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ブーンがサンタと間違われたようです

(^ω^)
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12月21日(水):晴れ

今日、サンタさんに会った。
私の入院している病院に来てくれたの。
サンタさんは「サンタじゃないお」って否定していたけど、仲間の人(トナカイさんかな?)が「サンタ」って呼んでいたから間違いないと思う。 でも、おじいちゃんじゃなかったしトナカイさんの方がいばってるっぽかったから新米のサンタクロースなのかな?
24日の夜の準備をしてるみたいだった。
きっと、病院の子供達に配るプレゼントの準備とかしてたんだと思う。
サンタさんは私にもプレゼントをくれるかな?
早く学校に行けるようになりたいな。
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(^ω^)
 今日もぼくはドク兄貴に使いっぱしりをさせられてるお。
でもドク兄貴は組織のリーダーで立派な人なんだお。
ドク兄貴の扱う商品は宝石とか腕時計とかそういう高価な品々だお。
仕事時間は深夜。お店が閉店してる時間にお店から商品を搬出するお。みんなの休んでる深夜に一所懸命に仕事するドク兄貴をぼくは尊敬するお。
ぼくの担当する仕事はドク兄貴が何か商品を手に入れたり直接取引きしている間、人が来ないか見張る役だお。
きっとドク兄貴は人に見られると照れるんだお。
ドク兄貴はすごく謙虚なんだお。
ぼくもドク兄貴みたいに立派な人になりたいお。

(^ω^)
 「三太」。ドク兄貴はぼくのことをそう呼ぶお。
「お前はオレの認めた三人目の舎弟だから三太なんだよ」
ドク兄貴は笑ってそう説明してくれたお。
本当はめったに人を認めないんだって言ってたお。
今まで「一朗太」、「二郎太」と呼ばれていた二人の先輩はもう独立して立派な人になってるらしいお。
何でぼくだけ「朗」がついてないのか聞いたら、「次にお前がいい働きをしたら朗を付けて三郎太って呼んでやる。それまでは三太だ」って言ってくれたお。
そういえば、ぼくのことも最初は「おい!」とか「小僧!」としか呼んでくれなかったお。
ぼくはちょっとずつドク兄貴に認められている。うれしいお。
もっともっと仕事を覚えてこの人の役に立ちたいと強く願うお。

(^ω^)
 今日の仕事先は病院だお。
よくわからないけど、『気持ち良くなる薬』を手に入れてみんなに売るみたいだお。みんなが気持ち良くなれるなんてすばらしいお。
ドク兄貴はお金のためだけじゃなく、人の幸せのためにも仕事をしているんだ。
ぼくはますますドク兄貴を尊敬するお。
仕事の本番は24日で、今日はその打ち合わせと下見らしいお。
ドク兄貴は人の幸せのためも準備を怠らない人だお。

(^ω^)
 「じゃあ、三太。いつも通りちゃんと見張ってろよ。誰も近づけるんじゃねーぞ」
そう言うとドク兄貴は『薬品貯蔵庫(立ち入り禁止)』と書かれた部屋に入っていったお。この部屋で病院のチュウカイニンという特別な人と話し合いをするらしいお。
謙虚なドク兄貴が仕事しやすいように、このフロアーの電気は全部消してあるお。
暗闇は恐いお。ましてや病院は恐さが倍増するお。
今にもゾンビが出てきそうだお。
ぼくは恐さをごまかすために空想のなかでブーンしたお。
ブーン!ぼくはどこまでも続く緑の草原を駆けぬけたお。
想像の中でブーンしてたぼくはふと、現実のこの闇の中で誰かがこっちを見て向かって来るのに気付いたお。
恐怖と混乱で全身の鳥肌が立ち身動き一つ出来ずにぼくはアルケミラ病院の廊下で固まっていたお。

(^ω^)
 まるでここが暗闇であることなど関係ないかのように真っ直ぐ、確実に、その誰かはこっちに向かってきたお。
何だろう?やっぱりお化けなのかお?ボクは頭の中がパニックになったお。
ずいぶん近くに来て気が付いたのは、どうやら女の子みたいだということだお。
小学生くらいに見えるけど、やっぱりお化けなのかお?
女の子はそのまま、ぼくに気付いていないみたいに通り過ぎようとしたお。
でもその瞬間、女の子はぼくにぶつかったお。
「キャッ!」
後ろで結んであるふたつの髪がふわりと広がったお。
それはまるで羽根のようだったお。
この子はお化けじゃなくて天使かもしれない。そんなことを考えたお。
ベタッ!
女の子が地面に倒れたお!大変だお!
「ごめんだお!大丈夫かお?」
ぼくはすぐに女の子を起こしたお。

