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男は彼女に言うようです

(^ω^)
 その日、男は朝から気持ちが早っていた。
昨晩見た夢、それに彼女が出て来たからだ。
 夢の中でも彼女は美しかった。
こんな綺麗な人が何故、自分なんかと付き合っているのだろう?
男は夢の中で彼女を見ながらそんな事を思うと同時に、でもそんな彼女が自分と付き合っているという事実を再確認すると、それが嬉しくてしょうがなかった。
そして溢れる想いを止める事が出来ず、彼女にそれを伝えようと思った。
現在進行形で付き合っている彼女に突然そんな事を言うのは変だろうか? 男は一瞬そう思った。
しかし、夢の中での事。男は気にせず彼女に想いを伝えた。

――僕は君の事が大好きだ、と。

しかし、そんな男に彼女は言い返す。
そんな事を言われても少しも嬉しくない、と。
そして、男の顔さえ見ずに続けて言う。
私はあなたの事など何とも思っていない、と。
 思えば男は夢の中だけでは無く現実においても彼女にそんな事ばかり言われてきた。
男と彼女は幼馴染だった。
そして男は小さい頃から事ある毎に彼女に馬鹿にされ、罵倒されてきた。
私があなたの為に何かするなど、到底ありえない。男は彼女に何度となくそう言われた。
更には、付き合うようになっても尚、夢で言われたように、わたしはあなたの事など何とも思っていない、とも言われている。
「お前等、本当に付き合ってんのかよー?」
周囲の友人達は二人の会話を聞いてそう揶揄する。
男はもちろん、と答える。
彼女は何も答えない。
だが、例え彼女にどんな言葉を告げられようとも、あるいは彼女が自分に何も告げてくれなくても、男はその事を気にした事は無かった。
自分だけは彼女を理解しているんだ。自分だけが本当の彼女を知っているんだ。
ずっと、そう思っていたからだった。
 そして男は夢から覚め、目を覚ました男の胸にはある決意が固まっていた。
彼女に、今、自分の胸にあるこの気持ちをぶつけてやろう、と。
昨晩、翌日からもう四月になる事に気付き慌てた男は、今日は彼女に何か言ってやろうと思っていた。
そして、今見たばかりの夢を思い出し、未だ消えないこの気持ちを彼女に告げる事にした。

(^ω^)
 それを言うと決めたら、いても立ってもいられなくなり、男は決意を胸に家を飛び出した。
まだひんやりと寒い静かな朝の町を走り、彼女の家を目指す。
途中、まだ寝ているであろう彼女の携帯に電話をかけ、家の下で待っていて欲しいと伝える。
文句を言う彼女を何とか説き伏せ、男は電話を切ると走る速度を上げた。
 そして数分後、男は彼女の家に着いた。
「……せっかくの春休みにこんなに朝早くから何の用?」
パジャマの上に上着を羽織って玄関の前に立ち尽くす彼女は男を見る早々悪態をつく。
「くだらない用事だったら怒るからね」
そう言って彼女は腕を組む。
そんな彼女を見て男は思った。
――きっと、どんな事を言っても彼女は怒るんだろうな。
そして、自分の言った言葉に怒る彼女を想像してくすっと笑ってしまった。
「なっ、何よ?」
そう言ってもう既に怒りだしそうな彼女を男は見つめ続け、思った。
やっぱり彼女は綺麗だな、と。
そうして二人、しばらく黙って見詰め合っていたが、ふと彼女が視線を外し、言った。
「――用が無いならもう部屋に戻るわよ」
そして彼女は男に背を向けようとする。
男は慌てて彼女を引きとめ、彼女は男に振り返る。
再び合わせられた視線に男は何故か少し戸惑い、そして思った。
付き合って長いのに今更、しかも突然にこんな事を言うのはどうなんだろう? と。
しかし、夢で再確認したその思い、そして気付いてみれば日増しに大きくなるそれを男はもう胸の中だけに留めて置く事は出来なかった。
――そして男は彼女に言った。

「僕は君の事が、大っ嫌いだお!」

(^ω^)
 言い終えると男――内藤ホライゾンは満足しきった笑みで彼女を見つめた。
夢で再確認し、起きてからもずっと消えなかった胸の奥の思い。
その全てをこのシンプルな言葉に乗せて内藤は彼女に伝えた。
 それから、長い沈黙があった。
時間にして15秒。そしてその15秒間、彼女は微動だにしなかった。
「……?」
俯いたままじっと動かない彼女。内藤はやっとその事に気付き、彼女の顔を覗き込んだ。
すると、そこには今にも泣き出しそうな彼女の顔があった。
「――ち、違うんだお、ツン!」
内藤は慌てて言い訳をする。
無意味に何度もえーっとえーっとと言い、それからやっと彼女――ツンに言う。
「今日の日付を思い出して欲しいお!」
「……今日の日付?」
震える声でそう言うツンはポケットから携帯電話を取り出した。
そして、画面を開き、日付を確認する。
「――あ」
そしてその日付に気付くとほっとした表情を見せ、それから――、怒り出した。
「なっ、何よ紛らわしいわね!」
日付は四月一日。
エイプリールフールに気付かずまんまと騙された悔しさでツンは顔を真っ赤にしながら内藤に怒鳴る。
「何がエイプリールフールよ。馬っ鹿じゃないの!? 四月馬鹿ってのはあんたの事よ! ……ばかばかばーか!」
「……ご、ごめんだお」
内藤が反射的に謝る。
しかし、ふとさっきまでとは違う理由で顔を赤くし、ツンは内藤に言った。
「そ、それに、そんな事言われたって全然嬉しくなんか無いんだからね……!」
そんな事を言われたというのに内藤はその言葉を聞いて笑顔になった。
何故ならそれがツンの照れからくる言葉だという事を内藤は知っているからだ。

