[ TOP ] > 西 瓜 〜 内藤は江戸でツンと再会したようです 〜
西 瓜
 〜 内藤は江戸でツンと再会したようです 〜

(^ω^)
 その日、数年ぶりに会った幼馴染のツンはとても美しく成長していて内藤はまずその事に驚いた。
そしてもう一つ、それ以上に内藤を驚かせたのは、そのツンとの出会いが商店<入束屋>で働く自分、とその店の倉庫に入った「泥棒」のツンという立場だったことだった。

 江戸、弐茶町。朝から蝉の声が響く七月も末。備府藩の特産品を商う大店「入束屋」で内藤は今日も働いていた。
しかし、内藤はさしてやる気も無く、ただ漫然と働いているだけだった。
「おい、内藤! 何やってんだ、お前! それ、やり方が違うだろ!」
「す、すいませんですお、斉藤さん……。 ど、どうやるんでしたっけ……」
年下の者にさえ怒鳴られ、内藤は頭を下げる。
「ほんとに物覚えが悪りーなー。まったく、使えないにも程があるぜ」
「す、すいません」
「じゃあもうここはいいから、別宅行って届いた荷物の整理でもして来いよ。それぐらいなら出来るだろ?」
「す、すいませんですお……」
内藤はぺこぺこと頭を下げるが斉藤はもはや内藤の事など見てもいなかった。
 内藤はとぼとぼと別宅へと向かった。
「別宅」というのは通称でそこは本当は入束屋の主人の家である。
店から少し離れた山の中にあり、広大な敷地を持っていて、その敷地内に建てられたいくつもの蔵を入束屋の倉庫として利用しているのである。
 内藤は別宅に着くと倉庫の前に山積みにされた荷物を確認した。
今朝、備府から届いた荷物であり、入束屋の商品である。
そうして内藤は昼少し前の強い日差しが照りつける中、山積みにされている荷物を一人で一個一個、倉庫へと運び入れた。

「――ちょっと休むお」
荷物を半分ほど運び入れ、内藤は日陰を求めて倉庫の中に腰を降ろし一息ついた。
「………………ふぅ」
ふいに溜め息が漏れた。
それは荷物運びに疲れたせいでは無く、いつも考える、これからの自分を思っての溜め息だった。
このままここで働いていても将来があるとも思えない。それにそもそも――、本来、自分が故郷を出て来たのは別な理由があっての事。だけど、その理由は果たせそうにない。
結局、自分はこのまま中途半端に生きて行くしかないんだろうか。
そんな事を考え、そしてぼんやりと故郷の山々を思い出した。
ここは少し自分の故郷に似ている、と内藤は思った。
故郷でも今頃は強い日差しの中、蝉の声が山中に降り注いでいるだろう。木陰は涼しく、川は冷たい水をさらさらと流しつづけているに違いない。
そうして内藤はこのまま帰る訳にもいかないそれらの景色を想って一人、気持ちを落としていた。
 その時だった。母屋の方から慌しい声が聞こえ始めた。
「盗人は裏に回ったぞー!」「逃がすな、追えー!」
どうやら、誰かを追っているらしい。そして聞こえてくる声から察するに追っているのは屋敷内に入った泥棒のようだった。
「倉庫の方に行ったぞー!」
その声に内藤はびくりと身体を震わせた。
こっちに泥棒が来ると言うのか。一体どんな奴が。そもそも自分はどうすればいいのか。
あれこれ考える間も無く、内藤は自分のいる倉庫の方に向かって走ってくる足音を耳にした。
もう迷っている時間は無い。内藤は倉庫の中にあった一本の棒を握り締めると足音に合わせて倉庫から飛び出した。
「――む、無駄な抵抗はやめて止まれだお!」
その間合いはぴったりで、こちらに走って来た泥棒は内藤に行く手を阻まれそこで急停止せざるおえなかった。
「……え? 女の人、かお?」
木の陰でその顔はよく見えなかったが、それでもそれが女であることは分かった。
停まっていた女が再び歩き出す。
「う、動くなだお!」
だが、木陰から移動した女を見て、動けなくなったのは内藤だった。
目の前にいる泥棒の顔を見た瞬間、内藤はまばたきをすることすら忘れてしまった。
「――ツ、ツン?」
思わず口から声がもれる。
内藤の目の前にいる泥棒。それは間違い無く故郷の幼馴染、ツンだった。
何故ツンがここに? いや、泥棒ってツンの事か? 一体どうして? 今、何が起こってるんだ?
「――はっ!」
次の瞬間、ツンが懐から何かを内藤に向かって投げつけた。
混乱していた内藤は避けることもかなわず、それを頭に喰らい、気を失ってしまった。

(^ω^)
 内藤は気が付くと倉庫の入り口に横になっていて、辺りにはもう誰もおらず、日が傾き始めていた。
「……夢、かお?」
首をひねり、そう呟く。
そして、まだ作業途中だった荷物を急いで片付け、大慌てで弐茶町の店に戻った。
 店に戻るとそこは閉店準備の真っ最中でみんなが慌しく動いていた。
「この野郎、遅いじゃねーか! 何処でさぼってやがったんだ!」
やっと戻って来た内藤に気付いた店員の一人が怒鳴る。
「あ、いや。あの……」
「いいからさっさと働きやがれ!」
内藤の言い訳など聞こうともせずに続けて怒鳴る店員に内藤は慌てて働き始めた。
そして、働きながら、今夜さっきの夢がもう一度見られたらいいな、思っていた。

 夕飯を食べ終わると、内藤は再び別宅へ行くように命じられた。
暗い夜の山道を歩いていると誰かが、もしくは得体の知れない何かが襲って来るような気がして内藤は恐くてしょうがなかった。
そしてふと、何者かに襲われ死んだ父の、地面に横たわった姿を思い出してしまう。
内藤は頭を振って、そのことを振り払い、さっきよりも早足に山道を歩いて行った。

 別宅に着いた内藤は大番頭の伊藤に連れられ、屋敷内を歩いていた。
この伊藤は大番頭とされているが、決して弐茶町のお店の店頭には出て来なかった。
内藤は店の奥やこの別宅で数回、彼の顔を見たことがあり、その時に店員の一人に聞いたところでは彼は特別なお客との取引担当だということだった。
そして、伊藤の後ろにはロマネスクという名の一人の用心棒が影のように付き添っていた。
足音も立てずに歩く、見るからに隙の無い、そして、右目を負傷したようで眼帯をしている隻眼の男だった。
「――ここだ」
伊藤がその歩みを止め、内藤に振り返る。
同じく足を止めた内藤の前にはひとつの部屋があった。
 だが、その部屋は普通の部屋では無かった。
畳敷きで広さは四畳、灰色の壁にはひとつだけ高い位置に換気用の窓が付いている。
しかし、この一見普通の部屋を異形たらしめているのは、その入り口に作られたがっちりとした木の檻だった。
硬い木で組まれたその入り口の檻は大きな金属製の鍵が付けられ、決して自由には開かないようになっていた。
そこは所謂、牢屋だった。
「そして、今日からこいつを見張るのがお前の仕事だ」
牢屋の見張り? 何だって自分が? そして、一体どんな凶悪な人を見張らないといけないんだ?
「み、見張りって、一体、誰を見張るんですかお?」
カット「こいつはな――」
突然の事に混乱しながら内藤は恐る恐る牢屋の中を見る。
「――――っ!?」
中にいる人物を見て内藤は息を飲んだ。
内藤は驚いて大番頭に振り返る。
「こいつはな、今日ここに忍び込んだ泥棒だ」
大番頭がそう言った。
内藤は思わずもう一度、牢の中を見る。

――そこには夢にまで見たいと思った、ツンがいた。

(^ω^)
 大番頭は内藤にいくつかの話をし、ロマネスクと共に部屋を去って行った。
内藤は改めてツンをまじまじと見た。
――ツン。故郷の備府で隣りに住んでいた幼馴染。
性格は少し男っぽかったツンだが、その容姿はとてもかわいかった。将来、美人になるだろうと内藤を始め誰もが思っていたが、その成長は予想以上だった。
「……何よ、あんた。じろじろ見て」
床に座ったツンが内藤を見上げ、睨みながら言う。
どうやらその性格は変わっていないみたいだ。
そして、ツンは内藤に気付いていないようだった。だけど、それは内藤にも好都合だった。
こんな再会の仕方をしたくは無かった、と内藤は思った。
内藤が思い描いていたのはもっと違う再会だった。
でも今、それが叶っていないのはツンのせいでは無く、自分のせいだった。
そうして、内藤は自分もツンの事を知らないふりをする事にした。
「……えっ、と」
内藤は改めてツンに話し掛ける。
「今日からぼくが君の世話をするお。よろしくだお」
「世話? 見張りでしょう?」
微笑みかける内藤にツンは冷たく言い返す。
「た、確かにそうかもしれないけど……」
内藤はうろたえつつも、もう一度挨拶をした。
「とにかく、よろしくだお」
「…………」
ツンは沈黙を保ったまましばらく内藤を見つめ、そして聞いて来た。
「あんた、名前は――?」
「え……?」
ツンの質問に内藤はうろたえる。
「あ、え、えっと……」
「やっぱりいいわ。別に、興味無いし――」
ツンはそう言うと本当に興味無さそうに内藤から視線を下ろした。
「――そ、そうかお。じゃあ、とりあえずご飯を持って来るお」
内藤の言葉にツンが聞き返す。
「あら、ご飯なんか貰えるの?」
「そうだお。三食昼寝付きだお」
笑顔でそう言う内藤にツンはふーん、と聞き返した。
「何でかしらね。何か後ろめたい事でもあるのかしら?」
そう言って、まるで試すように内藤を見つめるツン。
「……?」
後ろめたい事があるのは泥棒をしたツンの方ではないのか。そう内藤は思ったが、それは言葉には出さず、内藤は曖昧な笑みを浮かべてご飯を取りに行った。

こうして、内藤とツンは奇妙な再会を果たした。

(^ω^)
 牢屋から戻った大番頭は店主の部屋で話をしていた。
「とりあえず監禁しておきました」
大番頭の言葉に店主が聞く。
「ああ、だが何故ただ閉じ込めておくだけなのだ? 尋問などしないのか?」
店主の質問に大番頭が静かに答える。
「あの小娘はただ誰かに頼まれてここに入っただけなようです。ならばどうせ大した事は知らないでしょう」
「そう、なのか?」
「それにどこの手の者か分かりません。どこかの組織等であればいいですが、幕府の隠密だったりしたらどうします」
店主を見上げ、大番頭が言う。
「下手に尋問などすればこちらに知られたくない事があると言っている様なものですよ。まずは相手を見極める為、このままで待ちましょう」
「なるほどな……」
感心し、目を細めて大番頭を見る店主。
「こちらはあくまでも『泥棒だと思ったので捕まえた』で通せばいいのです。番所に届け出ずにいるのは、改心したら開放してやろうという店主様の仏心からでございます故」
それを聞いて店主はわははと卑しく笑う。
それから、ふと大番頭に問う。
「ところで、かなり待遇良く扱っているようだが――? 一番牢、あそこは畳敷きの上に厠まで付いているのだろう? その上、食事まで出せと命令しているそうじゃないか。何故そこまで丁重にするのだ?」
「はい、実はこそ泥にしては中々いい女でした。ですから、裏が無かった時にはいい売り物になりますでしょう。しかし、汚れ、やせ細っていては安く買い叩かれてしまいます」
店主は再びわははと笑うと大番頭ににやりと笑って言う。
「そちも悪よのぅ」
「お互い様ですよ」
そう言って、大番頭は店主を見ながら口を歪ませ笑った。
「よし。では、しばらくそのまま適当な奴に見張らせろ。そうして相手の出方を待とうじゃないか」
大番頭は心得ていますとばかりに返事をする。
「はい。既に一番どうでもいい奴に見張りを任せました。万が一の場合には使い捨てに出来る奴を――」

