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英国でキツネ狩り禁止法成立

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【2004年12月7日】英下院で11月18日、イングランドとウェールズにおけるキツネ狩り禁止法が成立し、来年2月18日から施行されることになった。長年にわたりブレア政権にとって頭痛のタネとなっていたこの問題は、議会法の適用という強硬手段で一応の「解決」に至り、英国でのキツネ狩りの伝統に終止符が打たれることになった。
 
 キツネ狩りは、馬に乗った複数の人間が、猟犬にキツネを追いかけさせ、かみ殺させるという「スポーツ」。英国での起源には諸説あるが、早くて14世紀までには始まっていたとする説がある。特に18〜19世紀にかけて、貴族など富裕層の娯楽として人気が高まり、現在の王族ではチャールズ皇太子が熱心なキツネ狩りファンである。キツネが猟犬の追っ手から逃れるか、地中の穴に逃げ込むか、犬に殺されるまで狩りは続けられ、死んだキツネの尻尾や頭、足などは「戦利品」として参加者に与えられることもある。英国でもスコットランドでは、2002年2月に、すでにキツネ狩りが禁止されている。
 
 ブレア氏率いる労働党は、1997年の総選挙で、「キツネ狩りを禁止するかどうかについて、議員による自由投票(*)を行う」ことを、公約に掲げた。それ以降、キツネ狩りは、上下両院合わせて計700時間が討議に費やされるほど議論が紛糾し、国民の間でも大論争を巻き起こす大きな問題に発展した。
 (*)所属政党の方針に関わらず、議員が自らの意思で判断して票を投じる投票のこと。
 
▼上院と下院が全面対決
 キツネ狩り禁止を支持したのは、下院の労働党議員のほか、動物愛護団体など、多くが都市や都市近郊に住む人々。動物愛護の観点から、残酷なキツネ狩りは違法にすべきだとする立場である。存続を主張したのは、キツネ狩り愛好家やキツネ狩りが行われる土地の地主のほか、猟犬や馬の飼育人等、キツネ狩りによって発生する仕事で収入を得ている人など。キツネ狩りは地方の人々にとって生活の一部であり、また、羊などを襲う「害獣」であるキツネの生息数抑制にも役立っていると主張、保守党の支持を得ていた。存続派による禁止案への反発は凄まじく、ロンドンで禁止反対デモが開催されると地方から10万人単位で押し寄せ、法案が国会で審議されると国会議事堂前に大挙して集結、機動隊と衝突して流血騒ぎを起こすなどした。

 下院の労働党議員の多くは、キツネ狩り全面禁止を強硬に主張、一歩も譲らなかった。しかし、貴族議員で構成される上院は禁止に絶対反対で、こちらも頑として譲歩せず、結果、2001年以来、下院で禁止案が可決される度に上院が否決、下院に差し戻すという法案のピンポンが繰り返され、永遠に解決をみないかに思われた。11月18日の審議では、上院が1年以内に2会期続けて全く同じ法案を拒否した場合、下院の議決が優先するという「議会法(Parliament Act)」を下院議長が適用、半ば強引な形で法案が成立したのである。
 
▼政府が議会に敗北 
 しかし、地方の票を失うことを恐れる政府はキツネ狩りの全面禁止に反対で、許可制による存続という妥協案を推進していた。政府は前述した1997年および2001年の総選挙で、公約に「自由投票を行う」ことを掲げはしたが、キツネ狩り禁止を公式に政策として据えたことはない。ブレア首相も政権当初は禁止支持の姿勢を見せていたが、次第に態度をあいまいにし、ついには妥協案支持を明確にした。つまり今回のキツネ狩り騒動は、都市対地方、労働党対保守党、下院対上院という対立と同時に、議会対政府という対立も含み、政府は議会に敗北したのである。ブレア首相は禁止法成立の後、「多くの人が妥協案を望んでいたと思う」と、無念をにじませながら語っていた。

▼「階級闘争」と地方の不満
 伝統とはいえ、英国の全人口から見ればキツネ狩りに関わっている人はほんの一握りにすぎない。それがなぜ、これほど大きな論争に発展したのだろうか。

 一つには、キツネ狩り論争は「階級闘争」であるということが言える。主に裕福な中流・上流階級の娯楽であるだけに、特に「オールドレーバー」といわれる古いタイプの労働党左派は、これを「toffs(金持ち、上流階級の人)」の象徴として目の敵にしていた。オールドレーバーの代表格であるプレスコット副首相がかつて労働党大会で述べた、「カントリーサイド・アライアンス(*)と奴らのねじ曲がった顔を見る度に、私は、キツネ狩りの息の根を止めるための努力を倍加する」という発言など、こうした態度をよく表している。
 (*)キツネ狩り存続派の代表的団体
 
