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ジョルジュは理想のおっぱいを見つけたようです

(^ω^)
腕を振り上げ――。
「おっ」
振り下ろす。
「ぱい!」
振り上げ――。
「おっ」
振り下ろす。
「ぱい!」
俺は腕を振りながら連呼していた。
「おっぱい! おっぱい!」と。

 俺はおっぱいが好きだ。
だがそれは決してスケベ心からでは無い。
おっぱいは芸術だ。観て良し、想像して良し、触って良し。……まぁ、触った事は無いけど。
普段は神様の存在を信じてる訳では無いし、感謝するような事も無い。
しかし、ことこの事に関しては神の存在を信じてもいいかもしれない。
女の子の胸にこの膨らみを付けたそのセンス。神様、あなたは実に素晴らしい。
そうだ。もしかしたら俺は腕を振る事で神に感謝の念を表していたのかもしれない。
神に感謝する一人の男。俺の名前はジョルジュ長岡。
人は俺をジョジョと呼ぶ。――いや、さすがにそれは嘘だけど。

 さて、では何故俺はこうして腕を振っているのか。
――事の発端は数日前の文化祭だ。
その日、俺は理想の人を見つけた。
だが残念な事にその人の名前は分からない。それどころかその人の顔さえ覚えていない。
いや、もしかしたら見てさえいないのかもしれない。
しかし、俺の視界に写る彼女はまさに理想だった。
俺の視界に入っていた彼女のパーツはといえば、それは胸だった。
つまりは、俺は彼女の胸しか見ていなかった訳だ。
そして、平たく言えば俺は理想のおっぱいを見つけたという訳だ。
その時、あまりの感動に俺はひたすらに彼女を、彼女の胸を見つめ続けていた。
そして、彼女が教室を出てから数分後。俺は自分が声をかけるべきだった事を悟った。
慌てて彼女の姿を求めて教室から飛び出したが、彼女は既に人ごみの中に消えていた。
それから数日間。俺はその理想のおっぱいを捜して学校中を探し回った。
だが、いくら探してもそのおっぱいは見つからない。
そして今日、俺は冷静にあの時の事を思い出し、ある事に気が付いた。
それは制服だった。
俺の理想のおっぱいを包む制服、あの制服はうちの学校のものでは無かったのだ。
そして俺は今、目の前の立つ高岡にその事を説明し、そしてあのおっぱいの素晴らしさを力説し、その勢いで掛け声をかけながら手を振っていた訳だ。

(^ω^)
「……馬鹿だな。相変わらず」
俺の力説を意にも介さず、高岡が腕を振る俺に呆れたように言う。
こいつの前でこうして腕をふるのは何度目だろう? それでもこいつは律儀に毎回突っ込んでくる。
「――で? そのおっぱいはどれ位大きいんだ?」
高岡がふとそう聞いて来る。
「……相変わらず、お前は大事な事が分かっていないな」
短い沈黙を挟み、俺は高岡にそう言った。
「大事な事?」
高岡がそう聞き返し、俺は高岡の目を見て真剣に告げる。
「おっぱいはな、大きければいいというものでは無いんだ」
「へぇ、そうか」
高岡は何でも無いように言い返す。やっぱりこいつは分かっていない。
俺は高岡を説得する事を諦め、高岡に言う。
「――それよりも」
「何だ?」
聞き返す高岡から少し目を逸らし、俺は言った。
「常々言うようだが、女の子がおっぱいとか堂々と言うな」
自分で言うのはいいが、何故か女子が言っているのを聞くとひどく照れてしまう。
それを聞いた高岡が途端に笑い出した。
「あっはっは、わたしを女の子と認めるのか」
「うぐぐ…」
目の前でからからと笑うこいつの名前はハインリッヒ高岡。
俺はこいつを女だと認めた事は無い。
だが、一緒にいるのは悪く無い。
というか、もうそれが自然過ぎるくらい古い付き合いなのだ。
そして、その長い付き合いの間、俺は何かとこいつにしてやられっぱなしだ。
いつもこっちが主導権を握っているようで結局はこいつの良いようにされている気がする。
「とっ、とにかく!」
俺は何とかこいつを言い負かそうと言葉を並べ立てる。
「そんな考えを持っているようでは、お前はおっぱいを付けている資格が無い。だからお前についているおっぱいはおっぱいとして認められん」
「何だか酷い言われようだな」
まるで気にしていないようにそう言うと高岡は俺を見て言う。
「まぁでも確かに、わたしだけじゃなくお前に付いているべきだったのかもな」
そして両手を上げて肩をすくめ、言う。
「わたしはお前がかわいそうでならないよ」
「なっ――、なんで!?」
何だか突然、哀れまれてしまい俺は混乱する。
「分からないか?」
「わっ、分かんねーよ」
「――鈍い奴だな」
高岡はそう言うと、俺を上目使いで見上げ、続けて言った。
「だってお前、おっぱいに触るどころか、生で見た事も無いだろう? 自分についていれば、見放題の触り放題だったのにな」
そしてにやりと笑い、言う。
「情熱だけではどうにもならない事もあるよなぁ」
「う――、うぐぐ」
俺は言い返す言葉も無く、ただ、からからと笑う高岡を見ていた。

(^ω^)
「――で? 私に何をしろと?」
ひとしきり笑った後、高岡が聞いて来る。
俺は高岡の肩をぽんと叩き、答えた。
「見つけ出してくれ」
「はぁ?」
高岡が素っ頓狂な声を上げた。
「――何でわたしがそんな事を? っていうか何でわたしに言うんだ?」
俺は正直にその訳を話した。
「文化祭のあの日、お前と話していた気がする」
「気がするってお前……」
高岡が呆れたような顔で俺を見つめ沈黙する。
「思い出せ無いか?」
何としても思い出してもらわないといけない。俺は高岡に助言をしてみた。
「おっぱいの特徴はだな――」
「いい」
高岡が俺の言葉を遮った。
「お前の話は参考にならん。まったく……」
そして、呆れ顔だった高岡は腕を組むと真剣に記憶を辿り始めたようだった。
「あ――」
しばらく後、高岡の口から声が漏れた。
「思い出したか!」
声を上げる俺に高岡が向き直る。
「たぶん、しぃの友達だ」
「そうか! でかした!」
お礼を言いながら思わず高岡の手を握る。
すると高岡は顔を赤らめ、にまにまと笑いながら言った。
「明日まで待て、放課後にしぃに詳しい事を聞いておいてやるよ」

