラスチックか金属の直方体を想像してもらった方が良さそうです。

水中:水槽の底に接触していない、かつ木片上面が水面下にある状態。
着底:水槽の底面に接触している(水槽の底との間には水の層が存在する場合もある)状態。
密着:木片の底面と水槽の底との間の空間の体積が0となった(理想的な)状態。
水上:木片上面は水面より上、木片下面は水面より下にある状態。
Wt_木片(木片重量):木片の(真空中)重量。
air_木片:木片の大気中重量、Wt_木片(木片重量)から大気からの『浮力』を引いた値。
aq_木片:木片の水中重量、Wt_木片(木片重量)から水による『浮力』を引いた値。
_木片:木片の水平断面積(木片は水平になっているので、木片上面の面積、下面の面積に等しい)。
h_木片:木片の高さ。
_木片:木片の体積。=S_木片×h_木片     −−−−− (1-4)
ρ_木片:木片の密度。=Wt_木片/V_木片     −−−−− (1-5)

1.3 浮力

《浮力》:木片に加わる水圧(または大気圧)ベクトルの面積分、流体以外(棒、水槽)から受ける力は加算しない。

『浮力』:木片が排除した水(及び空気)の重量(×−1)〔=((水面から下にある木片の体積)×水の密度+(水面から上にある木片の体積)×空気の密度)×重力加速度×−1〕。

1.4 バネ秤:

1.4.1 バネ秤:

 棒に加わる力を測定する秤、張力を重量として測定するだけでなく圧縮力も(負の重量として)測定できるものとする。

_バネ秤:バネ秤の読み、棒の張力に等しい。
ΔF_バネ秤:バネ秤の読みの増加分。通常着底時にはバネ秤の読みは小さくなるので、〔ΔF_バネ秤≦0〕となる。

1.4.2 棒:

 太さ、質量、伸びともに0、十分な剛性を持ち曲がらない理想的な棒、木片の上面中央部に体積0で接着してある。張力がかかっている場合は理想的な糸と見なすが、圧縮力がかかっている場合は、曲がり、縮みのない棒と見なす。

1.5 台秤:

 水が入った水槽の重量を測る秤、秤の読みは〔水槽に加わる力+水槽重量−皿に最初から加わっていた大気圧〕を示す。バネ秤は台秤の外で支持しているので、台秤に力は加わらない。簡単のために、台秤の皿の大きさは水槽の(外側)底面に等しいことにする。
h0:台秤の皿上面の位置(高さ)。
_皿:台秤の皿上面に加わる力。「台秤に加わる力」と略称する。
ΔF_台秤:台秤の読み。


図2:水槽 2 空の水槽(図2)

2.1 空の台秤

 空の台秤(秤に水槽を乗せる前)にも(台秤の皿に)大気圧は働いています。
その大きさは、

_皿(空)
 =(台秤の皿の面積)×(皿の位置〔h0〕における大気圧)
 =(S_底+S_壁)×Pair_h0     −−−−− (2-1)

 台秤はこの状態で0を指すように秤が調整されているため、何も乗せていない秤の読みは〔0〕となります。

2.2 台秤の読み

 台秤に空の水槽を乗せると、台秤の皿に加わっていた大気圧は水槽にさえぎられ、そのかわりに水槽の重量と水槽に加わっている大気圧が増加します。
水槽の(真空中)重量を〔Wt_水槽〕とすると、水槽が台秤の皿を押す力〔F_皿(空水槽)〕は、

_皿(空水槽)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Paq_h1(#2)
      - - - - (2-2)

となりますから、台秤の読み〔ΔF_台秤(空水槽)〕は、

ΔF_台秤(空水槽)=F_皿(空水槽)−F_皿(空)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Paq_h1(#2)−(S_底+S_壁)×Pair_h0
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0
      - - - - (2-3)

となります。
ところで、大気圧は上空の大気重量がかかったものと見なすことができ、

air_h0−Pair_h1=(h1−h0)×ρ_air×g      - - - - (2-4)
air_h0−Pair_h2=(h2−h0)×ρ_air×g      - - - - (2-5)

なので、

_底×(Pair_h1−Pair_h0
 =−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g
 =−S_底×(水槽底の厚み)×ρ_air×g
 =−V_水槽_底×ρ_air×g      - - - - (2-6)

_壁×(Pair_h2−Pair_h0
 =−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g
 =−V_水槽_壁×ρ_air×g      - - - - (2-7)

したがって、

ΔF_台秤(空水槽)
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0
 =Wt_水槽−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g
 =Wt_水槽−V_水槽_壁×ρ_air×g−V_水槽_底×ρ_air×g
 =Wt_水槽−(V_水槽_壁+V_水槽_底)×ρ_air×g
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g      - - - - (2-8)

となります。
 この内〔V_水槽×ρ_air×g〕は、水槽を作っている材料と等しい体積を持つ空気重量と等しく、水槽を空気中に吊るした時水槽に働く「空気による『浮力』(=水槽を空中に浮かせた時の《浮力》)」と大きさが等しくなっています。

『浮力_air水槽』=−V_水槽×ρ_air×g      - - - - (2-9)

従って秤の読みは、

ΔF_台秤(空水槽)=Wt_水槽+『浮力_air水槽』      - - - - (2-10)

と書くこともできます。
以降これを水槽気中重量〔Wair_水槽〕と呼ぶことにします。

air_水槽=ΔF_台秤(空水槽)
 =Wt_水槽+『浮力_air水槽
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g      - - - - (2-11)


3 木片を入れる前(木片が空中にある場合)

 木片が空中にある場合は、木片の重量はバネ秤に、水槽の重量は台秤にかかります。

3.1 水底に加わる力

 空の水槽に(〔h3〕の高さまで)水を張ると、水槽の底(水底)は水圧を受けることになります。この水底における水圧〔Paq_h1(#3)〕は、

aq_h1(#3)=(h3−h1)×ρ_aq×g+Pair_h3      - - - - (3-1)

ですから、水底全体にかかる力〔F_水底(#3)〕は、

_水底(#3)=S_底×Paq_h1(#3)
 =S_底×((h3−h1)×ρ_aq×g+Pair_h3)      - - - - (3-2)

となります。ところで、大気圧は上空の大気重量がかかっているものと見なすことができるので、式(2-4,5)と同様に

air_h1−Pair_h3=(h3−h1)×ρ_air×g      - - - - (3-3)

の関係があります。

3.2 台秤の読み

 一方、この時に台秤にかかる力〔F_皿(#3)〕は

_皿(#3)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#3)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Paq_h1(#3)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×((h3−h1)×ρ_aq×g+Pair_h3
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×(h3−h1)×ρ_aq×g+S_底×Pair_h3
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×(h3−h1)×ρ_aq×g+S_底×(Pair_h1−(h3−h1)×ρ_air×g)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+S_底×(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
      - - - - (3-4)

です。入れた水の(真空中)重量を〔Wt_水〕、水の大気中(における見かけの)重量を〔Wair_水〕、水底面積を〔S_底〕とすると、

Wt_水=S_底×(h3−h1)×ρ_aq×g      - - - - (3-5)

air_水=Wt_水−S_底×(h3−h1)×ρ_air×g
 =S_底×(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g      - - - - (3-6)

となりますから、

_皿(#3)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+S_底×(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_水
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_水      - - - - (3-7)

と書くこともできます。台秤の読み〔ΔF_台秤(#3)〕は、水槽を乗せる前に台秤に加わっていた大気圧との差ですから、

ΔF_台秤(#3)=F_皿(#3)−F_皿(空)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_水−(S_底+S_壁)×Pair_h0
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0)+Wair_水
 =Wt_水槽−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g+Wair_水
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g+Wair_水
 =Wair_水槽+Wair_水      - - - - (3-8)

を示します。つまり台秤の読みは、水槽に入れた水の気中重量分だけ増加した〔水槽気中重量 Wair_水槽+水の気中重量 Wair_水〕ということになります。

3.3 バネ秤の読み

 木片の底面積を〔S_木片〕、高さを〔h_木片〕、(真空中)重量を〔Wt_木片〕とすると、木片の体積〔V_木片〕は、

_木片=S_木片×h_木片      - - - - (3-9)

です。この木片には、重力だけでなく、空気からの《浮力》も加わっています。

《浮力(#3)》
 =S_木片×(木片上面における大気圧−木片下面における大気圧)
 =S_木片×(−h_木片×ρ_air×g)
 =−V_木片×ρ_air×g      - - - - (3-10)

 ところで、『浮力』=−(木片が排除した流体の重量)と定義したので、

『浮力_air木片』=−V_木片×ρ_air×g=《浮力(#3)》      - - - - (3-11)

木片が空中にある状態においては《浮力》と『浮力』は等しくなります。
 バネ秤の読み〔F_バネ秤(#3)〕は、木片の大気中(における見かけの)重量〔Wair_木片〕を示すことになります。

_バネ秤(#3)=Wair_木片
 =Wt_木片−V_木片×ρ_air×g
 =Wt_木片+『浮力_air木片』      - - - - (3-12)

したがって、木片の大気中(における見かけの)重量〔Wair_木片〕は、木片の(真空中)重量〔Wt_木片〕に、空気からの浮力〔『浮力_air木片』〕を加えたものとなります。ちなみにこの時、台秤の読みとバネ秤の読みの合計は、

ΔF_台秤(#3)+F_バネ秤(#3)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (3-13)

となっています。


図3:水中の木片 4 木片を水中に入れた場合(図3)

 木片を水槽と接触しないように吊り入れる(または押し込む)と、水深は〔h3〕から木片の体積分〔V_木片〕だけ増加し〔h4〕となります。

h4=h3+V_木片/S_底
      - - - - (4-1)

4.1 水底に加わる力

 その結果、水槽の底の水圧〔Paq_h1(#4)〕は

aq_h1(#4)=(h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4
      - - - - (4-2)

に増加します。新たな水面の位置(高さ)における大気圧〔Pair_h4〕は、式(2-4,5)と同様

air_h1−Pair_h4=(h4−h1)×ρ_air×g
      - - - - (4-3)

の関係にありますので、

aq_h1(#4)=(h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4
 =(h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h1−((h4−h1)×ρ_air×g)
 =(h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+Pair_h1      - - - - (4-4)

となります。

 つまり、〔水底に加わる圧力〕は〔水深(h4)〕(水の量と木片の体積と水底面積)だけで決まり、木片の材料(密度)には関係しません。

一方、水底全体にかかる力〔F_水底(#4)〕は、

_水底(#4)=S_底×Paq_h1(#4)
 =S_底×((h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+Pair_h1
 =S_底×((h4−h3)+(h3−h1))×(ρ_aq−ρ_air)×g+S_底×Pair_h1
 =S_底×(h4−h3)×(ρ_aq−ρ_air)×g+S_底×(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+S_底×Pair_h1
 =V_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g+Wair_水+S_底×Pair_h1
      - - - - (4-5)

となります。ところで、木片と等しい体積を持つ水の大気中(における見かけの)重量(排水重量)を〔Wair_排水〕とすると、

air_排水=V_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g      - - - - (4-6)

なので、

_水底(#4)
 =V_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g+Wair_水+S_底×Pair_h1
 =Wair_排水+Wair_水+S_底×Pair_h1      - - - - (4-7)

となります。

4.2 台秤の読み

 台秤に加わる力〔F_皿(#4)〕は

_皿(#4)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#4)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+Wair_排水+Wair_水+S_底×Pair_h1
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_排水+Wair_水
      - - - - (4-8)