(^ω^)
「はい、ツン。ご飯だお」
「いらない」
ご飯を持って来た笑顔の内藤にツンは即答する。
「いらない? どうしたんだお? お腹が空いてないのかお?」
ご飯を差し出したまま聞き返す内藤にツンが答える。
「そんな危ないの食べたくない」
「危ない? 何でだお? 別に痛んだ食材なんか使ってないお。そりゃ、ちょっとは鮮度が落ちるかもしれないけど、でもぼくがいつも食べてるのよりもむしろ豪華な感じだお」
首を傾げ、そう言う内藤にツンが小さく溜め息をつく。
「そうじゃなくて……」
「食べてみたらきっとおいしいお」
にこにことしながらそう言う内藤。
「…………」
それでも何も答えないツンに内藤はぱくり、とご飯を一口食べた。
「あっ!」
咄嗟に声を上げ、檻越しに内藤に駆け寄るツン。
そんなツンにもぐもぐと口を動かしながら内藤は微笑む。
「おいしいお」
それを見てツンはほっとすると、次に内藤に向かって思い切り怒鳴った。
「――あんた馬鹿ぁ!?」
「ど、どうしたんだお。ツン?」
突然の事に驚く内藤。ツンは続けて内藤に言う。
「も、もし、毒が入ってたらどうするのよ!」
そんなツンの言葉に、口の中のご飯をごくんと飲み込むと内藤は笑顔で言う。
「わざわざ捕まえておいて毒殺なんて面倒な事はしないお」
その台詞ににツンの眉尻が上がる。
「あ、今の正論っぽくてカチンときた」
「そ、そんな……」
ツンの険しい顔におろおろする内藤。
「いいわよ。食べるわよ」
ツンはそう言うと、怒ったように内藤からご飯を奪い取りもぐもぐと食べ始めた。
そして、「何よ、こっちの料理、味付けが濃いわね」とか「ちょっと少ないんじゃない」とか文句を言いながら食べ続け、そして食べ終わると最後には「明日の朝ごはんもちゃんと持って来なさいよ」と言った。
内藤はそんなツンを見ながら独り微笑んでいた。

(^ω^)
 ツンは態度が大きく、事ある毎に内藤に文句を言い、まるで主のように威張っている。
檻を隔てて、内藤は牢の外、ツンは牢の中にいたが、態度だけを見ていたらどっちが捕まっているのか分かりやしなかった。

「ツン、ご飯だお」
翌朝、ご飯を持って現れた内藤をツンは一蹴した。
「遅いわよ!」
「ご、ごめんだお。朝の準備が遅れて」
「次からはもっと早く持って来なさいよ!」
「わ、分かったお」

「ツン、ご飯だお。今度は遅れなかったお」
昼、内藤の持って来たご飯をちらりと見てツンは答える。
「いらない」
「――だから、毒は入ってないお」
そう答える内藤にツンは平然と言い放つ。
「それ、嫌い。別なの持って来て」
「き、嫌いって、これしか無いお……」
「じゃあ、いらない」
ツンはそう言って、内藤に背中を向ける。
「わ、分かったお! 勝手にすればいいお!」
流石に頭に来てそう言い放った内藤だが、しばらくしてお腹を空かせたツンを想像してしまい、結局自腹で食べ物を買い、ツンに届ける事になった。

「あー、こんな処に閉じ込められたまま、ご飯ばっかり食べてたら太っちゃうわよ」
夜、内藤の持って来たご飯を食べ終わるとツンが言った。
「毎回、がつがつ食べるツンも悪いお」
ツンが内藤を睨む。
睨まれた内藤は必死でツンを褒める。
「……だ、大丈夫だお。ツンは美人だお」
「そんなの知ってるわよ」
平然とそう答え、腕を組んで内藤に背を向けるツン。
内藤は今度は違う言葉でツンを褒めてみる。
「そ、それに太ってなんかないお」
「それも知ってるわよ。あんた馬鹿ねぇ、太っちゃうってこれからの話をしてるんじゃない」
そう言いながら内藤に振り返ったツンは内藤を見て、表情を険しくする。
「な、何よ? にやにやしちゃって。……あんた、何か変な想像したんじゃないでしょうね?」
「え?」
内藤は自分がそんな風ににやけていた事に気付かなかった。
「人の体重の話で変な想像してにやにやするなんて。あんた、馬鹿な上に変態なの?」
でもそれは決して変な想像をしたからではなかった。
「ち、違うお! 変な想像なんかしてないお! ぼくは変態なんかじゃぁ無いお!」
「ふーん、変態じゃあ無いんだ」
「そうだお」
笑顔で自信を持って答える内藤にツンが言う。
「でも馬鹿な方は否定しないのね」
「……ば、馬鹿でも無いお」
「いまさら否定したって手遅れよ」

終始こんな様子だったが、思い出してみればツンは昔からこんなだった。
そして、それが懐かしくって内藤はにやにやしてしまう程にちょっと嬉しかった。

(^ω^)
 翌朝、部屋の窓に蝉の抜け殻を見つけた内藤がはしゃいでツンに言う。
「ツン! ほら、蝉の抜け殻だお!」
内藤の指差す方向を見て、ツンが聞く。
「それがどうしたのよ?」
「あれは昨日は無かったお。だから夕べの内に来たんだお。惜しかったお。ここにいたら蝉が羽化するところが見られたかもしれないのにだお。――ツンは見なかったのかお?」
「見てないわよ」
「勿体無いお、せっかく一匹の蝉が誕生する瞬間が見られたかもしれないのにだお」
「それも誕生って言うのかしら?」
ツンの言葉に内藤がツンを見つめ、突然声を上げる。
「ツン!」
「な、何よ……?」
「蝉が羽化するのは大変なんだお! 卵から孵る以上の苦労なんだお! 上手く羽化出来ないかもしれないし、羽化の途中や羽根を乾かしている間に敵に食べられちゃうかもしれない、死と隣り合わせなんだお! だから、だから蝉は羽化が本当の誕生なんだお!」
そんな内藤の力説を聞いてツンが呆れたように呟く。
「ほんと、相変わらずねぇ……」
「そうかお、相変わらずかお、って、え? 相変わらず? ――ツ、ツン!?」
「あ……」
ツンが言葉を失った。
「――ツン、ぼくだって気付いてたのかお!?」
驚く内藤に、ツンはハァと溜め息をついて答える。
「そうよ」
「いつから?」
「最初からよ。……まったく、せっかく知らないふりしてたのに」
ツンは内藤から目をそらし、壁を見つめる。
「でも、ぼくはツンの事すぐに分かったけど、ツンはぼくの事なんて分からないと思ったお。どうして、分かったんだお?」
「どうしてって……」
内藤の質問にツンが答える
「語尾に『お』を付けて喋る奴なんてあんたぐらいよ。それに、あんた――」
ツンが内藤を見つめる。
「私が名乗ってもいないのに最初から私の名前呼んでたでしょ?」
「あ……」
今度は内藤が言葉を失う。そしてそんな内藤を見てツンが呆れたように呟いた。
「ほんと、相変わらず――馬鹿ねぇ」

(^ω^)
「ねぇ、見てこれ。今朝の蝉の抜け殻が風で落ちて来たの」
昼になり、やって来た内藤にツンが蝉の抜け殻を見せる。
「かっこいいお」
そんな感想をもらす内藤にツンが声をあげる。
「――そうだ!」
そしてツンがにこっと笑って内藤に聞いた。
「ねぇ、内藤。これで、私と賭けをしない?」
「賭け?」
「そうよ。今朝、あんたが持って帰るのを忘れた器が二つあるでしょ?」
そう言って、ツンは内藤の置いて行ったそれぞれ色の違う器を二つ内藤の前に置く。
「これを伏せてどっちかにこの抜け殻を入れるから、どっちに入ってるか当てて」
「おっおっおっ、いいお」
「じゃあ、用意するわね」
そう言ってツンは背後で器を伏せ、内藤の前に出す。
「さぁ、どっち!?」
「――――――こっちだお」
内藤は悩んだ末に左の器を指差した。
「こっちでいいの?」
ツンは内藤を見上げ、聞く。
「いいお。こっちだお」
ツンはにやりと笑うと内藤が差したのとは逆の器を開ける。
ころん、と蝉の抜け殻が出て来た。
「あ……」
「ざーんねーんでしたー! 抜け殻が入っているのはこっちでしたー」
がっくりとする内藤にツンが聞く。
「もう一度やる?」
「やっ、やるお!」
そうしてツンはもう一度、二つの器を並べて内藤の前に出す。
「どーっちだ」
内藤はさっき以上に真剣に考える。
「こ、こっち……、いや! やっぱりこっちだお!」
内藤は右の器を指差し、そしてツンはまたも内藤の指差したのとは反対の左の器を開ける。
蝉の抜け殻が再び表われる。
「またまた、ざんねーん。抜け殻はこっちでしたー」
「あうううう。あそこで変えなければ良かったお……」
悔しがる内藤にツンが上目遣いに聞く。
「もう一度?」
「もちろんだお!」
声を上げる内藤にツンが言う。
「じゃあね、次に負けたら――。私の言うこと何でも聞く?」
「――いいおっ!」
勢いに乗った内藤はろくに考えもせずにそう答える。
ツンはにやりと笑うと二つの器を内藤の前に出した。
「さ、どっち?」

(^ω^)
 それから数十秒、内藤は考えに考え抜いた末、答えを出した。
「最初は右で、次は左に入ってたお。だとしたらツンの性格から考えると次も左に違いないお!」
そうして、内藤は左の器を指差す。
「こっちだお!」
ツンは内藤を見上げ、聞く。
「ほんとにいいの? こっちで」
その言葉に内藤は答えを言い直しかけるが再び決意する。
「そんな言葉には乗らないお! それはきっと誘導してるんだお!」
「じゃあ、いいのね?」
そう聞くツンに内藤は静かに答える。
「左で、いいお――――」
「そう。じゃあ――」
そう言って、ツンは静かに内藤が差さなかった右の器を開けた。
蝉の抜け殻が内藤を見つめるようにそこにいた。
「――――ッ!」
空蝉に見つめられ、がっくりと肩を落とす内藤。
ツンもまた、満面の笑顔で内藤を見つめる。
「ふっふっふー。じゃ、約束通り、私の言うこと聞いてもらうわよ」
「わ、分かったお……。何して欲しいんだお?」
内藤の質問にツンは淡々と答えた。
「ここから出して」
「――そっ! それは……」
内藤は気まずそうに答える。
「それは無理だお」
「それじゃあ、私を開放して」
「だ、だから……」
「それなら、私に自由を――」
「ツン、言ってる事が全部同じだお……」
ツンの言葉に突っ込む内藤。
ツンは憮然として頬を膨らませて言う。
「だってー、この状況で他に何、頼む事があるっていうのよ?」
「そ、そりゃそうだけど……」
眉を下げ、困り果てる内藤を見てツンが言う。
「わかったわよ。じゃあ、何か考えておくわ」
そうして、ツンが器を片付けようとした時だった。
ツンの手が滑り、器が手から落ちる。割れたりはしなかったが、同時に何かがころころと畳の上を転がった。
それを見て内藤は目を見開き、ツンはしまった、と目を閉じた。
畳に転がった物。それは賭けに使った蝉の抜け殻だった。そして――
――――抜け殻は二つあったッッッ!
「ツ、ツン! これはッ!?」
問い質そうとする内藤をツンは上目遣いに静かに睨んでいた。睨むツン、その背後ではゴゴゴとかドドドと音がしそうな雰囲気が漂っている。
気圧されながらも内藤は拳を握りツンに抗議する。
「こっ、これはイカサマだお!」
ツンは何も言わずに内藤を黙って見つめる。
「普通はぼくが言った方を開けるのに、あえて逆を開けるなんておかしいと思ったお! そんなイカサマは無効だお!」
しかし、ツンは悪びれもせずに言葉を返した。
「蝉の抜け殻が、一つしか無いと思った時点で既にあんたの負けなのよ」
その圧倒的な物言いに、内藤は言葉を返すことが出来なかった。
「あうあうあう……」
そうして内藤を言い負かすと、ツンはにっこり微笑んで言った。
「あー、あんたをからかうとちょっとは退屈しのぎになるわね」
「ひ、酷いお……」
がっくりとうなだれる内藤にツンが言う。
「だって、退屈なんだもん」
そして、うなだれた内藤の顔を覗き込みながらツンは聞いた。
「それにしても、あんた成長しないわねぇ。大丈夫? 悪い人に騙されたりしてない?」
そういえば小さい頃もこうしてよくツンに心配されたなぁ、と内藤は思い出す。
悪い気はしなかった。
そして内藤は小さい頃と同じようにツンに答えた。
「大丈夫……だと思うお……」

