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第二課 母音(ぼいん)

2-1 母音の総論および「声門閉鎖」について

 中国語の母音は「単母音・複合母音・鼻母音」の三つに分かれます。
 日本語の母音に近いものもありますが、ごく一部です。
 中国語で母音だけ単独で発音するときは、必ず「声門閉鎖」をしてから母音を発音します。例えば同じアでも、中国語のa(声門閉鎖あり)と日本語のア(声門閉鎖なし)では、違って聞こえるわけです。

 声門閉鎖とは、こういうことです。
 まず、日本語で「アッ」と発音してみてください。小さな「ッ」の部分は、ツと発音するわけではありません。アッ、の小さなツは、のどをキュッと閉めるという一種の符号なのです。
 日本語のアッの、小さなツが示すところのものを「声門閉鎖」といいます
 中国語の母音を、前に子音をつけず、単独で発音する場合、必ずまず軽く声門閉鎖をしてから発音します。日本語では、母音のあとに声門閉鎖をすることはありますが、その逆はありません。中国語では、声門閉鎖をしてから母音を発音するのですが、日本語のように母音のあとに声門閉鎖することはありません。広東語(かんとんご)などの方言を除き、中国語に「つまる音」はないのです。
 中国語の母音aは、便宜的にアルファベットのaと表記してありますが、英語のアとも日本語のアとも全然違います。中国語のaをしいて日本語のひらがなで表記すると、仮にもし「アッ」をひっくりかえして「ッアー」と表記したら、感じがでるでしょうか。
「アッ」をひっくりかえして「ッアー!」 →

 声門閉鎖をアポストロフィ( ' )で表し、中国語のaを「'a」と表記する方法も、昔は行われたことがありました。
 ピンイン(中国語ローマ字)ではいちいち表記しませんが、aに限らず、中国語の母音を単独で発音する場合、すべて声門閉鎖ではじまります。この点を注意してください。

[豆知識] 英語で「an apple」が「アンナップル」のように発音されるのは、英語の「ア」が声門閉鎖しないから。
中国語では、例えば「天安門」Tian1an1men2ティエンアンメンを、「ティエンンメン」と発音することは絶対に無い。
写真は天安門前広場(秘密写真館)

天安門前広場

 
2-2単母音

 日本語の単母音は「アイウエオ」の五つです。
 中国語の単母音は以下の八つあります。日本語より少し多いです。

 



[豆知識] 「 ü 」で、u の上の「 ¨ 」を「ウムラウト記号」と言う。ドイツ語等でよく使う。
    中国語でウムラウト記号が出てくるのは、この ü だけ。

 a から ü までは、ほぼ「口を大きくあける度合い」の順に並んでます。最後のerだけは、やや特殊な母音です。
 後半の三つの母音はそれぞれyi、wu、yuと書いても発音は同じです。



yi wu yu の順に、唇が横にすぼまる

 なお、中国語の母音の発音練習のときは、特にことわらない限り「第一声」のアクセントで練習します。

 中国語の単母音を発音するコツは以下の三点です。
・すべて「声門閉鎖」からはじめる。
・日本語の母音より口の形(唇の形)をはっきりさせる。
eとerは、声を出しながら舌を口のなかで動かす

 以下、それぞれの単母音について解説します。

a 最も大きく口をあける母音です。日本語の「ア」より口を上下に大きめにあけて、かるく声門閉鎖をしたあと、アー、とノドの奧から発音します。日本語風に「アー」と発音しても中国人にはじゅうぶん理解されますが、中国人の耳には訛って聞こえてしまいます。

o 二番目に大きく口をあける母音です。英語の「オ」のように口を丸め、かるく声門閉鎖をしたあと、オー、とノドの奧から発音します。日本語風に「オー」と発音しても中国人にはじゅうぶん理解されますが、中国人の耳には訛って聞こえてしまいます。

