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ツンのクリスマスのようです

(^ω^)
「何だよ、ツンはまだサンタクロースなんて信じてるのか?」
12月24日、学校で隣りの席のドクオ君がそう言って笑った。
それから自慢気に「子供だなー」なんて言う。
返事の出来無いわたしに代わり、前の席に座っているわたしの親友、クーが鋭い眼光で振り返った。
「なん……だと……?」
「……だ、だからサンタクロース何ていないってーの」
クーの迫力にドクオ君は少し怯みながらももう一度そう言った。
クーが椅子を回してこちらを向く。
「じゃあ、毎年私にプレゼントをくれるのは一体どこの誰だと言うのだ」
クーの質問にドクオ君が得意気に答える。
「それはクーのお父さんかお母さんだよ」
そして、「サンタなんて大人達が作り上げた嘘なんだぜ」とまるで自分は世界の全てを知っているかのような態度で言う。
その言葉にクーがギラリとドクオを睨んだ。
「……あ、えっと、――そうだ、俺、あっちに用があったんだ」
ドクオはおどおどとそう呟くとそのままふらふらと何処かへ行ってしまった。
わたしが再びクーに視線を戻すと、怒っているのかと思ったクーは肩を落とし俯いていた。
「クー?」
わたしが声をかけるとクーは俯いたまま寂しそうに呟いた。
「……そうか、サンタクロースはいないのか」
そして顔をあげると今にも泣きそうな顔で言った。
「薄々、そんな気もしていたんだ……」
それを聞いてわたしは少し後ろめたいような気持ちになった。
実はわたしも最近になってそんな気がしていた。
けれど、それを口に出しては言う事は出来なかった。
だって、口に出して言ったら本当にサンタクロースはいなくなってしまうような気がしたのだ。
そして、何だか大事な夢を無くしてしまうような気がしていたのだ。
「――でも」
クーが窓から外を見ながら呟く。
「何故、大人達はそんな嘘を必死になってつくんだろうな」
そう言って、再び俯くクーは何だかとても小さく見えた。
わたしはクーに「大丈夫だよ」と何が大丈夫なんだか分からないのにそう言って慰め、そして、とりあえずドクオは後で泣かせておいた。

(^ω^)
「ねぇ、サンタクロースは本当にいるの?」
家に帰って、わたしはママにそう聞いた。
「そうねー、ママはいると思うんだけど」
「ママはサンタクロースに会った事ある?」
わたしの質問にママは人差し指を口に当て上を見ながら「うーん」と考え、答えた。
「――無いわね」
「…………」
口をとがらせ頬を膨らませるわたしを見てママがふふっと笑った。
「じゃあ、パパが帰って来たら聞いてみようか」
「……うん」

 そして、夜になりパパが帰って来た。
「ただいまだおー」
ケーキの箱を手にパパは上機嫌でリビングに入って来る。
「――パパ、聞きたい事があるんだけど」
「なんだお?」
わたしがパパに近付くとパパはたばこの匂いがした。きっと帰り道、どこかで吸って来たんだ。
「……パパ、たばこ臭い」
わたしは本来の目的も忘れ、パパにそう言った。
「ああっ、ごめんだお! バスが来るまでの間、時間が長かったからつい吸っちゃったんだお」
パパはそう言うとコートを脱ぎに行き、それから洗面所にうがいをしに行った。
わたしはたばこの匂いが嫌いだった。
だから、パパの事は嫌いでは無いけれど、たばこの匂いのするパパは嫌いだった。
どうしてあんなもの吸うんだろう?
「――さて、これで大丈夫かお? それで、聞きたい事って何だお?」
パパがすっかり着替えてリビングに戻って来た。