(^ω^)
「――あのさ、ツン」
「何?」
昼の食事を終え、ふと内藤はずっとツンに聞きたかった事を聞いた。
「どうして泥棒になんか入ったんだお? お金に困ってるのかお?」
ツンはさっきまでの笑顔を解き、憮然と答える。
「私――、泥棒に入った訳じゃないわよ」
内藤はそんなツンを見てにっこりと微笑んだ。
「だと思ったお。大丈夫、すぐに誤解は解けるお!」
内藤の笑顔をあっけにとられた表情で見ていたツンは何か言いたそうだったが、結局何もいわずに、そうね、とだけ言った。
「――ねぇ」
それから、ツンは改めて内藤に向き直り聞いた。
「あんたはここで何をしてるの?」
「ぼ、ぼくかお……?」
ツンの質問に内藤は口ごもる。
「どうしたのよ? 言えないような事なの?」
ツンの内藤を見る目が厳しくなる。
「そ、そんな事無いお……」
「じゃあ、言いなさいよ。さぁ、何してるの?」
「あ、あの……」
完全に疑いの目で見られ、内藤は目が泳ぐ。
「――よ、用心棒! そう! 用心棒だお!」
そして、突如そう言った。
「用心棒?」
内藤の答えを聞き、尚もツンは訝しがる。
だが、内藤は嬉しそうに話を続ける。
「そうだお! 腕を見込まれて、ここで雇われて、みんなに先生って呼ばれて尊敬されてるお!」
「――その先生が毎日、私にご飯を持って来る仕事を?」
ツンの質問に内藤は再び口ごもる。
「そ、そそそ、それは――」
その時、背後から内藤を呼ぶ声が響いた。
「おい、内藤! 今朝、頼んだあれまだか!?」
それは入束屋の店員で今朝、内藤に用事を頼んだ男だった。
「……あ」
内藤は用事を頼まれていた事を思い出し、慌てて返事をする。
「すすす、すいません。忘れてましたお。今すぐ用意しますお!」
男はそんな内藤に慣れているのか呆れつつも笑いながら言う。
「何だよお前。最近、ここに入り浸りじゃねーか。どうした? そいつに惚れちまったのか?」
「――そ、そんなんじゃないですお!」
慌てて言い返す内藤。
「大番頭さんからここを見張るようにって言われてるんですお!」
そんな内藤に男が尚も笑いながら言う。
「何だそうか。そうだよな、お前、故郷に好きな子を残してきたからとか言って女遊びもこれっぽっちもしねーもんな」
「そっ、そんな事言って――――!」
内藤は今まで以上に焦り、言葉を詰まらせた。
そして、早く用意しろよと言い残して男は去り、残された内藤は無言のまま恐る恐るツンの方を見た。
「――先生?」
ツンが一言、そう言った。

(^ω^)
「すみませんごめんなさいうそをつきましたお」
内藤は平身低頭ツンに答える。
「さっきの用心棒ってのは嘘ですお」
「みたいね」
勿論、分かっていたのだろう、ツンは平然とそう言った。
だが、この時内藤は実はほっとしていた。――ツンがそっちの方を話題にした事に。
内藤は続けて白状する。
「本当はただの雑用ですお。――ぼくがここで働けたのは同じ藩のよしみってだけだお」
「……そう」
ツンはそう答え、それから安堵の声で良かった、と呟いた。
「――何が良かったんだお?」
ツンの呟きを聞いた内藤が聞き返す。
だが、その瞬間、ツンが突然声を上げた。
「そうよ! ちっとも良く無いわよ!」
「ツ、ツン?」
そして、驚く内藤に向かってツンは声を張り上げる。
「何よあんた! 急に居なくなったりして! しかも誰にも何も言わずに! どうしたのよ! 何なのよ! 何でそんな事するのよ! あんたがいなくなってどれだけ心配したと思ってるのよ!」
「し、心配してくれたのかお?」
気圧されながらも、そう聞き返す内藤にツンはうっ、と言葉を詰まらせ、ぼそぼそと言い返す。
「――わ、私がじゃないわよ? 兄貴とか、周りのみんなよ」
「そ、そうかお……」
ツンはそのまましんみりと内藤に言う。
「あんたのお父さんが死んですぐだったし。心配しない訳無いじゃない……」
「…………」
「――それなのに!」
しんみりから一転、ツンは再び内藤に怒りをぶつける。
「こんなところでのほほんと暮らしてました!? 何よ、ふざけるんじゃないわよ! ほんと! 頭に来る!」
「の、のほほんとはしてないけど……。ツン、それでかお?」
「何がよ!?」
「怒って、それでぼくの事、知らないふりをしてたのかお?」
「そっ、そうよ……」
自分の子供っぽい行動を言い当てられ、ツンは少し照れ、そして、その反動で再び内藤に怒鳴る。
「でも、だから、そのー、あんたのせいじゃない!」
「――そうかお。ごめんだお」
あまりにも素直に謝る内藤にツンは肩の力が抜け、その怒りはすぅ、と何処かへ行ってしまった。
「……い、いいわよ、もう」
何故か少し照れくさく、ツンはそれ以上何も言う事が思い浮かばず、内藤もそれ以上何も言わなかった。
沈黙が、何だかむずがゆい沈黙が舞い降りた。
「――えっとさ、そ、それで?」
ツンがその沈黙を消そうと内藤に聞いた。
「何で備府から出て行ったのよ?」
「そ、それは――」
ツンの質問に内が藤呟くように答えた。
「――――仇討ち、だお」

(^ω^)
 五年前、内藤は備府藩に父親と二人で暮らしていた。
内藤の父親は備府藩の同心で、決して多くの年収を得ている訳では無かったが、子と二人で暮らしていくのに困ってはいなかった。
内藤も貧しいながらも父と二人、そして隣りの小さな道場にはツンがいる生活を楽しいと思っていた。
 だがある日、その生活は突然に終わりを迎えた。
内藤の父親が何者かに斬り殺されてしまったのだ。
理由も何も分からなかったが、内藤の父親は誰かに恨まれていたりといった事は無く、喧嘩やまして決闘をするような人物では無かったので、恐らくは辻斬りにやられたのであろうと結論付けられた。
発見された内藤の父親は何箇所も斬られていたが、抜刀していた。つまり、内藤の父親は無防備なところをやられた訳では無く、刀を抜いて戦った末にやられてしまったのだった。
そして、内藤の父親の刀には一切の血痕が見られなかった事から内藤の父親は相手に一太刀も浴びせる事も出来ずにやられてしまったと分かった。
だが、内藤の父親はそこそこ腕の立つ侍だった。それが一方的にやられたとなれば相手は相当の手練だったのだろう。
噂は噂を呼び、中には殺し屋にやられたという説も飛び出してきたが、結局、真相は闇の中だった。
 そうして、父親の葬儀から一週間後。内藤は誰に言う事も無く独り、故郷を離れた。
――――父の仇をとるためだった。
だが、その仇は何処の誰なのか分からず、仇討ちの免状も受ける事も叶わなかった。
それでも内藤は出発した。どんなに困難でも男としてこのまま引き下がる訳にはいかない。そう思っての事だった。
独り、志を胸に発ち、そして仇を討ったら誰にも言わずここに、故郷にもう一度帰って来よう。
そんな事を思い描いていた。
「――でも、全然駄目だったお」
内藤は疲れた声で告白した。
「唯一の手掛かりは父上の最後の言葉だっていう『猫の目に気をつけろ』だけだし、最初はどこに行けばいいのかすら分からなかったお。備府を出発してあちこちうろうろして、ある日やっと、江戸で《猫目の辻斬り》が数年前に話題になったって聞いて、それでどうにか江戸に来てみたものの、《猫目の辻斬り》は噂話の範疇でしか無くて、詳しく知っている人はいないし、お金は無くなるし頼れる人もいないし……」
その時の気分を思い出し、内藤はハァと溜め息をついた。
「そんな時に、ここ、入束屋で拾ってもらったんだお」
説明を終え、ツンを見つめる内藤。
「――それで?」
ツンが聞き返す。
「それで、終わりだお? だからぼくは今ここにいるんだお」
何を聞かれているのか分からずにきょとんとする内藤にツンは再び聞く。
「それで? 仇討ちは?」
「あ、ああ! うん!」
内藤がにっこりと答える。
「勿論、絶対に仇を討つお!」
そんな笑顔の内藤に向かってツンが冷ややかに聞いた。
「あんたなんかに出来るの?」
「――え?」
ツンの言葉に内藤の笑顔が固まる。
そして、ツンはもう一度内藤に聞いた。
「今のあんたに、仇討ちなんか出来るの? ……剣の腕はともかくとして」
「………………」
自分を見つめるツンの真っ直ぐな瞳に、全てを見抜かれているようで、内藤には何も答える事が出来なかった。
確かに、最近、内藤は自分でももう仇討ちなんて出来ないんじゃないかと思っていた。
見つからない仇、無常に過ぎて行く時間。いつまでたっても目的は果たせず、年月ばかりが経過する。そんな報われない状況が続くうちにだんだんと気力も薄れ、今の内藤はただ生活していくのに精一杯になっていた。
「――まぁ、いいわ」
沈黙する内藤にツンはそう言った。
「それよりも内藤」
ツンが改めて内藤に向き直り今まで以上に真剣な目で見つめてくる。
「な、何だお……?」
今度は何を言われるのかと気後れしながら返事を返す内藤にツンは聞いた。
「故郷に残してきた、好きな子って誰よ?」
「そ、それは――」
さっきツンが選ばず、ほっとしていた方の話題を持ち出され、内藤は言葉を詰まらせる。
ここでも内藤には何も答える事が出来なかった。
その本人を目の前にして、内藤に答えられる訳が無かった。

(^ω^)
「流石にそろそろお風呂に入りたいわね」
その夜、唐突にツンが言った。
「そうだ! 昼間の賭けのあれ、お風呂にするわ」
この人は自分が捕らわれの身だという自覚があるんだろうか、自らの置かれた状況を本当に分かっているんだろうか、と内藤はツンのその大胆発言に驚くばかりだった。
「そ、それもたぶん無理だお……」
内藤はそう答え、直後に思い出して付け足す。
「って言うか、あんなインチキな賭けは無効だお!」
頬を膨らませる内藤にツンは尚も言い返す。
「もー、そんな小さい事言ってないで、私が頼れるのは内藤、あんただけなのよー?」
「――どっ、どうすればいいんだおっ!?」
突然、頼れるのは自分だけと言われ、内藤は奮起する。
だが、実際には何をしたらいいのかまったく思いつかなかった。
自分にお風呂を用意しろと言うのだろうか? だがそれは大胆とかでは無くもはや無茶な発言と言うものだ。
どうしていいのか分からずにおろおろするだけの内藤ツンが言う。
「あんたにそんな期待はして無いわよ。あんたに命令出してる人に頼んで来てくれればそれでいいのよ」
何だ、と内藤は肩を落とし、それから改めてツンの言葉を思い出し、言う。
「頼んで来てって、そんな軽く言うけど……」
内藤は眉を下げてツンに言う。
「その方が大変だお……」
捕まえた泥棒をお風呂に入れさせろだなんて、そんな要求通る訳が無い。だったら自分がお湯を用意する方がまだ可能性があるというものだ。
だがツンは内藤の返事を気にもせずに言う。
「いいから行って、聞いてきなさいよ。こんなところで無理だ無理だって思ってうだうだしててもしょうがないでしょ」
「分かったお。じゃあ、明日、何とか聞いてみるお……」
仕方なく、内藤は約束する。
そして、ツンは悪びれもせずにこう言った。
「そもそも、この私がもう三日も牢屋になんて入ってやってるんだから、それぐらい当然でしょ?」

