水と甲羅
  
遠賀川の河童たち

著 者 吉田龍四郎
      宮田町河童村村長
      TEL 0949-33-3838

発行者 自分史図書館 福田康生
      住所 福岡県鞍手郡宮田町宮田4582
     TEL 0949-33-1843

A5版・190P・ハードカバー
    定価 2000円(税込)

序にかえて  鶴島正男

人生も黄昏が近づくにつれ、己の半生を回顧して、嗟嘆を久しゅうする。そこで、遅れ馳せながら、残された歳月こそは、と心に念じる。が、ついに、それも果たせず、心ならずも無念の生涯を閉じる人々の何と多いことか。
 吉田竜四郎さんは、こうした中にあって、後半生の魂の燃焼を願い、それの実現に向って、ひたすら努力している稀有の人である。
 先年、サラリーマン生活を捨てて、千石川の清流が、脇野平野に注ぐ宮田町、千石峡に窯を開いた。名付けて「千石焼・竜四郎窯」という。
 爾来、作陶の傍ら、「伝承八方開運川筋河童・河童川太郎」なるひねり人形や「河童鈴」を創り始めると、忽ち、この幻の小動物に魅せられてしまったようだ。あるいは、日本人の心のふるさとを、この愛すべき河童に見たのかも知れない。近頃では、病、膏盲、長髪、痩身、頼骨の張った細面の風貌までが、河童に類似し来て、神韻縹渺、不思議な存在感を示すに至った。
 川筋の河童伝説を集収したこの小冊子は、こうした氏の、生命燃焼の所産である。



カッパの復権  舌間信夫

 開発という自然破壊が進むにつれて、野性の生物は、次々にその住いを追われていく。
 すでに、地球上から姿を消したものもいるし、絶滅寸前のものもある。
 現実の世界でだけでなく、空想の世界に生きてきた生物も、また、次々に姿を消しつつある。開発によって、緑が少なくなり、水が汚濁されていくとき、人間の心もまた、抒情の水源を失い、空想の翼を折られてしまうものらしい。
 ここに、空想上の生物「カッパ」の復権を目指し執念を燃やし続ける一人の男がいる。その名を吉田竜四郎という。
 彼は、商人の世界から陶芸の世界へ転身し、やがて、カッパの焼物をつくりはじめ、そして、カッパの虜となり、遠賀川流域のカッパ伝説を収集し、更に、カッパのルーツを求めて空想の翼を広げ、その成果を一冊の本にまとめた。画一化されつつある人問の多い今、貴重な個性といわなければならない。
 私は少年時代を思い出す。村には、冷たい水をたたえた底知れぬ沼があった。そこで子供が泳ぐことが禁じられていた。カッパに尻子玉を抜かれるというのである。
 私たちは、恐れと、こわいもの見たさの好奇心から、連れだって、こっそりと沼に行き、水をくぐったものである。
 深みにはまって、急に水温が変ると、ハッとして、いそいで力をいれ、尻の穴をしっかりと閉ざしたものである。
 あのとき、カッパは、子供に水の恐ろしさを教える方便として利用されていたのであろうが、私にとっては、たしかに実在の生物であった。
 カッパは、芥川龍之介の理智的なカッパ、火野葦平の抒情的なカッパ、民話に出てくる、どじで、まぬけで、ユーモラスなカッパなど、さまざまだが、結局、それを生かすも殺すも人間次第のようである。
 ともすれば見失いがちな、大切なものを求めて、けんめいに歩いていく吉田竜四郎の手によって、カッパが復権し、長く、人間と共存できる世界が続くことを祈ってやまない。


はじめに  吉田龍四郎

 美しい日本の自然の風土、それは、大陸にみる厳しい寒暑の変化もなく、荒涼として、無限にひろがる曠野も峻しい山岳もなく、私たちのまわりには、四季それぞれに、美しい自然があります。そして、春夏秋冬、季節ごとの風が、私たちに自然の移り変わりを教えてくれます。
 こんな自然の中にはぐくまれて、地元には昔からある風習や、伝統、そして、その土地に根づいた数々の美しい伝説や、昔話が、数多く遺こされております。

 中でも、河童の伝説物語は、その最たるものです。河童は、神秘的で、それでいて、尚愛らしく、ユーモラスで、恐いような、人を人とも思わぬような、とぼけたような、太腹のような、小心もののような、誰もが身近に感じるまぼろし的存在の楽しい生きもの、良い友人になれそうな存在だからです。
 この河童川太郎にまつわる伝説物語りを、大事に遺しておきたく、遠賀川流域の河童について、あちこちと伝説や物語りを集めてみました。
 一体、河童とは何だろう。ほんとうにいたのか、いなかったのか。それとも、何かの錯覚なのだろうか。
 収集の過程で会った民話愛好家、古老、若者、それぞれに意見は違っていました。
 ケラケラ笑いとばす者、本当におれは見たと云う者、声を確かに聞いたと云う者、いたと云う証拠を見たと云う者。
 川柳に、

「講釈師見てきたようなうそを云ひ」
 と云うのがありますが、この話、どこまで信用してよいのかわからないから、面白いと思います。

 その存否はともかく、伝説としての由来を紹介してみましょう。
 九州は、むかしから、河童渡来の地と伝えられてきました。
 一説によりますと、推古天皇の御代に、九千坊という棟梁に支配された九千の河童の大群が、中国大陸から、大挙して九州に移住したのが、わが国における河童の祖だ、と云われています。以来、千数百年にわたって、河童にまつわる民話や、伝説は、南は沖縄から、北は北海道に至るまで、はとんど全国に流布されてきました。なかでも、九州出身の芥川賞受賞作家、火野葦平先生が、この河童川太郎をこよなく愛ざれ、数多くの作品を、遺されたことは、あまりにも有名です。
 水があり、川が流れ、人々がこの世に住む限り、河童川太郎の伝説は永久に消え去ることはないと信じております。


