モンドルキリで象トレッキング

▲モンドルキリ州はカンボジア東部に位置し、ベトナムと国境を接している

知人と一緒にカンボジア東部に位置するモンドルキリ州へ行って来た。地名のモンドルキリとは「山の集まるところ」という意味だ。その名の通り、モンドルキリ州は山がち(平均標高は約800メートル)でカンボジアの平野部の州とは植生や気候が大きく異なる。平野部でよく見られる田とサトウヤシの組み合わせはモンドルキリにはほとんどなく(否、まったくないかもしれない)、雨季に訪れれば生き生きとした緑で覆われた丘の連なる風景を楽しむことができる。空気は澄んでいて平野部のように暑くなく、涼しくて過ごしやすい。

2005年8月現在、首都プノムペンからモンドルキリ州の州都サエンモノロム(センモノロム)へ行くには、大きく分けてふたつの方法がある。ひとつは直通バスを利用する方法。もうひとつは、プノムペンからバスでクラチェ州のスヌオルまで行き、そこからピックアップトラックや乗り合いタクシーを利用する方法だ。僕たちは首都プノムペンのプサートゥメイ(中央市場)の近くにあるバス乗り場からPhnom Penh Public Transport社のバスに乗り、まずはスヌオルを目指した。
午前9時過ぎ、コンポンチャーム州のバティエイにある食堂で30分ほど休憩する。バティエイは食用クモで有名なコンポンチャーム州のスクオンからバスで5分ほどの距離に位置するためか、休憩所ではクモ売りの売り子さんを見かける。クモ以外にも未熟のマンゴー、プラエチャンと呼ばれる果物、パイナップル、カエルの肉詰め、ゆで卵などの売り子さんがいる。プラエチャンは日本のミカンくらいの大きさの果物で色は薄い黄色。芳醇な甘い香りを持つ。品定めをしていた中年の女性と少し言葉を交わす。
「日本にはプラエチャンはないでしょ。だったら試してみなさいよ。甘くていい香りがするのよ」
勧めにのって小学生くらいの女の子の売り子さんから買ってみる。ふたつで500リエル。同行者のQによると、カンボジア人はプラエチャンを買ったら1日、または2日、部屋に置いて香りを楽しんでから食べる。
昼過ぎにスヌオルに着く。ここから先はピックアップトラックに乗ってサエンモノロムを目指すことにする。車内には運転手のほかにカンボジア人が2人と僕たち4人、後ろの荷台にはプノンと思われる4人組。プノンはおもにクラチェ州やモンドルキリ州で暮らし、カンボジアの人口の約90パーセントを占めるクマエ(クメール人)とは異なる独自の文化(母語のプノン語を含む)を持つ。いわゆる「少数民族」としてくくられる人々だ。
スヌオルから先、サエンモノロムにたどり着くまでピックアップトラックは舗装されていない赤土の山道を走る。僕たちの乗ったピックアップトラックは、定員オーバーに加えて積載オーバー(約1トンの木炭を積む)であったため、途中のぬかるんだ斜面を登りきることができず、チェーンを装着して走行することになる。運転手のおじさんが慣れた手つきでチェーンを装着する。この後、エンジントラブルが発生し、時速約20キロで走り続けることになるとは、このとき誰も想像していない。
ぬかるんだ坂を下るときにスリップする危険を回避するため、僕たちはピックアップトラックから下り、トラックの先を歩く。チェーンを装着し終えたトラックは、僕たちを抜かして道が平坦になったところで待つ。周囲は静寂とし、霧の立ちこめた空に聞き慣れない鳥の鳴き声がこだまする。カンボジアの平野部とは異なり空気はひんやりとしている。道の脇に生えるシダ植物が、プノムペンから遠く離れたことを知らせてくれる。
サエンモノロムの中心から約9kmのところに位置するプノンの村プータンは象トレッキングの出発地として知られる。
クマエ(クメール人)の住居とは異なり、プノンの家は高床式ではない。竹を使って家の骨組みが作られ、地面がそのまま床として使われる。竹は彼らの住居の周囲に広がる山のなかに生えている。一般にプノンは象や鶏を飼育したり、農業を営んだりして生計を立てている。象は15歳くらいから働き始め、80歳くらいまでプノンの仕事を助ける。
プータンから象に乗り、山間に広がるプノンの村を象に乗って歩く。山の中の畑では、イネ、イモ、トウモロコシ、バナナなどが栽培され、その横を小川が流れる。山の中に市場はないため、プノンの人たちは必要なものが生じた時、サエンモノロムの市場へ出かける。
下り道をのっしのっし、ゆっくりのんびりと、しわの刻み込まれた体を揺らしながら象が下る。象はプノン語でしつけられているため、クマエの象使いもプノン語で象を操る。何人かの村人とすれ違ったとき、プノンの象使いが話すプノン語を耳にした。その響きはベトナム語と似ているように感じられる。
澄み渡った青空と生き生きとした緑。どこからともなく、子供の頃によく聞いたセミの鳴き声が響いて来る。
プノンの村を過ぎると、整備された道はなくなる。象使いが鉈を振り回し、生い茂る草木を切り払って「道」を作る。それを手伝うかのように象は竹を食べ、大きな音を立てて放屁したり、人糞の10倍近くもある大きさの便を森の中に落としたりしながら歩みを進める。この糞もモンドルキリの深い森を育む一つの要素となっているのだろう。モンドルキリ州やラタナキリ州で問題となっている森林の違法伐採が森と共生する象の生活を脅かさないことを祈る。
トレッキングコースの折り返し地点に簡素な造りの休憩所があり、その前をテー川が流れている。象使いはそこで鞍を外し、象に水浴びをさせる。テー川の流れは早く、雨季のため水量も多い。水の色はメコンやトンレサープと同じく土の色で濁っている。象は鼻で吸った水を体に吹きかけ、気持ちよさそうに日光を浴びた体を冷やしていた。

テー川の岸に建つ休憩小屋で昼食をとる。象使いが木の枝を拾ってきてたき火をし、そこでトウモロコシを焼いてくれる。木の枝は完全に乾燥していないため、火がつくのにやや時間がかかった。とはいえ、自然の火で焼かれたトウモロコシを澄んだ空気の中で食べるのはすがすがしい体験だ。昼食はゲストハウスが準備してくれた肉のせごはんとバゲッド、それに水。
向かいの小屋には象に乗ってやってきた若い男女2人組の外国人観光客の姿がある。それ以外はすべて自然に包まれている。
モンドルキリはアボカドがとれる地として知られ、州都サエンモノロムの市場へ行くとアボカド売りを見ることができる。季節にもよるが1kg3000〜4000リエル程度。首都プノムペンでも買うことはできるがモンドルキリで買うよりやや高い。カンボジア産のアボカドを食べたことがなかったため、試しに1kg買ってみる。
今回、宿泊したLong Vibol Guest House。広々とした敷地のなかに豊かな緑が配された美しいゲストハウスだ。サエンモノロムの中心部からやや離れているが、ツアーのアレンジやモトドップ(バイクタクシー)、タクシーの手配などもしてくれるので不便さは感じない。
モンドルキリの朝晩は冷え込むため、平地では快適な水シャワーが辛く感じられる。そこでゲストハウスの従業員に頼んでポットに熱湯を持ってきてもらう。それを水で薄めてぬるま湯をつくり、体を洗った。ぬるま湯を浴びたあと、高原の空気に触れながら飲むタイガービールは格別だった。

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