(^ω^)
 翌日の朝、内藤は大番頭に呼ばれた。
そして、大番頭は部屋に入って来た内藤に対し、何の前置きも無く開口一番、聞いた。
「お前、あの女と知り合いだったのか」
「は、はい。幼馴染ですお」
誰に聞いたんだろう、と内藤は不思議に思う。
「そうか。――して、どうしてその事を隠していたんだ?」
続けてそう聞いて来る大番頭に内藤は咄嗟に嘘を付く。
「き――、気付かなかったんですお」
「本当か?」
大番頭が厳しい目で内藤を見つめる。
「ほ、本当ですお……」
冷や汗をたらしながら座る内藤を大番頭は何も言わずに見つめ続けた。
「――――――」
「………………」
しばらくの沈黙の後、大番頭は聞いた。
「――お前、名は何と言ったかな?」
「内藤ですお……」
おずおずと答える内藤。
「そうか――。それで? あの女は何か言っていたか?」
内藤は再び不思議に思う。やはり誰かに聞いたのだろうか。
「はい、言ってましたお」
内藤の答えに大番頭の目が光る。
「そうか、何と言っていた?」
「ツンはお風呂に……」
「――何?」
大番頭が聞き返す。
「ツンはお風呂に入りたいと言っています」
「あぁ!?」
大番頭の声が裏返る。
「何を言ってるんだ、お前は!?」
「あ、そうだ。それにそもそも――」
大番頭の異変にも気付かずに内藤は進言する。
「ツンが泥棒だなんて何かの間違いですお!」
「――泥棒?」
内藤の言葉に大番頭はくっ、と口を歪ませて笑った。
そして、内藤をじっと見つめる。
「あるいはお前なのか――?」
「何の事ですかお?」
首を傾げる内藤に大番頭は静かに言う。
「とぼけているのかどうなのか――。まぁいい、もう戻れ」
「え?」
「戻れと言っているんだ。聞こえなかったのか?」
突然、話を打ち切られ、困ったように内藤は聞く。
「あ、あの……、お風呂の件は……」
だが大番頭は何かを思案しているようで、内藤の言葉を聞いてはいなかった。
「……あの、大番頭様?」
やがて大番頭は自分で出した答えを呟くように口にした。
「ふん、もうしばらくは好きにさせてやるか」
そう言って、大番頭は部屋を出て行った。
「あ、ありがとうございますですお!」
内藤は大番頭のその言葉をツンをお風呂に入れていいものと理解し、お礼を言った。
だが、大番頭は内藤が何故お礼を言ったのか分からなかったに違いない。いや、内藤がお礼を言ったことすら気付いていなかったに違いない。
内藤はそんな大番頭を深々と頭を下げて見送ると、嬉々としてツンのもとへ戻って行った。

(^ω^)
「ほら、やれば出来る事だってあるのよ。何事も諦めるんじゃないわよ」
夜、湯に浸かりながらツンは内藤に言う。
「う、うん……」
外でツンの見張りを兼ねて風呂焚きをする内藤が生返事を返してきた。
「それにしても豪華なものよねー、家の中にお風呂まであるとは。一体、何で稼いだんだかねー」
皮肉っぽくそう言うツンに内藤はまたも生返事を返す。
「うん……」
「――どうしたのよ? 元気ないじゃない」
風呂場からぱしゃりと音が聞こえた。ツンが内藤のいる外に向って振り返ったらしい。
「今日、お風呂の件で相談に行った時に、ツンが泥棒だっていう誤解を解こうと思って、大番頭さんに話をしたんだお」
内藤はツンの声が聞こえてくる浴室の窓を見上げて話をする。
「それで?」
ツンの返事が返ってくる。
「ツンは泥棒じゃないって言ったら、大番頭さん、何だか妙な感じだったお」
「――そう」
「それに考えてみれば、いくら泥棒とはいえ、奉行所にも届け出ずにこんな風に何日も監禁しておくなんておかしいお。――そうだお、やっぱりおかしいお、何だか分からないけど何かが変だお!」
頭の中で考えていた事が口に出して言う事で確信に変わった内藤はすっくと立ち上がってツンに聞く。
「ツン! 君は一体、何をしてたんだお!?」
バシャッ、と浴室の窓から飛んで来たお湯が内藤に命中する。
「……こっち、見ないでよ」
手桶を持ったツンが身体を手で隠しながら浴室から言った。
「ご、ごめんだお……」
内藤が水を滴らせながら謝る。
「でも、やっぱりおかしいお。ツン、どういう事なんだお?」
再び、座り込んで浴室の窓を見上げながら聞く内藤。
「はぁ――、しょうがないわね」
そんな内藤にツンは内藤のいる外に背を向けて湯船に浸かり、答えた。
「どうやらあんたはこの事件に絡んで無いみたいだから教えてあげるわ。わたしがどうしてここに来たのか、あの時、わたしがここで何をやっていたのか――」
そうしてツンは自分が捕まった理由を話し始めた。

(^ω^)
「――二ヶ月前、備府藩内でご禁制品に絡む殺人事件が起きたの」
ツンの話が始まり、内藤は早速驚く。
「さ、殺人事件!? あの平和な備府で穏やかじゃないお!」
そうね、とツンは話を続ける。
「藩としてはまず、事件のきっかけになったそのご禁制品の流れを追ったんだけど、知ってた人は既に死人。しょうがないから、一から調べていく事にした訳よ」
「ほうほう、それでそれで?」
「……真面目に聞きなさいよ」
内藤の相槌にツンは声を低くする。
「これでも真面目だお」
内藤はそのだらしない表情を精一杯きりりと引き締めた。だが、当然それはツンには見えない。
「……まぁ、いいわ。それで――」
「それで?」
「長い調査の末に行き当たったのがこの入束屋よ」
「…………何だか、ずいぶんと話をはしょられた気がするお」
「私だってその辺は詳しく知らないわよ。いいじゃない、関係無いんだし。ま、とにかくそれで藩は備府にある入束屋の店舗やなんかを調査してみたわけよ。でも結果は真っ白。何も見つからなかったわ」
入束屋は江戸では備府から運び入れた藩の名産品を売り、備府ではその帰りに江戸で入手した備府で手に入りにくい物を運んで売っている。往路も復路も商材を山の様に運んでいる入束屋はその商売規模の為に関所の通過はほぼ素通りに近い状態だった。
その事を含め、疑いを持った藩は備府藩内で抜き打ちで入束屋の店舗、倉庫、荷物を検査したが、それでも証拠は見つからなかった。
「――で、藩は今度は江戸にあるこの屋敷に目を付けた」
「ふむふむ、何だか話が近付いてきたお」
「ただし、ここは江戸。備府藩の人間が勝手に捜査したり出来る場所じゃないわ」
「――あっ!」
内藤が声を上げる。
「分かった? そうよ、だからこっそり忍び込んで調べる事にしたのよ。証拠さえ出れば後は適当に理由をつけて何とでも出来るし」
内藤が大きく頷く。
「なるほど。それが、あの日、ツンがここにいた理由かお」
「そうよ」
うんうん、と頷いていた内藤はある事にふと気付き、とっさに立ち上がる。
「で、でもツン、それじゃあ――!」
バシャリ――。
「こっち見るなって言ってるでしょ、馬鹿っ」
再びかけられたお湯をぽたぽたと滴らせながら立ち尽くす内藤。
「……ご、ごめんだお」
びしょ濡れになった服を絞りながら内藤はまた座る。
「――それで? 何よ、そんなに慌てて」
浴室からツンの声が響く。
「ツン、大丈夫なのかお?」
「何がよ?」
内藤が恐る恐る答える。
「し、証拠隠滅の為に殺されちゃったりするんじゃないかお……?」
「ああ――」
ツンは湯船に浸かり内藤に答える。
「私も最初はそれを心配したんだけど、ここまで尋問すらしないところを見るとこっちの出方を窺ってるんじゃないかな? だからもうしばらくは平気だと思う」
そして浴槽内でうーん、と大きく伸びをすると続けて言った。
「まぁ、そのしばらくがどれ位の期間かは分からないけどね」
「なっ――!? ツ、ツン!」
「な、何よ!?」
突然の叫び声に驚くツンに内藤は慌てて言う。
「ににに、逃げるお! 今すぐ! さぁ! ほら、悠長に入浴なんてしてる場合じゃないお!」
「ど、どうしたのよ急に?」
内藤の焦り様に驚くツンに内藤が言った。
「今が最初で最後の機会かもしれないんだお! ――逃げられるのは今この時しか無いんだお!」
「どういう事?」
聞き返すツンに内藤が焦りながらも説明をする。
「今、ぼくは牢の鍵を持ってるお! でもそれはこのお風呂の為に特別に持たせてもらったんだお。つまり、普段はぼくは牢の鍵を持って無くて、だから、今この時を逃したら建物から逃げるどころか牢からさえ出られ無いんだお! だから、さぁ、ほら! ツン、早く!」
さあさあ、と内藤はツンに迫る。
「――無理よ」
だが、そんな内藤にツンは冷静に答えた。
「え?」
「無理よ。確かに、牢を脱出するより今ここから逃げる方が現実的だけど――。ここ、見張りが厳重だもの。それに広いし、壁だって高いし。よしんば、敷地を出られたとしてもすぐに追ってが来るわよ」
だから私も捕まっちゃったんじゃない、とツンに言われ、内藤は返す言葉が無かった。
「でも、そんな事してたら……」
暗い声で呟くようにそう言う内藤にツンは明るく言い返す。
「ま、その時はその時よ」
実はツンにはそうやって強がっていられる理由があった。
いつまでも自分が帰って来なければ、兄のドクオがその異変に気付いて助けに来るだろう、と思っていたのだ。
だがそれでもやっぱり、助けが間に合うのか、それ以前に本当に助けに来てくれるのだろうか、と心の奥では不安が渦巻いていた。
事実、明るく内藤に声をかけたツンの手は小さく震えていた。
「………………ツン」
しばらくの沈黙の後、内藤が力強い声で言った。
「ん?」
「待っててだおツン。隙を見てぼくが助け出すお。きっとだお!」
浴室のツンからは外にいる内藤の顔は見えなかったが、それでもツンには内藤のその真剣な表情が目に浮かんだ。
「そうね――。うん、期待しないで待ってるわ」
そう言いながら湯船に沈み、顔をお湯に半分浸からせるツン。その顔はとても嬉しそうだった。

(^ω^)
「――内藤〜、もう上がるわよ〜」
ツンの声が虚しく浴室の窓から響く。
「何やってんのよ、内藤〜。こんなに入ってたらふやけちゃうわよ〜」
だが、ツンの言葉に返事を返す者は誰もいない。
「ほんとにもう。ちょっと出かけて来るお、って何処行ったのよ? 大体、見張りなのにいいの? そんな事で――」
浴槽にもたれかかりながらぶつぶつと文句を言うツン。
そうして、それからもうしばらくツンは待っていたが、いつまで経っても内藤は戻って来なかった。
「……あー、もう限界! 上がろう!」
暑さでのぼせそうになり、ツンは上がることを決意する。
そうして、浴槽から出て、脱衣所への扉をからからと開けると、そこにはツンの脱いだ服を手に持った内藤がいた。
「……………………」
「……………………」
しばらく、お互いに声を出すことも、動く事も出来なかった。
だが、やがてツンが声を上げる。
「ななな、何やってんのよ! この変態っ!」
「ちっ、違うおっ! ちが――おぐっ!」
怒りに身を任せたツンの蹴りを喰らい、内藤は脱衣所の壁へと張り付くはめになった。

