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どうやらブーンが大きなループをしていたようです(上)

(^ω^)第零章 内藤の始まり
 今はもう遠くなってしまったけれど、それは桜の季節の物語。
だけど、本当はもっともっと遠い時間からやってきた物語だったんだ。
そう。これは、ぼくから始まる長い長い物語なんだお。

(^ω^)第一章 内藤の決心
 気が付くとそこは病院で、ぼくは両足を包帯でぐるぐる巻きにされていたお。
――そうだ、ぼくはクーさんを助けようと思って飛んだんだ。
あの時、クーさんの手がぼくの手から離れて行ってしまった時にぼくは気が付いたんだ。
ぼくのそばにいつもいてくれたのはクーさんだった。
クーさんはいつでもぼくのそばにいてくれた。
そして、ぼくを見ていてくれたんだ。
クーさんはぼくに愛をくれる。
ぼくに必要な愛をくれるのはクーさんなんだ。
そしてぼくも、きっとクーさんになら愛をあげられ続ける。
――その事に気が付いたらから。だから、ぼくは命がけでクーさんを助けようと思った。
クーさんに会ったら告白しよう。「ぼくが本当に好きなのはクーさん、君なんだお」って。
 その時、ぼくの決心に合わせるかのように病室のドアが開き、クーさんが入ってきた。
クーさんは怪我もなく元気そうだ。よかったお。
「ホライゾン君、ありがとう。君には何とお礼を言っていいかわからないぐらい感謝している」
クーさんはそう言いながらぼくのベッドの横まで来た。
両足が天井から吊られているぼくは上体だけを起こして返事をした。
「そんなのいいんだお。クーさんのためなら何だって出来るお」
ぼくの言葉にクーさんはにっこり笑った。
「本当にありがとう。――それに、何と言ってもおかげで決心する事が出来たよ」
キッパリそう言ってクーさんは窓から外を見た。そこには桜が咲いていた。
「私はこれから新しい恋に生きるよ。ホライゾン君、これも君のおかげだ。ありがとう」
再びぼくを見て微笑む。
それを聞いたぼくは自分の耳を疑いつつ、開けた口を閉めることすら出来なかった。
「何か必要な事、困った事があったら何でも言ってくれたまえ。私の方こそ、君のためならばいつだって何だってしよう」
そう言い残して、クーさんはぼくを残して部屋を出て行ってしまった。
――ぼくは告白する事もなく振られてしまったお。

(^ω^)第二章 クーの幸福
 あの日以来、間もなく一年が経つが、今でも油断すると頬が緩む。
そう、あの日。2006年4月4日。私がホライゾン君に助けられた翌日だ。
あの日、私は一大決心をして、ホライゾン君を諦め、新しい恋に生きようと思った。
だが、私が彼への別れを告げて部屋を出た直後、事態は逆転した。
あの時、両足骨折で動けなかったはずのホライゾン君が、手だけで廊下まで這って出て来て私にこう言った。
「ぼくはクーさんが好きだお!」
最初に、やはり頭でも打ったのかと、自分の頭を疑い、次にホライゾン君の頭を疑った。
しかし、彼は本気だった。本気で私との交際を望んでいたのだ。
その事を知った私はもちろん承諾した。
私達はお互いの愛を確認したのだ。
感動的な場面だったと思う。ただ――、ホライゾン君は両足が包帯でしっかりと巻かれたいた為に下はパンツしか履いていなかったが。
そしてそれ以来、私はホライゾン君と付き合っているという訳だ。
このような事実、頬が緩まないわけがない。
 この幸せが未来永劫続きますように。私は毎日そう祈っている。
付き合い始めて一年、ホライゾン君の新しい面も発見し、私には毎日がエブリディと言いたくなるほど新鮮だ。
直接、本人に言われたわけではないが、ホライゾン君には結婚願望もあるようだ。
そうだな、私も各種書類の《配偶者/夫》の欄に君の名前を書き入れたいものだ。
そうして君と未来を作って行きたい。
 今日も退社後にホライゾン君とデートをする予定が入っている。
その予定を思い出した私はまた頬が緩むのを感じていた。

