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内藤神社が鷽替え神事を行うようです

(^ω^)
 その日、学校は休みでいつものように内藤神社に遊びに行くとブーンの姿は見えなかった。
「ブーン、いないのかー?」
俺は内藤神社の境内をうろうろとブーンを探して歩いた。
ブーンは俺と同じ中学二年生で、中一から同じクラスの友人だ。
本殿の横を通ると、ふいに中から何かの音がした。
俺は本殿の横に設置された小さい窓状の扉を開け、中を覗いた。
すると中ではブーンが半紙に何かを書き込んでいた。
黒と赤の墨を使って読めそうで読めない字と絵みたいなものが書き込まれている。
「何だ? また何か始めるのか?」
俺が聞くとブーンが顔を上げた。
「あ、ドクオ」
「それ、新しい御札だろ? 今度は何を始めるんだ?」
俺の質問にブーンは再び半紙に向き直り、続きを書きながら答えた。
「鷽替え神事だお」
筆をとっかえひっかえしながらブーンはどんどん記号を書き込んでいく。
ブーンはこの内藤神社の神主の息子で、神社生まれというだけあって法力がある。
こうして半紙で作った御札にその力を注ぎ込むと様々な現象を引き起こす事が出来るのだ。
「――さて、準備は完了だお」
ブーンが筆を置き、俺に書き上がった御札を見せ、にこにこと微笑みながら言った。
「で? そのウソカエシンジってのは何なんだ?」
始めて聞くその名に俺はブーンにそう聞く。だがブーンはにこにこと微笑んだまま飄々と答えた。
「よく知らないお」
「いや、知らないってお前。これからやるんだろ?」
「そうだお。昨日のニュースでやってて名前が面白そうだったから家の神社でもやってみようって思っただけだお」
「……ちょっと待ってろ」
俺は溜め息をつき、携帯で鷽替え神事について調べてみた。
「えーっと、なになに?」
俺は携帯の画面に表示されている内容から鷽替え神事がどんなものなのかを読み上げた。
「行事としては、鷽という鳥の木像を正月に神社に行って新しい物と取り替える、らしいぞ」
「へぇ、そうなのかお」
他人事のようにそう言うブーンを無視して俺はその意味を読み上げる。
「その意味と解釈は、昨年の悪い出来事を嘘にして返し今年の吉に取り替える。昨年中に話した嘘を嘘に託して返し罪を償う。嘘が真になって福を呼ぶ、だってさ」
「色んなのがあるのかお?」
感心したようにそう聞いてくるブーンに俺は答えた。
「そうみたいだな。――で? 見たところ鷽の用意をしてないし、それどころか内容も知らなかったお前はどんな事をやろうとしてたんだ?」
俺の質問にブーンは満面の笑顔を返す。
「内藤神社は常にオリジナルで勝負だお」
「勝負って……」
誰とするんだ? というかそもそもオリジナルの神事っていいのか?
思わず口をAの字にして黙り込んでしまった俺にブーンは胸を張って言った。
「内藤神社流鷽替え神事は《嘘変え神事》、『嘘を本当に変える』神事だお」

(^ω^)
「……はぁ?」
聞き返す俺にブーンがもう一度言う。
「だから、ついた嘘が本当になるんだお」
「意味が分かんねーよ」
俺は肩をすくめた。
「んー。例えば」
ブーンが窓から空を見上げて言った。
「『今日は天気が良い。そしてそれは嘘だ』と言ったら『天気が良い』は嘘になって『雨が降る』んだお」
天気が良いのは嘘だと言ったら雨になる? 何だか某猫型ロボットがそんな道具持って無かったか?
「――でも」
俺はブーンに聞く。
「誰が得するんだよ? そんな神事」
俺の問いにブーンが唐突に聞いてきた。
「ドクオ、『嘘だと言ってよ、ジョー』って知ってるかお?」
「ああ、知ってる」
俺の答えをまるで聞いてないかのようにブーンが説明を始めた。
「違うお、ドクオ。『嘘だと言ってよ、ジョー』って言うのは昔大リーグで――あれ?」
ブーンはそこで言葉を切って、俺を見つめおかしな顔をする。
「何だよ?」
聞き返すと俺にブーンは憮然とした表情で言った。
「ドクオ。そこは『「ジョー? バーニィだろ?』って言うところだお」
「ああ――」
俺は肩をすくめ、ブーンに告げた。
「俺も、見たよあのドラマ」
そうなのかお、とブーンも肩をすくめる。
「……それにしても、衝撃的だったよな。まさか元ネタがあったとはさ」
「まったくだお……」
うーん、と俺達は腕を組んで唸った。
「で?」
「ん?」
「いや、だから『嘘だと言ってよ』がどうしたんだ?」
俺の再度の質問にブーンは思い出したように話を再開した。
「えーっと……。まぁ、ともかく、嘘が求められる場面もあるって事だお」
ふーん、と俺は返事をした。「よく分からないけど、まぁいいか」
俺の返事にブーンがにっこりと笑い、言った。
「じゃあ、やってみるお」