「――だから、服がよれてたからちゃんと畳み直してただけだお」
「うるさいだまれいいわけするなこのへんたい」
内藤を罵りながら、ツンは再び牢へ入る。
そして内藤は悲しそうな顔で牢の鍵を閉めた。
「ああ、さらば自由よ」
そう言うツンに内藤が謝る。
「ごめんだお……」
「なっ、何よやーね。冗談よ、冗談」
そう言ってツンは笑ったが、内藤は形だけの笑顔しか返せなかった。
「じゃあ、鍵を返してくるお」
内藤はそうして、鍵番にツンの牢の鍵を返しに行った。

(^ω^)
「でも、そう言えばツン」
「なに?」
鍵を返し、またツンのところに戻って来ておしゃべりをしていた内藤がふとツンに聞いた。
「どうしてツンがそんな、潜入調査みたいな事をしてるんだお?」
「そうなのよ――」
内藤の質問にツンは答える。
「元々は兄貴の仕事なのよね、これ」
「え? 師匠の? ツンの家、稽古場はやめちゃったのかお?」
ツンの家は独辰一刀流という剣術の道場を開いていた。
道場の師範はツンの七歳年上の兄、ドクオ。ツンは昔からこのドクオと二人で暮らしていた。
当時、父親に剣術を教わっていた内藤は子供ながらも腕に自信があった。そしてある日、内藤は隣の家のドクオに勝負を挑む。しかし、結果は当然のようにドクオの圧勝。手も足も出なかった内藤はそれ以来ドクオを師匠として仰いでいた。
「やめて無いわよ?」
内藤の質問にツンが答える。
「――でも、ある日の御前試合で兄貴がやらかしちゃったのよねー」
内藤はどきどきしながらツンに聞いた。
「な、何をしたんだお?」
ツンはハァと溜め息をつくと、答えた。
「あの馬鹿兄貴ったら、試合でいつものように呟いたのよ。『まんどくせ』って……」
何ということを……。話を聞いただけで内藤の顔は蒼ざめる。
「私も後で聞いて生きた心地がしなかったわ。普通であれば良くて切腹、御家取り潰しよー」
でもね、とツンは続きを語った。
「ちょうどその頃、藩が調べてた事件があってね。ちょっと危険で難しい調査が必要だったんだけど、それを引き受ければ赦してもらえるって事になったのよ」
「そ、それで?」
内藤が身を乗りだす。
「それが、兄貴ったらそっち方面の才能があったらしくてねー。調査は無事完了。藩の役人も驚いてたわ。で、以来、重宝がられて藩の調査にひっぱりだこ」
呆れ顔でツンは呟くように言った。
「もう、どっちが本業だか分からないわよ……」
そして、ツンが肩をすくめて言う。
「まぁ、それで今回は別な調査と重なって動けなかった兄貴に頼まれて私が来たって訳」
「……そうだったのかお」
ツンがぶつぶつと文句を言う。
「そうよ。その結果がこれよ。……だからやった事無いし嫌だって言ったのよ。まったくあの嘘つき。何が誰にでも出来る簡単なお仕事です、よ」
ツンの様子を見て、内藤はその怒りの矛先がこちらを向かないようにとツンにやさしい言葉をかけた。
「で、でもツンも惜しかったお。もしかしたら僕と会ったあの倉庫に事件と関係するものがあったのかもしれないし、もうちょっと上手くすればそれを持って逃げられたお、きっと」
するとツンはそれを聞いて、思い出したように怒り出した。
「そうよ! 考えてみればあんなところにあんたがいなければ全てはうまく行ったのよ! 全部、全部あんたのそのまぬけ面のせいよ! ちょっとあんたそこに座りなさい! 小一刻ばかり説教してあげるわ!」
内藤はやぶへびだったと後悔した。

(^ω^)
「ツ〜ン!」
翌日、昼食後に内藤が意気揚揚とツンのところにやって来た。
「何よ、五月蝿いわねぇ。せっかくいい気持ちで昼寝してたのに……」
ツンは目をしょぼしょぼさせながら内藤を見る。
「いいもの、持ってきたお!」
そう言って、内藤は後ろ手に隠していた物をツンに見せた。
「西瓜じゃない! どうしたのよこれ!?」
ツンは内藤の見せた西瓜に目を大きく開ける。
「がんばって手に入れたんだお」
内藤が胸を張って答える。
「やるじゃない」
「ふふん。ぼくだってやる時はやるんだお」
そうして二人は並んで座り、西瓜を食べ始めた。
窓から見える空はどこまでも青く、大きく真っ白な雲がゆっくりと流れていく。気温が高く、蝉の声が聞こえた。
「――こうしてると思い出すわねぇ」
ツンが懐かしむように呟いた。
「何をだお?」
聞き返す内藤にツンが言う。
「西瓜と言えばあれでしょ」
ツンの言葉に内藤はそれを思い出した。
「あー、あれかお?」
「そうよ」
「「西瓜割り!」」
二人は同時に声を上げた。

 内藤とツンは備府にいた子供の頃、夏によく西瓜割りをしていた。
目隠しをして西瓜を割るのは内藤、そして指示を出すのはツンの役目だった。
指示を出す者、指示を受けてその通りに動く者、それぞれの適性が相乗効果を生み、二人の西瓜割りは正確無比だった。
それが楽しくて二人はどんどんと曲芸のような西瓜割りにも挑戦するようになった。
最後の頃には、柔らかい木の枝に吊るされ、不規則に動く西瓜さえも移動しながら割る事が出来るようになっていた。
「あんたの頭に西瓜が当って、それで割れた事もあったわねぇ」
ツンが思い出しながら笑う。
「あれは痛かったお。西瓜の本気を見たお。でもお陰で避けながら割る事も出来るようになったお」
内藤はまるで今当ったかのように頭をさすりながら答える。
内藤は木に吊るされた西瓜を、その向こうに広がる眩しい蒼い空と白い雲を、そして深い緑の山々を思い出し、そしてその空気までも思い出していた。
「そういえば、あの時ツンは割れた西瓜とぼくの頭を交互に見てずっと笑ってたお、酷いお」
「だって、頭で割る西瓜割り、何て初めて見たんだもの。ううん、それ以後も見たこと無いわよ」
そう答え、ツンが再び思い出し笑いをする。
「酷いと言えば、あの時も酷かったお」
「どの時よ?」
「川でぼくが溺れかけた時だお」
「ああ、あの時ね」
「あの時は――」
次々と思い浮かぶツンとの思い出はどれもが酷いものばかりだった。しかしそれでもその思い出には一緒に楽しかったという感情が伴っていた。
内藤はそうやって思い出を思い出すこと、そしてそれを話し合えるのがとても楽しかった。

(^ω^)
 そんな裏では屋敷の奥の部屋で店主と大番頭の二人が話をしていた。
「あの女を捕らえてから何日経つ?」
「五日が経過しました」
大番頭の答えに店主はふむ、と考える。
「一向に動きが無いな。どうするか――」
「そういえば」
ふと大番頭が店主に告げた。
「昨日、見張りの者が夜中に屋敷を抜け出て金細工屋に行きました」
「それがどうした?」
聞き返す店主に大番頭が言う。
「恐らく、女の牢の鍵を複製したのでは無いかと」
「なんだと!?」
驚きと怒りの入り混じった店主は大番頭に聞き返す。
「という事はやはりお前の睨んだ通り、あいつこそが隠密だったのか!?」
「いいえ、あるいはと疑ったのですが、調査の結果では何も出て来ませんでした。私の思い違いだったようです、申し訳ありません」
淡々と答える大番頭に店主は聞く。
「では何故そんな事をするんだ? 合鍵を作ったという事はつまりはあの女を脱走させると言う事だろう?」
「聞いた所、見張りとあの女は知り合いだったようです」
店主が毒づく。
「くそっ、忌々しい! ただでさえ判らない相手の動きをさらに混乱させおって」
そして大番頭を見つめ店主は聞く。
「それで、どうするんだ? まさかこのまま逃がせと言うのではあるまいな?」
「それも一つの手ではありますな」
そう答えた大番頭に店主が怒鳴る。
「ふざけるなっ! 相手の動きもわからんまま、あいつらも逃がせというのか!」
怒りでいらいらする店主に大番頭が静かに聞いた。
「ではいっそ、こちらから揺さぶってみますか?」
「何をするんだ?」
不機嫌そうに聞き返す店主に大番頭は低い声で答えを返す。
「――女を殺して相手の出方を待ちます」
店主は驚きの表情で大番頭を見る。
「それはまずいのではないか?」
「そこは上手くやりますれば」
大番頭は無表情に答える。
「勿論、明らかに殺しと分かるやり方はいたしません。自害した様に見せかけるのです。そうすれば、見る者が見れば疑問を持って、踏み込んで調べたくなるでしょう」
「――なるほど」
店主は関心したように大番頭を見る。
「こちらに疑いを持っていれば動きを起こし、そうでなければそのままで終わると。ふむ……」
思案する店主に大番頭が告げた。
「どちらにせよこのままだとあいつらは脱走します。こちらから打って出るなら最後の機会かと思われますが」
店主は大番頭の言葉を聞くと、大番頭を見つめ冷ややかな声で言った。
「そうだな。では、そのようにせい――」

