TOSSランド【TOSS横浜推薦】

1年/国語/読む/物語文


ずうっと、ずっと、大すきだよ


TOSS横浜 武田晃治 


光村図書1年(下)の物語教材「ずうっと、ずっと、大すきだよ」の実践記録。討論を行った。



その1



 この話を学習するよと言ったときに、「えぇ〜、嫌だぁ」とつぶやいた女の子がいた。
 理由は、「ぼく」が飼っている犬が、死んでしまう悲しい話だからだ。
 (クラスの半数くらいの子が、事前に話を読んでいた。)

 しかし、この物語は、単に犬が死んでしまう悲しいお話ではない。

 【愛情は、死さえ乗り越えて、人生を豊かにする】というテーマが、含まれている。

 授業を通して、自分が今まで気が付かなかった新たな発見や解釈が生まれるとよい。
 そして、教材を通して、友だちと語り合い、「伝え合う力」(人間と人間との関係の中で、互いの立場や考えを尊重し合いながら、言語を通して適切に表現したり、正確に理解したりする力)を育てていきたい。

 まずは、物語を読み、感想を書き、それを交流した。

 「エルフが死なない方法を考えたい」とか「劇をしたい」という1年生らしいかわいい意見もあった。

 本格的な読解に入る前に、音読の学習を行った。
 文章がすらすら読めるようになることが、まずは大切だ。
 一斉に読むだけでなく、追い読み(教師の後に続ける)、交代読み(教師と子ども、男女、クラスを半分に分けて、列ごと、隣の子と、グループで)、リレー読み(一人ひとり)、指名なし音読(教師が指名せず、読みたい子が立って読む)など、パターンを変え、楽しくたっぷり行った。
 音読をたくさんすると、文章のどこに何が書いてあるのか、すぐに分かるようになるので、これからの話し合いが活性化する。

 その後、読解に入る。
 まずは、物語の設定を問う、シンプルな課題から。


【☆発問】登場人物は、誰ですか。ノートに書きなさい。


 単純だが、これだけでも楽しい授業になる。
 「登場人物」という分析コードを、1年生は持っていないので、いろいろな意見が出される。
 子どもたちからは、18もの登場人物が挙げられた。


 @エルフ  Aぼく  Bにいさん  Cいもうと  Dおとうと 
 Eおとうさん  Fおかあさん  Gママ  Hにわとり
 Iきんぎょ   Jおうむ  Kかめ  Lねこ  Mモルモット
 Nことり  Oうま  Pひよこ  Qとなりの子 
    


 すると、「金魚は違う」「金魚も登場人物だよ」という議論が始まった。
 「挿絵に出ているから登場人物だ」、「いや違う」というように。
 ここで、登場人物の定義を教えた。


【☆説明】「台詞」や「動作」や「気持ち」が書いてあるものが、登場人物です。


 これをヒントに、再度考えさせた。
 子どもたちは、もう一度、教科書を丹念に読み返す。
 すると、あちこちから「わかった!」と嬉しそうな声が上がった。
 動物たちのほとんどは、挿絵だけで、文がない。
 また、おとうさんやおかあさんという言葉も、文中にないことがわかった。
 ただし、挿絵には登場し、「うちのかぞく」という言葉があるので、その言葉でまとめた。

 最後に、登場人物でありながら、黒板にまだ名前が書かれていないものがあったが、ある子が気が付いて発表した。
 じゅういさんである。
 「台詞も動作も書かれています」その理由も、きちんと言えた。

 18もあった登場人物は、以下の5つに確定した。

  @ぼく      
  Aエルフ
  Bうちのかぞく  
  Cとなりの子
  Dじゅういさん





教師ではなく、「子どもが学習課題を作る」ということが、よく言われる。
しかし、これは安易にできることではない。

今回、「どんな勉強がしたい?」と子どもに聞いて書かせてみたが、

「エルフが死なない方法を考えたい」…4名
「劇をしたい」…2名

というのが目立った反応で、残りはよく分からない課題だった。

教師が一生懸命智恵を絞ったって、1時間の学習に耐えられるよい発問は、簡単にできやしない。
まして、子どもに課題を作れ、というのは、無理が生じる。
(子どもが作ったように見せる、という教師の技術はあるが。)

