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ドクオとクーのバレンタインデーのようです

(^ω^)
「あ、あんたの為に作った訳じゃ無いんだからねっ」
ツンがそう言いながら、内藤にチョコレートを渡した。
頬を桜色に染めて、内藤から目を逸らし、そっぽを向いてチョコレートを突き出すツン。
 ツンのそれは照れ隠しの台詞だという事はチョコレートを受け取る内藤にはもちろん、それを横で見ている俺にも分かった。
何故ツンが照れるのか、それはつまり内藤に特別な感情を持っているからだろう。
自分が何とも思っていない相手に照れたりはしないだろう。
つまり、ツンは自分の気持ちを隠しているつもりが、それが下手でかえって相手に自分の気持ちを伝えてしまっているのだ。
 そして――、それを横目に見ながら俺は考えていた。
俺の彼女、クーはきっとそんな事は言わないだろうな、と。
それは、どんな些細な事でも決して嘘はつかず、そしていつでも自分の思っている事を真っ直ぐに言葉にして伝えてくるというクーの性格ゆえというのもある。
でもそれ以上に、もしかしたら、クーは俺の事を好きじゃ無いのかもしれないからだ。

(^ω^)
 俺とクーが付き合い始めたのは一ヶ月前だった。
俺は友達の内藤とその彼女のツン、そしてツンの友人のクーとよく一緒に遊んでいた。
そしてその日、何かの話の弾みから俺はうっかりクーが好きだという事を口にしてしまった。
クーはその特徴的な口調と性格でいわゆる女の子っぽいかわいさは無いものの、大変な美人で、俺はその容姿もそしてその性格もとても気に入っていた。
そんなクーへの俺の突然の告白。
言われたクーも驚いていたが、言ってしまった俺はもっと驚いていた。
しかし、そこで俺は覚悟を決めてクーに言った。好きだ、付き合ってくれ、と。
今にして思えばよくあんな事が言えたもんだ。
そして俺はかつて無い程に真剣にクーを見つめた。
だがクーは驚いてはいるものの、いつも通りの口調で冷静に言い返した。
「返事は待ってくれないか? 今までそんな事、考えた事も無かったのだ」
この時点で俺は少し諦めていた。
「だめ、だろうな……」
帰り道、俺は独り、そう呟いた。
 翌日、クーが何の連絡も無しに俺の家に来た。
「昨日の返事だが……」
俺を睨むように見つめるクー。その表情は厳しく、それを見て俺はすっかり諦めていた。
だが、クーの口から出て来た言葉はこうだった。
「一晩考えてみて分かった。今まで気が付かなかったが、どうやら私も君の事が好きなようだ」
そうして、俺達は付き合うようになった。

 生まれて初めての彼女。本当なら浮かれて仕方が無いはずだけど、どうも違った。
浮かれるどころか、俺は毎日、不安で不安でしょうがないのだ。

(^ω^)
 この一ヶ月、クーと一緒に居ればいるほど、どうしてクーが自分なんかと付き合っているのか不思議に思えてしょうがなかった。
一言で言えば、俺とクーは不似合いだった。
何でもこなし、言ってみれば完璧なクーと他に言い様が無い程に凡人な俺。
いつでも冷静で、決して慌てたりする事の無いクーといつでもテンパっている俺。
決して嘘は付かず、特に自分の気持ちには正直なクーと何かあればすぐに誤魔化そうとする小心者な俺。
そして、端整な顔立ちで美人なクーと……いや、もういいか。
ほんと、クーの告白は俺の見た都合のいい夢だったんじゃないかと、自分の記憶さえ疑った。
 そしてある日、追い詰められた気持ちだった俺はクーに聞いてみた。
そんな事を聞くなんてちょっとどうかとも思ったが、それでも聞いてみずにはいられ無い程に俺は自分に自信が無かった。
そして、そんな事を聞いた結果、俺は墓穴を掘るはめになってしまった。
「――あ、あのさ」
「何だ?」
「クーは俺のどこを好きになったんだ?」
努めてさりげなく、俺はクーに聞いた。
クーは俺をじっと見つめると、しばらく思案したあげく俺に聞き返してきた。
「答えないとダメか?」
「え? いや、その……」
予想外の答えに俺は言葉を詰まらせる。
そんな俺の様子を見て、少しするとクーは厳しい表情で睨むように俺を見つめ、口を開いた。
「私は――」
「いや! いいよ、いいよ――!」
俺はその視線にすくんでしまい、クーの言葉を慌てて制止すると、その後、曖昧な苦笑いでその場を濁してしまった。
しかし、心の中は不安が渦巻いていた。
何故答えられないんだろう? クーは果たして本当に俺の事が好きなんだろうか? もしかしたら、何かの罰ゲームとかで俺に告白したんじゃないか?
不安を解消するどころか、不安が増してしまい俺は自分がますます問題を大きくしてしまった事を感じていた。
でも、一番の問題は――。
クーが俺を本当に好きなんだろうかと悩みながらも、どこかで期待し、そしてクーが自分の横に居れば、それが結局は嬉しくてしょうがない自分だったりもするのだ。