となります。そのため、台秤の読み〔ΔF_台秤(#4)〕は、最初台秤に加わっていた大気圧を引いた

ΔF_台秤(#4)=F_皿(#4)−F_皿(空)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_排水+Wair_水−(S_底+S_壁)×Pair_h0
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1−(S_底+S_壁)×Pair_h0+Wair_排水+Wair_水
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0)+Wair_排水+Wair_水
 =Wt_水槽−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g+Wair_水
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g+Wair_水
 =Wair_水槽+Wair_排水+Wair_水      - - - - (4-9)

となります。
 木片を入れる前の台秤の読みとの差は、

ΔF_台秤(#4)−ΔF_台秤(#3)
 =(Wair_水槽+Wair_排水+Wair_水)−(Wair_水槽+Wair_水
 =Wair_排水      - - - - (4-10)

従って、木片を入れたために増加した台秤の読みは〔Wair_排水〕に等しく、木片の密度によりません。

 つまり、台秤の読みだけからは「水量が〔木片体積V_木片=排水量〕だけ増加した」ように見えます。

4.3 水中木片の《浮力》

 この時、木片の(台秤の台からの)位置(高さ)が、上面で〔h5〕、下面で〔h6〕だったとすると、木片の高さ〔h_木片〕との関係は、

h6=h5+h_木片      - - - - (4-11)

ですので、木片の体積から

_木片=S_木片×(h6−h5)=S_底×(h4−h3)      - - - - (4-12)

の関係が成り立っています。
 この木片には周囲から水圧がかかっています。水圧の横方向の力だけを考えると、対向する面同士に、方向が逆で大きさが等しい力が加わっており、結果的に全周で積分した力の大きさは〔0〕となります。
 一方、木片上面における水圧〔Paq_h5(#4)〕、木片下面における水圧〔Paq_h6(#4)〕は、それぞれ

aq_h5(#4)=(h5−h4)×ρ_aq×g+Pair_h4      - - - - (4-13)
aq_h6(#4)=(h6−h4)×ρ_aq×g+Pair_h4      - - - - (4-14)

なので、木片全体に加わる水圧の面積分〔F_aq→木片(#4)〕、すなわち木片に働く水の《浮力》は、

_aq→木片(#4)=《浮力(#4)》
 =S_木片×Paq_h5−S_木片×Paq_h6
 =S_木片×(Paq_h5−Paq_h6
 =S_木片×(((h5−h4)×ρ_aq×g+Pair_h4)−((h6−h4)×ρ_aq×g+Pair_h4))
 =S_木片×((h5−h4)×ρ_aq×g−(h6−h4)×ρ_aq×g)
 =S_木片×(h5−h6)×ρ_aq×g
 =S_木片×(−h_木片)×ρ_aq×g
 =−V_木片×ρ_aq×g      - - - - (4-15)

です。ところで、『浮力』=−(木片が排除した流体の重量)と定義したので、

『浮力_aq木片』=−V_木片×ρ_aq×g=《浮力(#4)》      - - - - (4-16)

木片が水中にある状態においては《浮力》と『浮力』は等しくなります。

4.4 バネ秤の読み

 この時のバネ秤の読み〔F_バネ秤(#4)〕は、木片の水中における(見かけの)重さ〔Waq_木片〕ということになりますが、木片に《浮力》が働くため、

aq_木片=F_バネ秤(#4)=(木片重量)+(木片が受ける水圧の面積分)
 =Wt_木片+F_aq→木片(#4)
 =Wt_木片+『浮力_aq木片
 =Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g      - - - - (4-17)

となります。
ところで、木片が空中にある時にバネ秤が示した読みとの差は、

_バネ秤(#4)−F_バネ秤(#3)
 =(Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g)−(Wt_木片−V_木片×ρ_air×g)
 =V_木片×(ρ_air−ρ_aq)×g
 =−V_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g
 =−Wair_排水      - - - - (4-18)

ですが、

_バネ秤(#4)−F_バネ秤(#3)
 =(Wt_木片+『浮力_aq木片』)−(Wt_木片+『浮力_air木片』)
 =『浮力_aq木片』−『浮力_air木片』      - - - - (4-19)

でもあるので、(4-18),(4-19)より、

_バネ秤(#4)−F_バネ秤(#3)=−Wair_排水
 =『浮力_aq木片』−『浮力_air木片』      - - - - (4-20)

となり、バネ秤の読みの差は〔−木片が排除した水の気中重量=(水中木片の『浮力』−木片が空中にあるときに受けた『浮力』)〕ということになります。
 ちなみに、台秤の読みとバネ秤の読みの合計は、

ΔF_台秤(#4)+F_バネ秤(#4)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_排水+Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g
 =Wair_水槽+Wair_水+V_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g+Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g
 =Wair_水槽+Wair_水+V_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g+V_木片×ρ_木片×g−V_木片×ρ_aq×g
 =Wair_水槽+Wair_水+V_木片×(ρ_木片−ρ_air)×g
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (4-21)

となっています。

 つまり、バネ秤の読みだけからは「『浮力』によって、〔木片重量〕が木片と等しい体積を持つ水(排水)の気中重量分だけ軽くなった」と見ることができます。

 これは、「それまでバネ秤に掛かっていた力から、〔Wair_排水〕相当の力が、台秤に移った」だけですが、浮力を導入した考え方をすれば、「〔木片重量〕が『浮力』(の差)分だけ軽くなった」「水量が〔木片体積 V_木片〕だけ増加し、水深が深くなったために、台秤の読み(=水槽と水の重量)が増加した」と見ることもできます。


5 着底時(点接触)

 木片が水底に点接触している場合を考えてみます(接触点数は一般には3点、剛体でなければ4点以上になるでしょうが、総面積が〔0〕である限りいくつでもかまいません)。木片と水底の間には、厚さ〔0〕の水の層があります。

5.1 バネ秤の読み

木片が水底に接触して、バネ秤の読みが接触前(木片が水中にある状態)より〔ΔF_バネ秤(#5←#4)〕だけ増加(〔−ΔF_バネ秤(#5←#4)〕だけ減少)したとすると、

_バネ秤(#5)=F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Wt_木片+『浮力_aq木片』+ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Waq_木片+ΔF_バネ秤(#5←#4)
      - - - - (5-1)

が成り立ちます。この〔ΔF_バネ秤(#5←#4)〕の大きさは、十分に大きくなると木片は離床してしまいますが、離床しない範囲ではどのような値でも取り得ます。通常の着底では〔ΔF_バネ秤(#5←#4)≦0〕です。

5.2 木片の浮力

 点接触ということは、接触面積は〔0〕です(接触面積〔0〕で力の伝達ができるかという向きもありましょうが、点接触の理想的な場合ということで…)。
接触点以外には水が入りこんでいますので、〔底面のうち水圧を受けている面積=S_木片〕となります。従って、この時木片が受ける水圧の面積分〔F_aq→木片(#5)〕すなわち《浮力》〔《浮力(#5)》〕は、水中に木片があった時と同じ

_aq→木片(#5)=《浮力(#5)》=《浮力(#4)》=『浮力_aq木片
 =−V_木片×ρ_aq×g      - - - - (5-2)

です。

5.3 水底に加わる力

 木片が水底に加える力を〔F_木片→水底(#5)〕とすると、

_木片→水底(#5)
 =(木片重量)+(木片に働く水圧の面積分)−F_バネ秤(#5)
 =Wt_木片+F_aq→木片(#5)−F_バネ秤(#5)
 =Wt_木片+『浮力_aq木片』−(F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#5←#4))
 =Waq_木片−(Waq_木片+ΔF_バネ秤(#5←#4))
 =−ΔF_バネ秤(#5←#4)      - - - - (5-3)

となります。

 つまり点接触においては、〔木片が水底に加える力 F_木片→水底(#5)〕は底部圧力によらず、バネ秤の張力(読み)の、木片が水中にあった時からの変化分だけで決まることになります。見方を変えると、「水中では、木片の水中重量は全て張力にかかっていたのに、その内〔F_木片→水底(#5)〕だけが水底に“逃げた”ため、その分張力が減少した」と解釈することができます。

# 〔|−F_木片→水底(#5)|〕は件の試験の標準回答の値に一致します。

 水位は着底前と変わっていませんので、水槽の底の水圧〔Paq_h1(#5)〕は着底前と同じ

aq_h1(#5)
 =Paq_h1(#4)
 =(h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+Pair_h1      - - - - (5-4)

したがって、水底全体には、水底に加わる水圧に木片からの力を加えた

_水底(#5)=S_底×Paq_h1(#5)+F_木片→水底(#5)
 =S_底×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =F_水底(#4)−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Wair_排水+Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#5←#4)
      - - - - (5-5)

だけの力が加わることになります。

5.4 台秤の読み

 台秤に加わる力〔F_皿(#5)〕は

_皿(#5)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#5)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+Wair_排水+Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_排水+Wair_水−ΔF_バネ秤(#5←#4)
      - - - - (5-6)

ですので、台秤の読み〔ΔF_台秤(#5)〕は最初台秤に加わっていた大気圧を引いた

ΔF_台秤(#5)=F_皿(#5)−F_皿(空)
 =(Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_排水+Wair_水−ΔF_バネ秤(#5←#4))−(S_底+S_壁)×Pair_h0
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0)+Wair_水+Wair_排水−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Wt_水槽−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g+Wair_水+Wair_排水−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g+Wair_水+Wair_排水−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_排水−ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =ΔF_台秤(#4)−ΔF_バネ秤(#5←#4)      - - - - (5-7)

となり、台秤の読みは、バネ秤の読みの増加(減少)分だけ減少(増加)したことになります。また、

ΔF_台秤(#5)+F_バネ秤(#5)
 =ΔF_台秤(#4)−ΔF_バネ秤(#5←#4)+F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#5←#4)
 =ΔF_台秤(#4)+F_バネ秤(#4)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (5-8)

なので、台秤とバネ秤の読みの合計は変化しません。


6 着底時(密着)

 次に、木片が底面全体で水底に密着している場合を考えてみます(密着部において水は完全に排除されています)。着底した状態の木片上面の高さを〔h7〕とすると、

h7=h1+h_木片      - - - - (6-1)

となります。

6.1 バネ秤の読み

バネ秤の読みが密着前(木片が水中にある状態)より〔ΔF_バネ秤(#6←#4)〕だけ増加(〔−ΔF_バネ秤(#6←#4)〕だけ減少)したとすると、

_バネ秤(#6)=F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#6←#4)
 =Waq_木片+ΔF_バネ秤(#6←#4)      - - - - (6-2)

が成り立ちます。この〔ΔF_バネ秤(#6←#4)〕の大きさは、十分に大きくなると木片は離床してしまいますが、離床しない範囲ではどのような値でも取り得ます。通常の着底では〔ΔF_バネ秤(#6←#4)≦0〕です。

6.2 木片に働く水圧

 木片が全面で水底に密着すると、木片底部には水と接する部分がなくなります。そのため水圧は、上面及び側面からのみ受けることになります。
上面からの水圧は、

aq_h7(#6)=(h4−h7)×ρ_aq×g+Pair_h4
 =((h4−h1)−(h7−h1))×ρ_aq×g+Pair_h4
 =(h4−h1)×ρ_aq×g−(h7−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4
 =(h4−h1)×ρ_aq×g−h_木片×ρ_aq×g+Pair_h4
 =Paq_h1(#4)−h_木片×ρ_aq×g      - - - - (6-3)