もし、子どもに学習課題を作らせたいのなら、それなりのトレーニング、積み重ねが必要になる。


その2


 フィンランドの教科書に、
 「登場人物をあげなさい」とか、
 「主役は誰ですか」という課題が出てくる。

 読解力世界一と言われた国の教科書と同じように、今回の教材では、子どもたちに主役を尋ねた。


【☆発問】このお話の主役は、誰ですか。


 先生方は、この解をどうお考えになるだろうか。
 おそらく、「ぼく」と考えるのが一般的だろう。
 しかし、多くの子どもは、大人とは違うとらえ方をする。

 子どもたちは、28名中、21名が犬のエルフが主役だと言った。
 残りの7名が、「ぼく」である。

 子どもの目線では、エルフの死というインパクトも伴って、犬の方に注目がいく。
 もちろん、犬のエルフを中心にした読み方も、ありえる。
 犬が主役だという解釈も、間違いとは言えない。
 
 しかし、物語を語っているのは「ぼく」である。
 愛する者の死を乗り越えてなお、愛することの素晴らしさに語り、人生を豊かにしていこうとする「ぼく」。
 その視点から物語を読み返すと、「ぼく」の精神的な成長に気付き、物語をより深く味わうことができる。

 この教材で、主役を問うことは、物語をとらえる視点の変換を促す狙いがある。

 子どもたちに、自分の考えをノートに書かせ、討論をした。

 (前時に課題を告げていたので、家の人にも意見を聞いてきた子がたくさんいた。)

 討論をするときは、机の向きを中央に向け、みんなの顔が見えるようにする。
 そして、教師は、できるだけ子どもたちの視界から消える。
 教師の顔色を見て発言をするのではなく、子どもたち同士で、話し合いを進められるようになってほしいからである。
 もちろん、必要な場合は、教師も討論に参加して盛り上げたり、話し合いに必要な様々なルールを教えていく。
 しかし、発言内容の是非については、話し合いの最中、コメントしない。
 意見に根拠さえあれば、褒めて励ます。

 エルフ派、ぼく派、ともに活発に意見が出された。


【エルフ派】

・絵がたくさん出てくるから。
・主役は、死なないから。
・「エルフのことを話します」と書いてあるから。
・題名の「大すきだよ」というのは、エルフのことを言っているから。
・動物が主役の話は、他にもあるから。(101匹のワンちゃんなど)


【ぼく派】

・ぼくの気持ちがいっぱい書いてあるから。
・ぼくの台詞がいっぱい書いてあるから。
・言葉は全部、ぼくが書いているから。(※語っているから。)
・ぼくの台詞、動作、気持ちが全部入っているから。
・ぼくがすきだということが書いてあったから。


 質疑応答、話し合いが盛り上がっていても、本筋からそれる場合がある。そういうときは、教師の出番である。


【☆指示】今、話がずれているよね。こういう時は、誰かが「話題がそれています」って、発言するんだよ。


 ある子が教えたことをさっそく使って、このあと話がそれた時に、「話題がそれています」と修正した。
 その子を褒め、クラス全体に討論のスキルを広げる。
 「教えて褒める」である。

 また、討論の最後に、よかった子を取り上げて褒める。

 「今日の討論で、特に素晴らしかったのは、○○さんです。
 『教科書28ページを見てください。〜と書いています。』
 というように、教科書の文をもとに、自分の考えを発言することができました。」


 褒められた子は自信を付け、他の子も真似するようになる。
 子どもたちに増やしたい行動を、教師がアンテナを張って受信し、取り上げて褒め、子どもたち全体に広げていく。

 討論の結果、「エルフ派」が9名、「ぼく派」が17名(2人欠席)と逆転した。
 この話し合いに、正解はない。
 課題について考え、互いの意見を聞きながら、読みが深まったことに価値があると考える。


その3



  教 師  「題名をみんなで言ってみましょう。」
  子ども  「ずうっと、ずっと、大すきだよ」
  教 師  「大すきだと言っているのは、誰ですか?」
  子ども  「主人公の『ぼく』です。」
  教 師  「ぼくは、誰のことが大好きなのですか?」
  子ども  「エルフです。」
  教 師  「本当に、ぼくは、エルフのこと好きなんですか?」
  子ども  「好きです。」
  教 師  「本当に?」
  子ども  「本当に!」
  教 師  「では、好きだという証拠を見つけてください。」