(^ω^)
 スイカを食べる内藤とツンのもとに大番頭が来た。背後にはいつものようにロマネスクが影のごとく随っている。
「あ、大番頭さん……」
事件の事を聞いたせいで内藤は思わず身構えてしまう。ツンは大番頭を睨んでいた。
大番頭は内藤には目もくれずに自分を睨むツンに近寄り、言った。
「――さて、長い間、閉じ込めて悪かったな。だが、それも今日でお終いだ」
「えっ――!?」
大番頭のその言葉に内藤は驚き、そして開放してもらえるものと喜んだ。
「ほほほ、本当ですかお!?」
「ああ、本当だ」
だが、内藤の喜びも束の間、大番頭はツンに向ってその続きを口にした。
「お前には死んでもらう事になった」
「……え?」
内藤は一瞬、戸惑い、そして再び驚く。
「ど、どうしてだお!? どうしてツンが死なないといけないんだお!?」
慌てて振り向くとツンは最初から冷静に事の成り行きを見守っていた。
一人、慌てふためく内藤に大番頭が楽しそうに告げる。
「お前も他人事じゃないぞ?」
「それは……」
どういう意味かと聞こうとする内藤よりも先に大番頭はその答えを言った。
「――お前も一緒に死ぬんだ」
「なっ――!」
絶句する内藤。
そんな無言の二人に大番頭は口を歪ませて言う。
「お前達がここの秘密を知っている事、そして脱走を企てている事、すべてお見通しだよ」
「――フォオオオオオオ!」
内藤が叫び声を上げながら大番頭に飛び掛った。
しかし、その手が大番頭に届く寸前、背後に控えていたはずのロマネスクが瞬時に眼前に現れ、内藤を殴り飛ばす。
どさっと、音を立てて床に倒れる内藤。
「内藤っ――!」
ツンの悲痛な叫び声が牢に響き渡った。
だが、内藤はすぐに立ち上がると再び突進を開始し、そして再びロマネスクに倒された。
そして、それは幾度となく繰り返された。
立ち上がり、殴り飛ばされ、倒れ、そしてまた立ち上がり、殴り飛ばされ、倒れ。
圧倒的な力の差だった。ロマネスクは刀を抜きもしなかった。ただひたすらに内藤を殴りつける。そして内藤はなすすべもなく殴られ続けた。
それでも諦め無い内藤は繰り返し繰り返し立ち上がったが、やがて、床に倒れこんだまま動かなくなった。
「内藤っ! しっかりして! 内藤!」
ツンの言葉に内藤は倒れたまま、大丈夫だお、と返事をした。だが、それは言葉だけ。内藤はまったく動くことが出来なかった。
床に倒れた内藤に大番頭が近づく。
「――お前、内藤と言ったな。あるいはお前が隠密なのかとも思い、調べてみたがまったく見当外れだったな」
そうして、口を歪ませて蔑むように笑うと内藤に言った。
「内藤家は父親の死後、お前が行方不明という事でお家断絶。家の敷地ももはや建物は取り壊され、今じゃただの荒地になっているらしいじゃないか」
「――えっ!?」
大番頭の言葉に内藤は頭が真っ白になる。
――内藤は故郷の家を思い浮かべた。
思い出のあの家――。何度も帰ったあの家。仇討ちを終えれば再び帰れると思っていたあの家。全ての思い出の起点であり終点であったあの家。
だが年月が経つのは早かった。内藤が故郷を出て五年。内藤が帰る場所はもうそこには無かった。
「うっ、嘘だーっ!」
内藤は叫びながら最後の力を振り絞って拳を振り上げたが、それは虚しく空を斬るだけだった。
大番頭はいやらしく笑うと内藤を見下ろし言った。
「知らなかったのか? ――だが、安心しろ。帰る所は無くても行く所はある。二人揃ってあの世に行ってもらおう。心中と言う形でな」
もはや動くことも言葉を発する事も出来なくなった内藤はロマネスクに引きずられ、ツンの牢屋に投げ込まれる。
「服を調べろ。ここの鍵を複製した物を持っているはずだ」
大番頭の言葉にロマネスクが内藤の服を調べると、牢の鍵の複製があった。
「そ、それは……」
弱々しく手を伸ばす内藤を見つめながら大番頭がにやりと笑う。
「言ったろう? 全てお見通しだって」
ガチャリと音を立てて内藤とツンの入った牢の鍵が閉められる。
檻越しに大番頭が言う。
「待っていろ、夜になったら沈めてやる」
そうして、大番頭はロマネスクを引き連れて去って行った。

「――内藤、大丈夫?」
満身創痍の内藤の頭を膝に乗せ、ツンは内藤に聞く。
「大丈夫、だお……」
小さく答える内藤にツンが謝った。
「内藤、ごめんね。私が話したばっかりにあんたまでこんな事に――」
「そんな事はいいんだお。それよりもツン――」
ツンの言葉を遮り、内藤はツンに聞いた。
「ぼくの家は――、本当にもう無いのかお?」
「……ええ」
ツンが小さくそう答えた。
「そう、なのかお……」
そう呟き、内藤は涙を流した。
思い出の故郷の家。だがそれはもう内藤の思い出の中にしか存在しなかった。
内藤は帰る場所を失ってしまった。
内藤は死ぬかもしれないという事よりも、その事が悲しく、涙した。
そして、もうどうなってもいいと思っていた。

(^ω^)
「――ツン」
ただ声も無く泣くだけだった内藤が不意に起き上がりツンに覆い被さる。
「え……? ちょっ、ちょっと内藤?」
ツンが内藤の顔を覗き込むが、内藤は涙で赤くなった目で真剣にツンを見つめるだけで何も言わない。
「ねぇ、ちょっと、何よ。内藤?」
「……ツン」
ツンに覆い被さった内藤はツンを抱きかかえるようにその首に手を回す。
「えっ? そんな、何?……」
そして内藤の手がツンの服の間に滑り込む。
「やぁ、やめ……、――やめなさいよっ!」
「おぅふっ!」
ツンに蹴飛ばされ、その反動で壁に叩き付けられる内藤。
「こんな時に何やってんのよ!」
顔を上気させ、怒鳴るツンに内藤が指を差して言う。
「ぼ、ぼくはただそれ、襟首のそれを取ろうとしたんだお」
内藤が指差す自分の着物の襟首の部分をツンは触った。
「あれ? 何これ? 何か硬い物が……」
そうしてツンはそこに小さなほつれを見つけ、その間から襟首に入っていた物体を取り出した。
「これ――、鍵?」
取り出した鍵を目の前にツンが呟いた。
「そうだお」
「まさか、ここの鍵?」
内藤と鍵を交互に見ながらツンが聞く。
「そうだお。昨日、鍵は二つ複製したんだお。そして一個をツンの服に仕込んでおいたんだお。敵もまさか複製が二つあって、しかもそれをツンが持っているとは思わなかったお!」
そうして、内藤がにっこり笑って言った。
「ツンのあのイカサマを真似したんだお」
「内藤、あんた――」
ツンは驚きと喜びの表情で内藤を見るが、ふと自分の乱れた襟元に気付くと、それを直しながら怒った口調で内藤に言った。
「――そ、それにしたって、鍵を取るだけなら一言、言えばいいじゃない! ほんと、もぅ馬鹿なんだからっ! ――今度、あんな事したら殴るからね!」
そう言って顔を真っ赤にし、そっぽを向くツンに内藤はもう蹴ってるじゃないか、とはあえて言わないでおいた。
「――さ、逃げるお」
内藤は立ち上がるとツンに手を差し出した。

 思い出すことしか出来なくなった故郷を思い出し、ただただ涙を流していた内藤。
だが、その時内藤は気が付いた。
想い出の中に、いつも一人の少女がいる事に。
 そして、内藤は気付いた。
自分にはまだやらなければいけない事がある事を。
このままではその少女までをも失ってしまう。
そして、自分は何としてもそれを阻止しなくてはいけない。
想い出の中の少女。それは今目の前にいるツンだった。
 内藤は決意する。
仇なんて討てなくてもいい、自分はもう戻れなくてもいい、でもツンだけは無事にあの故郷に帰すんだ。
それが、故郷を出る時にした決意の続きでもあった。

(^ω^)
 牢から抜け出した二人は廊下の影に身を潜めていた。
牢を出る事は出来たものの屋敷内には多くの見張りがいて、とても見つからずに脱出する事は出来そうに無い。
「ねぇ、ツン。その悪事にはお店の中の何人位が関わってるんだお?」
内藤がツンに聞く。
「何で?」
聞き返すツンに内藤は説明した。
「もしかしたら、悪事に関係無い人だったら、事情を話せばぼく達を逃がしてくれるかもしれないお」
「うーん、分からないけど、もしかしたらほぼ全員なのかも……」
ツンの答えに内藤はショックを受ける。
「そうなのかお。ぼくは全然、知らなかったお……」
内藤はもう何年もここで仕事をしているが、悪行の事は全然知らず、何だか仲間外れにされていたみたいで落ち込んだ。
「何でそんな気落ちしてるのよ? むしろ、そんな事に巻き込まれなくて良かったじゃない」
落ち込む内藤にツンが言った。
「そ、そうかお!」
ツンの言葉で内藤は気を持ち直した。が、直後にツンが言う。
「ま、あんたは頼りにならないって思われたんでしょうけどね」
「そ、そうかお……」
再び落ち込む内藤。
そんな内藤を無視してツンが言う。
「っていうか、そもそも関係無い人を見分ける術が無いじゃない」
「そうか……、それもそうだお」
納得し、再び考える内藤。
「じゃあ、どうやって逃げるかお……」
「もうこうなったらとにかく突っ走って逃げ切るしか無いんじゃない?」
「だ、大胆な作戦だお……」
驚く内藤にツンが言う。
「私達が牢から逃げ出したのは知られて無いんだから、目の前を突破されても確認に時間がかかるはずよ」
「そうかもしれないけど……」
踏ん切りのつかない内藤にツンは言った。
「とにかく、ここにずっといたってしょうがないし、早くしないと牢から抜け出した事自体ばれちゃうわよ」
「わ、わかったお」
内藤も決意をかため、ツンの脱出法にかけることにした。
「流石に正面玄関は見張りが多くて突破出来そうにないわね。裏口に行くわよ」
「でも、裏口がどこにあるんだか屋敷が広くてさっぱり分からないお」
「大丈夫、私がここに入るために憶えてきたから」
ツンはそう答え、それから内藤を見つめると真剣な表情で言った。
「但し、裏口からだと山を越えることになるから町までは相当遠くなるわ。でも、それでも――」
「そこから逃げるしか、無いお」
内藤が言葉を引きついだ。
「じゃあ、行くわよ――」

 二人は走り出した。
廊下を走り、部屋を抜け、最短距離で裏口を目指した。
途中、何人かの人間が二人を呼び止めた、だが二人はひたすらに走った。
止まるわけにはいかない。
とにかく、ここにいたら殺されてしまうのだ。
 そうして、二人はどうにか裏口に辿り着き、屋敷を脱出した。
そこから続くのは山の中の一本道。
だが、二人の疾走は止まらない。
今こうしている間にも屋敷では二人を追う追っ手がかかっているはずである。
曲がりくねった一本道を二人は走り続けた。

(^ω^)
 どれくらい走っただろうか。内藤は前方から五人、男達がやってくるのに気が付いた。
山の一本道、逃げ場は無かった。
内藤とツンは足を止める。
やがて、内藤とツンの前にその五人の男達が立ち塞がる。
「お前を捕まえろって指示が出たんだよ」
そう言ったのは五人の中の一人、斉藤だった。
「裏口から出て行ったから先回りしてやれって、正面玄関から来た伝令がお店に来たよ」
想定外の事態だった。確かに、距離を考えれば正面玄関からお店に行きこの道を逆に来れば先回りが可能だ。
だが、あの状況で二人に他に選択肢が無かったのも事実だった。
内藤は斉藤に言った。
「ちょ、ちょっと待ってだお。実は入束屋は裏で悪い事をしてるんだお! それをぼくとツンは――」
「そんな事は知ってるよ」
内藤の言葉を遮り斉藤が笑う。
「やっぱり、そうなのかお……」
内藤は肩を落とす。
そんな内藤を見ながら斉藤はにやにやと笑って言う。
「なるべく生け捕りにしろって言われてるんだ。その場合は報奨金も出る。――だけどな」
斉藤が頬を引きつらせたように笑いながら続ける。
「止む終えない場合は、逃げられる前に殺せって言われてる。報奨金は魅力的だよな。でもよ――」
そう言って、斉藤が手に持っていた刀を抜いた。
「やっぱり人を斬れるなんて機会、滅多に無いからな」
尚も笑う斉藤の目は狂気に満ちていた。
「安心しろ、運が良ければ死なないさ」
そうして、斉藤のその言葉をきっかけに残りの男達も刀を抜いた。

(^ω^)
「ツン、後ろに隠れてるんだお――」

 故郷を出る時、内藤は男としてこのまま引き下がる訳にはいかないと思っていた。
父の死をこのままうやむやにして生きていくのは男として許せることでは無いと思っていた。
だが実は、その想いの中に少しだけ不純な動機もあった。それは、それをやり遂げる事によって、ある人に自分が男であると証明したいという想いであった。
そして、その相手とはツンだった。
内藤はいつもツンに自分の良い所を見せたいと思っていた。あの西瓜割りを必死で習得したのだって言ってみればその為だった。
 だが今、内藤の中ではそれ以上に思っている事があった。
ツンの命を守りたい、と。
自らの命と引き換えになろうともツンを守りたい。――いや、守らなければいけない。
例え自分が助かっても、そこにツンがいなければ、それには何の意味も無い。
内藤はつい今しがた、改めてそれを思い知らされた。自分の中でいかにツンの存在が大きかったのかを。

