Sarah Waters


サラ・ウォーターズ

last updated: 4 July 2016

Biography +++

【生没】 1966.7.21 - (午年生まれ)
【故郷】 ウェールズのPembrokeshire生まれ、ロンドン育ち。
【功績】 2000年the Sunday Times Young Writer of the Year Award受賞。

 

Bibliography +++

#1Tipping the Velvet (1998)
2002年BBCドラマ化。1999年Betty Trask Award受賞、John Llewellyn Rhys Prize候補。
#2Affinity (1999)
『半身』 中村有希(訳) <創元推理文庫・2003>
訳者さんのあとがき

2000年サマセット・モーム賞受賞、John Llewellyn Rhys Prize候補。2003『このミステリーがすごい』海外ミステリー第1位。

@19世紀ヴィクトリア朝のロンドン、実在したミルバンク監獄を舞台に、ひっそりと囁かれる愛の言葉。
三十路で独身のマーガレット嬢は、慕っていた父の死、愛していたヘレンの結婚に心を病み、自殺未遂をおこした。口うるさい母親と勝ち組になった妹に負い目を感じる中、女囚監獄への慰問を始める。暗く殺伐とした監獄で出会った美少女シライナ・ドーズは、静謐をまとい一輪の花をかざしていた。彼女は霊媒師。霊が原因で夫人が亡くなってしまった事件のため、服役中だった。度重なる慰問を通して、惹きつけられていく二人の女性。はたして、シライナの霊能力は本物なのか、偽物なのか。シライナの半身は誰なのか。

「めぐりあえたら、愛する半身とひとつでいるためにどんなことでもする。半身を失うのは、死ぬも同然だから」

翻訳書で読みました ミステリーではなく、女性同士の秘密のロマンス小説といった方がしっくりきます。同情はできませんでしたが、シライナの巧みな言葉にはつい引き込まれました。舞台となった監獄は、もちろん自由などなく、24時間常に監視されている劣悪な環境です。一方、貴婦人であるマーガレットも、母親の監視下におかれ、自由な人生ではありませんでした。麗しかった過去にしがみついているマーガレットは、慰問を通して、自らを女囚に重ね合わせたのではないでしょうか。そんな彼女の心の闇を見抜いたのがシライナでした。本音を理解してくれ、新たな人生への光を示してくれた霊媒師に、マーガレットは虜になってしまいます。2人とも当時の社会の価値観から外れた女性だったのです。鬱々とした思いをシライナへの慕情によって発散させているマーガレットの病気は、完治したように見えましたが、実は狂気にかられていただけでした。
この作品に限っては、「このミス1位」の肩書が邪魔しています。推理小説のような期待を抱いて読むとがっかりします。最後に「そういうことね!」と驚かせる仕掛けはありますが、 次作『茨の城』ほどの衝撃は受けませんでした。ウォーターズ作品の雰囲気が好きな方には、どっぷりとハマって頂けるかと思います。
陰鬱指数 100%  恐怖指数70%   (2012,7)
#3Fingersmith (2002)
『茨の城』 中村有希(訳) <創元推理文庫・2004>
1860年代のロンドン。CWA受賞、ブッカー賞オレンジ賞候補。

fingersmith = すり

19世紀半ば、ヴィクトリア朝のロンドン。17歳の孤児スウは、下町ですりをしながら幸せに暮らしていた。側にはいつも育ての親サクスビー夫人が優しく見守ってくれていた。そこへ<紳士>と呼ばれている詐欺師が一大計画を持ちかける。人里離れたブライア城に叔父とひっそり住んでいる令嬢モードの財産を、奪ってしまおうというものだ。スウは、モードの侍女につくことになり、初めて1人で心細い冒険へ踏み出した。だが、それは恐ろしい真実への第一歩でもあった。

スウが育ったホースマンガー・レイン監獄近くサザークのラント街は、ディケンズゆかりの地

翻訳書で読みました 一大詐欺によって出会ったスウとモードは、互いに惹かれはじめていきます。けれど、着々と計画は進行していくのです。2人の友情を越えた想いがどこまで続くのか、この小説のひとつの見所です。読んでいくうちに、濃厚な濁流の渦にねっとりと巻き込まれていき、何が真実なのか分からなくなってきます。誰が味方なのか、裏切りものなのか。片時も目を離すことができません!
#4The Night Watch (2006)
『夜愁』 中村有希(訳) <創元推理文庫・2007>
2006年ブッカー賞最終候補。2006年オレンジ小説賞最終候補。
第二次世界大戦後のロンドンで、抜け殻のような生活を送るケイ、嫉妬にさいなまれるヘレン、血縁でもない老人の面倒をみる美青年ダンカンたちが、そのような境遇に至った過程が時をさかのぼって述べられていく。戦争を時代背景としているが、同性愛、自殺、不倫、中絶と、より個人的な問題がリアルに描かれる。