e 
 日本人にとって、最も発音が難しい母音です。日本語「エ」の唇のかたちで、かるく声門閉鎖をしたあと、オー、とノドの奧から発音します。発音しながら、舌の根っ子をノドの奧のほうにひっぱりつつ盛り上げてください。日本語の「アイウエオ」は、どれも口のなかの前のほうで発音し、しかも発音の途中で舌を動かすことはありませんが、中国語のeは口の奧のほうで舌を動かしながら発音するため、日本人にとって最も難しい発音といえるでしょう。
【参考】どの中国語教科書でも、「e」の発音のしかたについての説明には苦労しています。背中をナイフで 刺された時の声、と説明する教科書もあります。
e oを発音する時と舌の位置は同じ。まずoを発音、口の中の舌の位置はそのままにして、 唇のまるめをとる。背中にブスリとナイフを突き立てられた時に、 のどの奥から出るような「ウ」。(相原茂『ひねくれ燕燕』朝日出版社2007年1月、p.32より引用)


i ほほの筋肉をつかって口を両脇にひっばり、かるく声門閉鎖をしたあと「イー」と発音します。日本で写真をとるとき「はい、チーズ」というときの「イー」の口のかたちだと思ってください。iを「yi」と表記しても発音は同じです。

u 唇をすぼめて丸め、顔の前方にややつきだして、かるく声門閉鎖をしたあと「ウー」と発音します。日本語よりも英語の「ウー」に近い発音です。uを「wu」と表記しても発音は同じです。

ü 日本人にとって、eと並んで最も発音が難しい母音です。日本語「ユ」の唇のかたちで、かるく声門閉鎖をしたあと、「ユ」の口のかたちのまま「イー」と発音します。日本語風に「ユー」とか「ユイー」と発音してはいけません。あくまで「ユとイを同時に発音する」のです。
  ü すなわち「uのウムラウト」は、発音練習のとき以外は、yuと表記します。

[豆知識] yu(=ü) を第二声で発音すると「魚」



(特殊母音)er 上記の短母音eよりアゴを下にさげた形で、かるく声門閉鎖をしたあと、舌先を口のなかで宙ぶらりんのまま奧のほうに移動させつつ「アル」と発音します。

 以上、中国語の単母音の発音のしかたは、どれも日本語の母音と微妙な違いがあります。まとめると、

・日本語の母音は短音「ア」と長音「アー」の区別がある。中国語の母音には短音と長音の区別がない
・日本語の母音を発音するときは、基本的に唇や舌はあまり使わない。中国語の母音を発音するときは、唇や舌を積極的に動かす。
・上記の結果として、中国語の母音の発音のほうが、口の外見がはっきりと区別できる。
・日本語の母音は、すべて口のなかの前半部(唇にちかいほう)で発音する。中国語の母音は口の奧のほうから発音するものもある。

 
2-3 複合母音の種類と発音の注意

 中国語の複母音は以下のとおりです。

 

aieiaoou
yayeyaoyou
wawowaiwei
yue(=üe)


 中国語の複合母音の発音のコツは以下の三点です。
・まず声門閉鎖をすること
 単母音とおなじく、すべて声門閉鎖ではじめてください。
主母音と副母音の区別を明確に
 主母音とは「強く長く」発音する母音のこと、副母音は「弱く短く」発音する母音のことです。複合母音では、原則として、口のあけかたが大きいほうの母音(a o e i u yuの順で上位のほうの母音)が主母音となります。例えばaiは「ア(強)ーイ(弱)」のように聞こえます。日本語ふうに「アイ」と発音してはいけません。
・主母音と副母音はなだらかに結ぶこと
 中国語の複合母音は、途中に「切れ目」がありません。例えばaiは「アー・イ」と発音してはなりません。「ア−(だんだん口を閉じて行く)・・・イ」という発音です。
 中国語のaiという複合母音を、aとiという二文字のアルファベットで表記するのは、あくまでも便宜的な発音表記にすぎません。中国人の意識のなかではaiにあたる発音は、ai一個で独立した母音なのであって、「ア」と「イ」の合成ではありません。aiという発音表記にひきずられて、日本風に「アイ」と発音しないよう、注意しましょう。

