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ブーンのところに幽霊が出たようです

(^ω^)
 ぼくの目の前に突如として現れた、その美しい女の人はこう言ったお。
「驚かしてすまない。私は幽霊なんだが」
幽霊? 何の話だこれは。
事態が把握出来ずに、ただ困っているだけのぼくを見ながらその人は続ける。
「君の事が好きでな……。それでこうして出てきた訳なんだ」
そして、幽霊であるところの彼女はこう言った。
「あの世で、君と一緒に暮らしたいんだ。そこでどうだろう、今から死んで一緒になってくれないだろうか?」

(^ω^)
 あの日、内藤の部屋に現れたのは確かに幽霊だった。
そして今、わたしは彼女に感謝している。
今のわたしがあるのは彼女のおかげなのだ。
彼女は私に大切なことを教えてくれた。
それは、想いを素直に伝える事の大切さ。
彼女がいなければ、わたしは今でも嫌な女のままだっただろう。
嫌な女、自分で自分の事が嫌いな女。
そして、彼女がいなければ、わたしのこの想いは誰に届くことも無く、この世から消えていったのかもしれない。

(^ω^)
 彼女、幽霊はぼくの困惑をよそに話を続けた。
「このままでは君は愛を知らぬままに死に行く運命にある」
ぼくが、愛を知らぬまま――死ぬ?
「そこで提案だ。どうせ死ぬのであれば、私とあの世で愛に満ち溢れた生活を送ろうではないか」
話を続ける彼女。どうやら彼女はぼくが死ぬことを望んでいるようだ。
なるほど、確かに彼女は幽霊らしい。
しかし、ぼくの死を望む彼女の口から出る言葉はむしろ、ぼくへの愛の告白だ。
どういう事なのかお?
ぼくはここで初めて口を開き、彼女に質問してみた。
「きみは幽霊、なのかお?」
「そう。幽霊というのかな? とにかく私は既に死んでいる」
ケンシロウみたいな事を言う彼女なのであった。
ぼくは次の質問をした。
「ぼくは愛を知らずに死ぬのかお?」
「そう。このままだとそういう事になるな」
次の質問。
「君はぼくのことが好きなのかお?」
「そう。とても好意を抱いている。あの世で君と一緒に暮らしたい」
ぼくは最後の質問をした。
「そして、ぼくと一緒になる為に幽霊になって出てきたのかお?」
「そう。そのように神様に頼んでみたのだ」
新たに質問することが出来てしまった。
「神様にお願いすると幽霊になるのかお?」
「そう。セントジョーンズさんという人に、神様に頼めば生き返らせてもらえる、と聞いてな」
次から次へ、質問する事が増える。
「セントジョーンズさん?」
「知らないかね? よく『うわぁ〜』と落ちている人なのだが」

(^ω^)
 わたしと内藤は子供の頃から隣同士で育ってきた。
いわゆる幼馴染というやつだ。
小、中学校と同じ学校に通い、そして今は同じ高校、同じクラス。
部屋も二階同士で対面している。そのため、ちょっと屋根を伝って行けばすぐにお互いの部屋に行けるのだ。
子供の頃から、よくそうやって部屋を行き来したものだ。
でもあれ以来、わたしは屋根伝いに内藤の部屋に行くことがない。
最近は、内藤に会う回数も減ってきていた。
内藤に会うのがつらい。
しかし、全ての責任はわたしにあるのだ。

(^ω^)
 彼女の話は続いた。
「神様にお願いしてみたのだが、残念ながら私は生き返らせてはもらえなかった。本当は生き返って一緒に暮らしたかったのだが、それは無理だと言われてな」
彼女は少し残念そうな顔をした。
「その代わり」
表情が少し明るくなった。
「君の命を自由にする権利を上げるから君が死んで一緒になればいい、と言われた。君が死んだ時に一緒にいれば、天使や死神の代わりに私があの世へ連れて行って一緒になれるという訳だ」
彼女は続けた。
「そして、その《君が死ぬ時》を私の都合のよい時間にする為に、こうして《君の命を自由にする権利》をくれたよ。まぁ、急ぐこともないのだがな」
そこまで説明して彼女はまたクールな表情に戻った。
「それで、まずはこうして人間の姿の幽霊にしてもらって出て来たという訳だ」
またも質問の追加。
「人間の姿に、って事は君は人間じゃない…。いや、人間じゃなかったのかお?」
「そう。私は生前、猫だった。君達人間の言うところの野良猫。まぁ、そんな言われ方をしているが、本来であればこっちの方が正しい生き方なのだがな」
そうか、ぬこさんの幽霊なのか。
……いや。いやいや、ぼくが質問するべき所はそこではなかったお。
《ぼくが死んで一緒になればいい》?
《ぼくの命を自由にする権利》?
神様、ぼくに無断でそんな権利を発行しないで欲しいお。

(^ω^)
 その日、学校から帰って来たわたしはふと内藤の部屋の窓を見た。
――昨日は内藤に会わなかったな。
わたしは自転車で内藤のところへ出かける事にした。
途中、花屋に寄り、新しい花を買った。
わたしは内藤に季節を教えて上げたくて、なるべく春っぽい花を探した。