で、側面への水圧の合力(面積分)は〔0〕となりますので、木片に加わる水圧の面積分〔F_aq→木片(#6)〕には、上面からの水圧だけが残り、

_aq→木片(#6)=S_木片×Paq_h7(#6)
 =S_木片×(Paq_h1(#4)−h_木片×ρ_aq×g)
 =S_木片×Paq_h1(#4)−S_木片×h_木片×ρ_aq×g
 =S_木片×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g      - - - - (6-4)

となります。

6.3 水底に加わる力

 木片が水底に加えている力〔F_木片→水底(#6)〕は

_木片→水底(#6)=Wt_木片+F_aq→木片(#6)−F_バネ秤(#6)
 =Wt_木片+S_木片×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g−(F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#6←#4))
 =S_木片×Paq_h1(#4)+Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g−(Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g+ΔF_バネ秤(#6←#4))
 =S_木片×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)      - - - - (6-5)

です。
一方、木片密着部以外の部分の水底には水圧〔Paq_h1(#6)〕が加わっています

aq_h1(#6)=Paq_h1(#4)
 =(h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+Pair_h1      - - - - (6-6)

 水底全体では、木片密着部では木片からの力、それ以外の部分では水圧が加わっていますから、水底全体が受けている力〔F_水底(#6)〕は、

_水底(#6)
 =F_木片→水底(#6)+(S_底−S_木片)×Paq_h1(#6)
 =S_木片×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)+(S_底−S_木片)×Paq_h1(#4)
 =S_底×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
 =F_水底(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
 =Wair_排水+Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#6←#4)
      - - - - (6-7)

となります。

6.4 台秤の読み

 台秤に加わる力〔F_皿(#6)〕は

_皿(#6)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#6)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
 =F_皿(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_排水+Wair_水−ΔF_バネ秤(#6←#4)
      - - - - (6-8)

です。
従って、台秤の読み〔ΔF_台秤(#6)〕は最初台秤に加わっていた大気圧を引いた

ΔF_台秤(#6)=F_皿(#6)−F_皿(空)
 =F_皿(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)−F_皿(空)
 =ΔF_台秤(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
 =Wair_水槽+Wair_排水+Wair_水−ΔF_バネ秤(#6←#4)      - - - - (6-9)

となります。また、

ΔF_台秤(#6)+F_バネ秤(#6)
 =(ΔF_台秤(#4)−ΔF_バネ秤(#6←#4))+(F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#6←#4))
 =ΔF_台秤(#4)+F_バネ秤(#4)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (6-10)

なので、台秤とバネ秤の読みの合計は変化していません。

 つまり、木片が(水底及び水から)受ける力や、水底全体が(木片及び水から)受ける力は、点接触の時(間に水が入っていた時)と全く同じであり、着底によって増加する力は、張力の変化分〔−ΔF_バネ秤(#6←#4)〕だけということになります。見方を変えると、点接触と同様に「水中木片の水中重量は全て張力にかかっていたのに、その内〔−ΔF_バネ秤(#6←#4)〕だけが水底に“逃げた”ため、その分張力が減少した」と解釈することができます。


7 着底時(面接触)

 今度は、木片が部分的に密着している場合を考えてみます。木片が水底に密着している面積を〔S_密着〕とし、この部分だけ水が排除されいるものとします。(その他の部分には空隙に水が浸入しているとします)

7.1 バネ秤の読み

 バネ秤の読みが接触前(木片が水中にある状態)から〔ΔF_バネ秤(#7←#4)〕だけ増加(〔−ΔF_バネ秤(#7←#4)〕だけ減少)したとすると、

_バネ秤(#7)=F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =Waq_木片+ΔF_バネ秤(#7←#4)
      - - - - (7-1)

が成り立ちます。この〔ΔF_バネ秤(#7←#4)〕の大きさは、十分に大きくなると木片は離床してしまいますが、離床しない範囲ではどのような値でも取り得ます。通常の着底では〔ΔF_バネ秤(#7←#4)≦0〕です。

7.2 木片に加わる水圧

 側面への水圧の合力(面積分)は〔0〕です。接触時の木片上面の高さを密着時と同様〔h7〕とすると、木片上面に加わる水圧〔Paq_h7(#7)〕は

aq_h7(#7)=Paq_h7(#6)
 =(h4−h7)×ρ_aq×g+Pair_h4
 =Paq_h1(#4)−h_木片×ρ_aq×g      - - - - (7-2)

木片下の水浸入部から木片下面に加わる水圧は

aq_h1(#7)=Paq_h1(#4)      - - - - (7-3)

この水圧が加えられている面積〔S_水浸入部〕は

_水浸入部=(S_木片−S_密着)      - - - - (7-4)

です。水が排除された部分からは水圧を受けることはないので、水浸入部から加わる水圧〔Paq_h1(#7)〕が、木片下面に加わる水圧の全てです。
従って、木片に加わる水圧の面積分〔F_aq→木片(#7)〕は

_aq→木片(#7)=(上面水圧による力)−(下面水圧による力)
 =S_木片×Paq_h7(#6)−S_水浸入部×Paq_h1(#4)
 =S_木片×(Paq_h1(#4)−h_木片×ρ_aq×g)−(S_木片−S_密着)×Paq_h1(#4)
 =S_密着×Paq_h1(#4)−S_木片×h_木片×ρ_aq×g
 =S_密着×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g      - - - - (7-5)

となります。

7.3 木片が水底に加える力

 この時、木片が水底に加えている力〔F_木片→水底(#7)〕は

_木片→水底(#7)=Wt_木片+F_aq→木片(#7)−F_バネ秤(#7)
 =Wt_木片+(S_密着×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g)−(F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#7←#4))
 =Wt_木片+S_密着×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g−F_バネ秤(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =Wt_木片+S_密着×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g−(Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =S_密着×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)      - - - - (7-6)

となります。

7.4 木片が水と水底から受ける力

 木片が水底から受ける力は、〔−F_木片→水底(#7)〕なので、木片が水と水底から受ける力の和は、

−F_木片→水底(#7)+F_aq→木片(#7)
 =−(S_密着×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4))+(S_密着×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g)
 =ΔF_バネ秤(#7←#4)−V_木片×ρ_aq×g      - - - - (7-7)

となります。
したがって、木片が受ける水圧の面積分や水底からの抗力は、密着面積によって変わりますが、その和は密着面積によって変化せず、点接触、全面密着の時と同じ値になります。

7.5 水底に加わる力

 木片密着部以外の部分(木片下部の水浸入部+木片のない部分)の水底には水圧〔Paq_h1(#7)〕が加わっています、その面積〔S_水圧印加部〕は

_水圧印加部=(S_底−S_木片)+(S_木片−S_密着
 =S_底−S_密着      - - - - (7-8)

となりますので、水底全体が受けている力〔F_水底(#7)〕は、

_水底(#7)=S_水圧印加部×Paq_h1(#7)+F_木片→水底(#7)
 =(S_底−S_密着)×Paq_h1(#4)+S_密着×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =S_底×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =F_水底(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =Wair_排水+Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#7←#4)
      - - - - (7-9)

となります。

 従って、木片が水底に加える力は密着面積によって異なりますが、水底が受ける力全体は密着面積によらず、密着、点接触とも同じ式となります。

7.6 台秤の読み

 台秤に加わる力〔F_皿(#7)〕は

_皿(#7)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#7)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =F_皿(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_排水+Wair_水−ΔF_バネ秤(#7←#4)
      - - - - (7-10)

となります。
従って、台秤の読み〔ΔF_台秤(#7)〕は最初台秤に加わっていた大気圧を引いた

ΔF_台秤(#7)=F_皿(#7)−F_皿(空)
 =F_皿(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)−F_皿(空)
 =ΔF_台秤(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
 =Wair_水槽+Wair_排水+Wair_水−ΔF_バネ秤(#7←#4)      - - - - (7-11)

となり、台秤の読みも密着面積に依存しないことになります。

# このため、外部の秤(バネ秤、台秤)で密着面積を知ることはできません。

また、

ΔF_台秤(#7)+F_バネ秤(#7)
 =(ΔF_台秤(#4)−ΔF_バネ秤(#7←#4))+(F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#7←#4))
 =ΔF_台秤(#4)+F_バネ秤(#4)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (7-12)

なので、台秤とバネ秤の読みの合計は変化していません。

 つまり、木片が(水底及び水から)受ける力や、水底全体が(木片及び水から)受ける力は、点接触(間に水が入っていた時)や密着の時と全く同じになり、着底によって増加する力は、張力の変化分〔−ΔF_バネ秤(#7←#4)〕だけということになります。従って、「水中木片の水中重量は全て張力にかかっていたのに、その内〔−ΔF_バネ秤(#7←#4)〕だけが水底に“逃げた”ため、その分張力が減少した」「台秤の読みは、水底に“逃げた”力の分だけ増加した」という解釈は、接触/密着の状態に関わらず有効になります。


図4:浮上した木片 8 水面に浮上した木片(図4)

 水中に入れた木片の密度が、水の密度と空気の密度の間である時、

ρ_aq>ρ_木片>ρ_air
      - - - - (8-1)

バネ秤から力を加えなければ、木片は水面に顔を出します。

8.1 バネ秤の読み

木片を水中に押し込んだ時には、バネ秤の読み〔F_バネ秤(#8水中)〕は、

_バネ秤(#8水中)=F_バネ秤(#4)
 =Wt_木片+『浮力_aq木片
 =Waq_木片      - - - - (8-2)

となります。また、空中まで引き上げた場合には、バネ秤の読み〔F_バネ秤(#8空中)〕は、

_バネ秤(#8空中)=F_バネ秤(#3)=Wair_木片
 =Wt_木片+『浮力_air木片
 =Wair_木片      - - - - (8-3)

になります。
 木片が水面に顔を出している状態でのバネ秤の読み〔F_バネ秤(#8)〕は、この間の値を示すことになります。

_バネ秤(#8水中)≦F_バネ秤(#8)≦F_バネ秤(#8空中)

∴ Waq_木片≦F_バネ秤(#8)≦Wair_木片      - - - - (8-4)

 バネ秤を付けないで浮かべた場合は、〔F_バネ秤(#8)=0〕に相当します。

#  ここでは、木片は常に水平として計算を進めますが、
# 実際の直方体木片は、特別な処置をしない限り水平に浮くとは限りません。
# 底部に密度が集中していて、平均密度が〔ρ_木片〕になっているとか、
# バネ秤に繋がっている棒で水平を保っているとか、適当に納得して下さい。

8.2 木片の浮力

 木片は、水中にある部分と空中にある部分とがありますので、浮力も少しややこしくなります。
 木片が水面に顔を出した状態で、木片の(台秤の台からの)位置(高さ)が、木片上面で〔h5'〕、下面で〔h6'〕、この時の水面の位置(高さ)が〔hd〕だったとします。

h6'≦hd≦h5'      - - - - (8-5)
h5'=h6'+h_木片      - - - - (8-6)

 木片上面に加わる大気圧を〔Pair_h5'〕、下面に加わる水圧を〔Paq_h6'〕とすると、

air_h5'=Pair_hd−(h5'−hd)×ρ_air×g
 =(hd−h5')×ρ_air×g+Pair_hd      - - - - (8-7)
aq_h6'
 =(hd−h6')×ρ_aq×g+Pair_hd      - - - - (8-8)