(^ω^)
 ブーンが御札を持って本殿から出て来た。
そして、まるで壁に貼り付けるかのようにひょいと御札を空中に留まらせた。
これも法力によるものなのだが、あんまりにも簡単にやるので返って不思議な事に見えない。
「すごいよなー」
思わず呟く俺にブーンが照れたように言い返す。
「僕なんかまだまだだお」
「――Tさんか」
ブーンの返事に俺は聞き返す。
Tさんとは俺達の2つ上の先輩で、今は高校一年生だが、寺生まれでその法力はもう別格だった。
ブーンとTさんはお互い近所の寺と神社という事で生まれた頃からの付き合いがあり、所謂幼馴染というやつだった。
そしてついでにブーンとTさんは――、
「何でイニシャルなんだお?」
ふいにブーンが聞き返してくる。
俺は周囲をきょろきょろと見回しながら答えた。
「いや、何だか名前出したら出てきそうで――」
「出てくると何かまずいのかお?」
聞き返すブーンに俺は少し考えて答える。
「――いや、あの人さ、こっちが何かで誉めたりしても怒鳴り返してきたりするじゃん」
おっおっおっ、とブーンが笑った。
「そういえばそうだお」
実は俺の答えは嘘だった。本当はただ単にブーンとTさんの二人が一緒にいるところを見たくなかったのだ。
「でも――」
俺はその事が感づかれないように話を振る。
「お前はこの先ずっと一緒にいるんだろ?」
俺の言葉にブーンはにっこりと笑った。

(^ω^)
「――さて」
ブーンが再び御札に向き直りふっと息を吐いた。
「始めるお」
そう言うとブーンは胸の前で両手の平を合わせ、目を閉じて力を込め始めた。
「ふぉぉぉぉぉっ!」
ブーンの掛け声と共に法力がお札に注ぎ込まれているのだろうか、空中に浮いた御札は風を受けたようにはためいた。
そうしてしばらく法力を注ぐと最後にブーンが叫んだ。
「はぁっ、お!」
すると御札は一瞬まばゆく光り、それからしばらく余韻ではためき、やがて全てが停止した。
「ふぅ――」
全てを見届け、ブーンが俺に振り返る。
「これで準備完了だお」
俺はもう一度御札を見て、ブーンに聞く。
「これで、嘘をつくとその嘘が本当になるのか?」
「そうだお。じゃあ早速試してみるお」
そう言うとブーンはきょろきょろと周囲を見回し、やがて何かを思いついたかのように微笑んだ。
そして、ブーンの口から言葉が発された。
「境内が汚い」
ブーンはそこで一呼吸置き、それから続けて言葉を吐いた。
「――というのは嘘だお」
その瞬間、御札に書かれた記号や絵が光り輝きながら半紙から浮き出るように動き始めた。
記号や絵はどんどん大きくなり、そしてその光はどんどんと輝きを増し、やがて全てが光に包まれ、俺はその眩しさに思わず目を閉じた。
「――よし、成功だお」
ブーンの声に俺は閉じていた目をゆっくりと開ける。
すると、驚いた事に境内は一分の隙も無いほどに綺麗になっていた。
ゴミの一つ、落ち葉の一枚も無く、地面は整備され、石畳には土の一片もこびりついていない。
「すげー!」
俺は心の底から驚き、感嘆の声を上げた。
「俺も! 俺も試していいか!?」
興奮してそう聞く俺にブーンはいいお、と頷く。
俺は辺りを見回し、ある物に目を付けた。
ふぅっと一呼吸して、俺は言葉を発する。
「桜の花が咲いていない」
そして、言葉を紡いだ。
「――というのは嘘」
俺の言葉に呼応して御札が光り輝き、気が付くと境内には桜吹雪が舞っていた。

