[ TOP ] > 「助けて! VIPマン!」 〜 ドクオは正義の味方なようです 〜

 
「助けて―― VIPマン――」
一人の女性の恐怖でカラカラに乾いた喉から搾り出されたか弱い悲鳴がVIPマンの耳に届く。
――この言葉を聞くのは何回目だろう?
VIPマンと呼ばれる正義の味方、ドクオはそれを聞いてふと、そう思った。
毎日のように聞くその言葉。
『助けて、VIPマン』
ドクオの戦う相手、世界征服を目論む悪の帝国《フォッカー》。彼らに襲われた一般市民達は揃ってそう言い、その力に唯一対抗出来るVIPマンに助けを求めた。
そしてその言葉を耳にしたドクオは現場に駆け付け、VIPマンとして悪と戦った。
みんなが自分を頼り、応援してくれた。
VIPマンは正義の味方で、そしてドクオもまた自分がそんなみんなを助ける正義の味方である事を誇りに思っていた。
けれど、現実は厳しかった。国の機関は黙認はしていたもののいつも自分をマークしていて、マスコミはVIPマンの正体を探ろうと動き、時にはその正当性を疑った。ほんの少しのミスでVIPマンは破滅してしまう危機にあった。

「助けて、VIPマン」
自分に向けられた銃口から目を逸らし、女はVIPマン・ドクオの目を見ながら震える声で再びその言葉を搾り出す。
――皮肉なものだな。
その言葉を聞きながらドクオは心の中で自嘲した。
いつもと同じ俺に助けを求める台詞。でもその中身はいつもとはまったく正反対じゃないか――。
「助けて、VIPマン……」
言葉を繰り返す彼女は理解していた。このままでは自分は殺されてしまう、と。
しかし、ドクオは、VIPマンは彼女を助ける訳にはいかなかった。

 ――VIPマンは正義の味方で、そしてドクオもまた自分がそんなみんなを助ける正義の味方である事を誇りに思っていた。
けれど、目の前で起こっている現実にドクオは自分でも薄々気付いていた事実を確信に変えた。
自分が正義を貫いているのはみんなの為では無く、ただ自分の為なのだと。
ドクオにとって大事だったのは、自分が正義の味方だとみんなに認識されている事だったのだと。
そして今、ドクオにとっての正義が破綻しようとしていた。
ドクオは思う。――彼女を助ければ、自分は全てを失ってしまう。正義の味方としての栄光もその過去も、全てを否定されてしまう。
自分を見つめ助けを求める彼女を見つめ返しながらドクオは毒づく。
「どうしてこうなった――」

 きっかけはほんの小さなミスだった。
この世に完璧なモノが存在しないように、VIPマンもまた間違いを犯してしまった。
そして、その小さなミスにいくつかの偶然が重なり、結果としてドクオはフォッカーとは何の関係も無いただの女性を“敵”として認識する事になってしまった。
幸運な事に、ドクオはギリギリでその間違いに気付き、VIPマンの銃から放たれた初弾は彼女をかすっただけだった。
だが不幸な事に、彼女は何の罪も無い一般人である自分を攻撃して来たのは、正義の味方であるはずのVIPマンだと認識してしまった。
そして、幸か不幸か、現場には他に目撃者がいなかった――。

「お願い……、助けて……」
繰り返される彼女のもうほとんど聞こえないかすれた言葉にドクオははっと我に返る。
永遠にも思える時間が経過した気がした。だがそれはほんの数秒だったのかもしれない。そして――、その永く短い時間の間にドクオの決意は固まっていた。
それが正義の味方として、否、一人の人間として間違った行為である事はドクオにも分かっていた。――でも、もう引き返す事は出来なかった。
ドクオは正義の味方であり続ける為に、悪の道を歩む事を決めた。
「助けて、VIPマン……」
彼女はただ黙って自分を見下ろすVIPマンに尚も助けを求める。
だがドクオは、その言葉を聞かなかったかのように、まるでその言葉の意味が解らなかったかのように、命乞いする彼女の額に手に持った銃の狙いを定め、そしてゆっくりとその引き金を引いた――。


2011.1.6掲載


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