 木片側面に加わる圧力の合力(面積分)は〔0〕となるので、木片周囲の水及び大気から受ける圧力の面積分としての浮力〔《浮力(#8)》〕は、

《浮力(#8)》=(上面からの力)−(下面からの力)
 =S_木片×Pair_h5'−S_木片×Paq_h6'
 =S_木片×(Pair_h5'−Paq_h6'
 =S_木片×((Pair_hd−(h5'−hd)×ρ_air×g)−((hd−h6')×ρ_aq×g+Pair_hd))
 =−S_木片×((h5'−hd)×ρ_air+(hd−h6')×ρ_aq)×g
      - - - - (8-9)

となります。
 ところで、木片が排除した水(及び空気)の重量(×−1)である〔『浮力(#8)』〕の方は、

『浮力(#8)』
 =−((木片が排除した大気の重量)+(木片が排除した水の重量))
 =−((水面から上にある木片の体積)×ρ_air+(水面から下にある木片の体積)×ρ_aq)×g)
 =−(S_木片×(h5'−hd)×ρ_air+S_木片×(hd−h6')×ρ_aq)×g
 =−S_木片×((h5'−hd)×ρ_air+(hd−h6')×ρ_aq)×g
      - - - - (8-10)

なので、

《浮力(#8)》=『浮力(#8)』      - - - - (8-11)

となります。
 一方、木片に加わる力は、木片重力〔Wt_木片〕、水(及び大気)圧の面積分〔《浮力(#8)》〕、バネ秤からの力〔F_バネ秤(#8)〕の3つで、それらが釣り合っていますので、

Wt_木片+《浮力(#8)》−F_バネ秤(#8)=0      - - - - (8-12)

から、

《浮力(#8)》=F_バネ秤(#8)−Wt_木片      - - - - (8-13)

です。

8.3 木片に加わる力

 (8-11),(8-10)を変形していくと、

『浮力(#8)』=《浮力(#8)》
 =−S_木片×((h5'−hd)×ρ_air+(hd−h6')×ρ_aq)×g
 =−S_木片×(h5'−hd)×ρ_air×g−S_木片×(hd−h6')×ρ_aq×g
 =−S_木片×(h_木片+h6'−hd)×ρ_air×g−S_木片×(hd−h6')×ρ_aq×g
 =−S_木片×h_木片×ρ_air×g−S_木片×(h6'−hd)×ρ_air×g−S_木片×(hd−h6')×ρ_aq×g
 =−V_木片×ρ_air×g+S_木片×(hd−h6')×ρ_air×g−S_木片×(hd−h6')×ρ_aq×g
 =−V_木片×ρ_air×g−S_木片×(hd−h6')×(ρ_aq−ρ_air)×g
      - - - - (8-14)

となります。これと (8-12)から、

Wt_木片+(−V_木片×ρ_air×g−S_木片×(hd−h6')×(ρ_aq−ρ_air)×g)−F_バネ秤(#8)=0
Wt_木片−V_木片×ρ_air×g−F_バネ秤(#8)=S_木片×(hd−h6')×(ρ_aq−ρ_air)×g)
air_木片−F_バネ秤(#8)=S_木片×(hd−h6')×(ρ_aq−ρ_air)×g

∴hd−h6'=(Wair_木片−F_バネ秤(#8))/(S_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g)
      - - - - (8-15)

 ところで、水位上昇〔hd−h3〕分の体積は、木片の水に沈んだ部分の体積に等しいので、

_底×(hd−h3)=S_木片×(hd−h6')      - - - - (8-16)

です。従って、

hd−h3=S_木片×(hd−h6')/S_底
hd=(S_木片×(hd−h6')/S_底)+h3
 =S_木片×(hd−h6')/S_底+h3
 =S_木片×(Wair_木片−F_バネ秤(#8))/(S_木片×(ρ_aq−ρ_air)×g)/S_底+h3
 =(Wair_木片−F_バネ秤(#8))/(S_底×(ρ_aq−ρ_air)×g)+h3
      - - - - (8-17)

となります。

8.4 水底に加わる力

 水位が〔h3〕から〔hd〕に上昇したため、水底の水圧〔Paq_h1(#8)〕は、

aq_h1(#8)=(hd−h1)×ρ_aq×g+Pair_hd
 =(hd−h1)×ρ_aq×g+Pair_h1−(hd−h1)×ρ_air×g
 =Pair_h1+(hd−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
 =Pair_h1+((Wair_木片−F_バネ秤(#8))/(S_底×(ρ_aq−ρ_air)×g)+h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
 =Pair_h1+((Wair_木片−F_バネ秤(#8))/(S_底×(ρ_aq−ρ_air)×g))×(ρ_aq−ρ_air)×g+(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
 =Pair_h1+(Wair_木片−F_バネ秤(#8))/S_底+(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
 =Pair_h1+(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+(Wair_木片−F_バネ秤(#8))/S_底
      - - - - (8-18)

となり、水底全体が受けている力〔F_水底(#8)〕は、

_水底(#8)=S_底×Paq_h1(#8)
 =S_底×((hd−h1)×ρ_aq×g+Pair_hd
 =S_底×(Pair_h1+(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+(Wair_木片−F_バネ秤(#8))/S_底
 =S_底×Pair_h1+S_底×(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g+S_底×((Wair_木片−F_バネ秤(#8))/S_底
 =S_底×Pair_h1+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)      - - - - (8-19)

となります。

8.5 台秤の読み

 一方、この時に台秤にかかる力〔F_皿(#8)〕は

_皿(#8)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#8)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)
      - - - - (8-20)

となります。台秤の読み〔ΔF_台秤(#8)〕は、水槽を乗せる前に台秤に加わっていた大気圧との差ですから、

ΔF_台秤(#8)=F_皿(#8)−F_皿(空)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+S_底×Pair_h1+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)−(S_底+S_壁)×Pair_h0
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0)+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)
 =Wt_水槽−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)      - - - - (8-21)

です。また、

ΔF_台秤(#8)+F_バネ秤(#8)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片−F_バネ秤(#8)+F_バネ秤(#8)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (8-22)

なので、台秤とバネ秤の読みの合計は変化しません。

 これは、バネ秤から加えられた力が 木片 → 水 → 水槽 という経路で伝わり、そのまま台秤の読みの変化になったと見ることもできます。


図5:氷上の木片 9 水槽内容が剛体の場合(図5)

 比較のために、水槽の内容が剛体である場合の計算もしておきます。
計算と、他の状態との比較を楽にするために、水槽内容(仮に「氷」と呼びます)は水と同じ密度・体積とし、その上にバネ秤で吊った木片を置くことにします。木片と氷との間は部分的に密着し(面積〔S_密着〕)、密着部以外は空隙に空気が存在しているものとします。

9.1 バネ秤の読み

 バネ秤の読みが接触前(木片が空中にある状態)から〔ΔF_バネ秤(#9←#3)〕だけ変化したとすると、

_バネ秤(#9)=F_バネ秤(#3)+ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wair_木片+ΔF_バネ秤(#9←#3)      - - - - (9-1)

が成り立ちます。この〔ΔF_バネ秤(#9←#3)〕の大きさは、十分に大きくなると木片は離床してしまいますが、離床しない範囲ではどのような値でも取り得ます。通常の着底では〔ΔF_バネ秤(#9←#3)≦0〕です。

9.2 木片に加わる力

 接触時の木片下面の高さは氷上面の位置(高さ=〔h3〕)と等しいので、木片上面の位置(高さ:〔h7'〕)は

h7'=h3+h_木片      - - - - (9-2)

となり、木片上面に加わる大気圧は

air_h7'
 =Pair_h3−(h7'−h3)×ρ_air×g
 =Pair_h3−h_木片×ρ_air×g      - - - - (9-3)

となります。
木片下面で、大気圧が加えられている面積〔S_大気浸入部〕は、大気浸入部の面積に等しいので、

_大気浸入部=S_木片−S_密着      - - - - (9-4)

です。また、側面への大気圧の合力(面積分)は〔0〕です。密着して空気が排除された部分からは大気圧を受けることはないので、大気浸入部から加わる大気圧〔Pair_h3〕が、木片下面に加わる大気圧の全てです。
従って、木片に加わる大気圧の面積分〔F_air→木片(#9)〕は

_air→木片(#9)=(上面からの力)−(下面からの力)
 =S_木片×Pair_h7'−S_大気浸入部×Pair_h3
 =S_木片×(Pair_h3−h_木片×ρ_air×g)−(S_木片−S_密着)×Pair_h3
 =S_密着×Pair_h3−S_木片×h_木片×ρ_air×g
 =S_密着×Pair_h3−V_木片×ρ_air×g      - - - - (9-5)

となります。

9.3 木片が氷に加える力

この時、木片が氷に加えている力〔F_木片→氷(#9)〕は、

_木片→氷(#9)=(木片重量)+(木片に働く水圧の面積分)−F_バネ秤(#9)
 =Wt_木片+(S_密着×Pair_h3−V_木片×ρ_air×g)−(F_バネ秤(#3)+ΔF_バネ秤(#9←#3))
 =Wt_木片+S_密着×Pair_h3−V_木片×ρ_air×g−F_バネ秤(#3)−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wair_木片+S_密着×Pair_h3−F_バネ秤(#3)−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =S_密着×Pair_h3−ΔF_バネ秤(#9←#3)      - - - - (9-6)

となります。

9.4 水底に加わる力

 木片密着部以外の部分(木片下部の大気浸入部+木片のない部分)の氷上面には大気圧〔Pair_h3〕が加わっています、その面積〔S_大気圧印加部〕は

_大気圧印加部=(S_底−S_木片)+(S_木片−S_密着
 =S_底−S_密着      - - - - (9-7)

ですので、水底全体が受けている力は、

_水底(#9)=(氷重量)+(氷上面に加わる大気圧)+F_木片→氷(#9)
 =Wt_水+(S_底−S_密着)×Pair_h3+F_木片→氷(#9)
 =Wt_水+(S_底−S_密着)×Pair_h3+S_密着×Pair_h3−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wt_水+S_底×Pair_h3−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wt_水+S_底×(Pair_h1−(h3−h1)×ρ_air×g)−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wt_水−S_底×(h3−h1)×ρ_air×g+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#9←#3)      - - - - (9-8)

となります。
 また、水中木片の力を基準にしたバネ秤の変化分を〔ΔF_バネ秤(#9←#4)〕とすると、

_バネ秤(#9)
 =F_バネ秤(#3)+ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#9←#4)      - - - - (9-9)
ΔF_バネ秤(#9←#3)=F_バネ秤(#4)−F_バネ秤(#3)+ΔF_バネ秤(#9←#4)
 =ΔF_バネ秤(#9←#4)−Wair_排水      - - - - (9-10)

なので、

_水底(#9)=Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wair_水+S_底×Pair_h1−(ΔF_バネ秤(#9←#4)−Wair_排水
 =Wair_水+Wair_排水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#9←#4)
      - - - - (9-11)

 従って、木片が氷に加える力は密着面積によって異なりますが、水底が受ける力全体は密着面積によらず、水中、密着、点接触とも同じ式となります。

9.5 台秤の読み

 台秤に加わる力〔F_皿(#9)〕は

_皿(#9)=Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+F_水底(#9)
 =Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#9←#3)
      - - - - (9-12)

 台秤の読み〔ΔF_台秤(#9)〕は最初台秤に加わっていた大気圧を引いた

ΔF_台秤(#9)=F_皿(#9)−F_皿(空)
 =(Wt_水槽+S_壁×Pair_h2+Wair_水+S_底×Pair_h1−ΔF_バネ秤(#9←#3))−(S_底+S_壁)×Pair_h0
 =Wt_水槽+S_壁×(Pair_h2−Pair_h0)+S_底×(Pair_h1−Pair_h0)+Wair_水−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wt_水槽−S_壁×(h2−h0)×ρ_air×g−S_底×(h1−h0)×ρ_air×g+Wair_水−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wt_水槽−V_水槽×ρ_air×g+Wair_水−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =Wair_水槽+Wair_水−ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =ΔF_台秤(#3)−ΔF_バネ秤(#9←#3)      - - - - (9-13)

