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内藤神社のホワイトデーのようです

(^ω^)
「何となく、見れば分かるけど――」
土曜日のその日、いつものように内藤神社へ行くとブーンが毎度おなじみ、御札を書いていた。
「何の御札なんだ、それ?」
「おっ、ドクオ」
ブーンが御札から顔を上げ、俺に笑いかける。
「これかお? ヒントは『秒速5センチメートル』だお」
「秒速5センチメートル? 新海誠の?」
「そうだお」と返事をして再び御札に向かうブーン。
ブーンはここ内藤神社の神主の息子で神社生まれ。
そして、神社生まれというだけあって法力が使える。こうして自分で作った御札にその力を注ぎ込むと様々な不思議な現象を引き起こす事が出来るのだ。
「秒速5センチメートルって言えばさー」
俺はそのヒントだという映画『秒速5センチメートル』のいわゆるネット上での評価を思い出した。
評価の一つ目はその画面の美しさを褒め称えるものだった。通常のアニメを遥かに越えた、緻密に書き込まれた背景。どこかのシーンを一コマ切り取っただけで美術作品になるそれは2.5次元アニメとさえ呼ばれている。
そして、もう一つの評判。それは、
「鬱アニメって言う人多いけどそんなに鬱かね?」
そう、鬱アニメ。『秒速5センチメートル』はそのストーリー故にそう評される場合があるのだ。
「ん? そうなのかお?」
「そうだよ、『耳をすませば』と並ぶ鬱アニメって評判だぜ」
俺はネットで書かれていた事をそのままブーンに話す。
「でもさー、俺は別に鬱にはならなかったんだよなー。ラストもふーんって感じで」
まぁ、ネットだし、半分はネタでそう言われているのだろうけれど。それとも、俺の感性が鈍いんだろうか?
「僕も――」
ブーンが顔を上げ、俺を見る。
「僕もツンと一緒に観たけど、別に鬱にはならなかったお」
「ふーん、ツンさんとね……」
ああ、そうかい……。俺は口をAの字にして肩をすくめる。
ツンさんというのはここの近所の寺のお嬢さんでブーンの幼馴染。年齢は俺達の2つ上の高校一年生。
そして――、どういう訳かこの二人は婚約しているのだ。
しかし、こいつにはこの歳でもう婚約者がいるというのに、俺には婚約どころか彼女どころ……。
あー、何か鬱になってきた。『秒速5センチメートル』、やっぱり鬱アニメなのか?

(^ω^)
「――そういえば、あの映画でさ。弓道の部活のシーンで矢が飛んで行く瞬間の音かっこいいよな、シャギーンって」
俺は鬱から逃れる為に話題を振る。
「あれは駄目な音なんだお」
「そうなのか?」
俺の振った話題にブーンが食いつき、なおかつ薀蓄を語り出す。
「そうだお。ちなみに、アニメの中で弓の音で一番かっこいいのは『もののけ姫』だお」
そう言ってにこりと笑うブーン。そういえば、神社の行事で弓使ったりするんだよな、こいつ。
「ふーん、じゃああれは音響監督のミスなのか?」
俺の疑問にブーンが答える。
「いや、きっとあの金属音は主人公の悩みを表しているんだお」
「音で悩みを表す?」
「そうだお。押し手が負けてるからあんな音がするんだお」
その後ブーンはノビアイがどうとかテノウチがどうとか言っていたが「ふーん」と俺はよく分からないままに頷いた。
「――演出として主人公の気持ちを間接的に表現しているんだと思うお」
ブーンは話を続け、俺に言った。
「それに、主題歌だってそうじゃないかお」
「ああ、《ワンモアタイム・ワンモアチャンス》か」
俺は山崎まさよしが唄う映画の主題歌を思い出して言った。
「あれって、告白しないまま会えなくなくなっちゃって後悔してる歌なんだよな」
少し状況は違うのかもしれないけれど、映画にはまさにぴったりの歌だった。劇中の第三話、この歌が流れてからのカットはほんとに痺れる位かっこいい。
それを聞いたブーンが俺を見て言う。
「そうだお。いつでも二度目のチャンスがあるとは限らないんだから、ドクオもそうならないように気をつけないとだお」
そして、ぼくは大丈夫だけど、とブーンはにやりと笑った。
「よけーなお世話だよ……」
俺は再び口をAの字にして呟いた。
……大体こちとら、そんな事になる前に好きな子がいねーってんだよ。