  最初が主母音になるもの
ai アーィ ei エーィ ao アーォ ou オーゥ
・注意 eiと発音するときのeは、単母音のeとちがい、日本語の「エ」そっくりの発音になります(声門閉鎖をする点は違いますが)。eiに限らず、中国語の母音は「やわらかい」ので、その母音の前後にどんな母音や子音がくるかによって、口のかたちがあっさりと変化してしまうのです(そのほうが発音が楽だから)。いっぽう日本語の母音は、前後にどんな母音や子音が来ようとも、口の形が変化することはありません。日本語の母音はとても「かたい」、中国語の母音はとても「やわらかい」と言うことができます。

  最初が i(ないしy) ではじまるもの
ya ィヤー yeィエー yaoィヤオ youィヨウ
・注意 yeのeは、日本語「エ」と同じになります。yaoではaが主母音、youではoが主母音になります。

  最初が u(ないしw) ではじまるもの
waゥワー woゥオー waiゥワイ  weiゥエイ
・注意 waiではaが、weiではeが主母音です。weiのeは日本語「エ」と同じ発音になります。

  最初が ü=yu ではじまるもの(一つだけ)
yue(=üe) ユエー
・注意 yue の主母音は e で、日本語「エ」と同じ発音になります。

   以上で複合母音は終わりです。
 最後にeの発音について補足説明します。

[補足] eは、en ei ye(=ie) yue のときは日本語風に「エ」と発音します。
 

 −n(語尾にくるn)やiやyuは「唇をせばめる発音」です。これらがeとむすびつくと、eも影響を受けて口をせばめて発音したほうが楽なので、結果として日本語「エ」に近い発音になってしまうのです。



 
2-4 鼻母音の種類、およびnとngの区別について

 日本人の耳に「アン」「エン」「オン」のように聞こえる母音を、鼻母音といいます。

anenangeng-ong
 
yanyinyangyingyong
wanwenwangweng
yuanyun


 日本語の「ン」にあたる発音は、中国語ではnとngの二つがあります。中国語でも英語でもnとngは全く違う発音ですが、日本人の耳には両方とも「ン」に聞こえてしまい、区別がつきにくいので注意しましょう。

  n  日本語で「反応(はンのう)」というときの「ン」
  ng 日本語で「千円(せえん)」というときの「ン」

 nとngの区別は、ズバリ舌の位置の違いです。
 nは舌先を上あごにビタリとくっつけます。例:
anの模範発音(模型)

 ngは舌先は下あごのほうに押し下げ、下の根元を口の奧のほうで盛りあげます。 angの模範発音(模型)。ピンイン表記にひきずられて「ング」と読み間違えないでください。ngのgは、gという音ではなく、舌の位置をあらわす一種の符号だと思ってください。つまり、ngの発音のとき、舌の根元を口の奧で盛りあげますが、そのときの舌のかたちはgを発音するときと同じかたちになる、という意味です。
 上述のとおり、中国語初心者の日本人の耳には、nもngも同じく「ン」のように聞こえてしまい、区別しにくいのです。しかし中国人の耳には、nとngは、あたかも日本語で「ナニヌネノ」と「ンガ、ンギ、ング、ンゲ、ンゴ」が違うくらいハッキリと区別して聞こえます。

[豆知識] 中国人でも南方出身者には n と ng の区別ができぬ人がいる。方言の関係。

 nとngの区別は、日本人泣かせの発音である、と言えます。例えば、jin1yu2(金魚)とjing1yu2(鯨魚)
 


 金魚とクジラでは、意味が大違いですが、中国語初心者の日本人の耳には同じ発音にしか聞こえません。
 まず、自分で正確にnとngを発音できるようにしましょう。そうすれば、耳も慣れてnとngの区別がつくようになります。

[豆知識] 日本の漢字音で「ン」で終わるものは、中国語でも「n」で終わる。例「金」キ → jin1



2-5 鼻母音の発音練習

 まず、anとangで鼻母音の発音を練習してみましょう。両方とも、中国語初心者には「アン」としか聞こえないので、注意してください。

「an」の模範発音(模型)   「ang」の模範発音(模型)


anの練習法 まず日本語の発音で「アンヌ」と言ってみてください。この「ン」のとき、あなたの舌先は上あごの歯のすぐ裏にピタリとくっつくはずです。まず「アンヌ、アンヌ」と繰りかえし、次に「アーンヌ、アーン・・・ヌ、アーン(切って止める)」と言って練習してください。

angの練習法 まず日本語の発音でごく自然に「アング」と言ってみてください(「口をアングリとあける」と言う感じで)。この「ン」のとき、あなたの舌先は上あごにくっつくことがなく、舌の根もとのほうが口の奧で盛りあがるようにしてください。「ング」というときは、口ではなく、鼻の穴から「ング」という声を出す感じにしてください。このようにしてまず「アング、アング」と繰りかえし、次に「アーング、アーン・・・グ、アーン(切って止める)」と言って練習してください。