となるので、台秤の読みは、バネ秤の読みの増加(減少)分だけ減少(増加)したことになります。また、

ΔF_台秤(#9)+F_バネ秤(#9)
 =ΔF_台秤(#3)−ΔF_バネ秤(#9←#3)+F_バネ秤(#3)+ΔF_バネ秤(#9←#3)
 =ΔF_台秤(#3)+F_バネ秤(#3)
 =Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片      - - - - (9-14)

なので、台秤とバネ秤の読みの合計は変化していません。

 したがって、「木片の気中重量は全て張力にかかっていたのに、その内〔−ΔF_バネ秤(#9←#3)〕だけが(氷を通じて)水底に“逃げた”ため、その分張力が減少した」「台秤の読みは、(氷を通じて)水底に“逃げた”力の分だけ増加した」という解釈は、この場合にも有効になります。


10 力の計算のまとめ

 ここで、これまでの式をまとめておきます。
木片が大気中に吊られている時(#3)、木片が水中に吊られている時(#4)、点接触で着底している時(#5)、下面全面で底に密着している時(#6)、部分的に(面積〔S_密着〕で)密着している時(#7)、水面に浮上している時(#8)、固い水上に置かれた時(#9)、それぞれについての力の大きさは以下の通りになります。
 ここでは、各章で計算した式に、

  Wair_水=S_底×(h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g
  Wair_排水=S_底×(h4−h3)×(ρ_aq−ρ_air)×g

を代入して表示しています。

10.1 木片が受ける《浮力》

  《浮力(#3)》=−V_木片×ρ_air×g
  《浮力(#4)》=−V_木片×ρ_aq×g
  《浮力(#5)》=−V_木片×ρ_aq×g
  《浮力(#8)》=−S_木片×((h5'−hd)×ρ_air+(hd−h6')×ρ_aq)×g

 着底していない場合は、いずれの場合も、《浮力》=−(木片が排除した流体の重量)=『浮力』と等しくなります。木片が着底すると、

  F_aq→木片(#6)=S_木片×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g
  F_aq→木片(#7)=S_密着×Paq_h1(#4)−V_木片×ρ_aq×g
  F_air→木片(#9)=S_密着×Pair_h3−V_木片×ρ_air×g

となり、水圧の面積分は『浮力』に(密着面積)×(密着部の位置における流体圧力)が加わったものになります。

10.2 木片下面が接触面(水底)を押す力(=木片が接触面から受ける力×−1)

  F_木片→水底(#3)=0
  F_木片→水底(#4)=0
  F_木片→水底(#8)=0
  F_木片→水底(#5)=−ΔF_バネ秤(#5←#4)
  F_木片→水底(#6)=−ΔF_バネ秤(#6←#4)+S_木片×Paq_h1(#4)
  F_木片→水底(#7)=−ΔF_バネ秤(#7←#4)+S_密着×Paq_h1(#4)
  F_木片→氷(#9)=−ΔF_バネ秤(#9←#3)+S_密着×Pair_h3

 いずれの場合も、木片の密度や状態によらず、密着部にもとからかかっていた水(気)圧相当分と、バネ秤から失われた(バネ秤から“逃げた”力を加えたものに等しくなっています。

10.3 木片が水及び水底から受ける力の和

 木片が水底から受ける力は密着面積によって変わりますが、水から受ける力も加えると、

  《浮力(#3)》−F_木片→水底(#3)=−V_木片×ρ_air×g
  《浮力(#4)》−F_木片→水底(#4)=−V_木片×ρ_aq×g
  《浮力(#5)》−F_木片→水底(#5)=−V_木片×ρ_aq×g+ΔF_バネ秤(#5←#4)
  F_aq→木片(#6)−F_木片→水底(#6)=−V_木片×ρ_aq×g+ΔF_バネ秤(#6←#4)
  F_aq→木片(#7)−F_木片→水底(#7)=−V_木片×ρ_aq×g+ΔF_バネ秤(#7←#4)
  《浮力(#8)》−F_木片→水底(#8)=−S_木片×((h5'−hd)×ρ_air+(hd−h6')×ρ_aq)×g
  F_air→木片(#9)−F_木片→氷(#9)=−V_木片×ρ_air×g+ΔF_バネ秤(#9←#3)

となり、いずれの場合も、木片の密度や状態によらず、『浮力』とバネ秤から“逃げた”力を加えたものに等しくなっています。
 つまり密着部には、水圧が直接加わったりはしないけれども、それに相当する力は底からの抗力(の一部)として加えられており、トータルとして木片に加わる力を考える際には、密着面積がいくらであろうとも問題にならないということになります。したがって、ある正の密着面積を持った着底であっても、「トータルとして木片に加わる力」のみを問題にする場合には(多くの場合がそうですが)、密着面積〔0〕として扱っても問題は生じないことになります。

10.4 バネ秤の読み

  F_バネ秤(#3)=Wt_木片+『浮力_air木片』=Wair_木片
  F_バネ秤(#4)=Wt_木片+『浮力_aq木片』=Waq_木片
  F_バネ秤(#8)=Wt_木片+『浮力(#8)』

いずれの状態でも、木片重量に『浮力』を加えた力(媒体中重量)となります。また、木片が着底している場合は、

  F_バネ秤(#5)=Wt_木片+『浮力_aq木片』+ΔF_バネ秤(#5←#4)
  F_バネ秤(#6)=Wt_木片+『浮力_aq木片』+ΔF_バネ秤(#6←#4)
  F_バネ秤(#7)=Wt_木片+『浮力_aq木片』+ΔF_バネ秤(#7←#4)
  F_バネ秤(#9)=Wt_木片+『浮力_air木片』+ΔF_バネ秤(#9←#3)

であり、接触/密着状態に関わらず、「着低によって媒体中重量の一部がバネ秤にかからなくなった」ということになります。

 工学においては、多くの場合、木片の密着状態によらず〔Wair_木片〕を気中重量、〔Waq_木片〕を水中重量として扱います。秤で重さを計る際、被測定物の体積や密度に補正をしないで済むのは、純粋な(真空中)重量ではなく空気の浮力を加えた気中重量を測定しているからです。

10.5 水底に加わる力

 木片が着底していない場合は、

  F_水底(#3)=S_底×((h3−h1)×ρ_aq×g+Pair_h3
  F_水底(#4)=S_底×((h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4
  F_水底(#8)=S_底×((hd−h1)×ρ_aq×g+Pair_hd

いずれの場合も(木片の状態に関わらず)水深に応じた水の重量と水面からの大気圧に等しくなります。したがって、木片が入ったためか水が増加したためかは、これだけでは区別できません。一方、木片が着底した場合は

  F_水底(#5)=S_底×((h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4)−ΔF_バネ秤(#5←#4)
  F_水底(#6)=S_底×((h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
  F_水底(#7)=S_底×((h4−h1)×ρ_aq×g+Pair_h4)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
  F_水底(#9)=S_底×((h3−h1)×ρ_aq×g+Pair_h3)−ΔF_バネ秤(#9←#3)

となり、木片が吊られていた時のバネ秤の読みからの差が加わります。
 これは、バネ秤に加わっていた木片重量の一部がバネ秤から水底に“逃げた”と見ることができます。
 木片底面の垂直投影部分だけに着目すると、水と木片から加わる力の和は、木片の密度や密着面積によらず、水位に応じた水圧とバネ秤の張力変化分だけで決まります。つまり、水底が発生している抗力は木片の密着面積によって変化したりはしないということになります。(但し、その抗力のうち、木片に加わる力の比率は密着面積に比例します)

10.6 台秤の読み

  ΔF_台秤(#3)=Wair_水槽+S_底×((h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)
  ΔF_台秤(#4)=Wair_水槽+S_底×((h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)
  ΔF_台秤(#8)=Wair_水槽+S_底×((hd−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)
  ΔF_台秤(#5)=Wair_水槽+S_底×((h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)−ΔF_バネ秤(#5←#4)
  ΔF_台秤(#6)=Wair_水槽+S_底×((h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)−ΔF_バネ秤(#6←#4)
  ΔF_台秤(#7)=Wair_水槽+S_底×((h4−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)−ΔF_バネ秤(#7←#4)
  ΔF_台秤(#9)=Wair_水槽+S_底×((h3−h1)×(ρ_aq−ρ_air)×g)−ΔF_バネ秤(#9←#3)

いずれの場合も、木片の密度や状態によらず、(水深に応じた水の気中重量)+(木片が吊られていた時を基準としたバネ秤の読みの変化量)×−1となります。これは、バネ秤に加わっていた木片重量の一部がバネ秤から台秤に“逃げた”ものと見ることができます。このような見方をする限り、木片の重量や密度は(直接的には)秤の読みに影響を与えません。

10.7 台秤とバネ秤の読みの和。

  ΔF_台秤(#3)+F_バネ秤(#3)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片
  ΔF_台秤(#4)+F_バネ秤(#4)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片
  ΔF_台秤(#5)+F_バネ秤(#5)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片
  ΔF_台秤(#6)+F_バネ秤(#6)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片
  ΔF_台秤(#7)+F_バネ秤(#7)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片
  ΔF_台秤(#8)+F_バネ秤(#8)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片
  ΔF_台秤(#9)+F_バネ秤(#9)=Wair_水槽+Wair_水+Wair_木片

 当然のことではありますが、水槽、水、木片の気中重量の和となります。木片が水中にある場合でも、加算されるのは木片の気中重量です。

10.8 力の計算

 以上からわかるように、木片と水底が相互に加え合う力や水圧による力は、接触面積に依存しますが、木片に加わる力全体、あるいは水底に加わる力全体を考えると、接触面積によらず一定の値になります。このことは、計算上では接触面積を〔0〕として扱っても実用上の問題が発生しないことを意味します。接触面積を〔0〕として扱うということは、静水圧(相当分)とそれ以外の力を分離して扱うことになり、離床や着底構造物の応力計算の際に「とりあえず静水圧(水深)を無視して考える」ということを可能にします。

 計算上では、密着部にはそれまでかかっていた水圧がなくなった替わりに、木片と水底の相互作用による力が加わった形になっていますので、「木片下面に水圧がかからなくなった分、床の抗力がそれに取って替わった」という説明をされることになります。

 現実では、着底時などに下部に水が入りこんでいる状態でも、水の排出に伴う流体抵抗によって下部水圧が上昇し、いくぶんかの力を負担することがありますが、その場合でも底、木片に同じ大きさの力が加わるので、木片−底相互作用の力と区別することは困難です。また離床時には、この流体抵抗力が底と木片の間にある水に減圧を生じさせ、底と木片の間に接着力が発生しているように感じる原因にもなります。


11 浮上(離床)に必要な力

11.1 密着部の圧力

 さて、木片が水底に着底し、面積〔S_密着〕で密着していて、バネ秤の読み(張力)が〔F_バネ秤(#11)〕の時、7章と同じ状態なので、

_バネ秤(#11)=Waq_木片+ΔF_バネ秤(#11←#4)      - - - - (11-1)
_木片→水底(#11)=S_密着×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#11←#4)      - - - - (11-2)