あとがき

 行雲流水、その大自然の雄大な姿に魅入って、忘れがちな、よきふる里に、再度愛郷の心を燃やし、ユーモラスな河童に託して、伝説や物語りを、ここに記してみました。
 発行にあたりましては、多くの方々に多大のご尽力を戴きましたことを深く感謝しますと共に、厚く御礼を申上げます。
 ものの考え方や、生活のなかの習慣や、しきたりが、古い、とよく若者の口から聞かれますが、しかし、何かの形でこの古きよき時代の生活や、習慣が消えずに生き続けております。
 昔物語りや、民話集の中の河童に関する伝説や、物語りを読まれた方も、又、始めて読まれる方も、豊かな大自然のふところを流れる、遠賀川、犬鳴川、流域の昔、昔の伝説物語を振り返って戴きまして、子供たちに、孫たちに、語り伝えて下されば幸いに思います。

                       昭和58年7月22日  
吉田龍四郎


あとがき 再版にあたってのあとがき

 この度、再版の運びとなった、この『水と甲羅・遠賀川の河童たち』を、最初に自費で出版したのは、昭和五十八年のことであった。
 その二、三年前、私は家業のガソリン・スタンドを廃業し、独学で焼き物を学び、茶器などを焼き始めて間もない頃で、その本が、今こうして再版の運びとなったのは、感慨深いものがある。
 私の作陶は、偉い先生について学んだわけでもなく、独学で始めたものであった。
 それ故に、作品を売るためのつてもなく、また後援者もなく、茶器などは焼いても焼いても売れず、何とか生きるための活路を見出そうと、時たま河童の焼き物などを焼いたりしていた。

 そんな苦労を重ねていた最中に出会ったのが、故岡本太郎先生であった。
 岡本太郎先生との出会いは、その頃、青森県三沢市の古牧温泉で行われた、「全国河童祭り」に出席した時のことであった。
 岡本太郎先生は、当時、「全国河童村サミット」の最高顧問をされていて、その時、
「だれにもできないことをするのが芸術だ。吉田さんは、河童を一筋に追及しなさい。そうすれば必ず道は開ける。河童の焼き物に専念しなさい」
 と、私にこう云って、アドバイスをし、励ましてくれたのである。
 私は、茶器にはそろそろ見切りをつけていたから、岡本先生の言に従った。
 それ以来、私は、『河童の龍四郎』を名乗り、河童の焼き物を一筋に作りつづけてきたが、いつの間にか四半世紀が過ぎ、私ももう八十歳になろうとしている。

 河童と付き合い続けて数十年。今では、人が、
「顔付きまで、河童に似てきましたなあ」
 と云うが、自分自身でも、

(自分は、本当は、河童の子孫なんじゃなかろうか)
 と思われる、今日この頃である。
 最後に、この度、こうして二十数年ぶりに、『水と甲羅・遠賀川の河童たち』を再版することが出来たのは、ひとえに、
「時代は、まさに水と緑の時代ではないでしょうか。遠賀川では、直方に『水辺館』が出来たり、また各地に『水と緑の会』や『遠賀川の水源を守る会』などが出来ています。吉田さんが、今まで何十年も主張し願ってきたように、河童が住めるような水辺をみんなが求めるようになって来ました。今こそ、この本を再版する意義があるのではないでしょうか」
 と、再構成し、再版を勧めてくれた自分史図書館・福田康生君のご好意によるものである。多謝します。

                  2005年1月20日 吉田龍四郎


目 次

第一部 遠賀川の河童たち
一話 河童の恩返し(田川郡添田町)
二話 瀬成り河童(田川市)
三話 河童の詫証文(田川市)
四話 牛に引張られた国春の河童(嘉穗郡稲築町)
五話 池を埋められ腹を立てた河童(嘉穗郡稲築町)
六話 河童談義(嘉穗郡稲築町)
七話 相撲に負けた河童(嘉穗郡稲築町)
八話 河童の膏薬(田川郡添田町)
九話 河童石(鞍手郡宮田町)
十話 胡瓜と茄子の恩返し(鞍手郡鞍手町)
十一話 かわんとん石(鞍手郡小竹町)
十二話 抱き石水神(鞍手郡小竹町)
十三話 河童の証文(直方市)
十四話 神になった角力取(直方市永満寺)
十五話 甚五郎と河童(直方市植木)
十六話 河童の約束状(中間市、香月)
十七話 河童の誓文(遠賀郡芦屋町)
十八話 河童封じ地蔵(北九州市若松)
十九話 河童の三本松(遠賀郡芦屋町)
二十話 木屋瀬の通力河童((北九州市木屋瀬))
二十一話 樽見峠の河童(遠賀郡岡垣町)

波紋

第二部 全国の河童たち



読売新聞 筑豊版   2005年2月



THE DAILY YOMIURI MONDAY,MARCH 7,2005





「水と甲羅・遠賀川の河童たち」のお問い合わせ、及び御注文は、TEL/0949-33-1843
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自分史図書館 福田康生迄




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