(^ω^)
 ぼくはすっかり落ち着いていた。
こんな非現実的なやりとりでも、しばらく続けていると慣れるものらしい。
「それで、ぬこさんはぼくをどうするのかお? その権利でぼくを呪い殺したりするのかお?」
ぬこさんはクールな眼差しのまま返答した。
「いいや。私は君に助けてもらったことがあってな」
そういえば、猫を助けようとした記憶がある。あれはいつだったか。
学校の帰り道、大通りで車に驚いて動けなくなっていた猫をブーンで駆け抜けて助け……ようとしたのだ。
でも、先にぼくが車に跳ねられてしまった。
あの後どうなったんだっけ? 記憶があいまいだ。
ぬこさんに聞いてみた。
「そう。君が車に跳ねられたおかげで交通がストップしてな。おかげで私は助かり、昨日まで生き長らえる事が出来た。……君は入院する事になってしまったがな」
そうだったのか。結果的に目的は達成出来ていたわけだ。よかったお。
ぬこさんがやさしく微笑み、ぼくの手を握った。
「身を挺してまで助けてもらって本当に感謝する。そしてあの時以来、私は君を愛しているのだ」
ぼくは身じろいだ。
人にこんなにもやさしく手を握られたのも、愛しているだなんて言われたのも人生で初めてだお。
でも、その《ぼくを愛している》彼女は、《ぼくに死んで欲しいと願っている》彼女でもあるわけで。

(^ω^)
 花屋での買い物を終え、わたしは再び自転車をこぎだす。
風が少し冷たいが、日差しはすっかり春の日差しだ。
わたしは手袋を外して手を陽にかざした。
あたたかい。
手の平を太陽に。ぼくらはみんな生きている。
何か良いことがありそうな気がした。

(^ω^)
 「とにかく、私としても好きな人を自分で殺すのはしのびない」
彼女の台詞にぼくはホッとした。次の台詞を聞くまでは。
「だから、どうだろう? ちょっと予定を切り上げて早く死んでもらえないだろうか?」
ちょっと、待ってほしいお。「死んでもらえないだろうか?」 言葉は丁寧だが、トンデモナイ事を言われている気がする。
「あうあう」
困り果てたぼくの口からはそんな言葉しか出なかった。
「まぁ、いずれにせよ」
ぬこさんは微笑みながら続けた。
「あんまり待たせるようだと、《君の命を自由にする権利》を使ってしまうのだがな」
そう言うと、ぬこさんはにっこりと笑った。
そんな笑顔でそんな事を言われても……。
ぼくはまたも「あうあう」言うしかない。
その時、ドアがノックされた。

(^ω^)
 階段を昇って、内藤の部屋の前に着くと中から話し声が聞こえてきた。だれか来ているんだろうか。
わたしは一応ノックして、ドアを開けた。
部屋にいたのはわたしの知らない女の人だった。
彼女は内藤の手を握り、笑顔で内藤に話し掛けていた。
ショックだった。
内藤の部屋に女の人がいる。それもとても親しそうに。
彼女は何者なんだろう? やっぱり普通に考えれば内藤の恋人なんだろうか。
内藤に恋人がいるなんて考えもしなかった。
そして、そんな素振りをまったく見せていなかった内藤にも驚いていた。
内藤の部屋に入れる女性はわたしだけだと、心のどこかで思っていた。
改めて彼女を見る。
くやしいけど美人だし、何と言っても大人の女性の落ち着いた雰囲気がある。
それに、多分これは彼女の特有のオーラなのだろう、とてもクールな感じを放っていた。
わたしは段々と腹が立ってきた。

(^ω^)
 ノックに引き続き、ドアが開いた。すると、そこにいたのはツンだった。
ツンは隣に住んでいる幼馴染の女の子だ。
昔から、顔はとてもかわいく、性格はかわいくなかった。
何と言うか、素直じゃないし、何かというとぼくに当たるのだ。
そして、一番困ったことは、そんな性格でも、ぼくはツンのことが好きなのだった。
しかし、ここ最近は、冷たく当たられるのには慣れていたのに、当たってさえくれない事が多い。
ぼくは嫌われているのかお。
そして、今日は一段と怒っているようだった。
ぼくとぬこさんを見ると眉を吊り上げて口を開いた。
「勝手にしなさいよ!」
そう叫んで、ツンはドアを叩き閉めて帰って行ってしまった。
ぬこさんは表情一つ変えずにドアを見つめ、それからぼくの方を見て聞いてきた。
「今のは?」
ぼくはツンの説明をした。とにかくぼくに強く当たるのだということを。だからきっと今の言動もその一つなのだと。
それを聞いたぬこさんは「そうかな? いや、それは……」と言って考え込んでしまった。
それからしばらくして、ぬこさんはぼくの肩に手をポンと置いて言った。
「ふむ。どうやら、まったくの独り身と言うわけでもないのだな。どれ……」
言い終わるが早いか、ぬこさんは消えてしまった。
「あうあう」
残されたぼくは独り言つのであった。

(^ω^)
 わたしは自分の部屋に駆け込み、手に持っていた花を机に投げるとベッドに飛び込んだ。
そして、寝転んだまま天井を見つめる。
内藤に恋人がいた。それもあんな美人で大人なひと。
「――勝てるわけないじゃない」
そう呟いてわたしは窓の方を向いた。
「花を花瓶に入れてやった方が良いのではないか?」
突然、声がした。
見ると、窓の横にあるわたしの机に人がいる。
わたしは驚きのあまり声を出す事さえ出来なかった。
しかし、よく見ればそれはさっき内藤の部屋にいた彼女だった。
いつどうやって部屋に入ったのだろうか? わたしはその質問をそのまま彼女にぶつけた。
「なに、簡単だよ。私にとって、壁やドア等というものは意味を成さない」
彼女は少しだけ微笑みながらそう答えた。
何を言っているのだこの人は。
「どういう意味よ。それより勝手に部屋に入ってこないでよ!」
わたしは彼女を睨んだが彼女は気にする風でもなく、真っ黒な瞳でわたしを見つめ返して言った。
「私は幽霊なのだよ。つまりはそういう事だ」
頭がおかしいのは彼女かわたしか、どっちなんだろう?