(^ω^)
 翌日、隣りの自分の教室から俺の教室にやって来た高岡は俺の鼻先に携帯を突きつけてきた。
「この娘か?」
どうやら眼前三センチにある携帯の画面に彼女の写真が写っているらしい。
「どれどれ」
俺は携帯を取り上げ、その画面に写った写真をしばらく見つめた後、答えた。
「――わからん」
「……はぁ」
それを聞いた高岡が溜め息をつき、そして、呆れたように呟く。
「分からんって何だよ。せっかくしぃに写真の転送までしてもらったのに」
確かにそこに写っていたのはとてもかわいい女子だった。
でも、それが先日の彼女かは確信が持てなかった。
「もっと全身がわかる写真は無いのか?」
俺の質問に高岡はもう一度溜め息をついて、携帯を操作する。
「全身? お前は上半身があればいいんだろう」
そして、「ほら」と高岡は俺に再び画面を突きつけた。
俺は視界に入った画面を一瞬で確認し、即座に返事をした。
「間違い無い――。彼女だ」
突き出された画面、そこには俺の探し求めていた理想のバストが写っていた。
「……やっぱり、胸しか見て無かったか」
高岡は三度目の溜め息を付くと、携帯の画面をぱたんと閉じた。

(^ω^)
「さて――、次だ」
携帯をしまう高岡に俺は言う。
「何だ?」
そう聞き返した直後、高岡は俺に喋らせまいと手で遮った。
「――いや、ちょっと待て。何も言うな」
「どうしてだ?」
驚く俺に高岡が続けて言う。
「次の言葉が分かるからだ」
「――分かるもんか」
ちょっとだけ、むっとして言い返す俺に高岡は更に言い返す。
「分かるよ。――どうせ、紹介してくれとか言うんだろ?」
「何故分かった!?」
更に驚く俺に高岡は平然と言い放つ。
「長い付き合いだ。お前の考えている事は分かるよ」
「分かるもんか」
もう一度言い返す俺に高岡がさらりと言う。
「現にこうして当てただろう」
「うぐぐ」
もう言い返す事の出来無い俺。
そんな俺に高岡はにやりと笑うと言った。
「それに、ある意味、お前以上に分かっているぞ」
「どういう事だ?」
「そうだな。例えば――」
「例えば?」
聞き返す俺に高岡はきっぱりと言った。
「お前にはわたしが必要だ」
少しの沈黙を挟み、俺は言い返す。
「……そんな事ある訳無いだろう」
「お前が気付いていないだけだ」
即座にそう言い返す高岡。そして続けて言う。
「今もこうしてわたしがいたからお前の理想を探し出せた訳だろう? それに――」
「それに?」
俺は聞き返す。
「――きっと、わたしがいなくなったらお前、悲しいぞー、寂しいぞー」
そう言って笑う高岡。
俺は手を振って言い返す。
「……無い無い。お前がいなくなったら清々するわ」
高岡はまだ「いやいや、絶対に辛いぞ〜」等と言っていたが、やがて微笑みながら俺に言った。
「まぁいい。しぃ経由でお前のメールアドレスを教えておいてやるよ。そこまでは協力してやろう」

(^ω^)
 翌朝、俺は高岡の教室に行くと高岡の鼻先に携帯の画面を突きつけた。
「何だ?」
携帯の向こうから高岡が俺を見つめる。
「彼女からメールが来た」
緩む頬を押さえ、極めて冷静に高岡に伝える。
「おーおー、はしゃいじゃって」
そう言いながら高岡はメールを読み始めた。
内容はしぃから聞いてメールをした事と軽い自己紹介程度だったが、高岡はそれを真剣に読んでいた。
しばらくして、読み終わると高岡は画面から顔を上げて聞いてきた。
「それで? わざわざこれを見せに来たのか? そんなデレデレした顔引っさげて」
何て事だ。俺の顔は自分の意志とは裏腹にデレデレしていたのか。
「――いや」
俺は再び顔に気合を入れ、凛々しい表情で言った。
「告白――、しようと思うんだ」
俺の言葉に高岡が言う。
「そうか。じゃあ、教会へ」
教会? 何だ、もう結婚か? だが望む所だ。俺は冷静に返事をする。
「そうだな。それが妥当だろう」
すると高岡が聞いてきた。
「で? 何の罪を犯したんだ?」
「……ちげーよ!」
俺は冷静さを失い、全力で否定し、矢継ぎ早に突っ込む。
「教会って懺悔室かよ! 罪の告白じゃねーよ! 愛の告白だよ!」
俺の突っ込みに高岡はまたも聞いてくる。
「――誰に?」
「誰に、だって!? 彼女に決まってるじゃないか!」
高岡がはぁ、と溜め息をついた。
「――会った事も無いのに、メール一通もらっただけでいきなりの告白はどうかと思うぞ」
「……そうか?」
聞き返す俺に高岡が質問する。
「逆だったらどうだ?」
一通のメールが運んで来た恋。まだ見知らぬ誰かを想い、そして自分の愛を伝えたいと願う少女。
『携帯よ、あの人に伝えて。私のこの想いを』
写真でしか見たことの無い彼女が携帯を手に頬を上気させている。
そんな少女を想像し、俺は答える。
「――情熱的だと思う」
「ではそれが男だったら?」
そう言われ、俺は少し考える。
『いいのかい? ほいほいついて来ちまって――』
頭に中に青いつなぎを来たAさんが思い浮かぶ。
背筋が寒くなり、俺は頭を振って答えた。
「……恐いな」
「だろう?」
高岡はそれ見た事かとばかりに俺を見つめる。
「だから。せめて『会えるのを楽しみにしてる』位にしておけ」
「――そうだな。分かった」
そう返事をしたものの、何だか騙されたような気がしないでもない。