(^ω^)
 舞い散る桜を俺は呆けたように見つめていた。
「……ほんとにすげえな」
驚きを越えた感動で、叫ぶ事なく俺は静かにそう言った。
すると背後からふっふっふ、とブーンが笑う声が聞こえた。
「これだけじゃないお、ドクオ」
ブーンはにやりと笑うと続けて言った。
「この内藤流鷽替え神事は、どんな真実であっても、例えそれが過去の事であっても『嘘だ』と言いさえすれば嘘になるんだお」
「ん? どういう事だよ?」
聞き返す俺にブーンがさっと一枚の紙を見せた。
それは先週やった数学のテストの答案で、ブーンの点数は見事に赤点だった。
ブーンはその答案を手に持ち、言葉を発した。
「数学で赤点取っちゃった。――というのは嘘だお」
すると、御札が輝き、答案用紙の上では点数の文字が生き物のように蠢きその形を変え始めた。
そして数字は動きを止め、その点数は31点になっていた。ギリギリだが、それは間違い無く赤点では無かった。
ブーンが赤点を取ったという事実は「嘘」になっていた。
「――すすす、すごいじゃないか!」
俺はそれを見て再び叫んだ。
そして、それと同時に動揺し、背筋が冷たくなる思いだった。
説明を聞いている段階ではピンと来なかったが、これは本当に何でも出来る魔法の神事じゃないか。
ブーンの見せた見本はとても小規模だったが、これは悪用すれば何でも出来る。
全てを自分の都合のいいように作り変え、更に過去に起こった取り返しのつかない事も全部嘘に出来る。
その気になれば、それこそ世界征服だって可能だ。
その事に気づいているのかいないのか。ブーンはただニコニコと自慢気に笑っている。
「ブーン……」
俺は恐る恐るブーンに聞く。
「お前、これがあれば世界が征服出来るって分かってるか?」

(^ω^)
「うん、分かってるお」
ブーンは即答する。
「でも――」
そして、相変わらず微笑んだまま続けた。
「なんだよ?」
聞き返す俺にブーンが言った。
「今日一日しか効果が無いお」
「……え?」
「僕の法力じゃあそれが限界だお。明日にはすっかり元通り」
何をやっても今日一日だけの事?
「じゃ、じゃあ――、例え世界を征服したとしても、今咲いているこの桜も、それどころかさっきの赤点でさえも明日には元通り?」
「そうだお」
俺の質問にブーンは淡々と答える。
そうだお、って――。
俺は今までの緊張と世界の命運を背負わされたかのような重圧から一気に開放され、何だかそんな事を考えていた自分が馬鹿らしく思え、そして、その脱力感と何とも言えない感情を怒りに変えてブーンに向けた。
「何だよ! それじゃあ全然意味がねーじゃねーか!」
突然、俺に怒鳴りつけられたブーンは一瞬、驚いたようだったがすぐに言い返して来て、それから俺たちは言い争いを始めた。
「何だお! しょうがないじゃないかだお!」
「大体、お前のやる事はいっつもこうだよ! お前の法力なんか全然すごくねーよ!」
「ドクオなんかその法力でさえ持ってないじゃないかだお!」
「うるせー、このハゲ! そんな役立たずの力なんかいらないわい!」
「役立たずなんかじゃないお! それにそもそもブーンはハゲじゃないお!」
そこで俺はふとある事を思い付き、ブーンに言ってやった。
「そうだよ。お前はハゲじゃないよ」
「そうだお。ブーンはハゲじゃないお!」
口をとがらせてそう言うブーン。そして俺は言葉を続けた。
「――というのは嘘だ」
御札が光った。
その光はブーンの頭部を包み込み、眩く輝く。そして直後、その光は消え、光の中から現れたブーンの頭はみごとなつるっぱげになっていた。
「ふぉぉぉ!?」
手水舎に置かれた鏡に映る自分を見て驚くブーン、そして俺は腹を抱えて笑った。