密着部において木片が水底に加えている圧力〔P_密着〕は、

_密着=F_木片→水底(#11)/S_密着
 =(S_密着×Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#11←#4))/S_密着
 =Paq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#11←#4)/S_密着      - - - - (11-3)

 ということになりますので、バネ秤に水中で吊っている時と同じ張力〔F_バネ秤(#4)〕をかけると、圧力は密着部の外の水圧〔Paq_h1(#4)〕に一致することになります。また、水中で吊っている時より張力を強める(強く引く)〔ΔF_バネ秤(#11←#4)>0〕と圧力は〔Paq_h1(#4)〕よりも小さくなります。

ΔF_バネ秤(#11←#4)>0→P_密着<Paq_h1(#4)      - - - - (11-4)

逆に張力を弱めると圧力は〔Paq_h1(#4)〕よりも大きくなります。

ΔF_バネ秤(#11←#4)<0 → P_密着>Paq_h1(#4)      - - - - (11-5)

11.2 水の移動

 密着部が、ある体積を持った流体で満たされていた場合、その界面に圧力差があれば、圧力の高い方から低い方へ流体の移動が起こります。この流動は、絶対圧力ではなく界面の圧力差に依存します。
 もし密着部に、何かの拍子にほんのわずかでも水が浸入したとすると、そこには浸入した水によって、ある体積を持った空間ができます。

 密着部の圧力〔P_密着〕がその外部の水圧〔Paq_h1(#4)〕よりも高い場合、
_密着>Paq_h1(#4)
aq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#11←#4)/S_密着>Paq_h1(#4)
ΔF_バネ秤(#11←#4)/S_密着<0
ΔF_バネ秤(#11←#4)<0      - - - - (11-6)

である場合ですが、水の浸入によってできた空間内部の圧力は、密着部の圧力〔P_密着〕に等しいと考えられますので、水は高い圧力の内部空間から、低い圧力の外部に向かって移動し、空間の体積は減少、ついには体積は0になります。

 密着部の圧力〔P_密着〕がその外部の水圧よりも低い場合には、
_密着<Paq_h1(#4)
aq_h1(#4)−ΔF_バネ秤(#11←#4)/S_密着<Paq_h1(#4)
ΔF_バネ秤(#11←#4)/S_密着>0
ΔF_バネ秤(#11←#4)>0      - - - - (11-7)

ですが、水の浸入によってできた空間内部の圧力は外部よりも低いので、さらに水が外部から内部に向かって移動(水が浸入)し、内部空間はさらに大きくなります。その結果、木片下部の空間が広がり、木片は離床します。

 つまり、最初にわずかでも水が浸入することがあれば、圧力差だけで離床が可能になりますので、いかに外部水圧が高い深海底であっても、水中で釣り合っているときのバネ秤の張力〔F_バネ秤(#4)〕より少しでも大きな力で上に引けば離床できることになります。

 水中で釣り合っている状態は、
_バネ秤(#4)=Waq_木片=F_バネ秤(#11)      - - - - (11-8)

でしたので、木片重量よりも少し大きな力で上に引けば離床できることになります。
 また、木片の密度を〔ρ_木片〕とすると、

aq_木片=F_バネ秤(#4)
Wt_木片−V_木片×ρ_aq×g−F_バネ秤(#4)=0
_木片×ρ_木片×g−V_木片×ρ_aq×g−F_バネ秤(#4)=0
_木片×(ρ_木片−ρ_aq)×g−F_バネ秤(#4)=0
_バネ秤(#4)=V_木片×(ρ_木片−ρ_aq)×g      - - - - (11-9)

と書くことができます。海水よりも小さい密度を持った物体は、

ρ_木片−ρ_aq<0      - - - - (11-10)

なので、この場合水中で釣り合っているときのバネ秤の読みは

_バネ秤(#4)<0      - - - - (11-11)

です。
バネ秤を外した状態、

_バネ秤(#11)=F_バネ秤(#4)+ΔF_バネ秤(#11←#4)=0      - - - - (11-12)

では、

ΔF_バネ秤(#11←#4)=−F_バネ秤(#4)>0      - - - - (11-13)

ですので、放っておけば離床できることになります。
 このことは、密着部以外の部分(水が浸入している部分)についても、同じことがいえます。

 では、水底、木片の接触部が非常に良い平面の場合で、水が完全に排除されている場合はどうでしょうか。外部圧力がどうであれ、密着部の圧力が〔P_密着≦0〕となるまで引けば、(真空の)空間を広げることができますので間違いなく離床します。しかし、それより小さい力では本当に離床できないのでしょうか。

11.2.1 弾性体の場合

 木片または水底が弾性体で、木片に一様に(引き剥がす方向の)力を加えるような場合には、密着部全体に一様に圧力が加わるのではなく、「応力集中」と呼ばれる効果によって周辺部の方により強い力が加わります。その結果、密着部周辺は密着部の平均圧力よりも低い圧力となり、水の浸入がよりたやすくなります。(薄い木片中央部に力を集中させるような場合は逆になりますが、こちらは吸盤と同じ効果が出ます)また、このように歪が不均一な場合は、部分的に密着が剥がれる(密着面積の一部分だけに水が浸入し空間ができる)ということが可能になるので、より小さい力で水が浸入します。

11.2.2 理想的な剛体の場合

 木片も水底も理想的な剛体でできている場合はどうでしょうか。現実には「理想的な剛体」が存在しないので、実験は不可能ですが思考実験なら可能でしょう。剛体の場合、端部一ヶ所でも隙間を作るには、密着面積全面に亘って隙間を作る必要があります。そのためには密着面積全体を引き離すだけの力が必要になると考えることもできます(賛成はしませんが)。これが「〔P_密着<0〕でないと剥がれない」説の論拠となりうる部分です。この論でいくと、大気中に水平に置いた平板の上に、上空の大気と同じ密度(分布)の円柱を置いた場合に、これを持ち上げるにも〔底面積×大気圧〕だけの力が必要になります。たとえそれが空気そのものであったとしても、塊として動かすなら同じです。
 また、内部を真空にして空気よりも軽い物体を作り平板の上に置いた場合、どれだけ軽く作っても(たとえ重量〔0〕であっても)、そのままでは離床しないことになります。(毛細管現象による流体浸入が問題であれば、底と物体の表面を、流体をはじく材料〔流体との接触角>90°〕にすることで毛細管現象による流体浸入はなくなります)
 論として「ありえない」とする根拠は持っていませんが、現実世界のモデルとして使うことを考えるなら、どうかと思います。

11.2.3 現実の物体

 現実の物体で「理想的な剛体」は存在せず、「剛体に近い物質」であっても多かれ少なかれ弾性があります。また、現実には様々な種類の微小な運動や振動が存在するので、最初に水が浸入する「ちょっとしたきっかけ」なんてものは、そこらじゅうにあるのではないでしょうか。そういったことを考え合わせると、現実的には密着部の絶対圧力ではなく、外部空間との相対圧力が「離床に必要な力」の主な要素として良いのではないかと思います。


12 水の移動に対する抵抗

 さて、離床に必要な力が絶対圧力ではなく相対圧力(圧力差)で決まるとしましたが、現実に着底した物体が離床しなかったり、離床に時間がかかったりするのはなぜでしょうか。いくつかの原因が考えられます。

12.1 流動抵抗(図6)

図6:流動抵抗

 着床した木片と水底の間隔はほぼ〔0〕です。離床する際にはこの間隔が徐々に広がるわけですが、最初は非常に狭い隙間を水が移動することになります。水には粘性がありますので、狭い隙間を通過する水には抵抗(広義にはこれも抗力の一部です)が生じます(実際には粘性だけではないが、ほとんどは粘性抵抗として良いと思います)。この抵抗のために、水は速やかな移動を妨げられ、離床を遅らせる原因となります。
 圧力と力の関係から見ると、「移動する水は経路に沿って圧力傾度を生じるため、内部空間と外部との圧力差がキャンセルされ、それ以上速い流速が得られない」ということになります。
 同じ圧力差でも、経路の太さでどれだけの抵抗が生じるかは、ストローを口で吹きながら、指で潰してみると実感できるでしょう(完全に潰してしまってはいけませんが)。
 ただ、流れが完全に止まってしまうというわけではないので、ゆっくりとではあっても水の移動は継続し、いずれは離床します。
 また、床と物体の間が密着していなくても(隙間がある状態でも)この効果は存在します。このような場合には、「横にはよく滑るのに剥がせない」という状態になることも少なくありません。

12.2 表面張力(図7)

図7:表面張力

 物体と床との間に空間があり、その空間を外部の流体と異なる性質の流体が満たしていて、外部流体が床や物体を濡らしにくい性質の時、表面張力が水の浸入を妨げる力となります。代表的な例は、パラフィン塊を水槽の底に置いて水を入れた場合です。
 この状態の時、床と物体との間を拡大すると図のようになっています。空隙の空気層の圧力は外部の水圧よりも低いので、普通なら水が浸入してきます。ところが、空気−水界面における表面張力が水を押し戻す方向に働いているため、水は浸入できません。(これも広義の抗力です)
 圧力と力の関係から見ると、「〔空隙内部の空気圧による力+表面張力による力=外部の水圧による力〕となっているため、水の移動は生じない」ということになります。
 このような状態は、空隙内部に別の流体がある場合でのみ生じますので、空気中で物体を床に置いてから水を入れたり、物体表面に気泡がついた状態で着底させたりした場合に起き、水中で気泡がついていない物体を着底させたような場合には発生しません。
 また、流体抵抗の時とは異なり水の移動が起こりませんので、静的な状態です。したがって、いつまで待っていても離床することはありません。けれども、水に界面活性剤を入れたりすると離床することがあります。
 このように間に入った流体との表面張力が働いている時には、間の空間が潤滑材とクッションの役割をするので、「横にはよく滑るのに剥がせない」という状態になります。

12.3 吸盤

 では吸盤はどうなのでしょうか。吸盤を引っ張った場合、内部(空間)の圧力は外部よりも低くなっています。それなのに外の水は浸入してきません。

12.3.1 ゴムピタくん(図8)

図8:ゴムピタくん

 吸盤にもいろいろな形態がありますが、まずゴムピタくんをモデル化したもので考えてみます。ゴムピタくんを引っ張った状態での横断面は 図8下 のようになっており、ゴムピタくん下部に空気が入った空間ができています。この状態でゴムに穴を開けると、開けた穴から空気が流入してゴムピタくんが剥がれることから、下部空間に入っている空気は減圧されていることは間違いありません。それなのに(強く引いている限り)ゴムの下を通って外の空気が流入してきたりはしません。ところが、引く力を非常に小さくすると、空気の流入を起こすことができます。圧力差が小さい時には空気の流入が起こるのに、圧力差が大きくなると流量が増加せずに止まってしまうのです。

12.3.2 リンク(図9、図10)

図9:力の分解

 この断面を図9のリンクに置き換えてみます。実際には棒に相当するところが直線でなかったり、底に接する部分が力を集中して受けているわけではありませんが、とりあえず大まかなところだけを考えてみます。
 リンク棒は図の奥行き方向にwの幅があるとし、中心から〔r1〕の距離にある点P1はワッシャの角、〔r2〕の距離にある点P2は床に固定されているとします。この時、P1−P2間には上から外部大気圧〔P_外〕、下からは内部空間の気圧〔P_内〕が働いています。この圧力差を〔P_差〕とします。

_差=P_外−P_内
      - - - - (12-1)

中心から〔r〕の位置のリンク棒に、微小面積〔S〕をとると、そこに加わる力〔F_r〕は

_r=S×P_外−S×P_内
 =S×(P_外−P_内
 =S×P_差      - - - - (12-2)