(^ω^)
 翌日の放課後、俺は自分の家から歩いて五分もかからない高岡の家にいた。
「――何で学校休んでんだよ」
高岡の部屋で出されたコーラを飲みながら俺は文句を言う。
今日はせっかく例の彼女に送ったメールの返事が速攻で来て、それを高岡に見せようと思ったのに、教室に行ったらこいつは休んでいたのだ。
「ちょっと病院に行っててな」
「病院?」
高岡に似合わない言葉に少し驚きながらも何となく「どこか悪いのか?」何て聞くのも恥ずかしくて俺は文句を言う。
「……メールしたのに返信も来ねえし」
「病院は携帯使えないだろ。だから、気付いたのはさっきなんだよ」
「それにしたって……」
言いよどむ俺に高岡はにやりと笑うと言った。
「メール、して欲しかったのか?」
「そそそ、そんな事ねーよ!」
俺は慌てて否定する。
「ほんとかぁ〜? やっぱり私がいないと寂しかったんじゃないのか〜?」
そう言いながら小さなテーブルを越えて高岡がぐいと顔を寄せる。
「だから、そんな事――!」
すぐそばに高岡の顔があった。その顔は意外な程小さく、そして整っていた。
あれ? こいつ、こんなにかわいかったっけ?
そう言えばこいつの顔をこんなにまじまじと見るのはいつ以来だろう、俺の知っている高岡とは違う人物みたいに感じた。
今まで、意識した事も無かった<女子>がそこにはいた。
艶やかな瞳が俺を見つめていた。
何だか急に恥ずかしくなってしまい、俺は俺を見つめる高岡の大きな瞳から逃れようと視線を下にずらした。
するとそこにはシャツの襟から覗ける胸の谷間が……。
「――っ!」
俺は慌ててテーブルから後ずさり話題を変えた。
「め、メールと言えばさ!」
そして、元々高岡に言おうと思っていた事を話し始める。
「返事が来たんだ! あ、彼女からな。それで、彼女のメールが面白くてさ、絵文字じゃなくてAA使うんだぜ。それでそれで……それでさ。俺、二通目を送ったんだ。で、どんな内容にしようかと思ったんだけど、何だかんだで今度は映画に誘ったぜ! それでそれでさ――」
俺は一方的に喋りつづけ、そして話し終わると「あ、もうこんな時間だ。じゃあ、帰るわー。うは、うははははー」と何故か笑いながら高岡の部屋を後にした。

(^ω^)
「なぁ、高岡?」
「ん? 何だ?」
翌日の放課後、俺は高岡と一緒に帰りながら相談していた。
「二通目の返信が来ないんだ。何でだろう?」
「そんな、すぐには来ないんじゃないか?」
俺の質問に高岡は何でも無い事のように答える。
「でも前回は速攻で返してくれたぜ?」
不満そうな声でもう一度質問すると高岡は「――どれ」と俺に手を伸ばした。
「携帯貸してみろ。送った内容見てやる」
そう言って俺から携帯を奪い取ると高岡はカチカチと送信履歴を探し出し、画面を見つめた。
「――はぁ」
しばらくすると高岡は溜め息をついた。
「どうした?」
そう聞く俺に高岡が言う。
「分からないのか? 胸に手を当ててよーく考えてみろ」
俺は言われた通り、胸に手を置き、考えようとし――その瞬間、バシッと手を叩かれた。
「――おい」
俺の手を叩いた高岡が聞いてくる。
「ん?」
「何をしている馬鹿者」
高岡はそう言って俺を睨む。
「何をって――」
俺は高岡に言う。
「お前が言ったんじゃないか。胸に手を当てて考えろって」
俺の答えに高岡は更に厳しく俺を睨み言った。
「……わたしのじゃない、自分の胸に手を当てて考えるんだ」
それから「まったく、どさくさに紛れて何しようとしてんだ」とぶつぶつと文句を言う。
「いいじゃないか。減るもんじゃあるまいし」
俺がこっそりそう呟くと高岡が何かを諦めたような表情で見た。
「……お前、本当にわたしには遠慮無いな」
「遠慮するような間柄かよ」
「お前が言う台詞じゃないだろ」
「えー」
「えー、じゃない。っていうか大体お前、わたしのおっぱいは認めないんだろう?」
「そ、それはそうだけど……」
それはそれ、これはこれ。せっかくのチャンスを逃し、俺はがっくりと肩を落とした。

(^ω^)
「――で?」
「ん?」
しょうがなく自分の胸に手を置き、考えていると高岡が聞いてきた。
「メールの返信が来ない理由は分かったか?」
「……いや全然」
高岡は再びはぁ、と溜め息をつく。
「ほんと、鈍い奴だなぁ?」
それからうっすらと微笑み、言う。
「やっぱりお前には私がついてないとダメだな」
そしてメールが開かれている携帯の画面を俺に突きつけながら聞いてくる。
「何でこんなメールを送ったんだ?」
「……こんなって。いや、本当は千の言葉、万の表現を駆使して俺の想いを伝えようと思ったんだ」
俺は正直にその理由を話した。
「だが、携帯電話の制限でたったの500文字しか送れなかった」
「――それが原因だ」
高岡の声が響く。
「どれだ?」
ぼけっとき聞き返す俺に高岡の怒声が飛ぶ。
「500文字だよ、500文字!」
「やっぱり足りなかったか?」
そう聞き返す俺に再び怒声が飛んだ。
「あほか!」
そして、携帯を俺の顔に押し付けながら説教を始めた。
「お前は、まったく! 映画に誘うだけで500文字も使うやつがあるか! ……それに、これじゃあまるっきりストーカーの文章だ」
それから、ふと真面目な顔で俺を見て言う。
「しかも、二通目にして早くも500文字のメールって……、どう考えてもひくだろう」
「そ、そうなのか……」
俺は驚いて呟いた。
そうか、こういうのはひかれてしまうのか……。自分では情熱的なつもりでいたんだが。
「――どうせ自分では情熱的なつもりでいたんだろう」
まるで俺の心を見透かしたように高岡がそう俺に言った。
「う、うぐぐ」
またも言い返せない俺。
「……こんなお前を分かる女はいないだろうな」
毎度おなじみの溜め息をつく高岡。そして肩をすくめると続けた。
「わたし以外には」
高岡は呆れたように呟き、それでも楽しそうに笑っていた。

(^ω^)
 それから二日経ち、日曜日。ついに彼女から返事は来なかった。
どうやら高岡の言う通り、ひかれてしまったみたいだった。
俺はがっくりとしながらも彼女と観に行こうと思い、先走って買ってしまった映画のチケットを持って高岡の家に向かった。
チケットを無駄にするのも何だし、この際、高岡と観に行こうと思ったのだ。
「――私でいいのか?」
少し驚いたように高岡が聞いてくる。
俺が頷くと高岡は『ありがとう』でも『うれしい』でも無く「そうか――」とだけ言って顔を伏せていた。
しかし、俺は気付いていた。高岡のその伏せた顔がにやけていた事を。
こいつめ、無料で映画が観られると思って喜んでやがる。
――だが、良い事ばかりとはいかないのだよ、高岡君。
「ただ一つ問題があってな」
俺はにやける高岡に言った。
「何だ?」
ぱっと顔を上げ聞いてくる高岡。そんな高岡を見つめ、俺は言った。
「この映画、面白く無いらしいんだ……」
そう。この映画、チケットを買ってからネットで評判を見たらボロボロだった。
高岡が俺からチケットを奪い取り、そのタイトルを確認する。
「う…………」
高岡も噂を聞いていたんだろう。無言でチケットを見つめ続ける。
だが、やがて高岡は顔を上げると、チケットを俺に差し出しながら言った。
「まぁいい。お前とだったらネタとして笑いながら観れるかもしれないしな」
「――俺もそう思ったんだ」
俺は驚いてそう言った。そして付け加える。
「いやむしろ、お前とだったら面白いだろうな、と思ったんだよ」
すると高岡が微笑みながら答えた。
「そうだな」
何だか同じ事を思っているのが少し嬉しかった。
でも事実、高岡とはホラー映画なんかを大笑いしながら観たりする。
あのエクソシストでさえこいつと観れば
『結局、最後は殴って追い出すのかよ』
『だよなー! だったらミルコでも連れて来いってんだよなぁ』
『そうだよな、そうすれば一発KOだ』
『それにそもそも悪魔が何言ったってこう返すぜ』
『『お前は何を言っているんだ』』
『『わははははー!』』
ときたもんだ。
「――まぁ、でも」
ふいに高岡が言った。
「何だ?」
「つまらない映画に付き合うんだから、飯ぐらい奢れよ」
そう言って笑う高岡。
いや、それおかしいだろう――?