(^ω^)
 どれくらい経っただろうか。しばらくするとぬこさんは再びぼくの前に現れた。
「状況は分かった。もう少し様子を見よう。そうだな、どうせ後二日。途中でダメだと判断したら君を連れて行くとしよう」
それだけ言うとぬこさんはまた消えてしまった。
ぼくはしばらくボーっとしてしまった。
一体、今まで起こっていた事は現実なのだろうか?
「後二日」とぬこさんは言った。二日後、ぼくはあの世へ連れて行かれてしまうらしい。
それはつまり、ぼくの寿命は後二日ということかお。
まったく現実味がない。が、とにかくそういう事らしい。
しかし何で二日待ってくれるのかお? この世の整理をしておけと?
例えばそう、友達に別れの挨拶。ドクオにショボン、それにツン。
……そうだ、とりわけツン。
それにしても、またツンに怒られてしまった。
ツンは何でああもぼくに怒るのだろうか?
今まで機嫌が良かったかと思うと、ぼくの一言でたちまち不機嫌になる。そんな事ばかりだお。
今日はもうツンに会わない方がいいお。明日になれば学校で会える。
そう、明日は会える。
明日、そして明後日もツンに会える。
でもその後は?
もしかしたら、もう永遠にツンに会う事は出来なくなるのかお。

(^ω^)
 頭がおかしいのは彼女でもわたしでもなかった。
そう、確かに彼女は幽霊だった。
しかし、まったく怖くはない。むしろ穏やかな空気を感じる。
幽霊は怖いというのはわたしの幽霊に対する偏見だったのか?
その穏やかな空気のまま、彼女が聞いてきた。
「君は彼の事が好きなんだね?」
あまりにもストレートだった。
彼女はわたしの気持ちを見透かした事を押し付けるわけでも無く、穏やかな空気のまま、わたしを見つめていた。
わたしはそんな彼女に、くやしくてつい強気になってしまう。
「そんな事、あなたに関係ないじゃない」
そんなわたしの態度に対しても彼女は動じない。彼女はわたしを見つめて小さく微笑むと言った。
「誰かを好きになるというのは、生き物として当然のこと。それは恥ずかしがったりすることではないよ」
こんなことをサラっと言えるなんて彼女、生前は愛されて育ったのだろう。お嬢様だったのだろうか?
「そんな事、何の抵抗もなく言えるなんてあなた、箱入り娘だったのね」
わたしの、質問では無い質問に彼女は少しだけ首を傾げて答えた。
「そう、そうだな。私も最初はみかんの箱の中で鳴いていたよ」
今度はわたしが首を傾げる番だった。お嬢様の冗談は分かり難くていけない。
「まぁ、とにかく」
わたしの疑問を無視して彼女は続けた。
「彼のことが気になるなら、早く行動した方がいいぞ」
そう言うと彼女は来た時同様、突然消えてしまった。
わたしはしばらくボーっとしていた。
今起こったことは現実なのだろうか?
現実だとして、何故、内藤のもとに幽霊がいたのか。自縛霊の一種?
それにしても、幽霊にわたしの気持ちを見透かされるなんて。不覚。
彼女はわたしに行動しろと言った。
わたしに何を、どうしろと言うのか。

(^ω^)
 翌日、ぬこさんが一緒に学校に行くと言った。
「幽霊が来たら学校がパニックになってしまうお」
そう言うぼくに、ぬこさんは「心配ない」と説明してくれた。
何でも、生き物とは目では無く「脳」で物を見ているらしい。
だから「脳」が思い込んでしまえば、そこに無いものが見える事もあるし、ある物が見えない事もあるんだそうだ。
そして、幽霊や生霊といった霊体は、実体ではないので本当は見えない。でも、霊の意思がその人の脳に働きかける事によって見えるんだという。
要は、霊が何かの努力をしない限り人間には見えないという事らしい。
まぁ、とにかくパニックになら無いのならばいいか。
 学校に着くと、ぬこさんは姿を消した。
何処へ行ったのか、そもそも一体何をしに学校に付いて来たのだろうか?
教室に入るとツンはまだ来ていなかった。
ぼくはドクオの席に行って、幽霊の話をしようと思って……やめた。
こんな事を誰かに話しても頭のおかしいやつだと思われるに決まっている。
事実、ぼく自身、ぼくの頭がおかしいのではないかと疑っているくらいだ。
もっとも、ドクオに話かけても無駄かも知れない。彼もまた、最近ぼくに冷たいのだ。
そうだ、あのぬこさんを助けようとした日、ドクオに借りた限定版のソフトと一緒に車にひかれて壊してしまったからだ。
そんな理由でツンにも昨日の話は出来なかった。
まぁどっちにしろ、学校に来たツンは常にぼくに対して臨戦体制で、話し掛ける隙をまったく見せなかったのだが。
結局、ツンと一言も会話をしなかった。
話の輪に一緒にいたりはするのだが、ぼくとは徹底して顔を合わせてくれなかったのだ。
一度だけ、昼にしぃと話をしている時にこちらを見ているようだったけれど、そのすぐ後に「関係ないわよ!」と言っていた。しかも二回も……。
ツン、また怒っているのかお?

