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しぃがクリスマスのおんがえしをするようです

(^ω^)
 クリスマスのその日、太陽が沈み、外がすっかり暗くなると、街は華やかなネオンに彩られた。
わたしはクリスマスディナーを作りながら、彼氏であるギコと一緒に家で、妹のしぃが来るのを待っていた。
「ツンおねぇちゃん。クリスマスに今までのおんがえしをしたいの」
しぃがそう言って、今日のパーティーを企画してくれた。
「彼氏のギコさんも一緒にいてね。すぐに済むから大丈夫だよ」
しぃはそう言って、付き合い始めたばかりのわたし達を気遣ってくれた。
すぐに済む、だなんて。わたしはかわいい妹のためならば今日はギコとふたりっきりになれなくても構わないと思っていた。
 しぃとわたしは歳が三つ離れている。
三歳差というのは、不便な事と便利な事がある。
 不便な事は同じ学校に入学しても一緒に通えないという事。
小学校は六年あるので一緒に通った期間があったが、中学はしぃが入学して来た年に、わたしは卒業してしまい、同じ学校に通う事は無かった。
そして、その三年後。しぃはわたしと同じ高校に入学したが、やはりわたしは卒業してしまい、これまた一緒に通う事は出来なかった。
でも、もし来年、しぃがわたしと同じ大学に入学したら、今度は一年間だけ、一緒に通う事が出来る。
わたしはしぃが同じ大学に入学しないかと、ちょっと楽しみにしていた。
 そして、このしぃの入学と同時にわたしが卒業するのには便利な面もあった。
わたしとしぃは文字通り同じ制服を着る事が出来るのだ。
わたしが袖を通した制服にしぃも袖を通す。
この事がわたしは嬉しかった。何だか、わたし達姉妹は二人で一人、みたいな気持ちになれた。
そして、母やみんなにもその事を伝え、他にも多くの物をわたし達は共用してきた。
でも、中学を卒業する頃から、しぃはドジ属性になってしまい、うっかりと物を壊す事が多くなった。
「おねぇちゃん、ごめんなさい」
わたしが使っていて、しぃに引き継がれた物を壊してしまった時、そう言って、しぃは泣きそうな顔で謝ってきた。
そんなしぃにわたしは「いいよ。気にしないで」と言って頭を撫でてあげた。

(^ω^)
「妹さん迎えに行ってくるぞ、ゴルァ!」
ギコがそう言って、玄関から出て行った。
ギコと付き合うようになって三ヶ月。
言葉使いが荒くて、最初は怖い人かと思っていたがそんな事は無く、それどころか、いつでも人の気持ちを第一に考える優しい人だった。
ギコはわたしにとって二人目の彼氏だ。
一人目の、わたしの人生で初めてのお付き合いをした人は、最後にわたしがその人では無く、しぃを選び、別れてしまった。
あれはわたしが高校を卒業した時だった。
わたしはひとつ下の学年の男子に告白をされた。
その人の事をわたしは好きだったのだが、同じようにしぃもその人の事を好きだと知っていた。
告白に、わたしは嬉しかった反面、しぃの事を考えてしまい返事をためらっていた。
しかし、その男子の熱意に押され、しぃがその人を好きだと知りつつも付き合う事になってしまった。
しかし、付き合っていてもどうしても心の中がすっきりとせずに、結局、三ヵ月後に別れてしまった。
「あんた、わたし何かじゃなくて、学校も同じなんだし、しぃと付き合いなさいよ!」
わたしがそう言ったせいでは無いと思うが、それから、その人としぃは一緒にいる事が多くなり、いつしか二人は付き合うことになった。
「よかったじゃない。彼はしぃがお似合いよ。わたしにはちょっと物足りなかったわ」
わたしはしぃが好きな人と付き合うことが出来て嬉しかったが、その一方で自分も好きだった感情が絡み合い、そんな事を言って強がった。
でも嬉しかったことも本当で、わたしは精一杯二人を応援しようと思ったが、残念ながら二人はすぐに別れてしまった。
「おねぇちゃん、わたしあの人が好きだったのに……」
そう言って、泣くしぃを、わたしは「うん。しぃが悪いんじゃないよ、あの男が身勝手なんだよ」と言って慰めた。
でもしぃは「ううん。彼が悪いんじゃないよ」と言って泣き続けた。
わたしはしぃが泣き止むまでずっと彼女の頭を撫でつづけた。