(^ω^)
「――あ、あんたの為に作った訳じゃ無いんだからねっ」
待ち合わせ場所に現れたツンはそう言いながら、内藤にチョコレートを突き出した。

 そうして喜びとそして不安な一ヶ月を過ごし、バレンタインデーの今日、俺達は四人で遊びに行く約束をしていた。
計画したのは内藤だった。
遊びに行くというのは口実で、学校が休みで会えないから直接会って、チョコレートを貰おうという魂胆だったのだ。
それに内藤はクーにチョコレートがもらえないかも知れない、と打ち明けた俺の為にも四人で遊ぶ約束をしてくれたのだ。
曰く、「ツンが一緒だったらきっと前日にでもクーに渡すように言ってくれるお」だそうだ。
でも、そんなのでチョコレートを貰ってもしょうがないじゃないか。
だって、俺が欲しいのはただ単に貰える物体としてのチョコレートじゃなく、渡す人の気持ちの証としてのチョコレートなんだ。
――でも結局、俺はその計画に乗る事にした。
悲しい話だが、それでも俺はクーからチョコレートを貰いたかったのだ。

「――まったく、ツンは」
ツンからチョコレートを受け取りながら内藤が言う。
「毎年毎年、そんな事言って。分かってるお。バレンタインデーに他にどんな理由があってそんな事をするっていうんだお」
そうだよなぁ。バレンタインデーにチョコレートを作って渡すなんて、好きな人の為以外の何があるというんだ。
「なっ――!」
真っ赤になって絶句するツン。そんなツンに内藤が言う。
「でも、そんなところもかわいいお」
「ななななな――」
ツンはますます赤くなりながらもう言葉すら発する事が出来なくなっていた。
照れ、ここに極まれり。といった感じだ。
「ところで、クーはどうしたんだお?」
そんなツンに構いもせずに内藤が聞く。
聞かれたツンも話題が変わってほっとしたのか、赤い顔のまま咳払いをひとつして答えた。
「ちょっと遅れるってさっきメールがあったわ」
「そうなのかお。――じゃあ、僕達はあっちに行ってるお」
そう言うと内藤はツンを連れて待ち合わせ場所から離れて行った。
「え? ちょ、ちょっと……」
慌てて声をかける俺に内藤が振り返り、言った。
「せっかく初めてのバレンタインデーなんだから最初は二人きりで会うといいお」
「ちょっ、待っ、その肝心のチョコレートの話は――」
してくれたんだろうか? 俺の質問を聞きもせずに二人は戸惑う俺を置いて何処かへ行ってしまった。
……もしかして、お前達が二人きりになりたかっただけなんじゃないか?
心の中でそんなツッコミを入れながら、俺は期待と不安で押しつぶされそうになりながらクーを待った。