(^ω^)
 わたしの目は自由にさせておくと勝手に内藤を探してしまう。
わたしはそれをさせない為に、必死で努力して内藤の席の方を見ないようにしている。
少しずらした視線の先、内藤の隣の席でドクオが楽しそうに話しているのが見えた。
そういえばドクオは内藤ととても楽しそうに話していた。
ドクオが、内藤と何の苦労もなく楽しそうに話せるドクオが、羨ましいと思ったこともある。
わたしも子供の頃はそうだった。
でもある日、内藤のことを意識し始めてからは何もかもがギクシャクするようになってしまった。
嫌われたくないと意識し、その意識している事を意識していないと思わせる為にわたしは、内藤に冷たく接するようになってしまった。
自己嫌悪。これが内藤を好きになってからのわたしの全て。
 昼休みになり、昨日の事を考えた。
幽霊。あれは何だったのか。全ては夢だったんだろうか?
そんな事を考えながら内藤の席の方を見ていると、一緒にお弁当を食べていたしぃが質問してきた。
「ボーっとしてどうしたの? あっ、内藤君の事でも考えてるの?」
しぃがそんな話をするなんて珍しいので油断して、思わずうなずいてしまった。
それからすぐに気が付いて訂正した。
「あっ、あんなやつ関係ないわよ!」
でももう手遅れだ。いくら否定してもしきれない。しぃは話しを続けた。
「内藤君、意外と人気があるんだよ?」
「あいつが? 嘘でしょー。あんな弱くて情なくて頼りないやつが?」
「でも彼、すっごくやさしいし」
そうだ、そうなのだ。内藤はやさしい。それだけは誰にも負けない。
わたしがいくら内藤に冷たく接しても、決して怒ったりしないのは内藤のやさしさなのだろう。
「だから、ツンも内藤君が好きなら早くしないと誰かにとられちゃうよ?」
「だっ、だからあんなやつ関係ないってば!」
わたしは顔を赤くしながらも、精一杯の否定をした。

(^ω^)
 学校から帰ると部屋にはぬこさんがいた。
「おかえり。愛しの君よ」
どうやら先に帰って来ていたらしい。
そして、ぬこさんは何の前触れもなくぼくに向かって聞いてきた。
「君は彼女、ツンのことが好きなんだろう?」
ストライクだった。それも剛速球だ。
ぼくは「あうあう」言うしかなかった。
「好きならば行動したのかね? もっと直接的に言うなら押し倒したのかね? いくら君でも何度かチャンスはあったと思うのだが」
ぬこさんはキッパリと言った。
押し倒すってそんな……。ぬこさんは顔に似合わず大胆な事を言うのであった。
「何をそんなに驚いているのだ? 好きならば当然の行動ではないか」
そうだ、ぬこさんは猫だったんだ。ならばそれはごく自然な行動なのかもしれない。
オスは気に入ったメスに求愛し、メスはそのオスを気に入ったら受け入れ、そうでなければ拒絶する。
だが、ぼくはどうだ。求愛以前に拒絶されているではないか。
ぼくはその事をぬこさんに伝えた。
「そうか、拒絶と考えているわけだな」
ぬこさんは少し考えているようだった。
「だが自信を持ちたまえ、君はいいやつだ。私のことだって助けてくれたじゃないか」
いや、それとこれとは話が別なんですが。
「でもやっぱり今のツンを見ていると、とてもぼくの事を受け入れてくれるとは思えないお」
ぼくは正直に話した。
「ふむ」
そう言うとぬこさんはまた消えてしまった。

(^ω^)
 自分の部屋に帰ってベッドに横になる。
今日も一日疲れた。また自己嫌悪してしまいそうだ。
はぁー、わたしは何をやっているんだろう? というかわたしは何をしたいんだろう?
ごろん、と寝返りを打って窓の方を見る。
そこにはまた昨日の幽霊がいて、わたしはまた驚ろかされてしまった。
「ちょっと、突然現れられると幽霊だろうと無かろうと驚くんだけど」
わたしの文句に彼女は平然と答えた。
「失礼。次回はちゃんと窓から入ってくることにしよう」
「何で窓なのよ! 普通はドアでしょ!」
「そうなのか。ではドアから入ってこよう」
……お嬢様の行動はよく分からない。それとも何か、こんな小さなドアは彼女の家では窓扱いだとでも?
「で、今日は何?」
わたしはベッドに横になったまま聞いた。
「実はな、今日の昼休みに君に質問したのは私なんだ。君、やっぱり彼のことが好きなんだろう?」
わたしは思わずベッドから飛び起きた。
昼に話しをしていた「しぃ」は「幽霊」だったのか。道理で、突然あんな話をするわけだ。
それにしてもひどい話だ。
いくら幽霊だからって人に乗り移ってわたしの秘密を聞き出すだなんて。
なんて、幽霊だ。
そもそも、人の恋愛に首を突っ込んでくる幽霊って何だ!?

(^ω^)
 なかなか戻って来ないぬこさんを待ちくたびれてぼくは寝てしまっていた。
ふと目が覚めるとぬこさんは既に戻って来ていて、ぼくのマンガを読んでいた。
「あ、おかえりだお。……ぬこさん、マンガが読めるのかお?」
「そういえば、何故だか読めるな。きっと神様がそうしてくれたんだろう」
それからぼくの方を見て「この本に描いてある事は事実なのか?」と聞いてきた。
読んでいたのは、いわゆるラブコメディだった。
「いや、それはフィクションだお」
ぼくは答えた。
「ふむ、そうか。人間の恋愛は大変そうだと思ったが、やはりこれは事実ではないのか」
そんな感想を言うぬこさんなのであった。
「でも」ぼくは続けた。
「実際の恋愛もそんなマンガ以上に大変だよ」
ぬこさんは再びページをめくりながら「そうだな。君と彼女を見ていると分かる気もするよ」と言った。
彼女? 彼女とはツンのことなんだろうか? ツンにも好きな人がいるんだろうか?
ぼくは気になったが、何となく聞けないでいた。
それからさらに数ページをめくった後、ぬこさんはぼくの方を向いた。
「だが、愛しの君よ。君の努力が足りなかったゆえにこうなっている点も多いのだ。精進したまえ」
そう言うと本をテーブルの上に戻して消えてしまった。
努力、か。
ぼくは自分に何が足りなかったか、自分が何をすべきか考えていた。

