「バファリンの半分は やさしさでできています」




かつて、そのようなCMがありました。

『やさしさ』とはいったい何デスカー? そして残り半分は何デスカー?

日本国民ならば誰しもが疑問に思ったことがあるはずです。
無いなら今思ってください。 さぁ、思え。

現在のCMでは「やさしさ」は「胃に優しい成分」にとって代わられてしまったため、「やさしさ」の謎は闇に葬られてしまった感があります。
しかし疑問を持ったら調査・解明・考察するのが科学者というもの。
医薬品関係者の視点から「やさしさ」を科学的に検証してみましょう。

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まず、あのCMの商品が「バファリンA」ということを考慮しなければなりません。
決して「小児用バファリン」「バファリンプラス」ではありません。
そもそも錠剤の組成成分が違います。


バファリンAの薬効成分は解熱鎮痛薬のアスピリン。

小児用バファリンの薬効成分は解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン。

バファリンプラスにはアスピリン、アセトアミノフェンなど4成分。


また、薬店で購入できるバファリンと医師に処方してもらうバファリンの間にも、若干の組成の相違が存在します。
成分組成が異なる商品は調査対象外となりますので、以後の検証は「バファリンA」についておこなっていくことにします。

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「バファリンA」は二層構造の錠剤をコーティングしたものです。
現在の錠剤は「カドが丸く、飲みやすい小型錠!」という触れ込みですが、一度に2錠飲むには直径10mmの錠剤というのは大きすぎると考えていいでしょう。

さて、この錠剤の成分組成は以下のように推測されます(特開2001-122769より)


<積層製剤の配合組成>
    配合成分         配合量(mg)
[第1層]
  アスピリン           330
  コーンスターチ          36.75
[第2層]
  合成ヒドロタルサイト      100
  コーンスターチ          18
  ステアリン酸マグネシウム     0.15  .
     計            484.9


<フィルムコーティング剤の配合組成>
    配合成分                配合比(%)
  ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910  75.5
  マクロゴール6000             11.9
  酸化チタン                  12.6  .
     計                   100


積層製剤1錠に対し、約4.4mgのフィルムコーティング剤(錠剤:コーティング剤=100:0.9)を巻いたものが製品として売り出されていると推測されます。
なお 着色料として青色1号(ブリリアントブルーFCF)も配合されていますが、その添加量は不明です。ただし、全体の重量に対して極微量(0.001%以下?)の添加量であると考えられますので、ほとんど考えなくてよいでしょう。

さて、成分別に見てみましょう。

上記の配合成分のうち、アスピリンが「痛みを抑える成分」であり、合成ヒドロタルサイト(ダイバッファーHT)が「胃にやさしい成分」ということになります。

合成ヒドロタルサイトはpH緩衝作用をもつため、胃酸の持続的中和作用 および 胃粘膜保護作用により アスピリンによる胃の荒れを防止する…すなわち「胃に優しい」という事になります。
また、酸性物質であるアスピリンは胃内のような酸性条件下では非常に溶けにくいため(まぁ水に対しても溶けにくいですけど)、緩衝剤(バッファー)によってpHを調整することにより「早く溶けて、早く効く」ということになります。即効性が求められる鎮痛剤において、このことは非常に重要なポイントです(一般に速放錠においては投与30分後に錠剤中の薬物の85%以上が溶出することを目標とします。これは胃液を模した酸性の液、腸内の液組成を模した中性の液、いずれの条件においても達成されるべき目標です)。

ここからは私の製剤開発経験からの推測となりますが、バファリン開発当初は緩衝剤を配合せずに錠剤を作っていたのでしょう。しかし、胃液を模した液体中で試験するとアスピリンが溶けず、即効性が得られません。そこでpH緩衝剤を配合した結果、溶出性が高まり、その副次的効果として胃への刺激緩和も得られたのではないでしょうか。

つまりは速放性・即効性という条件を満たそうとした結果、ついでに 「やさしさ」を手に入れた…そういうことでしょう。憶測ですけど。

全くの余談ですが、合成ヒドロタルサイトはアルミニウム化合物です。
腎透析患者の場合、アルミニウム化合物を摂取すると脳や骨に悪影響を及ぼすことが知られています。このことから腎疾患をもつ患者さんにとっては「やさしさ」ではなく「キビしさ」が配合されている事になります。 胃にはやさしいんでしょうけど…。

また、アルミニウムがアルツハイマー痴呆に対し因果関係があるとか何とかいう話も存在するようですが、これについては肯定説・否定説が現在でも飛び交っている状況ですので何ともいえませんね。しかし、可能性がゼロと言い切れない無い状況においてはアルミは使用しない方向性で行くべきだと思うんですけどねぇ。
メーカーとしては、成分を1つ変更するだけでも非常に手間とコストがかかるのでやりたくはないでしょうけど…。そこはメーカーの良心次第ですね。

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さて、胃への「やさしさ」成分である合成ヒドロタルサイト。
一体バファリンAの何パーセントを占めているのでしょうか?