(^ω^)
「で? 何だっけ? ヒントが『秒速5センチメートル』?」
「よし、出来たお。……え? 何だお? あ、そうだお。それがヒントだお」
どうやら御札が完成したらしい、一瞬、自分で出したヒントの事を忘れたらしいブーンに俺は単純な答を返す。
「桜って事か?」
「ブブー、違うお」
ブーンが出来上がった御札を俺に見せながら答を言う。
「これは、雪を降らせる御札だお!」
やっぱりそうなのか。御札はよく分からない記号や文字らしき物で構成されたいたが、その真ん中に俺にも読める漢字ででっかく『雪』と書かれていた。そういえば、雪の降る速度も桜の舞い散る速度と同じ《秒速5センチメートル》なんだっけ。
俺は御札からブーンに視線を移して聞く。
「どうせ今日って事はホワイトデー用だろ? それで何で雪なんだよ?」
それにしても前回のバレンタインデーに続き、神社でホワイトデーって――ま、いっか。
「そうだお。ホワイトデー用だお。ツンにお返しをしてあげるんだお。でも――」
「でも、何だよ?」
「ただ普通のホワイトデーのお返しじゃあ駄目なんだお……」
「何で?」
やっぱり前回のバレンタインデーは高価なお返し目当てだったって事なのだろうか。でもそれでも雪と繋がらない。俺が聞くとブーンは意外な答を返した。
「今回のホワイトデーは、ツンの試験なんだお」
「試験?」
ますます混乱し、俺が聞き返すとブーンは溜め息を付いて説明を始めた。
「先月のバレンタインデー。あの後、ツンに言われたんだお――」

(^ω^)
ブーンの話はこうだった。
あの後、正気に戻ったツンさんは自分がどんな事を言ったのかを思い出した。
『よくもわたしに妙な術かけて――、へ、へへへ』
へへへへへ、とツンさんは真っ赤な顔をして中々その先を言えなかったらしい。
多分、その赤さは恥ずかしさと怒りのブレンドで出来ていたんだと思う。
まぁ、かなり普通な顔して「いよいよって時に服を脱いで」とか言っちゃったもんな。
そして、しばらく、へへへを繰り返したツンさんはごくりとつばを飲むとブーンに言った。
『――よくもわたしに変な事言わせたわね! 罰としてホワイトデーにはわたしを満足させるお返しをしなさい!』
それから、ブーンを睨み据えたまま、ツンさんは続けて宣言する。
『これは試験よ! もし、わたしが満足せずに不合格を出したらもう後は無いと思いなさい!』
鬼気迫るツンさんの勢いにブーンは『わ、わかったお』というのがやっとだったらしい。

(^ω^)
「――という事なんだお。だから今回の御札は気合を入れて作ったお」
ブーンは自分で作った御札を見返しながらそう言った。
「でもだから」
俺はもう一度ブーンに聞く。
「それで何で雪なんだって話だよ」
「何故ならば――!」
俺の質問にブーンは満面の笑顔で答えた。
「ホワイト・ホワイトデーにするんだお!」
「…………」
俺は絶句し、絶句する俺にブーンが説明を始めた。
「ん? 分からないかお? ほら、雪が降ったクリスマスはホワイト・クリスマスって言うじゃないかお。だからホワイトデーに雪を降らせてホワイト・ホワイトデー」
「いや、分かるけど……」
俺はブーンの顔を五秒間見つめ、聞いた。
「そんな駄洒落でいいのか?」
ブーンは笑顔のまま、自信たっぷりに言い返す。
「いいんだお。きっとツンには効果抜群だお」
「ふーん」
俺はにやりと笑って、ブーンに言った。
「ま、どうせまた効果が短くてツンさんが来る頃には期限切れでツンさんが泥だらけになっちゃうとかいうオチなんだろ」
「ノンノンノン」
ブーンが指を振る。
「言ったじゃないかお。今回は気合を入れて作ったって」
「へぇ〜。ま、お手並み拝見といこうかね」
俺はそう言ってブーンが御札に法力を込めるのを見守った。
やれやれ、今回は天気に効果を発揮する御札だからいつもみたいに俺自身が巻き込まれたりせずに済みそうだ。
俺がほっと胸をなでおろす中、ブーンは御札に法力を込め、最後に「はぁっ、おっ!」と叫んだ。
法力を込められた御札は眩く光り輝くと、直後、遥か上空に向かって一直線に昇って行った。