(^ω^)
「パパ」
「はいはい、なんだお?」
「――サンタクロースって、いないの?」
「ささささささ、サンタクロースかお!?」
動揺しまくり、すがるような目でママを見るパパ。
しかし、ママはにこっと微笑むと「どうなんだろうね?」とパパに聞き返した。
「そそそ、そんな事無いお!」
パパはがたっと椅子を倒して勢いよく立ち上がった。
そして、手をぐっと握りそのままの勢いで言った。
「サンタさんはいるお!」
それから、わたしを見下ろし聞いて来る。
「ツンだって、毎年プレゼントもらってるじゃないかだお!」
「でも――」
わたしはパパを見上げて答えた。
「でも、いつもプレゼントは置いて行ってくれるけど会ったことは無いし」
「そ、それは――」
途端に言葉をつまらせるパパ。
わたしは再びパパを見上げて聞く。
「――今日は、逢えるかなぁ?」
「さ、サンタさんは急がしいし、逢えないかも……しれないお……」
さっきまでの勢いはどこへやら、パパは言葉を選ぶように答えた。
「…………そっか」
わたしが溜め息をつくと立っていたパパはしゃがんでわたしの目を見つめて聞いてきた。
「ツンはサンタさんに逢いたいのかお?」
「べ、別に逢いたいって訳じゃ……」
わたしはそう答えた。
するとパパは「そうか、――分かったお」と呟き、何かを考え始めてしまった。

(^ω^)
 それからご飯を食べ、ケーキを食べ、お風呂に入り、お風呂からあがるとパパがいなかった。
「パパは?」
わたしの問いにキッチンで洗い物をしているママが答えた。
「んー? タバコ買いにコンビニ行ったみたいよ」
……まったく、どうしてたばこなんて吸うんだろう?
あんなの、匂いはするし、健康にも悪いのに。
「…………」
そんな事を考えて黙り込んでしまったわたしを見て察したママが言った。
「パパも仕事とか大変なのよ。それに、ツンのためにも頑張ってるんだし、たばこぐらい吸わせてあげようよ」
「え? う、うん」
突然、自分の心を読まれたかのような事を言われてわたしは驚いてしまった。
そして、ママはわたしの返事にやさしく「きっといつかはパパもやめるよ」と微笑んだ。
 その時、電話が鳴った。
ママがはいは〜いと言いながら手を拭き、受話器を取る。
「もしもし、内藤です。――あ、パパ? どうしたの?」
電話はパパかららしい。一体どこからかけているんだろう?
「え?」
ママがちらっとわたしの方を見た。
そして再び会話を続ける。
「――うん。――うん、そうね。――うん、その方がいいかな。うん、大丈夫? ――分かった。がんばってね」
そうして話は終わったらしく、ママは受話器を置いた。
「パパ、どうかしたの?」
わたしが聞くとママはにっこり微笑んだ。
「ううん。ちょっと遅くなるから寝てて、だってさ」
「ふーん」
何だろう? コンビニで立ち読みでもしてるんだろうか?
「ほらほら、ツンも今日は寒いからお風呂で温まった体が冷えないうちに眠なさい」
まだ少し早かったが、ママにそう言われ、わたしはベッドに入り眠ることにした。

(^ω^)
 その夜、物音で目が覚めた。
カチャ、キィー。カチャ、キィー。何度も繰り返えされるその音が眠りから呼び戻されたばかりのわたしは最初何だか分からなかった。
でも、しばらくしてふと気が付いた。それはドアを開く音だった。
何でだろう? 誰かが何度もドアを開閉している。まるで、わざと出したみたいな音を立てて。
寝返りをうつと顔に何か柔らかい物が当たった。
まだはっきりしない頭のまま目を開けそれを確認すると、枕の横に何か大きな包みがあった。
そうして、薄暗がりの中、不思議な音を繰り返す扉の方を見ると、そこには一人のおじいさんが立っていた。
目元しか見えないほどたくさんの髭に覆われた顔、赤と白の洋服と帽子、そして背中には大きな袋。
廊下からの明かりで逆光になってよく見えなかったけれど、それは確かにサンタクロースだった。
「さ、サンタさん?」
わたしがそう聞くと、サンタさんが言い返した。