 内藤はツンの前に立ちはだかり斉藤達と対峙する。
しかし内藤は震えていた。丸腰で真剣に向かう恐ろしさは例え相手が誰であろうと一緒だった。
「おいおい、可哀想に震えてんよ」
そんな内藤を見て男の一人が嘲笑する。
男達も手にした真剣に緊張していたが、目の前で情けなく震える内藤を見て、この状況を楽しみ始めた。
「このまま斬り倒すのもつまんねーからお前にも持たせてやるよ。――そら、勝負だ」
そう言って男は内藤に抜き身の刀を一振り投げつけた。
ざくっと音を立てて、投げられた刀が内藤の眼の前の地面に突き立った。
「――――フゥー」
内藤は大きく息を吐き、刀に手を伸ばす。
そして内藤は柄を握り、刀を地面から引き抜いた。

(^ω^)
 久々に持った刀は重く、内藤はその重さを確かめるかのように刀を見つめ、柄の頭を軽く叩いた。
敵を見つめ、頷くと内藤はスッと無駄の無い動作で上段に構えた。
「あぁ――?」
その様子に空気が変わる。
そして――、内藤は一気に踏み込んだ。
その迅さはまさに衝撃だった。
斉藤は、気がつけば上段に構えた内藤が眼前にいた。
内藤は一切の躊躇無く、そのまま一気に刀を振り下ろす。
斉藤が額から血飛沫を上げて崩れ落ちた。
「――安心するお。峰打ちだお」
しばらくして発せられた内藤の呟きに呆然としていた男達が叫ぶ。
「じょ、冗談じゃねーよ! み、峰打ちって――、頭割られてるじゃねーか!」
「しょうがないお。峰とは言え、こんな物で力の限り頭を殴ったらそりゃ、裂傷くらいは負うお」
内藤は相手に刀を突きつけながら淡々と告げた。
「もしかしたら頭蓋骨も折れてるかもしれないけど、それでも刃の方だったらこんなもんじゃないお」
「……ど、どうなるって言うんだよ?」
震える声で聞く男に内藤が答えた。
「勿論、即死だお」
「う、うわああああ――!」
男達の叫び声に内藤は冷ややかに言葉を返す。
「――さぁ、勝負。だお」
 そうして内藤は獣のごとく、男達に襲い掛かった。
刀を上げ、頭を守ろうとした者は直後に胴に打ち込まれて肋骨を折り、酷い者は内臓をやられた。
小手を打ち込まれたものは手首が砕け、首に打ち込まれた者は意識を失いその場に崩れ落ちる。
数十秒後、勝負は決していた。
「内藤、てめえ――、覚えてろよ」
意識のある一人が内藤に向かって苦しそうに言葉を吐く。
だが、内藤がそちらを見ると男は「ひっ」と声を上げて目を逸らした。
内藤が男に向かって答える。
「ぼくの物覚えの悪さはみんなが知っての通りだお」
そうして内藤はツンに向き直った。
「……意外と腕は落ちて無いわね」
ツンが周囲を見ながら内藤に言う。
「自分でも驚いたお」
内藤も答えながら周囲を見渡し、それからツンに言う。
「さ、ツン。行くお!」
そうして、二人は地面に倒れた男達を後に再び走り始めた。

(^ω^)
 しかし、そこまでだった。
前方から今度は二十名近い敵がやって来るのが見えた。
二人はその場に停止する。
「――内藤」
心配そうに内藤を見るツン。
「大丈夫だお……」
内藤はそう答えたが、さっきよりも何倍も厳しい状況である事を覚悟した。
今度の相手はちんぴら風情の男達では無く、浪人とは言え、侍達だった。
内藤はツンを木の陰に隠れさせると下段に構えた。
 そうして内藤は二十人の敵と対峙した。
一本道に並ぶように構える二十人の敵はまるで厚い壁のように内藤の前に立ちはだかり、その先に続く道はまったく見えなかった。
 内藤は下段に構えたまま微動だにしなかった。今度はこちらからは動かない。離れた所でツンを狙われるのを心配しての事だった。
そして、今度ばかりは峰打ちで、と言う訳にはいかなかった。相手を確実に倒さなければ、確実にこちらが殺られてしまう。
じりじりと時間が過ぎて行く。頭上では何も知らない蝉達が鳴いていた。
「――せいっ!」
一人目が斬りかかって来た。
相手の刀が振り下ろされる前に、内藤は一足詰め、刀を振り上げる。
下腹部から腹にかけて斬られ、一人目の敵は倒れる。
だが、間髪を入れずに次の敵が来る。
内藤は瞬時に一足引くと相手の刀をかわし、そのまま踏み込んで来た敵を斬り倒す。
しかし、敵は攻撃の手をゆるめない。内藤は次々と敵を斬って捨てた。
そうして、三人、四人と倒したところで、三人の敵が同時に斬りかかってきた。
一太刀、二太刀とかわしたが、三人目の太刀筋を読み切れず、内藤は浅くではあるが頭を斬られた。
「――ッ!」
一歩退き、再び敵と対峙する。
三人の攻撃も一時的に止み、膠着状態になった。
斬られた傷から血が流れ出し、視界を覆いそうになる。
内藤は裾で血を拭うと改めて敵を見つめた。
例え、この三人を倒したとしてもその背後にはまだ十人以上の敵がいる。刻一刻と消耗してゆくこちらに比べ、敵は常に万全の状態で新しい戦力を投入してくる。
壁になった敵の、背後に続く道はまだまだ遠かった。
――――無理かもしれない。
内藤の胸にそんな考えが去来した。
そして考える。――何とかツンだけでも逃がせないものだろうか。
内藤が考えている間にも敵はじりじりとその間合いを詰めて来る。
――無事に二人でここを抜けるのは恐らく無理だろう。
内藤はそう結論した。
だが――。内藤は思う。無事にという前提を取り払ったなら、そして二人でという条件を外したなら――。
「……ツン」
内藤は敵を見据えたまま、自分の後ろのツンに話し掛ける。
「作戦変更だお」
「どうするの?」
不安そうに聞いてくるツンに内藤は静かに言った。
「今から敵の中を一緒に突破するお――」

(^ω^)
「――突破する? 敵の中を?」
驚くツンに内藤は言う。
「そうだお、突破するんだお。敵はあの数ではおそらくは後ろの方では最前線の状況がよく分からないはずだお。それに敵だってまさかそんな事するとは思っていないだろうから、最前線さえ突破すればそこから後ろは混乱するはずだお。そして、その混乱に乗じて一気に突破するんだお」
内藤がツンの方を向き、力強く続ける。
「大丈夫。絶対に、絶対に突破するお。約束するお。そして、その間、ぼくはツンの盾代わりだお。ツンには絶対に傷付けないお」
そうして内藤は再び敵に向き直り、ツンからは内藤の後ろ顔しか見えなくなる。
「そして敵を突破したら――」
内藤は静かにツンに言った。
「ぼくはそこに留まるお」
「えっ?」
内藤が淡々と語る。
「ツンと敵との間に留まって、敵がツンの後を追うのを阻止するお。だから、ツンはその間に逃げ切ってほしいお」
「そっ――、そんな事して、あんたはどうなるのよ!? こんなに大勢の敵を本当に倒せるの?」
内藤は敵を見据えたまま静かに答えた。
「ぼくは――、もう駄目かもしれないお」
それからふっと明るい声でツンに言う。
「でも大丈夫だお。ツンが逃げ切れるだけの時間は稼げるお」
そんな言葉を聞いてツンは怒り出した。
「馬鹿っ! やめてよ! こんなところで死んでどうするのよ!」
「しょうがないお。このままだとどっちにしろ二人共殺されちゃうんだお」
「私も戦うわ。殺されるぐらいなら戦って死んだ方がましよ」
そう言って前に出ようとするツンに内藤が振り返り、笑顔で言った。
「それじゃあ、意味が無いんだお。ツンには絶対に生きて帰って欲しいんだお」
内藤はツンに手を伸ばす。
「で、でも――」
ツンは震える声でそう言い、内藤の手を取ることが出来なかった。
じりじりと詰め寄って来た敵はもう間も無く、内藤を自分の間合いに入れようとしていた。
「もう、猶予は無いお」
内藤がツンの手を強引に取る。
 内藤はツンの暖かい手を握りながら思っていた。
ツンの命無くして、この命に意味は無い。
故に、――この命に価値は無い。
内藤は死ぬ気だった。
「じゃあ――、行くお!」
内藤が正面を見据え、ツンが叫んだ。
「やっ、やめなさいよ! 馬鹿ぁ――――!」

(^ω^)
 ツンの叫びが山に木霊したその時だった。
敵の背後から悲鳴が上がり、その動きが慌しくなった。
突然の事に内藤も戸惑い、動けなくなる。
何が起こったのか、敵も戸惑っていた。
そんな中、後方からは更に敵の断末魔が聞こえる。
「こっちに新手が!」
後方からの声に敵が振り返り、内藤達もその先に視線を移した。
そして、敵の後方から声が聞こえてきた。
「おーい、ツン。無事かぁ〜?」
その呑気そうな、やる気の無さそうな声は内藤にも聞き覚えがあった。
そして、その声に向かってツンが大声で叫ぶ。
「遅いわよ! 馬鹿兄貴!」
「やー、すまんすまん。……って、おい、ツン! 兄貴に向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!」
それはツンの兄、ドクオだった。
「師匠!?」
その声に内藤も声を上げる。
「え? お前、内藤か? 久しぶりだなぁ、おい」
この状況下にあって何の緊迫感も無いその声に敵も戸惑っていた。
だが、いち早く状況を理解した数名が内藤達とドクオに向かってそれぞれ刀を構える。
「いいから、早く! 何とかしてよ!」
ツンの声にドクオが答える。
「あー、まんどくせ」
敵がその返事に動揺した直後、ドクオは内藤を呼んだ。
「でもしょうがねぇなぁ。――おい! 内藤!」
「な、なんですかお、師匠?」
返事を返す内藤にドクオが聞く。
「お前、まだ大丈夫だな?」
「は、はいですお」
「よし、それじゃあ――」
内藤の答えを聞き、ドクオは言った。
「一気に片付けるぞ!」

 そうして形勢は一気に逆転した。
今まで、圧す一方だった敵はドクオの登場によって挟撃された形になり、多すぎた人数もあり防御の連携に齟齬が生じた。
そして、その混沌に乗じてドクオと内藤は次々と敵を倒して行った。

(^ω^)
 だが、敵を半分以上倒し、このまま圧せる、そう思った時だった。
内藤は背後に異様な空気を感じた。
振り返ると、そこには一本道をこちらに向かって歩いて来るロマネスクの姿があった。
内藤は斬り合いの最中にも関わらず振り返り、ツンを守るためにそのすぐ横に移動するとロマネスクに対峙した。
突如背中を向け、場を離れた内藤に、敵は戸惑いながらも間合いを詰め始める。
しかしその時、ロマネスクが内藤の背後の敵に言った。
「こいつは俺一人で十分だ。お前等は全員でそっちの奴を片付けろ」
ロマネスクの命令に内藤の背後の敵は全てドクオに対峙した。
内藤の背後で刀を交える音が一層激しくなる。だが、内藤には振り返ってドクオを気遣う余裕は無かった。
眼前のロマネスクはわらじを脱ぎ捨て、ゆっくりと刀を抜いた。
「……ツン、ちょっと離れてるお」
内藤はロマネスクを見据えたままそう言い、ツンは言われるままに内藤から離れた。
その時、ロマネスクはツンを見たが、「お前は後だ」と言うとそれっきりツンの事はまるでその場にいないかの様に無視をした。
 ロマネスクが刀を構え、――そして死闘が始まった。

