マッリの種
サントーシュ・シヴァン監督作品 1999年、インド
 この映画は1998年11月のカイロ国際映画祭で審査委員長を務めたジョン・マルコビィッチがその素晴しい映像美と強く訴える力をもったストーリーにとても感銘を受けてパトロンとして世界に紹介したという作品です。1991年5月21日、インド首相ラジーブ・ガンディーがひとりの少女の自爆テロによって暗殺された事件をモデルに、テロリストとして育てられた19歳の女性の内面性を描きあげています。個人的にはちょっと作品が暗すぎる印象も受けたのですが、ストーリーやメッセージは強烈なものを感じました。
 主人公の19歳の少女・マッリ(アイーシャー・ダルカール)はインド南部のジャングルにあるゲリラキャンプに暮らし、これまでに30件以上の任務を遂行してきた生まれながらの優秀なテロリスト。ある日、マッリはあるVIPを暗殺するという名誉ある任務を命じられます。それは自分の体に爆薬を仕込んだベルトを巻きつけて行う自爆テロだったのです。実行場所への移動と待機の数日間のマッリの出会いと生まれて初めて感じる生命の実感が作品の中核をなしています。
 この映画はテロを扱いながらも、実際のテロ活動や人の血や肉が吹き飛んで死ぬような残酷なシーンはほとんどありません。人物や自然の音とアップを多用して、表情、呼吸、髪の毛、水などのディーテールによって成り立っている映画といってよいでしょう。表情の詳細といっても、生まれてからずっと人を殺すことで生きてきたマッリはほとんど無表情なのですが、死んでいく少年兵と忘れられない生の温もりを感じ合う回想シーンとテロ決行までの数日間の体感とが相互にかみ合いながらマッリの葛藤によって徐々に内面が変化して行く様子はなかなかです。テロをテーマにしつつも、実はテロリストの内面に踏み込むことで、かなり普遍的なものをつかもうとしている映画だと思いました。「残虐シーンを詰め込み、「こういうことはいけません」というエンディングを迎える映画」と一線を画したかったという監督の意図は感じ取れた気がします。
 16日間という短期間のオールロケで、使われた照明はたった1つだけで大半は自然光で撮影したという低予算映画です。しかも主人公以外のキャストは素人だそうで、それでもこれだけのものが作れるとは驚きです。派手さと過激さを競い合っているハリウッド映画にどこか物足りなさを感じている人には特に合うと思います。実際、2000年の米国公開ではミニシアター系作品として大ヒットを記録したそうです。
新宿武蔵野館4(84)にて鑑賞 2002年5月記
【備考】  
(英題)MALLI: THE TERRORIST