(^ω^)
 「そうよ、わたしは内藤のことが好きよ。それが何!? あなたに関係ないじゃない!」
わたしは頭にきて、言い放った。
「だったらどうしてあんな態度を?」
彼女が聞いてきた。
「昼間も感じたが、かなり冷たいではないか」
「そ、それは……」
わたしは言葉を続けられなかった。
そんなわたしに彼女は次々と言葉を投げかけてきた。
「何故好きだと言う事を隠していたのだ。もっとアピールしたまえ。発情期の猫はただただ鳴いている訳ではない。あれはアピールなんだ。『わたしは恋がしたい』というアピールだ。君もメスだろう、もっとフェロモンを出したまえ。そもそも……」
そんな事は分かっている。全ては分かっている。でも、でもでも、もうそんな行動は出来ないのだ。
気が付くとわたしは涙を流していた。
わたしの涙に気付くと彼女は「すまない。泣かせるつもりはなかったんだが」と言った。
彼女に言われた事で泣いた訳ではなかった。ただ、今まで何も出来なかった自分が悔しかっただけだった。
彼女は小さくため息をついて言った。
「ふむ、人間とは複雑な生き物だな。好きならば行動をするという訳にはいかないのだな」
それから「私もどうしたらいいか考えてみよう」と言うと消えてしまった。
どうしたらいいのか。それはわたしが考えるべきことなのだろう。
そしてわたしはその答えを最初から知っているのだ。

(^ω^)
 翌日、体育の時間。今日は器械体操のテストがあった。
体操なんてぼくは苦手だ。当然、ドクオも苦手なのだろう。体育館の隅っこでひざを抱えて座っていた。
ぼくはドクオの横に行って無言で一緒に座った。
突然、ドクオが「それで、何をするか決まったかね?」と聞いてきた。
何の事だろう? ぼくがドクオに聞こうと口を開くと、ドクオのテストの順番が来て先生に呼ばれた。
「また後で」そう言うとドクオは、口を開けたままのぼくを残してテストに向かった。
そして、ドクオはテストで満点を出した。
平均台を駆け抜け、空中でニ回転し、華麗に音も無く着地に成功した。
誰もがあっけに取られていた。
戻ってきたドクオは小さい声で「ふむ、どうやら人間の体でも思った通りに動けるようだ」と言った。
ドクオの中身はぬこさんだった。
「どうだ? やるべき事はわかったかね?」
ドクオの体を借りたぬこさんはそう聞いてきた。
ぼくが口を開いたその時、ドクオは再び先生に呼ばれた。
「どうしたんだドクオ!? すごいじゃないか! いつ練習したんだ? ちょっともう一回やってみろ!」
その瞬間、ドクオはドクオに戻ったようで、「あれ? オレ、何してたんだっけ?」と言いながらキョロキョロと周りを見回した。
「え? 何? オレ、テストの番?」
そう言いながらドクオは、口を開けたままのぼくを残して再びテストに向かった。
ドクオは平均台から転落し、空中で半回転して、大きな音と共に無様にマットに落ちた。
それからよろよろと立ち上がったかと思うと突如として回復し、スタスタとツンのところへ歩いていった。
あっけにとられていた先生は今の事は無かった事にしてテストを再開し、みんなもそれに応じてテストに戻った。
 結局、それからぬこさんは現れなかった。
ぬこさんはぼくに何を言おうとしたんだろう?
何をすべきか決まったか、と聞いてきた。
そうだ。ぼくは何をすべきなんだろう。
ぬこさんが本気だとすれば、ぼくはもうすぐあの世に行ってしまう。
ぼくがあの世に行く前にしないといけないこと。
――とにかく、最後になるのならば、ぼくはツンにぼくの気持ちを伝えたい。
ツンにこの想いを伝えよう。伝えないといけないんだ。
そうだ。ぼくがすべき事はそれなんだ。

(^ω^)
 みんなのわぁっと言う声でわたしも男子の器械体操の方を見た。
ドクオが器械体操ですごい演技をしたかと思ったら、次の回では無様に転落した。
それから、何故かわたしの方に歩み寄って来た。
不思議に思うわたしにドクオは聞いてきた。
「それで、どうするか決まったのかね?」
また幽霊が乗り移っているらしい。
「また、あんたなの?」
ドクオの体を借りた幽霊はうなずいた。
「どうもしないわよ」
わたしの答えに彼女は分からないという表情をした。
「ずっと不思議だったのだが。何故、そんなに自分の気持ちを隠したがるのだ?」
「うまくいくとは思えないからよ。それに……、今となっては意味も無いし」
わたしは即答した。
わたしの気持ちを伝える事が出来たとして――。どのみち、きっと内藤はわたしとなんか付き合わない。
そして今の現実、わたしが内藤に告白する。内藤は返事をくれない。それでその先どうなると言うのか。
そして、今こうなっているのはわたしが悪いのだ。内藤を止めることが出来なかったわたしが。
「どっちにしろ」わたしは続けた。
「今までの関係を壊したくないのよ」
わたしは彼女にそう告げた。
「今までの関係?」
彼女の表情が曇った。
「悪いが、君の言う『今までの関係』がとても良い状態とは思えないんだが」
彼女は続ける。
「今までの君は内藤に会うのがかえって辛かったのではないのか? 自分の好意を隠すためにわざと冷たく振舞う。そして、そんな自分を寂しく思う。君はそんな状態を維持したいと言うのかね?」
そして、わたしの目を覗き込み、彼女は聞いてきた。
「教えて欲しい。君達人間が理想とする関係とは、『好きな人とはいつだって笑っていたい』わけではないのか?」
彼女はいつまでもわたしを真っ直ぐに覗き込む。
そう。わたしは内藤と笑っていたかったのだ。
わたしの目を覗き込む、ドクオを通した彼女の目はわたしの心の奥底まで覗き込み、光を送っているようだった。
わたしの気持ちの中で何かが動いた気がした。

