Bluegourdscastle


パイオニア A-UK3

※このアンプは手放しました。


PIONEER A-UK3−拡大可

 それまで使っていた マランツ PM-44SE ( ← 《オーディオの足跡》さんのサイト内のページ。こちらは情報がほんとうに充実している。当サイトでもお世話になることが多かろう。こちらの恩恵には感謝のことばもない)と、外見・機能がかなりよく似た機種であるが、PM-44SEのクオリティがさすがに気になりだし、1996年春に購入し、すでに10年以上、かなり納得して使っている。
『MJ 無線と実験』1995年3月号  定価は45,000円だが、ちょうど A-UK3II にマイナーチェンジする直前で、秋葉原の量販店店頭で税別29,800円で箱積みになっていたのを、店員さんに「税込3万円でどう?(当時は消費税率3%)」と訊くと「どうぞ」だったので提げて帰ってきた。この機種に興味を持っていたのは、『MJ 無線と実験』1995年3月号の「MJ テクニカルレポート パイオニア A-07 プリメインアンプ」(パイオニアの技術陣に柴崎 功氏がインタヴュー)を読んでいたからだ。定価23万円のプリメイン・アンプ A-07 は、エクスルーシブのフラッグシップ・モデル A-09 の次世代版として発表されたが、そのコンセプトのひとつは、パイオニアが“ワイドレンジリニアサーキット”と称した広帯域増幅回路だった。増幅に電流増幅を取り入れ、オールオーヴァーの負帰還に電圧帰還と電流帰還を併用して、帯域の拡大と位相回転の防止を図った、という回路、とされている。

 電流増幅については、素人の私にはよくわからない。A-UK3 では初段のオペアンプ JRC NJM2114では電圧増幅を行なうが、次のV/I変換部で電流に変換され、続くカレントミラー (パイオニアでは、この回路を、独自の‘アドバンスト・カレントミラー’と称していて、ウィルソン型に一石増やしたもの、という図示がある) で高インピーダンスの電流として増幅され、3段ダーリントン出力段の入力インピーダンスで一気に電圧に戻し、出力段でスピーカーを駆動できる電力にして出力する、というダイアグラム。電流帰還の採用は、位相余裕が増えて高域安定度が増し、安定した広帯域化が実現できる、とのことで、通常、出力部に直列に置かれる発振防止用コイルを省いてある ― こういったことが A-07、A-UK3、そして両機種の中間価格帯に入る A-05 などに共通する。A-07 の公称再生周波数帯域(-3dBポイント)は、1.5Hz〜400kHzと超広帯域であり、A-UK3も 1Hz〜300kHzとワイドである(※)
A-UK3 回路図−拡大可
 記事によれば、電流増幅された信号はたいへん高インピーダンスになっているので、3段ダーリントンの入力インピーダンスが高域で落ちるため、ここで信号が受けられる時に(超)高域にかなり歪みが生じる。したがって A-07では出力段を、高域でも入力インピーダンスの下がらない、きわめて個性的な‘クロスアレー’型とした、とある。A-UK3はコストの点で3段ダーリントン、ということは高域で歪みが生じているのか、とちょっとがっかりなのだが、オーディオ誌の評では、A-07は少し音がおとなしすぎ、ワンランク低価格(12万円)の A-05のほうが元気があってよい、というものも目にした。A-05の終段は3段ダーリントンだったと思う。

 右は、MJ誌同記事に掲載された A-UK3の回路図に基いて Bluegourd が《BSch3V》で描き、画像化してさらに手を加えたものである(クリックで拡大可)。描図の間違いを恐れるが、MJ誌に載ったものも、オペアンプ出力に+B電源がつながっているという誤りがあったので、それは訂正した。図にはないが、入力部にはDCカットのためのコンデンサーが入っている。

(※) 『MJ 無線と実験』1999年8月号には、製品紹介「MJズームアップ」でマランツのプリメイン・アンプ PM-14SA(20万円)が、回路図つきで紹介されている(柴崎 功氏)。この回路が、パイオニアの上記ワイドレンジリニアサーキットに酷似している。PM-14SAでは、初段はマランツ独自のモジュール・HDAMで、終段は3段ダーリントン(ただし A-UK3とは違い、終段の出力トランジスター以外は出力につながっていないタイプ)となっているが、真ん中はウィルソン型カレントミラーを使った電流増幅アンプで、ここの入口にAC+DC電流帰還を、初段HDAMの反転入力にAC電圧帰還と100%DC電圧帰還を返していて、この形がパイオニアの回路に非常によく似ている。出力直列の発振防止用コイルを省略している点も同じだ。

 パテント云々の問題やメーカーの個性の問題は置いておいて、やはりこの電流増幅+多重負帰還という回路形式に安定度の高さと音のよさをもたらすメリットがある、その証左のように思えて PM-14SAの記事も大切に保存している。日本マランツは、この後このタイプの回路を、より低価格の機種にも導入していったと記憶する。
 じつはMJのこの号には、CDマスタリングについての興味深い記事があって、東芝EMI(当時)の岡崎好雄氏や、ルディ・ヴァン・ゲルダーが登場していて貴重なのだが、それはまた別稿で^^。



 とにかく、こんなロープライスなアンプが、MJ誌の記事で回路図つきで技術解説されたことに 一種 感激していたので、セールに出会って速攻で買った。
『別冊ステレオサウンド セレクトコンポシリーズ-8 プリメイン&セパレートアンプ83機種音質テスト』  マランツ PM-44SEから A-UK3に交換して、音像の確かさなどが明らかに改善した記憶がある。
 PM-44SE は、トーンコントロールのないシンプルなプリメイン・アンプだ。以前に同社の大型プリメインを使ったことがあるが、ヘッドフォン・ジャックにつないだヘッドフォンの音はかなり歪みっぽく、通常ではA級で動作するので発熱がひどく、ついにはフィルター・コンデンサーが液漏れを起こしてシャーシ汚損…。