(^ω^)
 きっと、俺はその姿をどんな人ごみの中でも見つけ出せる。
交差点の向こうからやって来るクーを見つめながら俺はそう確信していた。
それは愛の力、と言いたい所だがクーのスペックに寄るところが大きかった。
ジーンズにベージュのジャケットといった普通の格好なのに、そのすらりと伸びた足やバランスのいいバストとウエスト、そして揺れる長い黒髪が否が応でもクーを目立たせていた。
俺は手を振ったりする事も忘れて、こっちにやって来るクーに見惚れていた。
「待たせてすまなかった。出かけようと思ったら自転車の空気が減っていて、ついでにチェーンに油を差したりしていたら遅れてしまった」
気が付けばクーは俺の目の前にいて、俺に話し掛けていた。
「……あ、……いや、いいよ。えーっと、俺も今来たところ」
そんなテンプレート通りの言葉を選択し、俺は自然と笑みがこぼれた。
するとクーは「そうか」と俺に微笑み返す。
……もう、心臓が止まるかと思った。
整った顔で普段の表情でもとんでもなく美人なのにそれが微笑んでいるのだ。しかも、俺に。
そして、ふとこんな美人からチョコレートが貰えるのだと思うと、止まるかと思った俺の心臓は今度は逆に活発に動き出した。
「――ツンと内藤は?」
だが、ドキドキする俺に対して、クーは一向にチョコレートをくれる気配を見せなかった。
「先に来てて、さっきあっちのお店の方に行っちゃったよ」
もしかして、くれないんだろうか?
段々と不安になり、活発だった心臓の動きはのろのろと元に戻っていく。
「じゃあ、行こうか」
「……そうだな」
やっぱりダメか。付き合っているというのにバレンタインデーにチョコレートすら貰えないのか。
そう思い、歩き出そうとした時だった。
「――そうだ、ドクオ。これ」
クーがそう言って、俺にリボンのかけられた袋を差し出してきた。
「え?」
「バレンタインデーのチョコレートだ」
突然の事に戸惑い、渡されたチョコレートを手に取ったまではよかったが、それからどうしたらいいのか分からなくなった。
「あ、ありが――」
そして、じわじわとやってきた喜びの中、やっと、まずはお礼を言わなければと思い、発した俺の言葉はそこで遮られた。
「言っておくが――」
「?」
クーは俺を真っ直ぐ見つめたまま、眉一つ動かさずに言った。
「君の為に作った訳では無い」

(^ω^)
「……え?」
中途半端に口を開いたまま、俺はクーとチョコレートを交互に見つめた。
そして、はたと思いつき、クーに聞く。
「クー。もしかして、照れてるのか?」
俺はにやけそうになる口を押さえつけるのに必死だった。
だが、クーは不思議そうに俺を見つめ、平然と言い返す。
「いや? 何故だ?」
「だって、好きな――」
好きな人の為に、と言おうと思ってやめた。
俺を見つめるクーの表情はまったく普段どおりで、照れている様子なんか微塵も無かった。
そして、クーがそう言うからにはそれは真実なのだろう。
このチョコレートは俺の為に作られたものでは無い。
やっぱり、クーは俺が好きじゃないのかもしれない。
俺の気分は急激に落ち込み、そして出て来たのは単純な質問だった。
「――じゃあ、何で?」
だってそうだろう? 照れ隠しでなく本当に俺の為では無いんだとすれば、何故クーは俺にチョコレート何かくれるんだ?
「ふむ――」
クーは腕を組んで言葉を選ぶ。そして視線を俺に戻すと言った。
「そうだな、つまりは見返りを求めているのだな」