(^ω^)
「ブーン! 来たわよー!」
内藤神社に続く階段の下からツンさんの声が聞こえてきた。
あれから、空は急激に厚い雲に覆われ、そしてその雲からは本当に雪が降ってきていた。
但し、雪が降っているのは小高い丘の頂上に位置する内藤神社の敷地内だけで、ここから見下ろせる町の方にはこれっぽちも降っていなかった。
そして、雪はどんどんと積もり、やがて境内が真っ白になった頃、ツンさんがやって来たのだ。
「おっ、ツンが来たお。ちょっと迎えに行って来るお」
そう言って、ブーンはツンさんに「今行くおー」と返事をすると階段の下へ迎えに行った。
俺は周囲を見回す。……確かに、すごいと思うし雪は綺麗だけど、こんな事であのツンさんの怒りを収められるんだろうか? 俺は心配になりながらも、実はちょっとだけ事態を楽しんでいた。
「――まったく、大体ホワイトデーに自分の所に来いってどういう事? 何かくれるんだったらそっちから出向くべきでしょう?」
しばらくするとツンさんの文句を言う声が聞こえてきた。
ブーンとそして、そのブーンに手を引かれてツンさんが階段を昇って来る。
多分、ブーンの指示なんだろう、ツンさんは目をつぶっていて、階段を昇りながらぶつぶつと文句を言っていた。
「――それに呼びつけておいて、下で待ってろって何様よ!」
「――おまけに目を瞑ってついて来い!?」
「――ちょっとぉ! 目を瞑って階段を昇るのって結構恐いんだからちゃんと手握ってなさいよ!」
階段を昇りきり、境内に入ってもツンさんの文句は続く。
「――何だか寒いんだけど、何で? あんたんとこの神社、何か憑いてるんじゃないの?」
「――ちょっとぉ! 何か踏んでるんだけど、何か敷いてあるの?」
「――何か頭の方でカサカサ音がするけどあんた何か変な事してるんじゃないでしょうね!?」
雪が顔に当たってばれないようにブーンはこっそりツンさんの頭上に傘をさしていた。
そして、傘を取ると同時にブーンがツンさんに告げた。
「ツン! 目を開けていいお!」
ツンさんがゆっくりと目を開ける。
――きっと、ツンさんも驚いただろう。
そこは一面の雪景色。
雪は全てを覆い尽くし、いつもの世界は一変してしまっている。
境内の石畳も植え込みも社の屋根も、目に映るのは白一色。
そして、空からは白い雪がとどまる事を知らずに、秒速5センチメートルで降り続けている。
降りしきる雪の中、ツンさんは一言も発さずにただ立ち尽くしていた。