(^ω^)
 それから、ツンに告白するチャンスをうかがい続けた。
でも、ツンはぼくの事をまったく相手にしてくれなかった。
話かける隙が無いどころではない。完全に相手にされなかった。
こっちを見ているので笑顔を返すと、フイとうつむかれてしまった。
そして、そのままツンは早退してしまった。
ぼくはツンを追いかけて早退した。
このまま避けられ続けるわけにはいかないお。

(^ω^)
 廊下に春の交通安全運動のポスターが貼ってあった。
それを見たわたしは、内藤が突如車道に飛び出したあの日の事を思い出した。
わたしは無意識のうちに内藤の席を見た。
そして、もし、あの事故で内藤がこのままいなくなったら、と考えた。
内藤がいなくなる。それはつまり、このわたしの想いは誰にも知られることなく、内藤と共に消えてしまうという事。
内藤にはいなくならないで欲しいと望むのは所詮、わたしの我侭なんだろうか。
この寂しいと思う感情は愛なのか、わたしの欲なのか、それともわたしへの罰なのか。
そんな事を考え、わたしはうつむくしか無かった。
気分が落ち込み、わたしは学校を早退した。

(^ω^)
 学校からの帰り道、ぼくはツンにぼくの気持ちを伝えるシミュレーションをしていた。
こうなったらツンの家に直接行くしかない。
ああしてこうなって、ああ言って、こう言われる。全てはぼくに都合の良い展開になった。
それはシミュレーションではなく妄想というものだ。
ツンに告白する。
その決心のせいだろう、すごくドキドキする。
ちょっとドキドキしすぎて体調が悪くなりそうな位だ。
「うはっ、おけ!」
そのままの勢いでブーンをする。きっと空も飛べるはず!
ぼくはまるで飛ぶようにツンの家に向かった。

(^ω^)
 学校から帰っても気分は良くならず、そして彼女の質問が頭に残っていた。
「『好きな人とはいつだって笑っていたい』のではないのか?」
――好きな人と笑っていたい。
そう、昔は内藤とも笑って過ごしていた。
わたしがきつい事を言っても内藤は苦笑いをしながらもわたしのそばにいてくれた。
「あの頃に戻りたい。いや、出来ればあの頃以上になりたい」
わたしはそうつぶやいた。
「ならば、そう彼に伝えたらいいじゃないか」
突然、幽霊が現れた。
「人間には言葉があるじゃないか。思いを伝えられる素晴らしいもの。君達人間は大切な事はちゃんと言葉にしないと伝わらないだろう?」
彼女続けた。
「そして、君はその事でこの三ヶ月後悔して……」 そこまで言って、彼女は「あ、来る」と言うと突如として消えてしまった。
何が来ると言うのか? いや、それよりも彼女は何をしに来たのか。
そのそも、あの幽霊は何故こうもわたしに口出しをするのか。
わたしにどうしろと言うのか。
でも言っている事は正しい気がする。
そう、嫌になるぐらいに正しい。
いや、正しいから嫌になるのか。
――言葉にしないと伝わらない
か、その通りだ。わたしは伝える事が出来なかった。
まったく、嫌になる。自分が嫌になる。

(^ω^)
 ツンの部屋へはぼくの部屋から屋根伝いに行ける。
ぼくは告白の舞台にそこを選んだ。
屋根伝いに告白。なんてロマンチックなんだ。まるでロミオとジュリエットだお。
屋根を伝い、ツンの部屋の窓の前に着いた。
今回は学校にいる時のように避けられる訳にはいかない。
ぼくは全力で自分をアピールしながら窓を開けた。
「ジュ……、ツン!」
ぼくの姿にツンはとても驚いていた。ぼくも学校を早退して来るとは思わなかったろう。
そうだ。ドキドキするのは恋に効果があると聞いたお。
この瞬間を逃さないよう、ぼくはツンを見つめて言った。
「ぼくは……、ぼくは君のことが好きだお!」
ついに、ぼくは告白した。

(^ω^)
 どこからか不思議な音がしたかと思うと、突如部屋の窓が開いて内藤が現れた。
そして内藤は叫んだ。
「ぼくは君のことが好きだお!」
そんな……。
ありえない、こんなことがあるはずない。
わたしは声に出して言った。
「こんなことがあるはずない……」

(^ω^)
 ついに、告白をした。
もちろん、こんな経験は生まれて始めてだ。
ぼくはまたもドキドキしてきた。
さっきとは比べ物にならないくらいドキドキする。
ちょっ、おまっ、これは……。
ドキドキしすぎて具合が悪くなってきたお……。
ツンが何かを言っている。
「       」
数秒後、ぼくは「うはっ」と思う間もなく意識が無くなってしまった。

(^ω^)
 突如現れた内藤は、わたしに告白し、そのまま消えてしまった。
何が起こったのか、わたしには分からなかった。
本当にあれは内藤だったのか、もしかしてこれは夢なのか、全てがわからなかった。
わたしに分かるのは、内藤に何かが起こったという事だけ。
とにかく、内藤のところへ行ってみないと。
わたしは走った。
内藤の部屋、病室へ。
そう。あの事故以来、眠り続ける内藤がいる病院へ。