です。P1−P2間は何にも支えられていませんので、この力は点P1とP2に分かれて加わることになります。点P1、P2それぞれに加わる力〔F_P1〕〔F_P2〕は、

_P1=(r2−r)/(r2−r1)×F_r
 =(r2−r)/(r2−r1)×S×P_差      - - - - (12-3)

_P2=(r−r1)/(r2−r1)×F_r
 =(r−r1)/(r2−r1)×S×P_差      - - - - (12-4)

となります。P1−P2の傾きを〔θ〕とすると、この〔F_P1〕〔F_P2〕の垂直成分は、

v_P1=cosθ×F_P1
 =cosθ×(r2−r)/(r2−r1)×S×P_差      - - - - (12-5)

v_P2=cosθ×F_P2
 =cosθ×(r−r1)/(r2−r1)×S×P_差      - - - - (12-6)

です。ちなみに、〔S〕の垂直投影面積を〔A〕とすると、

A=S×cosθ      - - - - (12-7)

v_P1=(r2−r)/(r2−r1)×A×P_差      - - - - (12-8)

v_P2=(r−r1)/(r2−r1)×A×P_差      - - - - (12-9)

です。つまり、P1−P2に加わる圧力の半分が、吸盤と床との接点P2に集中して加わることになります。

 実際の吸盤は円形なので、外側ほど面積は大きくなります。その結果、半分でなく、もっと大きな力が外側のP2に加わることになりますが、外側の円周の方が長くなるので面積あたりの力(=圧力)は〔Fv_P2〕に比例するわけではありません。

# お急ぎの方は次の節まで読み飛ばしてください。

 吸盤の中心から力〔F_バネ秤(#12)〕で上に引いた時、半径〔r2〕の空気室ができたとします。内部の空気圧と外部の大気圧との圧力差を〔P_差〕、中心から〔r1〕の距離にあるワッシャの角に加わる気圧(差)分力の合計(面積分)を〔Fv_r1〕、間に空気室のある領域との境界(半径〔r2〕)線上に加わる気圧(差)分力の合計(面積分)を〔Fv_r2〕、とすると、

_バネ秤(#12)=π×r1^2×P_差+Fv_r1      - - - - (12-10)

# 以降 aからbまでのf(x)の積分を「積分(a→b){f(x)}dx」と書くことにします。

v_r1=面積分(r1→r2)(dFv_P!/dA)dA
 =面積分(r1→r2)((r2−r)/(r2−r1)×P_差)dA
 =(P_差/(r2−r1))×面積分(r1→r2)(r2−r)dA
 =(P_差/(r2−r1))×積分(r1→r2)(積分(0→2π)((r2−r)×r)dψ)dr
 =(P_差/(r2−r1))×積分(r1→r2)(2π(r2×r−r^2))dr
 =(2π×P_差/(r2−r1))×積分(r1→r2)(r2×r−r^2)dr
 =(2π×P_差/(r2−r1))×差分(r1→r2)[r2×r^2/2−r^3/3]
 =(2π×P_差/(r2−r1))/6×差分(r1→r2)[3×r2×r^2−2×r^3
 =(π×P_差/(r2−r1))/3×(3×r2×r2^2−2×r2^3)−(3×r2×r1^2−2×r1^3
 =(π×P_差/(r2−r1))/3×(r2^3−3×r1^2×r2+2×r1^3
 =(π×P_差/(r2−r1))/3×(r2−r1)×(r2^2+r1×r2−2×r1^2
 =π×P_差/3×(r2^2+r1×r2−2×r1^2)      - - - - (12-11)

なので、

_バネ秤(#12)=π×r1^2×P_差+Fv_r1
 =π×r1^2×P_差+π×P_差/3×(r2^2+r1×r2−2×r1^2
 =π×P_差/3×(r2^2+r1×r2+r1^2)      - - - - (12-12)

一方、

v_r2=面積分(r1→r2)(dFv_P2/dA)dA
 =面積分(r1→r2)((r−r1)/(r2−r1)×P_差)dA
 =(P_差/(r2−r1))×面積分(r1→r2)(r−r1)dA
 =(P_差/(r2−r1))×積分(r1→r2)(積分(0→2π)((r−r1)×r)dψ)dr
 =(P_差/(r2−r1))×積分(r1→r2)(2π(r^2−r1×r))dr
 =(2π×P_差/(r2−r1))×積分(r1→r2)(r^2−r1×r)dr
 =(2π×P_差/(r2−r1))×差分(r1→r2)[r^3/3−r1×r^2/2]
 =(2π×P_差/(r2−r1))/6×差分(r1→r2)[2×r^3−3×r1×r^2
 =(π×P_差/(r2−r1))/3×(2×r2^3−3×r1×r2^2)−(2×r1^3−3×r1×r1^2
 =(π×P_差/(r2−r1))/3×(2×r2^3−3×r1×r2^2+r1^3
 =(π×P_差/(r2−r1))/3×(r2−r1)×(2×r2^2−r1×r2−r1^2
 =π×P_差/3×(2×r2^2−r1×r2−r1^2)      - - - - (12-13)

となります。
これが半径〔r2〕の円周上に加わるわけですが、ゴムに弾性があるために多少の幅に広がって力が加わります。〔r2〕から〔rd〕の幅(面積〔S_r2〕)の領域に力が加わるとすると、その圧力〔P_r2〕は

_r2=π×((r2+rd)^2−r2^2
 =π×(2×r2×rd+rd^2)      - - - - (12-14)

なので、

_r2=Fv_r2/S_r2
 =Fv_r2/(π×(2×r2×rd+rd^2))      - - - - (12-15)

となります。ちなみに、ゴムピタくんを引く力〔F_バネ秤(#12)〕と、半径〔r2〕の円周上に加わる力〔Fv_r2〕の和は、

_バネ秤(#12)+Fv_r2
 =π×P_差/3×(r2^2+r1×r2+r1^2)+π×P_差/3×(2×r2^2−r1×r2−r1^2
 =π×P_差/3×(r2^2+r1×r2+r1^2+2×r2^2−r1×r2−r1^2
 =π×P_差/3×(3×r2^2
 =π×r2^2×P_差      - - - - (12-16)

で、圧力差の面積分に一致します。
 さて、20φのワッシャを使ったゴムピタくんを〔1〕(N)で引いた時、半径5cmの空気室ができたとします。

_バネ秤(#12)=1(N)      - - - - (12-17)
r1=10×10^-3=1×10^-2(m)      - - - - (12-18)
r1=50×10^-3=5×10^-2(m)      - - - - (12-19)

これを式(12-12)に代入して計算すると、

_バネ秤(#12)=π×P_差/3×(r2^2+r1×r2+r1^2
 =π×P_差/3×((5×10^-2)^2+(1×10^-2)×(5×10^-2)+(1×10^-2)^2
 =π×P_差/3×(5^2+1×5+1^2)×10^-4
 =π×P_差/3×(25+5+1)×10^-4
 =π×P_差/3×(31)×10^-4=1(N)      - - - - (12-20)

より、

π×P_差/3=(1/31)×10^4      - - - - (12-21)
_差=3/(31×π)×10^4=約308(Pa)      - - - - (12-22)

1気圧は約100(kPa)なので、差圧は大気圧の0.3%程となります。
これを式(12-13)に代入してみると、

v_r2=π×P_差/3×(2×r2^2−r1×r2−r1^2
 =1/31×10^4×(2×(5×10^-2)^2−(1×10^-2)×(5×10^-2)−(1×10^-2)^2
 =1/31×10^4×(2×5^2−1×5−1^2)×10^-4
 =1/31×(50−5−1)
 =44/31=約1.4(N)      - - - - (12-23)

これが、5(mm)幅の領域に加わっているとすると、式(12-15)より、

_r2=Fv_r2/(π×(2×r2×rd+rd^2))
 =(44/31)/(π×(2×(5×10^-2)×(5×10^-3)+(5×10^-2)^2))
 =(44/31π)/(2×(5×10^-2)×(5×10^-3)+(5×10^-3)^2
 =(44/31π)/(50×10^-5+25×10^-6
 =(44/31π)/525×10^6
 =約860(Pa)      - - - - (12-24)

1気圧は約100(kPa)なので、大気圧よりも0.86%程大きな圧力が、空気室周辺の密着部に加わっていることになります。

12.3.3 空気層のある吸盤

 これを吸盤に戻って考えると、吸盤を引っ張った時、内部空間の周辺(ゴムと床との接触部)には、その部分の外部大気圧よりも少しだけ大きな力が加わるということになります。外から空気が浸入するためには、この少しとはいえ外部圧力よりも大きな力(圧力)に抗して浸入する必要があるため、その先の内部圧力がいくら低くても簡単に浸入できないのです。
 現実の吸盤では、内部と外部の圧力差〔P_差〕が、それほど大きなものにはならないので、空気の浸入に抵抗している「内部空間の周辺部」の圧力は、それほど大きなものではありません。けれども、僅かでも外部の大気圧よりも大きければ、水の浸入に抵抗するには十分です。(吸盤の端を手で持ち上げて見ると、それほど大きな力ではないことが実感できます)

 ゴムピタくんを床に置いただけの時は、簡単に横に滑らせることができるのに、上に引っ張った状態では横に滑らせることができないのも、この大きな力によって部分的に空気が排除され、その部分が密着しているためです。ですから、引っ張るのをやめると、大気圧よりも大きな力で押さえている部分はなくなり、排除された空気層が戻るので再び滑らせることができるようになります。もし、「〔P_密着<0〕でないと剥がれない」説が正しいなら、力を緩めても密着部には依然として大気圧がかかっているため、間に空気が浸入するまでに時間がかかる(あるいは浸入できない)と思われますが、そうなると簡単には滑らせることはできなくなるはずです。

12.3.4 密着した吸盤

 吸盤と床との間に空気が存在する場合には、空気室周辺部に圧力の高い場所ができ、そのために外部の水(あるいは空気)が浸入できないことは上で説明できましたが、密着して空気層がない場合はどうでしょうか。密着している場合は、全ての面で床に接触していますから、上部の圧力は(集中することなく)まっすぐ下にかかるように思えます。しかし実際には、吸盤の材料そのものが弾性変形を起こすことで、空気層が存在したときと同じような効果を出すことができます。弾性材料は、空気ほどではなくても圧縮/膨張をしますから。

12.4 Oリングなどのシールド

 Oリングなどを使った水密(気密)シールドは、差圧そのものを利用する巧妙な方法です。差圧によってリングが隙間に押しつけられると、リングと壁面との間に差圧よりも大きな圧力が発生し、それによって水(あるいは空気)の浸入を阻止しようというものです。この方法の利点は、圧力差が大きくなればなるほどシールドが強固になることで、比較的容易に高い圧力に耐えられるシールドを構成できます。逆に差圧が小さい時にはシールド能力が落ちますし、逆方向の圧力差に対してはシールド能力がなくなります。
 圧力をうまく使ってその圧力に対抗しようとする点では、吸盤と似ていると言って良いのではないかと思います。

12.5 垂直シールド工法

 海底や川底の基礎工事などで使われる垂直シールドは、中空の円筒を水柱に立て、内部の水を排除し(換わりに空気を入れ)、水底を露出させて工事を行う方法です。内部空間は加圧することもありますが、底部の外部水圧と同じになるまで加圧することはまずありません。それでも水は浸入してきません。(岩盤を通して浸透してくることはありますが)
 この場合は、円筒の重量によって円筒接地面の圧力が(外部水圧よりも)高くなっているため、水の浸入を阻止していると考えることができます。実際、壁面を構成する材料には十分な水中重量(比重)を確保しておかないと、外れたりシールドが破れたりする危険があるそうです。