(^ω^)
 「だ、誰なの!?」
ぼくも驚いていたけど、女の子はもっと驚いていたお。
「ぼくは、ぼくは…」
ぼくは動揺してしまって、うまく答えられなかったお。
そうしている間に女の子は落ち着きを取り戻したみたいだお。
「ごめんなさい、誰かいるとは思わなくて」
女の子の顔を見ていたらボクも落ち着いてきた。この子、すごくかわいいお。
それから女の子はこっちを見て、キッパリ言ったお。
「でも、私が近づいてるのに何も言わずにいるあなたも悪いのよ」
「ご、ごめんだお。真っ暗なのにスタスタ歩いてくるからビックリしてたんだお」
女の子が笑った。
「あら、ここ真っ暗なの?」
ぼくはそこで気がついたお。
この女の子は目が見えないんだお。

(^ω^)
 「それで、そんな暗闇であなたは何をしているの?」
ボクは答えに困ったお。
ドク兄貴は自分がいいことをしていること他の人にはあまり知られたくないタイプだお。匿名で募金するようなそんな人。
ここで人が幸せになる薬の準備をしているなんて知られたくないはずだお。
だからぼくを見張りにしてるんだお。
「あなたも入院しているの?」女の子がそう聞いてきたお。
「そ、そうだお!ぼくもここに入院しているんだお!」
ぼくはとっさに嘘をついたお。
「そうなんだ。私はツン。この通り、目が見えなくて入院しているの」
「ぼ、ぼくは…」
うまく嘘がつけなかったお。
「いいのよ。病気の事なんてあんまり人にいいたくないもんね」
「う、うん」
「でも私はラッキーなの。カクマクっていうのをね、移植すればまた見えるようになるんだって!だからそれまでの間の入院なの」
女の子はほんとうにまぶしいくらいの笑顔で話していた。やっぱりこの子は天使かもしれないお。
それからふと「あ、ご、ごめんね。私ばっかりうれしくて」
そう言ってうつむいちゃったお。
「き、気にしなくていいお」
ぼくは女の子が謝っているのに自分が健康なのが悪いような気がしてきて、そう言うのが精一杯だったお。

(^ω^)
 その時、ドク兄貴のいる部屋から音が聞こえてきた。きっと準備が終わったんだお!
ここでツンが見つかると、ぼくが誰も近づけるなって命令を守れなかったことがバレてしまうお!
ぼくは急いでツンを廊下の角まで連れて行ってドク兄貴に見つからないようにしたお。
「ちょっと!どうしたの?」
「ごめんだお。ちょっと移動したくなったんだお」
「変なの」
ドク兄貴が部屋から出てきて、ぼくを探し始めたお。
「三太!どこ行ったんだ?24日の夜の準備は終わったから帰るぞ!」
ぼくはあわててツンとお別れをしたお。
「そ、それじゃあ、ぼくは行くお」
その時、女の子は何故か期待に満ちた表情でぼくの方を見ていたお。
「あなた、サンタさんなの!?」
「ち、違うお。ぼくは内藤だお?じゃあまたねだお!」
ぼくは急いでドク兄貴のもとへブーンしたお。

(^ω^)
 ドク兄貴はぼくを見つけるとブーンで近づいたぼくにカウンターデコピンをしたお。
ドク兄貴のデコピンはとっても痛いお。ぼくはその場でうずくまったお。
「どこ行ってたんだよ、三太」
「と、トイレに…」ぼくはドク兄貴に怒られたくなくて嘘をついたお。
「しょーがねーなー。お前、大事な仕事中にトイレになんか行くなよ!」
ぼくはデコピンの痛さで涙目になってドク兄貴を見上げたお。
「まったく。そんなこっちゃ、いつまでたっても『朗』付けてやれねーぞ」
ドク兄貴はフッと笑うと「さぁ、帰ろうぜ。病院ってやつはいつ来ても辛気臭くていけねーや。三太、ラーメンでも食うか」
そう言いながら病院の出口へ向かって行ったお。