  100mg ÷ (484.9mg + 4.4mg) = 20.4%

足りん! 30%ほど足りん!!

まぁ、それも当然の話です。
主成分のアスピリンが67.4%を占めているのだから…。

ということは、アスピリンも部分的に「やさしさ」を持っている事になります。
はたして、どれくらいアスピリンは「やさしい」んでしょうか?

それを計算するには、他の組成成分がどの程度「やさしい」を判断せねばなりません。

    ※    ※    ※    ※

(1)コーンスターチ(トウモロコシデンプン)

主成分2つを除くと、もっとも組成比が高いコーンスターチ(合計11.19%)
主な役割は次のとおりです。

 ・錠剤を形作る(かさを増す)「賦形剤」としての機能
 ・組成成分の粉を固めて錠剤にする糊、すなわち「結合剤」としての機能
 ・錠剤を体内で壊れやすくする「崩壊剤」としての機能

ただでさえデカくて飲みにくいバファリンなのに、何故かさ(体積)を増す?
結合剤や崩壊剤も、もっと少ない量で効果のあるモノがあるはず…。
何故コーンスターチ!?

 「バファリンが出回った当時、機能の高い結合剤・崩壊剤が出回ってなかった」
 「コーンスターチは安価なため、製造コスト的に有利」


などの理由が考えられますが、消費者にとっては「飲みにくい」という「キビしさ」が与えられます。 あまりやさしくないです。

でも、崩壊剤としての機能は「やさしさ」かもしれませんね。早く効くワケだし…。
もっとやさしい崩壊剤はあるんでしょうけど…。

3つの機能のうち、やさしさは1種類。 よって「やさしさ度:33.3%」


(2)ステアリン酸マグネシウム

錠剤は組成成分の粉を圧縮成形して製造します。その際に、ステアリン酸マグネシウムのような物質を入れないと、機械の圧縮部品に粉がくっついて製造障害が出てしまうことがあります。最悪の場合、機械が止まってしまいます。
そういうワケで完全に製造上の都合で配合しています。 よって「やさしさ度:0%」


(3)フィルムコーティング剤

主成分自体の味が悪いワケでもないため、単純に 「口の中で錠剤が速攻で壊れて口中に広がるのを防ぐ」「輸送時の衝撃により、錠剤が磨り減るのを防ぐ」「薬物の安定性を向上させる」 といったところが理由かと思われます。
前者2つについては 「口中に壊れた錠剤が広がるのは気持ち悪い」「摩擦で発生した錠剤由来の粉は、PTPシートから取り出す時にうざったい」 ということからも「やさしさ」に認定してもいいかなーと思います。薬物安定性確保は当然のことです。 よって「やさしさ度:66.7%」


(4)青色1号

着色料に愛など無い!
しかも見た目に色が効いてない!!
全くもって意味が無い!!!
「やさしさ度:0%」

    ※    ※    ※    ※

薬効成分以外の「やさしさ」比を計算してみましょう。

・コーンスターチ
   54.75mg ÷ (484.9mg + 4.4mg) × 0.33 = 3.73%
・ステアリン酸マグネシウム
    0.15mg ÷ (484.9mg + 4.4mg) × 0   = 0.00%
・フィルムコーティング剤
    4.40mg ÷ (484.9mg + 4.4mg) × 0.66 = 0.60%
・青色1号
    微量  ÷ (484.9mg + 4.4mg) × 0   = 0.00%


合成ヒドロタルサイトの「やさしさ」は20.43%ですので、アスピリンを除く「やさしさ」成分の組成比は 20.43% + 3.73% + 0.60% = 24.76% ということになります。すなわち錠剤の半分(50%)から 24.76% を引いた 25.24% のやさしさがアスピリンの担当分です。

錠剤成分の中では最大の「やさしさ」を持っているじゃないですか…。

よくよく考えれば、痛みを和らげてくれるという最も大事な「やさしさ」を持っているのはアスピリンですし、妥当な結果かもしれませんね。


以上を総合すると、バファリンAの真の成分組成比は以下のとおりになります。


[やさしさ層]
  アスピリン       25.24%
  合成ヒドロタルサイト  20.43%
  コーンスターチ      3.73%
  フィルムコーティング剤  0.60%  .
     計        50.00%

[非やさしさ層]
  アスピリン       42.21%
  コーンスターチ      7.46%
  ステアリン酸マグネシウム 0.03%
  フィルムコーティング剤  0.30%  .
     計        50.00%



「やさしいアスピリン」と「やさしくないアスピリン」の分離は現代科学をもってしても不可能ですので、現状では両方を同時に服用するしか手がなさそうです。

しかし、今後の研究によっては「やさしいアスピリン」だけを用いた「本当に小さくて飲みやすい」バファリンが発売されるかもしれませんね。

バファリン(市販薬)の販売元、ライオンの今後に期待しましょう。以上

文責:べーすまん(2003.12.27)




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