「失礼します。黒崎隊長、水無瀬副隊長はいらっしゃいますでしょうか?」

「何だ?」


隊長、とまだ言われ慣れない呼び方で呼ばれた一護は茶菓子に伸ばしかけた手を引っ込めて椅子から立ち上がった。

扉を開けてみると、そこにいたのは扉に手を伸ばしかけていた裏挺隊の一人で。

どうやら、一護が扉を開けた事に驚いたらしい。

だが、流石は裏挺隊と言うべきか。

すぐに我に返ると『これを』と言って手紙のような物を一護に差し出してきた。

それを受け取り、一瞥した後一護が再び視線をそこへ戻すと。


「これって…てもういねェし」


既に姿のない裏挺隊に少し驚きつつも、一護はその手紙を手にして部屋の中に戻った。

一護用の茶を淹れていた大和が、視線だけで手紙の内容を問う。

裏挺隊が直々に届けるのだからそれなりの重要性がある内容なのだろう。

椅子に腰を下ろして、一護はその手紙を広げ、一番初めに目に入ってきた文章をそのまま読み上げる。


「『THE☆副官交換企画』…?副官?交換?」


『副官』と言って、一護は大和に視線を向ける。

今更であるが、護廷十三隊が一、零番隊隊長黒崎 一護の副官は、この水無瀬 大和である。

この奇妙な企画を鵜呑みにするなら、交換の対象となるのは大和なのだろう。

だが、そんな事をいきなり言われて納得出来る筈もない。

大和が怪訝そうな表情をして近づいてくるのを確認しつつ、一護は更に手紙の内容を読み上げた。


「『この度、一日限定で副官を交換して通常業務を行うという企画を実施する事になりましたので、その旨をお伝えします』…?」

「………」

「『ちなみに、一、四、十二番隊はこれに該当しないものとします』…って何かズルくね?」

「一番隊は護廷十三隊を仕切る隊ですし、四番隊は救護専門、十二番隊は技術開発局でもあります。機能しなくなると色々と問題が生じるのでしょう」

「…そういうモンか?」


納得したような事を言いつつも、大和の眉間にはくっきりと縦じわが刻まれていた。

『あ、不機嫌だ』と思いつつ一護は先程手をつけられなかった茶菓子に手を伸ばした。

はむっと齧り付くと、上品な見た目にあった上品な甘みが口の中に広がる。

『美味い…』と呟きつつ、一護は大和が淹れた茶に手を伸ばす。


「『そして、貴隊の水無瀬 大和副隊長には本日一日十番隊副隊長の任を勤めて頂きます』だってさ」

「十番隊、ですか…」

「ん。冬獅郎のトコだな」


一護が読み上げた手紙の内容に大和が少しだけ眉を顰めた。

『十番隊』というのが、不満らしい。

そういえば、と普段の大和と日番谷の様子を思い出して一護は小さく嘆息した。

はっきり言って、大和と日番谷の普段の空気はお世辞にも『良い』とは言えない。

それどころか、どれだけ遠慮しても『悪い』としか言い様がないという有様で。

きっと、この企画は大和にとっても日番谷にとっても苦痛になるだろう。

ざっと目を通した所、各隊の隊長には本日の副隊長が誰になるのかは知らされないようになっているらしいという事が分かった。

大和が本日の副隊長として現れたら日番谷は相当驚くに違いない。

『その光景を是非見たいな』と思いながらも、それは叶わないのだろうと一護は理解していた。

ゴクンッと口に含んでいた茶菓子の残りを嚥下して、一護は再び湯呑みに手を伸ばす。


「大変だと思うけどやってくれよ、大和。だって総隊長の命令だし、『隊長は副隊長を指示に従わせて下さい』って書いてあるし」

「…分かりました」


その手紙―と言うか密書らしきもの―の差出人は総隊長だったらしく。

当然のように隊長である一護は総隊長には逆らえない。

立場的な問題でもあるが、個人的な関わりもある一護は総隊長である山本に逆らえないのだ。

その両方を理解している大和は、渋々といった感じで頷いた。

そして、普段通りの無表情に戻ったあと、大和は早足で零番隊執務室を後にした。

大和の後姿を見送って『後で十番隊行ってみようかな…』と思いつつ、一護は通常業務に取り掛かった。

要は、ただの書類処理だ。

慣れた仕事をそつなくこなしていく間に、ある程度積まれていた書類は残す所数枚となっていた。

書類を一枚処理し終えて新しい書類に一護が手を伸ばすと、小さなパタパタという足音と共に覚えのある霊圧が徐々に執務室に近付いて来るのが分かった。


「いっちー!」

「やちる?どうしたんだ?」

「今日はね!あたしがいっちーの副官なんだよー!」

「あぁ、そうなのか?」


扉を開けると同時に自分の腕の中に飛びこんできた少女に表情を緩めながら、一護はしっかりと少女を受け止めた。

髪を撫でると、少女―やちるは嬉しそうに『えへへ』と笑った。

基本的に自分より小さい、若しくは幼いモノに弱い一護は飽きる事なくやちるの髪を撫で続ける。

やちるも、一護に構われるのは嫌いではないと言うより、寧ろ好きなのか終始嬉しそうに笑っている。

暫くそうした後、一護はやちるを近くのソファに入れて給湯室へ向かった。

そして、自分が先程食べていた茶菓子を茶を持って執務室へ戻って来て、それらをやちるに出す。

やちるは嬉しそうに茶菓子に飛びついた。


「美味いか?」

「うんっ!」

「そっか。良かった」


茶菓子をパクパクと食べているやちると取り留めのない話をしながら、一護は残り少なかった書類の処理をしていく。

残り少なくなっていた書類は、いつの間にか全てが処理済になっていた。

一仕事を終えた一護はふぅ…と溜め息を吐いて、背凭れに身体を預けた。

すると、それを待っていましたとばかりにやちるが一護に飛びつく。


「どうした、やちる?」

「ね、いっちー!他の所見に行こう!!」

「…他の所?」

「うんっ!」

「いや、でもやちる。多分これから仕事増えるから…」

「大丈夫だよ!他の人がやってくれるから!」


ニコニコと至極楽しそうに笑うやちるの邪魔を悪い気がしてしまって。

小さく苦笑して、一護はやちるに手を引かれるままに零番隊隊舎を後にした。

その日、名も無き零番隊隊員が泣きながら仕事をこなしていたのは言うまでもない。










◆◇あとがき◇◆

前々から友人Yにやって欲しいと言われていた『交換ネタ』です。

本当に、友人Yは私の貧相な脳みそでは思いつかないような面白いネタの宝庫で助かります…v

企画のタイトルが異様にダサいのは私のネーミングセンス故です(滅)

最初は『THE☆副官交換大会』で韻を踏んでるっぽくしたのですが、友人の夜烏初に『大会はないだろ』とツッコミを入れられ、『企画』になりました。

予定としては、三部構成+αになる…と思います、多分(ぇ)