(^ω^)
「いやー、それにしても噂通りつまんねー映画だったな」
「いくら恋愛映画にしたって都合が良すぎるだろう」
「何だよ、あのオチ。ありえねーよ」
俺達はファーストフードでハンバーガーを食べつつ映画に文句を言う事を大いに楽しんでいた。
結局、飯代は高岡が「まぁ、つまらなかった映画のお礼だ」と出してくれた。
「――で? 高岡は愛されるのと、愛するのはどっちが幸せだと思う?」
映画の中でキーワードになっていた内容を高岡に聞いてみる。
「そりゃあ、愛する方だろう」
高岡は即答する。
「そうか? でも女の人は愛するより愛される方が幸せ、とか言うじゃないか」
そんなテレビで聞いたような事を言ってみる。
だが高岡は「そんな事は無いさ」と話を始めた。
「――そりゃあ、人に好かれるってのは気持ちいいだろう」
実際、経験は無いがそうなんだろうなと同意しようとするが高岡はそれをあっさり否定する。
「でもそれは言ってみれば受身な状態じゃないか」
「受身?」
聞き返す俺に高岡が言う。
「そうだよ。例え愛されたいと願ったとしても、愛されるという行為は相手が愛してくれて初めて成立する<結果>だろう?」
「まぁ……、そうだな」
俺がそう答えると高岡は「だろう? でも」と話しを続けた。
「――誰かを好きになるっていうのは自分がしたい事をしてるんだ。どうだ、幸せだろう?」
そう言ってにっこりと微笑む高岡。
「ぷっ――、ぶははははっ!」
それを聞いて俺は笑い出してしまった。
「何だよ?」
笑う俺を見て眉をひそめる高岡に俺は言う。
「随分と自分勝手な話だな」
自分が好きな相手が自分の事を好きかどうかなんて関係無い。自分は自分のしたい事をしてるんだから幸せ、という訳だ。
それって恋愛なんだろうか?
「――でも」
俺は高岡を見つめて言った。
「お前らしいな」
俺の言葉に高岡が、ふふんと笑った。

(^ω^)
「それで?」
俺は高岡に聞いた。
「何だ?」
「そんな事を言うお前は誰か好きな奴がいるのか?」
いるわきゃねーだろー! と言う返答をすると思っていた高岡は平然と俺に言った。
「いるぞ」
そのあまりにもあっさりと返された答えにこっちが動揺してしまった。
「ままま、マジで!?」
「マジで」
――ちっとも知らなかった。
そう言えばこんなに長い付き合いなのに、こいつが誰かを好きだとか言ったのって聞いた事が無い。
突然の事態に俺はひどく動揺していた。
「……か、片思いなのか?」
そして出て来た質問はそんな内容だった。
本当は『誰だ?』と聞きたかった。でも、何故かは分からないが、それを聞く勇気が無かった。
「まぁな」
動揺する俺とは対照的に平然と答える高岡。
「じゃ、じゃあ……」
何とか会話を続けようと俺は言葉を繋げる。
「――じゃあ、今、幸せなのか?」
さっき、高岡としていた会話が思い起こされ、俺はそんな質問を高岡にした。
すると高岡は柔らかく微笑み、目を細めて言った。
「そうだな、実に楽しい。それに――」
そして高岡はにやりと笑い、続ける。
「片思いと言っても今はまだ、というだけだしな」
その不敵な表情。ああ、恋をしていても、それが片思いでもこいつはこいつだな、俺はそう思った。
呆れたのが半分、そして感心したのが半分で俺は言った。
「……ずいぶんと、自信があるみたいだな」
高岡は再び、ふふんと笑った。

(^ω^)
 その翌日、すっかり諦めていた彼女からメールが来た。
しかも俺が誘った映画を観たいらしく、明日の放課後俺の学校で待ち合わせて一緒に行こうというのだ。
「――と、言う訳で」
放課後、昨日に引き続き、俺達はファーストフードのハンバーガーショップに来ていた。
ちなみに今日は俺の奢りだ。
ハンバーガーを食べ終えた俺は高岡に言う。
「チケット返せ」
「――あほか」
高岡がそう答え、それからポテトを一本口に入れ、付け足す。
「って言うかあの映画は止めておけ」
「……それもそうだな」
確かに、あの映画はこいつとネタとして観に行くならともかく初デートに適切とは思えなかった。
映画館を出た後の気まずい会話が目に浮かぶようだった。
「それにしても何で今頃返信が?」
会話の進まないデートを想像し、身震いする俺に高岡が聞いて来た。
「あー、何でも500文字には500文字で返信しないといけないと思って、一所懸命考えていたらしい」
彼女のメールに書いてあった理由を告げると高岡が呟いた。
「そうか、敵は天然か――。これは手強いな」
「……敵って何だよ?」
俺がそう聞くと高岡は珍しく焦ったように答えた。
「いっ、いや! 別に何でも……」
「いや、聞き捨てならん。もしかしたら未来の妻になるかもしれない女性に向かって何て事を!」
「未来のって……、お前、冗談にしても少しキモいぞ」
高岡がそう言って笑う。
しかし、俺は言い返す。
「俺はいつでも真剣だ」
そう、俺はいつでも真剣だ。ことおっぱいが関係する事に関しては真剣で真摯で真率だ。
「はぁ!? まだ会った事も無いのに!?」
驚き、聞き返す高岡。だが、俺は再びきっぱりと言い返す。
「会った回数なんて関係ない」
「――――っ」
するとまた何かを言うと思った高岡はそれっきり黙ってしまった。
「…………」
「…………」
しばらく沈黙が続いた。
「それよりもさ――」
続く沈黙に何となく気まずくなった俺は黙ったままの高岡に聞いた。
「こうしてきっちり返信してくれるって事は彼女も俺に興味があるって事だよな?」
「……さぁ、どうだろうな」
高岡は暗く言い返す。
また沈黙が始まるのが恐くて俺は笑いながら言う。
「いや、どう考えてもこれはフラグ立ってるな」
「そっ、そんな事は――!」
よし来た。いつものように否定しようとする高岡。
俺はそんな高岡を遮り、決意を口にした。
「いや! 俺はこれが大事な場面だと見た。選択肢があれば一気に告白まで持っていくぞ!」