 いきなり全てのページを探すと大変なので、まずは、最初の2ページに限定した。
 見つけた子に手を挙げてもらい、発表してもらった。


@エルフはせかいでいちばんすばらしい犬です。
Aぼくたちは、いっしょに大きくなった。
Bぼくは、エルフのあたたかいおなかを、いつもまくらにするのがすきだった。
Cそして、いっしょにゆめを見た。
Dでもエルフは、ぼくの犬だったんだ。



 黒板に拡大した教科書を張り、線を引いて確認していった。
 これで作業の手順が大方子どもたちは理解したので、今度は10分程度時間を取り、残りを子どもたちに探してもった。


【☆指示】「ぼく」がエルフのことが好きだと分かる箇所に、定規で線を引きなさい。


 すでに何度も読んでいる文章だが、子どもたちは、もう一度丹念に教科書を読み返し、エルフへの愛を探した。

 「見つけた!」
 「あった!」
 「先生、これもかな?」

 見つける度に、子どもたちは、喜んで線を引いていった。
 子どもたちが線を引いた箇所は、だいたい以下の通りである。


Eエルフとぼくは、まい日いっしょにあそんだ。
Fぼくは、とてもしんぱいした。

Gぼくたちは、エルフをじゅういさんにつれていった。
Hでも、エルフはぼくのへやでねなくちゃいけないんだ。
Iぼくは、エルフにやわらかいまくらをやって、ねるまえには、かな
 らず、「エルフ、ずうっと、大すきだよ。」っていってやった。

Jぼくたちは、エルフをにわにうめた。
Kみんなないて、かたをだきあった。
Lぼくだって、かなしくてたまらなかったけど、いくらかきもちがらくだった。
Mだってまいばんエルフに、「ずうっと大すきだよ。」っていってや
 っていたからね。

Nもらっても、エルフはきにしないってわかっていたけど、ぼくはいらないっていった。
O「ずうっと、ずっと、大すきだよ。」 って。



 教科書は、線でいっぱいになる。
 改めて、この作品は、エルフへの愛に満ち溢れていることが確認できる。

 さて、ここで大きな問題が生じる。それは、Oの文についてだ。

 ここに線を引いた子は、半分くらい。果たしてこの文は、エルフへ向けての文なのであろうか。
 Oの直前に、次の文がある。

 いつか、ぼくも、ほかのいぬかうだろうし子ねこやきんぎょもかうだろう。なにをかっても、まいばん、きっといってやるんだ。

 このOの台詞は、いったい誰に向かって言っているのか。
 
 エルフ?それとも未来に飼う予定の動物?

 先生方は、どのようにお考えになるだろうか。 


その4



 最後のぼくの台詞、「ずうっと、ずっと、大すきだよ。」は、誰に向かって言っているのか。
 ここが問題になった。


【☆発問】「ずうっと、ずっと、大すきだよ。」は、誰に向かって言っているのですか。


 クラスの意見は、次のように分かれた。

 エルフ … 15名  未来に飼う動物 … 12名 

 エルフ派と未来に飼う動物派に分かれて、討論した。
 話し合いも、だいぶ慣れてきている。
 いつものように、指名なし発表で自分の考えを発表した後、質疑応答。質問の仕方も、熟れてきた。

 一人に質問が集中して、話し合いが滞ってしまうことが発生したので、
「そういうときは、話題を変えてもいいですかと聞いて、違う意見を発表してもいいですよ。」
ということも、教えた。
 
 子どもたちの主な主張は、次の通りであった。


【エルフ派】

 これまでの「ずうっと、大すきだよ」は、エルフに向けて言われている。
 ぼくは、まだエルフに向けて、言い続けている。

【未来に飼う動物】

 直前に、「いつか、他の犬や子ねこや金魚など、何を飼っても、毎晩、きっと言ってやるんだ。」というような記述がある。


 エルフ派に対して、次のような質問が出た。

【エルフは死んでしまっているので、伝わらないのではないか。】

 それに対して、エルフ派は反論した。

・エルフは、天国でわかっていると思います。
・エルフは、天国で生きていると思います。
・エルフは、天国でも、聞いてくれていると思います。


 授業時間をオーバーしても、子どもたちの論争は終わる気配がなかったので、教師の方で、打ち切った。
 討論の後、子どもたちの意見は、次のようになった。

 エルフ …19名   未来に飼う動物 … 8名

 最後に、教師の考えを伝えた。
 (この問いには、正解はないことを強調した上で。大人でも、様々な読み取り方がある。)


 この話には、ぼくの台詞が、3回出てくる。


【 1回目 】 「ずうっと、大すきだよ。」
【 2回目 】 「ずうっと、大すきだよ。」
【 3回目 】 「ずうっと、ずっと、大すきだよ。」


【☆発問】『ずうっと、大すきだよ』と『ずうっと、ずっと、大すきだよ』では、どうちがいますか。

 ある子が次のように発言をしました。

「あとの方は、エルフが死んでも、ずっと大好きだということです。」


 ちなみに、英語による原文の絵本『I'll always love you.』では、次のようになっている。

【 1回目 】  "I'll always love you."
【 2回目 】  "I'll always love you."
【 3回目 】  "I'll always love you."