 一方、地方の人々は、都市の住民に主眼を置いたブレア政権の政策に不満を持ち、常に「自分たちは無視されている」と感じている。そこに持ってきて、動物愛護などというご大層なお題目のもと、地方特有の「文化」に難癖をつけられたものだから、「地方の生活を何も分かっていない都会モンが、俺たちの生活を壊そうとしている」とムキになってしまったのだ。キツネ狩り存続派が、キツネ狩り禁止に向けた動きを「個人攻撃」のように感じていたというのは、こうした理由からだろう。どちらの立場も、立派な感情論である。

▼労働党議員には「不満のはけ口」
 では、キツネ狩り禁止を必死に叫んでいた労働党議員は皆ただ、キツネに死んでほしくなかっただけなのだろうか。ここ数年言われていたのは、キツネ狩り問題は労働党議員らにとって「欲求不満のはけ口」として機能していたということだ。ブレア政権は97年の誕生以来、「ニュー・レーバー」の標語のもと、さまざまな新しい政策を掲げてきたが、そこには従来の労働党の社会主義的姿勢に反し、保守党の政策かと見紛うようなものもある。例えば英国ではずっと大学授業料が無料だったのが、ブレア政権になってから授業料制度が採用され、今年の1月には、年間3000ポンド(約60万円)にまで引き上げ可能との法案が可決された。また、国民医療保険(NHS)サービスの病院の一部を「基幹病院(foundation hospital)」に指定し、財政面などで自由裁量を与えているが、治療の質で病院間の格差が生まれ、不公平が生じるとして批判されている。こうした本来の労働党らしくない政策に加え、イラク戦への参戦も許してしまったことで不満がたまっていた労働党議員が、動物愛護という誰も反論することのできないスローガンのもと、「正義」を振りかざせるのがキツネ狩り問題だったというわけだ。
 
 政府は政府で、こうした労働党議員らの気持ちを読み取り、キツネ狩り問題を利用することもあった。ブレア首相は1999年7月、テレビの討論番組で、「キツネ狩りは禁止する。できるだけ早く投票を行う」との爆弾発言をしたが、これは、大敗を喫した地方選と欧州議会選を受けて、労働党議員を鼓舞するためだったと言われている。また首相は2002年2月には、国会の質疑応答で、キツネ狩りに関する投票の時期を間もなく発表すると述べたが、これは当時、側近の辞任問題などで叩かれていたバイヤーズ運輸相(当時)を支援してくれた労働党議員に対する、首相からの「見返り」だったと憶測された。
 
▼抵抗やめぬ存続派
 今回の禁止法によってフルタイムの職を失うのは約6000〜8000人、キツネ狩り愛好家が利用するホテルの経営者など、禁止によって仕事に影響が及ぶのは15000〜16000人と見積もられる。しかし、キツネ狩り存続派はおとなしく引き下がるつもりはない。まず、カントリーサイド・アライアンスが議会法の無効を証明するべく、司法審査を求めている。今回適用された議会法は、1911年に成立した法律が1949年に改正されたものだが、その改正自体が1911年の議会法を適用し、上院の合意を得ないで成立したため、無効だと訴えているのだ。しかし、1949年の議会法はこれまでに3回、適用されており、いずれの場合もその有効性は問題にならなかった。もしカントリーサイド・アライアンスの言い分が通ればそれら3回の適用で成立した法律もすべて無効になるわけだが、彼らに勝ち目はないとの見方が一般的だ。カントリーサイド・アライアンスはまた、禁止によって職を失う人に政府から何の補償も支払われないのは人権侵害にあたるとして、欧州人権裁判所に訴えるつもりでもあるらしいが、これも、まず勝算はないと考えられている。
 
 キツネ狩り愛好家やキツネ狩りに関係する仕事に就く人々で、禁止法施行以後もキツネ狩りを存続させると決意している者は多く、刑務所に入ってもよいと言う者もいる。存続派の中には、こうした人々を、潔い「殉教者」にまつりあげる傾向さえあるようだ。また存続派の地主には、自分たちの土地を軍の訓練に貸すのを拒否したり、自らの土地内にある電柱やガス管に技師を近付けないようにするなど、国や社会に対し「嫌がらせ」をしようと画策している者もいる。
 
▼取り締まりは困難
 しかし、こうした存続派の悲壮な決意も、実は無用なのかもしれない。警察は既に、キツネ狩り取り締まりの難しさを認めている。狩猟服を着て馬に乗り、犬を走らせることは違法ではないので、実際にキツネを殺しているところを捕まえなければ逮捕は難しい。しかも禁止となれば人里離れた僻地のような場所で行われることが考えられるので、密告者でもいなければ、キツネ狩りが行われること自体、外には漏れにくい。警察は、馬に乗って違法キツネ狩りを追い掛け回すより、事が行われた後に容疑者を突き止め、召喚することになるだろうと予想している。
 
 紆余曲折の末、やっとのことで成立したキツネ狩り禁止法。しかしまだ、問題は山積しているようである。

Last Update: 2005/01/02
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