(^ω^)
 ギコがしぃを迎えに出てから、二十分後、新速駅で待っているギコから電話があった。
「しぃちゃん来ないぞ! どうなってんだ、ゴルァ!」
おかしい、この時間ならもうとっくに駅に着いてるはずなのに。
わたしはしぃの携帯に電話をしてみた。が、コール音だけがいつまでも続き、しぃは電話に出なかった。
どこかで電車が遅れているのだろうか? そう思い、わたしはテレビを点けた。
しかし、テレビで放送しているのはクリスマス番組ばかりで、電車が遅れているというニュースはどこでもやっていなかった。
わたしはギコに電話して、もう少し待ってもらう事にした。
「しょーがねーなー」
そう言いつつも、ギコは寒い中待っていてくれる事になった。
わたしはしぃとギコが風邪をひかないか心配だった。
 そういえば、しぃが小さい頃にひどい風邪をひいて寝込んだ事があった。
わたしは感染るといけないからと、しぃに会う事を許されなかった。
それでも、しぃの部屋から苦しそうな咳が聞こえると、わたしはいてもたってもいられなくなり、夜中にこっそりと起き出して、わたしの一番古いお気に入りだったクマのぬいぐるみを持ってしぃの部屋に忍び込んだ。
「この子が一緒にいれば寂しくないよ」
そう言って、しぃの布団にぬいぐるみを入れてあげた。
でも、急に照れくさくなり、しぃに「ふ、古くていらないからあげるだけなんだからね!」と言って部屋を出た。
思えばいつも、照れ隠しにそんな事を言っていた気がする。
そして翌日、しぃの部屋にいたぬいぐるみと、わたしの咳で、しぃの部屋に行った事がばれてしまい、わたしは怒られ、そしてその夜には風邪で寝込む事になってしまった。

(^ω^)
 突然、テレビからチャイムの音が流れた。
音につられて画面を見るとニュース速報が流れていた。
《新速駅で傷害事件発生。殺人事件の可能性あり》
新速駅はしぃが到着する駅で、今はギコが待っているはずだ。
わたしは慌ててチャンネルを変え、事件を詳細にやっているチャンネルを探した。
チャンネルを二つ変えた所で、ローカルニュースがその詳細をやっていた。
『新速駅近くの公園裏で、大量の血痕が発見されました』
アナウンサーが淡々と事件を伝える。
『警察の発表によると、この血は人間の物で血液型はA型、まだ新しく、量からするといずれ致死量に達するものと思われます』
しぃもギコもA型だ。
わたしは心配になり、しぃとギコに電話をした。
『現在、警察でこの血痕の行方を追っており……』
アナウンサーは話し続け、電話はいつまで経っても呼び出し音のままで、二人とも出てくれなかった。
わたしは電話を切り、ベランダに出て、二人が道を歩いて来ないか探した。
だが、そこには暗い道が伸びているだけで、誰も歩いていない。
時折、パトカーのサイレンが何処からか聞こえるだけだった。

(^ω^)
 その時、玄関から鍵を開ける音が聞こえた。
わたしが料理中で手が離せない場合に、とギコには鍵を持って行ってもらっていた。
「ギコなの!?」
わたしがそう言いながら玄関へ向かうと、蒼い顔をしたギコが入って来て、そのままバスルームに駆け込んだ。
「ねぇ、どうしたの? しぃは?」
そう言いながら、わたしはバスルームのドアを開けた。
目の前にいるギコのシャツが赤く染まっていた。
「みっ、見るんじゃねーよ、ゴルァ!」
ギコが叫び、わたしを突き飛ばしてドアを閉めると、内側から鍵をかけた。
「ギコ!? 何よそれ、どうしたの!?」
わたしの叫び声にもギコは何も答えなかった。
それでも、聞く事を止める訳にはいかない。わたしはバスルームのドアを叩き続けた。
「ねぇ、どういう事!? 何があったの?」
「何でもねぇよ!」
ギコが叫び返す。
「何でも無い訳無いでしょ!? どうして? それ、血でしょ!? 何でそんなに血だらけなのよ!?」
ギコは何も言わない。
そうだ、――しぃ。
ギコはしぃを迎えに行ったんだ。じゃあ、しぃはどうしたんだろう?
「ねぇ、ギコ! 答えてよ! しぃは? しぃはどうしたの!?」
わたしの問いにギコは絶叫に近い叫び声を上げた。
「ちょっと落ち着かせてくれよ!!! 何を言えばいいのかオレにも分からないんだよ!!! 考えたいんだよ!!!」