(^ω^)
「あの――、さ」
高岡がおずおずと切り出した。
「何だよ?」
俺が聞き返すと高岡はにっこりと笑って言った。
「一緒に行ってやろうか?」
「何でよ?」
俺は聞き返す。それはそうだろう。何でデートにしかも初のデートに第三者を連れていかないといけないのだ。
俺の問いに高岡は少し考え、それから「ほ、ほら!」とその理由を口にした。
「わたしはムードメーカーだからな!」
「……お前はどちらかというと」
「何だ?」
聞き返す高岡を見つめ、俺は答える。
「トラブルメーカーだ」
その答えに笑い返すと思った高岡はしばらく沈黙した後、弱々しい声で答えた。
「――そうか」
何だかさっきから高岡の様子がおかしい。
「……何だ急にテンション落ちて」
「別に……」
俺の質問にもそんな答えでその後は沈黙。俺は仕方なく自分の話を続ける。
「それより、どうすればいいと思う?」
「ここでバシッと彼女にアピールした方がいいよな?」
「どうしたら彼女喜んでくれるかな?」
「つーか、ぶっちゃけどうしたら付き合えるかな?」
なあなあ、と俺は高岡にあれこれ質問をする。
すると、俺の質問の数々をしばらく黙ったまま聞いていた高岡が突然、声を上げた。
「どうしてわたしに聞くんだっ!」
店内が一瞬で静寂に包まれ、それに気付いた高岡ははっとした表情になると俺から目を反らして呟くように言った。
「……たまには、自分で考えろ」
店内は再び喧騒に包まれたが、俺と高岡の間には二度目の沈黙が訪れた。
高岡は何も言わず、俺も何を言っていいのか分からなかった。
「――どうしたんだよ?」
しばらく後に俺はそんな風に切り出した。
「……何でも無い」
高岡は俺と目を合わせようとせず、テーブルの上の冷め切ったポテトを見ながら答えた。
「何でも無くないだろ」
もう一度聞くと高岡が呟くように言った。
「……帰る」
「帰るって、おい」
驚く俺に「じゃあな」と告げると高岡は席を立ち本当に帰って行ってしまった。
……どうしたんだ、あいつ?
残された俺はコーラを一口飲み、もうすっかり氷が溶けて水っぽくなってしまった事に気が付くと全てをゴミ箱に捨て、独り、店を出た。

(^ω^)
 その夜、借りてきたDVDを一緒に観ようと高岡を誘ったが、やはり高岡は来なかった。
仕方無く、俺はDVDをセットし、一人で観始めた。
それは双子の兄弟とヒロインが甲子園を目指すマンガの映画版だった。
マンガの存在は知っていたが、巻数も多いし読むのが面倒だと思っていたら映画になっていたなんて知らなかった。
それを偶然、レンタルビデオ屋の棚で見つけて借りて来てしまったのだ。
映画は双子が、というか双子の弟が甲子園を目指す所から始まる。
だが、その弟は途中、事故であっさりと死んでしまう。
主人公が言う。「ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それで……」
そして、兄は弟に代わり甲子園を目指し、そしてそれまで弟と付き合うのかと思っていたヒロインはそれから兄と付き合うような展開になる。
なるほど、色々突っ込どころはあるが連載でマンガを読んでいたらかなり面白かっただろうな。
そうして俺は映画を見続けた。
時には突っ込みを入れ、時には笑い、そしてヒロインの胸の大きさに気付いた時にはいつものように腕を振った。
だが、独りで観る映画は突っ込みも冴えず、笑い所も自分の乾いた笑いが部屋に響くだけ、そして腕を振る俺を呆れたように罵る声はどこからもしなかった。

(^ω^)
 ――さて、人生において転機になるであろう一日が始まった。
待ちに待った理想のおっぱいとのデート。
それにもしかしたら人生初の彼女が出来る日かも知れない。
今日という日は全てを順調にしておかないといけない。
その為には少しの気がかりも取り除いておくべきだろう。
まぁ、気がかりという程のことでも無いがちょっとだけ気になのは高岡の事だ。
昨日の高岡は少し変だった。
今日のあいつはいつものあいつだろうか?
そうして、俺は昼休みに高岡の教室に行った。
昨日の事はあえて気にしていない振りをしていつも通り話し掛ける。
「大変だ、高岡」
「何だ?」
いつもの高岡なのか、その返事からは分からなかった。
俺は話を続ける。
「彼女が……」
「彼女がどうした?」
「今朝、彼女からメールが来て、もうあの映画のチケットを用意してしまっているらしい」
「ふーん」
まるで高岡とは思えない覇気の無い返事が返ってきた。
仕方なく俺は昨日の事を切り出した。
「どうしたんだよ、昨日から。……何か怒ってるのか?」
「別に怒ってなんかないよ」
高岡は何の抑揚も無くそう答えた。
「でもさ――」
「怒ってないったら!」
またも声を荒げる高岡。
「…………」
「……すまん」
そう言って謝ると高岡は俺に向き直って言った。
「ほんと、何でも無い。でも今日はちょっと寝不足で体調が悪いんだ」
「そうか、ならいいけど――」
俺がそう言うと、スピーカーから授業開始五分前の鐘が鳴り響いた。
「時間だぞ?」
「あ、ああ」
高岡に追い出されるように俺は自分の教室へと戻って行った。

(^ω^)
 放課後にもう一度、高岡の教室に向かった。
最後に高岡と交わした自分の言葉が気になっていた。
体調が悪いという高岡に対して俺は「ならいいけど」等と言っていた。
怒っているのでは無いと知り、安心して出て来た言葉だったが、体調が悪いのに「ならいい」訳が無い。
もう一度、あいつの様子を確認しておこう、そう思い高岡の教室に入る。
「高岡〜」
しかし、教室に高岡はいなかった。
もう帰ったのだろうか? だが見れば、机には鞄が置いてある。
「高岡、知らないか?」
教室に残っていたやつに高岡の行方を聞いてみる。
「高岡?」
そいつは少し考え、はたと思い出すと俺に教えてくれた。
「午後の体育の授業中に倒れたか何かで保健室にいるって聞いたけど」
「――えっ?」
一瞬、得体の知れない感覚に包まれた。まるで自分が世界から切り離されてしまったような、孤独な感覚。
保健室に行こうかと思ったが、時計を見るともう待ち合わせの時間になっていた。
「あいつが、倒れたって?」
俺は独り言をつぶやいた。
「……まぁどうせ、体育が面倒で仮病で寝込んでるんだろうけどな」
そして自分に言い聞かせるようにそう呟くと、俺は教室を後にし、校門へと向かった。