(^ω^)
 ハゲブーンは目を三角にして怒り、自分で嘘をついた。
「ブーンはハゲだお。そしてそれは嘘だお」
またも御札が光り、ブーンの頭は元に戻った。
そしてブーンは続けて言う。
「ドクオはちょんまげじゃないお――」
俺があっと思う間も無くブーンは言葉を続けた。
「嘘だお!」
御札が光り、俺の頭はみごとなちょんまげになっていた。
「あっははははは!」
ブーンがそんな俺を見て、笑い転げる。
俺は自分でちょんまげを嘘にし、ブーンに攻撃をしかける。
「ブーンには眉毛がある。嘘!」
ブーンから眉毛が消える。
「うぉっ! 恐っ!」
また笑ってやろうと思ったのにその意外な恐さに俺は思わず引いてしまった。
「ブーンに眉毛が無いのは嘘だお。そして、ドクオには長い眉毛が生えていない、というのも嘘だお」
ブーンに眉毛が戻り、俺の眉毛が信じられない程伸びた。
「あーっはっは。ドクオ、いつか首相になれるかもだお」
そう言って、笑うブーン。
「くそーっ!」
そうやって俺たちはお互いに色々な嘘で相手を変な姿にするという闘いを始めた。
攻撃をし、攻撃を受け、それをキャンセルするという果てしない闘い。
「ブーンは童貞じゃない!」
「ドクオは童貞じゃないお!」
何度目かの攻撃時、お互いに同じ嘘を仕掛けた。一瞬の緊張の後、ごくりと息を飲むと俺達は同時に言葉を発した。
「「それは嘘だ(お)!」」
――――――。
俺達の言葉に続いて起こったのは静寂だった。
御札は光らず、俺達の体にも何の変化も無い。
「「ふ、ふひひ……」」
お互いに苦笑いをし、そして同時にホッとしていた。
「そうだよなー、これが普通だよなー。中学生になっても許されるよなー」
「そうだお。小学生まで何てあり得ないお」
頬を引きつらせたまま笑い合う俺とブーン。
しかし、ホッとして気を抜いた俺にブーンが再び攻撃を仕掛けた。
「ドクオの足は長い、というのは嘘だお!」
ただでさえ長いとは言えない俺の足はまるでデフォルメされたようになり、俺はあわててそれをキャンセルし、ブーンに攻撃をしかける。
「ブーンの体は上半身だけがCLAMPデザインじゃないというのは嘘だ!」
そうして俺達の闘いは続いた。
お札はピカピカと光り、俺達の姿はコロコロと変わっていた。

(^ω^)
 そうして30分が経った頃、俺達は大変な事になっていた。
重ねに重ねた嘘。そして自分の姿を戻す時にも嘘を言わないといけないというややこしさから、戻すのに失敗したりしていたり、更には自分の受けた攻撃をキャンセルする間も無く相手を攻撃していたりもした。
その結果、俺達の姿はと言えば髪がアフロだったり猫耳だったり尻尾が生えていたり翼が生えていたり、とても人間とは思えないものになっていた。
ただ、本当にグロテスクな嘘をついた時には攻撃した本人がそれを見てびびってしまいすぐにキャンセルしたので腕が複数生えているとか肌が緑色とかいった事は無いのが唯一の救いだった。
でも、俺達の体は何時の間にか嘘でキャンセルする事が出来なくなってしまっていた。

「ブーン、いるー?」
その時、内藤神社に続く階段を登って来る声が聞こえた。
それはTさんの声だった。
「あら? 何でここ、桜が咲いてるの?」
そんな事を言いながらTさんは境内に入って来て、そして俺達の姿を見た。
「……あんた達、何やってんの?」
「ツン! 助けてだお――!」
きょとんとするTさんにブーンが泣きつく。
そうして、ブーンは何があったのかをTさんことツンさんに説明し始めた。
「多分、ついた順番に嘘を解いていかないといけないんだお。でも、途中でキャンセルしたのがあったりで、もうそんな順番忘れちゃったお」
「――まったく、相変わらず馬鹿ね」
ツンさんはそう言うと笑いながら言った。
「どうせ明日になったら戻るんでしょ? そのままでいれば?」
それにしても、俺達のこんな姿を見てもちっとも動揺しないとは、やっぱり寺生まれってすごい。……のかもしれない。
「ツン〜。お願いだお、助けてお〜」
泣きつくブーンにツンさんは仕方ないなぁ、という風に肩をすくめた。
そしてツンさんはすいっとその手を俺達にかざし、それから小さく息を吸った。
「破ぁ!!!」
ツンさんの気合いと共に俺達に強力な衝撃波が当たる。そしてその衝撃で余分なパーツが風に吹き飛ばされるように剥がれ、遥か天空へと散って行った。