 なんと、3回とも同じセリフである。
 訳者の久山太市さんは、「ずうっと、大すきだよ」から「ずうっと、ずっと、大すきだよ。」へ、意図的に変化させている。
 おそらく、エルフの死を通して、より大きな愛情の在り方に気が付いた主人公「ぼく」の成長を、表現したかったのではないだろうか。


その5



 最後の学習課題として、次の課題を出しました。


【☆発問】ぼくの愛情が、一番伝わってくる文は、どれか。


 「その3」の部分で触れたように、この話は、主人公ぼくによるエルフへの愛情に満ちている。
 たくさんある中で、「あえて一つだけ、選ぶとしたらどれか」ということを問われると、脳の中で思考が始まる。

 問われなければ、考えない。問われるから、考える。

 教師は、楽しそうに問う。
 子どもたちにとって、知的で楽しい作業になる。

 子どもたちは、もう一度丹念に最初から文章を読み返した。
 一つひとつの言葉にこだわりながら。

 以下、子どもたちが選んだ文である。


Fぼくは、とてもしんぱいした。(7名)
Iぼくは、エルフにやわらかいまくらをやって、ねるまえには、かならず、「エルフ、ずうっと、大すきだよ。」っていってやった。(1名)
Mだってまいばんエルフに、「ずうっと大すきだよ。」っていってやっていたからね。(1名)
Nもらっても、エルフはきにしないってわかっていたけど、ぼくはいらないっていった。(4名)
O「ずうっと、ずっと、大すきだよ。」 って。(13名)


 Oが多くなるのは、予想が付いた。
 前の時間に、この台詞について考えているので、ここに愛着をもつ子は、多くなる。
 それならば、改めてその文の魅力を捉え直し、自分の言葉で語ってほしいと考えた。
 また、他の文に目が向いたとしても、学習は深まる。

 この課題に、もちろん正解はない。
 それぞれが、自分の意見に根拠をもち、伝えられれば、OKだ。
 そして、討論の過程で、友だちの意見を聞き、自分の考えを変えたり、深めたりすることに価値がある。

 討論では、いつものように人数が少ないものから意見を発表し、その後、意見交換をした。
 
 意見交換の場で、子どもが行う行為は、4つである。


 @質問 (○○さんに質問です。○○派の人たちに質問です。)
 A応答 (質問に答えます。○○さんの代わりに答えます。) 
 B意見の変容を伝える (意見を変えます。理由は、〜だからです。)
 C賛成意見 (自分が気が付かなかったよい意見を取り上げる。)


 もちろん、上記のことは、この日に全て教えたのではなく、これまで少しずつ少しずつ教えてきたことである。


 この日は、友だちの意見を聞いて、ずいぶん自分の意見を変える子がいた。
 友だちの意見を取り入れ、自分の考えを深めることができるようになってきた子が増えた。

 以下、子どもたちの意見の一部である。

F→ぼくがとても心配しているから、エルフが好きだと思う。
M→まいばん、「すきだ」と言ったことが書いてある。
N→エルフがまだ好きだから、いらないって言っている。
 →どんなに可愛い子犬でもエルフの代わりにならないから。
O→いつもずっと、大好きだよだから。
  死んでしまっても、ずっと大好きだよと言っている。
  死んだって愛してるよっていうのが、伝わってきた。

 討論後は、F7名→2名 I1名→0名 M1名→1名 N4名→18名 O13名→5名というように、変わった。

 最初の段階では、Oが一番多かったが、Nがぐっと増えたのは、
「どんなに可愛い子犬でもエルフの代わりにならない」というの発言がきっかけであった。

 また、M「まいばん」という言葉にこだわった意見も素晴らしかった。
 そのよさも、最後に取り上げて、褒めた。

 「一人では決してできない、仲間と一緒だからできた学習だったね」と子どもたちに伝えた。


戻る