(^ω^)
 それから、長い沈黙が流れた。
ギコが出したらしく、バスルームからはシャワーの音だけが聞こえた。
『事件に進展がありました』
点けっ放しだったテレビからアナウンサーが再び事件を伝えた。
『被害者の物と思われる、女性もののアクセサリーが現場から見つかりました。アクセサリーはブレスレットで犯人ともみ合った際にちぎれたと思われます』
わたしはのろのろとテレビを振り返る。
『発表によると、アクセサリーはシルバー製で、一箇所、《T》と刻印された個所がある、との事です。このアクセサリーに憶えのある方は、お近くの警察または――』
そこまで聞いて、わたしは息が止まった。
その被害者のアクセサリーは、わたしがしぃにあげた物だ。
《T》の刻印はわたしの名前。
わたしがもらったそのブレスレットを、高校の入学祝いにしぃにあげたのだ。
――被害者のブレスレットがしぃのブレスレット。
被害者のブレスレットはしぃのブレスレットだった。
それは、どういう事?
被害者がしぃって事?
でも、しぃはまだ駅に来て無くて、ギコが迎えに行った。
でも、そのギコはしぃに会わずに帰って来た。
ギコは血まみれで帰って来た。
ギコの血は誰の血なの?
わたしは再びバスルームのドアを叩いた。
「ねぇ、ギコ! ギコ! その血は誰の血なの!? ねぇ!」
ギコの応答は無く、わたしはドアを叩き続けた。
しばらくすると、ギコが何かを言った。
わたしはドアを叩くのを止めて、もう一度聞いた。
「ギコ、答えて……」
ギコが呟くように言った。
「しぃ……」

(^ω^)
 その時、静寂を破るようにドアの呼び鈴が鳴った。
わたしはその音に驚き、思わず体を硬直させた。
そして、バスルームの横を通って、ゆっくりと玄関に行くと、ドア越しに聞いた。
「誰なの?」
ドアの向こうから声が返って来る。
「わたしだよ。おねぇちゃん」
それはしぃの声だった。

(^ω^)
 わたしは慌ててドアを開けた。
そこにはしぃが立っていた。間違いなくしぃだった。
大きな瞳に、少し紅潮したような頬、かわいく笑う唇。
長い黒髪に映える、クリスマスの雰囲気満点の赤いワンピースを着て、しぃがそこに立っていた。
「無事だったのね!?」
わたしはしぃにそう言うと、泣きながら抱きついた。
そして、家に招き入れる。
「あれ? ギコさん、帰って来てるの?」
しぃが玄関に脱ぎ捨てられたギコの靴を見て言った。
わたしは一緒に靴を見ながらしぃに言う。
「そうよ。でもギコ、何でか血まみれなの……」
振り返ったわたしに、しぃが無表情に聞いてくる。
「そう。それでギコさんは何て?」
何だか、その表情を見て不安になった、これは本当にわたしの妹のしぃなんだろうか?
それでも、わたしは返事をした。
「何も言わないの」
わたしの答えを聞くと、しぃはにっこり笑った。
そのかわいらしい笑顔を見て、わたしは安心した。
ああ、これはやっぱりしぃだ。
そして、しぃがその笑顔のまま言った。
「そう。彼も混乱してたんだね。そうだよね、いきなり刺されたら誰だって混乱するよね」

(^ω^)
 直後、真横のバスルームからガタン、と大きな音がした。
そして、ドアをひっかく音がガリガリと聞こえ始めた。
その不気味な音の中、わたしは立ち尽くし、しぃは笑顔でわたしを見つめていた。
やがて、鍵の開く音がし、ガリガリというその音が止まった。
わたしは恐る恐る、バスルームのドアノブに手を伸ばす。
そして、その時に自分の手が真っ赤に濡れているのに気が付いた。
――何これは!? 何なの!?
恐怖に手が震え、わたしは自分の震える手を見つめた。
そして、目線を下ろすと、自分の服の前面も同じように真っ赤に染まっていた。
そして、再び自分の紅く染まった手を見て、わたしはそのまま動く事が出来なくなった。
すると、バスルームの扉がゆっくりと開いた。
わたしは恐怖で震えながら、ゆっくりと視線を自分の手からバスルームに移す。
出しっ放しになっていたシャワーから発生した湯気でバスルームは真っ白で、その湯気がドアから外に溢れていた。
そして、そこには、腹部から血を流し、口からも吐血し、目を開けたまま動かなくなったギコが狭い床に折れ曲がるように倒れていた。
「嫌ああぁぁぁっ!」
わたしは叫んだ。
背後からガチャリと金属音がした。
振り返ると、しぃがわたしに背中を向けて玄関の鍵を閉めていた。
後ろから見ると、しぃのワンピースは白だった。
そして、笑顔のしぃが振り返る。
そのワンピースはやはり紅い。しかし、よくみれば、白かったワンピースが血で紅く染められている事がわかった。
「おねぇちゃん、わたしね。ずーっと嫌だったんだ」
そう言うしぃの手にはナイフが握られていた。