(^ω^)
ツンさんは降って来る雪に手を伸ばしそれでもまだ何も言わずに立ち尽くしていたが、やがてブーンに振り返り聞いた。
「……ブーン、これは?」
「ホワイト・ホワイトデーだお!」
振り返るツンさんにブーンは勢いだけでそう答える。
「ば――」
ブーンの言葉にツンさんはそっぽを向く。
「ばっかじゃないの?」
そして、そう言うとツンさんは再び雪が降る空を見上げてしまった。
…………ほら、やっぱり呆れてるよ。
ツンさんの膨らませた頬に、俺はブーンの失敗を悟り、ブーンをちらりと見る。
だけど、ブーンはそんな事にまったく気付いていない。にこにこと笑ったままブーンはポケットから透明な箱に入った何かを取り出した。
「これ、ツンへのプレゼントだお」
そして、ブーンがはい、とツンさんに渡したそれは、雪ウサギみたいな真っ白でまあるいホワイトチョコだった。
「――どうだお? 僕のホワイトデーは合格かお?」
ブーンが笑顔でツンさんに尋ねる。
渡されたホワイトチョコを両手で受け取ったツンさんはしばらくそれを眺めていたが、やがて視線を上げまるで睨むかのような視線でブーンを見た。
しかし、相変わらずブーンはそんなツンさんの様子にも気付きもせず、更に得意気に「それにほら! 痩せたんだお!」とあごの下を見せる。
「――――何よ、ちょっと痩せたくらいで」
ツンさんがブーンを睨んだまま言う。
「それにせっかくここのところ暖かくなって来たのにまた寒くなったし……」
嗚呼――、やっぱり怒られるよ。残念だったなブーン、まぁこんな単純な事で女の子を喜ばせようなんて甘いんだよ、きっと。
「――大体、もうすぐ咲く気になってた桜が可哀想じゃない!」
文句を言い続けるツンさん。
だがその時、ふと言葉を切り「でも――」とブーンを見つめ、言った。
「ありがと……」
……はぁ〜。またこの展開か。
ブーンを上目遣いに見つめ頬を赤くするツンさんといつもの笑顔で微笑むブーン。
見詰め合ったまま佇む二人。
そして俺はと言えば、――ウツダ。

(^ω^)
「――あの〜、ロマンチックな気分のところ、申し訳無いんだけど」
どれくらいの時間が経過しただろう。俺は見詰め合ったまま目で会話をしているとおぼしき二人に声をかけた。
「雪がすごい事になってるんだけど……」
周囲を見れば、既に豪雪地帯のごとく雪が降り積もり、そしてそれは更に高さを増そうとしている。
降って来る雪の量もどんどんと増え、このままだと間もなく視界が0になってしまう。
そして、視界を覆おうとする雪の合間から町の方を見れば、そこにも既にかなりの量の雪が降り積もっていた。
「おっおっおっ、ちょっと効果が強すぎたお」
「下では今頃、異常気象だって騒いでいるわよ」
ブーンが笑い、ツンさんの声は少しはしゃいでいるように聞こえた。
「――それにしてもほんと、積もって来たわね」
それから改めて周囲を見回し、そう言ってツンさんがブーンを見た。
「何しろ今回の御札は気合を入れて作ったお」
ブーンが自慢気にそう言い返す。
そして、そんなブーンに俺とツンさんが聞いたのはほぼ同時だった。
「――で、これはいつまで降るの?」
「――で、これはいつまで降るんだよ?」
俺とツンさんの質問にブーンは更に自慢気に胸を張って答える。
「一ヶ月だお!」
「いっ――――」
――――いいい、一ヶ月ぅ!?