(^ω^)
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12月22日(木):晴れ

今日、またサンタさんが来た。
「ボクも入院してるから、会いに来たわけじゃないお」って言ってたけど、私は知ってるの。
この病院に「内藤」なんて入院患者はいないって。
考えたんだけど、きっとサンタクロースだって事を秘密にしたいから嘘をついてるのね。
よし、それなら私も知らないことにしてあげよう。
だってサンタクロースと話が出来るなんて楽しいじゃない。
ううん、サンタクロースじゃなくても友達が出来るって楽しいな。
それに彼はとってもやさしい心を持っているみたい。
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(^ω^)
 今日はドク兄貴は幹部の会合とかいうのでいなかったからやることがなかったお。
ぼくはドク兄貴の仕事の邪魔をしたかもしれないと心配になって昨日の病院へ向かったお。
でもほんとは、ちょっとだけ昨日の女の子、ツンのことも気になっていたお。
病院についてからどうすればいいのかわからずに中庭をうろうろしていると、ベンチにツンがいたお。
「こんにちはだお」
ボクはツンに話かけた。
「あ!その声は!!サ…、内藤!」
ツンはまた天使の笑顔だったお。
「何をしたたんだお?」
「景色をね。眺めていたの」ツンはふふふと笑ったお。
「でも、ツン目が見えないんだおね?」ぼくはそう言ってしまったお。
「あー、ひどいなー。目が見えないと景色を楽しんじゃいけないの?」
ツンはちょっとふくれてそう言ったお。
「ご、ごめんだお」
ぼくはデリカシーがないお…。
「うん、でも普通はそう思うよね。 でもね、私も目が見えなくなってから知ったんだけど、目では見えないものっていっぱいあるんだよ」
ツンはそう言って、太陽を指差して教えてくれた。
「あの太陽。わたしには見えないけど、わたしを暖める太陽の光がその場所を教えてくれる。そして目で見ていた頃には感じきれなかった太陽の本当の暖かさを感じるの」
それから空をさして
「雲は太陽の暖かさをさえぎって私の前に現れる」
そう言うと、最後に中庭にある木の方を向いて言った。
「木から葉っぱのざわめく音がすれば、そこに木があることと風が吹いていることを教えてくれる。そして、木に住む鳥達が鳴く声や羽ばたく音がわたしに世界の広さを教えてくれるの」

(^ω^)
 「す、すごいお」
ぼくはすっかりツンに魅せられてしまったお。
「だからね」ツンは続けた。
「内藤はデリカシーは無いけどやさしい人だってことも分かるのよ」
ツンはハッと気付くと赤くなって、話題をそらした。
「そ、それで、な、内藤はいったい何しに来たの!?」
ぼくはハッと思い出したお。そうだ、昨日のことを確認しないと!
「ぼ、ぼくは入院しているからいつでもいるんだお」
「そうなの?」ツンがいたずらっぽい笑顔で微笑んだ。
「と、ところで昨日会ったとき、何か見たり聞いたりしなかったかお?」
ぼくはその笑顔に動揺していきなり確信をつく質問をしてしまったお。
ツンはくちびるに手をあてて「そーねー…」と遠くを見つめながら考え出したお。
しばらくして、何かを思いついたようにニコッと笑うと「何も見てないよ!」と言った。
それから「だって私、目が見えないんだよ?」とくすくす笑った。
そ、そうだったお。またぼくはデリカシーがないお。デリカシーはどこで手に入るんだお?
困って無口になってしまった僕にツンは「それに何も聞いてないよ」と遠くを見ながら笑って言ってくれたお。
ツンの笑顔に見とれていたぼくはハッと我に返って、あわててツンに話かけたお。
「は、早くツンの目が見えるようになるといいお」
「そーねー、ほんとに。でも大丈夫、きっと私はまた目が見えるようになる」
ツンはキッパリとそう言った。
「だって、わたしみたいなかわいい女の子が目が見えないなんて、もったいないじゃない!」
ツンは笑って話を続けた。
「目が見えるようになったら、まずは走りたいなー」
「走るのが好きなのかお?ぼくにもその気持ちは分かるお!」
「目が見えなくても散歩は出来るのよ。でもね、走るってなるとちょっと難しいのよね」
「じゃあ、ツンの目が見えるようになったら、一緒にブーンするお!」
「ブーン?ブーンってなぁに?」
ぼくはブーンの楽しさをツンに教えてあげた。
それからこの日一日、ぼくはツンの笑顔を見ながら過ごしたお。何だかとっても幸せを感じるお。