(^ω^)
 俺達は鏡を見、そして自分の頭や尻尾の生えていたお尻、背中なんかを触って確認し、そこに余分な物が無い事を確認すると大きなため息をついた。
「はぁ〜、助かった……」
ブーンはツンさんを見上げ、泣きそうな顔でお礼を言っていた。
「助かったお。ツン、ありがとうだお」
「――ほんと、いつまで経っても成長しないわね、あんたは」
呆れたようにそう言ってブーンを見るツンさん。でも、その眼差しはとても温かいものだった。
表面上はあんまりそんなそぶりは見えないが、ブーンとツンさんがお互いに好きあっているのは近くにいればすごく感じる事が出来た。
つまり、俺がブーンとツンさんが二人でいるところを見たくないのはそういう訳だ。
まったく、こっちは彼女どころか好きな子の一人もいないってのに。
しかも何と、ツンさんはブーンと婚約している。
まったく、こっちは婚約者どころか以下略。
しかしこんな年齢で、いやそもそも神社の息子と寺の娘が婚約ってどうなんだ? 将来はどうなるんだ? あ、あれか神宮寺ってやつになるのか?
くっそ、それにしても何で――
「ツンさん、何でこんなのと婚約してるんですか? っていうかこいつの何処が好きなんですか?」
俺は何でか腹立たしくなってツンさんにストレートに聞いてみた。
まったくツンさんはこんなあほうの何処に惹かれているんだか。
「ねぇ、ツンさん?」
返事が無いのでツンさんの方を見るとツンさんは「なっ、なっ、なっ、何言って――」と真っ赤になってしまい、まともに話が出来なくなってしまっていた。
すると、そんなツンさんの横からブーンがさらりと言った。
「ツンが僕と結婚するって言って聞かなかったんだお」
「そっ、そんなの――」
ブーンの言葉に、真っ赤になってあわあわしていたツンさんはその赤さを増し、怒鳴るように補足した。
「そ、そんなの子供の頃の話よ!」
それを聞いたブーンが更に平然と補足する。
「そうだお。子供の頃の話だお。ツンはぼくのことが大好きですぐに結婚したかったんだけど、まだ子供だから出来無いって知ったら泣いて大変だったんだお。だから、婚約する事になったんだお」
「な、泣いてなんか無いわよ!」
慌てて取り繕うツンさん。照れと恥ずかしさからか半分、怒ったような口調だった。しかしブーンはそんなツンさんに気付きもせずに続ける。
「泣いてたお。そりゃあもう大変だったお。僕の両親もツンの両親も困り果てておろおろしてたお」
そうして、ブーンはにっこりと笑いツンさんに振り返った。
するとツンさんが腕を組んでそっぽを向き、拗ねるような口調で言った。
「あ、あんなの嘘泣きよ! そ、それに結婚したいとかも嘘だったんだから! あんたの事なんて何とも思って無いわよ!」
――その瞬間、御札が光り輝いた。

(^ω^)
「……あれ?」
次の瞬間、ツンさんはまるで得体の知れないものでも見るかのような冷たい視線でブーンを見つめ、呟いた。
「そうよ――。わたし、こんな好きでも何でもない奴なんかと何で婚約してるんだろう」
そしてふらふらと方向を変え、神社の出口に向かって歩き出した。
「そうだ。早く帰って、お父様に言って婚約解消してもらおう」
ぶつぶつと呟きながらツンさんは歩く。
「……ツ、ツン?」
慌ててブーンが駆け寄るがツンさんはきっと睨みつけて拒絶する。
「何よ、近寄らないでよ!」
「ツ、ツン〜」
睨まれたブーンは怯み、数歩の距離を置いてそれでも、歩き続けるツンさんの後を追いかける。
ツンさんとブーンは階段を降り始め、俺もそれを追って階段の所まで来た。
待ってだお。近寄らないでよ。と言い合いながら二人は階段を降りて行き、一番下まで着くとツンさんは置いてあった自転車に乗り、ブーンの事なんかお構いなしに走り出した。
「ツン〜! 話を聞いてだお〜!」
「付いて来ないでよ! あんたの事なんか好きでも何でも無いって言ってるでしょ!」
叫びながら追いかけるブーンと振り返りもせずに走るツンさんの自転車。
俺は階段の上から小さくなっていく二人を見つめていた。
――まぁ、どうせ明日には元通りなんだろうけどさ。
「……さて、俺も帰ろうかな」
一人ぽつんと取り残された俺はそう呟いて階段を降り始めた。
そうして、階段を降り、二人が向かったのとは逆の方向に歩き始めた頃、
「嘘だと言ってお、ツン〜」
遠くからそう叫ぶブーンの声が聞こえて来た。


2009.1.26掲載


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