(^ω^)第三章 伊藤の任務
 伊藤は《委員会》に最後の忠告を受けていた。
「いいかね。言ってみれば、君に世界の運命がかかっているのだ。一刻も早くブーンを発動させねばならない」
話を聞きながら、彼女は口元をわずかに尖らせ、委員会への不快感をあらわにしていた。
委員会のメンバーは照明を背後に一列に伊藤に向かって座っているため、その姿は逆光になり確認出来ない。
伊藤は委員会のこんな雰囲気が嫌いだった。
「分かっています。出発の準備があるのでこれで失礼します」
そう言って小さく会釈をすると伊藤はさっさと部屋を出て行った。
部屋に残った委員会のメンバーの一人が言った。
「大丈夫ですか? あの様な者にまかせて」
それを聞いた他の者が答えた。
「大丈夫ですよ。案外、ああいった、少し不遜な態度をとるぐらいの者がいい仕事をするというのは定石です」
「そうですな、少し前に出発したタイターも同じような感じでした。ですが、あの男も仕事は的確にこなしてますよ」
それから、メンバーの中では一番小さい男が言った。
「それに今回は伊藤にはモニターを付けてあります。ですから、こちらからもリアルタイムで……まぁ、リアルタイムというのも変ですが、確認出来るようになっていますからな」
「最後の仕上げ前ならば、シナリオに若干の修正も利くという訳か……」
メンバーの間に少しだけ安堵の空気が流れたようだった。
「それにしてもだ――」しかし、恐らくリーダーであろう男がこの空気を遮った。
「これが失敗すれば、世界は滅びるのだ」
男はそう言うと椅子に深くもたれかかり、手を組んで天井を見上げた。

(^ω^)第四章 内藤の幸福
 今日も会社が終わったらクーさんとデートの約束をしている。待ち合わせ時間に遅れるわけにはいかないお。
その為にはバグなんて出してる場合じゃない。でもバグは僕の意思とは関係ないところで出てくる。
そして今日も遅れてしまった。
でも、クーさんはぼくが遅れても怒ったりしない。
それどころか「待っている間、君があの角から現れるところを想像すると心が躍り、嬉しくてにやけそうになる。その時間が長くなるのだ、別に苦痛ではないよ」と言う。
そんな事を言われたらぼくの方が照れてしまう。あの日以来、クーさんの言葉にはやられっぱなしだ。
ぼくは照れながらもクーさんに謝ると、どこのお店に行くかを相談した。
「クーさんに相談に乗ってもらった例のお店はどうだお?」
「う……。私は君が隣にいればどこの店でも幸福なのだが。……出来れば他の店にしてもらえないだろうか?」
聞けば、クーさんはあの店の料理を全品制覇してしまったらしい。確かにあの後、数回は行ったけれど、とても全品制覇する程は注文していない。いつの間にそんなに行ったんだお?
そんな訳でぼくたちは駅の近くのビルにある和風料理屋に行った。
ここは「おぼろ昆布大根」が美味しい。大根がとても大きくて、しかも立って盛られているのだ。
そんな大根を見てぼくたちは「お〜」と声を揃えて言い、お店のオリジナルカクテルを飲んでは「おいしい〜」と言い合いながら、今日という日の最後の時間を一緒に過ごした。