(^ω^)
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12月23日(金):晴れ

今日もサンタさんは来てくれた。とっても律儀なのね(笑)。
それから、とってもうれしいことがあった。
この日はきっと私の記念の日になる。
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(^ω^)
 翌日にまたぼくは病院に行ったお。
ぼくは入院していることになってるから毎日病院にいないと変だお。
ぼくはそう自分にいい聞かせていたけど、ほんとはツンに会いたかったからだお。
今日はツンの病室に行ったお。
「こんにちはだお」ぼくはツンに挨拶した。
「あ、内藤ね。今日はどうしたの?」
「だ、だからぼくは入院してるんだお」ツンはぼくの嘘を覚えてくれないお。
「そっか、そうだったよね。ね、ちょっと待ってくれる?もうすぐ先生が診察に来るの」
ツンがそう言い終わった瞬間に先生が来た。
先生はとてもやさしそうな人だったお。ツンも先生のことが好きらしい、とってもいい笑顔をしている。
「こんにちは、ツンちゃん。今日は具合はどうかな?」
「荒巻先生、こんにちは。今日はとっても具合がいいよ」
「こっちは友達かな?あ!ああ、君がサンタクロースだね」
荒巻先生はぼくの方を向いてこう言ったお。
「昨日からツンちゃんが君のことばかり話すんだ」
「ぼ、ぼくはサンタクロースじゃないお。内藤だお」
ツンが真っ赤になって先生をさえぎった。
「先生!ひどーい!秘密って言ったじゃない!!!」
「そうだったそうだった、すまない」
荒巻先生にそう言われてもツンは口をとがらせている。
ツンがぼくの事を?
ぼくは急に落ち着かなくなったお。
何だかツンの顔を見るのが照れくさい。どうしたらいいんだお?
こんな時はブーンだお!ぼくは病室でブーンしたお。
「内藤君、ちょっと静かにしててね」
荒巻先生にそう言われてぼくはブーンを止めたお…。

(^ω^)
 先生はツンの目の検査を始めたお。
「今日は軽い検査だけだよ。明日は手術前の検査だから検査室でしっかりやろうね」
先生はそう言いながらボールペンで何やら書き込んでいたお。
ぼくは驚いたお。
「手術?ツン、手術をするのかお?」
抑えきれない笑顔でぼくの方を見るとツンは教えてくれたお。
「そうなの!ほんとはね、25日までに手術出来なかったら、病気が進行して一生治らなかったかもしれないんだって。ギリギリセーフ。すごいでしょ。ほんと、こわかったんだから…」
笑いながらもツンの目には涙が溢れていた。
25日までなんて、そんなギリギリな状況であれだけ明るかったツンをぼくは尊敬してしまったお。
そんなツンを見ていたら、ぼくもうれしかったお。
「おめでとうだお」
目が見えなくてもこれだけ明るくきれいなツン。
この上、目が見えるようになったらどんなに素敵なんだろう?
ぼくはボーっと考えていたお。

(^ω^)
 ぼくがボーっとしている間にツンと先生は違う話をしていたお。
「それで先生、例の事件はどうなってるの?」
ツンがワクワクした顔で先生に聞いていた?
事件って何だお?
「ああ、順調にすすんでいるよ。先生もこんな体験初めてだからね。ドキドキしているよ」
「事件って何だお?」ぼくは話に入れてもらいたくて聞いたお。
ツンがその事件を教えてくれたお。
最近、悪い人が病院から麻薬を横流しして売るという事件が多いらしいお。
そこでここの病院では横流しのふりをしてその悪い人を捕まえる計画があって、荒巻先生はその「囮捜査」というのに協力してるらしいお。
なんだかかっこいいお!マイアミバイスだお。
でも、ツンがそんな悪い人の来る病院にいるなんて心配だお。
その事を言うと、何故か荒巻先生に「君はやさしいね」と言われたお。
ぼくはやさしいんじゃなくて心配なんだお。
でも、ちゃんと警備されてるので大丈夫らしい。
そしてツンは先生の囮捜査話を楽しみにしているみたいだお。
荒巻先生は2日前にその悪い人に会ったらしい。今度悪い人が来るのは明日らしいお。やっぱりツンが心配だお。
「内藤君、この話は秘密だよ。君達は子供だから話しちゃうけど、他の人に話したらダメだからね!悪い人が捕まえられなくなっちゃうよ!」
荒巻先生は細い目の奥からぼくを見据えて言ったお。
大丈夫、悪い人が捕まらないとツンが心配だから絶対に誰にも言わないお!