(^ω^)
「あほかー!!」
ツンさんが怒鳴り声が境内に響き渡り、木に積もった雪がばさっと落ちる。
「あんた、一ヶ月も雪が降り続いたらどうなるか分かってんの!? それも、ここだけならまだしも町まで降ってるじゃない!」
ツンさんの怒声を意にも介さず、笑顔のまま答えるブーン。
「きっと、町じゅう真っ白になって綺麗きれいだお」
ブーンの呑気な返事にツンさんが溜め息をつく。
「あんたねぇ……」
「お?」
「分からないの!? このまま一ヶ月も振り続いたら町が雪で埋もれちゃうわよ!」
「おっおっおっ、そしたらボードで学校に行けるお」
そう言って笑うブーン。
ツンさんが再び溜め息をつく。そして、キッとブーンを睨むと「馬鹿っ!」と怒鳴りそのままの勢いで畳み掛ける。
「このまま一日に1メートル積もったとしたら、一ヶ月で30メートルよ! 10階建てのビルが埋まっちゃうじゃない! ボードどころの騒ぎじゃないわよ!」
……え? ほんとか? 30メートル? うーん――。俺はちょっと考えてしまった。まぁ、一ヶ月も雪が降ったら大変な事に変わりはないけど。
だが、それを聞いたブーンは「さ、さんじゅうメートルかお!?」と驚くとおろおろと慌て始めた。
「ど、どうしよう……。僕が――」
ブーンは真っ青な顔で呟く。
「僕が、――世界を滅亡させちゃうのかお?」
ブーンの頭の中では俺の想像を遥かに越えた大惨事が発生しているらしい。ブーンは泣きそうな声でツンさんにすがる。
「ツン、助けてだお〜!」
ツンさんは三度目の溜め息をつく。
「…………はぁ、まったく」
そして、空を見上げると雪雲に向かって手を伸ばし、軽く息を吸うと、次の瞬間、
「破ぁ!!!」
ツンさんが掛け声と共に手から気を発した。発せられた気は一本の光の筋となって雪雲を突き破り空に伸びて行く。
数秒後、空の向こうからカシャーンと何かが割れるような音が聞こえて来た。
そしてそれと同時に降雪がだんだんと弱まり始めた。
ちらほらと雪が降る中、ツンさんの気が通過した個所には雲にぽっかりと穴が穿たれ青空が覗いていた。

(^ω^)
「あ、あの〜。ツン?」
やがて、完全に雪の止んだ空から視線を下げ、ブーンがおずおずとツンさんの顔を覗き込む。
「帰る」
覗き込もうとするブーンに一瞥もくれずにツンさんはそう言うと階段に向かって歩き始めた。
「……あ、お帰りですかお?」
そう言ってツンさんの後をついて歩きながらブーンはそっとツンさんに聞いた。
「――ほ、ホワイトデーはどうでしたかお? 満足していただけましたかお?」
ツンさんはぴたりと足を止めるとブーンに振り返り、一言だけ言った。
「不合格」
「ふ、不合格? じゃ、じゃあ――?」
「お別れよ、ブーン。帰ってお父様に婚約解消を伝えるわ」
焦るブーンにツンさんはそう言うと再び階段に向かって歩き始めた。
空は何時の間にか今度は自然の雲に覆われ始め、辺りは薄暗くなってきていた。
「そ、そんな……。も、もう一回やり直させて欲しいお! 今度はちゃんと考えて降らせるお」
「だめよ。それに――うっかり感動しちゃったけど、ホワイト・ホワイトデーって、考えたらただの駄洒落じゃない!」
「そ、それは……」
口を尖らせるツンさんと口ごもるブーン。
「じゃ、じゃあ違うの考えるからもう一度だけやらせてほしいお!」
「いいえ、あれが最後のチャンスでした。『もう一度』はありません」
「そ、そこを何とか! 次が本当に最後でいいですから、もう一度だけ! もう一度だけチャンスを! お願いしますお、ツン先生!」
「だ・め・よ!」
そんな言い合いをしながら二人は階段を降りて行き、やがてその姿は見えなくなった。
――まぁ、あんな事を言いつつしっかりブーンにもらったチョコレート、大事そうに持ってるしツンさん、婚約解消したりなんかしないんだろうな。
「さて、俺も――は、は、はぁっくしょん!」
ずー、と俺は鼻をすすった。……何だか寒気がする。どうやら風邪をひいたらしい。
やれやれ、今回は巻き込まれずに済みそうだと思ったのに。
空を見れば、そこはすっかり雲に覆われ、雪こそ降らないが気温がかなり下がっていた。
「……帰って風呂でも入ろう」
一人ぽつんと取り残された俺はぶるっと身震いしてそう呟いた。
そうして、家に帰る為に内藤神社の階段を降り始めた頃、
「ツーン! ワンモアタイム、ワンモアチャンス、お願いだおー!」
遠くからそう叫ぶブーンの声が聞こえて来た。


2009.3.15掲載


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