Mic-Pre Technical Study & Information マイク・プリ技術情報
真空管式マイク・プリの回路方式あれこれ(工事中)

入力回路と初段 <入力トランス方式>

真空管回路の最大の弱点は「ノイズが多い」という問題である。アンプの雑音性能はもっぱら初段に使うデバイスの雑音性能と回路設計でほぼ決まってしまうが、入力換算雑音指数では真空管はせいぜい-115dBVがいいところなので、最小で-60dBVくらいの信号を扱った場合のS/N比は55dBが限界ということになってしまう。従って、初段に真空管を使おうとした場合は、そのままマイク入力を初段管のグリッドに入力させるのは賢明とはいえない。すくなくとも製品としての性能保証ができなくなってしまう。もう一つの問題は、マイク入力は「平衡」接続であるのに対して、普通に設計した真空管増幅回路の入力は「不平衡」回路であり、そのままじかにマイク入力を接続できないということでもある。

この2つの問題を解決するために、真空管式マイク・プリの入力回路には、1:3あるいは1:10程度の昇圧比(=巻き線比)を持ったトランスを使うのが一般的でであった(過去形)。1:3の昇圧比を持ったトランスを使えば、入力換算雑音指数を約10dB稼ぐことができ、1:10であれであれば20dBを稼げる。ちなみに、経験的にいえば、600Ω:10kΩ(インピーダンス比1:16.7、巻き線比1:4.08)の入力トランスを使って信号電圧を稼いだ場合、アンプ部初段を真空管で受けたとしても十分に低雑音な真空管式マイク・プリに仕上げることが可能である。加えて、トランスは「平衡→不平衡」変換デバイスとしてのほぼ理想的な機能を持っているから、トランスを使った場合のCMRR(同相除去比)はゆうに70dBを越える。

しかし一方で、トランスの周波数特性は魔物である。1次側(マイクロフォン側)である信号源インピーダンスと、2次側の負荷インピーダンスとの組み合わせで周波数特性はのたうつように変化する。古典的なマイクプリでは、2次側の負荷はオープン(つまり無負荷)であるものも多く、数十kHzあたりに富士山のようなピークがあったりする。

もっと厄介なのはライン出力側にトランスが使われている場合。いまどきのミキシング・コンソールのライン入力インピーダンスは600Ωではなくて10kΩくらいとかなり高いものが多い。600Ω負荷を想定して設計チューニングされたマイクプリのライン出力に10kΩなんていう高い負荷インピーダンスを与えてしまうと、ライントランスの周波数特性はたいがい大暴れである。ロー出し、ハイ受けだからいいじゃないか、という論理はトランスでは通用しない。真空管式、しかも入出力にトランスを使っている高級ビンテージ品、なんて喜んでいる場合ではない。

<電子平衡方式>

マイク入力にトランスを使わない方法を電子平衡と呼ぶ。一般的には、半導体(主にFET)を使った差動回路である。FETの雑音性能は真空管のそれをはるかに上回るので、トランスによる昇圧の世話にならなくても容易に-125dBV以上の低雑音性能が得られる。また、差動回路はそもそも平衡入力回路であるために、トランスなしで平衡接続されたマイク出力に直結させることが可能になる。

但し、現実のマイク入力回路にはファンタム電源を内蔵させなければならないので、マイクロフォンと初段FET入力とを直結するわけにはゆかず、必ずコンデンサでDCを遮断しなければならない。ちなみに、ファンタム電源からの+48V以上の耐圧・・・現実的には100V耐圧・・・のコンデンサである必要がある。従って、トランスを使わない電子平衡方式を採用するとなると、初段は半導体(FET)を使い、2段目以降に真空管を使うという構成にならざるを得ない。実際、真空管式を謳ったマイクプリの多くは半導体と真空管が混在するハイブリッド型である。

初段に真空管を使った電子平衡方式は、技術的には可能だが雑音性能を考えると、最大利得はせいぜい50dBどまりがいいところで、60dBの利得を得たときの雑音性能の実用性は少々疑問が残る。ちなみに、真空管が発するノイズの種類であるが、半導体特有の「シー」というタイプではなく、「ゾー」とか「ゴー」という低域にエネルギーが偏ったスペクトラムを持っている。

真空管式を謳ったマイクプリの中には、増幅回路は事実上OPアンプ入力で済ませておいて、終段あたりのどこかに1箇所だけ真空管を使ったようなものもある。この手のアンプほどこれみよがしに前面パネルから真空管が見えるようにデザインされていたりしてけなげでカワイイのだが、こんな程度のやり方でユーザーを騙してはいけないなあ、と思う。真空管が高調波歪み(要するに2次、3次、あるいはそれ以上の倍音のこと)を多く発生させることを吹聴した機材も見受けるが、高調波歪みは真空管の専売特許ではない(トランジスタの方がはるかに上手だ)ので、これもどうなんだろうかと思う。

電子平衡式の伝送方式はスタジオやPA機材ではあたりまえであるが、トランス式に比べて透明感や素直さはあるものの、いまひとつ個性に欠ける、押しが足りない、などと言われる。これと同じことは一般のコンシューマー・オーディオでも言われているが、何故そうなのかはいまだに誰も合理的な説明ができないでいる。

工事中

難題中の難題・・・600Ω平衡出力 マイク・プリを真空管式で構成した場合、マイクロフォンからのオーディオ信号を40dBとか50dB程度増幅するだけならばそんなに難しいことではない。しかし、真空管を使った回路で、最低で600Ω負荷まで想定した平衡ライン出力を得るのは至難といっていいと思う。何故かというと、真空管でそのまま回路を組むと、最適負荷インピーダンスは100kΩかそれ以上になるのが普通で、600Ω負荷なんてとんでもないからだ(バイポーラ・トランジスタなら600Ωでも100Ωでも自在なのにね)。しかも、伝送形態は不平衡になるのが普通である。

この問題を解決する方法は2つほどある。1つめは、ライン出力だけは真空管にこだわらないで手軽で出力インピーダンスは低いOPアンプを使ってしまうというもの。事実、現在、真空管式と称して製造されているマイク・プリはほとんど例外なくこのOPアンプを使っている。2つめは、ライン出力トランスを使う方法だ。1次側インピーダンスは真空管回路に合わせて20kΩくらいでかなり高く、2次側インピーダンスは600Ωかそれ以下のライン出力トランスなるものを使う。

但し、ライン出力回路にトランスを使ってまっとうな性能を引き出すには、相当な技術力と少しの運がいる。ここでは詳しく触れないがちょっと説明しておくと、一定以上の性能を得るにはライン出力トランスを含んだ負帰還をかける必要があるが、出力側が平衡接続にしなければならないため、2次巻き線と前段とを負帰還でつなぐことができないからだ。仕方なく、別個に負帰還用巻き線を持った特殊なライン出力トランスが必要になってしまう。しかも、厳密にいうと、別巻き線からかけた負帰還の効果はその別巻き線にしか及ばないから、何のための負帰還なんだかわからなくなってしまう。

・・・ <工事予定地>

Back to Menu