「ホーホーホー、メリークリスマスだお」

(^ω^)
 あっけにとられるわたしを見て満足そうに目を細めるとそのサンタはわたしの部屋から出て行った。
閉じられた扉の向こうからはドタバタと慌しい足音を響き、やがてわたしの部屋に静寂が訪れた。

 わたしははっと我に帰り、枕元の包みを抱えて急いで部屋から飛び出した。
リビングに行くとそこにはママが一人で本を読んでいた。
「ツン、どうしたの?」
本から顔を上げ、そう聞くママ。
わたしはきょろきょろと部屋を見回した。
すると、玄関が開く音がし、ドタバタとパパが入って来た。
「ツン! い、今そこでサンタさんに会ったお!」
リビングに飛び込むように入って来るなり、パパがそう言った。
「――――。」
何も言わないわたしにパパはもう一度言う。
「本当だお!? サンタさんはツンに挨拶したって言ってたお? ツン、逢ったのかお? 枕元にプレゼントが無かったかお? あったらやっぱりあれは本物のサンタさんだお!」
立て続けにわたしにそんな事を言うパパ。
わたしは思わず笑ってしまった。
「どうしたんだお?」
笑うわたしにパパが聞いて来る。
「ツン? どうしたんだお? サンタが……」
わたしはパパに向き直り言った。
「うん。わたしサンタさんに逢えたよ」

(^ω^)
 わたしは何だかおかしくて嬉しくて、頬がゆるみっぱなしだった。
パパったら、あれじゃあ誰だかすぐに分かっちゃうじゃない。
「お、それは貰ったプレゼントかお?」
わたしの返事に満足そうに微笑むと、パパがわたしの脇に抱えられていた包みを見て聞いて来た。
パパの顔を良くみると、無精ひげに白い綿が付いていた。
「開けてみるお」
そう言われ、わたしは包みを開けてみた。すると、そこにはわたしがずっと欲しかった大きな荒巻のぬいぐるみが入っていた。
「パパ、ありがとう」
止まらない微笑の中、わたしはそう言った。
 パパはわたしが欲しい物をくれ、そしてわたしがサンタに逢いたいと言ったらその夢を叶えてくれた。
それは、嘘だったかもしれない。
だってそもそも、サンタの存在自体が嘘なのだ。
でも、もしかしたら大人達がサンタの存在という嘘をつくのは、自分達がサンタでいたいからなのかもしれない。
子供達の夢を叶え、守るサンタクロース。
みんな、そんな存在になりたいんだ。
 そして、パパはわたしの夢を叶えてくれた。
だから、パパがサンタクロースでいいんだ。わたしにとってのサンタクロースはパパなんだ。
それに、プレゼントだって知らないおじさんであるサンタクロースがくれるよりもパパがくれる方が嬉しい。
パパからもらった方が愛が沢山つまっている気がするから。
「――違うお! お礼はサンタさんに言うんだお!」
わたしのお礼の言葉にパパは目を三角にさせながら言い返した。
「うん!」
そして、わたしは改めて言う。
「サンタさん、ありがとう」
わたしの言葉にパパは嬉しそうに目を細める。
 わたしはパパのやさしさが嬉しくて、パパに抱きついた。
パパからはたばこの匂いがした。
きっと、わたしが寝るまでの間、外で待っている間に吸ったんだろう。
どこかでサンタの衣装を手に入れ、そして寒空の下、サンタの格好でわたしが眠りにつくのを待つパパを想像した。
それから、パパの作戦にこっそりと協力していたママ。
わたしの夢を叶え、守ってくれる存在、サンタクロース。やっぱりそれはパパとママだった。
 わたしは夢を一つ失ってしまった。でも、わたしはもっといい事を知った。
わたしはいつでもやさしさに包まれている。
わたしのサンタはパパとママで、そしていつか、きっとわたしもサンタになるんだ。
パパから香るいつもは嫌いなたばこの匂いが少しだけ愛しく思えた。


2008.12.29掲載


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