(^ω^)
 それからぼくはドク兄貴と仕事に行ったお。
今日の仕事もドク兄貴は弱い人の味方だお。お金を借りておいて返さない悪い人からお金を返してもらうんだお。
いつものメルセデスでドク兄貴と出発したお。
ドク兄貴は車も謙虚だお。色は目立たないように真っ黒だし、窓には全部黒いフィルムを貼ってるお。
でもそのせいでこの車の中はちょっと暗いんだお。
車で目的地に向かっている間にぼくは荒巻先生の事件の話を思い出したお。
たしか、次に悪い人が来るのは明日って言ってたお。
明日は24日?それって、ドク兄貴があの病院でお仕事をする日だお!
それじゃあ、ドク兄貴が悪い人に出会う可能性が高いお!
そんな、悪い人に会ったら危ないお!
ぼくは心の中で荒巻先生に謝りながら、ドク兄貴に囮捜査のことを話したお。
捜査の話をする時にツンの話が出るとあの日のぼくのヘマがばれるからそこは隠しながらうまく話したお。
もちろん荒巻先生に聞いたなんて言えないお。
ぼくは荒巻先生なんて知らないってことで話をしたお。
そしてドク兄貴に「今回の仕事は残念だけど、やめて欲しいお」と頼んだお。
ドク兄貴はぼくをジッと見て、本当か?とだけ聞いたお。
それから「わかった、助かったよ。お前ももうあの病院には近づくな。わかったな三郎太」そう言ったお。
三郎太!ドク兄貴がぼくのことを三郎太と呼んでくれたお!
一朗太、二郎太先輩に続いて、ぼくもドク兄貴に認められたお!
その日、ぼくはうれしくて一日中ブーンしていたお。
でも、ツンに会いに行っちゃいけないのはちょっと寂しいお。

(^ω^)
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12月24日(土):晴れ

今日はとても悲しい日だった。
それからサンタさんも来てくれなかった。
事件の囮捜査も相手が気付いて昨日の夜に中止になったらしい。
悪いことばっかりだ。
わたしはもうだめなのかな。
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(^ω^)
 次の日、ぼくはドク兄貴との約束を破ってしまったお。
どうしてもツンに会いたかったんだお。
ドク兄貴に「ちょっとブーンしてきていいかお?」って聞いて抜け出してきたお。
その時にドク兄貴が先輩のショボンさんにこっそり後をつけさせていたことにぼくは全然気付かなかったお。
ぼくは病院でツンを探したお。
ツンは中庭にいたけど、いつものツンじゃなかったお。
ひどく悲しんでいる様子だったお。
ぼくは何て声をかけたらいいのか分からずに離れたところからツンを見ていたお。
すると荒巻先生がぼくを見つけたお。
「内藤くん、ちょっといいかな?」
ぼくは荒巻先生に連れられて、悲しんでいるツンを残して病院の建物に入っていったお。
荒巻先生はぼくを『薬品貯蔵庫(立ち入り禁止)』と書かれた部屋に連れて行ったお。
「ちょっとね、プライバシーに関する話で他の人には聞かれたくないからここでね」
そういうと荒巻先生は話を始めたお。
「実はね、ツンちゃんの手術は中止になっちゃったんだ」
ぼくは最初言っている意味がわからなかったお。
でも哀しみだけは湧き水のようにこみ上げてきたお。
「それは悲しいお。ツンはあんなに喜んでいたのに。どうしてなんだお?」
荒巻先生も悲しそうだったお。
「移植する予定の角膜が手に入らなくなっちゃったんだ」
「すぐに替わりを用意すればいいお!」
ぼくは思わず叫んでしまったお。
「どうしてもドナー登録が少ないからね。すぐに替わりは来ないんだよ」
「じゃあ、ぼくのを使えばいいお!」
ぼくはもう無我夢中でしゃべっていた。
「残念だけどそれは出来ないよ。そんな事をしたら内藤君の目が見えなくなっちゃうんだよ」
さらにぼくは思い出した。
「でもでも。…それに25日までに手術しないと治らなくなるかもってツンは言ってたお…!先生、ツンを助けてあげてほしいお!」
荒巻先生の閉じているような目は泣いていたのかもしれないお。
そんな先生の目を見たらぼくはこれ以上何も言えなくなったお。