翻訳書で読みました 結末(と言っても、年をさかのぼって書かれているため、時間的には始まり)が一番キラキラと光っていました。出会った二人の行く末をわかっていても、なぜか幸せな気持ちになりました。全編をとおして薄暗く重苦しい空気がたちこめているのですが、読後感は澄んだ気持ちになれます。特殊な事情を抱えた人物ばかりで共感を得られるような人はいないのですが、一番好きなのはケイです。揺るぎない信念を持っていて、それを曲げられないがために自分を苦しめているように見受けられますが、最近の草食男子よりもずっと男らしいです。描写があまりにも生々しくリアルな部分があるので、読み飛ばした箇所もありましたが、読む価値のある作品だとは思いました。

#5The Little Stranger (2009)
『エアーズ家の没落』 中村有希(訳) <創元推理文庫・2010>
2009年ブッカー賞最終候補作。
この館は生きている? 一家を滅ぼしたのは、狂気か、館の呪いか。
第二次世界大戦後、イング ランド中部のウォリックシャー地方が舞台。 ファラデー少年は、憧れのハンドレッズ領主館に足を踏み入れ興奮していた。普段は優等生の少年が、こっそりと館の一部を持ち帰るほどに魅了された。それ以降、館とは疎遠な毎日の中、ファラデーは親の期待通りに医師となる。とはいっても、しがない町医者で、村人たちのささいな病を診療するのに日々追われていた。
ハンドレッズ領主館への再訪は突然だった。代理でメイドの診察に行くことになったのだ。30年振りの領主館は、幼いころに見た栄華は見る影もなかったが、端々に残る魅力がファラデーの少年の心をくすぐる。だが、エアーズ家に奉公して間もないメイドのベティは、このお屋敷がおっかないと訴える。そして、館では不自然な出来事が多発するようになり、ジワジワと一家を蝕んでいく。

館を舞台としたミステリー色の作品:『レベッカ』(D.デュ・モーリア

翻訳書で読みました  読み終わってからいくつかの書評に目を通すと、幾種類もの異なった解釈の仕方があることに驚きます。読んでいる間だけでなく、その後で考えを共有する楽しみまで与えてくれる作品です。読んでいる途中、どんな結末へ向かうのかワクワクドキドキしていたのですが、その期待感は満たされず、真相究明は読者に委ねられます。 結末があいまいなものって、モヤモヤして私は好きじゃないのですが、この小説に限っては、はっきりと分からないからこそ、いいのだと思いました。私が感じた真相を念頭におきながらもう一度読み返すと、新しい楽しみ方ができる気がします。 軽く本を読みたい時には手にとらないでください。じっくりと本の世界に入り込みたい時に開くといいです。一単語ずつ、一文ずつ噛みしめて、作品の雰囲気を堪能してみてはいかがでしょうか。 上下巻で2000円と、文庫本としてはやや高額にはなりますが、読みごたえはあります。「サラ・ウォーターズ」ブランドがお好きであれば、ぜひどうぞ。

 

***以下、結末に関する私見を書いています。未読の方はご注意ください***

私は、犯人、というか一連の事件の原因は、ファラデーの生霊ではないかと思っています。ファラデーはコンプレックスの塊です。そして、執拗なハンドレッズ領主館への情愛は、エアーズ一家の人々のそれを、はるかに凌ぐほどです。彼の執念が生霊という形で、一家を苦しめたのではないでしょうか。物語の中盤、キャロラインが生霊説をファラデーに話す場面がありますし、最後の文章も、この考え方で読むとしっくりきます。そうなると「The Little Stranger」は、没落前のハンドレッズ領主館にこっそりと入ったファラデー少年ということになりますね。すべては、少年が館を訪れた時から始まっていたのかもしれません。それにしても、館で起こる怪奇現象を、全てストレスによる幻覚だと断言していたファラデー自身の生霊が真相だとしたら、なんとも皮肉な話です。(2012.4)

読み応えのある書評です。よろしければどうぞ
SPQR[英国メイドとヴィクトリア朝研究]
#6The Paying Guests (2014)
『黄昏の彼女たち』 中村有希(訳) <創元推理文庫・2016>