 この辺で、メーカー希望価格10万円前後の国産プリメインにつくづくイヤ気が射してしまった。ではありながら、またもや同ブランドの激安機 PM-44SEを導入してしまったのは、『別冊ステレオサウンド セレクトコンポシリーズ‐8』(ステレオサウンド、1994年8月、写真左)というアンプ特集を見て、実のところ A-UK3 にしたかったのだが、部屋の特性でバランス・コントロールは欲しかったので PM-44SEにしたというわけ。しかし、PM-44SEの音を聴いた時は、10万円近いアンプなど必要ないのではないか、と実感(おっと。言い過ぎのようだが、事実 言い過ぎだが、ホンネ ^^) した。



 この辺の、安価コンポーネントへ換えたいきさつは別に記すが、PM-44SEの音にはなかなか満足していた。しかし、左右の音質が若干でも違っている(いそうな)感(これは以後の経験からも、ほとんどが私の部屋のせい)があり、なんども左右の入出力を入れ換えているうちにスピーカー端子が傷み、構成にも音にも不満が出ていた時期に、ちょうど A-UK3のセールを見かけて乗り換えた。PM-44SEは、パワー・トランジスターを厚い金属板で押さえていた。『週刊FM fan』の長岡鉄男「ダイナミックテスト」では、鉄板、とあった。実際にボンネットをあけてドライバーを近づけると「ピタッ」。落胆…。同社のアンプには、シャーシに非磁性の銅メッキを施したものが多く、PM-44SEもそうだったと思うが、パワー・トランジスターの制振にわざわざ強磁性体の鉄を使うとは…。

 そんなことも交換の動機になった。A-UK3は PM-44SEよりは高域に若干、若干だがエッジの効く感触があり、それが音像の輪郭を少しく明瞭に聴かせることになり、悪くいえば神経質な部分にもなっている。『ステレオ別冊 コンポーネントレポート1996』(音楽之友社、1996年4月)の A-UK3評(沢村(とおる)氏)には、
 ‥‥総じて明るい音を持ち、はっきりとした表現をしてくる。バイオリンはそれらしくは出てくるが若干細身かなという感じがしないでもなく、このあたりは好みのわかれるところといえそう。中高域あたりに、わずかにアクセントがあり、それが音の輪郭を際立たせる遠因ともなっているが、そこを気にしだすと、耳につくようになってくるかもしれない。
とある。これは、実際に再生音をよく聴いての評価だと思う。このアンプは、商策で‘英国ふう’をイメージさせる‘UK’という型番を持つシリーズの1点としてリリースされたせいか、雑誌の評価記事の中には、とくに安価アンプをまとめて紹介した記事の中には、“さすがイギリス仕様、音には全くエッジがない”というような評価をしていたものもあった ― 執筆者がどなた who だったかはもう忘れたけれど^^。

 蓋し、沢村氏のいうアクセントの原因は、このアンプの広帯域性にもありそうな気がする。このアンプにつないだスピーカー・コードに、チューニングをはずして大音量にしたAMラジオを近づける(長岡鉄男式輻射ノイズ測定法。『オーディオA級ライセンス』[共同通信社 FM選書]、81頁) と、若干だが、他のアンプでは聞こえない高域ノイズが聞こえる。位相補正を最小限にしてきわめて広帯域に設計されていることが、高周波帯ノイズをも少しばかりスプラッターしてしまうのだ。この辺のところが可聴帯域の音質にも、よくも悪しくも影響している可能性はある。もっとも、全体としてきつさや、高域の聴きづらさがあるタイプでは全くなく、『別冊ステレオサウンド』の評者がいうように「ゆったり」(小林 貢氏、柳沢功力氏)が基調なのだが、それだけ、というレヴューは、音を聴かずに書いている可能性を推測させる。

パイオニア・カタログ('94年)A-UK3のページ  本機のヨーロッパ仕様版 A-400は、帯域を100kHzで-3dBとしており(こちら参照 → http://www.gbaudio.co.uk/data/a400.htm )、もう少し位相補正をかけている(たぶん位相補正のCを大きくするか、別途LPFを設置…)ことが推測できる。EMI(Electro-magnetic Interference =電磁干渉、障害)規制が厳しい欧州で、高域限界300kHzのアンプはいささか常識外かもしれないし、出力から、わずかとはいえ高周波ノイズとなれば、論外だ。日本なればこそこの広帯域設計はそのまま商品化できたわけだ。上位機の A-07は、1.5Hz〜400kHzという驚異的広帯域を公称し、まさにSACD時代向けの仕様だったのだが、現在は同社はこれほど広帯域(公称)なアンプはリリースしていない。

 このアンプは、カタログではパイオニア・ハイフィデリティG.B.のジョン・バンフォードなる人物が、英国ないしヨーロッパの安くてよい音を求める層のためにデザインした、とあるが、どうもその辺は‘営業用の物語’と思しい。たしかにバンフォード氏は欧州仕様の A-400のチューニングには関わったのだろうが、A-UK3の広帯域設計の‘起源’は、まさに所沢という感じだ。安価品にもかかわらず、開発者の個性的な設計コンセプトがよく現われている製品だと思う。もちろん、こういった広帯域設計に背を向け、むしろ50kHzくらいを高域限界として、マイルドな音を設計するという道も、個人的には決して否定はしない。
 では、あとは
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2008年2月

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