(^ω^)第五章 クーの見た世界の終わりの始まり
 翌朝、私は目覚めるとテレビを点けた。
ちょうど天気予報が始まる時間だった。予報の冒頭で予報官が桜の開花予想をしていた。そうか、もうそんな季節なのだな。
私はコーヒーを飲みながら仕度を整え、カップを洗って水切りに置くと会社へ向かった。
いつもの満員電車。詰め込まれた人々の隙間から空が見える。ああ、いい天気だ。今日はいい事がありそうな気がする。
電車を降り、改札に向かうと、前方に同じく改札に向かうホライゾン君がいた。
彼は後ろにいる私に気付いていない。
改札を抜け、会社に向かう。ここから会社まで、オフィスビル街を歩いて5分だ。
私はしばらく、あえて声をかけず、後ろからホライゾン君を見つめながら歩いていた。
 その時、ホライゾン君を見つめていた私の視界の隅で閃光があった。
何だろうと振り返る間もなく、突然現れた女の人に私は腕をつかまれた。
彼女は私の腕をつかんだまま、ホライゾン君のところへ歩み寄り、同じようにホライゾン君の腕もつかんだ。
そして、それからさらに数メートル歩くと、私たちを自分の近くへ引き寄せて確認するかのように「ここだな」とつぶやいた。
それから、私たちをしゃがませて自分もしゃがむと彼女は言った。
「いいか、動くなよ。ここは大丈夫だ」
――そして次の瞬間、それは始まった。
遠くで低い地響きが聞こえたかと思ったら、世界が崩れるのでは無いかと思うほどの大きな揺れが起った。
人々は逃げる事どころか立っている事もままならず、突然の振動で倒れ、地面を転がった。
私とホライゾン君、それに謎の女性も激しく揺れているがしゃがんでいたおかげで倒れることは無かった。
振動はほんの数秒でおさまったが、その数秒はもはや取り返しのつかない数秒だった。
人々は倒れ、車はあちらこちらに突っ込み大破、そしてビルから降り注いだガラスが地面に散乱している。
ここがさっきまで、人々が活動していた街なのだろうか?
私は目の前の光景に声も出なかった。
それはホライゾン君も同じ。「あうあう」言うことすら出来ずに無言で口をパクパクさせていた。
そして、そんな状況にも関わらず、私とホライゾン君、それに謎の女性は怪我一つなかった。
私の1メートル向こうには割れたガラスが積もり、ホライゾン君の後ろには車が倒れているというのに。
私とホライゾン君は自然と、ふたりで謎の女性を見た。
彼女は時計を見ると、「よし」とつぶやき、それからゆっくりと私たちの方を向いた。
そして、この無残な光景を指差し、こう言った。
「見ろ。これがお前達のした事の結果だ」

(^ω^)第六章 伊藤の憂鬱
 伊藤は時計を確認し「よし」とつぶやいた。終了時間も全て予定通りだ、問題は無い。
それから二人の方を振り返り、言った。
「見ろ。これがお前達のした事の結果だ」
二人はただ驚きの目で伊藤を見つめるだけで何も言わない。
無言の二人に少しイラついた伊藤は内藤の胸に人差し指を突き立てた。
「何とか言ったらどうだ、内藤。お前は世界を救うんじゃなかったのか?」
それから鋭い目だけを内藤の後ろにいるクーに向け、言った。
「それにクー、お前もだ。報告はどうなっている?」
それでも二人は何も言わない。
伊藤は内藤の胸に立てた指に力を入れ、そのまま内藤を押した。
押されるままに内藤はよろよろと後退してクーにぶつかった。
「いったい……」
何とか絞り出された内藤の声は少し震えていた。
「……何が起っているんだお?」
そこまで言うと、内藤は堰を切ったように喋り出した。
「君は誰なんだお? 君は今、地震が起る事とここが安全な場所だって事を知っていたのかお? だとすれば、そうなんだとすれば――これが何なのか説明して欲しいお!」
内藤の台詞を聞いた伊藤は明らかに動揺していた。
「まさかお前……、記憶を失っているのか?」
「だから、何の事だか分からないお。ぼくは記憶なんか無くしてないお。ぼくは内藤。内藤ホライゾンだお」
伊藤は視線をクーに移した。
しかし、クーも何の事を言っているか分からないという表情をしている。
それを見た伊藤は二人から振り返り、舌打ちをしてつぶやいた。
「――そういう事か。リコール前のバグが出たか……。しかし、だとすればどうする?」
何かを考え込む伊藤に背中越しに内藤が再び聞いた。
「君は一体、誰なんだお? 今起ったこの地震の事を知っているのかお?」
伊藤はクルリと振り返ると二人を真っ直ぐに見つめて言った。
「これは地震なんかじゃない、次元振動だ」
「次元……振動? 大介じゃないのかお?」
内藤を無視して伊藤は続けた。
「わたしの名はペニサス伊藤。2036年から来た」
「ちょっ、おまっ、2036年? あるあ……ねーよ!」
そう叫ぶ内藤の後ろでクーが頭を押さえていた。
そして、伊藤の次の言葉で内藤とクーは言葉を失った。
「『ねーよ』では無い。内藤、それにクー、お前達も2035年から来たんだ」