(^ω^)
 昇降口を出ると校門には約束通り彼女が来ていた。
彼女は真剣な表情できょろきょろと誰かを探している。
もちろん、その誰かとは俺なのだろう。
そうして、俺に気付くと彼女は一瞬はっとした表情になり、それからにっこりと微笑んで手を振ってきた。
みんなが俺を振り返る。それはそうだ。なにしろ他校の制服の美人でしかも理想敵なバストを持った女子が手を振っているのだ。
少し優越感を感じた。
腕を振りたい衝動を押さえ、俺は小さく手を振るとゆっくりと彼女に歩み寄った。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たところ」
「そうか。じゃあ、行こうか」
そんなお約束の会話をし、俺と彼女は歩き出した。
彼女は歩きながら今日学校であった事を話し、そして、俺はそんな彼女に絶妙の相槌を打っていた。
――筈だった。
「――くん! ねぇ、長岡君ってば!」
不意に名前を呼ばれ、我に返る。
「え? ああ、何?」
「もぅ、長岡君、ずーっとぼーっとしてる」
え? 俺が?
「……ご、ごめん」
謝りながらも、それすらも上の空だった。
気が付くと、高岡の事ばかりを考えている。
やっぱり、ちょっと保健室に寄ってくればよかった。
こんな事ではこの大事なデートに集中出来ない。
それにしてもあいつ、どうしたんだろう? そう言えばこの前も病院行ったって言ってたな。
俺の知らないところで何やってんだ。何かあるなら言えばいいのに。いや、俺からはあえて聞かないけど。
頭の中を色んな考えがぐるぐると回る。
――くそ、何だかイライラする。
文句の一つも言ってやらないと気がすまない。
 イライラは時間と共に降り積もり、俺は自分が今、何をしているのかも分からなくなりそうだった。
そして、やがてそれは最高潮に達し、俺は地面を見つめたまま歩くのを止めた。
「どうしたの?」
彼女が振り返り聞く。
そして俺は彼女を見上げ、言った。
「――ごめん。今日、映画行くのやめにしないか?」

(^ω^)
「どうして?」
彼女のもっともな質問に俺はええと、と理由を探す。
そして思いついた言い訳を彼女に伝えた。
「実は――、この映画、観ちゃったんだ」
「え? そうなの?」
うん。ごめん、と謝る俺だったが、それは本当の理由では無かった。
本来ならば理想のおっぱいとの初デート、それが二度目でも三度目でも何の映画でも彼女と一緒なら観に行っただろう。
だが、今日はどうしても行く気になれなかった。
少しだけ嘘をついているのが彼女に悪い気がして俺は俯いて地面を見ていた。
「そうかー。 面白かった?」
彼女の問いに俺は「うん、面白かったよ」と答える。
すると彼女が残念そうに言った。
「そうなんだ。観たかったなー」
「あ、それなら大丈夫!」
俺はふと顔を上げ、彼女に言った。
「実はあんまり面白く無い。っていうかはっきり言ってつまらないから観ない方がいいよ!」
「ええっ!?」
驚いて俺を見返す彼女。
「……どっちなの?」
その顔は完全に混乱していた。
俺は自分が支離滅裂な事を言っていた事に気が付き彼女に謝った。
「……ああ、ごめん。違うんだ。そのー」
そして整理して彼女に話す。
「映画は面白くなかった。これは本当」
「うん。それで? 面白かったっていうのはどうして?」
質問してくる彼女に俺はその理由を伝えた。
「ただ、一緒に行った奴とネタとして観てたからそれで面白いって言うか、楽しかったんだ」
「そうかー」
彼女が俺に微笑んで言った。
「それは楽しそうだね。――いいね、そんな仲のいい友達がいて」

(^ω^)
 そう言われて、俺ははたと考えた。
「友達? そうか、でも俺とあいつ、仲いいのかなぁ?」
「どうして?」
聞き返してくる彼女。
俺もあいつもよく「お前ら仲いいなー」とか言われると二人して口を揃えて「そんな事ねーよ!」と言っていた。
それに、傍にいるのが自然過ぎて仲がいいのかどうかとかそんな事考えた事も無かった。
「うーん」と俺は考える。
「……そうだなー。でも何かというと突っかかってくるし、口も悪いし。馬鹿だなとか、鈍い奴だとか平気で言って来るし。それにいつも何かとしてやられるし」
ここまで現実を口にしてみて俺は笑ってしまい、苦笑しながら言った。
「――友達としては最低のレベルだな」
俺の答えに彼女は不思議そうに聞いて来る。
「でも、一緒に映画観たりするの?」
「そうなんだよなぁ」
そういえば、自分でも不思議だった。
でも今まで一緒にいて嫌だと思った事は無いし、それにどっちかというと一緒にいると落ち着ける気がする。
苦笑いしか出て来ない俺に彼女が言う。
「ふーん、酷い事言われるのに?」
「まぁ……、ね」
でも、あいつが言う事は割と正論だったりするんだよな。
つまりは俺は不快というよりは耳が痛い訳だ。
そんな事を思っていると、彼女が真剣な表情で聞いてきた。
「でも、そんな事言うのってやっぱり友達としては最低じゃない?」
「そ、そんな事ねーよ!」
突然の真剣な声に思わずむきになって答える俺。
すると彼女はふふっと笑った。
「長岡君、変なの。貶してみたり庇ってみたり」
……やられた。カマ掛けられた訳だ。
でも一瞬、本当に嫌な気持ちになっていた。自分はいいが他の人に言われるとどうにも気持ちが落ち着かない。
「あ、でも――」
俺はふと思い出し彼女に言った。
「今はそいつに文句を言いたい気分だったんだ」
「何で?」
聞き返す彼女に俺は答えた。
「そいつが倒れたらしくてさ。それで――、すごくイライラするんだ」
すると彼女は何故か俺を見て微笑んだ。
「そうか――」
そして彼女が言った。
「長岡君は、その人の事が好きなんだね」