(^ω^)
 ここは何もない世界。
 暗闇。
 いるのはぼくだけ。
 いや、ぼくさえもいない。
 そしてもちろんツンもいない。

 ぬこさんがいる気がする。

(^ω^)
 内藤が入院したのは三ヶ月前だった。
理由は交通事故。
わたしの目の前で突如、両手を広げて道路に飛び出した。
わたしは彼を止める事が出来なかった。
そうして車に跳ねられた内藤は意識を失い、入院した。
それからずっと内藤の意識は戻らなかった。
医者も、もうこのまま意識が戻る事は無い、と言っていた。
わたしが内藤に想いを告げても彼には届かない。
わたしの想いは誰にも届かない。

(^ω^)
 何一つ無い暗闇から少しづつ、見えるものが表れてきた。
最初に見えたのはぬこさんだった。
ぬこさんは誰かと話しているようだったけれど、その相手はよく見えない。
だから、ぼくにはぬこさんが何の話をしているのかよくわからなかった。

(^ω^)
 病室に着くと、内藤は息を引き取っていた。
治療器具を片付けている看護士が、つい今さっきの事だと教えてくれた。
内藤は死んでしまった。
内藤が死んでしまった。
内藤が死んでしまった?
わたしは少しの間、この事実を理解できなかった。理解することを拒絶した。
混乱する私の前に、次に現れたのは幽霊の彼女だった。
「それで、君はどうする?」
彼女はそう聞いてきた。
「伝えない想いには意味が無い事はもう分かっているんだろう?」
空中を優雅に浮遊しながらも彼女はわたしの目を見据えていた。
わたしは彼女から目をそらし、答えた。
「でも、もう遅い」
「遅くはないさ」
彼女は即答した。
しかし、内藤は死んでしまったのだ。
もはや、わたしの想いに意味はない。
わたしは病室を後にした。

(^ω^)
 まだ周りの景色はよく見えないけれど、ぬこさんが話をしている相手は見えるようになった。
それはツンだった。
ツンはぼくに気付かずにどこかへ歩き始めた。ぬこさんがそれを追いかける。
「ツン、どこへ行くんだお?」
ぼくの質問にツンは答えてくれない。まるっきり無視だ。
仕方がなく、ぼくはツンを追いかけた。
そういえば、ぼくはさっきツンに告白したはずだ。
でもツンは口をパクパクさせただけだった。
ぼくはまだ返事をもらっていない。
その上、ぼくの問いかけを無視してどこかへ行っちゃうだなんてひどいお!
「ツン! ちょっと待ってお! 返事をして欲しいお!!!」
ぼくは力の限りツンに迫った。

(^ω^)
 突然、目の前に内藤が現れた。
わたしは驚いて立ち止まる。
……いや、本当の内藤は病室のベッドにいる。
目の前に佇む内藤は幽霊。
本当に、内藤は死んでしまったのだ。
「内藤……」
わたしは思わず声に出す。
結局、わたしは何も出来なかった。
わたしに出来ることなど何一つとして無いのだ。
わたしを追いかけて来ていた彼女がもう一度聞いてきた。
「ほんとうにいいんだな?」
わたしは無言でいた。
「このままでは君は想いを果たせないどころか、自分でさえも嫌いになったままなんだぞ。それでいいのか?」
わたしはうなずいた。もう全ては無意味な事。
「では、私が連れて行くぞ。いいんだな」
彼女は聞いてきた。
わたしはもう一度うなずいた。泣く事さえも出来ずに。

(^ω^)
 ぼくの声にツンはひどく驚いた様子だった。
それから、とても哀しそうな表情でぼくを見て、ぼくの名前を呼んだ。
しかし、ツンはやっぱり返事をしてくれなかった。
無言のツンにぬこさんが話かけ、ツンがうなずくのが見えた。
そして、ぬこさんが「内藤、行こう」と言った。
「結局、わたしが権利を使う前に時間切れになってしまったな」
ちょっと寂しそうにぬこさんは言った。時間切れ?
ぬこさんはぼくを見ると、少しだけ明るく言った。
「さぁ、私と共に愛に満ちた時間を過ごそう。私は彼女とは違って、ストレートに君を愛する事が出来る」
そうだ、その事でぼくは聞きたいことがあったお。
「でも、ぬこさん? あの世に行くって事は、ぼくは死んでしまうんだおね? 死んでしまっても愛はあるのかお?」
ぬこさんはやさしく笑うと教えてくれた。
「愛だけは等価なんだ、生きていても死んでいても。だから私みたいな幽霊がいるのさ。それに、君もこうして身を持って体感しているじゃないか」
そうか。愛は死んでも残るのか。
「さぁ」と、ぬこさんはぼくに手を差し出した。
ぼくの告白に対するツンの答えは分からなかったが、それが「YES」では無い事だけは分かった。
そう、ぼくはぼくの想いを告げたんだ。それだけでも良かったじゃないか。
これなら、ぼくはぬこさんとあの世で愛に包まれた生活を送ってもいいかもしれない。
ぼくは、ぬこさんの手を取った。

(^ω^)
 「待って! 行かないで! わたしにはあんたが必要なのよ!」
わたしは叫んでいた。
内藤が彼女の手をとった瞬間、わたしは全てを理解した。
行ってしまう。内藤が本当にいなくなってしまう。
道に飛び出す内藤を、わたしは止める事が出来なかった。
そして今、逝ってしまう内藤をわたしはまた止める事が出来ないのか。
内藤は最後にわたしのところに現れてくれた。そしてわたしに好きだと言ってくれた。
今、言わなければ、今、この気持ちを内藤に伝えなければ、今後、この気持ちを伝える相手はいなくなってしまう。
ここにいる内藤が幽霊でもいいじゃないか、最後にわたしの気持ち伝えよう。
わたしは思っていた。もうわたしの気持ちを伝える意味など無いと。
しかし、わたしの目の前には、たとえ幽霊でも、その気持ちを伝えるべき相手がいるのだ。
わたしは想いの全てを内藤にぶつけた。
「わたしは、わたしは彼女みたいに感情を素直に表すことは出来ない。
だけど、だけどそれでも、わたしには子供の頃からあんたと過ごしてきた時間と、それと同じだけの量の想いがあるのよ!
……内藤、あんたがいなくなったらこの時間の空白を、わたしの心の空白をどう埋めればいいのよ!?」
わたしは子供のように泣いていた。
「お願いだから行かないでよ! 帰ってきてよ!」
そしてわたしは、自分の気持ちを伝えた。
「わたしを独りにしないでよ、内藤。あなたが好きなのよ……」