(^ω^)第七章 クーの滅びる世界
 突如現れた彼女は2036年の未来から来たと言った。
そして彼女は、私とホライゾン君も2035年から来たのだと言った。
2036年。私はその未来を知っている?
――頭が痛い。
彼女の言葉が遠くに聞こえる。
私の前でホライゾン君が何かを言っている。
ここから逃げ出したい。
それなのに、彼女の言葉が私の足を捕らえ、私は動く事が出来ない。
ペニサス伊藤。私は彼女を知っている?
だが、今の私には彼女は不吉な予感そのものに見える。
「お前達は旧型タイムマシン特有の『過去に行くと記憶を失う』というバグで、この時代に着いた時に記憶を失ったんだ」
彼女が再び、話を始めた。

(^ω^)第八章 内藤の動揺
 突然現れて、次元だとか2036年だとかタイムマシンだとかさっぱり分からない話を始めた彼女。
更に、ぼくたちも未来から来ただのと、もっと分からない話を始めた。
いくらぼくでもそんな話を信じるほどまぬけでは無いお。
クーさん。クーさんはどう思っているんだろう?
ぼくはクーさんの方を振り返った。
クーさんは頭を押さえていた。
「一年前に発生した次元の歪みはまもなく限界を迎える。今のはその予兆に過ぎない。そして、これからこの世界ではああいった現象やもっと多くの現象が表面に出てくる」
ぼくたちの混乱を置き去りにして彼女、ペニサス伊藤さんは話を続けた。
「『ああいった現象』ってさっきのはただの地震じゃないのかお?」
ぼくは聞いた。《次元振動》って言ってたっけ? そんな安っぽいSFみたいな言葉使って、その内、空間だとかヤカンだとか話始めるに違いない。
「さっきも言っただろう。あれは次元振動だ。ごく限定された空間に発生する」
そう言うと彼女は歩き始め、ぼくたちに「ついて来い」と言った。
ぼくとクーさんはお互いに顔を見合わせると、彼女に付いて歩き始めた。
そうして大通りをひとつ渡ったぼくは何か違和感を感じた。
その違和感の正体に気が付くと、ぼくは頭が混乱して、まるで夢を見ているかのような錯覚に陥った。
そこにはうっかり見過ごしてしまう程、当たり前のように普通の街と生活があった。
何を言っているか分かるだろうか? つまり、『そこでは地震は起きていなかった』のだ。
たった大通りを一つ渡っただけでだ。
あれだけの地震が、そんな数十メートルの距離で伝わらないなんて事はありえない。
驚くぼくたちに向かって彼女は言った。
「ご理解いただけたかね?」

(^ω^)第九章 クーの予感
 彼女は説明を続けたが、私はほとんど聞けていなかった。
頭痛のせいもあるが、それよりも頭が聞く事を拒否していた。
それでも、ホライゾン君との会話の中で彼女が発したいくつかの単語が頭にひっかかり残っている。
「次元の歪み」「次元振動」「異常気象」「限定空間」「30年後」、そして――「世界の終わり」


 つづく


2006.6.30ベータ版掲載/2006.7.23掲載


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