(^ω^)
「えええっ!?」
俺は驚いて素っ頓狂な声を上げた。
「何で!? イライラするんだぜ? 文句を言ってやりたいんだぜ?」
言い返す俺に彼女はおっとりと答える。
「うん。でも、そうなんだよ。それに、それはきっとイライラじゃないよ」
再び俺は言い返す。
「そっ、そんな事ねーよ! 第一、あいつをそんな風に考えた事なんて一度も――」
「無いの?」
彼女が聞いてきた。俺は少し考え答える。
「……無いよ」
「そうなの?」
「そうさ」
「そうかー」
何となく、間の抜けた会話をする俺達。
すると彼女は俺に言った。
「だったらさ、そういう風に考えてみなよ」
「あいつの事を?」
「うん」
「――――――――」
言われた通り、素直に俺は考えようとしてみた。
そして思い出す、あいつを、あいつと過ごして来たの日々を。
文句を言ったり、罵倒しあったり。ろくな事が無かったが、最後にはいつも笑いあっていた気がする。
そしてあいつの言葉を思い出した。
『わたしがいなくなったら寂しいぞー』
そう言って笑うあいつの顔が思い浮かんだ。
そして、そんなあいつが今、体調が悪くてぐったりしているのかと思うと急に心細くなった。
――ああ、そうか。
そして俺は、自分のこのイライラが何なのかその正体に気が付いた。
これは、イライラしてたんじゃなくて心配で、そして不安だったのか。
そうか。そうなんだな――。

(^ω^)
「行ってあげなよ――」
彼女がそう言った。
「ごめん」
頭を下げて謝る俺に彼女が舌を出した。
「いいよ。実はさ、わたしもごめんなさいなんだ」
そして、真っ直ぐに俺を見つめ、少し照れたように言う。
「わたし、しぃが好きなんだ」
――え?
俺の思考は混乱する。だって、君はオンナノコで、そしてしぃもオンナノコだよ?
「だから、もしかしてわたしが誰か男の子と会ったりしたら、しぃが気にするかなって思ってこうして来たんだ」
そう言ってちょこんと頭を下げる彼女。
「ほんと、ごめんね。――でも、よかった」
思考が追いつかない俺を置いて、彼女の話はどんどんと進んで行く。
「じゃあ、この映画。わたしもしぃと行く事にするね」
そして、俺の思考も俺自身も置いてけぼりにしたまま、彼女は手を振って去って行った。
俺はぼーっと彼女の後姿を見送る。
「――長岡君っ!」
ふと彼女が振り返った。
「えっ?」
驚き、目の焦点が彼女に合う。
すると彼女が俺に言った。
「お互い、難しい恋だけど、がんばろうねっ!」
そして、ぐっとガッツポーズを作り、彼女はしぃに会うべく俺の学校へと戻って行った。
んー?
……ん? え?
――ええーっ!?
彼女は何か勘違いしているみたいだった。

(^ω^)
 やがて、気を取り直した俺はもうすっかり見えなくなった彼女に続いて学校へ戻り、保健室を目指した。
さて、高岡のやつに何て言ってやろう。
「お前が倒れたりするから気になって、理想のおっぱいに振られたぞ」とでも言ってやろうか。
とにかく何か文句を言ってやろう。
そう思い、保健室の扉を開ける。
保健の先生は電話中だったようで俺の方をちらりと見ただけでまた電話で話を始めた。
「――少し前から急に体調が悪くなって、今日、急に死んでしまったの」
死んでしまった? 誰がだろう?
先生の言葉が聞こえてしまった。だが、俺は聞かなかった振りをしてベッドの方へ向かう。
三つ並んだベッドの一番奥のカーテンがかかっていた。
高岡はあそこで寝ているのだろう。
俺は声をかける事もせずにカーテンの隙間から中に入った。
そして、自分の目を疑った――。
ベッドで横たわる高岡――。その顔には白いハンカチがかけられていた。
カーテンの向こうからは先生が嗚咽する声が聞こえて来た。
それからドアが開閉する音が聞こえ、先生が保健室を出て行ったようだった。
死んでしまったって――――――、高岡が?
 全てが信じられなかった。
もしかして、このハンカチを取ったらそこにはにやにやと俺を見つめる高岡がいるんじゃないか。
いや、それどころか、これは高岡じゃなくて丸められた毛布か何かで高岡はベッドの下で俺を驚かそうと隠れているんじゃないか。
そんな事を考え、俺は恐る恐るハンカチに手を伸ばす。
そしてめくられたハンカチの下から現れたのは、目を閉じ、まるで眠っているかのように死んでいる高岡だった。

「…………たかおか?」
そう呼びかけるが、高岡は目を開かない。
「おい、たかおか」
もう一度呼びかける。だが高岡は何の反応も示さなかった。
カーテンの向こうからは何時の間にか戻って来ていた先生のすすり泣く声が聞こえてきた。

(^ω^)
 俺に文句を言う高岡、笑いかける高岡を思い出し、そしてある日ふと気が付いた高岡のかわいさを思い出した。
だけど、目の前に横たわる高岡は何の反応もしない。
高岡はもう動かない。
高岡は俺に文句を言わない。
高岡は俺の相談に乗ってくれない。
そして、高岡はもう俺に笑ってくれない。
共に笑い、いつまででも話が出来た高岡。
だけどこの先、いくら俺が話し掛けようとも、俺は高岡の返事を聞くことは出来無いのだ。
 ――その瞬間、俺は全てに気が付いた。
やっぱり俺はこいつがいないとダメなんだ、という事に。
『わたしがいなくなったら寂しいぞー』
そう言って笑っていた高岡。
高岡の予想は当たっていた。
「なぁ、高岡――」
俺は高岡に話し掛けた。
「寂しいよ。……お前の言った通り、お前がいなくなったらたまらなく寂しいよ」
喉がこわばって声がうまく出せなかった。
「なぁ、高岡ぁ。寂しいよぉ……」
手を伸ばし、高岡の頬に触れる。
その頬はまだ温かかった。
高岡は本当にただ眠っているだけみたいだった。そして、とても綺麗だった。
――嘘みたいだろ。
こんなに綺麗なのに死んでるんだぜ。
ほんと、嘘みたいだ。だって、こんなに綺麗で、そして息だってしてるのに――。
……え? …………息?
頬に触れた手に高岡の呼吸を感じていた。
 次の瞬間、俺は頬に触れていた手を高岡の胸に移動した。
どくん、どくん、とそこには心臓が鼓動していた。