 内藤とツンは小さい頃からずっとこうやって過ごして来た。
ツンは自分の気持ちを素直に相手に伝える事が苦手で何か言おうと思っても照れてしまい、結果、思っても無い事を口にしたり無言になったり、時には何故か相手を罵倒したりするはめになってしまう。
そして、二人が何時の間にか付き合うようになってからもそれは変わらなかった。
たまに、ツンが内藤の為に何かをしてくれる。例えばお弁当やお菓子を作ってくれるといった事だ。
そして内藤がツンにお礼を言うと、彼女は決まってこう言う。
「べっ、別にあんたの為に作ったわけじゃ無いんだからね!」
だが、内藤はツンが自分の為に作ってくれた事を知っているし、そしてツンが本当はそんな事を言いたかった訳じゃあ無いという事も分かっている。
だから、内藤はそんな事を言われても、いやむしろそんな事を言うツンがかわいくて仕方が無い。
「ありがとうだお」
そんな時、たまに内藤はわざとお礼を言う。
するとツンは内藤の予想通り、照れて言い返す。
「――あんたの事なんて、何とも思って無いんだからねっ」
そう言ってそっぽを向くツンを内藤は心の底から愛しく思った。
 それでも、ツンはそんな事を言うばかりでは無かった。
極まれに彼女は真っ直ぐに自分の気持ちを伝えて来ることがある。
「す、――好きよ。内藤」
呟くようにそう言う彼女はいつだって視線を逸らし、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい真っ赤な顔をしている。
そして、普段罵倒される事が多ければ多い程、たまにしか見られない素直なツンが麻薬の様に内藤を虜にした。

(^ω^)
「――大体、何でエイプリールフールよ。四月一日は元々日本じゃあ『日ごろの不義理を詫びる日』だったらしいじゃないの。あんたも日ごろ、不義理なんだからもっと詫びなさいよね――」
体の中にあった不安と緊張を吐き出すかのように、ツンは口を尖らせ、腕を組んでそっぽを向いたままそんな訳の分からない文句を言い続けていた。
そんなツンを微笑みながら見つめ、内藤は彼女に聞いた。
「――ツンは?」
「えっ?」
突然の質問にツンは言葉を止め、内藤を見た。
内藤は真っ直ぐにツンを見て再び聞く。
「ツンはどうなんだお? 僕はツンが大嫌いだお。――じゃあ、ツンは?」
その言葉を聞いて、ツンは内藤の質問の意味を理解した。
内藤の質問、つまり今日、四月一日にふさわしい方法で自分の事をどう思っているのか伝えて欲しい、という事を。
「わ、私は――」
ツンは再び内藤から視線を外す。
そして、長い沈黙の後、ツンは言った。

「あんたの事なんて――、何とも思って無いんだからねっ」

顔を耳まで真っ赤にしながら呟くようにそう言ったツン。
 あれ? おかしいな――。
しかし、そんなツンの言葉を聞いて内藤は思った。
――何だかこれじゃあ、いつもと変わらない。
せっかくエイプリールフールにふさわしい伝え方で自分の想いを伝えてくれたというのに、いつもと変わらなかったツンの台詞。
内藤は笑ってしまった。
そんな状況と、そしてそれが嬉しかった自分が可笑しくて。
「……何笑ってんのよ、もう。――ばか」
そう言って、笑う内藤を拗ねたように上目遣いで見るツン。
そんなツンを見ながら内藤は改めて思った。
――僕に必要なのはツンの言葉じゃないんだな。いつだって、ツンがいてくれるだけで僕は幸せなんだ。
 そして唐突に、内藤はツンを抱きしめた。
「なっなっ、何よ!?」
驚き、そう聞いてくるツンに内藤は答える。
「今日は言葉で伝えると嘘をつかないといけないから行動でしめすんだお」
内藤がそう言うとツンは目を閉じ、内藤の背中にゆっくりと腕を回し、一言言った。
「ほんと、ばっかじゃないの?」
そして、目を瞑ったまま微笑むと、ツンはその腕にぎゅっと力が込めた。


2008.4.1掲載


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