(^ω^)
 内藤は何か悪い予感がして先に踏み込んだ。
それに対してロマネスクは必要最低限の動きで内藤の刀をかわすとその流れのまま内藤に斬り込んだ。
だが、内藤も転がりながらそれをかわす。
そんな攻防が数回繰り返され、お互いに決定的な一撃を振るえなかった。
おかしい――。
内藤はそんな互角の勝負を繰り広げながら思っていた。
あの大番頭が頼りにしている用心棒の割りには思った程強く無い。多少、太刀筋に癖はあるもののそれが勝負の行方を左右するようなものでもない。
久々に刀を握った自分がこんな互角の勝負を繰り広げられるなんて、相手はまだ何か手を隠しているのだろうか?
そして、内藤のその考えは当っていた。
「――その程度か」
お互いに間合いを計る中、ロマネスクが内藤に言った。
「途中で倒れていた連中が驚いていたからどれ程の腕かと思えば――」 ロマネスクの言葉に内藤が答える。
「あの人達が驚いたのは多分、今までのぼくと落差があったからだお」
「馬鹿っ! 何、正直に話してるのよ! これはまだ自分の力の半分だ、とでも言えばそいつも警戒して隙が出来るかも知れないじゃない!」
ツンが横から怒鳴り、内藤は思わず謝る。
「ご、ごめんだお……」
そのやり取りを聞いたロマネスクはすっかり興味を失ったように冷めた声で言った。
「なんだ、つまらぬ――」
そうしてロマネスクは改めて内藤を見据え、言った。
「では、これで終わりにしようか」
そうして、ロマネスクは上段に構え直すと、片手を刀から離し、右目の眼帯を外した。

(^ω^)
 眼帯を取ったロマネスクの眼。金色に輝く瞳の中に細長い漆黒の瞳孔が沈むそれは、まるで猫の瞳の様だった。
その瞳を見て内藤は直感した、この眼前の敵こそ、父の仇だと。
そしてロマネスクを睨みつける。
「――内藤、危ないっ!」
次の瞬間、ツンの叫び声に内藤は咄嗟に後ろに飛び退いた。
直後、内藤の立っていた場所をロマネスクの振り下ろした刃が通過する。
「――えっ?」
内藤には何が起こったのか分からなかった。
「馬鹿っ! 何ぼーっと突っ立ってんのよ!」
ツンの怒声が飛ぶ。
内藤は頭を振って、もう一度構え直し、ロマネスクとの間合いを計る。
だが、再びツンの叫び声がする。
「避けてっ!」
地面にごろごろと転がりながら必死でロマネスクの刀を避ける内藤。
「……な、何が起こってるんだお?」
内藤は混乱した。
「何であんな普通の剣で危ない事になってるのよ!? 相手のことちゃんと見てるの!?」
「……み、見てるお」
ツンにそう答えながらも混乱が収まらない内藤。
確かに、ツンの叫び声が聞こえる瞬間まで、いや、声が聞こえてもなお、内藤の目が捉えたロマネスクに動きは無かったのだ。
だとすれば、ロマネスクのそれは脅威的な速度の踏み込みなのか。
「――なかなか上手く避ける」
ロマネスクが薄く笑いながら内藤に近付く。
「だが、いつまで持つかな?」
そうして、一歩、また一歩と間合いを詰めるロマネスク。内藤は一歩、また一歩と後退する。
ぴたりとロマネスクがその歩を止め、内藤もその場に立ち止まる。
「――内藤っ!」
またもツンの叫び声が聞こえ、内藤は無我夢中でその場から移動した。
だが、移動した先にロマネスクの刀が現れ、内藤は足を斬られた。
「な、何よ!? あんた相手の全然いない方に構えて、何やってるのよ!?」
いない方に――?
内藤は考えた。
そんなはずは無い、自分は斬られる直前まで相手を見つめ、対峙していたはずだ。なのに次の瞬間には横から斬られた。
「――と言うことは」
内藤は答えに行き着いた。
「幻術――、なのかお?」

(^ω^)
 確かに目の前にいたロマネスク、だがそれを見ながら真横から斬り付けられた。
だとすれば、それは目の限界を超えた移動速度などでは無い。目に映っているそれ自体が虚像なのだ。
自分の場合はツンのおかげで切り抜けられているが、それが無かったらいくらでもやられ放題だ。
内藤は考え、そして思う。
――自分の父親がほぼ無抵抗でやられた理由もこれだったんだ、と。
「内藤! 惑わされるな! 心眼だ、心の眼で視るんだ!」
恐らく、内藤の戦いを横目に見て同じ結論に至ったのであろう、ドクオが内藤に叫ぶ。
「し、心眼ったって、師匠…」
そんなの無理だお、と内藤は心の中で呟く。
結局、内藤は答えを見つけたが、それに対する解は見つけられなかった。

 ロマネスクが再び間合いを詰め始めるが、内藤は足の傷で動く事がままならない。
足を引き摺りながら何とか構えなおす内藤。
――次の一太刀で勝負が決まる。
内藤もロマネスクも、そしてツンもそれを感じていた。
「もういいから逃げて、内藤!」
ツンの悲痛な叫びが森に響く。
「――逃げるわけにはいかないお!」
ロマネスクを睨みつけながら内藤はそう答える。
だが、その睨みつけているロマネスクが本当のロマネスクなのか、それとも幻覚なのか、内藤にはそれすら分からなかった。
近くの木でツクツクボウシが鳴き始めた。
内藤とロマネスクの二人は構えたまま動かない。
内藤の先ほど切られた頭から流れる血が汗と混じり合い顎を伝ってぽたりと地面に落ちた。
そして、ツクツクボウシの鳴き声が止んだ瞬間――、ロマネスクが内藤に踏み込んだ。
だが、内藤はそれを感知出来ず、その場に踏み止まったままだった。

(^ω^)
「内藤! 眼を閉じなさい!」
ロマネスクが動く直前、ツンが内藤に叫んだ。
小さい頃からの癖でツンの言葉に反射的に従い、言われるままに内藤は眼を閉じた。
続いてツンは指示を出す。
「右に一歩! 身体を前に捻って左から打ち込むのよ!」
西瓜割りで身に付けたあの動きだった。
内藤はツンの指示に忠実に動き、目を閉じたまま刀を打ち込んだ。
耳の横を何かが通過する音が聞こえ、そして――、刀に重たい手ごたえがあった。

(^ω^)
 ドサリ、と音がした。
ゆっくりと目を開く内藤。開いた目の前に、ロマネスクが倒れていた。
ロマネスクの下の地面に血溜まりがどんどんと広がっていく。
「お前も、いや、お前達も隠していたのか……、秘剣を……」
首を上げ、内藤を見つめるロマネスク。その金色の瞳はもはや力を失っていた。
「い、いや。それは……」
そう答えようとする内藤の目の前でロマネスクはがくりと首を倒した。
「――内藤」
ツンが内藤の横へ寄り添い、ロマネスクを見下ろす。
そうして二人は静かに言葉を交わした。
「やったの?」
「うん」
「そう、よかった」
「ツン、ありがとう。ツンのおかげだお」
「ううん、別にいいのよ」
「この人は――、父上の仇だったんだお」
「そう、だったんだ」
「そうだお。でも、やっつけたお」
「うん。見てたよ――。内藤がやっつけるところ、私を助けてくれるところ、ちゃんと見てたよ」
そう言って、ツンが内藤の手を握った。
「うん。やったお」
内藤がツンの手を強く握り返した。

(^ω^)
「お、やったか」
突然、背後から声をかけられ、二人は慌てて手を離す。
振り返るとドクオが立っていた。
「ふぃ〜、さすがにこの人数はきつかったな」
そう言って、肩をこきこきと鳴らすドクオの背後には二十人の敵が横たわっていた。
そして、ドクオがツンを見て言う。
「今頃、店と屋敷の方でも藩の役人が今回の件に関わっている奴らを引っ張って行ってるはずだから、ツン。お前もう帰っていいぞ」
「か、帰っていいぞって! ちょっと兄貴――!」
あまりにもあっさりとそんな事を言うドクオにツンは文句を言おうとする。
だが、ドクオは慣れたものでそんなツンの言葉を一切聞かずに告げた。
「それじゃあ、またな」
「え? ちょ、ちょっと、どこ行くのよ!?」
不意打ちに怒りよりも驚きが勝り、ツンはドクオに聞く。
ドクオはツンと内藤を交互に見て、答えた。
「次の仕事だよ。こう見えて忙しいんだ。愚痴はそこにいる奴にでもぶつけてくれ」
「え、ちょ…………」
突如、話を振られて戸惑う内藤。
「何よ馬鹿兄貴! 愚痴とかじゃなくて文句が――」
抗議をするツンにドクオが言う。
「文句でもいいぞ。逃げられそうになったら手を握って捕まえておけ」
「――なっ、なっなっ」
ツンが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なっ、何言ってるのよ、馬鹿兄貴っ! 兄貴なんてどっか行っちゃえ!」
「ああ、そうしよう」
ドクオは満足そうに微笑むと内藤を見て行った。
「じゃあ、またな。ツンを頼んだぜ」
そうしてドクオは去って行った。
ドクオの背中を見送りながらツンがため息をつく。
「まったく……」

(^ω^)
「――さて。内藤、あんたこれからどうすんの?」
ツンが振り返り、内藤に聞く。
「…………」
内藤は帰ろうと思っていた故郷の山々を思い出す。でも、そこにはもう帰る場所は無い。
「――行く所も無いし、どうするか考えるお」
内藤は小さくそう答えた。
「そう……」
「うん」
「…………あ、あのさ!」
突如、ツンが声を上げた。
「な、何だお?」
聞き返す内藤にツンはドクオが去って行った方を見ながら言う。
「あ、兄貴がさ」
「うん?」
「兄貴が、あんな感じで副職の方が忙しいから、誰か稽古場に来る人達の面倒を見てくれると助かるのよね」
家に住み込みでもいいからさ、とツンが付け足す。
「それは――」
内藤が聞く。
「それは、ぼくでもいいのかお?」
「そうねぇ。とりあえず剣の腕はまあまあだし、他に思い当たらないし、しょうがないからあんたでもいいわよ」
ツンの答えに内藤は少し考える。
「でも、ぼくは……」
呟くように答える内藤にツンが言い放った。
「――あんた、ほんとに馬鹿ね!」
「ツ、ツン?」
突然の事に驚く内藤にツンは続けて言う。
「これは相談じゃないの、命令。分かる? さっき、敵を倒す事が出来たのは私のおかげでしょ? だから、その借りを返してもらうのよ」
「で、でもさっきは別にいいって……」
ツンの勢いにたじろぎながらそう言う内藤にツンの鋭い眼光が飛ぶ。
「――何よ? 命の恩人の頼みが聞けないの? いいから、家に来なさい! いいわね。これはもう決定事項よ」
そう言って、ツンは内藤の答えを聞かずに歩き出す。
唖然として立ち尽くす内藤にツンが振り返って言う。
「ほら、行くわよ。もたもたしてないでさっさと来なさいよ」
そう言って、そっぽを向いて再び歩き始めるツンの横顔が真っ赤になっているのに内藤は気付いた。
そして、そんなツンの後ろ姿を見ながら、内藤はこれから帰る故郷の景色を思い浮かべた。
――真っ青な空とそこに広がる大きな白い雲。遠く、深い緑に覆われた山々では冷たく澄んだ水が川を流れ、木々からは蝉の声が降り注ぐ。
やがて、秋になれば山は紅葉で赤く染まり、道に積もった落ち葉は歩く度にカサカサと音を立てる。
そして冬。灰色の空の下で山には白い雪が深く積もり、唸る吹雪の中、備府は厳しい季節になる。
だがやがて春が訪れ、山は再び緑に覆われ、あちこちで鳥達が唄い始める。
そうして一年が過ぎ、故郷にまた夏がやって来る。
そして、それら流れる月日の中、内藤のすぐ隣り、そこにはツンがいる。
内藤は故郷――やっと帰ることのできる故郷と、そして、そこにいつもツンが笑っていてくれる事を想い、涙を浮かべながら頬を緩ませていた。


2010.08.06掲載


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