(^ω^)
 ナイフを持った笑顔のしぃが話しを続ける。
「わたし、ずーっと嫌だったんだ。おねぇちゃんのお下がり」
言いながらしぃが一歩、近づいて来る。
「おねぇちゃんは自分ばかり新しい物。そしてわたしには『二人で一人だね』とか言って古い物ばかりを渡す」
更に一歩しぃが近づき、わたしは一歩下がる。
「ぬいぐるみや何かのおもちゃはまだマシ」
しぃはそんな話をしながらも笑顔を崩さない。
「でも、制服は哀しかったなぁ。やっぱり新品を着たいじゃない」
「でも、あなたも喜んで……」
わたしがそう言うとしぃが少しだけ哀しそうな顔になった。
「喜んでなんか無いよ。ひどいなぁ。おねぇちゃん、何でもわたしには、いらないからあげる、とか言って押し付けて」
しぃの黒く大きい瞳がわたしを捉えて離さない。
「そのくせ、お母さんや他の人には『二人で一人だから』って。そんなだから、お母さんにもわたしの気持ちは分かって貰えなかったよ。ずーっと」
しぃがまた一歩近づいてきた。
「中でも一番哀しかったのは、好きな人までお古にされちゃった時だなぁ」
しぃが遠い目で言った。
「おねぇちゃんたら、わたしの好きな人とちょっとだけ付き合って、わざわざお古にしてからわたしに渡すんだもん。結局、彼はおねぇちゃんの事を引きずったままで、わたしたちはうまくいかなかったよ」
こちらに近づいて来たしぃは横にあるバスルームをちらりと見た。
「次はこの人? わたしに渡すのは。でも、この人、わたしの好みじゃなかったのよね」
ギコを見たままでしぃが続ける。
「そう。わたしの好みとは関係なく、いつでもわたしにはおねぇちゃんのお古が廻って来たよね」
そしてわたしに向き直ると嬉しそうに微笑んで言った。
「でもね、わたし途中で気付いたんだぁ。おねぇちゃんのお古が廻って来ないようにする方法」
そして、にっこりと笑い言葉を続けた。
「気付いたんだよ。先に壊しちゃえばいいんだってね」

(^ω^)
 しぃのまばゆいばかりの笑顔とその横に血まみれで死んでいるギコ、そのギャップにわたしはこれが現実とはとても思えなかった。
「だから? だからなの?」
わたしの問いにしぃが答える。
「ギコさんの事? うん、そうだよ」
しぃが手に持ったナイフと横に倒れるギコの死体を交互に見た。
「これで壊しちゃったから、もうわたしに廻ってこないでしょ」
わたしは恐怖で震え、体中の体温が急速に無くなっていくのを感じた。
「これからも――、これからもそんな事を続けようっていうの?」
何を話せばいいのか、何を聞いたらいいのか分からずに、わたしはしぃにそんな事を聞く。
しぃは「うん、それがね」と言い、両手を広げて楽しそうに答えた。
「さっき、もっと良い事を思い付いたの! これで、いちいちおねぇちゃんのお古を壊して廻らなくて済むんだよ!」
しぃは本当に嬉しそうだった。
長年の夢が叶った。そんな笑顔だった。

(^ω^)
「おねぇちゃん」
しぃがわたしに言った。
「おねぇちゃんがいなくなればいいんだよ」
しぃがわたしに近づく。
「おねぇちゃんがいなくなれば、わたしには廻ってくるお古がなくなるよ?」
わたしは一歩退き、後ろに壁がぶつかった。横に飾ってあったクリスマスツリーが倒れた。
「そうでしょ、おねぇちゃん?」
倒れたツリーの飾りをパキリと踏みながらまた一歩、しぃが近づく。
「わたし、ずっと我慢してきたし、もういいよね?」
わたしはもうこれ以上逃げる事が出来ない。
「ううん。我慢なんてもんじゃない。ずっと怨んでたんだよ」
しぃがまた一歩わたしに近づく。わたしの目の前にあの美しい笑顔があった。
「今日はクリスマスだよ、お姉ちゃん」
しぃがナイフを頭上にかかげる。
ナイフの刃に、倒されながらも点滅を続けるツリーのイルミネーションが反射し、瞬いていた。
そして、しぃはそのナイフをわたしに向かって振り下ろしながら言った。
「メリークリスマス。今までの怨がえしだよ――」


2006.12.26掲載


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