(^ω^)
 ぼくはツンの目が見えるようになってほしかった。
目が見えるようになったツンを見たかった。
ツンと一緒に色々なものを見たかった。
ツンの目に映るものを一緒に見て、それからそれから…。
ぼくの頭の中はぐちゃぐちゃになってきた。
「どうすれば、ツンにそのカクマクっていうのがあげられるのかお?」
ぼくはそれを聞くのが精一杯だったお。
荒巻先生はため息をついた。
「こればっかりはしょうがないんだ。次を待つしか。もし誰かの『ツンに角膜を譲る』っていう遺言でもあれば別だけど」
「それじゃあ、25日を過ぎちゃうかもしれないお!じゃあ、ぼくが遺言を書くお!」
荒巻先生はぼくの頭に手を置いて、「きみはツンが本当に好きなんだね。ありがとう」と言ったお。
ぼくは何だか悔しくて涙が出てきたお。
ついにその日、ぼくはツンに会うことは出来なかったお。

(^ω^)
 その日の夜、ぼくはドク兄貴に連れられて港の倉庫街に行ったお。
この倉庫街は前にも来たことがあるお。
たしか、ドク兄貴が悪いやつをやっつける場所だお。
前回はぼくは離れた場所で音しか聞いてなかったけど、ドク兄貴は花火をしてたみたいだお。バンバンッって音がしてたお。きっとそれは悪い奴をやっつけたお祝いの花火だったんだお。
その後で、水に飛び込む音が聞こえたから、きっと誰か泳いだんだお。夜の海で泳ぐのは気持いいのかお?
今日はぼくも花火に参加出来るかな?
ツンのことでとってもとっても悲しい気分だから花火で楽しい気分になりたいんだお。
それから、ドク兄貴に聞いて、気持ちいいんだったら夜の海で泳ぎたいお。
そんなことを考えてるうちに車は目的地に着いたお。
ドク兄貴が「降りろ」とだけ言ったお。

(^ω^)
 車を降りるとドク兄貴の手には鉄砲があったお。
そうか、あれは花火じゃなくて鉄砲の音だったんだ。
悪い奴をやっつけるのにドク兄貴は鉄砲を使ったんだお。
でも今日はぼくとドク兄貴とショボン先輩しかいないお?
やっつける悪い奴は何処にいるんだお?

(^ω^)
 ドク兄貴は鉄砲をぼくに向けると話始めたお。
「おい小僧。オレはな、お前のことを結構気に入ってたんだ」
ドク兄貴がぼくを以前のように「小僧」と呼んだお。
何でだお?何かヘマをしたのかお?
それに、危ないから鉄砲をこっちに向けないで欲しいお。
「24日の取引はな、オレにとっても組織にとっても大事な取引だったんだよ」
ドク兄貴は低い低い声でぼくに話続けたお。
「でもお前の情報でそれを中止にした。わかるか?俺がお前を信用していからだ。それなのに、それなのに…お前はオレを裏切った!」
ぼくにはどういうことかさっぱりわからなかったお。
「お前は荒巻を知らないと言ったな。しかし昨日、お前は荒巻と会っている。しかも例のあの部屋でだ」
ドク兄貴はショボン先輩の方に首を振った。
「こいつに昨日、お前を見張らせたのさ」
ショボン先輩の眉毛が一段と下がったように見えた。
「それだって、お前を疑ってたからじゃない。いつもドジばかりのお前が心配だったからだよ」
ドク兄貴の表情は寂しそうなものに変わっていったお。
「そしたら偶然に。そういう事だよな」ドク兄貴がぼくを強く睨みつけた。「お前、オレを出し抜いて一人で荒巻と取引してやがるな?」
荒巻先生?ドク兄貴は荒巻先生を知っているのかお?
ぼくにはもう何が何だかわからなかった。
「ここまで、お前に目をかけて世話してきてやったのに。本当の弟だと思って。お前はボケてドジだけど、いつも一所懸命だった!」
ぼくは必死に何か話そうと思った。
「ぼくは…ぼくは…、ドク兄貴…。何を…」
ドク兄貴が声を上げたお。その声は怒りと哀しみで震えていたお。
「このままオレが!お前のことをいずれは立派なヤクザにしてやろうと思ったのに!このオレを裏切りやがって!裏切りやがって!内藤ォォォ!」
ヤクザ!!!???
何で???どうしてぼくがヤクザにならないといけないんだお???
それを聞いてぼくも無意識のうちに叫んでいたお。
「ぼくは立派な人になりたいけど、ヤクザなんて悪い人間にはなりたくないお!!!???」
それを言った後、ぼくが見たのはドク兄貴の絶望と怒りの入り混じった顔とドク兄貴が向けた鉄砲の銃口。
聞いたのは弾丸が発射される大きな音と海に落ちた時の水の音だった。