(^ω^)
 ツンが言った。ツンがぼくを好きだと言った。
それは確かに妄想ではなかった。
信じられない。でも確かにツンはそう言った。
ぼくは嬉しさで舞い上がった。
嬉しさのあまり、鼓動が早くなる。
ドキドキしてくる。
さっき以上にドキドキする。
ちょっ、おまっ、これは……。
数秒後、ぼくはまた意識が無くなってしまった。
次の世界は真っ白な世界だったお。

(^ω^)
 わたしの告白を聞いた内藤は驚き、喜びを全身で表し、そして消えた。
幽霊がわたしに言った。
「よかったよ。最後の最後で告白してくれて。これで君達は結ばれるというわけだ」
わたしが彼女を見ると、彼女は続けた。
「私は彼が愛に満ちた生活を送ってくれればそれでいいんだ」
「でも、内藤はもう……」
わたしの言葉に彼女は教えてくれた。
「心配ない。私が持っているのは《彼の命を自由にする権利》だ。わかるだろう?」
そして、最後にこう言った。
「さぁ、彼が還ってくるよ」

(^ω^)
 真っ白な世界にいると思ったぼくは、顔に布が乗っているだけだと気が付いた。
起き上がって布を取るとそこは病院のベッドだった。
何でこんなところに? 今まで見ていた夢は?
そう思っているとドアが開き、ツンが飛び込んできた。
ぼくはツンに声をかけた。
「やぁ、ツン。今、とてもいい夢を見ていたお。ぼくが君に告白して、君がぼくに告白するんだ」
よく見るとツンは泣いていた。
それからぼくの方に歩み寄って来て、ぼくを抱きしめてくれた。
「これは夢の続きなのかお?」
そうぼくが言うとツンは「バカッ!」と言った後に震える声で言った。
「……全部現実よ」
ツンが一層力を込めてぼくを抱きしめた。
「じゃあ、ツンは本当にぼくの事を好きなのかお?」
ぼくの質問にツンは泣きながら笑って言った。
「ずるいよ内藤……」
ツンはぼくの顔を覗き込んだ。
「わたしにだけ何度も告白させる気?」
そう言って唇を重ねてきた。

(^ω^)
 幽霊は《内藤の命を自由にする権利》を本来の目的とは逆に使って、一度死んでしまった内藤を甦らせてくれた。
彼女はわたし達を見て「紆余曲折ある人間の恋愛も幸せそうだな」と言った。
そして最後に「私も次は人間になれるよう、神様に頼んでみようか」と言うとあっさり消えてしまった。
人間になれるよう? またもお嬢様ジョークなのか。
それから彼女は、わたしの前にも内藤の前にも姿を現す事はなかった。
 わたしはと言えば、内藤に告白はしたが、相変わらず素直に感情を表すことは苦手なままだった。
特に人前ではまったくと言っていいほど無理だった。
それでもたまに、二人きりの時は内藤に甘えたりする。
結局、人間の性格なんてそう簡単に変わりはしないのだろう。
それでもわたしは彼女に感謝する。
あの、世間ズレしたお嬢様幽霊に。
彼女がわたしに教えてくれた、想いを素直に表現することの大切さ、そして何より言葉にして伝えることの大切さ、わたしはそれを二度と忘れてはいけない。
彼女は生まれ変わると言っていた。そうしたら是非友達になりたいものだ。
でも、もしかしたら彼女は内藤の事を好きになるかもしれない。
もしそうなったら、わたしに勝ち目はあるのだろうか?
素直さは女の武器だ。わたしに勝ち目は無いかもしれない。
だから、その時までに、わたしは内藤ともっと仲良くなっておこう。誰にも入る隙を与えないほどに。
そのためにも、わたしは少しづつでも内藤に素直に気持ちを伝え続ける。
わたしは今日も屋根を伝って内藤の部屋に向かう。
そう、彼と笑って過ごすために。

(^ω^)
 ツンに告白をされた二日後、ぼくは退院した。
長期の昏睡も臨死体験も、検査の結果は異常無し。後遺症の心配もなかった。
目が覚めてしばらくすると夢の内容は全て忘れてしまった。
基本的には寂しい夢だったけど、最後はとても幸福だった気もするのだが。
でも、それはもう忘れてもかまわない。
何故ならぼくは今、とても幸福だから。
ツンが昔みたいに、冷たく当たりながらもぼくと一緒にいてくれる。
それどころか、以前よりもツンはよくぼくに笑ってくれる。
そして少しづつだけど、素直にぼくに気持ちを伝えてくる。
ぼくはそれがとても嬉しい。
 ぼくが部屋でゲームをしていると窓がノックされた。
ツンが来たみたいだ。
「ちょっと内藤! どうせ一人でゲームでもしてるんでしょ。マリオカートぐらいなら一緒にやってあげてもいいわよ!」
そう言いながらツンはぼくの部屋にあがる。
ツンのこんな言い方にも今は愛を感じることが出来る。
ぼくはツンと一緒にゲームを始めた。
今日もぼくらは笑って過ごしている。


2006.3.14掲載


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