12.6 凝集力

 床と物体の間に分子間力などが引力として発生していると、引き離すためには余分な力が必要になります。非常に清浄な面同士では分子レベルで接着してしまう場合もありますし、真空溶接、圧着、融着なども引き離せなくなる力としてあり得ます。爆着などは、圧着の一例と見ることができるでしょう。接着剤が塗られていた場合もそうですね。ただ普通の状態で、接触させただけでは大きな接着力を発生することはあまりないので、通常は無視できると思われます。


13 「抗力」

 広義の「抗力」は、「力を加えている物体の運動を阻止する力」のことで、摩擦抵抗や流体抵抗なども含まれますが、ここでは「垂直抗力」を中心に考えます。
 地上の物体には重力が働いています。床の上に物体が置かれている時にも、物体に重力が働いていますが、物体はそれ以上落下せずに静止し続けています。運動の法則から、加速していない物体に働く力の合力は〔0〕でなければいけませんから、何らかの力が重力に対抗していなければいけないことになります。この「対抗している力」が「抗力」です。
 物体を手で押しつけたり引っ張ったりしても動かないのは、その力に応じた抗力が発生している(物体が床に加える力の変化に応じて抗力も変化している)からです。

13.1 直接の源

 初等教育では、単に「作用・反作用の法則」として、運動方程式を満足させるための補正項のような扱いを受けたりする抗力ですが、単なる「見かけ」の力なのでしょうか。
 固体材料に力を加えると、力を加えられた固体は(たとえ僅かな量であっても)変形し、内部に歪が生じます。その結果、固体は発生した歪に対抗して(圧縮されたバネのように)力を発生します。これが物体に対する抗力として働きます。
 このことから、抗力は床の歪を戻そうとする力の現れと見ることもできます。バネが組み合わさってできたベッドの上に石を乗せると、それぞれのバネが縮んだり伸びたりし、そのバネが戻ろうとする力の合力が石を持ち上げようとする(石が沈むのを妨げる)力になるというアナロジーはどうでしょうか。
 物質が歪に対して抵抗できる力には限りがあります。抗力が歪に抗する力であれば、その力を超えた力で押しつけたらどうなるでしょう。床をもっと弱いもの(豆腐など)で作り、その上に重いものを置くと、大きな抗力を発生することができないため抵抗できず、物体は床の中に沈み込んでゆくことは実験で確かめることができます(当然床の方は壊れてしまいます、豆腐なら崩れてしまいます)。

13.2 間接的な源

 物体内部の応力は、流体内の圧力と似たところがあります(単位まで同じ物を使ったりします)。床に置かれた物体が加える力に対して抗力を発生している状態では、床内部に歪が生じていますが、それによる力は物体方向だけに出ているわけではなく、他の方向にも生じています。床そのものに推進力はありません(当然です!)から、床が発生している力の合力は〔0〕になっているはずです。とすると、床が物体に加えている力と同じ大きさ(で、方向が逆の)の力がどこかに働いていることになります。床が床下の柱を押す力です。これに対して柱は床に抗力を発生しているわけです。
 このように考えると、物体が床を押す力は、床を通過して床が柱を押す力にもなっていることがわかります。逆に、柱が床に対して発生している抗力(の一部)が床を伝わってきて、物体に対する抗力になっていると考えることもできます。このような見方をした場合、床は力の伝達媒体と見なすことができます。工学や日常生活で出会う場面では、このような解釈を取る場合が少なくありません。
 ちなみに、この〔床が柱を押す力〕ですが、これは〔床の重量+物体が床を押す力〕に等しくなります。「水槽内容が剛体の場合」と同じ構図です。

 物体が床を押し、物体から押された床は柱を押し、床から押された柱はまたその下の基礎を押し、基礎はその下の地面を押し…と続くわけですが、「動かない大地」あたりで止めておくのが良さそうです。


14 まとめ

 水底に着底した物体(木片)が下から受ける力や、着底した状態で水底が(水及び木片から)受ける力は、接触部の状態(密着面積)によらないことを示しました。このことから、(多くの場合)着底した木片の挙動に関しては密着面積を考慮する必要がないことがわかります。
 また、着底木片の離床(する/しない)は木片の水中重量とバネ秤の読み(張力)にのみ左右され、離床に必要な力は水深(周囲の水圧)によらないことも示しました。水深によって影響を受けるとする根拠となっていた吸盤に関しては、水の浸入を阻止する機構が働いている特別な場合であり、一般の木片の場合に適用できないものであることも示したつもりです。


15 参考:工学的な話題

15.1 水底の抗力

 大気中の物体の周囲には大気圧が加わりますので、大気圧に対する抗力が発生しています。同様に、水中の物体には水圧に対する抗力が発生しています。水底についても同様です。ところで、大気中における「大気圧に対する抗力」は、特別に意識する必要がない場合(ほとんどの場合)には無視して、「その状態を基準」とした「抗力の変化分」だけを議論の対象とするのが普通です。
 水中においても同様に、(特に意識して議論する必要のない限り)周囲の水圧分は無視(「その状態を基準」と)し、(普段は)「圧力・抗力の変化分」だけを議論の対象とします。この時、「着底時に木片や水底が受ける力は、密着面積によらない」ことが重要になってきます。そして、それがわかっているので、水が排除されていようが入っていようがおかまいなしに、水中と同じ浮力の式を適用しても安心していられるのです。

15.2 水中木片の扱い

 木片を水中に入れると、水位が上昇し水底の圧力が増加しますが、底面積が十分に大きいときには水位上昇はほとんど無視できます。そのため、木片に加わる重力の内、水が受けとめてくれている分のみを、「木片に加わった『浮力』」として扱い、その力はどこに行ったかを(普通は)問いません。

 水底や水中にある物体(水底も含む)は、常時周囲の水圧で圧縮されているため、物体内部には応力が発生していますが、通常はこれを無視(この状態を基準と)して扱います。したがって、木片が着底した際の応力についても、(多くの場合、)元からあった水圧分を差し引いた「変化分」のみを問題にします。高圧下で構造材を圧縮破壊させるような場合では、構造材に加わる力を各面に加わる絶対圧力ではなく、(周囲から一様に加わる)静水圧と、特定方向の圧縮力に分解して考えることが一般に行われています。

 水中にある木片には『浮力』が働いているため、見かけの重さが減少します。
見かけの重さ(=水中重量)と同じ大きさの(上向きの)力を加えると、木片は水中で静止します。これよりも大きな上向きの力を加えれば上昇し、小さな上向きの力であれば下降することになります。水底においては水底からの抗力(増加)が発生するので、それ以上下降する(沈みこむ・埋まりこむ)ことはありません(この時木片が下降することを妨げているのが床からの抗力です)。ちなみに、着底している時の見かけの重さ(=水中重量)は、ゆっくりと離床させたときの張力となります。

 木片と水底の間(空隙)にある水の層が十分薄い場合には、水の出入りによる流体抵抗などが運動抵抗力として働きます。また、気泡などがある場合には、気泡/水界面の表面張力が、間隙(気泡)内部と外部の水との間に圧力差を発生させることがあります。このような場合には、間隙内部との間に圧力差が存在しても水の移動が妨げられるので、木片の移動(上昇/下降)が生じません(または遅れます)。この効果は無視できないことも多く、必要に応じてこの力を予め見積もっておき、木片に加える力を加減することもあります。

15.3 天秤の浮力補正

 大気中に置かれた(ということは普通の場合ですが)天秤で質量を精密測定する際、被測定物と分銅の密度が異なっていると、「浮力補正」が必要になります。この補正量は、例えば水 1000ml で約 1g 程度になります。天秤はきちんと使えば 100g 程度のものなら 1mg 程度の精度で測定できますから、空気の浮力もばかにはできません。分銅や被測定物は天秤の皿に乗っているわけですが、浮力補正に使用する「浮力」は、空中に浮いている時に受ける浮力値をそのまま使用します。(「分銅の底面に加わる大気圧に関する補正」などは行いません)

15.4 潜水艦浮上せず

 潜水艦が海底に着底したからといって、即離床できなくなるわけではありませんが、離床あるいは浮上できなくなるという事態が起こらないというわけでもないようです。

15.4.1 着底潜水艦

 着底した潜水艦が浮上するには、まずバラストを排出して艦体重量(水中重量)を減少させる必要があります。多くの潜水艦では排出口が艦体下部にありますので、着底した際軟泥などに埋まりこんでしまうと排出口がふさがってしまい、バラストの排出が困難になる可能性があるようです。また、粘土質のような海底に着底すると艦体底部が海底に密着してしまい、浮上の際に下部の隙間があまりなく、水の浸入がスムーズに行えない(水の流動に対する抵抗がある)ため、浮上が容易に行えないこともあるかもしれません(こちらの場合は、時間さえかければ浮上できるでしょう)。

15.4.2 水中を航行中の潜水艦

 着底しなくても(水中にいる状態でも)浮上できなくなる事故があるそうです。潜水艦はバラストタンクに水を出し入れし、艦体(の水中)重量を調整することで浮力とのバランスをとっています。この状態(ほぼ、水中重量=艦体重量−『浮力』)で、ちょうど空中の飛行船のように水中を自由に動き回っています。
 潜水艦が水中を下降すると、外部の水圧が増加しますが、この力は艦体を圧縮する力として働きます。潜水艦の内部気圧はそれほど高くはありませんから、外部水圧によって艦体には歪が発生します。この歪みにより、圧縮に対する抗力を発生するわけですが、その結果艦体は(わずかではありますが)収縮し(歪み)ます。つまり、下降するにつれて艦体体積はわずかながら減少するのです。一方、水そのものはほとんど圧縮しませんので、水圧による(外部の水の)密度変化はほとんどありません。その結果、『浮力』も減少することになりますが、艦体重量の方は変わりませんので、浮力バランスはずれてきます。バラストの調整をしなければ、深く潜れば潜るほど『浮力』は減少し、沈もうとする力は増加します。
 安全に潜水できる限界深度付近での歪みは、約0.7%程度と見積もられますが、この歪は3方向全てに起きますから、体積では約2%小さくなることになります。1000トンの潜水艦の場合、この収縮で約20トンの浮力が失われることになり、水中重量は約20トンの増加となります。このクラスの潜水艦が潜航するときに必要なバラスト水は約300トン程度でしょうから、全バラストの約7%近くの量を浮力調整のために排出するか、上向きの推進力でバランスをとるかしなければなりません。どちらもできない場合には、深度が増加すると共に水中重量も増加しますので、さらに沈むことになり、浮上できないまま水底に沈没?するか、水圧で内破するまで沈むことになります。したがって、コントロールを失った潜水艦やその残骸が、海底に達しないで(海面に浮上もせずに)海中を漂うなんてことを考えるのは、ほとんどナンセンスなんだそうです。潜水艦の設計者は、このことを考慮し、防護策を施さなければなりません。
 潜水艦の艦体を強化プラスチックで作るような場合は、プラスチックのヤング率(一定の歪を発生させる応力の大きさ)が鋼よりも小さいため、深度による浮力調整に必要なバラスト量も多く必要になります。このことは、潜水艦を強化プラスチックで作るのが困難な理由の一つになっています。



00/06/25 作成 fuji


理科教育MLへ

mailto:tc6342@geocities.co.jp