(^ω^)
「……何してんだ?」
その時、高岡が目を開き俺に聞いてきた。
「たったったっ、高岡!?」
高岡はむくりと上体を起こしす。
「ちょっと待て! ちょーっと待て!」
俺はカーテンの向こうを振り返り、それからまた高岡に向き直る。
「先生は何の電話をしてるんだ?」
「え? 何?」
高岡が聞き返し、それから「ああ、そうだ」と耳から耳栓にしていたらしい脱脂綿を取り出した。
「で? 何だって?」
俺は高岡と耳栓を交互に見つめ、もう一度聞く。
「先生は何で泣いてるんだ?」
すると高岡が肩をすくめた。
「何でも今朝、懸命に育てていた電子ペットが死んでしまったらしくてな」
「で、電子ペットが……?」
脱力する俺に高岡は肩をすくめて続ける。
「それで、今朝からあちこちの友達なんかに電話して泣いているらしい。わたしも保健室に来て早々にその話をされてな。かれこれ30分は聞いていたよ。こっちは具合が悪いってーのに」
呆れた様子で話す高岡。
「わたしがベッドに入ってからもカーテンの隙間からこっちをちらちら覗く。だからハンカチで顔を覆ったんだ。するとわたしに話すのは諦めたんだが、今度は電話が始まった。五月蝿くて寝てられなかったよ」
高岡はそう言って俺に耳栓を見せた。
そんな話をしている最中にもカーテンの向こうで先生はまた電話をかけている。
「まったく……、何歳なんだよ、あの先生は?」
呆れたのと安堵で俺は深い深い溜め息をついた。
「でもまぁ、話を聞く限りでは相当苦労して育てたみたいだったぞ?」
そう言って笑う高岡。
「それにしたってさ……」
人騒がせな、と俺は呟いた。

(^ω^)
「それで? お前何してんだ、こんなとこで? 理想のおっぱいとデートに行くじゃなかったのか?」
ふいに気付いた高岡が聞いてくる。
「い、いいんだよそんな事は!」
「あれ? お前、泣いてんの?」
「泣いてねーよ!」
俺はあわてて目をこすり、高岡に聞き返す。
「そ、それよりお前こそ何してんだよ!?」
高岡は不思議そうな顔でこっちを見つめ返す。
「何って、具合悪いから寝てるんだよ」
「だ、大丈夫なのか?」
再び不安が胸に渦巻いた。
「も、もしかして――」
俺は恐る恐る聞く。
「子供助けようとして車に轢かれたりしたのか?」
高岡が不思議そうというよりも不可解といった顔で俺を見た。
「何言ってんだ? お前こそ大丈夫か? ――特に頭の機能」
「いや、俺の頭はいいから、お前は大丈夫なのか?」
そんな事を言われても怒らない俺の態度に高岡は眉をひそめ、不可解というよりも不気味といった感じに俺を見る。
「大した事は無いよ……」
「本当なんだな?」
「――ああ、昨日ちょっと寝るのが遅かったんで貧血気味なだけだ」
「そうか――」
ほっとした。心底ほっとした。
……はぁ、何だかどっと疲れた。
「――ところで」
ほっとし頭をたれる俺に高岡が言う。
「そろそろその手をどけろ」
言われて初めて気付いたが、俺の手は未だに高岡の胸に触れたままだった。
思わず慌てて手を引っ込める。
いつものように呆れる高岡。
「こんなにずっと触れてるとは、もはや執念だな……」
いや、それはちょっと違うぞ高岡。
それにしても、今のはこれっぽっちも「おっぱいに触るぞ」という意識が無かった。
――考えてみればなんと勿体無い事か。

(^ω^)
「ところで、何でわたしの胸なんかを触ってたんだ?」
無意識に触っていた事を後悔する俺に高岡が聞いてきた。
「そっ、それはそのー」
俺はいいよどみ、視線を落とす。
するとそこにはさっきまで触れていた高岡の胸があった。
「ついにわたしのおっぱいを認める気になったのか?」
笑いながら聞いて来る高岡。
その言葉に俺はさっき気付いた自分の想いを思い出し、覚悟を決めた。
「高岡――、話があるんだ」
「ん?」
「……今までさ」
「うん」
「気付かなかったんだけどさ……」
「うん?」
「あの、さ……」
「――何だよ!?」
中々進まない俺の話に高岡が声をあげる。
俺はごくりとつばを飲むと目の前のおっぱいに言った。
「高岡っ!」
「な、何だよ?」
突然の俺の声に驚く高岡。そして俺は一気に言った。
「俺はお前のおっぱいが世界で一番好きだ!」
そして顔を上げ、高岡を睨むように見つめ、言う。
「でもそれはお前のおっぱいだからだ! つ、つまり――!」
俺はもう一度つばを飲み込み、今まで以上の大声で叫んだ。
「俺はお前とお前のおっぱいの事が好きだ! いや、ずっとずっと好きだったんだー!」
――沈黙が、舞い降りた。

(^ω^)
 沈黙が続く。
きっと、高岡も驚いて声も出せないに違いない。
――いきなりの告白。こいつとしたってまったく予想していなかっただろう。なにしろ告白した俺自身がさっきまでこんな事になるなんて予想していなかったんだから。
その時、俺はおかしな話だが少し優越感を感じていた。
高岡を驚かせているという事実がこいつから一本取ったような気分になっていたのだ。
だが、そんな自分自身は照れくささや恥ずかしさやその他もろもろの感情が入り混じり、落ち着いていられず、結局、先に言葉を発したのは自分だった。
「分かったか!? お前のおっぱいを認めてやる!」
ひねくれた優越感から、出て来る言葉が何だかおかしい。
だが、それを訂正する事も出来ず俺は暴走し、本当ならば高岡に返事を聞かないといけないのにそんな事も忘れ、いつものあれをやろうと腕を振り上げる。
「おっ――」
その時、高岡が言った。
「――やっと気付いたか」
「え?」
きょとんとする俺に高岡は俺を見つめ、もう一度言う。
「お前、やっと気付いたんだな」
「な、何に?」
何の事か分からず、戸惑う俺に高岡は言った。
「――自分がわたしを好きだって事に」
「え?」
「わたしは、ずいぶん前から知ってたぞ?」
そう言って、にやりと笑う高岡。
そして、依然として戸惑う俺。何? どうして? だって、俺の事なのにどうしてこいつが先に?
だが、ふと思う。でも確かにこいつなら気付いていそうだし、そういえばそれをほのめかすような事を言っていた気がする。
何だかしてやられてしまい、振り上げた腕を下ろすことも出来ず、ただ俺はこっちを見つめる高岡を見つめ返していた。
――ああ、こいつとはずっとこんな関係なのかもしれないな。
そう思う事で、少し心が落ち着き、俺は高岡に改めて聞いた。
「そ、それで返事は――?」
俺の質問にこっちを見ていた高岡は頬を赤く染め、うつむくと、ぽつりと答えた。
「――ほんと、つくづく鈍い奴だな」
そのしぐさとうつむいて照れる表情は実にかわいらしく、ほんと、反則に近かった。
俺はそんな高岡がたまらなく愛しく思え、振り上げた腕を下ろすと、そっと彼女を抱きしめた。


2008.11.30掲載


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