「アンヌ、アーンヌ、an 」と「アング、アーング、ang 」 →

   anとangの発音練習をするときは「口のなかで舌を正確に動かすこと」に全神経を集中してください。

 舌の位置を動かすことで、結果的に、anとangのそれぞれの「ア」の微妙な発音の違いも無意識的に自然にできるようになります('anの「ア」は、すぐ後に続けてnという「口を閉じる発音」がくるため、無意識のうちに「ア」も「つぶれて」口の前のほうから発音する「明るいア」になります。angの「ア」は、すぐ後に続けてngという「口の奧からだす発音」がくるため、最初に「ア」と発音する段階で無意識のうちに口の形が洞窟のように「くぐもって」しまい口の奧のほうから発音する「暗いア」になります。anの「ア」とangの「ア」の微妙な「色あいの違い」は、カナやローマ字で書き分けることはできませんが、中国人の耳にはハッキリと分かります。中国人は最初の「ア」を聞いた段階で、すぐ後に続くのがnなのかngなのか予想できるのです)。
 鼻母音で注意すべきは(複合母音も同じですが)、ある母音の前後にどんな発音がくるかによって、単母音のときと発音の「色あい」がガラリと変わってしまうことです。くどいようですが「日本語の母音はかたいが、中国語の母音はやわらかい」ということを、常に忘れないでください。
 日本人の中国語学習者にとって、このような母音の微妙な色あいの変化は、初めのうちはめんどくさく思われます。しかし慣れてくると、このように微妙に変化させたほうがかえって自然で楽に発音できることがわかります。
 中国人にとって自然で楽な発音をマスターできれば、中国人と百パーセント同じの、完璧に訛りのない中国語を発音することができるのです。


 次に鼻母音のそれぞれについて、練習をしてみましょう。

anアン enエン  ang アン eng オン -ongオン 
 

・注意 enのeは日本語「エ」に近い発音ですが、engのeは単母音eに近い発音です。anとangのそれぞれの「ア」も、enとengの「エ」ほどではありませんが、やはり色あいが違います。

yanイェン  yinイン  yangヤン  yingイン yongヨン 
 

・注意 yanはヤンではなくイェンと発音します。aは最も口を大きくあける「最強の母音」ですが、口を横に閉じるy(=i)と、口を舌先で閉じるnという二つの「口を閉じる圧力」にaが前後からサンドイッチされてしまう結果、さすがのaもつぶれて「エ」になってしまった、というわけです。いっぽうyangのaのほうは、「ア」の後に続くのがnではなくngなので、aがつぶれて「エ」になる、という事態は免(まぬか)れています。
・注意 yinとyingの発音の区別は、日本人学習者にとっては、anとang以上に難しいです。 yinの発音練習法 yiと長く伸ばして発音したあと、enと短く発音します(「イー・・・エン」のような感じ)。それを繰りかえし、だんだん短くして「イン」とします。 yingの発音練習法 yiと長く伸ばして発音したあと、engと短く発音します(「イー・・・オン」のような感じ)。それを繰りかえし、だんだん短くして「イン」とします。

wanウワン  wenウェン wangウワン  wengウオン 
 

・注意 wanとwangの違い、wenとwengの違いについては、anとang、enとengの違いを参照のこと。

yuanユアン  yunユン 
 

・注意 yuanの「yu」は、日本語「ユ」ではなく、中国語の「 ü 」。
 yuanはユアンとユエンのどちらに発音してもよい。

[豆知識] yun を第二声で発音すると「云(雲)」



[豆知識] 明清(みんしん)時代の伝統的な音韻学では「四呼(しこ)」と言って、母音(韻母)を以下の四つに分類していました。