(^ω^)
 夜の海で泳ぐのはやっぱり気持ちがいいお。
波間に浮きながら星空を見ていると宇宙遊泳しているみたいだお。
でも、お腹のあたりがすごく痛いお。
しばらくすると寒くなってきたから、陸に上がりたかったんだけど何だか体がうまく動かないお。
ぼくは何とか岸に這い上がることが出来た。でももう動きたくなかったお。
すごく痛いし血もいっぱい出てるみたいだお。
たぶんぼくはもうすぐ死ぬんだお。
その時、ぼくの中にツンのあの笑顔が浮かんできたお。
ツンに会いたいお。すごく会いたいお。
それからのぼくはツンに会うことしか考えてなかったお。
痛みをがまんして立ち上がってブーンしたお。
ブーン。ブーン。ブーン。
ブーンしているうちに痛みは遠くへ行ってしまったお。やっぱりブーンはすごいお。
でもそのかわりにひどく疲れて力が入らなくなってきたお。
それでもぼくはブーンを続けてツンの所へ向かったお。

(^ω^)
 病院の暗い廊下をぼくはツンの病室目指して歩いたお。
暗い廊下はもう恐くないお。ぼくはこの暗い廊下でツンに会うことが出来たんだお。
それに、ぼくから流れる血が廊下に延々と続いて、どちらかというと今はぼくがゾンビだお。
ツンの病室につくと、ぼくはそっとドアを開けたお。
病室にはクリスマスツリーが輝いていたお。
そうか、明日はクリスマスだっけ。
ツンはぐっすり眠っていたお。
ツリーの明かりに照らされたツンの寝顔はやっぱり天使のようだったお。
でもその頬には涙の痕が残っていたお。
そうだ、ツンは手術が出来なかったんだ。
あんなに明るく強いツンが泣いている。
かわいそうなツン。
でも大丈夫だお、ツン。明日はクリスマスだお。ツンにはぼくからプレゼントを贈るお。
ツンは目が見えなくても見えるものがあるって言ってた。
目では見えないものがあるって言ってた。
でもどうやらぼくは、目が見えていても、世の中がよく見えてなかったみたいだお。
だから、だからぼくはツンと一緒に真っ直ぐに世の中を見たいお。
ぼくはツンの耳にそっと「メリークリスマス」と告げて病室を出たお。

(^ω^)
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12月25日(日):晴れ

昨日の夜、私に奇跡がおきた。クリスマスの奇跡だ。
一度はあきらめた目の手術を受けることが出来たの!
寝ていると突然、荒巻先生が来て、急に手術出来るようになったことを教えてくれた。
何故かその時、荒巻先生は泣いてるみたいだった。

それから、荒巻先生が来るちょっと前、夢の中で内藤に会った。
内藤は私に「メリークリスマス」と言うと遠くへ飛んで行ってしまった。
やっぱり内藤はサンタクロースだったんだ。

手術は成功で、数日したら包帯が取れるらしい。
また、目が見えるようになる!
なんてうれしいんだろう!
そうだ、目が見えるようになったらわたしにはやりたいことがある。
手術をした直後から私の目にはある風景が浮かんでいる。
どこまでも続く緑の草原。
わたしはその中を両手を広げてどこまでも駆け抜けるの!
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2005.12.23掲載


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