(^ω^)
 はぁ……。俺は心の中で大きな溜め息をついた。
要はホワイトデーのお返し目当てって事か。
やっぱり、クーは俺の事、好きでもなんでも無いんだな。
俺の告白を受けたのもその為なのか? 見返り目的。じゃあ、ホワイトデーを過ぎたら俺は振られるって訳だ。
ショックで何も言えない俺にクーは無表情に続けて言う。
「そもそも、わたしはバレンタインなんてさして重要だとは思っていなかったのだよ。それで、昨日まであげるかどうするか悩んでいたんだ」
そうか、貰えないかもっていう俺の予想は当たっていたんだ。おめでとー、俺。
そしてつまり俺は――、ずっと片思いだったって事か。
俺の気分はどんどん落ち込み、クーを見ている事も辛く、落とした視線は地面を彷徨った。
「でも――」
その時、クーが言った。
「――でも、君が欲しいんじゃないかと思ってな」
俺は地面を見続け、クーは言葉を続ける。
「そして思ったのだ。あげたらきっと喜ぶな、と。そう思ったら――」
そしてクーが言った。
「そう思ったら、無性に作ってあげたくなったのだ。――何故なら私は、君の喜ぶ顔が見たかったんだ」
「――え?」
その言葉に引かれるように俺は視線を上げた。
「だから――、これは自分の為だ。自分の好きな人の笑顔という見返りが欲しかったのだ」
上げた視線の先、そこには柔らかく微笑むクーがいた。
「だから、そんな変な顔をするな」
そう言って、クーはくすっと笑った。
驚きと喜びで、その時、俺はどんな顔をしていたんだろう?

(^ω^)
 しばらく、馬鹿みたいに口を開けたままでいた俺は、ふとクーに聞いた。
「クー?」
「何だ?」
「――クーは俺のどこが好きなんだ?」
それは以前に聞き、そして答えを得る事の出来なかった質問だった。
「答えないとダメか?」
再び、そう聞き返すクー。しかし、俺は質問に質問を返す。
「どうして、答えてくれないんだ?」
すると、俺の質問にクーは平然と言い返した。
「だって――、そんな事をひとつひとつ伝えていたら大変じゃないか」
そうして、クーは肩をすくめる。
「……え? それだけ?」
「そうだ」
クーは悪びれもせずにそう言い返す。
――それだけの理由? ただ、言うのが面倒だから?
でも、それはクーらしいと言えば非常にクーらしかった。
なんだ、それだけだったのか――。
気の抜けた俺にクーが言う。
「それだけも何も、それを伝えるのにどれだけの言葉を必要とするか君は自覚しているのか?」
「い、いや……」
どれだけのってどれだけ言うつもりだ? いや、でもクーなら言いかねない。いやいや、それよりも俺にそんなに良い所があるのか?
いやいやいやいや、それよりも――。
俺は反省していた。自分の勝手な想像でクーの気持ちを疑っていた事を。
そうだ、それに今までクーがどんな事でも嘘を言った事があったか? 無いだろう?
クーのどんな言葉にも嘘が無いという事は知っていたじゃないか。それなのに俺は――。
俺は自分の自信の無さをクーのせいにしていただけじゃないか。本当なら俺が一番、真っ直ぐにその気持ちを受け止めてやらなければいけなかったのに――。
「……クー、ごめん」
「まったく――」
俺の謝罪をさっきのどれだけの言葉をという質問に対する答えと受け取ったのだろう。クーはしょうがないなぁという感じで微笑んだ。
「……だが、君がどうしてもと望むのであれば、伝えきれるかは分からないが努力はしてみよう」
そしてクーはそう言うと、俺を見つめた。
俺は何と言っていいのか分からずにただおろおろしていた。すると、その沈黙を肯定と受け取ったクーはふっと息を吐き俺を正面から見据え、言葉を紡ぎ始めた。
その視線は鋭く、まるで怒っているようだった。
「まず、私が君の中で一番好きなところは――」
言葉を紡ぎながらコワイ顔でじっと俺を睨むクー、その姿を見ていて俺ははたと気づき、クーに聞いた。
「クー。もしかして――」
クーは俺を睨み続ける。
「照れてるのか?」
良く見れば、クーの頬がほんのり桜色に染まっている。
クーは上目遣いに俺を睨んだまま答える。
「そうだ。自分の好きな人に自分の気持ちを伝えるんだ――」
照れるに決まっているじゃないか。そう言って、クーはじっと俺を睨んだまま、その頬をますます赤くさせた。


2009.2.14掲載


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